ソードマンの聖杯戦争 作:永谷
士郎SIDE
結論から言うと、
「桜、お昼は卵粥にしたけど食べれそうか?」
「あ、は、はい。すみません、先輩にまで学校を休ませてしまって……」
俺は桜と一緒に学校を休んでいる。
学校に行って慎二と立ち会うと決めた途端にこれだから遠坂にも呆れられてしまうだろうと思っていたのだが、その遠坂自身も最後の最後、玄関先まで桜のことをそれとなく気遣い、俺に面倒を見るようきっちりと釘を刺して出掛けるほどだった。桜に聞いてみればちょこちょこ弓道部にも顔出ししてくれる時に、少し話しをする間柄でもあったらしい。結構良い先輩後輩の間柄なのかと聞いてみれば桜は凄く恐縮してたけど……。
藤ねえはつい先日貧血でダウンしてしまったこともあり、士郎も疲れてるでしょ!といちもにもなく頷いてくれた。
その際「桜ちゃんの看病もいいけど、士郎も自分のことちゃんと考えなさいよ」と言われてしまった。うーん、本当藤ねえにはここのところ心配の掛けっぱなしで頭が上がらない。今日は夕飯奮発しようかな。
ちなみにセイバーは「ふぅん?」と怪しげな笑みを浮かべて何も言わずに「いいんじゃね?」と言っただけだ。セイバーと出会ってから数日しか経っていないが、そろそろ本気でいろいろと話し合うべきじゃないか?俺たち。
…………セイバーが話をはぐらかせて終わってしまう気もするけど。
そんな訳で俺とセイバーと桜は学校を休んで体調の回復に専念することになった。
「だから謝るなっていってるだろ。俺も昨日休んだばかりだし、体調を整えるには良い機会だよ」
「えっ、まだ体調が優れないんですか?!それだったら私のことより先輩の方が」
「俺は大丈夫だって。それよりも桜の方が熱もあったし、まだ顔も赤いぞ。ちゃんと寝てるんだ」
桜が洗面所で座り込んでいるのを見かけてから急いで桜の部屋に運び込んで熱を測ると、37度4分。咳も喉の痛みもないようだが、放ってなんて置けなかった。ひとりでは心配だというほど桜は幼くも、信用がないって訳でもないけど、桜は自分のことになると無理を無理とも思わないところもあるし、少し体調が良くなくても動き回って家のことをやっていそうな気がする。お世話になってるからって桜は言うけど、俺も藤ねえも桜の世話になってることの方が多いんじゃないかな……それが溜まりに溜まってこんなことになったのなら謝っても謝り足りないな、本当。
「じゃあ俺も昼飯食べてくるから、食べ終わったらそこら辺に置いておいてくれ。自分で片付けに来たりするんじゃないぞ」
「……はい」
いいな、と念を押す俺を意外そうに見上げてから、桜は頷いた。嬉しそうに卵粥を見る桜。桜って卵粥好きだったのかな。夕飯はうどんにしようかと思ったけど、もうひと手間加えた卵粥にしてもいいかもな。
そんなことを考えながら居間に向かう。俺とセイバーの分はまだ作っていないが、献立は考えてある。卵粥に興味津々なセイバーの視線が痛かったから桜の分を味見程度に分けてやったけど、俺の顔を見ればお腹すいたと喚きそうだ。
「待たせて悪いなセイバー、すぐに作る」
「ん」
バラエティー番組を真剣な表情で眺めるセイバー。そんなに面白いのかと後ろから覗いてみるが、まあ普通のバラエティー番組だ。テレビの向こう側のタレントや芸人が笑っていて、何かをすれば観客からも笑い声が上がる。
その様子をセイバーは真剣な表情で見ている。全く面白そうに見えないのは俺の気のせいなのか?
