ガンスリンガーになりたくて!   作:御影玲夜

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洋画の好きなシーン。これがやりたくて書いたまであります。


9話 武器調達

 

 

 

 取り調べから解放されて二日が経過した夜の出来事。長いこと装備していなかったスライムスーツをローブ状にして全身に覆うように纏い、顔と姿を影に隠して夜の街を闊歩していた。影に潜むようなこのスーツの隠密性というのは非常に効果的で、窓から堂々と出ても未だ俺を見張る兵士は俺の外出に気付く様子が無かった。今夜が月が雲に覆われた薄暗い夜と言うのもあるが、それにしたって効果が覿面すぎる。或いは兵士の監視がザル過ぎる故か。

 

 監視がある中危険を犯してまで外に出た理由は、俺とシドの元に一通の手紙が届いたことがきっかけだ。その内容は今夜、とある場所へ来いと時間と場所を指定したモノで、差出人は不明。当然、罠だ。

 流石のシドでもそれが罠であることは理解できたようで、珍しく自分から動くと宣言した。シャドウガーデンの頭首が動くと言ったのだから、それに応えない相棒じゃあない。今夜動く、この後動く、そのための準備を今から行うために、俺は夜の街へと姿を表した。

 

 夜の街の賑わい方は昼とは大きく異なる。夜の繁華街は前世のそれと比較したらそう煌びやかなモノではないのかもしれないが、酒に飲まれたガラの悪い男や露出の多い服を着た女性が至る所で声を出している。昼のような慎ましさは無く、広い範囲で篝火のように小さく燃え盛る。

 貰い火をしないようゆっくりと繁華街の奥へと進んで行くと、街の外れに小さいが確かな存在感を放つ一軒のバーが目に映った。ここが今夜の目的地だ。

 看板には『ザ・ブラックプリンセス』と記されている。道中に見かけたバーと比べると小さな店だが、この店は会員制の高級店で、店の前に立つだけでも相応の資格が必要となる。この夜の中に今にも流れてしまいそうな漆黒の店は、選ばれし者にしか辿り着けない。

 店に入ろうとすると前に立つ二人の男に止められたが、ローブで隠していた顔を見せると二人は道を開けてくれる。

 

 

「こんばんはバーガン様」

「会員証を提示する制度は廃止になったのか?」

「貴方様の顔は今や当店全員が存じ上げておりますので」

 

 

 そう何度も来ているワケでもないのだが、知らぬ間に自分はこの店の常連になっていたらしい。会員証を懐に戻して中へと入る。

 

 キャンドルの火のみが店内を照らしている。この微かな明かりのみが世界を魅せる暗がりの中には夜の空気が満ちていて、中のスタッフはそれを壊さぬよう最低限の会話と、最低限の動作のみで客にアルコールと素敵な時間を提供していた。だが、それとは対称的に客の一人はだいぶ回っている様子で、店内に入った俺に声をかけてきた。

 

 

「おい、ここはガキが来るようなトコじゃねぇぞ。酒の味もわかんねぇクセに何しに来やがったんだ?」

 

 

 会員制の店だが、初対面の客だ。新参者なのか、今まで見なかっただけで古参なのかは知らないが、礼節を弁えない客に合った振る舞いをこちらもする。

 

 

「何しにって、見れば分かるだろ?おめかしだよ」

「おめかしぃ…?いつからここはブティックになったんだ?」

Manners maketh man(礼節が人を作る). 一日中そこに立って店の異物になるのがアンタの生業か?だとしたらその行儀の悪さも納得だな」

「ああん………?何言ってんのか分かんね──」

 

 

 スライムスーツの一部が鞭のようにしなやかな動きで顎を掠る。暗がりの中で黒い物質が目にも止まらぬ速さで放たれ、俺が攻撃したと認識できた者はこの場に誰一人として存在しない。顎を攻撃された男の脳はピンボールのように何度も頭蓋骨の中を跳ね回り、糸が切れたかのように崩れ落ちる。床に倒れる直前に男を受け止めてやると、ちょうど手の空いていたスタッフが二人やって来た。一人は屈強な男で、もう一人は俺と同じ年代くらいの女性スタッフ、気絶した男は当然屈強な方に預けた。

 

 

