エタったワケじゃないんですよ。描いてはいたんですけど描き上げるのが面倒になっ((ry
謎に包まれた化物を埋葬した俺は分裂して逃げた方を追うアルファに加勢すべく住宅街を駆け出している。何処にいるかは分からないし見当もつかないが、人がいて大きな音がする方に多分いるだろうという安易な考えだけで走っている。
住宅街にいる市民の在り方は様々で、避難もしないで野次馬と化す者も多くいるらしく、王都の騎士団が俺たちの襲撃だけでなく野次馬市民の避難指示を出さねばならないなど対応を余儀なくさせられているようでほんの少しだけ同情してしまった。
「見つけた。向こうの方か」
野次馬に兵士を避けながら速度を落とすことなく走り続けている最中、遠方から戦闘音が耳に入ってきた。
聞こえてくる方向へ魔力探知を行ってみると、他に兵士も複数人いるようだがそのうちの一人は間違いなくアルファだった。
両手にそれぞれ握っている
数秒もしないうちに戦闘区域に到着し、アルファの援護をしようと巨体の方へ銃を構えたが俺の目の前でアルファの一振りによって化物が真っ二つに両断されていた。
アルファの放った一撃で両断されたのはその身体だけでなく、その体内にあった血液の凝固体をも同時に破壊していた。あれだけ苦戦を強いられた相手を一撃で倒されるのを目の当たりにすると俺の立つ瀬がないなと思いつつ、俺の時と同様に斬られた肉体が収束して少女の形を形成する。こちらもやはり半身のみとなって。
「願わくば…来世では安らかな生を」
挨拶の代わりに軽口を叩いてやろうかと思っていたが、祈るように、捧ぐように呟くアルファに対していつもの軽口は叩けなかった。実験体にされてしまい悲惨な末路を辿ることになってしまった少女に捧げる彼女の祈りを邪魔するなんてのは無粋だろう。
だが、どうやら王都の人間にはどうも無粋な輩が多いらしい。
「う、動くな…!武器を下ろして大人しく投降しろ!」
周辺で一部始終を見ていた兵士が剣を構えて複数人で囲い、その切っ先を祈りを捧げるアルファへと向けた。罪なき生命への弔いは、無知を振りかざす騎士団にとっては隙でしかないらしい。
しかしアルファは囲まれたことに気付いたうえで無視をしている。興味が無いというよりも、まるで最初から敵意を向ける者がその場にはいないとでも思っているかのように。
一方で唯一その場で剣を構えず呆然としている赤髪の魔剣士も同様にそれを見ることもせずただ立っている。隊長格の魔剣士かと思ったがこの様子を見るにそうでは無いのかもしれない。
アルファのことだからこの兵士たちを蹴散らすなど造作もないことだろうが、俺とて無粋な輩側の人間かもしれないが目の前で武器向けられた女の子放置するほど人間性は終わっていない。
囲っている兵士の人数は九人。明確な敵意こそ向けられているがそれも無知ゆえ、何も殺す必要はないだろう。シャドウガーデンが狩るのは死に値する者たちだけだ。
「Hey!」
突撃する前の合図にアルファへ向けて声を投げかける。声を合図にアルファは反射的にその場で伏せて姿勢を低くした。俺はそれを見て行動を開始する。
両足に魔力を込め初動から最速の移動を行い兵士の一人にブレーキ代わりにタックルをかまして輪の中央へ陣取る。俺のエントリーを認識するよりも早く両手で魔力を練り銃口を兵士へではなく各々が握っている剣へと向け、撃鉄を撃ち鳴らす。
一瞬遅れて兵士が俺の乱入に気付く。だが気付いた時には既に手遅れで、放たれた鉛玉により剣が根元に近い部分を砕かれ使い物にならなくなった。赤い柄に僅かに残った刃と武器として使うには何とも心許ないアイテムの完成だ。
「十字架片手にアプローチしてるトコ悪いが、赤十字の寄付が欲しいなら代わりにくれてやるよ!」
剣の破壊に続いて魔力量を減らしてほとんど素の火薬の力だけでの射撃を行う。右へ左へ、前方に後方に、腕を幾重にも交差させ、体勢を変えて腕を伸ばし、円の中央から360度全ての方向へと鉛をばら撒く。素の火力と何ら変わらない威力なので兵士の装備している鎧を貫通して肉体へとダメージを与えることはできないが、強い衝撃は与えることは可能。ならばそれをとめどなく行うことで身体全体に激痛を走らせることなど容易だ。
