ガンスリンガーになりたくて!   作:御影玲夜

12 / 27
今月は仕事が繁忙期なので投稿めっちゃ遅くなりました。申し訳ないです。それとお気に入り登録者が500人を突破しました。思いつきと勢いだけで構成してる当作品ですが、今後とも応援よろしくお願いします。


11話 銃じゃ流石に巨大な化物は無理

 

 

 

 本来ならば穏やかな日常に身を置く者全てが寝静まっているはずのこの時間、今宵の王都では誰もが目を覚まさずにはいられない。大きな音が幾重にも重なり響いている。それが何事かと窓から外の様子と伺うと、誰もが己の目を疑ってしまう情景が広がっていた。

 

 いくつもの建物がバッサリと、縦や横へと切断され倒壊されていく。特定の建物が次々にとではなく、無造作に、藁で出来た家に突如強風が吹いたかの如く崩れて落ちる。幸い民家は被害に遭っていないが、王都で起こっている災害を冷静に俯瞰できる民間人はいなかった。

 家を出て野次馬に向かう者、夢と錯覚し夜明けを待つ者、避難を始める者、何も知らない一般人の行動は三者三様だ。それ故市民を守るために緊急で出動させられた騎士団はその対応に手間取って倒壊を繰り広げる現場に到着しない。到着しないので、何が原因で何が目的なのかを正しく把握できる者は誰もいるはずも無い。

 

 まぁ、全部知ってる俺から見ても混乱してしまうのだが。

 

 

「デルタの奴、相変わらず派手にやるなぁ…」

 

 

 時計塔の頂上からスコープ越しに王都を眺める。エクリプスを構えて破壊される建物や避難する市民を見ていると俺がやっているみたいにも見えるが、一切関わっていない。仮に俺が暴れてもここまで酷い状況にはならないのでデルタの暴れっぷりが如何に壮絶なモノなのかを視界に映る光景が物語っている。

 

 崩壊した建物の中から怪しい輩が複数人出てくる。イータの話では襲撃している建物は全員教団関係者らしいので現れた人影を躊躇無く撃ち抜く。デルタのモノとは異なる轟音が王都に響いた。建物が崩壊しても尚デルタが暴れるせいで風が乱れて弾道の計算がしにくい。

 ついでに文句を言うとスコープが遠くまで見えすぎるせいで調節が難しい。誰だ3km先まで見えるスコープなんか取り付けたの。半分でいいわ。

 

 

「ロマンと実用性、両方兼ねるのは…無理な話か」

 

 

 文句を垂れながら凶弾を放ち続ける。威力が威力なので一度の銃撃で複数人纏めて貫くことも容易ではあるが、敵の数が少ないせいで退屈な時間が長くて嫌になる。一人でスナイパーなんかやるモンじゃない。

 

 淡々と狙撃してる最中、時計塔を誰かか登ってくる音が聞こえた。ちらりと視線を向けてみると、先日見たばかりの黄金の長い髪が目に入る。

 

 

「何か大きな音が聴こえると思ったら貴方だったのね」

「ようアルファ」

 

 

 現場指揮を取っているアルファが声をかけてきた。全体を見渡せる場所と言えばこの時計塔なのでいるだろうなとは思っていたが、ある意味丁度いいタイミングに遭遇できた。

 

 

「暇してるならでいいんだけど、デルタ止めてくれないか?オーバーキルもいいところだ」

「やり過ぎなのは認めるけど、残念ながら最高の働きをしてくれているのを止める程暇じゃないわ」

「だよなぁ…」

 

 

 頼まれたワケでもないが勝手に行ってる援護射撃はデルタが剣を振るう度に強い風圧が発生するせいで弾道の計算を狂わせる。サポートのために来ているはずが、雑魚狩りしかできていない。

 

 

「次の襲撃ポイントは何処だ?」

「作戦の内容を忘れたの?」

「イータに聞いた話以外なんも。そもそもミーティングは遅刻したから聞いてない」

「ドレッドが遅刻(レイト)してどうするのよ」

「人を遅刻の代名詞みたいに言うな」

「否定材料は?」

「無い」

「でしょうね」

 

 