「申し訳ありませんバーガン様。お手を煩わせましたか?」

「いや、酔い潰れたらしい。どっかで寝かせてやってくれ」

「畏まりました」

「それと、ソムリエはいるか?」

「彼女がいない時はありませんとも」

 

 

 女性スタッフがそう言うと、俺を別室へと案内してくれる。案内された場所は個室で、所謂VIP席と言うやつだ。中には小さな机とソファー、普段ならそこに座って適当な食事をするのだが今日は違う。

 ソファーの下を漁ると、視認しないと分からないのだが穴が空いている。鍵穴だ。スーツの裾を鋭利に尖らせ、その穴の中へと押し入れると更に形状を変化させて解錠を行う。数分後、カチリと音がして通常こちら側から開けることのできないスタッフ用の扉が開いた。

 

 奥へと進むと更に扉が二枚ある。片方はスタッフ用だが、もう片方には非常口と書かれた無骨な扉だ。その無骨な非常口に入店時に提示することのなかった会員証を翳すと、施錠用の歯車がゆっくりと回転を初めて扉が開かれた。扉の奥には避難経路なんてモノはなく、地下に続く長い階段があった。

 階段を降りて先に進むと、最初に目に映ったのは大量のワイン。だがその奥に目を向けるとそこには上階のバーとは似つかわしくない大量の銃火器が入口にあるワインセラーのように綺麗に並べられていた。

 部屋の中には並べられた銃火器を乾いた布で一つずつ丁寧に拭きあげる女性スタッフが一人、彼女がソムリエだ。ソムリエは俺の侵入に気付くと、銃を元の棚に戻してから両手を前に重ね、丁寧にお辞儀をした。

 

 

「こんばんはバーガン…いえ、ドレッド様」

 

 

 バーカウンターを介してお互いに向かい合う。このソムリエの少女は俺をドレッドと呼んだことから分かるが、シャドウガーデンの一員だ。

 

 一部を除いた七陰のみんなが世界各地に散らばったあとも、定期的に連絡を取っていた。敵のディアボロス教団が世界規模の組織であることから想像はしていたが、様々な地域に悪魔憑きとなった少女たちが殺されようとなっていたらしく、それを救出したという旨の報告は数え切れない。かつては俺含めて9人だったシャドウガーデンは、現在では軽く見積もっても500は余裕で超えている。

 ソムリエの少女は救出されたうちの一人で、彼女だけでなくここで働く女性スタッフの大半はシャドウガーデンのメンバーだ。

 今更言うまでもないがこのザ・ブラックプリンセスという店は表向きは会員制のバーで、裏ではシャドウガーデンの銃火器専用の武器庫なのだ。

 

 

「お久しぶりです」

「テイスティングしたいんだが」

「畏まりました」

 

 

 ソムリエの本来の役割というのはゲストの要望に応じてサービスを提供する者で、この店での役割はシチュエーションに合う銃を選んでくれる。ちなみにここにある大量の銃火器は4割は俺の作ったモノで、それ以外はシャドウガーデンのメンバーがそれぞれ手を加えたモノやイータの作った物騒な兵器だ。実戦で銃を使うのは俺くらいで、他のメンバーも撃つだけならできる。だが威力や命中精度はあまり高くないのでここの武器庫は実質俺専用である。

 

 

「ドレッド様は片手で扱えて、且つ振り回せるモノがお好きなのは私もよく存じていますが…会場までの距離はどれくらいで?」

「少し遠いな。少なくとも普段通りじゃ間に合わない」

「なるほど……おすすめを見繕わせていただきますが、何か御要望はございますか?」

「そうだな…俺が欲しいのは、ゴツくて、大胆なモノだ」

「ゴツくて…大胆…」

 

 

 少し悩んでから、返事をするよりも先にソムリエは銃が展示される棚の前に足を運んだ。そしてこちらを振り向かず、飾られた銃を一つ選択する。

 

 

「ドレッド様の好みとは少し外れますが、おすすめの品がございます」

 

 

 棚に並べられた大量にある銃火器の中から、一際大きな銃を取り出してそれをカウンターの前に音を立てずに置いた。置かれたそれは以前作ってから一度も持ち出したことのないモノで、見慣れないパーツや装飾が施されていた。

 

 

対物長距離狙撃銃(アンチマテリアルライフル)。その威力は他を凌駕し、イータ様のお造りになられた(パニッシュメント)の弾痕を容易に塗りつぶせることから、ドレッド様御自身が月蝕(エクリプス)と名付けられた至高の逸品です」

