零崎刺織の人間学園   作:U・K・Owen

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登場人物紹介

羽咋枝折(はくい・しおり)―――学生
人吉善吉(ひとよし・ぜんきち)―――生徒会庶務
黒神めだか(くろかみ・めだか)―――生徒会長
不知火半袖(しらぬい・はんそで)―――学生
有明ありあ(ありあけ・ありあ)―――学生

零崎双識(ぜろざき・そうしき)―――殺人鬼
零崎軋識(ぜろざき・きししき)―――殺人鬼
零崎刺織(ぜろざき・さしおり)―――殺人鬼


零崎刺織の人間学園  一切り目

「―ありゃあ()()()に立つのに慣れてんじゃねーよ

()()()に立つのに慣れてんだ」

 

 箱庭学園にこの物語の付加存在、もしくはただの女子学生、あるいは羽咋枝折が入学してしばらくした頃、授業の合間の休み時間に机に突っ伏して惰眠を貪っていた羽咋の横の席からそんな言葉が聞こえた。

 今現在絶賛大人気の我らが生徒会長についていかにも吐き捨てるようなその言葉に反応した羽咋はゆっくりと顔を上げる。

 その動作はこれが漫画の世界であれば『ノッソリ』というような擬音が入るような緩慢なものだった。

 

 件の言葉を発した隣の彼…確か人吉善吉とか言っていたような、と羽咋は入学式直後のクラス会で行われた形式的な自己紹介を思い出した。そうは言っても、当の羽咋が前日の夜遅くまで長引いた用事の影響で眠りこけていたので名前の後に何を言っていたのかは思い出せないのだが。

 なんとなく不良っぽい彼の言葉に彼の側にいたまるで小学生の様な庇護欲をくすぐられる少女―不知火半袖がおちゃらけた様子で答える。

 

「ん〜、あ〜、そりゃそーだね、そーでなきゃ1年生で生徒会長になんかなれっこないか♪」

 

 なんというか、彼女の言葉は絶妙に胡散臭く羽咋には自身の長兄の口ぶりと重なって見えた。いや、聞こえた。

 黒神めだか、この箱庭学園第100代生徒会長というとてもキリのよく覚えやすい席に座っている現1年生であり、それながら支持率九割以上といった()()な人気でもって選挙による公正な投票で選ばれた人物である。

 

 選挙の公平性に関しては羽咋……というか説明を行った黒子のような人が目を光らせていたので信用していいだろう。少なくとも1932年のヴァイマル共和国総選挙と同じくらいに公平性に満ち溢れたものだった。

 

「あれ?

起こしちゃったかな?」

 

 不知火が起き上がった羽咋の方を見てその見た目相応のテンションを崩さずにそう質問してくる。

 

「いや、もともともう起きるつもりだったし大丈夫だよ」

 

とっさにそう返したが、実際間違いではないのでいいだろう。

私は教室の後に置いてある自分の荷物に目をやり、机の中を覗き込んで次の授業の準備をする。

次の授業まではまだ全然時間があるが、授業終了直後から寝ていたので昼ご飯を食べる必要があるのだ。

そもそも仮眠は取りすぎてもいけないと言うし、どちらにしろそろそろ起きなければならなかったのは事実である。

 

私が目をやった荷物を見て、人吉君が思いついたように質問する。

 

「そういや、あのデカいケースは何なんだ?