鎧の表面を少しづつ破壊しながら徐々に蓄積ダメージ量を増やしていくと、弾が切れた。リロードはせず両銃のスライドを戻してからそれぞれ上下に合わさるように構え、十字架を形取って残心をとる。
「
そう呟いた直後、周りを囲っていた兵士たちは全員気を失いその場に崩れ落ちるように倒れた。血は流れていないが、鎧の中では打撲や内出血、軽い骨折で酷いことになってるだろう。まぁ、その程度なら多分一月もあれば治る。
マガジンを切り替えている最中に銃撃が終わるまで伏せていたアルファが立ち上がり、周囲に倒れている兵士を一瞥した後にいつもの調子で口を開いた。
「遅かったわね。寄り道でもしてた?」
「そんなトコだ。けど遅れて到着したらこう囲まれてたワケだし、ちょうどいいタイミングだったろ」
「これくらいなら貴方がわざわざ割り込む必要も無かったわよ」
「祈祷を中断する必要が無くなったんだからそこは素直に喜んどけよ。んで……」
俺たち以外で唯一この場に立っている赤髪の魔剣士に銃口を向ける。何者かは知らないが、邪魔をするようならここで同じように眠っていて貰おう。最も、銃口を向けられても尚剣を構えようとしないので構うだけ無駄かもしれない。そんなことを考えていると隣からそっと銃口を塞ぐようにアルファが手を翳してしまうよう指示してきた。
「彼女はただの観客。舞台には上がっていない」
「ファンサくらいしとかねぇとお見送りまで着いてくるかもだぞ?」
「自己紹介もお喋りもした。それだけで十分でしょう?」
一瞬迷ったが、ここは大人しくアルファの言葉に従っておくとしよう。この場に倒れている兵士を放置して俺らを追い掛けるなどはしないだろうと判断して銃を下ろした。
「……OK。ならそろそろ陽動も十分だろうしデルタを止めに…ああいや、一つ行くトコあんの思い出した」
「何処に行くの?」
「ドラッグストア」
街中に突然さっきまでいた巨大な化け物が現れるワケがない。逃げ出してきたのならどこかにその痕跡が無いと不自然だし、仮に人為的に街中に放たれたのなら薬を持っている団員がいるはずだ。後者の場合シャドウガーデンの誰かが既に回収している可能性はあるが、それを奪い返しに来る輩が現れるかもしれないので動くに越したことはない。
アルファもこの一言だけで俺の次の行動を把握してくれたらしく、止めないでくれる。
「……そう。デルタは私が止めておくから、そっちは任せるわ」
「悪いな。デルタには宜しく言っといてくれ」
そう告げるとアルファとは別の方向へと歩みを始めた。何処かにデカい穴などが空いてないかを探すために建物の屋根に登りそこから何度も跳躍しながら移動をすることで周囲の情報を広範囲で入手する。
ひとまず、教団見つけ次第ぶん殴って回ればそのうち手がかりも見つかるだろう。
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どれくらい街中を走ったかは分からないが、それなりに時間が流れた。走り回っている最中に教団の関係者を見つけ、エクリプスで頭部目掛けてフルスイング。対物ライフルも弾が切れた今は最早鈍器にしかならない。クライムとパニッシュメントはまだ弾はあるが、先程の化け物が突然現れたようにこの先何があるか分からないのでなるべく温存したい。
殴って意識を飛ばす度に持ち物を物色して薬を持ってないかを確かめて回るが成果はない。そう簡単に見つかるとは思ってないが、薬持ちはやはり既に他のメンバーに倒されてたりするのだろうか。
「ん?」
暴行して回っているうちに、路地裏の地面に不自然に大きな穴があるのを発見した。周辺に散らかる破片を見るに、地面から何かが出てきて出来た穴なのが読み取れる。中を覗いても暗くて底が見えない。
落ちてる小石を拾って投げ入れ、反響する音で深さと底に地面があるかを確認する。ぽちゃんと言う音が聞こえたので底には水があるのだろう。