 銃を持ちすぎたせいで自己防衛手段を置いてきてしまったようだ。うん、今後装備品は二つにしよう。

 スコープから目を離してやれやれとでも言いたげなアルファの方へ意識と視線を傾けると彼女はいつも通り俺に対して向けるやれやれとでも言いたげな顔をしながら語ってくれる。

 

 

「今私たちが攻めているのは教団のフェンリル派のアジト。ここから見える場所だけで片手で数え切れない数の拠点があるから一番大きな拠点を最初に襲撃、奴らの意識がそちらに向いてる間に他の拠点を制圧。ここまでは良いかしら?」

「モーマンタイ」

「……続けるわね。襲撃と同時進行でアレクシア王女の救出を行う手筈なんだけど、まだ正確な居場所が分かってないの。早く特定しないと王都の騎士団が動き出すから早いところ見つけ出す必要が…」

「ああ、そっちはシャドウが動いてる。俺らは拠点の襲撃だけでいい」

「いつの間に…?私たちですら場所を見つけられなかったのに…。相変わらず、シャドウの方は流石ね」

「さらっと俺だけディスるの止めよ?」

 

 

 なんというか先日の一件以来アルファの俺に対しての当たりが強くなった気がする。精神面の成長は喜ばしいことだが普通に傷付く。それに自覚があるのかアルファの口角がほんの少しだけ上がっているように見える。どうせ俺はお飾のNo.2ですよーだ。

 

 

「扱いの差は置いといて、残りの襲撃地点は?」

「まだ終わってないのは……住宅街にある屋敷かしら」

「えっとどれどれ………」

 

 

 指差された方向へライフルを向けてスコープを覗いた。住宅街にも襲撃箇所があると無関係の人も巻き込むかもしれないので慎重に狙いを定めよう。シャドウガーデンが撃つのはディアボロス教団のみだ。

 屋敷の中をスコープで覗き見るが中には人影がない。既に外に出ているのかと思い扉の方を確認し、続いて屋敷の周辺を隈無く探す。

 

 その最中、妙なモノがスコープ越しに網膜に映りこんだ。

 

 

「……なんだあれ」

「何か見つけたの?」

「いや……多分見間違いだと思うが、屋敷よりデカい人型を模した何かが見えたような…」

 

 

 一度目を擦ってもう一度スコープを覗く。そして再度謎の何かを捉え認識した。見間違えかと思ったが、どうやらそれは確かに存在しているようだ。

 

 

「……考えても分かんねぇし、とりあえず撃つか」

 

 

 スコープで捉えたそれは屋敷よりも巨大な身体を持つ白い人型の何か、それ以上の情報が無い。街を壊しながらどこかへ向かおうとしているのかそれはゆっくりとどこかへ移動をしている。

 目的地も存在も何もかも不明だが、あんなモノが街を闊歩することなんてのは通常有り得ない。そしてその後ろを見ると無惨に倒れる兵士の姿があることから凡そ人間に友好的な存在でもないのだろう。パッと見ただけで戦力も分からないが、シャドウガーデンの誰かと遭遇するより先に倒しておいた方が良いと判断した俺は、照準を定めて引き金を引いた。

 

 

「………あ?」

 

 

 放たれた弾丸は白い化物の頭部を吹き飛ばした。もげた頭部がぼとりと地に落ちるのを見て絶命したかと思ったのだが、化物は頭部を落とされたのにも関わらず倒れない。それどころか撃たれる直前と同じ体勢を維持している。これが死後硬直ではないと判断するや否や、再度引き金を引いて胴体目掛けて二発目を放つ。

 

 しかし、その弾丸は化物の右腕によって防がれてしまった。右手に着弾すると腕を途中までは裂いたが受け止められる。

 弾丸は有効、しかし一発では届かない。それならばと次弾を放とうと構えるが、先程撃ち抜いたはずの頭部のあった場所がモゴモゴと蠢いているのが見えた。その蠢きには見覚えがある。かつてシドと戦った時に刮目したスライム装備のそれと類似する動き、つまりは形状変化をしようとしているのだ。

 蠢き始めてすぐに、地に落とした頭部が新たに作られる。どうやら再生能力を有しているらしい。

 

