ソードマンの聖杯戦争   作:永谷

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第玖話:戦場に続く道

 

 俺は魔術師のことに関してはからっきりだからな。優秀な魔術師であり、お人好し、かつ説明好きのリンの説明で、シロウに一通り自分の未熟っぷりを再確認してもらった所でこの場を離れることにした。

 

 

「教会での用事は終わったんだろ、そろそろ帰らねぇか?……まぁこんなところで夜明けを迎えたいっつーなら俺は帰らせてもらうが」

 

「迎えたいわけないでしょ。そうね……まぁそっちの主従の関係の向上は衛宮君に頑張ってもらうとして、ここまで連れてきたのは私だし町に戻るまでは一緒に行きましょう」

 

 

 そっちの主従の関係の向上……そう聞いてシロウがこちらに視線を向けるが無視だ。

頑張れといわれたのはシロウだし、戦闘の連携なんて無理なので関係を良くする意味がない。適当ーに付き合ってけばいいのだ。貰うもんは貰うが。

 

 アーチャーは既に霊体化しているらしく、三人だけで坂を下りて行く。万が一のことを考えていたが、杞憂に終わりそうだな。公園の中を通る途中、あるものを見つけて足を止める。

 行きに見つけて引っかかったのだが、「教会に行くまで我慢しろ」と言われていたのだ。

 

 

「リン、お前どれがいい?」

 

「は?別に私はいいわよ」

 

「ここまで付き合ったんだからありがたく貰っとけよ。ぶっちゃけ俺ボタン押したい」

 

「子供か!…………じゃぁ、ミルクティー…これ、押し間違えないでよね」

 

「了解了解。シロウは?」

 

「俺?んじゃコーヒー、これな。硬貨がどれかわかるか?」

 

「おぅ、聖杯からのバックアップで完璧だぜ」

 

 

 シロウから預かった財布をひっくり返して(シロウが「あ”」とかいってたが知らん)、自動販売機の明かりを頼りに人数分の缶ジュースの代金を選び抜いて投入口に入れる。

 

 リンはみるくてぃーシロウはこーひー、と。

 

 代金を入れる前に指差していた箇所を押していけばガコンと目当てのものが落ちてきた。

 

 

「これ中身どうなってんだろうなー……」

 

「おい、まさか解体したいとか言わないだろうな」

 

「言わん言わん……いつかシロウが俺専用の自販機を買ってくれるって期待しとく」

 

「なんでさ」

 

 

 自販機一台分の働きくらいするぜー?どれくらいの価値があるかは分からんが、道端にゴロゴロしてるしあんま高くないだろ。いや別にシロウに買ってもらわなくてもこれくらいシロウの家に運べるけどな。でも確かそれ聖杯から来た知識の犯罪に入ってる気がするんだが……ばれなきゃいいか。

 二人にそれぞれの缶ジュースを渡して「んじゃ行くか」と歩きだそうとするとシロウは首をかしげた。まさか座ってじゃなきゃ飲めない!とかそういうお上品な人種か?リンなら良いがやめてくれ。

 

 

「セイバーは飲まないのか?」

 

「サーヴァントは寒さなんて感じないからな。必要ねぇよ」

 

「でもさ、俺たちが飲んでるのにセイバーだけお預けってのもないだろ。

 

それくらいの余裕は有るし遠慮なんてするなよ。お前らしくない」

 

「そりゃどういう意味だ。っつかアーチャーは華麗にスルーなんだなお前」

 

「そういえばいたっけ」

 

 

 おま……俺より仲悪いな。

アーチャーも何か言ってるらしくリンが呆れたような目で虚空を見ている。

 

 

「お前らに取っちゃ便利な飲料販売機だろうがな、この世界の飲み物しらん俺に取っちゃロシアンルーレットなんだよ。いらん気を使うな」

 

「む、それはそうかもしれないけどさ…」

 

「わぁったよ。じゃぁ適当に選ぶか」

 

 