左手首からスライムをロープにして伸ばし抉れた穴の側面に刺してから中に飛び込む。底に付くまで数秒もかからず、ばしゃんと音を立てながら着地。沈まないか心配だったがどうやら水が流れているだけで普通に歩けるようだ。
着地した直後に周囲に待ち伏せしている敵などがいないかの確認と威嚇を兼ねて銃口を左右それぞれに向けるが何もいない。待ち伏せどころか何の気配も感じられない。
「……居留守ってワケでも無さそうだな」
スライムを裾に戻してこの薄暗い空間のどこへ行こうか悩んでいると、右手の方向から何かが聞こえてきた。
金属同士がぶつかり合う鈍い音だ。一方は強い力で、もう一方は微かな力でそれを受け流すような独特な音の鳴り方。俺はその鳴り方に聞き覚えが、嫌という程聞かされてきた。間違いない。アイツが向こうにいる。
音のする方向にシドの奴がいることを確信した瞬間、俺は足音をさせないために天井にスライムを伸ばし、スイングしてスイスイと暗闇の先へと進み始めた。
先に進んで行く度に音がどんどんと大きくなっていき、次第に剣と剣がぶつかる衝撃と共に誰かの咆哮のような叫び声も聴こえてくる。
そしてようやく音の鳴る場所まで辿り着くとそこにいたのは三人の男女。一人はシャドウであったが、残りの二人にも見覚えのある人物だった。
一人は誘拐されたアレクシア王女。シャドウが見つけるだろうと適当に放置していたが、こうしてシャドウと共に見つけられるとは思ってもいなかったので大変有難い。仕事が減る。
もう一人は意外なことに、剣術指南役のゼノンだった。何となく教団側の輩かとは予想していたが、まさか現場に出てきて剣を振りに来るとは予想外だ。
シャドウとゼノンが剣を交え、アレクシアはそれを傍観している。しかしその実力差は誰が見ても明らかで、まるで大の大人と小さな子供がじゃれているかのように、ゼノンが遊ばれている。そんな光景を見てアレクシアは驚愕している。剣術指南役に選ばれる実力者が、顔も名も知らぬ謎の存在に剣術で圧倒されているのだから、その驚愕は正しい。
当然だろうが。シャドウがこの程度の相手に負けるワケがない。
「ようシャドウ。何遊んでんだよ」
剣を交えてる最中だろうと気にすることなく、俺は後方から声を掛けた。それに反応を示したのはシャドウを除く二人。今まさに剣を振って戦っているゼノンとそれを見ているアレクシアが俺の存在に気付いてこちらを見る。
新たな人物が現れたことでアレクシアは俺から離れるように大きく後ろに下がり、ゼノンは手に持つ剣の切っ先を向けた。
「…何者だ。コイツのお仲間か?」
切っ先をシャドウと俺に交互に向けながらゼノンは警戒レベルを高め、八つ当たりをするかのように言葉を吐く。シャドウに遊ばれたのが来ているのか分からないが、俺に当たるなよ。
「ドレッド。地上での作戦は終わったのか?」
「質問を質問で返すなよ」
わさとらしくやれやれという態度をとってから天井を指差し、続いてシャドウの前で剣を構えるゼノンに指を差す。
「上はほぼ終わって仕上げにこっち来てんだ。あとは教団が持ってるであろう薬を奪えば俺の仕事は終わり。つーワケだからその平団員譲ってくれねぇか?教団の幹部ポジがどこにいるのか聞き出したい」
「断る。目の前の男は平団員でなくこれでも次期ラウンズらしい。薬が何かは知らないが、欲しいのなら薬局にでも行けばいい」
「謎の地下道も薬局も似たようなモンだろ。いいから変われよ」
一人間抜けに剣を構えてるゼノンを放置して、俺とシャドウは遠慮なく言いたいことを言い合う。
コイツのことだから獲物を譲ってくれるだなんてことはしないのはよく知っているが、何事も一度はトライしないで思い込みだけで完結させるのは良くない。まぁ、これを譲られても薬の場所さえ聞き出せれば用はないのだが。
なんてことを軽口混じりに喋っている間放置されていたゼノンが、話の輪に入れず怒り出してしまう。
「貴様ら、あまり私を舐めるなよ!貴様ら如きに私は──」
だがこっちはシャドウと楽しくお喋りしてる最中なのだ。邪魔して貰っては困る。
