タイトルそのまんま!紅葉狩りデートです。

やっと本格的に百合を書けました。が、やっぱり難しいですね恋愛系のを書くのって。誰か文才下さい。
ぼっちの服装のイメージとしてはアニメイラストの大判タオルに描かれた私服です。あれ可愛い。
焼き芋をリョウと食べた云々は何巻か忘れたけど特典イラストのやつです。

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ぼっちと虹夏の紅葉狩りデート

「え? 喜多ちゃん明後日の紅葉狩り行けなくなっちゃったの?」

『そうなんですよー! 楽しみにしてたのにー!』

 

 えーん! 電話越しに泣く喜多ちゃん。

 そう、明後日の日曜日は喜多ちゃんからのお誘いで私と喜多ちゃんとぼっちちゃんの三人で紅葉狩りに行くことになっていた。リョウは脳内で飼っている犬が危篤になる予定なので不参加との事。あいつの脳内ペットは病弱すぎる。

 

『遠方に住んでるおじいちゃんとおばあちゃんが遊びに来る事になったんです。だからその日は遊べなくて……』

「それは仕方ないね。じゃあ別の日にしよっか」

『それじゃ駄目なんです!!』

 

 ズイッ、っと電話の向こう側でも身を乗り出してるのが伝わってくるなぁ。その日に何かあるのかな?

 

『その日は絶好の行楽日和で、時期的にも一番綺麗に紅葉が色づいてすっごく映えるからイソスタにあげたいんです!!』

「そんな理由かい」

 

 そんなんだから成績もガタ落ちするんだぞこのSNS中毒者め。

 

『だから伊地知先輩とひとりちゃんで写真を撮ってきてほしいんです!』

「え? 私とぼっちちゃんで?」

『お願いします! 結束バンドの公式アカにも使いたいんです!』

 

 あー、ちゃんと結束バンドの事も考えてくれてたのか。

 まぁ私としてもそういう季節の風物詩を見に行くのは好きだし折角だから写真を撮りたい気持ちもあるんだけど、ぼっちちゃんとかぁ……。

 

『え? まさかひとりちゃんと二人で行くの嫌なんですか……?』

「違うよ!? 人聞きの悪いこと言わないでよ!」

 

 確かにぼっちちゃんと人の多い場所に行くのは大変だろうけどそこはもう慣れたもんだし私は構わない。

 でもぼっちちゃんが先ず紅葉狩りに行きたいのかどうかが問題なんだよね。喜多ちゃんに誘われた時も断りたいけど喜多ちゃんの陽キャパワーに圧されて断れなかったっぽいしなぁ。

 結束バンドの為でもあるし私一人でも良いと言えば良いんだけど。

 

『大丈夫ですよ。ひとりちゃん何だかんだ楽しみにしてるみたいでお父さんからデジカメも借りたって言ってましたよ』

「そうなの?」

『はい! だからお願いします! いいねの為に最高の映え写真を撮ってきてください!』

「いいねはどうでもいいけど、まぁぼっちちゃんが大丈夫なら二人で行ってくるよ」

 

 じゃあまたねー、っと電話を切る。

 しかしあのぼっちちゃんが紅葉狩りを楽しみにしてるのか。意外としか言いようがない。

 喜多ちゃんもぼっちちゃんに行けなくなったことは伝えてはいるみたいだけど、無理してないかの確認も兼ねて連絡してみようかな。

 ぼっちちゃんに電話を掛けて3コール辺りでぼっちゃんが電話に出た。

 

「もしもしぼっちちゃん? 急に電話してごめんね。今大丈夫?」

『あっ、はい。暇だったからギターを弾いてただけなので』

 

 そんな暇だったからオーチューブを観てましたみたいなノリでギターって弾くものだっけ? 練習ですらない辺りストイックという言葉ですら表せない。

 

「ぼっちちゃんも聞いた? 喜多ちゃんが紅葉狩りに行けなくなっちゃったの」

『あ、はい。今日学校で……』

「そうなんだね、私もさっき電話で聞いてさ。じゃあ聞いたと思うんだけど喜多ちゃんから写真を撮ってきてほしいってお願いされてるんだよね」

『は、はい』

「それで一応確認なんだけど、あの映え写真にうるさい喜多ちゃんがここまで言うくらいだから多分明後日行く予定の森林公園は相当賑わうと思うんだけどぼっちちゃん大丈夫かなって思って」

 

 知らない場所に行くときには必ず私の背中に隠れるぼっちちゃんがそんな人で賑わう場所に耐えられるとは思えないしなぁ。喜多ちゃんはぼっちちゃんが意外と楽しみにしてるとは言ってたけど、喜多ちゃんってぼっちちゃんにダメージを与えてる自覚が無かったりするからちゃんと確認しておかないと。

 

『あ、あの、最初は正直ちょっと怖かったんですけど、で、でも友達とお出掛けするのは楽しみではあるんです。だ、だから喜多ちゃんが行けなくなったのは残念ですけど、出来れば行きたい、です』

「……そっか」

 

 そういうことなら何も問題は無いかな。

 しかしぼっちちゃんと二人きりでお出掛けかぁ。ぼっちちゃんってリョウとは作詞作曲で二人で会ったりとか、喜多ちゃんとは遊びに引っ張り出されてはいるけど、改めて考えてみると私とぼっちちゃんでお出掛けってしたことないんだよな。ギターヒーローの収録を見せてほしくてぼっちちゃんの家に遊びに行ったことはあるけどそれも随分前の事だし。

 ……もしかして私、ぼっちちゃんと一番関係性遠い? い、いやでもぼっちちゃんって私に一番懐いてくれてるし、それは自惚れではない筈!

