ソードマンの聖杯戦争   作:永谷

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第捌話:衛宮士郎式交渉術(応用編)

 

 

凛SIDE

 

 

「―――マスターとして戦う。

十年前の火事の原因が聖杯戦争だって言うんなら、俺は、あんな出来事を二度も起させる訳にはいかない」

 

 

衛宮君の答えは……やっぱり予想通りだった。

それがどんなに無謀なことなのか分かっているのか……分かってて言ってるんでしょうね。

 でもそこまで絶望的って訳じゃないのも確かね。

自称ハグレサーヴァントのセイバーがマスターの見当も付いてない状態で放し飼いだし。衛宮君のこと毛嫌いしてたみたいだけど夕飯食べてる間は仲良さ気だったしね。

 絶対に付け込む隙はあるわ。これは確実。

 

 なんてったって衛宮君が呼んだサーヴァントですもの。

 

 

「衛宮君、ちょっと待った!」

 

「なんだよ、セイバー待たせてるんだから早く行かないと」

 

「そのセイバーのことで話があるのよ」

 

 

 聖杯戦争への参加を表明してさっさと外に出ようとする衛宮君を引き止める。ちょっと不機嫌そうに私の背後にいる言峰を睨む。

 あぁ、確かに帰りたいわね、直ぐに。

でもなんの作戦も立てないうちに突っ込んで討ち取れるほど敵は甘くないわ。

 

 

「いい?衛宮君。

あなたがサーヴァントだけ倒して聖杯戦争を勝ち抜くって言うのなら、サーヴァントをパートナーにすることが絶対条件よ。それは理解出来るわよね?まさかまだ理解出来てない。自分でサーヴァントの相手が出来る倒せるとかぬるい事ぬかすわけないわよね。だって私説明したわよね。ここまで連れてきて上げて言峰からも説明受けたわよね」

 

「あ、ああ」

 

 

 ギリギリと指を衛宮君の鼻に押し付けて一息に告げると頷く衛宮君。

 よろしい、ちゃんと理解出来てるみたいね。

全く、これまでの時間が全部無駄だったとか言われたらどうしてやろうかと思ったわよ。

 

 

「で、扉の向こうにはあなたが呼んだハグレサーヴァントがいる」

 

「セイバーのことか?」

 

「そう、いくらあなたのことをマスターと認めてなくてもあなたとの繋がりはあるわ。これ確実」

 

「でも、令呪ってのないぞ?」

 

 

 まだ力のない聖痕が刻まれた手をひらひらと振る衛宮君。

 

 

「そんなのセイバーが契約の完了をさせてないからでしょ。現界させた地点で最低限のラインは繋がってるわよ。あなたは彼のマスターよ。あなたがその令呪の兆しを放棄しない限りね」

 

「だけどセイバーは俺がマスターになることを了承しないだろ」

 

「じゃぁあなた諦めるの?ハグレサーヴァントなんて早々いないわよ、言っておくけど」

 

「だからって嫌がる相手に無理強いなんて出来るわけないだろ」

 

 

 断固として言うことを効かない衛宮君に溜息が出る。

 こいつ、分かってるようでぜんっぜん分かってないわね、自分が置かれてる状況を。

 ……ここで潰しておくのも…うぅん、この馬鹿は令呪がなくても首を突っ込む。その時に隣りにサーヴァントがいるのといないとじゃ断然いる方がいい。

そう、桜の為にも……衛宮君には死んでもらっては困るのだ。

 毎日じゃないけど、時々だけど衛宮君と一緒に登校する桜は……凄く楽しそうだった。ちゃんと笑ってた。

 

 それだけでいい。私がこの馬鹿に手を貸す理由なんてそれだけで。

 

 

「衛宮君、本当に嫌いな相手だったらここまで付き合ってないわよ」

 

「そ、れは……そうかもしれない」

 

「でしょ?衛宮君との契約を断るにはちゃんとした理由があるはずよ」

 

「……そういえば」

 

