「失礼しました」
出たくもない大会の出場キャンセルを頼むために俺とシドは学生課に頭を下げに行ったが、一度決まったモノは変更出来ないの一点張りで学生課から追い出されてしまった。
変更出来ないんじゃあなく単に作り直すのが面倒なんだろとか思いつつも、大人しく現実を受け入れて落胆する俺たちを意識を取り戻したヒョロとジャガが外で出迎えてくれた。
「で、どうだったよ」
「ダメだ、トーナメントの組み合わせ作り直すの面倒だからって断られた」
シドと揃って大きな溜息をついて肩を落とす。何が規則だよ。俺一人を抜けさせてくれってんなら作り直すのは面倒かもだが、シドと二人分ならまだ結構楽に作り直せるだろうに。いい加減な仕事しやがって。それでも教員かよコノヤロウ。
なんて悪態ついてるところにヒョロがポンと肩を叩いて柔い口調で励ましの言葉を掛ける。
「元気だせって。ほら、これで良いとこ見せればモテモテだぜ?」
「そうですよ。ピンチはチャンスって言うじゃないですか」
「そのピンチを作った張本人が言うと言葉の価値ってダダ下がりするんだよ。僕結構怒り心頭なんだけど」
「単純に出たくねぇしな。今回ばかりはシドと同意見だ」
だがもうこっちがわちゃわちゃしてようが喚こうが変わらないのだから大人しく現実を受け入れる他ない。非常に残念ではあるがもういっそのこと出よう。そんでちゃっと負けて……だとアレクシアにまた小言を言われそうだな。……なんか俺に小言を言う女の子多くない?気のせい?
閑話休題、ヒョロの意識も戻ったし学生課で直談判も終わったので当初の予定通り銃を弄るのとイータのコート用の生地を探しに行かんとだ。しかしアレクシアとヒョロのせいで余計な時間を使ってしまったので店舗は回れそうに無い。
「とりま俺用あるからここらでおさらばしとくわ。んじゃ」
「はいはい、それじゃあね」
このまま一緒にいたら余計時間奪われそうなので三人とは別行動を取る。また誰かしらが何かしらやらかして保健室まで運ばされるのは御免蒙りたい。足早にその場を後にすると背後からはまだ三人の話し声が聞こえてくる。
「ったく、仕方ねぇな。俺がいい店紹介してやるから元気出せよ」
「い、いい店ですか?」
何の話かは分からんけどまたシドが嫌がりそうなワードだけ耳に入ったぞ。良かった一足先に離れといて。
さてと、とりあえず生地は…あんま頼ると負担になるから気乗りはしないが、あそこに行くか。
「そっちの店じゃねぇよ。最近話題のミツゴシ商会って所だ」
「……ん?」
ヒョロの口から出た店名を聞いてピタリと足を止めた。Uターンして近付きながら改めて三人の方に声をかけた。
「なに、ミツゴシ商会行くの?」
「んお、知ってるのかレイト」
「ああ。てか今から行こうとしてた店だ」
「ほー。なんだ、お前もチョコレートが目当てか?」
「チョコ?」
前世の記憶のあるシドが馴染みのある単語を聞いて反応を示した。店名聞いても何も無いからこの様子だと多分ミツゴシ商会が何の店かは知らなそうだな。
「チョコとは別に欲しいモンがあんだよ。目的地同じなら一緒に行こうぜ」
「構わねぇぞ。二人もいいよな?」
「もちろんです!」
「僕はまだ行くとは言ってないけど…まぁレイトが行くなら僕も行こうかな」
同意を得て計四人でミツゴシ商会へと往くことになった。放課後に野郎が集まってどっか行く、学生らしくてなんかいいな。
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放課後を過ごす学生には見慣れた夕焼けが空を赤く燃やす時刻だと言うのに、王都のメインストリートは人で溢れかえっている。観光地かと思う程に人が練り歩きながらそれぞれの好みの店に入っているおかげでどの店も大変繁盛していて随分と景気がいいが、その中でも極めて長い列を作っている店が一件。ここがミツゴシ商会だ。
「相変わらず、目立つ建物だな」
王都のメインストリートは一言で表せば中世の街中と言った雰囲気だが、その中で唯一モダンな雰囲気を醸し出しているためすごく浮いている。白黒の世界に一つだけ虹色に輝く存在がいるとでも言えばいいだろうか、とにかく浮いている。