威嚇の意を込めて、両手の銃を放つ。戦闘を阻害しないために当たるか外れるかのギリギリの境界を狙って放たれた弾丸はゼノンの身体を僅かに掠る程度で、後方の壁に命中して大きな穴が開けられた。
「そう熱くなるなよ。短くなった寿命が更に縮むぞ?」
それだけ伝えて銃をしまう。ゼノンは今の一瞬の轟音と背後でした破壊音の正体が何かを確認するために振り返り、そこに空いていた大穴を見て戦慄する。同時に先程まで向ける先をシャドウか俺かと迷っていた剣の切っ先を少しだけ思考してから俺の方へと定められた。
「……飛び道具、か。なるほど、自信満々な理由はそれだな?」
剣を向けたのは俺、と言うよりもどうやらこの二挺の拳銃のようだ。
「正直に言えば、初動は見えなかったし途中まで何が起きたかは分からなかった。が、今の行動は悪手だ」
ゼノンは自身の手に持つ剣の柄を両手でしっかりと握り直し、腰を下げてしっかりとした体勢で後ろ足に魔力を込め始める。それに対してこちらは何かをすることは無く、仮面で隠れた顔面で意味もなくポーカーフェイスを作りながら楽な体勢を保ち続ける。俺のこの様子を見ているゼノンは口角を若干上げて気味の悪い笑みを浮かべる。
「恐らくそのおかしなアーティファクトがキミの切り札と言ったところだろう? 演出のためかは知らないがそれを私の背後に向けて放った。正直なことを言えば驚かされたよ」
後ろ足、ふくらはぎ、続いて腰、肩へと魔力がゼノンの全身を流れているのを感じ取る。延々と一人で喋りながらも停滞することなく、コップに水を注ぐかのように滑らかに魔力を流し込むその技術は流石と言うべきか。大口を叩くに相応しい実力は確かに持ってはいるらしい。
最も、表の魔剣士を基準にして、の話ではあるが。
「まともに剣も魔力も使えない輩が使う低俗な玩具…銃、だったか?銃に酷似した機能を持ちながらそれを遥かに凌駕するアーティファクトを見たのは初めてだ。だが、もう油断することは無い。見れば避けられるモノに当たることなど無いからだ」
「確かに、特に面白くもない一人語りを律儀に聴かないで撃っても良かったかもな」
キリのいいところまで話したと判断してようやく俺も銃を構えた。ゼノンの目線は銃口を向いている。一直線にしか飛ばないのを先程確認しているため躱すつもりだろう。
「距離が離れているから飛び道具の方が有利だと思っているかもしれないが、それは違う」
一瞬だけ瞬きをした。直後、ゼノンが眼前まで接近していた。
「──これだけ接近すれば飛び道具の優位性は失われる!!」
眼前に迫るゼノンはその勢いを殺すことなく剣を振りかざす。刃の軌道が正確に両眼に向かっているが、動揺は無い。
「遅せぇよ」
目に触れる直前に首を後ろに倒し、続いて上半身を反らし、床に近付く身体を左手で支えながら右手で銃を放つ。轟音と共に放たれた弾丸はゼノンの握る剣の腹へと吸い込まれた。弾丸とぶつかりゼノンの手から剣落としかける。そこに左足をぶつけて剣を上空へと蹴り飛ばし、同時に右足でゼノンの腹を蹴って元いた場所まで押し返した。
「なっ…!?」
蹴った勢いで一回転しながら体勢を直し、改めてゼノンの方へと言葉を投げる。
「距離が埋まれば剣の方が有利なのは間違ってねぇが、見れば避けられるモノに当たるワケないだろうが」
先程蹴り上げて落とした剣を拾ってゼノンの方へと投げ返してやる。それをゼノンが拾う様子を見ることもせずに踵を返してその場を離れる。
「シャドウ、やっぱコイツは譲っとく」
「最初から譲ったつもりなどない」
ヒラヒラと手を振りながらシャドウの方へと歩み寄り、体勢を崩したままのゼノンにも聞こえるよう少し大きめの声でお前じゃ相手にならない旨を伝えてやる。
「弱いものいじめをするようなタイプでもないし、俺の目的は達成したからな。ま、この程度の奴が持ってる薬じゃあたかが知れてるしな」
「なっ!貴様いつの間に…!?」
蹴り飛ばすついでに右足の靴底に仕込まれていたスライムで物色した。その際ゼノンの懐から奪い取った小さな瓶をカラカラと振って見せつける。いっぱいに詰められた赤い薬がこの薄暗い地下道の中で鈍く輝きを放っている。