 その直後、再生された頭部に埋め込まれるように取り付けられた眼球らしきモノがギョロりと動いてこちらを見つめた。

 

 

「まずい…!」

「ちょっ、ドレッド!?」

 

 

 嫌な予感がしてアルファを左腕で抱えて時計塔から飛び降りた。文句を言う声が聞こえたが、それを掻き消すように突如破壊音が響いた。

 

 先程撃ち抜き裂いた化物の右腕が、()()()()()()()()()()()()()()()。何キロ離れているのかは定かではないがこの距離を攻撃できる程の射程距離を誇る敵の攻撃に俺もアルファも度肝を抜かれてしまった。

 

 

「質量保存の法則をガン無視かよ…ッ!」

 

 

 回避が間に合ったのでダメージは受けていないが、宙に放り出された状態のままでは追撃を受けてしまう。伸びきったまま時計塔に刺さったままの化物の右腕に向けてアルファを投げ飛ばし、続いて左腕の裾からスライムをロープのように伸ばして化物に刺して体勢を変えてロープを辿る。

 投げ出されたアルファは化物の右腕に着地してすぐに駆け出し、本体へと向かう。そこに俺も追い付いて横並びになりながら走った。

 

 走りながらマガジンを交換して即座に奥にいる本体目掛けて三発撃つ。身体を大きく抉り出すことはできているが、有効打を与えられていないのか体勢を崩すだけで倒れる様子はない。

 

 

「アルファ!あれが何か分かるか?」

 

 

 走る、撃つを同時に行いながら敵の正体を知っているかを問いかけるが、アルファも困惑を隠せていない。

 

 

「分かるワケないでしょ…!教団にこんな化物がいたことも聞いてないし、ましてやこんな街中に隠していたなんて知っていたらもっと慎重に動いてたわよ!」

 

 

 俺の問い掛けを愚問と捉えたのかやや怒鳴り気味な返答が返ってきた。その怒りは最もだがぶつける先は敵にして欲しいところだ。

 本体との距離が目と鼻の先にまで狭まって来たタイミングで化物が左腕で動かしこちらを狙い出した。それを見た俺はすぐさま両足に力を込めて大きく跳躍し、上空から弾丸を飛ばす。やはりダメージは与えられていないが、ヘイトをこちらに向けることに成功したのか左腕が宙にいる俺に向かって伸ばされた。

 

 

「先に行く!隙があれば後から追撃してくれ!」

 

 

 伸びてきた左腕に向けて魔力を全体に流して硬度を高めたエクリプスを大きく振るい全力で横から殴って受け流す。横に逸れた腕にスライムを伸ばして体勢を変えて着地、そして下で走るアルファを置いて疾走。いち早く本体の元まで辿り着いた。

 

 左腕の根元にエクリプスに装弾されている最後の一発を放ってもぎ落とす。すぐに再生するのだろうが戦力を削ぐのは戦闘に置いて有効だ。

 

 軽く跳躍して頭部を目掛けて蹴りをかます。化物の首がペットボトルの蓋のようにグルんと回転するが、その眼球はグリンと動いてこちらを見ている。直後、化物の足の先が変形して刃物のように伸びた。それをエクリプスで乱暴に薙ぐ。

 

 高威力のエクリプスですら致命傷を与えられないこの化物をどう倒そうかと考えながら攻撃を凌いでいる最中、死角からの攻撃に対応し切れず足に掠ってしまう。だがその時、化物から覚えのある魔力の波長を感じ取った。

 

 

「これは…魔力暴走か…?」

 

 

 悪魔憑きに現れる魔力の暴走、それは人の形すら保てなくなる程に己の肉体を蝕む魔力が身体中から溢れ出し、尋常ではない苦痛を味わうディアボロスの呪い。魔力の波長を正せば元の肉体に治せることは証明済みだが、ここまでの変化をもたらす暴走を目にするのは初めてだった。

 なんてことを考えていたら化物が腕を更に伸ばして俺を囲い込んでしまっていた。跳躍してその場を抜け出そうとしたが、逃げ場が一つしかない状態を作り出されているので追撃を避けられない。どうするか。

 

 

「ドレッド!」

 

 

