ソードマンの聖杯戦争   作:永谷

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第参拾漆話:戦場からの帰還は遠く

 

 既に止んでいる主にキャスターの魔術による破壊音の震源地へ向かえば、境内にてシロウたちを見つけることができた……のだが、姿を認めて足を止める。キャスターという敵の前だというのにシロウは感情のままにアーチャーに向かって何かを言っている。それに対してアーチャーは傍目から見れば冷静にかわ…すことなく理屈でねじ伏せている。…………仲いいね、お前ら。

 

 敵陣の真っ只中で、敵の目の前で敵を無視して口論しちゃえるほど仲いいならお前ら主従になっちゃえよ。アーチャーならシロウの足りない物を補って余るほどのもの持ってるし、クラスの特性として魔力のストックとか出来るから魔力不足に喘ぐこともないし。うむ、凄くいい考えだな。大丈夫、リンのことならリン自身でどうにでもできる。俺のことは放っておいてくれ。

 

 よし、そうと決まれば話は早い。

折角の交流の場を壊し、親睦を深める機会を逃すのもなんなので、邪魔者は帰るとしよう。別に人が魔力の節約をしつつアサシンをかわし折角助けに来てやったというのに、口論しているあいつらに愛想が尽きたとかそういうわけではない、といっておく。

 

 

「ふ―――」

 

 

 お見合い定番の「後は若い者同士で」という心境で踵を返そうとしたところで、楽しげに笑うキャスターの声が響いた。

 

 

「気に入ったわ。貴方たちは力も、その在り方も稀少よ。敵に回してしまうのは惜しい」

 

「?」

 

 

 はあ、と首を傾げるシロウ。敵に回すには惜しいって言ってんだから気付けシロウ、鈍い!シロウから目を逸らし、先程とは一転して真剣な顔でキャスターを睨みつけるアーチャー。

 

 

「……ちょっと待て。何が言いたいんだ、おまえ」

 

「判らない?私と手を組みなさい、と言っているのよ。私なら今のパートナーより優れたモノを用意できるわ。坊やにはセイバー以上のサーヴァントを。貴方は今のマスターより優れた魔術師と契約できる」

 

 

 悪くないでしょう、と言わんばかりに口元に浮かべた笑みを深くするキャスター。

 ま、はっきり言ってシロウには俺は手に負えないサーヴァントだからな。そこら辺は俺も自覚している。だからこの辺でキャスターの提案に乗って、シロウにあったサーヴァントをパートナーにするのも悪い話ではないだろう。アーチャーは……どうだろうな、シロウ関係のことじゃなけりゃ連携上手くいってるし。

 踵を返そうとしていた足を止め、物陰に隠れて話に耳を傾ける。

 

 

「悪い話ではない筈よ。私にはこの戦いを終わらせる用意がある。言ったでしょう、勝つ事なんて容易いと。どう?生き残りたいのなら、私に従うべきじゃなくて?」

 

「――――――」

 

 

 そう、用意がある。

 だがその用意は完璧じゃない。足りないものがあるからこそこうしてキャスターは誘っているのだ。選ぶのはシロウやアーチャーではなくキャスター。キャスターが生かしてもいいと思っているから誘っている。守りはアサシンがいるけどあいつあそこから動けないもんなぁ。多くのサーヴァントが柳洞寺付近にいる訳ではない中、これは痛い。

 

 でもここで頷くとなぁ、キャスターが上位に立つことになって、シロウ達は従うことになる。そうなると結構アレな訳ではあるが……ここには俺がいないことになってるので何も言わん。

 

 傍観者を決め込んで事の成り行きを見守っていると、キャスターの突然の提案に呆けていたシロウがキャスターを睨みつけた。

 

 

「―――断る。俺は、お前みたいな魔女とは―――」

 

 

 うむ、予想通りの回答。キャスターと手を組むのもいいが、そうするとシロウが守りたいと言っていた人たちを犠牲にする。お人好しだっての分かってただろうに、キャスターももう少し誤魔化すとかなんとか……

 

 

「セイバーをモノ扱いするようなヤツとは手を組まない」

 

 

………………………………うわぁ…………………………。

 

 

「セイバーは俺に協力すると言ってくれた。遠坂とも裏切らないと約束した。例え二人が俺に愛想を付かしたとしても、俺からは絶対に手を離さない」

 

 

 何気に隣りにいるアーチャーの存在をスルーするあたり仲がわr……ゴホン、良いと思う。口に出さなくとも信頼出来る間柄ってすごいなー、あこがれちゃうなー。俺は辞退するが。

 きっぱりと言い切ったシロウとは違い、アーチャーは何かを考慮するかのように沈黙している。それに対して何を思ったのかシロウが発した言葉を遮るように言葉を発する。

 

 

「―――拒否する。君の力を借りる理由がない。それ以前に、君の陣営はいささか戦力不足だ。いかに勢力を伸ばそうとバーサーカー一人に及ばない。まだ与するほどの条件ではないな」

 

「そう。交渉は決裂、という事?」

 

