ガンスリンガーになりたくて!   作:御影玲夜

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13話 人を呪わば穴二つとはよく言ったモノ

 

 

 

 アレクシアの誘拐事件が解決して一週間が経過した頃くらいだろうか。休日の昼下がりに学生寮の部屋で今手元にある銃のメンテナンスをしようと分解していたところ、扉をコンコンとノックする音が聞こえた。

 これがもしシドならば何もせず開けるが、アイツは基本扉から入って来ないで窓から侵入してくる。なので身内では無いだろう。机の引き出しに銃のパーツと工具を全てしまって鍵を閉める。

 

 

「はいはい、ちょい待ってな」

 

 

 机の上に適当な本を置いて読書していたと言い訳を用意してから扉の鍵を開けて訪問者の顔を確認する。

 

 

「こんにちは。レイト・バーガン…で合ってたかしら?」

 

 

 気怠げな表情で扉を開けた先にいたのは、まさかのアレクシアだった。え、なんで?

 

 

「えー…………あ、シドをお探し? アイツの部屋なら三つ隣の部屋だ」

「用があるのは彼じゃなくて貴方よ。ちょっと付き合って欲しいの」

「………Why(なんでぇ)?」

 

 

 普通に断ってやろうかと思い扉をゆっくりと閉めようとしたが、アレクシアが腰をクイッと動かして剣を見せてきた。……なんか鞘からめっちゃ血ぃ流れてる。この血の色、シドの血糊じゃね??

 

 

「見たところ読書をするくらいには暇なんでしょ? いいわよね?」

「いや…ぜんっぜん良くない。ちょうど今味方ポジだけど嫌だった奴が華々しく散ろうとしてる最中なんだ。このまま読書に没したい」

「いいわよね?」

「正解言わないと会話終わらないタイプのNPC?」

「いいわよね?」

「笑顔で剣を抜くな」

 

 

 なんで誘拐被害者が加害者と同じ手口使ってんだ。あの事件で何を学んだんだコイツは。この国は法が機能していないのか。

 

 

「そもそも何の用だよ。内容によっては反逆罪で国終わらす所存だぞ」

「覚悟の度合い大き過ぎるわね…。単に剣の練習に付き合って欲しいだけよ」

「それこそシドに頼めよ……。剣術に関してはアイツのが上だろうに」

「この剣が答えよ」

「剣の錆になった奴より格下の相手に脅しか? 最近の貴族様の考えは分かんねぇなぁ」

「…………貴方、痛みには強い方?」

「くっそマジでしつこいな!分かった、分かったから着替える時間くらい寄越せ!!」

 

 

 いい加減扉が壊されてしまうので取手より先に俺の方が折れた。別に強硬手段を取られようが問題は無い。銃が無くても間違いなく俺の方が強いが、単純に面倒だ。渋々ながら承諾してしまった俺はバタンと扉を乱暴に閉じてから、壁の向こうにいるアレクシアの耳に入るんじゃないかと言うくらい大きな溜息を付いてからおもむろにベッドに飛び込む。

 行きたくねぇ…。銃のメンテもまだ終わってないのに…。ついでにダミー用にと買ったけど結構面白かった本の続きも読みたい…。

 

 現実に抗うかのようにベッドの上で足をバタバタさせる。前世も合わせればいい歳行ってる奴が何してんだって感じだが、いくら暴れたところで外で待つアレクシアは帰らない。

 だいたい剣の練習すんのに何で俺を誘うんだ。接点無いだろ俺。シドの隣で一緒に登校したり、飯奪ったり、稽古終わりに会話に参加したり、帰りの電車が同じくらいしか無かったはず……こう思い返すと接点結構あんな。

 

 

「マジだりぃ……………………」

 

 

 こうして寝ていても埒が明かない。一度YESと言ってしまった以上それを曲げてしまえば今後の学園生活に支障が出るかもしれないので、部屋着から学生服に急いで着替える。そして壁に掛けてある専用の大剣『存在(イグジスト)』を折り畳んで背負い、ついでに部屋の隅に置いてある大きめの袋を手に持って扉を開けた。

 

 

「……場所はこっちが指定する。いいな?」

「ええ、別に構わないわ」

 

 

 作り笑いもできないくらいに嫌な顔をする俺に対して、嫌になるくらいの作り笑いでアレクシアが返してくる。そんな正反対の表情の男女と言うよく分からない組み合わせは、学生寮を後にして普段使っている練習場に向かった。

 

 

 

 

______________________________

 

 

 

「────で、なんで弓の訓練場なの? 私さっき剣の練習に付き合えって言ったつもりなんだけど」

 

 

 ミドガル魔剣士学園は、名前の通り魔剣士を育成するための学園であるため複数の訓練場が設けられており、学園に通う生徒であれば休日だろうと申請さえすれば誰でも利用することができる。そしてその数多にある訓練場の大半が剣術用なのだが、数個だけ例外の施設が存在している。その一つがこの弓の訓練場だ。

