ソードマンの聖杯戦争   作:永谷

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第参拾肆話:襲撃者の夜

 

 

「そういやアーチャー、お前が聖杯に願う願いってなんだ?」

 

「唐突になんだ」

 

「え」

 

「なんだその問い返されることを想像していなかったといわんばかりの間抜け面は」

 

 

 星が輝く空の下、場所は屋根の上、己ら以外に人気もなく、前までは敵同士でも今は敵を同じくする仲間―――。

 

 

「夢を語り合う絶好の情景だと思ったんだがな」

 

「セイバー、その知識は何処から持ってきているんだ?聖杯か?」

 

「テレビや書物……あぁ、ひょっとして夕日と土手の方がよかったか?それとも海か」

 

「違う」

 

 

 熱血路線だったかーと頷いて尋ねると眉間に更に皺を寄せて苦々しく答えるアーチャー。この土地の風習に則って語り合おうと思ったんだが、どうやらお気に召さないようだ。頭が痛いのか眉間の皺を伸ばそうとしているのかその両方なのか、深く溜息をつきながら眉間に指を当てていたアーチャーがジロリとこちらを睨んできた。

 

 

「貴様は自分の立場を理解出来ているのか?今は協力関係とはいえこの件が片付けば敵同士。そのような相手にわざわざ自分の情報をくれてやるほどお人好しではない」

 

 

 腕を組みながらいつものペースに戻ったアーチャーはクツリと笑う。

 

 

「理想の語り合いがしたいのなら―――他に適任がいるだろう。アレとやれ。アレは随分と貴様のことを気に掛けているようだったからな、嬉々として話に乗っかってくるだろうよ」

 

 

 馬鹿にしたように鼻で笑うアーチャー。

 アーチャーの「アレ」っていうのはシロウだろうな。だが別に俺もアーチャーと友情を育みたいとか夢を語り合いたい訳ではない。勿論シロウとも語り合いたいと思わん。

 

 

「自覚があるなら構わない」

 

「?」

 

「弓兵、お前は俺に何を考えている、と聞いただろう?敵にそんなこと聞くなってことだ」

 

 

 アーチャーの願いに少しだけ興味があったのは本当だったがそれを知ることは難しい。聖杯への願いを語るとはそれに至るまでの道、つまり経歴に触れるということだ。ぼやかすことは出来るかもしれない。しかしその願いは願う者の性格を現す。

 この聖杯戦争に呼ばれる英霊がただの道具、駒として呼び出されるのなら構わない。しかしこのシステムを作った奴が完璧主義だったのかそれとも悪趣味だったのかは知らんが、英霊の性格も、記憶も、無念も完璧に再現して呼び出される。俺が何らかの目的を持って動いている事をアーチャーは知っている。それを教えるってことは俺の性格や狙いといった安くない情報を与えるって事だ。あまりにも馬鹿な質問に適当にシロウのサーヴァントとして模範解答を答えておいたが。

 

 マトウシンジの策略、シロウの裏切りを越えての協力関係の再締結―――。

 

 決して少なくはない困難を乗り越えて握られた手に仲間意識とかそういうものが芽生えたのかと思った。うむ、実に迷惑だ。まぁ俺の予想は見事に外れてくれたらしいので一安心ってところか?別に気の緩みを利用してアーチャーの情報を収集しようだなんて思ってないんだからね!といっておく。

 

 

「……それを言いたかっただけなのか」

 

「うむ」

 

「変な小芝居などせず初めからそう言え」

 

「これを機にお前のユーモアのセンスが磨かれればと思ってな」

 

「……貴様はからかいたかっただけだろう」

 

「フ、答えの分かっている質問をするほど無意味なことはないぞアーチャー」

 

「貴様は―――っ!」

 

「夜の訪問客とはなんとまぁ礼儀知らずな」

 

 