 

 

 紹介された巨大な狙撃銃、エクリプスを手に取る。両手にずっしりと重さを感じて自然と笑みが零れた。ソムリエが言っていたように俺は確かに片手で扱えるモノが好みだが、それはそれとしてこういったゴツくてデカい銃にロマンを感じないワケがない。大好きだ。

 マガジンに弾が入っていないのを確認してからスコープを覗いて引き金を引く。カツンと空砲が放たれる音がした。

 

 

「そちらのエクリプスは我々非戦闘職のメンバーが改造した一品ですのでドレッド様の知るモノとは大きく異なります」

「そうだな…見たことの無いパーツが多く使われているし、重さが全く違う。それにボルトアクションだったのがセミオートに改造されてる…」

「最大3km先まで見れる可変倍率のスコープに、装弾数は5発。面白い機能として、セーフティとセレクターを交換してありますのでアサルトライフルのようにフルオートにも対応しております。加えて銃身をより強固なモノにするために、王国の近衛兵に支給されている剣と同一の素材を使用し、近接攻撃にも耐えうる構造をしています。が、軽量化に関しては一切考慮されていません」

「確かに重いが……まぁ、振れないほどじゃあない」

「その銃を片手で構えて微動だにしないのは恐らくドレッド様だけかと…」

 

 

 俺の身長とそう大差無い大きさのそれを背に回してスライムスーツをロープ状に変形させて落ちないように固定する。背中に感じるエクリプスの重さで今自分がロマン砲と言っても何ら変わりない装備を手に入れたことへの喜びを覚える。新しい玩具を与えられた子供に精神が戻ったような感覚だ。

 

 

「他に何かおすすめはあるか?片手で使えなくてもいい。エクリプスに負けないような大胆なのが良い」

「そうですね…私のおすすめは……こちらの半自動式散弾銃(セミオートショットガン)、『危険な贈り物(センドイット)』です」

 

 

 普段自分が愛用している水平二連式のソードオフショットガンとは違い、今目の前に置かれているのは弾も二発以上入れられる上に連射も可能なセミオートショットガン。装填が手間なのであまり使って来なかったが、折角のおすすめだ。同じモノに固執し過ぎると視野が狭くなるので今夜の相棒はこれにしよう。

 

 

「装弾数は7発、普段ドレッド様の愛用されております水平二連式散弾銃(クラップヨアハンズ)のように小回りは効きませんが、そちらと比較しても魔力伝導率の良さと高い命中精度を誇ります」

「ショットシェルベルトはあるか?」

「こちらに」

 

 

 赤いショットシェルが何本も刺さったベルトを腰に巻く。コートに隠れる形で体に装備されているので傍から見てもバレないが、既に背にはエクリプスがあるのでセンドイットは手で持って行くしかない。今はまだいいが、そのうち装備品を大量に携帯する用のカバンとか作らないとだ。

 

 ライフルにショットガン、この二つがあればとりあえず距離を問わずに殲滅も援護も行える。敵がどれくらいいるのか分からないので装弾数の多い武器が好ましいとは思うかもしれないが、ここは今までいたような田舎と違って裏で活動を行うには持ってこいの王国。敵の数ももちろん気にするが、シドのように俺の放つ弾丸でも見てから回避をしたり斬り捨てることのできる技量を持った敵も現れるかもしれない。アルファにも大口叩いた手前、負けるなんてことになってはメンツが立たない。まぁ、細工は流々仕上げを御覧じろ、というだ。ちょっと違うか?

 

 カウンターの隅に置かれていたエクリプス用のマガジンを三つコートにしまい、腰にはショットシェル、インナーはスライムスーツなのでナイフにもなる。武器庫が歩いて人の姿をしてるような状態だが、動く分には問題ない。武器が重くて動けませんでした、なんて事態になっては本末転倒なので必要以上の装備は持たない。正直言うと現状で既に積載量は重量過多なのだが。こういう時だけは魔剣士が羨ましくなるし、スライムソードはよく出来ていると思わされる。銃をスライムだけで再現できないこともないのだが、無駄に時間も掛かるし少しでも構造の再現に失敗すると使えないので、一々そんなことするくらいならナイフにして投げる方が手っ取り早いし効率的だ。

