零崎刺織(ぜろざき・さしおり)――殺人鬼
零崎双識(ぜろざき・そうしき)――殺人鬼
零崎軋識(ぜろざき・きししき)――殺人鬼
零崎一賊―――この世界を構成する四つの『世界』の内の一つであり、最も闇の深い世界である『暴力の世界』に広く轟くその名は、決して和気あいあいとした家族などではなく、流血で繋がった
そんな殺人鬼集団である零崎一賊について語る前に、まずはこの世界を構成している四つの『世界』について説明する必要があるだろう。
1つ目の『世界』は『表の世界』、無辜なる市民たちが安寧を享受している世界であり、言うまでもなく最も安全な『世界』である。
2つ目の『世界』は『財力の世界』、現在は《
また、『表の世界』に最も近い世界でもある。
3つ目の『世界』は『権力の世界』、この世界はそれ自体が一つの巨大結社のようなものである。
《玖渚機関》と呼ばれるその集団は政治力を司っており、その影響力は極めて広いと言われており、《
そして4つ目、最も闇に近い『世界』が『暴力の世界』である。
この世界は異形、異端、異能こそが支配する秩序で無秩序な世界であり、その中でも強大な勢力が複数存在する。
それらは大まかに『殺し名』と『呪い名』に分けられ、そのうちの『殺し名』には7つの序列が存在する。
序列1位 《匂宮》――頼まれたら誰であろうと殺す『殺し屋』
『匂宮雑技団』
序列2位 《闇口》――自らの主人のために殺す『暗殺者』
『闇口衆』
序列3位 《零崎》――理由なく殺す『殺人鬼』
『零崎一賊』
序列4位 《薄野》――正義のために殺す『始末番』
『薄野武隊』
序列5位 《墓森》――みんなのために殺す『虐殺師』
『墓森司令塔』
序列6位 《天吹》――綺麗にするために殺す『掃除人』
『天吹正規庁』
序列7位 《石凪》――序列最下位にして特権階級。生きているべきでないから殺す『死神』
『石凪調査室』
呪い名にも序列は存在するのだが、ここでは余り関係がないため省略させてもらう。
今回の主題である『零崎一賊』はその序列3位に位置しており、
しかしながら『殺し名』の中で最も恐れ、忌み嫌われていると言っても過言ではない。
殺す理由も他の六名と比べると異質である。
《匂宮》を筆頭とする他の『殺し名』の者たちには曲がりなりにも殺意を向けるだけの理由や信念があるが《零崎》は『理由なく殺す』、文字通り殺人鬼であるが、それだけでは異能犇めく『暴力の世界』では何も不思議なことではない。
彼らの異質さは、その家賊愛にある。
家賊愛と言っても、誕生日に全員で集まってパーティをするような優しいものではなく、もっと血生臭いものであるが。
『家賊』に仇なす者は老若男女人間動物植物関係なく一族郎党皆殺し。
それが《零崎》の最も異質で異常な点であり、蛇蝎の如く畏怖される要因である。
誰が言ったか『この世で最も敵に回すのを忌避される醜悪な軍隊にして、この世で最も味方に回すのを忌避される最悪な群体』
その言葉の通り、『暴力の世界』において《零崎》は関わることすら一種のタブーであり、『暴力の世界』に関わる人間に対し、『零崎のよう』などというのは暗に最大級の侮辱とされている。
だが、《零崎》の人間も最初からおしなべて殺人鬼だった訳では無く、一定の切っ掛けが必要である。それは
人を殺した瞬間、何かのたがが外れたように《零崎》となることが多いらしい。勿論、《零崎》という殺人鬼集団の中で多いということであり、人を殺した者が全て殺人鬼となるわけではない。そんなことだったら今頃日本は死屍累々の鬼ヶ島になっているだろう。
私の場合は……まぁ碌なものでは無いのでここで語るのはよしておく。
とにかく、《零崎》とはそんな碌でもないヒトデナシどもの集まりである、ということだ。
「――なんて、私もそんな《零崎》の一人なんだけどね。」
そう呟きながら私は血に濡れた鋸を肩に担ぎながらマンションの階段を上がる。
この鋸は特注品で、私の人には言えない伝手から呪い名の一つである《罪口》―罪口商会にギターケース風のケースと共に製作してもらったものだ。
呪い名である《罪口》が求めるものは金銭ではなく、依頼物に応じた『代償』であるため、私も少なくない
「よぉ、遅かったじゃねえか」
途中で疲れてエスカレーターに乗ってマンションの最上階に着いた私達を出迎えたのは片手に金属バットを携えた青年だった。
数少ない異常な点といえば、その手に持ったバットが平均より一回り大きく、その幹と言える場所(恐らくはややこしい区分けがあるのだろうが私は知らない)に所狭しと釘が打ち込まれていることぐらいだろう。
その他の事―特にそのバットに着いた血痕―などは私達にとっては特におかしなことでもない。
殺人鬼集団―零崎一賊―私達は、そんな最悪の集団なのだから。
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「――で、どんな感じだい?華の女子高生ってやつは」
「えぇ、中々面白そうなところですよ」
双識兄さんでもこんなことを言うことがあるんだ、と思いながら返答を返す。なぜこんな当たり前の質問に以外感を感じているのかというと答えはただ一つ、流血で繋がるこの私の兄さんは―
「うんうん、それは何よりだ、僕も嬉しいよ。特にそのこの年代特有の短めのスカートとか実にいい、僕も教師としてそっちに赴任しようかな?」
―変態だからだ。
良かった良かった、もしかしたら最近罪口の人に作ってもらったとかいうそのデカい鋏でうっかり自分の頸を切り落としてしまったのかと思った。
ところで双識兄さんが言った短めのスカートだが、今は血にまみれて真っ赤になっている。これでは色気というより寒気を感じることだろう。
こうなるから制服で来るのは嫌なんだ。また新しいのを見繕う羽目になる。
「お前は変わらねぇな、そもそもお前が何を教えられるってんだよ」
若干威圧的にそう返したのは先程の金属バットを持った青年、『
そんな彼も私達の一員であるので双識兄さんの変態性は良くわかっている。
「それは勿論、情操教育とかじゃないかな?」
「世も末だな」
本当に世も末だ、そんな世界になったとしたら私は全力で火星辺りまで逃げるだろう。
「ま、なにはともあれおめえが普通に暮らせてるってことはよほどろくでもない場所なんだろうな」
「それはまあ、何てったって今の生徒会長は一年生ですからね」
「そりゃあろくでもねぇな」
「ところで、軋識兄さんが持ってるそのデカい筒は何なんです?