 

「よーし! 明後日は腕によりをかけてお弁当作っちゃうから楽しみにしててねぼっちちゃん!」

『あ、お弁当作ってくれるんですか? 虹夏ちゃんのお料理楽しみです、へへ』

 

 くっ、可愛い。ズルいぞぼっちちゃん、やり返さなければ。

 

「じゃあ明後日は紅葉狩りデートだね」

『え!? デ、デデデ、デート!?』

「そうだよー。二人きりでお出掛けだから間違いじゃないでしょ?」

『デ、デート……。虹夏ちゃんと、デート……』

「ぼっちちゃん?」

 

 あ、あれ? からかい過ぎたか?

 

「ぼっちちゃん? 大丈夫?」

『は、はい! あ、あの、楽しみにしてます!』

「う、うん。じゃあまた明後日ね」

 

 ピッ、っと電話を切る。ぼっちちゃん大丈夫かな? ああいう冗談慣れてないに決まってるんだから言うべきじゃなかったな。反省。

 さて、じゃあ今のうちにお弁当に入れるから揚げに味を馴染ませちゃおうかな。

 

 

 

 

 

 

 そしてお出掛けの当日、私はぼっちちゃんとの待ち合わせ場所に向かっていた。

 待ち合わせの時間まで30分は早く着きそうだけどぼっちちゃんのことだから一時間前には来てそうだしちょうどいいかな? 

 そして待ち合わせの場所に到着するとそこには見慣れたピンク色の、だがジャージ姿ではなく、花がら模様の黒シャツ、ピンクのエプロンスカートを着用したぼっちちゃんが待っていた。よく見ると横髪も後ろに流して髪留めで留めている。

 

「あの娘めっちゃ可愛くない?」

「アイドルかな?」

「ペロペロしたい」

 

 周りの人達もぼっちちゃんのあまりの可愛さにざわついている。ぼっちちゃんも視線が集まっていることには気付いてるのか顔を伏せていて、それがまた憂い顔に見えてぼっちちゃんの顔の良さを引き立てていた。

 正直めっちゃ可愛い。磨けば光るのは分かっていたけど少しお洒落しただけでここまでの破壊力か……。

 

「なぁ声掛けようぜ。見るからに大人しそうだしちょっと押せばいけるって」

「でもこうも人が多いとちょっとな……」

 

 む、不埒な輩がぼっちちゃんに目を付け始めたっぽいな。ぼっちちゃんも不安そうだしいつまでも見惚れてないで声かけてあげなきゃ危ないな。

 

「おーいぼっちちゃん! 待たせてごめんねー!」

 

 待ち合わせだということをアピールするために大きな声でぼっちちゃんに声を掛けると、不安そうな表情だったぼっちちゃんも私を見つけると飼い主を見つけたワンコの様に目を輝かせて私に向かって駆け寄ってきた。首輪つけたい。

 

「うぅぅ……、何故か周りの人達に注目されちゃって怖かったです……。きっと似合ってないのにこんな格好しちゃったから目障りで……」

「いやいやいや」

 

 相変わらずの自己評価の低さだな。もう少しで悪い狼に手を付けられそうだったというのに。まぁそんな輩に評価されても嬉しくもないけど。

 

「ほらほら、こんな所で泣いてたら余計目立っちゃうよ? 早く行こう」

「は、はい……」

 

 涙目で私に縋り付くぼっちちゃんの手を握ってその場を離れ、私達は目的の公園に向けて歩き始めた。

 

「いやーそれにしてもジャージじゃないなんて珍しいね。どうしたの?」

「そ、それがこの前の電話お母さん聞こえてたみたいで、デートならちゃんとした格好で行きなさいって言われて……。デートは虹夏ちゃんの冗談って言ったんですけどこの服を着ないと外には出さないって……」

 

 それは……、ぼっちちゃんのお母さんグッジョブとしか言いようがない。ぼっちちゃんの趣味趣向に沿わない服装だろうけどやっぱりこういう甘い系の服の方がぼっちちゃんには似合ってるんだよね。ぼっちちゃんのお母さんもどういう服装がぼっちちゃんに似合うか分かってるんだろうな。

 

「うぅ、やっぱり似合ってないです……」

「そんなことないよー。ぼっちちゃん今すごく可愛すぎて一緒に歩く私の方が気後れしちゃいそうだもん」

「そ、そんな! に、虹夏ちゃんの方がずっと、ずっとずっとずぅぅぅぅぅっと可愛いです!! か、可愛いし、優しいし、いい匂いです!!」

 

 お、おお、そこまで言われちゃうと照れちゃうな……。てかいい匂いってなんだ。

 

「あ、あはは、ありがと。ところでぼっちちゃん、その手に持ってる手提げバッグどうしたの? 何か持ってきてるの?」

「あ、これはスマホと財布とデジカメと、あ、後ですねおべ……」

「ねぇねぇ君たちこれからどこ行くの?」

「良かったら一緒に遊ばない?」

 

 は? 何かいきなり見るからにチャラい男二人が声かけてきた。てかこいつらさっき待ち合わせ場所でぼっちちゃんに声かけようとしてた奴らじゃん。ついてきてたのか気持ち悪いな。

 

「ほらお互い丁度二人組だしさ」

「二人ともすごく可愛いし是非とも遊びたいな」

 

 何が丁度だ。どれだけ人数がそろってようがあんたらなんかと遊びたくないっての。ぼっちちゃんも硬直しちゃってるしこんな奴らとは一秒も関わってちゃ駄目だ。

 

「悪いですけど今日は私たち二人水入らずで遊ぶので」

「そんなツレない事言わないでさー」

「何でも奢ってあげちゃうよ。ほらほら」

 

 男の一人が私の手を掴もうとしてくる。ちょっ、ちょっと……!!

