ソードマンの聖杯戦争   作:永谷

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第参拾玖話:しばしの休息(前編)

 

 

士郎SIDE

 

 

 

 

「……ぅ」

 

 

 身に付いた習慣か、身体は疲れきっているというのに意識が浮上する。

障子を通って幾分か鋭さを和らげた朝日がいつもの事なのに何故かうっとうしい。

上半身を起こしただけで頭がぼうっとして立ち上がれない。

 

 

(ここんとこいろんなことがあったからなあ……)

 

 

 瞼を閉じて日光を遮断してしばし気を落ち着ける。

 

 

(いや、こんな時にへばってる場合じゃない。この程度で疲れるなんて修行不足だ)

 

 

 体を動かしていれば目も覚めるだろう、という結論に辿り着き、気合を入れて一息に立ち上が―――れ?

 

………

 

……急に視界が真っ白に……って、なんで俺布団に逆戻りしてるんだ?確か俺は立ち上がろうと……。

 

 うつ伏せになっている体を動かして立ち上がろうとするが体がだるい。上手く動かせない。

 

 

「シロウ?なんちゅう格好で寝てんだお前」

 

 

呆れが混じったセイバーの声に応えようとしたが意識が遠の―――……。

 

 

 

 

士郎SIDE END

 

 

 

 しん、とした室内。

これと言って特徴のない和室の中央には布団が敷いてあり、そこには顔色を悪くしたこの屋敷の主人が寝かされている。

 

 

「ずばり」

 

 

 屋敷の主が暗殺でもされたんじゃないかと勘違いしてしまいそうな騒ぎとは打って変わった沈黙を破って、話を切り出したセイバーに不安そうな、それでいて窺うような視線が集まる。

それを受け止めて安心させるかのように力強くセイバーは頷く。

 

 

「ただの貧血だな」

 

 

 病を診断する医師のようになんでもないといわんばかりに言い切ったセイバーに、布団に伏せっている士郎を痛ましそうに見ていた桜が食って掛かる。

 

 

「貧血って―――こんなに酷い顔色なんですよ!?」

 

「……血色のいい貧血など聞いたことがないんだが」

 

「誤魔化さないでください!先輩が貧血を起したことなんて一度もないんですよ?それがどうして!」

 

「さぁ?前とは環境も違うんだし、万事がいつも通りってワケにゃいかないだろうとは思うけどな」

 

「それは……」

 

「桜ちゃん、そこまで」

 

 

 責めるような視線と、咎めるように問い質すマトウサクラを止めたのはフジムラタイガだった。

 

 

「士郎は休ませるにしても、私達は学校に行かないと。

士郎のことで桜ちゃんに学校を休ませたり遅刻させたりした、なんて桜ちゃんのお爺さんに知れたら申し訳立たないもの」

 

「藤村先生……分かりました、支度してきますね」

 

「うん、心配してくれてありがとうね桜ちゃん。

さ、遠坂さんも支度支度、私の目の黒い内はサボりなんて許さないんだから!」

 

「はい、では失礼しますね」

 

「うむうむ、遠坂さんもいい子でよろしい」

 

 

 気分を切り替えるように軽快な動きと口調で退室を促すフジムラタイガに感心する。

何も知らずとも、言われずとも、シロウの日常を守ろうとする、……シロウにもそれだけの甲斐性があればなぁ―――無理か。

マトウサクラとリンが退室したのを見送った所でフジムラタイガがこちらに振り返る。

 

 

「というわけで、私達は学校があるからセイバーさんに士郎の看病とお留守番を頼んじゃうことになるんだけれど……」

 

「ん、任せられた」

 

「ありがとうセイバーさん」

 

 

 ヒラリと手を振って応えるとすかさずお礼を言われる。

 原因は俺だしお礼を言われる筋合いはないのだが……ま、ここは素直に受け取っておくか。

ここでとやかく言うのはシロウにもフジムラタイガにも益にならないしな。

 

 

「じゃあ私は学校に行くけど、士郎のこと無理させないようよろしくね」

 

「……あぁ、ちゃんと面倒みてる。安心して行って来い」

 

「うん、いってきます」

 

 

 安心したように笑うと一度だけ礼をして、シロウを起こさないようにしてか静かに廊下を歩いていった。

 