「そうだ。だがここで君と戦う気はない。この場に居合わせたのは私の独断でね。マスター命令ではないから君を討つ理由はない。ここは痛み分けという事で手を打たないか」

 

「え―――?」

 

 

 まさかアーチャーが見逃すとは思っていなかったシロウが声を上げる。キャスターも僅かに首を傾げてフードの下から探るような視線をアーチャーに向ける。しかし見ていてもその真意がわかるわけでもないので、素直に疑問を口にした。

 

 

「……意外ね。アナタのマスターは私を追っていたでしょう?なのにアナタは私を見逃すと言うの?」

 

「ああ。おまえがここで何人殺そうが知らん。それは私には与り知らぬ事だ」

 

「―――あら。ひどい男、毒は使いようということ?」

 

「私のマスターはマスター殺しに精力的でなくてね。その分、おまえが他のマスターを潰してくれるのなら何かと助かる。この戦いの決着は、その後でも遅くはあるまい」

 

 

 最後に互いの意思を確かめるように視線を合わせ、笑みを浮かべると、キャスターは黒衣を翻す。

 

 

「っ、待てキャスター……!」

 

「馬鹿か貴様。追えば確実に死ぬぞ」

 

 

 消えようとするキャスターへとシロウが走り寄るが、静かな叱責とともにアーチャーに阻まれる。キャスターの簡単な魔術に手も足も出ず、ここまで誘い込まれたシロウとキャスターの差は明らか。ここでキャスターとの戦闘が可能であるアーチャーが戦線を外れると言ったのだ。勝ち目はない。

 『魔女』と呼ばれることを嫌っているキャスターを『魔女』呼ばわりしたこともそうだが、勝ち目も策もなにもなく感情のまま走り出そうとするシロウは自分の行動が自殺行為だと自覚はないのだろうか。ないんだろーね。そんなシロウを気にも留めずにキャスターの黒衣はゆらりと風に乗り、姿を消した。

 

 

「アーチャー。なんでキャスターを逃がした」

 

「戦う時ではなかったからだ。ここで切り伏せたところで、アレはすぐさま逃げおおせただろう。今の空間転移、見逃した訳ではあるまい?」

 

「――――――」

 

 

 シロウも馬鹿じゃない。理解はしているのだろう。サーヴァントよりもマスターを狙う。それが聖杯戦争における正攻法であり、周囲にも自分にも危険のない方法。特にキャスターのような実態を掴みづらい相手なら尚更この手段を取らざるを得ない。でもシロウは……、

 

 

「理解出来たらしいな。キャスターを倒すのならマスターが先なのだ。いかに空間を跳んで逃れようが、依り代であるマスターが倒されれば、キャスターとて消えざるを得ないからな」

 

「……それは判ってる。けど、だからって見逃すのか。街で起きてる事件は全部あいつの仕業なんだろ。キャスターを止めない限り犠牲者は出続ける。俺は、そんなのを放っておくなんて出来ない」

 

 

 シロウは、コイツは理屈で考えて行動するなんて出来ない。それが出来るのなら学校関係者全員を助ける為にマトウシンジを殺すことが出来る。発覚しているマスターを殺すことすら出来ないようなお人好しだ。

 アーチャーは言う。リンと自分ではキャスターを倒すことは出来るがバーサーカーは倒せない。だが聖杯戦争を終わらせることが出来る、つまりバーサーカーを倒せるとキャスターは言った。ならばそれまではどれだけ犠牲が出ようが見逃す。それがその犠牲以上の人を助ける為なのだと。

 

 その為にも―――ここに住んでいる人々は邪魔だと。

 

 アーチャーは正しい。平和に浸かった人間の目は邪魔だし、サーヴァントの性質上犠牲者は必ず出る。いや、既に出ている。俺らが出来ることはそれを少なくするか、大きくするかだ。シロウもそれは判っている。アーチャーの言うことも理解出来る。それでも納得できないのだろう。

 憤慨し、感情を抑え切れなかったのか、続く言葉を聞きたくなかったのか、アーチャーに殴りかかる。でも実力が天と地の差ほどあるので容易くかわされる。おどけて見せたりするあたりやはり性格悪い。

 

 

(……しかし、)

 

 

 シロウのことを分かってきたつもりだが分からなくなってきた。始めは街の住人たちに危害を加えるだけでシロウの怒りの対象となると思っていた。だからキャスターの行動はシロウは放っておかないし、手を組むのは難しいと思っていたんだが、明らかに死人が出る状況を故意に作り出しているマトウシンジ自身をシロウは殺さないと言う。

 生かさず殺さずのキャスターは許さなくて、殺そうとしてるマトウシンジは許す?それはどこか矛盾してはいないだろうか。むぅ、やばい。シロウの思考回路が分からない。あれか、サーヴァントとマスター、死者と生者、それか他人と友人の違いとかか?