 後からアルファが到着し、同時に俺を囲っていた腕を切り落としながら俺の元へと駆け寄った。足の傷を魔力で覆ってひとまず動ける状態にしてから体勢の立て直しも兼ねてアルファと背を合わせた。

 

 

「アルファ、王都内に悪魔憑きがいるなんて話聞いてたか?」

「悪魔憑きが?……いいえ。そんな話、あったとしたらすぐにでも救出に向かってたはずよ」

「だろうな。SOSを見逃すお前でもないし。だとしたらコイツはなんだ?なんでこんなにも魔力暴走を起こしてる…?」

 

 

 正体不明の化物の左腕の再生が終わり、両腕が同時に襲い掛かる。左腕を俺が薙ぎ払い、右腕をアルファが斬り裂く。左腕は凌いだがしかし、斬れた右腕は先程時計塔を破壊した一撃と同じくそのまま二本の鞭のように伸びて追撃を仕掛けてくる。

 二本に増えた攻撃を同じく剣で斬って避けるが、その分裂けた腕が更に伸びて追撃が激しくなる。

 

 

「確かに、波長はそれに似ているわね…。けどこれが魔力暴走なら悪魔憑きは今よりもっと畏れられてるはずよ」

「斬撃は無効、再生能力持ちで銃弾も効果無し。オマケに法則ガン無視の伸縮自在な肉体。これが世に出回ってたら教会に買ってもらうのは正解かもな…」

「……流石にこれを目の当たりにしてたら否定し切れないわ」

 

 

 エクリプスに最後のマガジンを装填してセレクターをフルオート射撃モードに切り替え、化物に五発の弾丸をほぼ同時に放つ。高威力の弾丸を近距離で直撃した肉体は大きく損傷し、銃弾を食らっても仰け反るだけだった化物がようやく膝を着いた。

 

 エクリプスを背にマウントし、攻撃を集中して傷口を拡げようと腰の半自動式散弾銃(センドイット)を構えたその時、一瞬、ほんの一瞬だが赤い何かが見えた。

 赤い球体のようなモノ。一瞬ちらりと見えたがすぐに移動してしまったのですぐに見えなくなってしまう。見間違えかと思いセンドイットを連射して肉体を更に削ると、再度傷口から赤い球体が視認できた。その球体は何か分からない。魔力が暴走しても元来人体にあんなモノは存在しないし、あとから追加でもしないとあるはずがない。

 

 

 あとから追加しないとあるワケの無い物質。その発想に至った直後に化物の正体について一つの仮説が立てられてしまった。

 

 

「……二年前に戦った教団の幹部がいきなりデカくなったのを覚えてるか?」

「こんな時に昔話?覚えてるけど、それがどうかしたの?」

 

 

 アルファが斬り、俺がそれを撃つ。二人で協力して攻撃を凌ぎながら仮説を語った。

 

 

「あの時アイツがよく分からない薬を飲んで巨大化していた。つまり教団は外部からの干渉で魔力量を無理矢理増やす技術を持っている。そしてそれを得るための過程には恐らく人体実験もあったはずだ」

「……なるほど。貴方の言いたいことは理解したわ」

 

 

 銃身を肩に乗せてから腰のシェルを複数本手に取り、センドイットの底部にあるローディングゲートにスライドしてシェルを入れていく。リロードをしてる隙を狙って攻撃をしてくる化物の腕を避けながらコートの内側に潜めていたクライムを左手で取り出し連射。エクリプスやセンドイットと比較して威力は低いが、高い連射性能で威力を補う。

 

 未だ回復し切っていない傷口を拡げるために右手のセンドイットを連射、左手のクライムで自身の防御のために攻撃を全て撃って流す。拡がった傷口から赤い球体が姿を表す度にそれを狙い撃つ。球体に弾丸が当たる度に化物が悲鳴を上げるようになった。どうやらあの球体が弱点らしい。

 

 

「魔力を増やす薬を作るための実験体。それが暴走したのがこの化物の正体というワケね」

「恐らくはな。ンでさっきからチラチラ顔出してるあの赤い球体、多分あれは英雄の血の凝固体だ。身体に馴染まないせいでああして異物として体内を動き回ってんだ」

「その凝固体を壊すことができれば止まるの?」

「あくまで推測だがな。だが、あそこまで変異しちゃあ暴走を止めても助けるのは無理だろうよ」

 