「少し邪魔は入ったが、肩慣らしには丁度良かっただろう? さぁ、我々の戦いを再開しよう」
「……っ! 舐めるなよ!!次期ラウンズであるこの私の本気をその身に刻みつけてあげようじゃないか!!」
背後で二人の戦闘が始まった。剣と剣のぶつかる音が一瞬の間に幾重も響いてくる。ゼノンの技量が高いのは疑うまでも無いが、シャドウはそれを遥かに上回る。シャドウ相手にそもそも勝ち目など無いのだが、乱入者である俺に精神を乱されたゼノンに天地がひっくり返っても勝つ見込みなど無いのでそれを観戦する必要も理由もない。
「団員の制圧、教団の開発する薬の入手。ミッションコンプリートだ。後は……」
シャドウの更に後方で一連の流れを見ていた囚われのお姫様、アレクシアの元にゆっくりと近付き、片膝を付いてから優しく声を掛けた。
「アレクシア王女で合ってるよな? アンタを表の世界に返しに来た」
警戒されているのか唐突に声を掛けられたアレクシアから反応が帰ってこない。観客に徹していたところに急に脚本に無かったセリフを飛ばされたのだ、遅れても無理はないが、こう何もレスポンスが無いと若干不安にさせられる。
「……返しに? 見ず知らずの男に、ましてや何かも分からない武器を扱う男の言葉を鵜呑みにする程愚かじゃないわ」
「列車に乗る度に運転手の身元確認するタイプか?そうじゃないなら誰もお前を愚かだなんて言わないさ」
「普段はしなくても、こんな場面でなら身元確認をして当然じゃない?」
「少なくともアンタを攫ったアイツとは敵、そしてそこの黒いのはアレを倒しに来た。その味方ってので身元確認は終わらせてくれ。生憎免許も保険証も持ち合わせて無い」
のらりくらりと適当なことを口にして正体を隠し通す。バレたらシドの今後に影響するからな、絶対バレるワケにはいかない。
だが向こうはこちらの都合など知る由もないので正体を明かさない俺に不信感を募らせる一方だろう。まぁ最悪気絶させて上まで担いで行けばいいか。
「……ならせめてその仮面を外して素顔を見せなさい。そしたら一応味方だって信じてあげるわ」
「無理だね。顔が良すぎて見た奴全員もれなく失神させちまう」
「あら、顔に自信が無いから隠してるんじゃないのね」
「顔が良いのも辛いんだよ」
「まぁ、どんな顔だろうと貴方に着いていくつもりは無いけど」
「ふぅむ…このまま居続ければどうなるか分かってないのか?」
どういうつもりか知らないが、このまま行けば気絶させる必要がありそうだ。
「私は、彼の剣を見なきゃいけないの。私の追い求める理想のために、夢のためにも」
「!」
……なるほど、そう来たか。その言葉を出すのであれば俺がどうこうすることなど出来ないし、邪魔する権利もない。シャドウガーデンとしてはダメかもだが、やることはやったのだからこれくらいは許されてもいいだろう。
銃を懐にしまい、アレクシアに対面するのではなく壁にもたれかかる。足と腕をそれぞれ組んで楽な姿勢をとる。
「なら、これが終わったら上まで送ってやる。しっかり見ときな」
「……止めないのね」
「夢なんだろ? 何で止めるんだ」
「……そう。一応お礼は…やっぱり言わないでおくわ」
「言われる理由も無い」
このやり取りを最後に、俺とアレクシアはシャドウの一方的な戦闘を眺め始めた。
ゼノンの攻撃をシャドウが容易に払い除ける。必死の形相に対して漆黒の仮面は微動だにしない。乱入する前から戦闘は行われていたが、改めて再開したところで圧倒的な差が埋まることなどない。シャドウもさぞ退屈だろう。
だがアレクシアにはそうは映っていないようで、むしろシャドウの剣をキラキラとした眼で見ていた。夢のためにアイツの剣を見たいと言っていたが、その姿は何となく見覚えがある。幼い頃、映画を見ていた自分の姿が正にそれだった。
アイツは自分の夢のためだけでなく、他人に夢を与えられる程に魅力を秘めているんだな。
夢が夢を与える。夢追人の果てはこれが理想なのかもしれない。