 チャリン、ピ、ガコン

 物分りが悪いというかお人好しここに極まれりな我がマスター様の顔を立てて適当に選ぶ。リンが選んだ白いヤツじゃなくて、同じパッケージの黄色いヤツを選んだ。シロウ?ふ。

 ロングコートのポケットの中に突っ込んで歩き出せば二人が追いかけてくる。

 途中飲もうとしない俺を見てか「プルタブの開け方わかんないなら開けてあげるわよ?」と、リンがおせっかいを焼いてくれようとしたが、まぁ概ね何事もなく交差点までたどりついた。

 

 

「ここでお別れね。紅茶ごちそうさま、衛宮君。ついでにセイバー。

 

これ以上一緒にいると何かと面倒だし、きっぱり分かれて明日から敵同士にならないと」

 

 

 じゃぁ放っておけばいいのに、と言うのは禁句だろうか。勿論、んなことすればシロウは間違いなく夜を越せなかった。例え今日を越せたとしても近い内に殺されていただろうな。

 でも、人の死なんてものはそんなものだと思う。唐突に、前触れもなくやってくる。だから別に知り合いの知り合い程度の間柄でしかないリンが世話を焼くことなどなかった。

 ぜってぇ何かあるよなーと思いつつも、出会って数時間の俺が二人の関係を知ることは出来ない。んなことを考えてると、シロウもリンの行動に不可解なものを覚えていたらしく黙っていたが、何かを思いついたように頷いて。

 

 

「―――ああ。遠坂、いいヤツなんだな」

 

 

 とか言ってる。………いやまぁいいヤツだけどな。

んないいヤツで片付けちゃう辺りシロウなんだろーね。リンも驚きつつも眉を寄せてる。

 

 

「は?何よ突然。おだてたって手は抜かないわよ」

 

「知ってる。けど出来れば敵同士にはなりたくない。俺、おまえみたいなヤツは好きだ」

 

「な―――」

 

 

 リンが言葉を失くしている。

 これが所謂青春ってやつなのか?何か違う気がしないでもないけどそう思っとく。

 

 

「と、とにかく、サーヴァントがやられたら迷わずさっきの教会に逃げ込みなさいよ。そうすれば命だけは助かるんだから」

 

「ああ。気が引けるけど、一応聞いておく。けどそんな事にはならないだろ。どう考えてもセイバーより俺の方が短命だ」

 

「―――ふう」

 

 

 分かってねぇ…!

 

 何故か知らんがリンはシロウを生かしたがってる。だからここまで付き合って、避難所まで案内した。んで、参加を表明したシロウの安全を考えて俺との契約にも一役買った。

それなのにその本人がそれじゃぁ……まぁ、教えてやるほど親切じゃないので教えないが。

 リンも溜息を吐いて少し考え込み、チラリとこちらを見た―――いやぁ、俺にはどうしようもないぞ?このお人好し。

 

 

「いいわ、これ以上の忠告は本当に感情移入になっちゃうから言わない。

せいぜい気をつけなさい。いくらセイバーが優れているからって、マスターである貴方がやられちゃったらそれまでなんだから」

 

 

 それまで、つまり俺も擬似的でしかないが死ぬってことだな。自分の命を省みようとしないシロウには一番分かりやすい警告だ…いや、はっきり言わないと分からなそう。

 だが…うむ、リンはちゃんと分かってる…………本気でチェンジってねぇかなぁ…。

 

 少しだけ苛立たしそうな足取りで背を向けて歩き出そうとしたリンの足が止まる。

 

 

 

「―――ねぇ、お話は終わり?」

 

 

 

 夜の街には相応しくない幼い声が響く。

少しだけ不機嫌そうなそれは、紛れもなく少女のものだ。

視線が声に吊られるように坂の上へと滑る。

街灯だけの暗闇が、いつの間にか去っていた雲を押しのけた月の光に照らされている。

 

 伸びる影は長い。

家路に続くその道の先―――そこには一番会いたくない異形が佇んでいた。

 

 

「バーサーカー」

 

 