 現代でも使われている武器ではあるため一応用意されている施設ではあるが、魔剣士学園に入って弓の練習をする者はいないため俺たち以外は誰一人としてこの場にいない。

 

 

「この場所は清掃の人以外誰も使わないからな。安くはない矢は持参する必要があるしそもそも弓使わない奴は使用許可も下りない。練習するには持ってこいの場所だ」

「環境の不満さえ除けばね。そこの白線から的までの間は土が剥き出し、しかも屋根も無いから雨の日は使えないし、直射日光は直撃。ホントにこんなところで練習するつもりなの?」

「使う武器が剣だろうと弓だろうと、戦場は選べないからな。むしろ実戦的だろ」

「……まぁ、それもそうね」

 

 

 持ってきた大きめの袋から幼い頃から使っている弓と矢を取り出し、白線の前に立って軽く一発射る。一瞬の風切音を鳴らした直後に鈍い音が耳に入る。放たれた矢は寸分の狂いも無く的の中心部分を射抜いていた。

 大した時間も掛けずに放たれた矢とその先を見ていたアレクシアは今の一連の動作に思わず拍手をした。

 

 

「んで、いい加減聞いときたいんだが何で剣術の練習に俺を誘ったんだ? 剣術なら俺以外とやる方が絶対学びがあると思うんだが」

 

 

 アレクシアの方へ顔は向けずに再度弓を射る。立ち位置は変えずに隣の的へ矢を放つとこちらも同じく中央を射抜いた。話を聞くだけなら弓を扱いながらでも聞ける。何年やってると思ってんだ。

 

 

「……誘拐事件のこと、貴方は何処まで聞いてる?」

「俺に負けたゼノンと無能な騎士団が俺とシドを拷問してでも犯人に仕立て上げないといけないくらいに進展が無かったのに急に戻ってきたってことしか知らないな」

「…あまり外部に話してはいけないのだけど、実はあの時私のことを助けてくれた人がいたの。敵か味方かも、目的も分からないけれど」

 

 

 知ってる。だってそれ俺とシドだもん。なんてことは口が裂けても言わない。

 

 

「あれが味方かも分からない。しかも少なくともゼノンを軽くあしらえる程に強大な力を持っている。けど、私は彼らが何を目的としているのか、それが知りたいの」

 

 

 目的、ねぇ。シドがやりたいことやってるだけなトコがあるからちゃんとした目的があるならこっちが知りたい。

 

 

「そのためにはもう一度彼らに遇う必要がある。だけれど今の私が会ったところで口も聞いてくれない。それどころかもし敵だったら斬られて終わり。だから少しでも強くならなきゃいけない」

 

 

 一つの的に何本刺さっているのか分からなくなるくらいに矢を放ち続けた。アレクシアの語りを無視しているワケではない。下手にリアクションを取れば剣術の練習とやらに付き合わされてしまうかもしれないからだ。

 

 

「強くなる、と言ったモノの、一人で剣の修練をしたところで急激に強くなるワケでもないし、強くなりたいって気持ちをちゃんと分かってくれる人もすぐには見つからないのよね」

 

 

 日頃の行いだろうと思ったがお口をチャック。

 

 

「そんな時、私を助けてくれた人が言ってたのよ。一人じゃ無理なら誰か頼るのもアリだってね」

 

 

 アレクシアは一拍置いて、あの時俺が言った言葉を反芻するかのように口にした。

 

 

「『誰に対しても遠慮なく意見をぶつけて、モブにしてはちょっと個性的で、おかしな奴が』」

 

 

 うん。俺の言葉だな。これに全部当てはまるような変人はシドしか考えられない。と、思っていたがアレクシアは俺を指差しながらもう一度同じ台詞を繰り返した。

 

 

「誰に対しても遠慮なく意見をぶつけて」

 

 シドだな。

 

「モブにしてはちょっと個性的で」

 

 シドだね。

 

「おかしな奴」

 

 シドだろ。

 

「つまり貴方よ」

「………………………………………ん、ん゛ん゛?」

 

 

 何でそこで俺が出る?? こんなアホみたいな条件当てはまる奴シド以外に誰がいる………え、俺??

 

 

「初めて会った時から私だけじゃなく、ブシン流の9部生にも関わらずゼノン相手にも不遜な態度だし、そのクセ普段は普通の生徒ですみたいな顔で授業を受けてるおかしな人。そんな人貴方くらいよ」

「どう考えても俺じゃなくてシドだろ……?」

「彼にも声は掛けたわよ。中指立てながら断られたわ」

「あんにゃろう…!!」

 

 

 面倒事全部押し付けたつもりが全部帰ってきた。シドのせいで……いやそもそもアイツがこんな時どうするかなんて今更考えないでも分かっていたことだろうに。謎にテンション上げて下手なこと口にした俺の責任だ。言い出しっぺの法則じゃあないが、アイツを責めるのは筋違いか。

 

 

「………………で、何、お前と戦えばいいのか?」

「あら?もう少し駄々をこねると思ってたのだけど、急に大人しく従うようになったわね」

「別に、どうせここで断ればシドと同じ目に遭うだろうから素直にお願い聞いてあげよう思っただけだ」

「…なんか子供扱いされた気がするけどまぁいいわ。じゃあ早速始めましょうか」

「はいはい、何時でもどうぞ」

 