 だけど私に触れようとしてきた男の腕が、横から伸びてきた手に掴まれた。そう、ぼっちちゃんの手だ。

 

「に、虹夏ちゃんに触らないで……!」

「え? い、いや別に危害を与えようとした訳じゃ……」

 

 な、何かぼっちちゃん雰囲気がいつもと全然違う……。隣から見るぼっちちゃんの横顔はいつもの弱弱しい顔じゃなく、無表情だけど前髪から少し覗かせる瞳には強い怒りを感じる。男二人もさっきまで見るからに内気そうだと思ってた女の子の雰囲気が急に変わって戸惑っていた。

 

「き、今日はデートなんです。じ、邪魔、しないで……!!」

「は? デート?」

「そ、そうです!! 今日はデートして、お洒落なところでディナーして、チ、チューとかするんです! だから邪魔しないでください!!」

 

 何言ってるのぼっちちゃん!?

 

「あ、あー分かったよ悪かった。邪魔してごめん」

「行こうぜ」

 

 ぼっちちゃんの勢いに負けたのかチャラ男たちは帰っていった。

 すごかったなぼっちちゃん。必死だったとはいえああいう強引な男とか絶対苦手な筈なのに追い返しちゃうなんて。でもすごく息切れしてる。かなり無理してたんだろうな。

 

「ぼっちちゃん、だいじょ……」

「虹夏ちゃん大丈夫ですか! どこか触られてないですか!?」

「え、う、うん……」

「よ、良かった……」

 

 力が向けたのかぼっちちゃんがヘナヘナとその場に座り込む。相当怖かったんだ。当たり前だよね……。

 座り込んだぼっちちゃんに肩を貸して近くのベンチに座らせて、自販機からコーラを買ってきた。

 

「はいぼっちちゃん、コーラで良かったかな?」

「あ、ありがとうございます。お金……」

「良いの良いの。こんなんじゃお返しにもならないけど助けてくれたんだから」

 

 ぼっちちゃんの隣に腰かけてレモネードのキャップを開ける。

 

「さっきはすごかったねぼっちちゃん。何かいつもと全然違ってビックリしちゃった」

「あ、最初はすごく怖くて虹夏ちゃんの背中に隠れそうだったんですけど、あの人が虹夏ちゃんに手を伸ばしてきて、虹夏ちゃんが怯えた顔をしてるのを見た時頭が真っ白になっちゃって……、正直あの時自分が何言ったのかもよく覚えてないくらいで、へへ……」

 

 あんな状態でも私の事見てくれてたんだぼっちちゃん……。

 

「ありがとねぼっちちゃん。あいつらが手を伸ばしてきた時怖かったんだ。でもそんなの吹き飛んじゃうくらいぼっちちゃんすごくカッコ良かったよ」

「え、へへ……。あれくらいチョチョイのチョイですよ……。うへ、うへへ……」

 

 ……その笑い方はカッコ悪いけどね。

 

「で、でも虹夏ちゃんやっぱり可愛いから、ああいう人達に声かけられちゃうんですね」

「う、うーん。まぁナンパされたことが無い訳では無いけど、可愛いっていうかああいうのって手当たり次第なんじゃないかな?」

 

 それにあいつらがついてきたのって待ち合わせ場所でぼっちちゃんを見てたからだし、どちらかというとお目当てはぼっちちゃんだったんだろうな。いつもジャージで分かりにくいけど、今日は普通の服装だからぼっちちゃんの胸がご立派なのもジャージよりは分かりやすいし。

 しかしこうなるとまたナンパされそうで危ないな。デートっぽい感じを出せば追い払えないかな? さっきのやつらもぼっちちゃんの必死な感じが功をなしたのかデートだって信じて引き下がったみたいだし。

 恋人繋ぎでもするか? でもそれくらいなら仲の良い女の子同士なら普通にしたりするしな。

 

「ふぅ……、コーラ飲んだらだいぶ落ち着きました。虹夏ちゃんありがとうございます」

 

 コーラを飲み終えたぼっちちゃんが立ち上がる。

 ……良し、こうなったら。

 

「えいっ」

「え!? うわわ、虹夏ちゃん何を!?」

 

 右腕に抱き着かれて慌てふためくぼっちちゃん。

 ちょっと恥ずかしいけどこれなら多少はカップルっぽく見えるかな?