何か変なものでも見つけたのだろうかと俺もセイバーと同じ様な顔で眺めていると、「直ぐに作る」と言ったのに、一向に動く気配がないのに痺れを切らせたのか、ちょっと不機嫌そうな顔でクルリとこちらを振り向いた。
「なんだ?これ見たいのか?」
「いや、別にそういうワケじゃないけどセイバーが真剣に見てるから何か映ってるのかと思って」
「別に特別なもんが映ってる訳じゃねぇよ。この時代の勉強だ勉強」
「勉強?」
「この時代じゃどういうものが『面白い』って言うのかと思ってな……。
でもダメだな。つまんね。意味わかんね」
「そりゃそうだろう。感性は人それぞれだし、そもそもの話何処が笑いどころかもセイバーは分かってないじゃないか」
聖杯からのバックアップで知識は補われると聞いているけど、流石の聖杯だってそんな細かい所までのバックアップはしてはくれないだろう。むしろ芸人のネタの知識のバックアップまでする聖杯なんて嫌だ。
セイバーは俺の心情も知らずに、もう飽きてしまったのかチャンネルを変えている。画面が一巡し、結局ニュースへと落ち着いた。
「じゃあ今度こそ作ってくるよ」
「おう、早くな」
そんなやり取りをしてキッチンに篭ってから十数分後、電話のコール音が廊下から響いてくるのが聞こえた。通常なら留守にしている時間帯だし、出なくてもいいけれど藤ねえが様子を聞きに掛けてくることもあるしな。出よう。
捏ねていた海老のすり身をまな板の上に置き、手を洗い、火を止めて廊下に向かう。その間もコール音が止むことはなく、ここまで来ると誰かがこの家にいるということを知っている人間からだろうと予想がつく。やっぱり藤ねえが心配して掛けてきたのかな、と思いながら受話器を取った。
「はい、衛宮ですが」
『ああ衛宮?僕だよ僕』
「慎二っ?!」
『人に喧嘩売っておいて家に引き篭もってるとは衛宮も随分身を弁えてるとは思うけどさ、いつまでも長引かせてもいられないしね』
「……」
『折角人が舞台を用意してあげたってのにお前全然登校してこないんだもん、そろそろ動こうかと思ってさ』
「待て慎二っ!」
『待て?はっ、なに僕に命令してるんだよ衛宮の分際で。まあ流石に妹を巻き込むのもあれだからアイツには学校に来れなくしたけどさ』
「慎二、お前、まさか桜が熱を出したのは……!」
『熱?あはははっ、そう思ってるならそう思ってれば?で、本題に入るんだけど今からお前学校来いよ』
「何を言ってるんだ。俺は桜を放ってなんて置けない。勝負がしたいのなら桜が治ってからでもいいだろう。
桜を巻き込みたくないっていうなら学校が終わって、人が居なくなった時にでも……」
『正気?あの結界の効力がなんだったかお前でも覚えてるだろ?まあいいさ、僕は今日、今、すぐに来いって言ってるんだよ。僕の言うとおりにしなかったらどうなるか、分かってるだろう』
「……そうか、分かった。直ぐに行くから俺が行くまで待ってろ」
そういい捨てて、慎二の返事も聞かずに一方的に通話を切った。
後はもう何も考えられなかった。ただ桜をあんな苦しそうな目に遭わせた事実を笑いながら話す慎二と、結局は桜も巻き込んでしまった自分の無力さに湧き上がった怒りだけで動いていた。真っ直ぐに居間に戻りこちらを見上げるセイバーに要件だけを短く告げた。
「セイバー、ライダーを倒しに行くぞ」
「了解」
理由も聞かず、ただ頷いて、付いて来てくれるセイバーを有り難いと思う。
早足で部屋に戻り、ズボンだけ履き替えて制服の上を歩きながら羽織り、廊下を歩きながら別練の方を見る。
(桜、ごめんな)
大人しくベッドに入っているだろう桜をもう一度だけ思い返し、俺はセイバーと共に家を出た。
士郎SIDE END
昼休みが終わり、五時限目が始まって数分が経った。
昼の賑やかさで賑わいでいた校舎も、体育の授業がないのか校庭までも今は静かなもので、生徒は各々の教室に入って授業を受けている。校門にも人影はなく、ガランとしたものでまるで無人のように見える。
そんな校門の前で、タクシーが一つブレーキ音を短く立てて止まる。自動でドアが開き、後部座席から一人の人間が鈍い動作で出てくる。
行き先を学校と告げた客の年齢は17、8。生徒と思うのが普通だが、その少女は平日だというのに私服だった。
そんな怪しい客ではあったが、明らかに体調が悪そうな様子を見てタクシーの運転手は声をかけた。
「お客さん、大丈夫ですか?病院に行った方が」
「大丈夫です……ありがとうございました」