「なに?なんかあったの?!」

 

「召喚後すぐに『チェンジってあり?』って聞かれた……」

 

「………」

 

 

 その光景を思い出したのか沈み込む衛宮君。

 桜ごめん……衛宮君にセイバーつけるの、無理かもしれない…。

 

 

 

凛SIDE END

 

 

 

 ギィィ、蝶番のなる音が耳に届く。顔を上げるとリンとシロウが教会から出てくる姿が見えた。

シロウの顔は何やら強張っていたが、俺の姿を見ると何故か安堵したように見えた。聖杯戦争に参加しようが、しなかろうが教会から出てくる。こちらに向かって歩いてくるシロウが口を開くのを待つ。

 

 

「セイバー、俺は聖杯戦争に参加する。

でも、俺がやりたいことは……悔しいけど俺だけじゃ出来ないんだ。都合がいい、なんてことは分かってる。でも頼む。マスターに当てがないんだったら俺に力を貸してくれないか」

 

 

 本当に都合がいい。

自分で最初にマスターであることを放棄しておいて、今度は力を貸してくれ、なんて。

 それを全て理解していながらも、今この瞬間俺に殺される可能性があることを理解していながらも、シロウは頭を下げている。

 

 

「シロウ―――ひとつだけ、いいか?」

 

「あぁ」

 

「お前は……名も知らぬ他人の為に命を捨てることが出来るか?」

 

 

 これだけは、これだけは聞いておかなければならない。

 

 頷くならそれまでだ。アーチャーが提案した計画を実行するまでもなく見捨てる。

そんな馬鹿に付き合う暇など……一秒だって持っていないのだから。

 

 

「俺は…命を捨てるなんて事は出来ない―――でも、命を懸けて助けたいと思う」

 

「?」

 

「無駄死になんてご免だ。俺は正義の味方を目指しているんだ。誰も助けないままでなんて、死ねない」

 

「……あぁ、」

 

 

 頷く。納得する。

 俺に届いた「死ねない」という声。

 生にしがみ付き、必死に死に逆らおうとするその声に、惹かれた。

 

 死に真っ向から立ち向かうその姿に―――俺は応えたのだ。

 

 だから、名も知らぬ他人の為に命を捨てる馬鹿が呼んだのかと憤った。裏切られた気さえした。

 でも、これなら……納得は出来なくとも、待つことは出来る。

 

 

「えっと…セイバー?やっぱ、ダメか?」

 

「ん?あぁ、んーーーーーーギリで合格って感じ」

 

「ギリで合格って…ことは俺のサーヴァントに」

 

「なってやるよ。ま、条件はあるが」

 

「じょ。条件?」

 

 

 顔を輝かせたシロウだったが、早とちりはいけないぜ少年。なんでもかんでも世界は等価交換。

きっちり価値を理解してなきゃ損する一方だが、生憎と損してやる気は更々ないのだ。俺は俺のやりたいようにやる!

 

 

「お前は俺に何を返せる?」

 

「え?」

 

「報酬だよ、報酬。

 

当たり前だろ?お前の為に手助けをする、ならばその労働に相応しい報酬が与えられてしかるべきだ」

 

「ちょ、ちょちょちょっと待った!報酬は聖杯で決まってるでしょ?!それ以上は過剰払いよ!」

 

 

 先程までシロウの後ろでこちらのやりとりを静かに見ていたリンが割りこんでくる。知り合いが詐欺に引っかかろうというところにタンマをかける弁護人のようだ。

 まぁ、詐欺でも過剰払いでもないところが違うが。

 

 

「リン、良く考えろよ?報酬が聖杯だけだったら俺は他の魔術師当たったほうが確実だろうが」

 

「……あぁ、そういうこと」

 

「うむ、だからシロウじゃなきゃいけないような理由兼報酬をくれ。

あ、ちなみにこの世界の平和とか平穏とか人助けとかそういうの興味ねぇから」

 

 

