ソードマンの聖杯戦争   作:永谷

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第肆拾漆話:続・探究者たちの会合(前編)

 

 

「――とまぁ、冗談は置いておいて、相談したいことがあってきたんだが」

 

「あらそうなの?お酒のつまみ位なら出してあげてもいいわよ」

 

 

 にっこりと極上の笑みを浮かべながら自分の後ろ――キャスターの本拠地である柳洞寺を示すキャスター。

 そこは昼間だというのに禍々しい空気を隠そうとせず、馬鹿な餌が口に入るのを大口開けて待ち伏せている捕食者じみている……どうやら俺の冗談はとてもつまらないらしい。俺たちを見下ろす顔は笑顔を保っているのに、細められた瞳は絶対零度の冷ややかさでこちらを射抜いてくる。おかしいなぁ、アサシンは喜んでくれたんだが。男女の違いってところか?それとも酒の種類が嫌いか……そもそも酒自体が好きじゃないのか?うむ、それなら納得だ。酒が嫌いな人種はその臭いにも敏感だと聞いたことがある。

 いや、それだとまずいことをしたな。頼み事をしにきたというのにその相手を不機嫌にさせてしまうとは俺らしからぬ失態だ。……いや、そもそも敵の嗜好を把握できる訳無いから……

 

 

「それで、いつまで地べたに這いつくばっているのかしら。用が済んだのならさっさと失せなさい」

 

「這いつくばっちゃいないが……場所を移さないか?誰にも話を聞かれない場所がいい」

 

「それなら付いて来なさい」

 

 

 それだけ言うとキャスターは身を翻して門の下を潜っていった。

 キャスターの陣地である柳洞寺に何の準備もなく入るのは命を捨てるようなものなのだが、まぁ彼女の陣地だからこそ他に情報が漏らしたくないという俺の希望に副った場所でもある。

 大体キャスターにしてみれば敵意が無いように見えるだけで、全体的に能力が勝っているような相手に対して譲歩できる最大限なのだろう。そこまで譲歩してくれたのだ。だったらそれに応えるのが提案者ってもんだろう。というかここで付いて行かなかったら来た意味がないしな。

 

 

「じゃぁな。今度はつまみも持ってくるさ」

 

「ふ、楽しみにしている」

 

「おぅ、リクエストは帰りに聞かせてくれ」

 

 

 アサシンと他愛の無いやりとりをして、キャスターに続いて門を潜る。ずしりとした圧迫感が襲ったが、直ぐにそれも納まり、こちらに目もくれずに建物の中に入っていくキャスターを追った。が、ちらりちらりとこちらに向けられる視線を感じそちらに目を向けると着物…ではなく作務衣?に身を包んだ男性が幾人かこちらを見ていた。

 

 

「……キャスター、聞くのが大分遅いと思うのだが、ここにはどういう身の上で住んでいる?」

 

「婚約者よ」

 

「…………ひとつ言いたいことがある」

 

「何よ」

 

 

 こそこそと話せばかえって疑惑に繋がるので耳を澄ませば、まぁ、聞こえるか聞こえないかの範囲でこそこそと話す。勿論、キャスターとの距離を縮めることはしない。距離にして二歩分。キャスターは隠すことなど何も無い……というか何か誇らしげに、というか、なんだろう、自慢げ?まぁ、そんな感じで声を潜めることなく話している。

 

 キャスターには言いたいことがある。何でそういう立場に居ながら傍から見れば不審な男を引き入れるのか、とか霊体化出来るんだからやれ、と一言言わないんだとか、どういう目で見られるかとか考えなかったのかとか、いろいろだ。だが何よりも優先して言わなければいけないことがひとつ。

 

 はぁ、とひとつ溜息を吐き、片手で顔を覆う。何かを探るような視線の中歩みを止められたせいなのか、不機嫌そうな顔を隠しもしないキャスターに向けて一言。

 

 

「配慮が足りなかった。すまない」

 

「……別に気にしないわ。

 

 

 

 

そもそも配慮って何。私と貴方が、貴方程度と私がそんな関係に見えると思うこと事体が侮辱だわ。それとも貴方、自分が私とつりあう様な面構えしてると思ってるの図々しい。すぐさま門を潜って出て行って鏡をみて絶望し、ヤスリで顔の造形が分からなくなるまで削ってから出直してきなさいよ、ボケ。言っておくけどその間この柳洞寺の敷地を血一滴でも汚したらただじゃ置かないわよ」