 

「なんだかなぁ」

 

「セイバー……」

 

「ん、聞いてたか」

 

「桜が悪かったな、本当は俺が悪い、のに……桜も普段ならあんな言い方しないんだけど……」

 

「敵にゃ態度も冷たくなるさ。そもそもマトウサクラのことは気にしてない」

 

 

 『敵』という言葉には眉を寄せたが、後半の言葉には本当に?と窺うような視線を向けられる。

何を考えてんだか分からんが、生憎あれ位で傷心するほど柔じゃない。

 

 マトウサクラがマトウシンジの妹というのなら(シロウは納得してないが)敵陣の人間ということだ。

マトウサクラの態度からして聖杯戦争のことは知っているだろうし、それを隠して一般人の振りしてシロウの傍にいるような人間にシロウのことにとやかく言われる筋合いはない。

助けたいなら動け。口にしろ。一般人が何も出来ないなんて間違いだ。

そう言う訳で「何でお前にそんなこと言われなきゃいけねぇの」とは思いはしても傷つきはしない。

 

 俺に意見できるのはシロウの保護者であるフジムラタイガと、まぁ、なんだ……至極不本意だがシロウだな。

まさか目の前に俺がいるのに無視してシロウを殺そうとするとは思わなかった……とか、

言い訳はまぁ言い出したらきりがないが、俺の力不足でシロウを危険な目に遭わせた。

んで、シロウが自分でそれを回避した。ここまでくりゃ大人しく苦言のひとつやふたつ受けてやるんだが……

 

 

(そんな事いう性格じゃねぇよなぁ)

 

 

 そう、シロウがその事について責めるような性格ではないので、衛宮法廷では無罪放免。

晴れて自由の身なのである。ワーイ。……本当、調子狂うよなぁ、この家の人間。

 

 

「まぁマトウサクラのことはどうでもいい。シロウ、何で貧血になったか身に覚えがあるか?」

 

「え?……昨日のことしか思いつかないんだけど」

 

「正解だ。お前に渡してある護符は傷の修復はしてくれるが失った物は戻らない。

腕が消し飛んだら戻らないし、血が流れたら戻らない。覆水盆に還らずってやつだな」

 

「あー……確かに昨日はやばかったな……っそうだ!キャスター!」

 

「そこでキャスターなのかお前は。取りあえず落ち着け」

 

 

 立ち上がろうと半身を起こした所で眩暈がしたのか動きを止めたシロウをすかさず布団に押し戻す。

普通ここはアーチャーのことを聞くべきかと思うんだが……やっぱ他人の命がかかってるキャスターの方が問題なのかね、シロウ的には。

とにかく、これで決心がついたな。この馬鹿には渡しておけない。

 

 

「シロウ、護符を返してもらう」

 

「へ?」

 

「生半可に傷が治るからお前は自分の身を省みず無謀な戦いを挑もうとする。

お前はもう少し周囲と、あと自分を省みた方がいいな。お前がどんな役割を担っているか、ちゃんと理解しろ」

 

「俺は……それでもキャスターを放っておけない」

 

「はぁ……取りあえず没収な」

 

「ああ、ありがとな心配してくれて。でも俺は野放しに出来ないんだ」

 

 

 シロウの枕元に置いておいた護符を取り上げてもシロウは反論しなかった。

 

 ……本当、こいつ分かってないよなぁ。

キャスターの件はシロウなりに譲れない物があるんだろうから何も言わんが、自分の身を省みろっていってんのにこうも容易く身を守る術を手放すとは……頭痛い。

うむ、結局何もいわんがな!反映されない忠告ほど無意味なものはない!

 

 

「心配してねぇ。お前が無謀な戦闘に頭突っ込むとこっちもとばっちり食うんだっての。いい加減自覚しろ」

 

「う、それは悪い……そういえば朝の鍛錬もまだだったな、今から」

 

「昼まで寝てろ。近くになったら俺の昼食を作らせてやる」

 

「……わかった」

 

 

 モフ、と再度身を横たえたのを見送った所で俺は部屋を後にする。

シロウから没収した護符を身につけながら廊下を歩く。

目指す先は何のことはない―――朝食だ。

 

 

 





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