ソードマンの聖杯戦争 作:永谷
時はさかのぼり―――柳洞寺戦終了日夜。
ライダーとキャスターによる襲撃が去った後は何事も起きなかった衛宮邸では、ようやく通常通りの夜の静寂が戻っていた。しかしそれは外観から見た衛宮邸の話であり、士郎を担いで戻ってきたセイバーが一歩、否玄関を何気ない仕種で開けてしまった彼の目に映ったのは通常ではない光景―――ギリギリと睨んでくる遠坂凛の視線と説教を腕を組んだままという不遜な態度で聞き流しているアーチャーの姿だった。
「お前ら邪魔」
「ッ、セイバー!士郎は大丈夫?!」
キャスターとの攻防の後間髪入れずに起こったアーチャーとの戦闘に疲弊していた(為、俺の手刀を避けきれずに)気を失いぐったりとした様子で俺に担がれているシロウを見たリンがアーチャーを放り出してこちらに近寄ってくる。どうやら心配して玄関で待っていたらしい。んで、先に帰ってきたアーチャーと衝突ってとこか。
「おかげさまでな。とにかくシロウ寝かせてくるから通せ。邪魔だ。まだ話し足りないってんなら俺が通り過ぎたあとにでも続けろ。それか居間行け、居間」
「その様子じゃ本当に大丈夫みたいね……」
「ふん、だから言っただろう。失敗したと」
「あんたは……はあ、いいわ、続きは居間でやるわ。どうせこんな所で話しても寒いのは私だけだもの。
セイバー、話すことがあるから衛宮君を寝かせたら居間に来て頂戴」
「おぅ分かった」
若干冷静になったのか、自分の体を冷やす気温に意識が向いたリンが寒そうに腕を擦った。
リンの言葉に頷いてリンとアーチャーの間を通り抜けてシロウの部屋へと向かった。
******
「―――まずはじめに」
シロウを寝かせ、リンの言葉に従って居間に戻ってきた俺にリンが口を開く。
「ごめんなさい―――こんなことになったのはアーチャーに自由行動を許した私の責任でもあるわ」
「なんだね、ならばあの時あの未熟者が敵の罠に掛かっているのを見逃せば良かったのか?ああそうだな、あそこで放っておけばあの小僧はキャスターが始末してくれてただろう。全く私としたことがいらぬことをしてしまった」
「黙って」
「はは、んなことになったらお前が帰ってくる前にリン殺してっから。物音に気付いて起きたこの家の人間ごとな」
「……」
「だって俺記憶操作なんて芸当出来ねぇもん。
そうだな、フジムラタイガが俺のマスターになる確率があるってんなら生かす意味あるけどな」
ないだろ?と言葉を失ったままこちらを見ているリンとやや眉を寄せて何も言わずこちらを見下ろすアーチャーに訊ねる。目撃者は消す、それは当然のことだろう。シロウの護衛としてこの家に居た俺がシロウが行方不明になった時点でここにいれる訳がないし、突然いなくなった俺を怪しく思わない筈もない。所詮俺は他人なのだ。
んで、俺に関してもそういう諸々の事情を抱え込んでまでフジムラタイガやマトウサクラを生かす理由などないって訳だ。変に詮索されても動き辛いだけだしな。マスター不在で魔力を補充できない状態でそんな厄介事抱えたくねぇ。
つまり、アーチャーは関係ない人を巻き込まない最善の選択をした訳だ。いやーホント助かった助かった。
「ま、そういった訳でシロウが唐突に行方不明とか不自然死とかしたら困る訳だ―――分かるよな」
「……―――分かったわ。アーチャー、意思は変わらないのね」
「…………この同盟が終わるまでのことだ、自重するさ」
「そう、謝罪する気がないってこと」
「そうだな、中途半端な結果になったことには謝罪しよう」
フン、と軽く鼻を鳴らして肩を竦めて見せるアーチャー。反省の色なし。まぁ敵マスターに対する扱いってこんなもんだよな。いくら協力関係であっても。一番殺し易いヤツを殺すのに躊躇してたら話になんねぇし。わざわざ謝罪させるって……なんだかなぁ。サーヴァントとそのマスターらしくないっていうか……あぁだめだ。例えが出てこねぇ。