 

 

 この間数秒。

 高速詠唱も完璧にこなす滑らかな口調で罵られた。

 

 ちなみに表情は相も変わらず誰もが(俺は省く)溜息を吐くほどの美しい笑みを浮かべていた。

 まるで気遣ってくれたことに感謝している。その気遣いが本当に嬉しいのだといわんばかりだ。数秒で吐き出された本音は俺の耳に入るくらいの音量だ。実際に聞き違えたかと思ったが、この女なら言うな。と即座に自分の思考を否定した。

 

 

「そうか、だったら俺も気にしない」

 

「ええ、気にされた方が困るもの」

 

 

 ハハハ、ホホホと和やかに笑いつつ、キャスターに案内されて柳洞寺の一室に通された。

 「少し待っていなさい」と一言告げるとキャスターは一度部屋の外へと立ち去る。恐らく周囲の人間にそれらしいことを言っておくのだろう。俺とキャスターの会話を聞いていれば色事めいたものはないと分かるが、聞き耳など立てられていない設定なので詳しい話をして置かなければ為らない。

 

 

(それにしても)

 

 

 魔術で言いなりにしてしまえば事は済むことだろうに。キャスターがどれ程の力量かは俺には理解出来ないが、それぐらいのことは簡単に出来るほどの技量は持っているだろう。なのに何故、と疑問に思うが、俺自身聖杯戦争に関係のない人物が陣地に居るのでなんともいえない。結構理由なんてしょうもないものだろう。マスターが原因とか、原因がマスターとか。

 

 

「待たせたわね」

 

「気にしないさ」

 

「そうでしょうね、建前だもの」

 

 

 障子を開け、身体を滑り込ませて閉めてしまえばそこは密室となる。猫を被った物言いも何もせずとも良い空間の中に居てキャスターは早速胡乱げな目でこちらを見下ろしてくる。お盆から湯飲みを二つ下ろし、俺と自分の前に置いて「さて」と話を切り出した。

 

 

「前にも言ったと思うけど、敵の陣地に単身で踏み込んでくるとは随分と無謀じゃない、セイバー」

 

「別に喧嘩売りに来たわけでも、以前勧誘受けたからって味方面する訳でもないさ」

 

「あら、その割には随分と仲良さ気だったじゃない。家の門番と」

 

「仲良さ気、ねぇ……味方だってだけで簡単に通してくれるようなたまじゃねぇだろ、ありゃ」

 

 

 例え「味方ダヨー」とか言っても「そうか」と笑顔で見送り、背後から切りつけて来るか普通にそのまま袈裟切りにしそうな奴が「仲が良い」と言える間柄なのだろう。キャスターの中では。なにそれ怖い。

 俺の回答が面白かったのか気に入ったのかクスリと笑うキャスター。

 

 

「当然でしょう。無能はいらないわ」

 

 

 有能だと認めているからこそ、あそこに縛り付けているって訳か。無能判定された後がどうなるかなんて聞きたくないな。本当、女って生き物は怖い。

 だが、そういう人物だからこそここに来たのだ。逆にそういう人物でなければ困る。

 

 

「俺の提案はひとつ――キャスター、俺のマスターになるつもりはないか」

 

「――……以前協力を持ちかけた時断ったのは貴方の方だと思ったけれど、ご主人様の許可でも降りたの?」

 

「そりゃ無理だな。多分お前とアイツは反りが合わない」

 

 

 自分の大切にしているものの為なら、自分とソイツの為なら他を犠牲にしてもいいって考える奴と、大切だといっておきながらあっさりと他人の為なら自分をないがしろにしてしまう奴なんて、話しが合う訳が無い。

 精々が後者の馬鹿が前者の『犠牲となる他の奴』の内の一人として利用されて終わりだ。そこに救いなんてない……いや、他人の役に立てたのだから幸せなのかもな、後者も。うむ、そう考えると実に合理的で理想的なやり方だと思う。

 

 

「そう。つまりあの坊やが死んだ後の算段でも立てて置こうってわけ?」

 

「違うな。アイツには生きていてもらう――だからお前に頼んでいるんだ」

 

 