 

 弓を射るのを止めてアレクシアの方へ身体を向けた。剣の技術は間違いなく俺の方が下だろうが、こういう場合の戦い方も練習済みであるためハンデじゃないが先手は譲ってやろう。弓と矢をしまうために床に放置してた袋を手に取りながらアレクシアの行動を待つ。

 

 

「……………………」

 

 

 しかし何も起こらない。数秒ほどアレクシアの方からのアクションを待つが、何もして来ないどころか剣も握っていないのを見て首を傾げる。

 

 戦うことは承諾した。向こうも始めようと言った。そして俺は大きく隙を晒している。だと言うのに何も起こらない。

 

 

「……どうした?」

「え?」

「攻撃して来ないのか?」

「剣も持ってない相手に不意打ちをさせるつもり?」

 

 

 ………あー、理解。

 どうやら俺は自分が思っていたよりも重症らしい。

 

 構えていない。剣を握っていない。見てもいない。ただそれだけで俺は相手として認識すらされていない。何も無い一般の生徒であればまだ許してもいいかもしれないが、つい最近大きな事件に巻き込まれた人間とは思えないくらいに、甘いと言わざるを得ない。これを放置すれば、多分そのうち死ぬ。攻撃されたと認識するよりも先に首が落ちる。剣術の練度は知らないが、それを発揮する間でもなく胴を二つにされる。

 

 やるべき事は理解した。なら、先手を譲るなんて真似はしない。頼られた以上、今のうちにアレクシアには()()()を教えてやろうじゃあないか。

 

 

 手に持っていた袋を離し、即座に矢をアレクシアの近くにある剣目掛けて投げる。

 

 

「ッ!? 何す──」

「ほら、今死んだぞ」

 

 

 アレクシアの意識が投げられた矢に向いた瞬間に距離を詰めて弓の弦を首に押し当てながら床に伏せさせながら耳元で囁く。

 この一連の動作には魔力など使っていないし、ましてや技術もない。ただ矢を投げて意識を別の場所に向けてから走って近付いただけで何も特別なことはしていない。誰でもできることしかしていない。

 

 

「…………またお得意の不意打ち? それ以外芸がないの?」

「その芸のない得意技にお前は今やられたんだよ」

 

 

 隠し切れない悔しさを負け惜しみに乗せながら呟かれたそれにすぐさま追い討ちを掛けてから立ち上がり、矢を拾って弓と一緒に袋に突っ込む。

 

 

「ここ来る前にも言った通り、俺に剣の才能なんてモンは持ち合わせちゃいないから剣術はてんで駄目。剣術を磨きたいなら他を当たれ。けど、こういうので良ければ練習に付き合ってやるよ。どうだ?」

 

 

 正直なことを言えば付き合ってやる義理は無いし俺にメリットの一切無い提案だが、人を頼れと言ったのは俺である以上やらなきゃいけない。

 ……七陰の面々みたいに家族みたいな関係でも無ければ何なら敵になる可能性のが高いのに見捨てる選択肢を選び切れないのは俺の悪い癖だな。

 

 俺からの問いかけにアレクシアはまだ返答をしていない。立ち上がることもせず床に伏せられたまま目を瞑って考え込んでいる。その数秒後に上半身を上げてから近くに落ちていた剣を拾い、ようやく立ち上がった。

 

 

「……それで良いわ。貴方に声を掛けたのは元より剣術を学ぶためじゃなくて、その戦い方を学ぶためだから」

「はっはっはっ、歴史に残る野蛮な姫様にしてやろうじゃあないか。あ、剣術の練習は怠らないようにな。ダーティな戦い方は不意打ち以外じゃ効果ないし、普通に戦うだけなら基礎磨いた方が良いから」

 

 

 舌を少し出して自嘲するように口元だけで笑う。そんな俺を見てアレクシアは普段通りの嫌味なセリフを返してきた。

 

 

「……まったく、どういう教育受けたら貴方みたいな戦い方になるのかしらね。親の顔が見てみたいわ。兄弟もそうなの?」

「8歳の頃に親父は強盗に殺されたし、6歳の妹達と母親はその遺体の前で尻まで犯されながら殺されたよ」

「……………………………………………ごめんなさい」

「分かればよろしい」

 

 

 亡くなった家族に対して特に情があるワケでもないので言われたところで別に気にしないし、全然こうして特大爆弾として投げ返すことができる。

 

 何だかんだあったし休日を潰されることになってしまったのは置いといて、この日を境に俺はアレクシアの練習に定期的に付き合ってやるようになった。

 

 

 

 余談だが、アレクシアが変な方向に強化されてしまったことを向こうの身内はよく思わなかったようで学園内でちょいちょい睨まれるようになったことに気付いたのはかなり後になってからだった。

 

 

 




学園内でのやり取りとかサブエピソードを描くと銃から離れる。ガンスリンガーとは
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