浅い息をしながらドアに手を付いて少女は立ち上がる。後は振り返らずに校舎を目指した少女を運転手は心配そうに見ていたが、やがてドアを閉じると校門の前から走り去った。
尋常な様子ではない少女の姿を見ていたのは何も運転手だけではなかった。
少女が向かう校舎の中。使われていない教室の中、姿さえ見えず、人間でもない存在がその少女の姿を隠された目で見て息を呑み、少女の名前を呼んだ。
『サクラ……!』
「はあ?桜?桜は衛宮の家で寝てるだろ……あいつ、僕が折角見逃してやったって言うのに」
声なき声に反応し、応えたのはこの学校の生徒の一人である間桐慎二。タクシーに乗ってやってきた少女、桜の兄ではあるが、その声に含まれる感情は妹である桜の様子を見て心配するものではなく、不快な感情が込められた、今にも舌打ちをしそうなほどに苛立たしげなものだ。
鬱陶しそうな視線で校舎から桜の様子を見ていた慎二だったが、その瞳が細まり、口には笑みが浮かぶ。
「ふん、まあいいさ。そんなに衛宮がボコボコになる姿を見たいって言うなら特等席で見せてやるよ」
『シンジ!?ゾウケンがサクラには関わらせるなと言われているのではないですか?!』
「ああ関わらせる気なんてなかったさ。でもあいつから来たのなら話は別だろ?」
『ですがっ!』
尚も嗜めようとする声を振り払うように慎二は声を上げる。
「うるさいっ!お前は黙って僕の言うことを聞いていればいいんだ!」
『ッ!』
見せ付けるように取り出した本を目にして声が止まる。それに気を良くした慎二が言葉を続ける。
「そうだよ、お前はそうやって黙ってればいいんだ。大体僕だって桜を傷つけようとしてる訳じゃないさ。
遠坂ともやりあうかもしれないんだ。ちょっと協力してもらえれば何もしないさ」
『……』
「じゃあ桜を迎えに行こうか。……っち、衛宮まで来やがった。ほんっとアイツは空気が読めないよね」
『サクラを、人質に使うつもりなのですか……』
「別に僕がアイツをどう使おうが関係ないだろう。お前のマスターは僕なんだ。僕の指示に従え。
これじゃ桜が衛宮に合流するかもしれないな、ライダー、結界を発動させろ。きっと衛宮パニックになってうろたえるんじゃないか。その隙に桜と合流するんだ」
笑いが混じった仮の主人からの命令に、従者は応えなかった。
姿を現さず、反応も返さず、命令に従わないライダーに慎二は顔を歪めて振り返った。
「おい、聞いてなかったのかライダー。今すぐ結界を発動させろ。衛宮に桜が見つかったらこっちが人質を取られることになるんだぞ」
『エミヤシロウはサクラを人質にするような人間には見えません。むしろこの学校から出してくれるでしょう。
結界はそれからでも遅くはないはずです』
「遅いんだよ、いいから今すぐ姿を現して結界を発動させろ!」
「ッッ!」
バチ、と何かが弾ける音が響く。今まで霊体化していたライダーが虚空から現れる。しかしその姿は令呪に逆らって蹲り、苦しげに喘ぐものだった。足元に蹲り、弱弱しく震えるライダーの姿に、自分がそれを為している。為すだけの力を持っているのだと、知らずの内に慎二の口元が上がる。
心配や同情などの感情はなく、苦しむライダーの姿が当然の物として慎二の目には映っていた。
「ほら、早く結界を発動させろ!」
「……っ」
まるで、慎二の声に呼応するように教室が、校舎が、校庭が赤く染まった。
「始めからそうしてればいいんだよ。ったく、アイツと一緒でそういうところは愚図だ……何やってんだよ」
「……っぁ」
命令していた結界の発動は既に為されている。それなのに慎二の足元にはライダーが苦しそうに呻いている。
令呪の縛りに縛られて蹲っているライダーに、慎二は不可解な物を見るような視線で見ていた。
その一瞬が命取り。
二人以外の人の影などなかった教室にクスクスと女性の笑う声が響く。
慎二とライダーの耳には笑い声に混じり、笑い声ではない、しかし笑いが含まれた音の羅列が響いていただろう。勿論それがなんの意味を為すものかなど慎二には分からない。ライダーが気付いたとしても、既に遅い。
バサリ、と虚空に黒いローブが翻る。
コツン、と軽い足音と共に一人の女性が真っ赤な教室に闇を落した。
「言うことを聞かないサーヴァントに代わって私が結界を発動させてあげたのだけど気に入らなかったかしら?」
先ほどから響いていた笑い声の主――キャスターのサーヴァントが問い掛けるように首を傾げた。
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