──ああちくしょう。こんなトコでもアイツに在り方を思い知らされるのか。言葉にすれば簡単なことですら、俺は一人では見つけることが出来なかった。その現実が、その事実だけが、俺の目ではなく心に大きく映り込んでしまった。
ダメだ。また勝手に落ち込んでしまった。いい歳してナーバスになるなよ。今夢を与えられるだけの存在になれなくてもいずれなればいい。それがいつか分からない程度で狼狽えるな。
「ガァ…ッ!ぐ……クソっ!」
と、そんなことを考えてる間にゼノンの身体が宙に舞ったのを見て目の前の光景に引き戻される。
息も絶え絶え、身体もボロボロ、学園で見たような華々しい姿はそこになく、あるのは血に汚れた大男だった。
「き、貴様は、貴様らはいったい何なんだ! それだけの強さがありながら、何故正体を隠す!」
震える足を踏ん張りながらシャドウとついでに俺に問いかける。それに対してシャドウはカツン、カツンとブーツを鳴らしながらゼノンに近付きながら答えてやった。
「我らはシャドウガーデン。陰に潜み、陰を狩る者。我らはただそれだけのためにある」
「目立ちたいワケでも、世界を支配したいワケでもない。落ち着きのない奴らを襲う恐怖の陰。それが俺らシャドウガーデンだ」
「どうやら、正気を持ち合わせていないらしい……ッ」
その言葉に一切の誤りはないので否定はしない。正気じゃないだなんて今更だ。トップもそうだが俺も前世から夢を引きずる狂人だぞ。
「……いいだろう。貴様らが本気で我らを相手取ると言うのならそれに応えてやろうじゃないか」
そう吼えるとゼノンは懐から小瓶を取り出した。その中には先程奪い取ったモノと全く同じ薬が入っていた。一つだけかと思ったが、どうやらまだ隠し持っていたらしい。
「……ドレッド、しくじったな」
「最低限目的は果たしたんだ。文句は受け付けねぇよ」
仮面越しにシャドウから睨まれたが無視だ無視。
「この薬の力によって、人は人を超越した覚醒者へと至る。だがこれは常人にとっては劇薬、抑えきれぬ力によって自壊し覚醒者となれずに死に至ってしまう。だが、私は違う」
瓶の蓋を開けて中の薬を乱雑に口に放って飲み込む。直後、ゼノンの身体が爆発的な変化を遂げる。
身体中の筋肉が瞬間的に膨張して即座に締まる。全身の血管が皮膚を破らんとばかりに激しくうねる。瞳から血が流れすぐに蒸発する。ボロボロだったゼノンの怪我がみるみるうちに塞がれていく。肉体に収まりきらない魔力が風となり辺り一帯に吹き荒れる。
「この力を制御できる者がラウンズになれる。そう、これが、この姿こそがラウンズたらしめる姿……覚醒者3rd…ッ!!」
若干の熱を帯びた風が周囲を圧迫する。一切の傷も無くなり、更には強化された自身の体に酔いしれているのかゼノンの表情に再び笑みが浮かび始めた。
「どうだ…これが……最強の力だ…!!」
漏れ出るその魔力はゼノンの周りを震わせ、今にも爆発しそうだ。誰が見ても、間違いなく表の世界に今のゼノンを超える者はいないと断言できる。それ程までに圧倒的な力を感じ取れた。
だが、ただ感じさせるだけだ。そう大したモノじゃあない。
「醜いな」
「醜い…」
「……なんだと?」
薬を飲んで変貌を遂げたゼノンの姿を目の当たりにしたシャドウとアレクシアは思わず同じ感想をぼそりと呟いた。
「この姿を……力を前に…醜いだと…?」
デカくなった図体に対して小さな器では二人の素直な感想を受け止めきれなかったようで、浮かび上がっていたゼノンの笑みがすぐに消えてしまった。
「醜いったらありゃしねぇな…。平等に救いの手を差し出す女神様もお前には手袋付けるだろうよ」
「借り物の力で堕落した身体でいきがり、且つ最強を騙る…か。どうやらその薬は知能までは上がらないようだな」
「き、貴様ら……ッ!!」
肉体だけでなく頭まで沸騰しているらしく、煽りが凄く刺さりやすい。シャドウもいつもより口が回っている。
そしてシャドウは、一歩前に出る。
「偽の力で最強に至る道など存在しない」
そう呟くと、シャドウの身体から魔力が放出された。