この前はそんなの持ってませんでしたよね」
軋識兄さんは肩に大きな筒を掛けている。見た感じは卒業証書を入れる筒がそのまま大きくなった感じだ、あと肩に掛けるようなのかロープがつながっている。
「ん?あぁこれか、こいつを入れるために作ってもらったんだよ、いくらなんでもずっとそのまま持ってるわけにはいかねぇからな」
そう言って軋識兄さんは右手に持った釘バットを強く振って血を飛ばそうとするが釘にこびりついてほとんど取れていない。
やっぱりあの釘要らないんじゃないかな、軋識兄さんの力なら普通のバットでも人の頭を三次元から二次元にすることぐらい容易いだろうし。
見て分かるだろうが、あのバットは普通のものではない。
『
軋識兄さんは諦めたように首を軽く振ると、血のついたバットをそのままケースの中に突っ込んだ。
内側にスポンジでも貼られているのか釘だらけのバットをケースは見事に飲み込み、そのまま蓋を閉められる。まあ、あの状態なら少し背の高い野球選手に見えなくもないかも、軋識兄さん見た目も中々フィジカルエリートっぽいし。
「ンにしても、結局
「あぁ、自分の主義を曲げたくない、と言って頼まれてしまったよ。最も、店の準備もあるのだろうけどね」
バットを入れたケースを肩にかけた軋識兄さんが言うアイツとは、私と同年代の零崎にして一賊唯一の
正直、数ヶ月しか違わないのであんまり兄という実感はないのでほとんどタメ口だが、一賊で唯一あの『大戦争』の核心に触れた人物である。実力の方は推して知るべしということだ。
今回の報復の発端は彼が裏路地で軽くちょっかいをかけられたことであり、その場は
――そう、問題はそこである。
撃退した、つまりは殺していないということ。それが零崎曲識が菜食主義者と呼ばれる所以である。
とても雑に言えば、彼は少女しか殺さない。少女以外はどんなことが有ろうと手に掛けない、それが彼の特異とも言える矜持なのだ。
だからと言って、撃退しましたハイサヨナラとにもいかない―否、いけないのが零崎一賊である。
何故なら私達は、殺されないために集まっているのだから。
そんなわけで駆り出されたのが、今回の一件と言う訳だ。
正直、私はともかく双識兄さんと軋識兄さんは戦力過多だと思うのだが、仮にも曲識に手を出した相手である、何かあるかもしれないということで出張って来たらしい。
結局はこの通りなんの種も仕掛けもないただの馬鹿が突っ走っただけだったのだが。
また、曲識は自分の店を持つことが夢だそうで、もう少しで開店準備が整うそうだ、私とほとんど変わらないのに良くやるとは思うが、情操含め教育が必要なのはあちらの方ではないかとも思う。
「そういえば、軋識兄さん。ドーナツ奢ってよ」
「あ?なんでお前に…あぁ、そんなことも言ってたっけな」
危ない危ない、うっかりフレンチクルーラーを食べそこねる所だった。新しくできたと言っても何の変哲もないチェーン店だが、あそこのドーナツはとても美味い。正直あの出店情報を聞いたときは家で小躍りした。
軋識兄さんは幼女が嫌いだそうだが、なんだかんだ言って将来絆されそうな感じがする、こういうのを世間一般ではフラグというのだろうか。
それよりも軋識兄さんまでそっちにに行ったらまともなのが私だけになるじゃないか。兄を名乗る変態を止めるためにもぜひそのあたりは踏みとどまってもらいたい。
「お、ミスドかい?いいね、私もあそこの汁そばは結構好きでね」
「邪道だ、邪道がいる」
確かにあそこの汁そばは美味しいけどさ、この流れで言うかね?
「ってかなんでお前にも奢る様な事になってんだよ。そんぐらい自分で買え」
軋識兄さんの言う通り双識兄さんはいい金づる…じゃなかった、いいお友達がいるようで仕事をしている様子は見たことがないがお金に困っているような様子も見たことがない。
とても羨ましいものだ、私なんかはドーナツを買う事すら気を揉むというのに。
こんなことをやっている以上行く先々で金銭を入手することも多々あるのだが、大半はこの様に血に濡れた制服の買い替え料金に消えている。私の家にはもう三着もの箱庭学園の制服が存在するがその全てが真っ赤に染まっているという訳だ。そして今日またその数が増えることだろう。
今どきの警察は結構優秀なので下手に捨てるわけはいかない。
専門の掃除屋さんに渡しているのだが、頻繁に接触するわけにもいかず、溜まっていくのである。
あ〜あ、いつか学園の制服が赤くなったりしないかな〜
こっちが更新されるのはアルペジオが行き詰まった時
後時系列的に『暴君』と出会う前なので軋識の口調は荒いです