 

 化物の両腕の戦端が手のひらを形取り、計十本の触手となってあらゆる場所から攻撃が飛んでくる。一本ずつ撃つ、蹴る、避けると対処してから傷口を削って体内で逃げ回っている凝固体を探り、損傷をどんどん拡げていく。

 

 銃撃を行う背後からアルファが飛び出し、穴だらけになった化物の肉体を横一線に薙ぐように斬り、上半身と下半身の二つに切断した。地面に落ちた上半身は動きを止め、下半身だけが動いてこちらに攻撃の意思を見せている。

 ナイスだアルファ。逃げられる場所が少なくなったおかげで標的を仕留めやすくなった。

 

 脳もないのに独りでに動いている下半身。見るだけで精神が削られるような光景だが、ここで倒さないと被害者を出してしまう可能性がある。それだけはどうにか避けないとシャドウガーデンが人殺し集団になってしまう。

 両足の付け根をアルファが両断して更に行動を制限する。どんどんと細かく刻まれて行く化物の下半身を隅々までセンドイットで撃ち抜いていくが依然として動きは止まらない。

 

 だが流石に細かく刻まれ過ぎたのか、凝固体はどこに動いても丸見えな状態になった。

 

 

「今だ!」

 

 

 剥き出しの弱点目掛けてセンドイットを構えるがそのタイミングで丁度弾が切れてしまった。腰からシェルを一つ取り出して、通常のリロードに使うローディングゲートではなく薬莢が排出されるエジェクションポートに直接挿入し、緊急再装填(エマージェンシーリロード)を行い即座に発射した。

 

 だが、散弾が当たるよりも早く肉片が凝固体を宙へと排出して回避されてしまった。

 そして宙に浮く凝固体が、自らその個体を半分に裂いて二つの球体に分裂させ、地に転がる肉片を吸収を始めた。

 

 

「……マジかよ」

 

 

 吸収された肉片から元の身体を再構築し、先程よりは二回り程小さくなったが化物が二体に増えてしまう。流石にこのパターンは予想していなかったのでまたもやこの化物に驚愕させられてしまった。

 脅威は小さくなった。だが手数が単純に増えると言うことなので攻撃を捌くのが更に困難になってしまったので目に見えて分かる態度で面倒であるとジェスチャーを取る。

 やけくそ気味にセンドイットを構えて一発撃とうとしたが、丁度弾が切れてしまっていたので更にテンションが下がる。

 

 

「あー……アルファ、一体だけでも一人でやれる?」

「……さっきよりも感じられる魔力量は少ないから、これなら行けるわ」

「実力のある魔剣士様は頼もしいなぁ…」

 

 

 話しながらセンドイットに腰に残っていたシェルを全て詰めて、左右の化物それぞれに発砲する。

 

 だがその両方は一体の化物が身体で受け止め、その間に無傷の化物が後方へ大きく跳躍してどこかへ飛んで行ってしまった。その行動を何かの攻撃の前触れかと思い俺とアルファは注視したが、予想に反して攻撃行動ではなくただの逃亡であることを理解するのに数秒を要した。

 

 

「やべっ、アイツ逃げやがった!」

「ッ!向こうにはまだ避難が終わってない市民が…!ドレッド、ここは任せてもいい?」

No problem(問題無い). 早いとこ楽にさせてやってくれ」

 

 

 自分のやるべき事を見定めたアルファは俺の言葉を聞いた次の瞬間にはその場を後にして逃げた化物を追い始める。それを残っている化物が見逃さないよう腕を伸ばして止めようとしたのでセンドイットを連射して意識をこちらに向けさせた。

 威力のある飛び道具を持っていると言う点からかその場を去るアルファよりも脅威判定が大きいと判断してくれたのか、追うのを止めてこちらを見る。

 伸ばされていた両腕が地面を貫き、地中を介して俺の足元から細分化された腕時計がウヨウヨと触手のように伸びて攻撃してきた。バク転、側転、反転と触手の隙間を縫うように避けながらの銃撃。化物自体が小さくなったからと言って攻撃の手が緩まるワケではない。オマケにバカスカ撃ちすぎてセンドイットの弾が今装填している分で最後だ。自動拳銃二挺でこれを相手するのは現状では不可能に近いため、これ以上の長期戦は難しい。弾切れが先か眠らせるのが先か、この瞬間にガンスリンガーとしての矜恃が掛かっているのだ。