微量の魔力がゆっくり、時間をかけて少しずつ知覚されていく。漏れ出した魔力はとても緻密で、まるで紡がれた糸のようだ。そしてその糸が他の糸を紡ぎ、模様を描くかのように身体に纏われる。
魔力の糸はとても細いが、それに見合わない質量を伴い、服を着るかの如くその脅威を顕現させる。シャドウを取り巻くそれは、芸術の域にまで達するようだった。
「綺麗……」
ゼノンの姿を見た時とは対称的に、魔力を纏うシャドウを見てアレクシアが小さく呟く。青紫に輝くシャドウはとても幻想的に映り、憧れを通り越して尊敬の念まで抱かせる。
「何だ……これは、いったい……!」
アレクシアの目には幻想的に、しかし対面しているゼノンには脅威でしかなかった。まだ一度としてその姿で暴を振ることをしていないと言うのにも関わらず、ゼノンは戦慄した。今まで見たことの無い光景に。感じたことのない危機感に。本能も、直感も、理性も、目の前の光景にただ怯えていた。
「伏せろ」
「……え?」
「今からアイツが放つ攻撃は、立ったままじゃ最後まで見れない」
紡がれた糸の鎧が、シャドウの持つ剣へと移り渡り始める。その糸は剣に纏わりつくには長さが足りず、止まらない魔力の奔流は収まりきることはなく、螺旋となって滞在しだす。
ゼノンから感じた圧倒的な力、それが鼻で笑えてしまう程に力が集約していく。シャドウの持つ一振りの剣に。その力は大気を震わせ、地面を大きく揺らす。
風が吹き荒れる。風と風がぶつかり合う音で聴覚が支配される。そのまま世界すら壊してしまうのではないかと錯覚してしまうような力が、シャドウの持つ漆黒の剣がゆっくりと動き始める。
「刮目せよ…これが、我が最強……」
シャドウが剣を刺突の形で構える。それは、俺でも知っている剣術の基本の構えだった。
「おい」
たじろぐゼノンに俺は声をかけてやった。シャドウを前に視線はこちらに向けることなど出来なかったが、それに構わず言葉を続ける。
「遺言くらい聞いといてやろうか?」
恐れ慄くゼノンからは何も返ってこないので俺の言葉が届いているのかは分からない。だが二回も訊ねてやる程慈悲をかけるつもりもないのでそれ以上は何も聞かない。いや、そもそも聞けないと言うのが正しいだろう。
「残念、時間切れだ」
俺は瞬時に魔力を展開し、後ろにいるアレクシアを巻き込まないように防壁を展開した。
「アイ・アム・アトミック─────」
刹那、世界は無に包まれた。
一瞬静寂が訪れ、直後に聞いた事もないような轟音と光が総てを飲み込んだ。
対面していたゼノンも、地面も、壁も、天井も、果てには空も、周囲にある総てがシャドウによって放たれた光に飲み込まれ、そしてその総てが爆ぜて散った。
爆発に遅れて風が災害として王都に襲いかかり、窓を割って家を揺らして眠る市民全員がそれを認知した。
夜空は魔力の残滓で紋様が刻まれ、地上を青紫に染め上げる。
光に呑まれた総ては塵となり、その直撃を喰らったゼノンは跡形もなく霧散してしまった。
「──────────」
奥義を放ったそこには何も残らない。あるのは壁や床の残骸と、天井に空いた穴から差す月光だけだった。
その月光へとゆっくり足を運び、シャドウは漆黒のコートを翻してその場から姿を消した。
「…………」
シャドウの放った奥義を、何があったかの一部始終を全てその目で見ていたアレクシアはただ目の前の残骸を見て佇んでいた。この光景を見て、シャドウを見て何を思い何を感じたのかは分からない。
「…………」
唯一分かるのは、瞳に秘められた希望と情熱。今の一撃を見て尚、遥か彼方の高みを見て尚、アレクシアの目は輝きを秘めていた。
足元に落ちている剣を拾う。そしてそれを構える。
基本の構え。教科書の表紙にあるような基本の構え。一切の個性も含まれないお手本のような構えだ。
それを振った。師が見せるように。シャドウの最後に放った魅せる剣ではなく、愚直なまでに真っ直ぐな剣を振った。その姿はゼノンのような力強さもなければシャドウのような感動も無い。だが、彼女は剣を振り続けた。曇り無き眼で、進むべき道を定めたかのように。
そんな姿を見て、俺は拍手をして讃えた。