 

「またさっきみたいなのに声掛けられても困るでしょ? ほら行こう。こっちの方がデートっぽいし」

「あ、ぁぅ、はい……」

 

 ふふ、恥ずかしいのかぼっちちゃん顔を真っ赤にして俯いちゃった。可愛いなぁ。……私も少し顔が熱い気がするけどそれは気のせいということにしておく。この胸のドキドキも。

 

 

 

 

 

「よーし、到着!」

「は、はい……」

 

 あれから30分ほど腕を組んだまま歩いてようやく目的の森林公園へとたどり着いた。ぼっちちゃんも10分ほどで限界を迎えて顔が崩れてしまい、私たちに近寄るものはいなかった。最初からぼっちちゃんの顔を崩しておけば良かったかもしれない。

 

「ぼっちちゃんしっかり。紅葉すっごく綺麗だよ」

「あ、本当ですね……、すごいです」

 

 喜多ちゃんが絶対に写真を撮ってきてほしいと頼むだけはある。公園の入り口から見渡す限り鮮やかに紅葉が色づいている。

 

「今までこういうのって興味なかったんですけど、すごく綺麗なんですね……」

「頑張って来た甲斐があったね。早速写真を撮っていこう!」

 

 組んでいた腕を解いてぼっちちゃんの手を引いて公園の中へと入っていく。流石にここまで来たら解いても大丈夫でしょ。これ以上腕を組んでたらぼっちちゃんの顔どころか体の原型が無くなりかねないし。

 そして公園の中に入って色々と写真を撮っていく。とはいえ私も写真はそれなりに撮るけど喜多ちゃんの様に間違い探しレベルで拘ったりはしないのでとにかく全体的に撮ったり、接写で撮ったりと手当たり次第に撮っていった。その中で喜多ちゃんのお眼鏡にかなうような写真が数枚撮れていれば御の字でしょ。

 でも本当にすごく綺麗だな。この公園には以前にも来たことはあったけど紅葉の見頃とかまでは気にしてなかったから今日意地でもここに来させてくれた喜多ちゃんにはちょっと感謝だな。

 そう思いながら綺麗に色づく紅葉を見上げていると隣からシャッター音が聞こえた。

 

「……ぼっちちゃん? もしかして今私のこと撮った?」

「あ、あの……はい」

 

 隣を向くとぼっちちゃんが私にデジカメを向けていた。ぼっちちゃんがこんな風に写真を撮るなんて珍しい。でも何故急に?

 

「そ、その、紅葉の中で佇む虹夏ちゃんがすごく綺麗で、つい、撮っちゃいました」

 

 ……一体どこでそんな言葉を覚えてきたんだいぼっちちゃんや?

 

「へ、へへ。すごくいい写真が撮れました。やっぱり虹夏ちゃんは可愛いし、綺麗です」

 

 私の写真を見てニヤニヤするぼっちちゃん。

 おのれ、そっちがその気ならこっちにも考えがある! 本当に可愛いのはどっちか思い知らせてやるぞぼっちちゃんめ! 食らえ、お姉ちゃん仕込みの撮影術を! パシャパシャパシャっと!

 

「わ、わわ! 私の写真なんか撮ってもスマホの容量の無駄ですから……!」

「そんなの知った事か! ぼっちちゃんの写真ならいくらでも撮っちゃうもんね!」

 

 ほらほら色々な角度で撮ってやる! 右から左から前から後ろから、そしてスカートの中が映らない程度に下のアングルから!! 撮ろうとしたその時、秋の冷たさを伴った一陣の風が吹いた。

 その風は普段ジャージしか履かないぼっちちゃんの油断しきったスカートを思いっきり捲り上げ、私のスマホはぼっちちゃんの薄ピンクのフリルがあしらわれたショーツを写し、保存した。

 

「…………」

「ぼ、ぼっちちゃん……?」

 

 ぼっちちゃんが目を細め、空を見上げる。木陰の隙間から差し込む光に照らされるぼっちちゃんはまるで絵画の様だ。

 そしてゆっくりと息を吸い込んだぼっちちゃんは

 

「無価値なものをお見せしてすみません……」

 

 その場で液状と化し、樹木たちの養分となった。

 

 

 

 

 

 

「ごめんぼっちちゃん!」

「い、いえ、元々私が勝手に虹夏ちゃんの写真を撮ったのが原因なので……」

 

 あれから地面に染み込んでいくぼっちちゃんを必死に吸い上げ何とか人の形に形成し、公園のベンチで休んでいた。タイミングよく周りに人がいなくて良かった。他の人達にまでパンツ見られてたら修復できないところだったよ。それに見られたくないし。

 

「それじゃあそろそろお昼にしようか。今日は腕によりをかけてぼっちちゃんの好きなから揚げを作ってきたからね!」

「あ、ありがとうございます」

 

 背負っていたリュックから弁当箱を取り出す。するとぼっちちゃんもバッグの中から包みを取り出した。

 

「あれ? ぼっちちゃんそれってお弁当?」

「は、はい。に、虹夏ちゃんに私の作ったお弁当食べてほしくて……。虹夏ちゃんの料理には遥かに劣っちゃうんですけど、もし良かったらた、食べてもらえませんか……?」

 

 おおお……! まさかあのぼっちちゃんの手作りのお弁当が食べられるなんて! 自分用にも作ってきてはいたんだけどこれは明日学校で食べるとしよう。

 おずおずと差し出されるぼっちちゃんのお弁当を頂戴して蓋を開ける。中身はハンバーグ、ブロッコリー、卵焼き、ポテトサラダとバランスよく入っていた。

 

「美味しそう! ぼっちちゃん料理できたんだ!」

「あ、時間を掛ければ何とか。お母さんや虹夏ちゃんみたいに何品も同時にテキパキ作れないですけど……」

「ううん、これだけ出来たら十分だよ! 早速食べてもいい?」

「あ、はいどうぞ」

 

 よーし、いただきまーす!