 

 (クライム)を閉まってスライムソードをナイフの長さに整え、大きく跳んで化物の胴体に深々と突き刺す。そのまま自重で肉を裂いて降りると後方へ跳びながらセンドイットを傷口に放った。

 

 腹の中が全て見える程に胴体が裂けて開いたが、その傷はみるみるうちに再生されていく。

 

 

「コイツ、小さくなったがその分再生力が上がってるのか…?冗談じゃねぇぞ…ッ」

 

 

 再度ナイフで吶喊して体内に潜む凝固体を探る選択を取ったが同じ手は食わないと言いたげに、両腕の触手を何本も編み込むようにして誇大化させて武器ではなく盾として構えられた。迂闊に飛び込めば反撃は間違いない。そしてあの盾は防御だけでなく編み込まれたうちの複数本がこちらに伸びて絶えず攻撃してくる。攻防一体だ。

 ナイフでは切っ先が届く前にこっちがやられる。かと言ってセンドイットで触手の破壊を優先すれば弾が切れる。センドイットの装弾数は残り二発、一発も無駄にはできない。ナイフを投げるのも考えたがスライム製なので手から離れた途端にその形を維持出来なくなる。こうなるんなら実体剣にすれば良かったと今更ながら後悔した。

 盾から生える触手の攻撃を避けながら隙を窺う時間が続く。体力の消耗は問題無いが、このまま睨めっこを続けていては何も解決しない。

 

 どうしたモンかと悩んでいた。それが逆にこちらの隙になってしまったせいで地面を介して触手が伸びて来ているのを接近するまで気が付かなかった。

 

 

「ッ!」

 

 

 上半身を逸らしてブリッジの体勢で触手を紙一重で致命傷を回避した。だが避けられたのは致命傷だけで、その攻撃は右手に持っていたセンドイットに命中してしまった。

 

 

「マズイ……ッ!」

 

 

 触手を直に受け止めてしまったせいで銃身が凹んでしまった。この状態で引き金を引いたら暴発を巻き起こしてこっちの指が吹き飛んでしまう。つまり、センドイットを使えなくされてしまったのだ。

 

 薄々勘づいてはいたが、ミサイルやグレネードがあればともかく、銃だけで化物退治はやはり無理がある。映画でもゲームでも大型の敵と戦う時は銃撃で弱点部位は攻められても最後に使われる武器はロケットランチャーや大口径の大砲が使われている。対物長距離狙撃銃(エクリプス)半自動式散弾銃(センドイット)ならまだ現実味はあるが、今手元には大型自動拳銃の罪と罰(クライム&パニッシュメント)だけ。これでどうやって戦えばいいんだ。

 

 

「………………………………ッ!」

 

 

 無慈悲な現実を前にして若干の放心状態に陥ってしまい、一瞬敵の攻撃への反応が遅れて危うく回避することができないところだった。

 

 

「……はっ、こんなトコアイツに見られたら一生の恥だな」

 

 

 何故かは分からないが、この危機の中でふとこの世で唯一の友達のことを思い出した。

 基本に忠実で、且つ大胆な一面を持ち合わせる影の実力者。こんな時アイツなら魔力を込めたスライムソードで一線するだけで終わってしまうだろう。だが生憎俺はガンスリンガーで、長物は使えない。比較すること自体が間違ってるのだろうが、先程のアルファの一撃といいシドの剣といい、つまらないことで嫉妬してしまう。こんなナーバスになるのはらしくも無いと自分でも思う。

 

 らしくも無い。だからこそアイツにだけは絶対見せたくない。その一心だけで俺は拳銃を両手に持ち、眼前の化物相手にそれを構える。

 

 魔力を普段以上に練り両手に集め、グリップの中に込められている弾丸にそれを流し込む。薬室で射出を待っている弾丸に、雷管に、撃鉄に魔力が伝導して威力が底上げされていく。