 現金でも良いぜ、と親指と人差し指で丸を作ってみせる。それを見たリンが口元を歪ませて「アンタ、なんでそういうの知ってんのよ」といってるが知らん。唸るシロウに再度訊ねる。

 

 

「…………三食昼寝付き」

 

「…お前さ、もうちょっと捻れよ」

 

 

 俺が打算ありで引き受けた時の報酬を持ち出すなよ。サーヴァントに睡眠は必要ないし、そもそも昼寝してる間に襲われたらお前どうすんだよ。

 

 

「よし、じゃぁ毎食デザート付きで三時にはオヤツ!毎食一品セイバーのリクエストに応えるでどうだ!!」

 

「のったあぁあぁぁぁ!!!」

 

 

 ガッシィィ!と固く手を握る。

 

 

「アーチャー、私セイバーに夢見てたわ」

 

「今頃分かったのかね」

 

 

 何か赤い主従がぼやいてるが気にしない。マスターが決まった所で、早速契約を結ばせてもらうとするか。シロウの左手を取り、額に押し付ける。ん、ちゃんと繋がってんな。

 

 

「我が身は汝の敵を切る剣。

我が身は汝の身を守る盾。

聖杯の寄るべに従い、仮初めの担い手として認めよう」

 

 

 キン、と一瞬令呪が脈動する。契約が結ばれたのだ。

 

 

「っっぅ……!」

 

 

 短く呻くシロウ。マジマジと令呪が灯った左手を見る。

 よしこれで魔力の供給も――――――あれ?

 

 

「なぁシロウ、お前俺への魔力供給のラインカットしてる?」

 

「は?」

 

「魔力が来てない」

 

 

 ―――ん?いやこれは来てないんじゃなくて……、神経を集中させて自分と自分以外、マスターとなったシロウとの繋がりを見つける。

 

 

「ラインが、細すぎて魔力が十分に供給されてない」

 

「……遠坂、」

 

「ちょ、そんな目で見ないでよ!……そうね、衛宮君召喚の時ちゃんと手順踏んだ?」

 

「手順?なんだそれ」

 

「あぁぁ~~~~!そうだった!そういえば衛宮君って」

 

 

 キョトンと首を傾げるシロウを見て何かに気付き、絶望したように頭を抑えるリン。

 ……そういえばシロウの家でシロウの魔術師としての力量の話が出てたな。確か強化くらいしか出来ないって……強化って召喚と分野が同じなのか?この世界じゃ。

随分と魔術が劣化してんなぁと思っていたが分野の区別まで曖昧になってるとは……

 

 

「そうよね、強化しか出来ない上に魔術の師もいない。それじゃぁちゃんとした召喚なんて出来ないわ……たぶん力技で無理矢理だったんでしょう」

 

 

 うむ、やはり強化と召喚は分野が全く違うらしいな。わかってたけど。

 チラリとこちらを見てくるリン。リンなら、リンに任せれば……たぶん大丈夫じゃなさそうだな。

 

 

「解決方法はあるのか?」

 

「魔術を習得するには時間がかかるわ。……才能の有無にもよるけど、聖杯戦争中にラインを繋ぐ魔術を衛宮君が習得するのは不可能ね」

 

「ぅ……そりゃ俺には才能なんてないけど……」

 

「ま、他に魔力を補給する方法の探索と、魔力の無駄な消費を抑える。これくらいしか出来んだろ」

 

「やっぱそれくらいかしら。何かいい案でも出してくれると助かったんだけど」

 

 

 チラリとこちらをリンが見て、それに習って窺うような視線をシロウが向けてくる。契約を解除して、リンの手を借りながら正しい手順を踏んで再契約、という手もあるかもしれない。が、サーヴァントとマスターの契約を断ち切る方法なんて分からんので却下。

 

 …………しかし面倒だな…。

 

 

「なぁ」

 

「何かあるのか?」

 

「チェンジってあり?」

 

「「ない」」

 

 

 っち。

 





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