 先ずは卵焼きかな? 味付けは甘めで、食感もふわっとしてて美味しい! ハンバーグは……、うん! ちゃんと火も通ってるし、チーズも練り込んであって私好みのハンバーグだ!

 ぼっちちゃんすごく美味しいよ! そう言おうと思って隣を向くとぼっちちゃんが微笑みながら私を見ていてドキッとしてしまった。

 

「ど、どうかしたぼっちちゃん?」

「あ、ジロジロ見てすみません。美味しそうに食べてくれて嬉しいなって思って……、へへ」

「あーそれ分かるな。自分の作った料理を美味しそうに食べて貰えると嬉しいよね」

 

 お姉ちゃんも私が料理を作るようになった時美味しいって言いながら食べてくれたからそれが原動力になった部分もあるもんね。

 逆にリョウなんかはお弁当を前に作ってあげたら全然味合わずに平らげてて作った甲斐がまるで無かったもんなぁ。それどころか味が濃いとか言ってくるし。あの野良ペルシャめ。

 

「ぼっちちゃんも食べて! 今回のから揚げは私のいつもの味付けと、こないだぼっちちゃんのお母さんに教えてもらった味付けの二種類なんだ!」

「は、はい。いただきます」

 

 ぼっちちゃんがから揚げを一口齧る。すると溶けたせいか体力を失って青白くなっていたぼっちちゃんの顔色に生気が戻り、目を輝かせてそのまま齧って3分の2くらいになっていたから揚げを美味しそうに小さい口で頬張っていた。リスみたいで可愛いな。

 ふふ、これは確かに嬉しいや。

 

「虹夏ちゃんすごく美味しいです!」

「えへへ、ありがと。ぼっちちゃんのお弁当も美味しいよ」

「あ、ありがとうございます。……へへ」

「ん? どうしたの?」

「あ、い、いえ。その、楽しいなって思って……」

「楽しい?」

「は、はい。あの、小学生の頃とか遠足に行くとお弁当のおかずの交換とかするじゃないですか。で、でも私友達がいなかったからしたことなくて。だ、だから虹夏ちゃんがお弁当作ってきてくれるって言ってたから私も作ってきたら交換できるかなって思って今日作ってきたんです」

 

 おかずどころかお弁当の交換になっちゃいましたけど、へへ……。と笑うぼっちちゃん。

 そっか、ぼっちちゃんからしたらそんな子供の頃にやっちゃうような事も出来なかったんだよね。そういうの羨ましかったんだろうな。

 

「……これからさ、色々やっていこうよ」

「色々、ですか?」

「うん。鬼ごっこでも、かくれんぼでも。子供っぽい遊びでも色々やっちゃおうよ。きっと楽しいよ。喜多ちゃんとか喜んで参加してくれるんじゃないかな」

「で、でもリョウさん参加しますかね……?」

「リョウは最初は渋るかもだけどぼっちちゃんがやりたいって言えば最終的には参加するよ。ぼっちちゃんのことすごく気に入ってるしね」

「そ、そうなんですか?」

「うん、リョウと付き合いの長い私が言うんだから間違いなし。だからぼっちちゃんがやりたいこと今度聞かせてよ。結束バンドの皆でやっていこう!」

「は、はい! た、楽しみです。へへ」

 

 ニコニコしてるぼっちちゃん。きっとずっと寂しい思いをしてきたんだろうな……。

 友達がずっといないってどんな気持ちなんだろう。私も今でこそ進学校ゆえにバンド関係で浮いてるけど中学までは普通の学校だったから友達も普通にいたし、何なら多かった方だと思う。まぁ深い付き合いがあったのはリョウくらいだから進学してから疎遠になった子が大半だけど。ひとりぼっちの気持ちはお母さんが死んだときに多少経験はあるけど、15年間もひとりぼっちだなんて想像もつかない。

 その気持ちは私には分からないけど、でもこれからはぼっちちゃんと楽しい思い出を作っていきたいな。今はもう私が、私達がいるんだから。

 

「に、虹夏ちゃんお弁当ありがとうございます。ごちそうさまでした」

「あ、うん。ぼっちちゃんもありがと。ごちそうさま」

 

 互いに蓋をしっかり閉じてお弁当箱を返す。今日の紅葉狩りは最高だな。景色はきれいだし、お弁当は美味しいし、ぼっちちゃんは可愛いし。

 さてこれからどうしようかな。写真は十分撮れたから帰ってもいいんだけど……。と考えた辺りで馴染みのある歌が聞こえてきた。

 

 いーしや~き~いも~

 

 石焼き芋だ! そう言えば前に来た時も石焼き芋を食べるついでにここに寄ったんだった。

 

「ぼっちちゃん石焼き芋食べようよ!」

「え、でも今お弁当食べたばかりですよ……?」

 

 ちっちっち、甘いものと焼き芋は別腹なんだよぼっちちゃん。それに毎年あそこで販売してる焼き芋は美味しいから楽しみにしてるんだよね。

 ぼっちちゃんにはそのまま座ってベンチをキープしてもらって私は速攻で焼き芋を二つ買ってきて、すぐさまぼっちちゃんの場所まで戻ってきた。

 

「ほらぼっちちゃん、熱いうちに食べちゃおう!」

「は、はい」

 

 焼き芋を半分に割ってかぶりつく。ん~……!! 甘くてホクホクで美味しい!!