 夜の冬木市、夜の衛宮邸はとても静かで今までと変わったところなど、最近のテレビ報道で流れているガス漏れ事件もあって人通りが少なくなった位しかない。しかしそれはなにも知らずに生きている大多数の人間の視線。英霊として名を残し、サーヴァントとしてこの地に呼ばれた俺達にはすぐに分かる。アーチャーが弓を出し、襲撃に備えようとしているのを止める。

 

 

「待て弓兵。わざわざこちらに近付いているということは接近戦を主体としたヤツだろう。俺が出る。お前はその広い視野を以って周囲の警戒を緩めるな。単体だとは限らないからな」

 

「了解した。買って出たからには侵入させるなよ」

 

「ハッ、そんなヘマしねぇよ。お前こそ闇討ちされんなよ」

 

 

 仲間意識など微塵も感じさせない優しくない言葉を掛けられてその内容に笑う。

 屋根から一息で飛び降り、縁側の下に隠しておいた鉄パイプを引っ張り出す。

 

 

「さっさとお帰り願ってとっとと寝るか」

 

 

 トントンと鉄パイプで肩を叩きながら近付いてくる気配に神経を尖らせた。

 

 

 

アーチャーSIDE

 

 

 

 キィン、と夜の衛宮邸に鉄と鉄のぶつかり合う音が響いた。セイバーが私に周囲の警戒を任せたのは先の理由だけではないだろう。この襲撃の音で聖杯戦争に関係のない人間が様子を見に来られては困る。特に―――藤ねえあたりは竹刀を構えて我一番と突っ込んできそうな気がする。自分の生徒であり、家族であるような存在がここにいるのだから当然とも言えるが。いくつになっても変わらない家族の姿を思い出して苦笑しつつ、巻き込まない為に凛に襲撃を伝えようと―――、

 

 

『アーチャー!何が起きたの!?』

 

『恐らくサーヴァントの襲撃だ。既にセイバーが対峙している。単独行動とは限らないので私は周囲の監視と警戒を続けているが問題はあるか』

 

『無いわ、そのまま続けて。余裕があったらセイバーの援護も請け負って頂戴』

 

『了解した。それと凛、この襲撃の音で他の住人が目を覚ますと厄介だ。対処を頼む』

 

『オッケー、藤村先生と桜はこのまま眠っていてもらうわ。だからそっちは任せる』

 

 

 凛に現状の報告とそれに伴う自分の行動を伝え、これからの行動の支持を受けて凛にも厄介事が増えないよう行動してもらう。凛ならばこちらから言わなくとも分かっているだろうが……遠坂家の呪いがあるからな。フ、と遠い目をして空を見上げてしまう……いろいろあったな、と。

 

 

「む、そんな場合ではなかったな」

 

 

 直ぐに我に返りいつでも矢を番えられる様に弓を出して周囲の警戒を続ける。眼下には夜の街が広がるばかりで敵の気配は勿論、人の気配も―――

 

 

「あれは―――」

 

 

 フラリフラリと人目につかぬ様に衛宮邸を後にする人影を視界に入れて目を細める。

 明らかに普通ではない様子に小さく舌打ちをする。

 

 

「エミヤシロウ……なんて手のかかる……」

 

 

 ゆったりとした足取りではあるが着実に進むその先は―――柳洞寺。既に弓は構えてあり、矢はいつでも撃てるよう番えられている。ここからエミヤシロウを殺すのは簡単なことだ……しかし何故か手が動かない。

 

 

『凛、少し離れる』

 

『は?ちょっとアーチャー』

 

 

 一方的に会話を切り、弓を消して夜の町を駆ける。衛宮邸に掛けられている結界は作動していない。ということはセイバーが敵を抑えているということに他ならない。

 

 

「様子見くらいはしてやるか」

 

 

 記憶とは違うセイバー。

 記憶とは違う襲撃。

 ならばあのエミヤシロウも別の道をたどる―――いや、それ以上は意味の無いことか。どちらにしろ考えなければならない。何故あの時弓を引けなかったのかを。

 

 

 

アーチャーSIDE END

 

 





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