ソードマンの聖杯戦争   作:永谷

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第伍話:衛宮士郎式交渉術(対セイバー編)

 

士郎SIDE

 

 

セイバーと呼ばれた男は遠坂の反応を楽しむようにニヤニヤと笑っている。

しかしそれも一瞬のこと。

 

 

「冬木の管理者としてあなたの様なサーヴァントを放置して置けない。

だからあなたには魔力供給が断たれて消耗するだけの今の状態で倒させてもらうわ」

 

 

遠坂の明らかな敵意を持った発言を聞いた瞬間に瞳が冷える。

声が低くなり、違う意味で反応を楽しむ笑みをその口元に浮かべる。

 

 

「へぇ」

 

 

一気に凍った場で動いたのは遠坂の傍に控えていた赤い男。

 

まるで刃を首元に突きつけられたような空気。

喉が渇く。

拳が震える。

一瞬で命を刈り取れるのにじわじわと生かされている。

冷たい視線を真正面から受けているのに、遠坂は目を逸らさなかった。

 

 

「別にお前に案内されずともいいことだし、監督役への口聞きもそれが監督役の仕事だから必要などあるまい。そもそも、賞品が破格だ。欲しい奴なんて五萬といるんだから人員には事欠くまい。

監督役に頼らずとも、その中から適当に見繕ってマスターにしてしまえば良いだけだろ?

つまりこの地点でこの交渉は無意味だ。お前が切ったカードは何の交渉材料にもならん」

 

「交渉決裂ってこと」

 

「交渉も何もお前にはテーブルにすら着く権利がないって言ってるのさ」

 

 

殺される。殺される。殺される。

遠坂は、あの赤い男は殺される。

俺の目が覚めるまで家に居てくれたのだ。状況を理解していない俺を心配して。

そのせいで殺されるなんて、それを見ているなんて―――例え俺が殺されたって出来はしない!

 

 

「…ん、…し…」

 

「?」

 

「晩飯!ご馳走するから教会まで一緒にいってくれないか!?」

 

 

「「「………は?」」」

 

 

「イライラするのは腹減ってるからだろ!倒すとか倒さないとか交渉とか物騒な会話してないで飯食って落ち着こう!」

 

「………ふぅん?ま。美味しいもの食わせてくれるならいいぜ」

 

「いいの?!」

 

 

俺の提案にしばらく考え込んでいたセイバーさんだが、面白そうに眉を上げ、口端を楽しそうに吊り上げる…すごく怪しい笑みだ。

遠坂が(かなり不穏な気配を感じるが)了承の言葉をセイバーさんが言ったことを驚いている。俺も驚いてるんだけど、どんなに怪しかろうが何かを企んでいようが了承は了承。一応遠坂の言う『教会』までは付き合ってもらえるん…だよな?

 

 

「リクエストとかあるか?」

 

「この国の料理ならなんでも。俺腹減ってるから手早くな!」

 

「え、ちょ…ちょ?!」

 

「遠坂も食ってくだろ?それとも夕飯食べちゃったか?」

 

「……いただくわ…時間少し掛かるでしょ、外の空気吸ってくる」

 

 

深く深く溜息をついてから、疲れきった声で帰ってきた言葉に頷き台所に消える。

そこでほぉ、と息を吐く。シンクについた手はカタカタと細かく震えていた。

 

 

「やべ、まだ震えてる…」

 

 

あそこで間に入るのはかなり危険だと言うのは俺にも分かった。真正面からセイバーさんの敵意を受けた。それだけで「死んだ」と思った。それでもそこで諦めることなんて出来なかった。

 

遠坂の手が机の下で真っ白になるくらいに握り締められているのを見てしまったから。

 

カタンと背後から物音がした。そこには遠坂の傍にいた赤い男がいた。

 

 

「なんだよ」

 

「なに、あそこの騎士様が「期待持たせといて不味かったらコロスゾー」と言っていたのでな。

 

もはやこれは貴様だけの問題ではない」

 

 

何故かこの男だけは初めて見たときから気に食わなかった。相手のほうも俺のことが気に食わないらしく、こちらを見てくる目は冷ややかで眉間には皺が寄っている。それでもこうして台所に来たのは手持ち無沙汰になったのか、テレビを弄くりだしたセイバーのせいだろう。

 

 

「うるさい。お前もセイバーと一緒に待ってろよ。それか遠坂の所に戻ってろよ」

 

「その凛の命令なのだからしかたないだろう。何、少しは料理の腕には覚えがある。未熟者の貴様が足元にも及ばないほどではあるが」

 

「んな!」

 

 

フ、と鼻で一つ嗤うと冷蔵庫を勝手に開ける赤いアイツ。

 

 

「勝手に冷蔵庫を開けるな!手伝いに来たってんなら勝手に漁るなよ!!」

 

「私が貴様程度の手伝いに身を置くはずがなかろう。私はあくまで凛の」

 

「私は衛宮君と低レベルな言い争いしろなんて指示してないわよアーチャー」

 

「り、凛…」

 

「衛宮くーん?衛宮君も言い争ってる暇なんてないってわかんなかったのかしらー」

 

「と、遠坂…」

 

 

腕が光ってる。服の下で光ってる!そしてそれはキケンだと俺の本能が言っている!!