 やっぱり秋と言えばこれだよね。カロリーの高さ以外非の打ちどころが無い美味しさだよ。明日から減量を頑張ってね明日の私。

 

「は、はふ。おいひいでふ」

 

 ぼっちちゃんも熱々の焼き芋を頬張りながら食べている。あ、食べカスが付いちゃってる。

 

「ほらぼっちちゃん、顔にお芋が付いちゃってるよ」

「あ、す、すみません。ありがとうございます」

 

 ぼっちちゃんの口元についた食べカスを指で掬い取る。……ふふ。

 

「ど、どうしたんですか虹夏ちゃん?」

「いや、去年も来た時にここでリョウと焼き芋食べたんだけど、食べカス取ってあげたの思い出してさ。二人して面白いなって思ってさ」

 

 二人とも食べ物の事になると夢中になるところ一緒だよね。

 でも私が去年の事を思い出して笑っていると、ぼっちちゃんからちょっと不機嫌になってますオーラがにじみ出ていた。あ、あれ?

 

「ご、ごめんね笑っちゃって。馬鹿にしてるわけじゃないんだよ!?」

「あ、い、いえ。そこは気にしてないんですけど……」

 

 言いにくそうに口をモゴモゴするぼっちちゃん。

 

「えっと、ごめん。何か気に障ることしちゃったかな……?」

「いえ、あの、その……」

 

「虹夏ちゃんとリョウさんって、やっぱり仲が良いんだなって……」

 

「え? リョウと?」

「は、はい……」

 

 ま、まあそりゃ付き合いもそれなりに長いしそれなりには仲良いだろうけど、なぜそれで不機嫌になるんだろう?

 

「き、去年って言ったら私ももう結束バンドだったのに、ふ、二人でお出掛けしてたんだなって思ったら、何かモヤッとしちゃって……」

 

 ……確かに一昨日私も気付いたけど私とぼっちちゃんって二人でお出掛けなんてしたことなかったもんな。わざわざちょっと遊ぶために片道二時間もかけて下北沢に来させるのも気が引けてたっていうのもあるけど、気を遣ったにしても交流を取らなさ過ぎだよね。

 

「ごめん、ヤキモチさせちゃったね」

「や、ヤキモチ……。そ、そっか。これヤキモチなんですね……」

「ヤキモチ焼くの初めて?」

「は、はい……。こんな風に思っちゃう相手もいなかったので……」

「そっか……。じゃあさ」

 

 焼き芋の欠片をぼっちちゃんの頬にくっつけて、反対側のぼっちちゃんの頬に手を添える。

 

「に、虹夏ちゃん。何を……」

「動かないでね。んっ……」

 

 ぼっちちゃんの頬についた焼き芋の欠片を、頬に口づける形で取った。

 

「あっ、あっ、えっ……!?」

「……へへ、こんなことリョウにもしたことないよ。どうかな?」

 

 ぼっちちゃんが周りの紅葉にも負けないくらい顔を赤くして口をパクパクさせる。まぁ私も顔がかなり熱くなってる辺り相当赤くなってるだろうけど、でもデートなんだしこれくらいは、ね?

 顔を真っ赤にしたぼっちちゃんが俯いて何かを考えていると思ったら、芋の欠片を私の口の端にくっつけてきた。え、え? ぼっちちゃん?

 

「お、お返し、です……」

 

 そう言うや私の頬に手を添え、顔を寄せるぼっちちゃん。

 で、でもぼっちちゃんが付けた欠片って、付ける時に俯いててちゃんと見てなかったせいかほぼ私の口に付いちゃっててこのままじゃキスになっちゃうんだけど! 私の顔にゆっくり顔を近づけるぼっちちゃんも欠片にしか集中してないのか付けている場所に気付いてなさそう……!

 

「あ……」

 

 でも何故か抵抗する気にもなれず、近づいてくるぼっちちゃんの熱を伴った潤んだ瞳に吸い寄せられるように私も顔を近づける。

 ぼっちちゃんなら……。

 

「うわあああああああああああああああん!!」

 

 が、どこからか子供の泣き声が聞こえてきたことで我に返った。わ、私は何を……!

 だけどぼっちちゃんは子供の泣き声が聞こえると一瞬身体が固まったかと思うと、弾かれるように泣き声に向かって駆け出して行った。

 

「ぼっちちゃん!?」

 

 ど、どうしたっていうの一体!?

