ソードマンの聖杯戦争 作:永谷
士郎SIDE
「―――さらばだ。理想を抱いて溺死しろ」
憎しみの籠もった声は俺に向けられたもの。
セイバーの肩越しに見えた鋼の瞳は目の前にいるセイバーではなく俺を睨んでいた。
憎しみも殺気も言葉も―――飛来する凶刃も俺に向けられている。
そのことに――セイバーは呆れるかもしれないけど――すごく安堵してしまった。
キャスターとの一戦を、その時使われた戦法をセイバーは見ていないから、セイバーを信頼していない訳じゃないが……やっぱアイツが怪我する可能性はない方がいい。
「シロウ、避けろ!」
珍しく切迫したセイバーの声が耳に届いた時には既に行動に移していた。
視界は霞んでいて、自分が今何処にいるかもおぼろげ。
迫ってきているだろう白と黒の短剣の姿も見られない。
アーチャーから受けた一撃による痛みにより、もう何も考えられない。
考えられない―――けど、アーチャーの言葉に反発したい一心でただがむしゃらに体を動かした。
「ぬっ―――!?」
獲物をなくした短剣が空を切り、地面に突き刺さる。自分の意思とは関係なく後ろに―――底なしの闇に引っ張られる。疑問に思う間もなくガン、という衝撃が背を襲った。
硬い石段にぶつかった衝撃にグゥと息が吐き出されるが、それだけで落下の速度は抑えきれず体は硬い石段を転がり落ちていった。
士郎SIDE END
アーチャーSIDE
(―――チイッ、しくじったか!)
落ちていく衛宮士郎の姿を認め、内心舌打ちをした。
セイバーも衛宮士郎の生死に気を取られたらしく、一瞬干将・莫耶を押さえ込む力が緩む。その隙をつき、セイバーを押し込み、死に掛けているだろう衛宮士郎に止めを刺そうと力を入れた瞬間―――、
ガッ!
押す力をそのままに、受け止めるような無防備さで誘われていると気づいた時には遅かった。武器を握る手を絡め取られ、思い切りセイバーの方へと引っ張り込まれる。
元々押そうと構えていた身体は既に取り返しがつかず、セイバーに誘われるままに突っ込むことになった。敵の誘いに乗ってしまった私に待っていたのは―――強烈な頭突き。
「が、あ…っ!」
痛み、というよりも脳味噌を揺さぶられる様な衝撃を喰らい、隙が生まれる。次の攻撃に備えようと視線を外すまいと前にあるセイバーの頭を睨みつけようとするが、彼の頭は随分と記憶よりも遠くなっていた。と思った瞬間に急激な速度で迫ってくる頭部――顎に向かって放たれた第二撃を後ろに下がることによりかわす。
始めの頭突きによる衝撃から回復しきっていなかった足は、唐突な体勢の変化についていけずに縺れ、倒れこみそうになるが、そのまま重力に従って石畳の上に倒れる……前にガシリと前方から伸びてきた手に頭を捕らえられる。
(まさか―――っ!)
過ぎ去った予感が的中し、セイバーの強烈な頭突きが衝突したのはその直後だった。
「っっく……!」
クワン、と揺れる頭と耐え辛くなるほどに痛み出した箇所に手をやれば、オマケとばかりに硬く握られた拳が下から突き上げるように腹部を打ちぬいた。短い呻きを上げるしか出来ず、蹲りながらも、追撃に備えられるようセイバーの気配を探る。が、その気配が遠くなっていく事からセイバーの追撃が無いことを理解した。
ジャリ、ジャリ、と遠ざかる足音。そして少し間を空けた後に近付いてくるジャリ、ジャリ、と砂利を踏み鳴らす音に顔を上げ―――完全に私の襲撃の失敗を理解した。
恐らく衛宮士郎の無事を確認したであろうセイバーは落ちていた干将を拾い上げ、しげしげと眺めてからゆっくりとこちらを見下ろした。
「さて、―――種明かしが必要か。弓兵」
「ハ―――いらんよ」
衛宮士郎を殺そうとし、セイバーと組み合った瞬間に私を襲ったのは―――令呪の縛りだった。
瞬時にその原因を探ろうと思考しようとしたが、そんなものは関係ないと切り捨てたのも一瞬だった。
この機会を逃してしまえば、セイバーや凛に更に警戒され、本来の目的の達成が難しくなる。状況が悪いと諦めるよりも、結果が同じならばやってしまった方がいい。それだけを考えてそのまま体を動かした。
まあ、その結果がこの体たらくではあるがな。
あの状況ではわからなかったが、一息吐く猶予が与えられた今なら分かる。何よりも命じられたのは私なのだから何が、凛のどの言葉が私を縛ったのか理解するのは簡単なのだ。
ここに来る前。別々の敵に対してのものではあるが、襲撃者に対するセイバーの共闘の際、凛は言ったのだ。
『余裕があったら
それに私はなんと答えた?簡単だ。何の疑いもなく『了解』と答えてしまった。その地点でセイバーと敵対することが自らの首を絞める行為となってしまったのだ。
「俺としてはシロウの保障さえしてくれれば良かったんだが、やっぱり狙い通りには行かなかったようだな」