 

 

「―――うるさい、誰がおまえなんかに友情を感じるもんか!」

 

 

 ガウ、と噛み付くようなシロウの声に意識を戻した。気付けばシロウは寺の方へと向かっていて、その後ろをアーチャーが追いかけている。

 

 

「いいからさっさと遠坂の所に帰れっ。頼まれたっておまえの手助けなんていらないんだからっ」

 

 

 背後のアーチャーを振り返ってそれだけ言い切ると、フンと顔を背けて歩き出す。

 おいおい一人で特攻しようっていうのか、せめて俺を呼べよ本当に自殺志願者だなシロウは。面倒臭いがシロウのサーヴァントとして放って置くわけにもいかんのでだらだらと腰を上げる。

 

 

「―――そうか。懐かれなくて何よりだ」

 

 

 氷のような殺気が放たれる。

 アーチャーの手に双剣が現れてそれが一閃するのと、

 

 

「―――なに?」

 

 

 シロウが振り向き、飛び退いたのは同時だった。

 

 

「ぁ―――ぐっ………………?」

 

 

 肩口からばっさりと袈裟懸けに切られ、その足元にはボタボタと血が流れ落ちる。

予想外の出来事が起こった為か、それともその痛みで思考を奪われたのかその顔と声には苦痛の他に疑問の色が浮かんでいる。必殺であった一撃をかわしても、明らかに死に繋がる一撃。

 

 

「は―――あ」

 

 

 よろよろと後退するシロウ。次の一撃が振るわれれば逃げることは叶わずにあっさりとシロウは終わる。予測を現実にするように無情に真意を問う間も言葉も与えずに剣が振るわれる。

 

 ガギィッ、!

 

 シロウの首を狙って一閃された剣は横から伸びた篭手により防がれた。しかしそれでもそれを振りぬこうと押し付け鉄が擦れ、鈍い音が鳴る。

 

 

「セ―――バ……」

 

「テメェ……これを狙ってたのか」

 

「ふん、でなければその小僧の自殺に付き合いはせんよ」

 

 

 寺に向かうシロウを口で諌めはしても決して行動には移さなかった。その地点で気付くべきだった。アーチャーがシロウ殺しを確実にする為に俺との距離を取っていたことを。

 

 

「何かしら準備しているかと思ったが、まさか無手とはな―――随分舐められたものだ」

 

「ハ、お前相手じゃこれでお釣りがくらぁ」

 

「そうかね?では遠慮なくこちらの用を済まさせてもらおう」

 

 

 双剣の片方、俺の左腕の篭手に阻まれた白い剣とは対の黒い剣が翻る。がら空きになった胴を狙った一撃を空いている右手でシロウの服を掴んで飛び退いてかわす。

 

 

「うぐ―――っ……!」

 

「あ、悪り」

 

 

 シロウの方に気をやるのを忘れていて着地と同時にシロウが地面に落ちた。軽く謝り具合を見ようとそちらに気を向けようとするが両手に剣を携えて駆けてくるアーチャーと対峙する。詳しく診れなかったが、シロウの傷は致命傷だ。意識だって辛うじて保っているに過ぎない。

 

 

「シロウを殺す気か」

 

「そうだ、戦う意義のない衛宮士郎はここで死ね」

 

 

 白と黒の双剣が振りかざされる。速度と力を乗せた斬撃が生まれる前に踏み込んで篭手を噛ませ、未然に防ぐ。体重を乗せて押し切ろうとするアーチャーを押し返し、また距離を取る。

 

 

「戦う―――意義、だって……?」

 

 

 自分が襲われた理由を痛みに言葉と息を途切らせながらシロウが問う。

 

 

「そうだ。自分の為ではなく誰かの為に戦うなど、ただの偽善だ。おまえが望むものは勝利ではなく平和だろう。―――そんなもの。この世の何処にも、有りはしないというのにな」

 

「な―――んだ、と」

 

 

 静かに告げるとシロウの反論を聞き流し、話は終わったとばかりにアーチャーが駆け出す。一気に距離を詰めてきたアーチャーを迎えようと構えたが突然双剣をあらぬ方向に投げ捨てた。

 

 

「っ?!」

 

 

 武器を投げ捨てたアーチャーの行動に驚き、それが止む間もなくその手に新たに剣が現れる。唐突に現れた寸分違わぬ双剣に内心驚くが、それ位別に驚くものではないと冷静さを取り戻す。

 

 

(いや―――、)

 

 

 シロウの命を刈り取らんと疾走してくるアーチャーを迎え撃とうと構えつつ思考を廻らす。先ほどから違和感が、何か重大なことを見落としているような―――、

 

 

 

 

 

「――――さらばだ。理想を抱いて溺死しろ」

 

 

 

 

 

 

 ―――投げた武器が地に落ちる音など―――しなかった。

 

 

 

 

 

「シロウ、避けろ!」

 

 

 

 

 弓兵の狙いに気付き、首を狙った左右からの交差する剣を受け止めながら叫ぶ。夜の闇の中、地を這って進み、首を刈り取ろうと首をもたげた死神の鎌が無情に迫る。その足音が、空を切る音が耳を掠めた時にはもう、―――遅かった。

 

 

 





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