 

 

(クライム)は俺が作ったからともかく、(パニッシュメント)壊したらイータでも流石に怒るか…?」

 

 

 通常であれば出すことの無い量の魔力が流し込まれていくのを見てほんの少しだけ不安に駆られるがすぐさま思考を切り替える。アイツのことだからとっくに関心を失って怒りはしないだろうが、どちらにせよ怒られるためには生きて帰ることが必須条件だ。結果発表は後ほど。

 

 クライムで鉛をばら撒き触手を牽制しつつ盾に穴を開け、その穴を目掛けてパニッシュメントで的確に攻撃を叩き込む。センドイットやエクリプスと比べて当然ながら威力は劣るがイータの創ったパニッシュメントはその名の通り高い威力と精密度を誇る至高の逸品。故に化物の肉を削ぐことなど造作もない。

 背後からの触手も同時にあしらいながら本体にダメージを蓄積しながら距離をどんどんと狭めて行き、右や左、正面や下から来る攻撃を回避しながら本体を更に削り続ける。

 

 ナイフでも盾に攻撃を入れられる距離まで近付いたその瞬間、化物は盾としていた腕を大きく振りかざし地面に叩きつける。それを横に避けてガラ空きになった胴体に鉛を飛ばしたことでより一層肉が抉れた。

 振り下ろされた腕がそのまま俺のいる方へ振るわれたので跳躍して避けるのと同時に頭部へ撃ち込む。潰れた頭部の肉片が左右から飛んできたのでそれを罪と罰でそれぞれ撃ち落としながら地面に着くまでの間撃ち続ける。

 着地と同時にマガジンを入れ替え空になったマガジンを蹴って化物の修復中の傷口に差し込んだ。アドリブなので効果があるか分からないが、ひとまず体内にマガジンを巻き込むので治癒は妨害できるだろう。

 

 

「…やっぱデカいのよりこっちのが俺は性に合ってんだな」

 

 

 先程よりも断然こっちのが戦いやすい。動き回りながら銃撃を行うスタイルが一番俺に合っている。アイツの真似をするワケではないが、基本に忠実な方が何事も良い。

 

 戦い方に関しては一応問題はないが、威力の問題はやはり解決しない。単純に弾丸の質量や銃の大きさによる発射速度の違いなど上げられる部分は多いがそれを一々言っていたらキリがない。オマケに向こうの回復速度も早まっているせいでこの戦いを終わらすことが出来ない。

 

 

狙撃銃と散弾銃(メインディッシュ)は終わってんだ。そろそろ……御退席願おう……か…ッ!」

 

 

 傷口を更に抉るようパニッシュメントを撃ち続けながらポケットから二発の弾丸を取り出した。攻撃を掻い潜りながら空になったマガジンにその二発を詰め込み装填。

 

 ソムリエから貰った試作品(デザート)のジャッジ・ドレッド弾。高い貫通力と威力を発揮するらしいこの二発の弾丸は実戦以前にどれだけのモノかも分からないし、下手すれば弾詰まりの原因になり壊れるかもしれない。威力が高いと言っても拳銃の枠を出ないことは分かりきっているからこそこの土壇場で使うのなんてのは部の悪い博打でしかないだろう。だが、このまま続けても終わらないのなら、賭けに出ないことには事態に変化は訪れない。そしてこんな時に言うのもなんだが、博打はそう悪いモンじゃあないと思っている。

 

 

「部の悪い賭けは嫌いじゃない。切り札(ジョーカー)、切らせてもらうぜ…!」

 

 

 右腕に魔力を集中させ、パニッシュメントの各部位に渦のように魔力が立ち込み火花が散る。体勢を整え照準を定め、トリガーにかかる指に自然と力が入った。軽く指を引いて弾が発射されるギリギリまで遊びを無くし、それに連動して撃鉄が下がる。

 

 自身の身にトドメを差すつもりだと言うのを俺から感じ取ったのか、化物は再度両腕を盾にしてそれを構え、加えて両足の先端を伸ばして攻撃を仕掛けてきた。だがそれを俺は避けようとせず、構えを解かない。

 

 言うなればこれは一世一代の大博打。そして限界への挑戦。もしここで俺が負ければ今後シャドウガーデンに同じような敵が現れた時俺だけ戦力外通告を受けることになる。そして自分だけ後方からチマチマと雑魚狩りをするだけのセコい男に成り下がる。そんなモノ、俺のなりたいガンスリンガーなどではない。

 だからここで、一皮剥けなければ俺は胸を張ってみんなと一緒に居れないし、アイツを超えることはない。中途半端に夢を追って終わるなんてこと、もう合ってはならないのだ。

 

 

 失敗は死を意味する。それが怖いか?