 リンが呆然と、呟く。シロウはきっと言葉の意味を分かっていないだろうが、あれの異常さ、異質さは感じ取れているはずだ。

 俺と違って隠すことなどしない。出来ない。一度命じられれば理性などなく破壊と死を撒き散らすだけの暴風となるだろう。そんな天災に似た人災が目の前に立っているのだ。

 

 

(―――人災なら防ぐ手があるのが常道だが、この人員で大丈夫なのかね。)

 

 

 溜息を吐きつつ、あぁ運が悪い。運が悪い。と常日頃思ってることを心の中で呟く。

 

 

「こんばんはお兄ちゃん。こうして会うのは二度目だね」

 

 

 こちらの空気などお構いなしに微笑みながら少女は言った―――シロウに。

 

 

「シロウ、お前ってさ」

 

「?」

 

「ほんっとうに…サーヴァントホイホイだよな…!」

 

「なんでさ!?」

 

「ちょっと!気持ちは分かるけどそういう状況じゃないでしょ!」

 

 

 あ、やっぱリンも思ってたんだ。この敵サーヴァントとのエンカウント率の高さは異常だと思う。

今夜だけで半数以上のサーヴァントと顔合わせてるぞ。狙ってもいないのに。

 

 

「サーヴァントホイホイ?」

 

 

 こちらの会話に顎に人差し指を当てて不思議そうに首を傾げている白い少女。

なにそれ?と幼い表情がこちらに問い掛けてくる。

 その少女から見えないように素早くリンに合図を出す。

 シロウ?んなもん役に立たん。

 

 

「今日だけで既にランサーとアーチャーに会ってる。

んで、今現在お宅のバーサーカーと遭遇中。俺も入れれば計4体のサーヴァントだ」

 

「うわぁお兄ちゃんったらもてもてだね!」

 

 

 嬉しそうにはしゃぐ少女。

 うむ、俺の運の悪さもここに極まれり、って感じだ。

 

 

「でも良かったぁ」

 

 

 至極嬉しそうに、安堵したような口調と無邪気な笑顔で告げる。

 

 

「今ここに居るってことは間に合ったってことだもの。

お兄ちゃんを殺すのは―――私なんだから」

 

「っ!!」

 

 

 緩んでいた空気が一瞬で凍る。

外見で騙されてはいけない。口調で誤魔化されてはいけない。

無邪気な笑みで細められていた大きな赤い瞳が笑みの形を持ったまま残酷に光る。

そのまま戦闘に雪崩れ込むか―――と思いきや、少女がはっと思いついたように目を丸くする。

 

 

「そういえば自己紹介がまだだったわね。自分が殺される相手が誰だかわかんないなんて可哀想だもの」

 

 

 私ったらちょっと焦っちゃった、と急いた自分を恥ずかしそうに嗜める姿は子供そのもの。

少女は行儀良くスカートの裾を持ち上げて、丁寧に完璧な仕種で綺麗なお辞儀をする。

 

 

「はじめまして、リン。私はイリヤ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルンって言えばわかるでしょ?」

 

「アインツベルン―――」

 

 

 その名前にどうやら聞き覚えがあるらしく、リンの体が揺れる。

 ……おいおい、まさかお前もサーヴァントホイホイの仲間入りとか言わないよな。

 リンの反応を見て何が良かったのか分からないが、少女は嬉しそうに笑みを零し、

 

 

「見たところリンのサーヴァントも準備が整ったみたいだし」

 

「っ!?」

 

 

 気付かれてたか。

時間を稼いでアーチャーの弓兵に相応しい戦い方が出来る位置に移動させたかった。リンは俺の合図をキチンと理解して指示してくれたらしいが……まさかこうも容易く見破られるとは。

俺謀とか策略とかそういうのてんでダメなんだよなぁ。まったく、自分の不運さがイヤになる。

 クスクスと楽しそうに笑って、少女はそのままの表情で、

 

 

「―――じゃあ殺すね。やっちゃえ、バーサーカー」

 

 

 背後に控えていた異形に、コロセと命じた。

 





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