不運だ、と我が身を嘆くセイバー。溜息を吐いてからちらりと走らせた視線の先、山門の石段には衛宮士郎がいるのだろう。特に慌てることもなく暢気に話しているということは、衛宮士郎の安全を確保しているのだろう。……本当に油断のならないやつだ。
「さて、どうする弓兵。まだ抗うというのならこちらもそれなりの対応をさせてもらうが」
「二度にわたって仕損じたのは私の失態だ。これ以上失態を続けるつもりはない」
「そうか、ならいい」
短く頷いて早々に話を打ち切ったセイバーに眉を寄せる。
こちらの失態をこれ幸いと突いて回るようなヤツだと思っていたのだが―――。
「従者の失態の責任はご主人様にとって貰うもんだろ?」
首を傾げながらニィヤリと至極楽しげに笑うセイバー。
万全ではないからこそ、その状態で出来うる限りの策を弄する―――
「敵になる前に退場してもらいたいものだな、貴様には」
厄介な敵になりそうだ。
アーチャーSIDE END
話し合いという平和的解決が無事になされたので石段の中間地点、広くスペースを取られた場所の端に引っかかるように倒れているシロウを迎えに行く。辛うじて護符を血に濡れた手で掴むことは出来たのか、患部に当てられてなくても護符は作動し、止血を済ませ、緩い速度で傷が修復されていく。力なく地に伸ばされた手から護符を拾い上げ、患部に当てる。
「せ…いばー?」
「ん、大丈夫か」
「俺はだい、じょぶ…アーチャ、は……?」
「話し合いで平和的解決済みだ」
「………」
なんだその胡散臭そうな顔は。
しかし周囲にあの目立つ赤い外套もなく、山門にも人影がないと分かると安堵したように力を抜いた。だがそれも束の間。直ぐにアーチャーと交戦する切っ掛けになった出来事を思い出して跳ね起きる。
「そ、うだ……キャスター!キャスターを止めないと……!」
「アホか。こんな状態で戦えると思ってんのかお荷物」
「俺なら大丈夫だ。それよりもキャスターを……ぁ、れ?」
立ち上がろうと膝を立てた途端にへたり込むシロウを支える。アーチャーにやられた傷も治っているのに何で、って顔してんな。
「傷は治ってもお前の身体は限界なんだよ。それに子供は寝る時間だ。とっとと帰るぞー」
シロウの足が動くようになるまで待ってたらこいつ確実に特攻するよな。という訳でここは足腰が立たない内に退散することにしよう。頭の中で行動を決め、シロウを肩に担いでさくさくと石段を降りていく。
「なっ!こんなの直ぐに治る!だからキャスターぅぐ……」
「ほらなー、俺の手刀程度で気を失うほど疲れてるんだから大人しく休めって」
「……」
キャスターキャスターうるさいので手刀を叩き込めばあっさりと気を失うシロウ。アーチャーにも言われたのに…うぅむ、アーチャーに言われたからこそ、なのか?ついつい反抗したい年頃なのか?迷惑な。
よいしょ、と力が抜けた拍子にずり落ちたシロウを抱えなおして帰路につく。
(それにしても……)
リンの発言力がここまで高いとは思っていなかったな。リンがシロウの家に開けた穴の修復や茶坊主を頼んだりと、実にサーヴァントらしくない扱いをされているな、とは思ったが、あれほどの影響力なら頷ける。シロウとアーチャーの不仲から戦闘になるかもしれないとここに来る前にリンに相談したのだ。
返ってきた答えは「問題ないわ」。
種明かしはしてくれなかったが、令呪を使ったか、何らかの魔術をつかったか。でもサーヴァントの行動に干渉するほどの魔術をリンが使えるか……難しい、か?リンの力量がどれくらいかも分からんしな……。かといって敵に有利になることに令呪使うってのもないだろうしな。聖杯戦争始まったばっかだし。限りある資源だし。シロウじゃあるまいし。
「ま、リンに発言力と影響力があるのはいいことだな」
アーチャーにシロウを襲うな、って言っても無意味なことは分かっている。ならばアーチャーへの絶対的な命令権を握っているリンに頼むしかない。試験的な意味を含めて対峙して―――結果は上々。問題はない。
おかげでシロウがヤバかったけど……うむ、シロウは生餌としては一級品だな。敵多いし。いらん敵作るし。
まぁ、少なくとも今回の一件でアーチャーからシロウが狙われることはなくなるだろう。いや、狙われることはあるが殺されることはないだろう、だな。リンは相変わらずシロウのことを生かしたがってるし、ちゃんとアーチャーの行動に目を光らせてくれることだろう。うむ、頑張ってくれ。俺はもう知らん。
「今までサボってた分、頑張るとするか」
まだ完璧にこっちの準備が整った訳じゃないが、しばらくはシロウの護衛に力を入れるとしよう。
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