 慌ててぼっちちゃんを追っていくと、そこには泣いている5歳くらいの女の子を慰めているぼっちちゃんがいた。

 

「どうしたのその子? 迷子?」

「は、はい。そうみたいです」

「そうなんだ……」

 

 不器用にも笑顔を作って泣いている女の子を撫でてあげてあやしているぼっちちゃん。

 意外……。普段は他人を怖がってるのに、子供の事になると誰よりも早く駆けつけるなんて。

 

「お、お名前は何て言うの?」

「ひっく、ぐすっ、……ミミ」

「ミミちゃんだね。何かお母さんと連絡出来るもの持ってないかな?」

「あ……、お母さんからすまーとほん渡されてるんだった……」

「あ、そうなんだね、良かった。それちょっと貸してもらえるかな?」

「うん」

「に、虹夏ちゃん。お母さんに電話してさっきの場所に戻って待ちましょう。で、電話するのはちょっと怖いのでこれで電話してもらえませんか?」

「うん、分かった」

 

 ぼっちちゃんからスマホを預かる。すると渡されると同時にスマホが振動し、画面には『おかあさん』の文字が映った。ああ、マナーモードになっててこの子も着信に気付かなかったんだ。

 掛かってきた電話に出ると慌てた様子のお母さんらしき女性の声が聞こえてきた。私はさっきのベンチの場所でミミちゃんを保護してる事を伝え、そこでお迎えを待つことになった。

 

「ミ、ミミちゃん、焼き芋食べる?」

「うん!」

 

 さっきまで泣いていたミミちゃんもお母さんがお迎えに来ることを知って安心したのか、ぼっちちゃんが半分に割ってまだ口を付けていなかった焼き芋を渡すと美味しそうに食べていた。

 

「ピンクのおねえちゃん助けてくれてありがとう! すごく怖かったんだ!」

「そ、そうだよね。お母さんとはぐれちゃったんだね」

「うん。虫さん追いかけてたらいつのまにかおかあさんがいないところまで来ちゃってたの。さがし回ってたんだけど見つからなくて、もうおかあさんと会えないかもって思ったらこわくなって泣いちゃったの。そしたらおねえちゃんがビューンって来てくれたんだ! カッコ良かった!」

「へ、へへ……。カッコ良かったかな? そ、それほどでもあるかな? うへへへ」

 

 また調子に乗って……。そんな笑い方じゃ不審者みたいだよぼっちちゃん。

 でも、今日は本当にカッコ良かったし……。

 

「実はこのお姉ちゃんはヒーローなんだ。だからカッコいいんだよ」

「に、虹夏ちゃん!?」

 

 ふふ、いつもは調子に乗りすぎないように諫めちゃうけど、今日くらいはいいかな?

 

「ヒーローなの!? やっぱりカッコいい!」

「わ! っとと!」

 

 勢いよく抱き着かれたぼっちちゃんが倒れそうになったけどギリギリ耐える。懐かれちゃったねぼっちちゃん。

 

「あたしもおねえちゃんみたいなヒーローになりたい!」

「ミミちゃんなら私よりもカッコいいヒーローになれるよ」

「ほんと!? やった!!」

「ミミちゃん!!」

「あ! おかあさん!!」

 

駆け寄ってきた女性にミミちゃんが向かっていった。無事に会えてよかった。

 

「駄目じゃない一人でフラフラしたら! 心配したのよ!」

「ごめんなさい……。あのね、あのおねえちゃんたちが助けてくれたの」

「あ、先ほどご連絡を下さった方ですね! 本当にありがとうございます。景色の写真を撮ろうと思ってほんの少し目を離してしまって、一、二枚撮ったらいなくなっていて本当に生きた心地がしませんでした……」

「いえいえ、私はほんと電話くらいしか出来なくて、ミミちゃんの泣き声が聞こえたと思ったらこの子がすごい勢いで助けにいったんです。ね、ぼっちちゃん」

「い、いえ、あああのそんな大したことは……」

 

 めちゃめちゃどもるぼっちちゃん。流石に子供以外と話すとなるとこうなっちゃうか。

 

「このおねえちゃんヒーローなんだよ! すぐ助けに来てくれたの!」

「まあ。うふふ、随分可愛いヒーローさんなのね。娘を助けていただいてありがとうございます」

「い、いいいえ。ほ、本当に大したことはしていないので……」

「そんなことないわ。命よりも大切な娘を助けていただいたんだもの。ミミちゃんはお礼は言ったの?」

「うん! おねえちゃんまた会える?」

「う、うーん……。そうだね……」

 

 こういう時はきっとまた会えるよとか言えば良いんだけど、ぼっちちゃん基本的に嘘が苦手だから言葉に困っちゃってるな。……そうだ。

 私はバッグの中からある物を取り出す。

 

「あのお母さん、もし良かったらこちらをどうぞ」

「あら? これは……、ライブハウスのパンフレット?」

「はい。こう見えて私達バンドをしてまして、このSTARRYってライブハウスで良くライブをしてますのでいつか来てください。私たちのバンドのアカウントを見て貰えたらライブに出る日のスケジュールも分かりますので」

「まぁ、ありがとうございます。何ていうバンド名なのかしら?」

「結束バンドです」

「結束バンドね。……結束バンド?」

 

 あぁ、お母さんの頭に「?」が浮いているのが目に見えるみたいだ……。

 リョウが命名した当初はいつかバンド名を変えてやるって思ってたけど割とずっとバタバタしてたし、意外と皆気に入ってたから変えられなかったんだよなぁ。まぁ何だかんだ愛着が沸いちゃったからもう変える気もないんだけど。

 

「ここに行ったらおねえちゃんに会えるの?」

「うん。お姉ちゃんのカッコいいところも見られるよ」

「ほんと!? ぜったい行く!! おねえちゃんまた会おうね、約束だよ!!」

「うん。その時はもっとカッコいいところ見せてあげるね」

 

 やったー!! ぐへぇっ!! 勢いよく抱き着かれたぼっちちゃんが今度は撃沈されちゃった……。

 

 

 

 

 

 そしてミミちゃんとお母さんを見送って、私とぼっちちゃんはベンチでまた休んでいた。

 

