ソードマンの聖杯戦争 作:永谷
開始の合図も何も無く、その姿が目に留まった瞬間に飛び出し、俺の宝具で強化した鉄パイプを振り下ろした。ま、こんなもん挨拶代わりみたいなものだ。その証拠に敵も危なげなく受け止めて押し返してきた。
―――キィン!
鉄と鉄とがぶつかり合う金属音が夜の静けさを裂いた。次いで夜空に響く音の余韻を打ち消すかのような地を這う鎖の音が続く。
ジャララララ
引いていく武器とそれに連なる鎖の音。それはまるで―――たった一合で終わってしまったことを惜しんでいるようで…………そこまで考えて白い剣士はクツリと口元を歪めて喉を鳴らす。
戦いは面倒だ。やりたいやつだけやっていろ。巻き込むな。ずっとそう思っていたが何のことは無い―――結局俺も奴らと同類って事か?
押し返された力のままシロウの家の塀の上に降り立つ。自嘲的な笑いを浮かべて向かいに建つ家の屋根の上、月明かりを受けてくっきりと浮かび上がった敵の姿を挑戦的に見上げる。
地面に付きそうな程に伸ばされた薄い紫色の髪。夜に紛れるかのような黒衣に身を包んだその姿は既に一度見ている。マトウシンジのサーヴァント、ライダーが月光に鈍く光る武器を手にこちらを見下ろしていた。
「随分と唐突ですね。貴方は自分から仕掛けないタイプだと思っていましたが―――」
「敵には敵に相応しい態度をとるのは当然だろう襲撃者。深夜に何の連絡も無く押しかけてくるような無作法者に説いてやる暇も時間もない。わざわざ躾けてやる情もないからな」
少しだけ責めるような色を含んだライダーの物言いを鼻で笑う。ランサーなら喜び勇んで、アーチャーならば冷静に武器を構えて戦闘に雪崩れ込むだろう。敵という以外に戦うことに理由などいらない。それがサーヴァントだし、課せられた役割だ。こっちが珍しくヤル気なのだから乗ってきて欲しいものである……まぁさっさと終わらせたいだけだが。………しかし、わざわざ話しかけてくるとは時間稼ぎか?アーチャーの技能を信じていないとは言わない(とも言えない)が本気で早々にご退場願うか。
人間では致命傷に至る傷もサーヴァント相手では意味がない。だが鉄パイプじゃぁ首を飛ばすのは難しい。―――核を狙うか。殺意に目を細めて武器を握る。
「…………深夜に何の連絡も無く」
ポツリと呟くように俺の言葉を繰り返すライダーに動きを止める。武器から手は離さないが、考えるような素振りを見せるライダーに眉を顰める。
「セイバー、貴方は……朝に玄関から訪ねろというのですか?」
誰がんな事言ったあぁぁぁぁ!
そしてまるで「正気か」と問い質すような視線を俺に向けるんじゃねぇ!!
と叫びたくなった俺を誰が咎められるであろうか。むしろ叫ばなかったことを褒めて欲しい。ご近所の目に気を配りすぎるシロウに対しての配慮が出来る優秀なサーヴァントにはもう一品くらいリクエスト枠を増やしてもいいと思うのだがどう思うシロウ。
「そうですか、朝に来なければ話し合う権利も与えられないというのなら出直しましょう」
「いや待て。勘違いしたまま去ろうとするな」
坦々とした物言いと雰囲気から冷静なツッコミ要員かと思いきや、ボケ要員だったという罠。朝の忙しい時間に来るんじゃねぇよ。非常識だな。もし俺の朝食が遅れたらどう落とし前付けてくれる。
ん?っつか話し合い?
「寝首をかきに来たんじゃないのか?」
「気配も消さずに来る訳がないでしょう」
まぁごもっとも。でも事前の連絡も何もなしに深夜に気配も隠さずに来たら囮か喧嘩売ってんのかと思うぞ普通。あれ、俺が普通じゃないのか?戦闘ばっかに気が行っててそこらへん疎かなのか?いや、それでも……
「話し合い、か……」
はっきり言って意味が無い。こっちがライダー側に要求するようなことは俺らで片付けることが出来る。目の前のライダーがサーヴァント二体と立ち向かえるような状態じゃないことは見れば分かる。
「何を頼みたいかは知らんがこちらに受ける利がないな。自分の立場と状況の把握をしてから協力者を仰げ。単身で交渉に来たヤツをどうこうする程余裕がない訳でもない。ここは見逃してやる。だが次、のこのこと俺たちの前に現れたらその時はその仮初めの命刈らせてもらうぞ」
行け、と視線だけで告げて立ち去るのを見送ろうとするのだが、ライダーは動かない。ライダーも馬鹿ではない。分かっていてここに居るのだろう。が、俺はシロウじゃない。決意の篭った交渉も決死の覚悟のその姿勢もなんの意味も無い。
本当ライダーは運が無いな。弓兵だったら……いや、アイツもそこまで甘くないか。
「そうですね、学校の関係者の命など貴方には関係のないことでした」
「……」
「―――では、私の命と言ったらどうです?」
予想外の発言に相手の真意を探ろうとその表情を見るが、意識を向けられたことへの安堵しかない。…………本気で切羽詰っているようだ。何かの狙いを持って参戦した聖杯戦争から自ら進んで「降りる」と言っているのだからよっぽどなのだろう。……もしくはその「頼みたいこと」がライダーの参戦理由なのか?