本当、なんでこんなところを聖杯戦争なんて物騒なもんの舞台にしちまったんだか。
何度も心の中で呟いているこのシステムを作った奴らに呪詛を吐きながらもアーチャーの言葉に頷いておく。俺としてもこの件が片付いた後でも縛り続ける気はない。それじゃぁ「お前聖杯諦めろ」って言ってるようなもんだし。
この協力関係中アーチャーからの安全が確保出来りゃ問題ない。ま、今夜みたいにリンの発言(魔術か?)で行動を縛っては貰うけどな。あとはリンに主人としての責任を取ってもらえりゃ……。
「そんな謝罪の仕方で、納得できるかーーーーっ!―――――Anfang……!」
リンに対する要求を言葉にしようとした先、唐突にそんな呪文が居間に響いた。
アーチャーが信じられないものを見るように見ている。
俺も呆然と目の前で繰り広げられる信じられない光景を見ている。
そして―――、
「Vertrag……! Ein neuer Nagel
Ein neues Gesetzl Ein neues Verbrechen―――!」
「待て、この件に関してはセイバーも納得し―――」
ついにその呪文は完成した。
「私が納得できないのよ!衛宮士郎への戦闘行為の一切を禁じる―――!」
そんなこんなで、弓兵は信頼を裏切った代償を主従仲良く揃って払うことになったのだった……お前ら、大丈夫か?
え?俺の要求?んなもんいいよ。はっきりいって期待以上というか予想外の結果になったしこれ以上は、なぁ。
こうして衛宮邸の夜はひと波乱ふた波乱ありつつも穏やかに過ぎていったのだった―――。
士郎SIDE
「よし、今日はここまで」
体調も戻ったと言うことで様子見も兼ねて軽く鍛錬をして、今まで道場に張り詰めていた緊張の糸が切れた。セイバーの一言を聞いてその場に腰を下ろす。いつもより短時間であったとはいえ、既に身体は汗だくだ。
いくら様子見と言ってももうちょっとやるかと思ってたんだけど……セイバーも心配してくれてるんだろうか。それは嬉しいけど時間もないし、ちょっと休憩挟んでまた相手してもらうように頼むかな。
そんなことを考えながら息を整えつつ、薬缶から直接水分を補給する。セイバーはいつも通り道場を掃除して……あれ、いない。
「今日は客が来てるんでな、今日はこれでお開きだ。たまにはお前が掃除しろ、俺は寝る」
「は?」
セイバーは既に道場の入り口に立っていた。その後ろには遠坂が立っていて、何故かこちらを窺うように見ている。
「え、ちょっと待ってくれセイb……」
勿論俺の制止の言葉なんて最後まで聞かれることもなく、いつものようにひらりと軽い調子で手を振ってセイバーは道場を後にした。
そして残される俺と遠坂。
何故遠坂がここに来たのか分からない。共通の話題と言えば聖杯戦争のことだけど、いつもははきはきと用件を告げてくる遠坂の様子がおかしくて、こっちとしても思わず遠坂を黙って見てしまう。
「……」
「……」
「……遠坂、そこ寒いだろ、中入ったらどうだ?時間掛かるようなら俺お茶でも淹れてくるけど」
とにかく落ち着こう、と考えて曖昧に笑みを浮かべつつそんなことを提案してみたが、
「いらないから、ちょっと座って……話したいことがあるの」
「あ、ああ」
やっぱりいつもとは様子が違う遠坂のまま断られて、道場を離れて隅に置いてあった座布団を持ってきて真ん中に敷いてみる。道場の入り口を閉めた遠坂が軽く「ありがとう」と礼を言って座り、その向かいに同じように座布団を敷いて俺も座る。
「……」
「……」
「……………その、昨日の夜は、ごめん」