 

 

「今夜紹介させていただいたのは両方とも片手で扱うモノではありませんが、片手で扱えるモノも見繕いましょうか?」

 

 

 大胆な装備品しか無いのを見てソムリエは心許なさに心配して新たな装備を提案するが、問題ない。

 言葉では返さず、コートを捲って中を見せる。中にはショルダーホルスターが装備されており、使用率の一番高い一対の白と黒の大型拳銃、罪と罰(クライム&パニッシュメント)がそこにはあった。それを見たソムリエはニヤリと笑って、その表情を誤魔化すことなくお辞儀をしながら口先だけの謝罪をした。

 

 

「これは失礼しました。心配無用でしたね」

「別に気にしてないさ。それより、デザートはあるか?」

「……デザート?」

 

 

 俺の言葉を上手く飲み込めず、一転して困った表情を浮かべるが、その直後に更に一転してカウンターの引き出しから小さな箱を取り出した。その中を開けて一つ取り出すと、中身の説明をしてくれる。

 

 

「まだ試作の段階ですが…こちらはジャッジ・ドレッド弾。高い貫通力を誇り、命中した瞬間から先端部分が拡散して内部から対象を破壊します」

「先端が潰れて…貫通力の高いホローポイント弾?いや、名前こそ仰々しくなってるが、要はR.I.P弾か」

 

 

 前世の世界では使用を禁止されている弾丸で且つコストが高くて生産量と実戦での使用例が少ないことからどのような威力なのかが分からない未知の弾丸だ。

 弾丸の発展以前に銃の発展が皆無なこの世界ではそもそも球状の鉄を飛ばすことしかしない。俺の使うフルメタルジャケット弾どころか雷管の概念すらないため、こんな凶悪なモノはシャドウガーデンの関係者でない限り思いつきもしないだろう。

 

 そもそも魔剣士相手に銃弾はあまり効果がない。だが俺のように火薬の力と魔力の爆破により弾丸の威力を急激に上昇させることで魔力の壁を超えて致命傷を与えている。それでも近距離戦闘でないと魔剣士相手に優位に立てないのだから世知辛い世の中だ。

 

 

「貫通力と威力の両立を目的に開発されたモノなのですが、それでも私たちのような者では魔剣士相手に効果はあまり発揮されません。しかし、ドレッド様の魔力操作技術とイータ様のお造りになられた(パニッシュメント)を合わせれば…」

「問題なく本来の効果を発揮できる、と」

「おっしゃる通りです。今使われています弾丸以上の威力は保証しますが、試作品はその二発のみですのでお気をつけ下さい」

「……これもまたロマン砲か。ありがとう、使わせてもらうよ」

 

 

 二発の弾丸を手で受け取ってからポケットにしまうと、最後に罪と罰用の予備マガジンを貰って俺のおめかしは終了した。

 

 懐から財布を取り出して金貨を数枚カウンターに置いてからその場を離れる。一応この武器庫は俺専用ではあるが、彼女や他のメンバーが開発したモノを使わせて貰っているワケだ。タダで使うワケにはいかない。良い働きには報酬を、なんて言い方したら偉そうで嫌だが立場的にはこれで間違えてはないので変な気分だ。

 

 上に登る階段へ向かいながら壁にかけられた時計に目をやると、日付が変わっていた。シドに今夜部屋に来いよとか言われていたが…今から行っても間に合わないな。とりあえず、手紙に記された時間にだったらまだ間に合う時間と距離だ。余裕を持って待つために少しだけ急いで向かうとしよう。

 

 

「ドレッド様」

 

 

 扉を開けて出ようとしたタイミングでソムリエが声をかけてきた。まだ何かあるのかと思い足を止めて振り返ると、ソムリエはニッコリと微笑みながら俺に激励の言葉をかけてくれた。

 

 

「どうぞ楽しいパーティーを」

「……ああ、ありがとう」

 

 

 その言葉を受け止めて、俺は何も言わずに階段を登る。バーの個室に戻るとスタッフ用の裏口から外に出て、スライムスーツをローブからコートに変化させると、急いで指定された場所へと向かおうとする。

 

 

 

______________________________

 

 

 

 シドとの約束を守らず部屋に行かなかったので、目的地に急いでシドよりも先に到着するよう向かうのだが…シャドウガーデンのドレッドとしての活動は久々だ。王都に来てからは初めての活動なので、シドのような言い方をすれば、今夜は序曲(プレリュード)だ。