「綺麗な剣だな」
「ッ! あ、貴方、まだいたの?」
「当たり前だろ。アイツもお前に配慮して防壁作ってはいたけど、傷一つ無いでいられてるのが誰のおかげだと思ってんだ」
軽口は叩くが、拍手は辞めずにゆっくり近付く。
「さぁ、約束通り上に連れてって……いやもう上も何も無いか」
「……そうね。もう果たす約束も無いわ」
剣を振るのを止めて俺を警戒するアレクシア。気絶させて安全な場所まで運んでやろうかと思ったのだが、どうしても、人生の先輩としてどうしても言いたい言葉があったので意識を奪わずにおいていた。
「お前の剣は、アイツとは程遠い」
「……私を不快にさせるために残っていたの?」
「アイツの剣は言わば最高到達点。あそこまで行こうってんなら道のりは想像以上に険しいだろうよ」
夢を追う。その過程と言うのは酷く険しく、まともに整備されてるワケもなく一歩進むだけでも困難な道のりなのは言うまでもない。
けど、けれどもだ。
「今お前がいるその道、そこはアイツが確かにいた道だ」
夢を追う子供が歩む道は、せめて希望が添えられているべきだ。
「アイツも初めは基本から始めた。それと同じ道に今お前は立っている。だからこそ、歩き続ければ必ず同じ場所に辿り着く」
俺の言葉は単なる気休めにしかならないかもしれない。けれども一人では気休めすらすることも叶わないことだってある。
「どれくらいの時間がかかるかは分からないし、その速さは勿論違う。だが、到達できないなんてことは絶対に無い」
自分は本来与えられるはずではなかった二度目の生を受けてしまった愚者なのだ。だからこそ、一度目の生で夢を追う子供の頑張る姿は応援したい。
「全員同じ道だ。ワープした奴も、異次元に行った奴もいない。どんだけ強い奴でも、お前の歩く道の先に必ずいる」
夢は叶う。願わくば、それが当然であって欲しい。傲慢かもしれないが、俺はそう思っている。
「ま、一人じゃ無理なら他を頼るでもいいと思うぞ」
「頼る……誰を頼れって言うの?」
「周りに一人くらいいんだろ? 誰に対しても遠慮なく意見をぶつけて、モブにしてはちょっと個性的で、おかしな奴がよ」
柄にもなくクサイ台詞を散々言ったのだ。後始末とアレクシアの今後に関しては全部シドの奴に押し付けてやろうと思いアイツに繋がるヒントを渡してやった。学園では一般的な魔剣士Aなんだ、夢の妨げになるような行動は取らないだろう。
さて、言いたいことは全部言えたしこの場を去るとしよう。これ以上いたら応援を呼ばれて余計な戦闘をする羽目になってしまうかもしれない。
「ほら、後ろから迎えも来たことだし俺はここらでお暇するよ」
俺の言葉を聞いてアレクシアは後ろを振り返る。するとそこにはまだ遠いが、赤い髪の少女がアレクシアの名を叫びながらこちらに接近してる様子が見えた。あれは……さっきアルファといる時に見かけた人か。
見つからないよう全身をインナーのスライムスーツで包み込み、周囲に溶け込んでその場から離れようとする。感動の救出現場に、恐怖は不要だ。
最後にアレクシアが何か言いたげな表情をしていたが、これ以上陰に接する必要は無い。俺のことは一夜限りの夢だと思って忘れてくれれば重畳だ。
誰にも気付かれないよう気をつけながら、大きく跳躍してその場から颯爽といなくなった。
後日聞いた話では、アレクシアは無事帰れたらしい。それどころか、攫われる前より真剣に剣術を学び始めた、なんて噂も耳にした。
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「レイト・バーガン…で合ってたかしら? ちょっと付き合ってもらえる?」
「…………What's???」
事件が終わって一週間後、俺とシドの容疑が晴れたと思ったら何故かアレクシアが血で汚れた剣を持ったまま俺の学生寮の部屋まで足を運んでそう言った。
また新しい事件に巻き込まれるのか俺???
感想と感想と感想お待ちしております。次筆が動くのがいつになるかは分からんですが、感想来ると創作意欲湧きますので乞食のようにお待ちしております。