長い長い沈黙の後、遠坂の口から零れたのは言葉を選ぶようにたどたどしいが、それは確かに謝罪だった。話というから聖杯戦争がらみ―――慎二か学校、サーヴァントのことについてだと思っていたから、突然の謝罪に間抜けな声で返してしまった。
「え?」
「だから昨日のコト。アーチャーには令呪を使っといたから。
……そんなんでいまさら済まされないけど、ごめん」
「――――――」
思わず言葉を失った。
令呪―――それはサーヴァントに対する三度だけの命令権。この聖杯戦争では切り札となる重要な物。どれほどの価値があるかなんて俺よりも遠坂の方が分かっているだろう。それを遠坂は使ったといったのだ。
「遠坂。それは、つまり」
「……ええ。協力関係にある限り、絶対に衛宮くんを襲うなって令呪で命令したわ。
だから、今後は昨日みたいなことは起きないから」
「――――――」
セイバーがアーチャーに関して何も言わなかったことが疑問だったが、それが今解けた。アイツこのことを知ってたんだな……もしくはアイツから要求したか―――
「言っとくけどこの判断にセイバーは関係してないわよ。むしろセイバーですら驚いていた処置だもの」
「遠坂お前なあ……それってそれくらい割に合わない取引だったってことじゃないか……」
「そう?言っておくけど私はこれ以上協力関係をこじれさせるつもりは無いの。ここで曖昧な対応したらいざとなった時困るだけじゃない。それにアーチャーが私の意思を無視して勝手な行動をしたのは間違いないもの。その件に関してもここでビシッとケジメつけとかないといけないと思っただけよ」
「……遠坂、ちょっと自棄になってないかお前」
「う。な、なによアンタだって…………私の為に令呪使おうとしてたじゃない(ボソ)……」
「?なんだよ」
「何もないわよ。兎に角、今後アーチャーが士郎を襲うことはないからそのことだけは安心してもいいわ」
「……」
俺も慎二のことを黙ってたり、遠坂には結構迷惑掛けていると思っている。だが俺に関しては何の咎めもなかったし……いや、貸しという形の保留なのか。兎に角今回の遠坂の判断はやり過ぎではないかと思う。そもそもアーチャーの独断で遠坂が謝ることじゃないじゃないか。ああでも遠坂にとってはそうじゃないのか。―――なんか堂々巡りになるような気がする。令呪を使用する前だったらあれこれ言えるけど使ってしまった後ならばもう意味がない。俺の出来ることは遠坂の謝罪を受け止めて、その信頼に応えることだけだと思う。
「分かった。もうこの件に関しては―――そういやアイツなんで俺を襲ったんだ?」
「……それが、敵は少ない方がいい、だって。
士郎はどうでもいいけど、セイバーは後々厄介になるから、今のうちに潰しておくべきだとかなんとか。
昨日みたいに簡単に他のマスターに操られると迷惑だから、ここで切り捨てた方がいいって判断したんだって」
「――――――」
額に手を当てて溜息を吐き出すように返された質問の答えに、その反論の余地のない内容に言葉を失う。
セイバーのことも頷けるけど、キャスターの手に落ちかけた俺は足手まといだ。キャスターに操られた時点で、アイツは俺を厄介者と判断したんだろう。
「納得いった。それじゃこの件に関してはもう終わりにしよう。俺が悪い点もあったし、悔しいけどアイツがいたおかげで助かったのは確かだしな。だから遠坂もあまり気に病むなよ。俺もやりにくいからさ」
「うん、分かったわ。じゃあこの話は終わりね。次は魔術の修行に関してのことなんだけど―――」
少しだけ考えるように顎に手を当てて考えていた遠坂だったが、頷くといつものように真っ直ぐにこちらを見返してきた。そして話を切り替えるように別の件、頼んでいた魔術に関しての話をし始める。
今夜は寝られるだろうか……。
士郎SIDE END
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