 初めての夜なのでド派手にタギるモノにしたい、のだが以前のような気力が出ないのは何故か。それは恐らく、今の服装のせいだろう。

 

 以前まで着ていたお気に入りの紅いコートはイータにあげてしまった。王都に来てから一番最初に新しいコートを探したのだが、どうもしっくり来るモノがなかった。成長期なのでそのうちサイズが合わなくなるからどうせイータにあげるつもりではあったが、まだ着ることはできた。それが今は無いので正直今の自分に違和感を覚えている。シーズン的な問題でコートを下げる店が大半なので今から改めて探すのも現実的ではない。そんなのオーダーメイドのスーツを着ない英国紳士だし、戻ってこない未来のサイボーグのようなモンだ。

 

 だがしかし無い物ねだりをしたところで現実が変わるワケでもない。そう自分に言い聞かせながら目的地へ向かっていると、道中に誰かいるのが目に映った。ただの通行人なら見つからないように最速で駆け抜けるだけだったが、そこにいたのは俺のよく知る人物だったので足を止めてゆっくりと近くに寄った。

 

 

「イータ。こんなトコで何してんだ?」

 

 

 行き先も目的地も告げていなかったのだが、イータは俺を待ち構えるように問題のコートを羽織りながら、一人ぽつんと体育座りをして壁にもたれている。

 

 

「……待ってた」

 

 

 俺の接近に気付いたイータはすっと立ち上がり、パンパンとコートに付いた汚れを払ってから俺の側へ寄ってくる。

 

 

「誰かの遣いか?」

「違う。レイト、意外と気分屋…。だからこれ、返しに来た」

 

 

 いつものようなゆっくりとした話し方と落ち着いた声で、淡々と喋りながらイータは自身の羽織っていたコートを脱いで俺に渡してくれた。

 愛用していたコート、代理品を探してもしっくり来るモノが見つからなかった馴染みの一品。しかし一度あげたモノであるので、受け取ることに躊躇してしまう。なんと言うか、自分の気分でイータのモノを奪うような感じがして、気が引ける。

 しかしイータはそんな俺の考えなど一切気にせず、押し付けるようにコートを俺に渡した。

 

 

「その変わりにだけど…次の休みに、わたし用のコート、選んでくれる…?」

 

 

 これはさすがに予想していなかった。ただ代替品を求めてるだけなのだと思うが、服なんて一つでいいし見られるのがあまり好きじゃないからと自身の外見に無頓着だったイータが新しい服を求めた。それだけで何だか嬉しかった。次の休みにと言っていたが、明日の朝にでも買いに行こう。無いなら無いでオーダーメイドしよう。

 

 

「いいよ。色に希望は?」

「白。研究の時にも…邪魔にならない」

「ずっと俺の紅のコート奪っといて何を言うか」

 

 

 軽口を叩きながら今纏っているスライムスーツをインナーとして纏わせてから、愛用していたコートに改めて裾を通した。懐かしい。学園に来る前にもこうしてイータに奪われたコートを取り返して着るという一連のやり取りを何度も行っていたので、イータの薬品の混じった匂いが微かに鼻を擽る感覚も含めて懐かしい。

 

 欠けていたピースがガッチリと嵌り、モチベーションは最高潮だ。右手にショットガン、背にライフル、そして両脇に二挺の大型自動拳銃。今の俺は、誰がどう見ても立派なガンスリンガーだ。

 

 

「……よし、行くか」

「うん。……行こう」

 

 

 紅いコート、ゴツい銃、そして仮面を付けて顔を隠す。仮面の奥から山吹色の瞳が空に昇る月を真っ直ぐ見据えた。曇り空が視線を妨げ、月は俺を正しく認識できない。

 夜の帳は降りた。必要なモノは全て揃えた。あとは敵に鉛を送るために引き金を引くだけだ。

 

 風が吹いて紅いコートと黒いコートがふわりと靡いて、そのまま俺とイータは夜の闇の中へと消えていった。

 

 

 

Let's get this party started(パーティーを始めようか).」

 

 

──時は満ちた。この瞬間より、陰の時間が訪れる。

──今宵、世界は陰と、恐怖を知ることになるだろう。

 

 

 

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