「に、虹夏ちゃんが急にヒーローとか言い出すからビックリしました……」

「んー? 嘘じゃないでしょ? 『ギターヒーロー』さん?」

 

 それにピンチな時に颯爽と駆けつけてくれたぼっちちゃんはあの子にとって本当にヒーローそのものだっただろうし。

 

「それにしても驚いたよ。ぼっちちゃんがあんな風にすぐ動くなんて」

「あ、それは前にふたりが迷子になった時にあんな風に泣いた事があって、その時の事が重なっちゃって考えるより先に体が動いちゃったんです」

「そっか」

 

 やっぱりぼっちちゃんってお姉ちゃんなんだな。そういえばお姉ちゃんも音楽関係で仲が悪かったりもしたけど私に何かあったらすぐ駆けつけてくれてたっけ。確かにああいう時のお姉ちゃんはヒーローみたいに見えてたなぁ。普段はろくでなしだったけど。

 

「ふぁ……」

「あれ? ぼっちちゃん眠い?」

「あ、すみません……」

「うぅん、気にしないで」

 

 元々外に出るだけでぼっちちゃんって体力をすごく使っちゃうし、さっきの騒動で限界が来ちゃったかな。

 

「少しお昼寝しようか? 今日は天気も良いから気持ちいいしね」

「で、でも……」

「いいから、ほら」

 

 よほど眠いのか頭がフラフラしているぼっちちゃんの頭を、私の膝の上に寝かせた。

 

「あ、あの……」

「どうかな? 私の膝枕は」

「……すごく気持ちいいです。柔らかくて、暖かくて、すごく良い匂いで……」

 

 良かった、本当に気持ちよさそうにしてる。すぐにでも寝ちゃいそうになってるや。

 それにしてもまた匂いか。今日会った時も良い匂いとか言ってたけど。

 

「ぼっちちゃんって私の事よく良い匂いって言うけどそんなに好きなの?」

「はい……。大好きな虹夏ちゃんの匂い……」

 

 ……ん? 何か今おかしくなかった?

 

「虹夏ちゃんに出会えて本当に良かった……。虹夏ちゃんに出会って、結束バンドに入って、リョウさんと喜多ちゃんと仲良くなって……、今すごく幸せなんです……」

「ぼっちちゃん……」

 

 もう殆ど閉じ掛けのぼっちちゃんの瞳。もう半分くらい夢の中にいそうなぼっちちゃんのむき出しの言葉。

 ぼっちちゃんが私の手を取って、自分の頬に当てる。

 

「この手、大好きなんです……。私を救ってくれた手……、私に幸せをくれた手……」

「知りませんでした……、友達が出来るってこんなに幸せだったなんて……」

「知りませんでした……、誰かの夢を、自分の人生を全部使ってでも叶えたいって思う事があるなんて……」

「虹夏ちゃんと友達になれて良かった……。本当に良かった……」

 

「好きです……虹夏ちゃん……、だい……す……き……」

 

 すぅ……。っと寝息をたてるぼっちちゃん。夢の中に旅立ってしまった。

 

「ふぅ……」

 

 今日は色々あったな。ナンパされたり、ぼっちちゃんに写真撮ったり撮られたり、お互いのお弁当を食べたり、迷子の子を助けたり、ヤキモチさせちゃったり。

 そして色んなぼっちちゃんを見たな。すぐ崩れちゃうぼっちちゃん。可愛いぼっちちゃん。お姉ちゃんなぼっちちゃん。カッコいいぼっちちゃん。

 

 私の膝の上で幸せそうに眠るぼっちちゃんを見る。ぼっちちゃんが自分の頬に押し当てた私の手はまだ退けていない。ぼっちちゃんが大好きと言ってくれた私の手。

 ぼっちちゃんは私の事を友達と言った。夢うつつの状態で言ったその言葉に嘘は無いと思う。

 だからぼっちちゃんは分かってないんだろうな。ぼっちちゃんが私に向けてる感情はもう、友達の範囲をほとんど超えてる事に。

 きっとそれは初恋はおろか友達さえ出来なかったぼっちちゃんには分からないんだと思う。ましてやその相手は女の子なんだから尚の事だろう。

 

 そして私も気付いてしまった。私のぼっちちゃんへの想いに。

 ぼっちちゃんのその気持ちがたまらなく嬉しい。すぐにでもぼっちちゃんにその感情の本当の答えを教えて、その気持ちに応えたいと想うほどに。ぼっちちゃんが無防備にも私に向けている唇に、私の唇を重ねてしまいたくなるほどに。

 

 でも今はまだその時じゃない。

 ようやくなんだ。ぼっちちゃんに友達が出来て、友達としての遊びを、楽しさを知ることはまだまだある。もっと皆で色々遊ぼうと約束もした。

 焦る必要なんかない。ぼっちちゃんは私の夢を叶えたいって言ってくれたんだ。私もぼっちちゃんとずっと一緒にいたいって思ってる。すごくゆっくりになっちゃうけど、少しずつ進んでいけばいいよね。

 

「だから今は、これだけ……」

 

 ぼっちちゃんの桜色の唇を指でなぞる。くすぐったかったのか、少し舌で舐められてしまった。

 胸の高鳴りと、少しの罪悪感とともにその指に口付ける。

 

 少しだけ、焼き芋の香りがした気がした。


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