 否、恐怖を冠する者が恐怖に呑まれるなどない。

 

 背後には屈辱が待つ。ヤケになって博打を打つか?

 否、恐怖を有する者が恐怖に負けるワケがない。

 

 矜恃を後ろ盾とする。藁にも満たぬモノに縋るか?

 否、恐怖を誇示する者が恐怖に縋る必要はない。

 

 

 撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけ。それを持ち合わせるが故に、『恐れを知らない(ドレッドノート)』であるが故に俺は、ガンスリンガーなのだ。

 

 

 触手が迫り来る。あと数秒もしないでその攻撃は俺の頭部をいとも容易く削り取れるし一緒に命も奪われるが、今更その程度のことで動じることなんてない。

 攻撃が俺の数ミリ先の眼前に、このままコンマにも満たない時間が経過すれば俺の命は奪われる。それとタイミングを同じくしてようやく俺は引き金を引いた。

 

 同時に、化物の胴体に花が咲いた。

 

 

「………Wow」

 

 

 極限まで込められた魔力が火薬と共に発火し、弾丸の先端に付けられた鉛が音を置き去りにして放たれた。その結果化物の攻撃よりも速く鉛は胴体に着弾し、着弾箇所を皮切りに先端が潰れて微かに入っていた亀裂を通じて鉛が開いた。花のようにそれは開花し、加えて訛りの中に込められていたスライムが運動エネルギーに従って止まることなく外側に大きく拡がり通常有り得ない範囲で肉体に損傷を与える。

 

 拡がるだけでなく、着弾しても発射された時点での勢いが弱まることなく突き進み続け、化物の背後にあった襲撃予定地点の屋敷にまで鉛は到達。化物と斉しくして屋敷は倒壊した。

 

 今の一発だけで化物の肉体はほとんどが削り取られ、体内にあった血液の凝固体が辛うじて残っている肉片に引っ付いている。分裂した時のように残った肉片が凝固体を飛ばさないようクライムで肉片を全て削り取り、パニッシュメントを向けた。これが本当に最後の一撃だ。

 

 

「Dead in pe──いや…」

 

 

 化物に送る最後の一撃。それは、実験体にされてしまった顔も知らない誰かの苦しみを終わらせるための弔いの一発。ソムリエはこれをジャッジ・ドレッド弾と称したが、元いた世界でコイツは違う名で呼ばれていたことを思い出した。

 

 

Rest in peace(安らかに眠れ). 来世はもっとマシな世界に生まれとけ」

 

 

 罪無き生命の鎮魂のために、邪な意思に罰を与えた。

 

 凝固体が砕け散ると、辺りに散らばっていた肉片も追従するように溶けていき、それが俺の目の前で収束して少女らしき肉体へと変貌した。

 だがその肉体は半身しか無く、誰かを判別することは叶わない。それのみならず、一度構築された肉体は再度融解を初めてしまい、人としての形を保てるのはもう数刻もないだろう。それを見て俺は勝利したと言うのに何とも言えない感情を抱いた。

 

 半身のみの少女の亡骸を拾い、その場を離れた。本当ならすぐにでもアルファの援護に向かうべきなのだが、人であるうちにこの子を埋葬するくらいの時間は合っても良いしどうせ何も言われまい。

 何故なら俺は恐怖(ドレッド)である以前に遅い(レイト)だから、遅れて到着しても、いつもの事だと今更誰も咎めないだろう。

 

 

 

 




仕事中でも寝てる時もいつも感想を待ってます。読者の素直な感想こそが物書きの主食ですので、些細なモノでも構いませんので感想お待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。