 

 

「アーチャー、私下らないことであなたを縛りたくないと思ってるんだけど」

 

「わ、分かっている凛!」

 

「衛宮君もオキャクサマを待たせるなんてそんな家主にあるまじき行為しないわよね?」

 

「も、もちろんだ遠坂!」

 

 

「よかった、分かってもらえて」

 

 

話し合いって素敵よね、とにっこりと笑ってからテーブルへと戻っていく遠坂。

あかいあくまの姿が遠ざかりほっと息をつく。

 

 

「取りあえず、休戦を提案する」

 

「あぁ、争いとは何も生み出しはしまい」

 

 

こいつとは決して相容れないと思いつつも、ここは無理矢理にでも合わせておくことにした。

 

 

 

士郎SIDE END

 

 

 

「おー、いっつてれびじょーん」

 

「どこのエセ外国人よ」

 

 

聖杯からのバックアップで知識だけはあったテレビ(テレビジョン。テレビ受像機とも言う)を眺める。外から帰ってきたリンが呆れた顔をしているが気にせずにテレビを調べる。傍にあったリモコンという機械をポチポチと弄くってみるが電源が付かない。

 

 

「ふ、壊れてやがる」

 

「あんたがね。一番上の、右にある赤いボタンを押すのよ」

 

「はっ!」

 

 

ミシ、

 

 

「ちょ!もうちょっと丁寧に扱いなさいよ、後テレビに向けて押しなさい。今度は優しく」

 

「この時代の物は何でもかんでも柔だからいけない」

 

 

このボタンっていうのだってグニグニと柔らかくって本当に押しているのか気になるほどだ。指の先が少し沈むほどに押してみたが付かなかったのに、リンの言うとおりに押せば呆気なく付いた。

やはりこの時代の物はその時代に生きる人間に聞いた方が早いな。

 

 

「英霊の腕力を常識と考えないで頂戴」

 

「まるで非常識みたいに言うなよ……いまいち力の加減が分かんないってのは正解だがな」

 

「聖杯からのバックアップで加減の仕方とかわかんないの?」

 

「聖杯のバックアップは万能じゃない。戸惑わないよう知識だけで経験はくれないからな」

 

 

こうやって触って加減を確かめることしかないってことさ、と告げてからタタミを撫ぜる。部屋の真ん中にドドンと置かれている木製のテーブルを叩いてみて、机の下を覗いてその造りと組み木の仕方を確かめる。

 

 

「ちょっと、机の下覗き込んでなにやってんのよ」

 

「あん?組み木の構造とか木釘の打ってある箇所とか…これ組み木だけで出来てんだよな」

 

「……そ、そうね」

 

 

不機嫌そうだった顔が俺の答えを聞いてすぐにバツが悪そうに視線を彷徨わせるリン。

 

はっはーん。

 

 

「すかーと覗いて欲しかったのか?」

 

「なななななななな!違うわよ!」

 

「いやぁ、ご期待に沿えず申し訳ない。そういうのに興味なかったもんでな。ま、求められたら」

 

「求めてないわよ!変な勘繰りして悪かったなーって思ってんだからあんたも流しなさいよ!」

 

 

きぃーー!と立ち上がって怒るリン。

いや、からかいがいがある。クツクツと笑っているといい匂いが鼻をくすぐった。その先を辿ればエミヤシロオが大皿に山をなす和風ハンバーグを持って立っていた。

 

 

「お前ら何してんだよ…セイバーさんリモコン隅に寄せてもらえるか?」

 

「了解ー、すげぇ量だな」

 

「アーチャーがセイバーならこれくらい軽く食えるって……大食いかなんかの選手なのか?」

 

「お前は果たして天然か養殖か……まぁ、これくらい軽いわな。んーうまそう」

 

 

まだジュゥジュゥとかすかに音を立ててる焼き魚が前に置かれる。湯気の立つ味噌汁とどんぶりに盛られたご飯。アーチャーが持って来た大皿には大根と牛肉の煮物が大量に盛り付けられている。

直ぐに台所を戻る所を見るとまだ品数があるらしい。うむうむ、待ったかいがあると言う物だ。

 

 

「太るわね…」

 

「自分のペースで食べればいいさ」

 

 

リンのボヤキに応えたアーチャーが最後にポテトとレタス、卵のサラダを机に置いた所で席に着いた。

 

 

「それじゃ、いただきます」

 

「「「いただきます」」」

 

 

 

 

 

 

結果から言うと―――、

 

 

 

 

 

 

「今まで食べてたもんはなんだ!!!」

 

 

 

 

というほどに美味かった。

アーチャーはエミヤシロオが作ったものを一口食べて「ハンッ」と盛大に鼻で笑い、更に「焼き方が甘い」だの「塩が足りない」だの「これだから未熟者は」だの延々と語りだそうとしたところでリンの鉄槌によって食卓の平穏が守られたりといろいろあったので割愛するが、十分に美味しかった。うむ、和風ハンバーグのソースとハンバーグの相性は最高だと思う。

というかアーチャー、ご馳走になっておいてその態度はいただけないと思うぞと脅迫でこの席を勝ち取った俺が言う。この時代の人間であるリンも恨めしそうにエミヤシロオを眺めながら唸っていた所を見るとかなり美味いのだろう。

 

 

「そこまで喜んでもらえて嬉しいよ。セイバーさんは今までどんなもの食べてたんだ?」

 

「俺?………………薄かった」

 

「え」

 

「いや、まぁ素材の味は最悪だね!っていうのを思い知らされたっつーか」

 

 

調味料とか調理技術とかそういうものの偉大さを思い知らされたと言うか。

時代を考えれば仕方ないことではあるがな。

 

 

「えーと、取りあえず教会まで付いてきて貰えるのか?」

 

「これだけご馳走になったらな。それ位の暇ならあるし構わねぇよ」

 

「そうか、よかった」

 

 

食い物に罪は無い。

デザートのイチゴ大福を突きながら緑茶で口を潤す。

 

 

うむ、ごちそうさまでした。

 

 





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