ギターでもやってるのか?」

 

確かにこの学園には軽音部を始めとして中々ユニークな部活が多数あり、その中にはもはや何を生徒にやらせたいのかが意味不明なものも一定数存在する。

だが、私が学園に持ち込んでいるギターケースはチャックの部分が念入りにケースやその中身と同じく私の伝手に作ってもらった錠前で固定されており、パッと見でも開けるのに相当苦労しそうな外見になっている。

 

「いえ、あれの中身は友人に作ってもらった思い入れの品なんです。

てっきり持ち込みは止められると思っていたのですが…

 

―と、メールですか」

 

そうじゃなくても中身の検査ぐらいするだろうとは思っていたが、流石に校風が自由すぎやしないだろうか。

()()()に「高校の青春ぐらいは謳歌してきたほうがいいんじゃない?」と言われて家からの近さだけで選んだこの学園だが、入学式のセレモニーで現学園長の名前を聞いたときは危うく卒倒するところだった。不知火袴―信じたくは無いが、()()()()の住人にとってはある意味縁の深い肆屍の縁者である可能性がある。もっといえば今私の目の前でどこからともなく取り出した巨大なロールケーキをまるで恵方巻かのように頬張っている少女は、学園長の孫娘と来た。

正直入学初日から逃げ出したい気持ちでいっぱいだったが、闘わずして逃げるのは一介のプレイヤーとして癪に障る。

というかそもそも、私は現在18歳だ。それがここに違和感無く溶け込めている時点で私が身長うんぬんを彼女に言う権利は無いだろう。

 

私がこんな場違いな年齢でこの場にいるのも、全部あの『赤色』のせいだ。

私は当時…というか三年前はペーペーだったのであまり事の真相に深く関わっているわけではないし、()()の中でも真相レベルまで深くあの『赤色』と関わったのは音楽家の兄さんだけだろう。

それでも私の(恐らく)花の女子高生時代を奪った罪は重い。

 

 

「―俺は絶対! 生徒会には入らない!」

 

―と、私が頭の中で碌に会話したことも無い『人類最強』への恨みを募らせながら自身の携帯に届いたメールの内容を確認していると、善吉君がいやに芝居がかった動作で指を指しながら断じるように宣言する。

…それはいいのだけれど、問題は彼のすぐ後ろで彼とまったく同じポーズをとっている特徴的な服を身に着けた少女がいることだ。

左腕の組み方から右腕の人差し指の角度まで寸分たがわず同一のポーズ、流石に完璧超人と称されるだけはある。というか、あれは本当にまともな人間なのか?

 

「まぁ、そうつれないことを言うものではないぞ、善吉よ」

 

そういいながら右腕を伸ばし、善吉君の頭につかみかかる、ガシィ…というかもうメリィ…っていってそうな掴み方だ。

当の善吉君は振り向かないまま冷や汗を滝のように流しているが、さもありなん。

露出の多い彼女の生徒会役員用の黒い制服から覗く腕の筋肉の張り具合から言って、彼女が善吉君の頭をリンゴの如く粉砕することが容易であろうことは想像に難くない。

 

箱庭学園第百代生徒会長、黒神めだか。

前述したように入学したばかりの一年生でありながら異常とも言える支持率でもって生徒会長に選ばれた少女。

先ほどの思考の合間に耳に入ってきた会話曰く、彼女と善吉君は幼馴染であるらしい。

また、今の善吉君の反応からして、同様に彼女に巻き込まれた経験は少なくないらしい。

 

それよりも、私が注目したのは彼女の名字である。

「黒神」、この世界を構成する四つの『世界』の内の一つ『財力の世界』を実質的…というより完全に支配する『赤神』『謂神』『氏神』『絵鏡』『檻神』の五家をまとめた『四神一鏡』には数えられていないが、ここ数年とんでもないスピードで勢力を強めている家、近々『財力の世界』において戦いが起きると噂される原因であり、『私達の世界』に関わってはいないもののそれでも強大な勢力であることに変わりはない。

黒神家の人物は皆こんなのばかりなのだろうか?