 リンには無理だった。そして他の魔術師の当てなどない俺には、英霊という座に至ったほどの魔術師であるキャスターを当てにするしかない。――教会?んなもの論外だな。候補にも挙がらん。

 

 

「マスターを生かしたままで契約を切れる方法がないってんなら、この話しは無かったことにして次に移るが」

 

「代償は腕一本よ」

 

「なら安い」

 

「言っておくけど貴方の腕じゃないわ――坊やの腕よ」

 

「なら安い」

 

「……正気?」

 

「人殺しの汚名を着るよりマシだと思うな」

 

「貴方……私に何をさせるつもり」

 

 

 今までとは違う、敵意に似た疑惑の目を向けられる。

 そんなキャスターに対し、ジリジリと殺したい衝動が競りあがってきそうだ。見えるわけが無いが、俺はとても楽しそうな顔をしているのだろう。吊りあがる口元が押さえられない。

 

 

「そう殺気立つなよキャスター。殺したくなる。俺は平和的に行きたいんだ」

 

「とてもそうは見えないわよセイバー」

 

「よく誤解される。まぁ話を聞け、キャスター。

なぁ、この世界で俺たちが誰かを殺したら誰に責任が行くと思う?まさか幽霊が犯人だ、なんて馬鹿いうなよ」

 

「証拠不十分で犯人にはならないと思うけど……疑われるわね」

 

「恐らくそういうの含め、教会……まぁ魔術を秘匿するやつらが上手くやってくれるだろうが……本人はどうにもならん。俺らを召喚したマスターは誰もフォローしない。してくれるかもしれんが、そんな不確定要素に縋るわけにも行かん」

 

 

 捻じ曲げられた真実を見て、果たしてシロウは何を思うだろう。

 造られた理由を聞いて、シロウはどんなことを感じるだろう。

 それが他人でも――そこに居られなかった、防げなかった自分を責めるような奴が、自分が呼んだモノが人を殺したとなれば……アイツはどうするのだろう。

 

 きっと俺が思いつきもしないような突飛な行動をとってくれるのだろう。そのことに関してだけは、どうやって俺の度肝を抜き、その発想にいたったかを考えさせてくれるだろうから面白いんだけどな。

 

 

「……そう、あなた」

 

「あぁ、魔力が足りない。だがこの戦争から降りるにはやりたいことが有りすぎる」

 

「私には坊やがどうなろうとどうしようと関係ないわね。そんなに大事なら鎖に繋いで地下にでも放っておいたら」

 

「キャスター、俺がただ弱みを見せる為だけに来たと思っているのか?だったらあめぇよ」

 

 

 シロウなんて二の次だ。一番に考えてるならさっさと自害すれば良い。自分の仮初めの命に未練など元から無いのだから、聖杯戦争に参加する理由がシロウの為ならサクっと死ねる。おぉなんて簡単、かつ主人の為に命を絶つなどと感動的な行為なんだ!これは涙を誘わずには居られないな!

 ……まぁ、そんなことをせずに、魔力不足という弱みを見せてここに居るのはシロウの為を思う模範的なサーヴァント様じゃないからだ。

 

 

「俺が殺すのは人間だ。お前が魔力を搾り取ってる冬木市の人間だ。そんなものどうとでもなる、か?俺には良く判断がつかないが結構な痛手だと思うがな」

 

「私を脅迫しようっていうの」

 

「まさか、ここまでが俺がお前に協力を求める理由だな。お前の不利益たるかも知れないが、基本的に俺の不利益だな」

 

 

 再三言っているが、俺は別に大量虐殺したい訳じゃない。理性もなにもなく殺しつくした先に何が待っているかなんて、そうそう体験したいものじゃない。こんな所でマスターやサーヴァント全員から敵視されるような真似をして一体なんの利益があるのか。利益なんて無い。どうせ殺して殺して殺しつくして、目的も達成されずに強制送還されるのがオチだ。

 

 

 

「なぁキャスター、聖杯っていう優勝商品があるってのは分かってると思うが――それを見たことはあるか」

 

 

 





 一応、前回までがにじファン様にて掲載させていただいていた分で、今回からが新しく掲載する分、という風になっております。
 事後処理ってどういう風に行われているのか判らないので、セイバーさん同様手探りですが、何か気付いたこととか矛盾している点があれば報告していただけると幸いです。ファンブックとか買ったほうがいいんでしょうかね。


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