こちらの考えを無視してライダーは続ける。
「セイバー、あなたの状態は分かっています。私ほど酷くはないとは言え魔力の供給も極僅か。それなのに貴方は単独行動を続けて魔力を消費している。いくら弱体化しているとはいえ私も英霊です。まさか何の消費もせずに勝てるとは思っていないでしょう?それをゼロにすると言っているのです」
「これはお前のマスターの指示なのか」
「いいえ。私の単独行動です」
「どういうことだ」
「それは言えません。私が貴方にしてもらいたいことはある人物への助力です」
貴方ってことは「俺」に対しての交渉ってことか。自分の命を懸けて他者に助力を願うってことは、自分じゃどうにも出来ないってことか。む?しかしわざわざ俺に願うって……俺の真名が分かっているのか?
「わざわざ俺を指名するということは俺の真名が」
「分かっていません。ですが、貴方のマスターであるエミヤシロウ。そして協力者であるトオサカリンにもあなたは自分の狙いを悟らせずに物事を行っている。その隠密性を見込んで頼みたいのです」
「悪いが断らせてもらう。前と今では状況が違うことくらいお前も理解しているはずだ。どこぞの誰かさんのおかげで俺はシロウの監視をしなければならないからな」
考える素振りも見せずに言い切って肩を竦めて見せる。ライダーと戦うことで魔力を消費するかもしれんが、ライダーの頼みの方が魔力を消費する。後者を取って人助けをするほど俺はお人好しじゃねぇからな。
「ライダー、そもそもお前がそいつを助けたいって思ったのは何でだ?」
「それは……」
「ソイツがお前に助けを求めたからだろ?だからお前は応えたんだろ。だったらお前が助けろ。生憎と俺は事情を察して何も言わずに助けるなんて真似はしない。そんなお人好しじゃない」
助けて、という言葉だけで動くのはシロウみたいなお人好しだ。そしてライダーはそのお人好しを真っ先に省いた。ならば俺が仕方ないと腰を上げるようなものを用意すべきだ。それが交渉ってもんだろ。
ま、事情も良く知らない。助ける対象も、その敵も知らない。そんな状況で受けるにはかなりのもんを要求させてもらうけどな。
「ソイツがお前に助力を願ったんならお前にその力があるってことだろ」
「…………そう、でしょうか」
何故そこで落ち込む。お前英霊なんだからちょっとは自信以って物事に挑め。
というかな、
「お前も自分の力がソイツに必要だと思ったから今まで残ってたんだろ。それをあっさり投げ出すなよ」
はっきり言ってマトウシンジの下についてて何か良いことあんのかと問うてみたい。
魔力供給も満足にされてなくて、助けたい人への助力も出来ずに歯噛みして、結局はこんな性悪の敵サーヴァントの下へと自分の命を懸けて助力に来る始末。そこまでするってことは、……本当にソイツが好きなのだろうよ。
なら自分が助けたいって思うのも、願うのも当たり前だろ。それを俺が茶々入れるってのも、なぁ?ま!利益が無いってのもあるけどな!うむ!低賃金断固拒否!
「セイバー……」
「っつーか弱体化してるとはいえ英霊が勝てないようなヤツがいるんだなぁこの時代にも」
「あ、いえ、殺害することは出来ますよ」
「帰れ、そして殺して来い。話はそれからだ」
「いえしかしサ…じゃなくてその人には呪いの様なものが」
「それこそキャスターんとこ行け!畑違いだ馬鹿野郎!」
思わず叫んでしまった俺は何も悪くないと思う。俺の役割は殲滅とか殺害とかそういうので、呪いや魔術はベテランがいんだろ!帰ってくれんなら魔女の本拠地くらい教えてやらぁ!
「あの魔女は気に入りません」
「……そうか」
顔の半分を覆っているというのに、ここまで雄弁に怒りを訴えられるとは意外とライダーは器用なのかもしれん。理由?藪突くような真似してまで聞きたいと思うほど興味は無い。女同士の喧嘩なんてもんに関わったっていいことなんてなんも無いと聞いたことがある。俺もそう思う。
「まぁやりたいことあんなら自分でどうにかするんだな。自分で出来なきゃ出来そうなヤツを協力せざるを得ない状況に持ち込め」
仲が悪そうなキャスターを協力せざるを得ない状況に持っていけたら、そりゃぁ良い気分になるだろうよ……俺は協力しないけどな。
「そうですね、では迷惑をかけたので一つだけ」
「ん?」
「エミヤシロウが魔女の元へ行きましたよ。アーチャーも向かったようですが……あそこには門番がいますからね」
「了解、相談くらいなら乗ってやるよ」
「……そうですか、ありがとうございます。ではご武運を」
一礼をするとあっさりと立ち去っていくライダーを見送って溜息を吐く。
「何でお礼なんていうんだか……」
次に俺たちの前に現れたらその仮初めの命を刈らせて貰うとライダーに言った。宝具次第じゃどうなるか分からんが、戦力差は歴然だ。俺は手加減する気はないし、アーチャーもリンも言わずもがな。シロウだってマトウシンジからライダーを離そうとしているし、サーヴァント戦は俺達次第だ。
「ま、この状況を乗り越えてでもって思うほどなら……価値はあるかもな」
それにしてもライダーといいキャスターといい色惚けしてんなぁ。命短し恋せよ乙女って言うって聞いたが……乙女って柄じゃないよな両方とも!あっはっは!と両者に真っ向から喧嘩を売るようなことを考えつつリンの元に走る。妙に敵との遭遇率が高い衛宮邸の留守番を引き受けてもらう為に。
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