そうだとすれば『四神一鏡』に食らいついていることも不思議ではない。

 

哀れ、善吉君は抵抗こそしたが、割とあっけなく悲鳴(…いや、あれは最早絶叫だろうか?)を上げながらそのまま頭をガッシリと掴まれた状態で引きずられていった。

おそらく向かった先は生徒会室だろう、また、会話の節々から見える善吉君の面倒見の良さを考えると今回もまた彼は彼女に振り回されることになるのだろう。

 

メールの中身は家賊からのものだった、曰く『予定ができたから時間を空けておいてくれ』とのこと。

今年に入ってもう何回目かも数えるのもやめたその連絡に私は無意識に軽いため息をつく。

私の持ってきたギターケースに再び目をやり、『了解』と返信する。

 

「はぁ、今日は新しくできたドーナツ屋に行こうと思ってたのに…」

 

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「―新聞は分かったけど、家が23地区ってのはどうゆうことだ?」

 

場所は生徒会室、幼馴染である黒神めだかの押しに負けた人吉善吉が生徒会に入って一週間が経過しようとしていた。

そんな最中、善吉はめだかと共に彼女が設置した目安箱である通称『めだかボックス』に入れられた相談の対処を行っていた。

 

先週の相談は使われていなかった剣道場についてのものであり、結果から言えばいつも通りめだかがその『人の良さ』によって改善されたのであるが、今回のものは個人を対象とした一種のいじめであり、陸上部に所属する自身のスパイクをボロボロにされた依頼人の有明は誰がこれを行ったか分からず、疑心暗鬼に囚われていた。

それを聞いためだかは、『今日中に解決して見せる』と豪語し、先輩である有明には一旦お帰りいただいて一段落したのだが、実際のところ今日中に解決することなど出来るのかと問うた善吉に対し、めだかは生徒会室の机にもたれかかり、愛用の扇子を閉じて答えた。

 

彼女いわく有明先輩のスニーカーを切り裂き、ロッカーに脅迫文を入れたのは『陸上部女子』で『陸上歴ほそれなりに長く』『短距離走を専門』としており、『有明先輩と同じシューズを愛用』、『左利き』で『文車新聞を購読』し、『23地区に住んでいる』人物であるらしい。

彼女の説明により6つ目までは理解できたが、7つ目の条件は未だに理解できないでいた。

 

これまでの説明の中に地区単位まで加害者の居住地を特定できるものはあっただろうかと思考しながら善吉はめだかに問う。

これまで幼馴染として彼女に散々振り回される中で、そういうプライドは善吉の中から綺麗さっぱりなくなってしまっていた。

 

「うむ、新聞というのは印刷する時間帯によって記事の差し替えが行われる場合があるのだが、今回の切り抜きに使用された新聞は数日前に23地区にのみ配られた()()の第二版だ。」

 

「号外…そんな事件あったか?」

 

「む?

お前は新聞をあまり読まないのか?」

 

「いや、普通の高校生はあまり読まないと思うが…」

 

「まぁよい、実は先日23地区の高層マンションで無差別殺人が起きてな、その号外が各地で配られたのだ」

 

「あぁ、あの事件か。今日の朝もニュースでなんかやってたな。なんか特徴的だとか…」

 

なにぶん不真面目な善吉はいつも意識してニュースを見ているわけではないのでどうしてもうろ覚えの知識となる。

そんな善吉にめだかはもっと情報の入手を意識するべきだ、などと小言を吐きつつその事件についての説明を始める。

 

「わざわざ警備の厳しい高層マンションで行われたというのもそうだが、何よりも異質だったのはその被害だ」

 

「被害…?」

 

めだかの言葉に、善吉の反応はオウム返しとなってしまう。

無差別殺人というだけで被害は特徴的だろうに、わざわざ『異質』と表現したということは余程のことがあったのだろう。

 

「うむ、類似した事件では殺されるのはどれほど多くても人間なのだが、先日の事件では被害者たちが飼っていたペットも()()殺されていたのだ」

 

「ペット…って犬とか猫のことか?」

 

たしかにペット諸共殺されたという話は滅多に聞かないが、それだけでは別に特筆するような異常ではないだろう。

 

「犬や猫もそうだが、金魚や虫、果てには観葉植物など文字通り命を持つもの全てが無残に殺されていたとのことだ。

あぁ、言い忘れていたが、人的被害は当該マンションに住んでいた人物全てだ」

 

「住民全員!?

そんなことできるのか?」

 

確かにそれが真実だとすればこの現代日本で発生した事件としては十分すぎるほどに異常で異質だ。

しかし、数百人にも及ぶであろうマンションの住民を一人残らず殺しつくすなど本当に可能なのだろうか。

 

「できないもなにも、実際に事件として起こっている以上可能であったということだろう。

人間業でないことは同意だがな」

 

人外じみた行いを多数やってきた実績のあるめだかが言っても説得力は欠片も無いが、それでもまともな人間には到底不可能であろうことがよく分かった。

 

「でも、流石に今回の有明先輩の事件には関係ないだろ?

いくらなんでもそんな奴の相手は生徒会の役目じゃないぞ」

 

善吉も腕っ節には多少の自信があるが、そんな殺人鬼相手は御免被る。

もし相手が件の殺人鬼だとすれば確実に警察に相談すべき案件だろう。

 

「いや、今回の相手はたまたまその新聞に印刷されていた文字を使っただけだろう。

その事件とは関係ないと思うぞ」

 

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「ごめんね刺織ちゃん、急に連絡入れちゃって」

 

「いや、もう慣れたから大丈夫ですけど」

 

授業後、私は泣く泣くドーナツを諦め、メールの用件にあった場所に来ていた。

なんというか、成人男性が女子高生相手にちゃん付けは一種の事案ではないだろうか。

実際、兄さんたちからこうやって急に連絡を入れられるのはこれが初めてではない、なんなら今年に入ってから既に二桁を数えている。

私の目の前には天を突くような…とは行かないまでもそれなりに大きなマンションが建っている。

今回の目的の人物はこのマンションに住んでいるらしい。

いつも通りの『報復』であるが、今回のものは規模が大きくそれなりの人数が関わっているのでいつものように隠し通すのは無理があるだろう。

いつもが隠し通せているかと言われると非常に微妙なことではあるが、少なくとも一般市民には情報は出回っていないようだ。

 

兄さん(隣に立つ変態)だけでなく軋識さんも来ているということは今回は中々に気合が入っているらしい。

軋識さんには先ほど後でドーナツを奢ってもらう約束をしてマンションの裏口へ向かってもらっている。

 

いつも思っているのだけれど軋識さんのあの巨大な釘バットは一体どうやって持ち運んでいるのだろうか。

私のは大分平べったいのでギターケースに入れることができているが、あの人のはバットとしてみても大きな部類であるため、いつもどこからともなく取り出しているのが不思議でしょうがない。

そのまま持ってたら通報間違いなしだろ、あれ。

まぁ私達は捕まっても言い逃れ出来ない部類の人間ではあるが。

 

そんなことを考えながら、私達はそれぞれの得物を取り出す。

兄さんは懐から歪な、ナイフをただ重ね合わせただけのような形をした鋏を取り出す。

ただでさえひょろ長い針金の様な見た目をしている兄さんがそれを持つとまるで不気味な殺人鬼のようだ。

 

私は背中に背負ったギターケースを中身を壊さないようにゆっくりと地面に置き、家の鍵と同じストラップが付いている鍵をポケットから取り出してケースの錠前に差し込んでひねる。

 

ガチャ、と軽い解錠音がその場にいやに響き、錠前が外れる。

錠前が外されたことで開かれたチャックの中には至極普通とは全く言えない鋸が入っていた。

その鋸は刃の一つ一つがひどく大きく、まるでサメの歯のようになっていた。これでは鋸本来の役目である木材の切断には使えないだろう。

 

私はその鋸を手に持ち、ケースをその場に置いたままマンションの入口へ歩き出す。

 

「じゃ、まぁとりあえず、零崎を始めますか」




動物はともかく植物を殺すって一体全体どうやってるんでしょうね。
某型月みたいに魔眼持ってる人がいるんでしょうか?
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