だがそれとは裏腹に他を凌駕する行列はそれが功を成したのか、はたまた扱う商品の物珍しさか。
「レイトはここに良く来るのか?」
「たまにな。月が満ちるくらいの頻度だけど」
「80分待ちってプラカードにあるけど、ここいっつもこんな並ぶの?」
「買い物して帰っても門限ギリギリですね…人斬りの噂もありますし、あんまり帰りが遅くなるのは……」
ジャガが身を縮こませながら周りをキョロキョロと注視する。だがヒョロが自信満々な顔で腰刺しの剣を叩きながら口を開く。
「ばーか、こっちは魔剣士が四人もいるんだぞ?そんなの返り討ちだっての」
「俺剣持ってねーけど」
ガンスリンガーが剣なんて持ち歩くはずないだろうが。
「ま、いつまでも道のど真ん中突っ立ってても邪魔なだけだしとにかく並ぼうぜ」
「そうだな。ほら、二人共行くぞ」
「は、はい…!」
「ねぇ、人斬りってなんのこと?」
人混みを掻き分けながら列の最後尾に進むとシドが先程の会話の中で出てきたワードに興味を抱く。ふむ、逆に俺が興味無さすぎてスルーしていたが確かに何のことかはさっぱりだ。
「悪いが知らん」
「二人共知らないんですか?最近王都の夜には人斬りが出るらしいんですよ。それもかなりの腕前で、既に一般人だけじゃなくて騎士団にも犠牲が出たとか……」
「はえー、それじゃ夜は怖くて出歩けないね」
(楽しそうとか考えてそうな顔してらぁ)
三人固まって駄べりながら歩いていたので先に行ってたヒョロの後ろに着くとそこに並ぶ。プラカードを持つ女性スタッフにナンパしている様子が見えたが綺麗に無視されていたのはとりあえず見なかったことにしておこう。本人の名誉のため…いやハナからそんなモノ持ち合わせちゃいないか。
「ねぇレイト、人斬りだってさ。ちょっと今夜辺りにでも探してみない?」
俺の後ろに並んだシドが小声で話しかけてきた。
「やだよ。デカい事件でもないのに街中で銃撃ったら近くに潜んでますよーって教える様なモンだろ」
「そういう時こそ弓とナイフ使えばいいじゃん。ね?行こうよせっかく楽しそうなイベントなんだから」
「犠牲者が出てる事件はイベントとは言わん」
行きたがってる理由もどーせモブらしく斬られてみたいとかそんなんだろうし付き合う必要も無いだろうに。犠牲者なんて少ないに越したことはないし、わざわざ行っても俺まで斬られるのがオチだ。致命傷以前にかすり傷にもならないけど。
「頼むよ、キミ僕の右腕だろ?」
「嫌だっての。陰なら陰らしく何もせずじっとしてろよ」
「ねーねー、お願いだって僕の右上腕二頭筋〜」
「なんで右腕から一部の筋肉にポジション変わってんだ」
「行こうよ〜肩甲骨〜」
「腕どころか筋肉ですらなくなった。ああ、もういい、分かった行くよ。行ってやるから引っ付くなマイロード」
「お客様」
二人で馬鹿やってる最中に女性の声が掛けられ、突然のことに俺らはピタッと動きを止めて声の主の方へと顔を向けた。
紺色のミニワンピース風の制服を纏った美人の店員が俺らにスマイルを向けながらピシッと指を指して再度口を開く。
「失礼ですが、アンケートにご協力頂いてもよろしいでしょうか?」
「……え、僕?」
「はい。定期的にランダムで二名様にご参加頂く形になっております。無理にとは言いませんが、直ぐに済みますので」
「それ俺も?」
「左様でございます」
シドの反応を見るにやはりここが誰の店かは知らないようだ。ここでコイツがアンケートを拒否ることは無いだろうが、行かせないとこのまま80分近く並ばされるかもしれないので背中を押してやることにした。
「いいよ。行こうぜシド」
「え、ちょっ、レイト待っ」
「ま、待て!シドが嫌なら俺が!」
「い、いいいえここは僕が!」
「はーい聞こえなーい」
シドを押し出してやると、美人な店員が腕を組んで拘束してそのまま店内の方へと連れて行く。ふと後ろをちらりと見るとヒョロとジャガが自分も連れて行けとでも言いたげな目線を飛ばしているが、舌を出して謝罪のアイコンタクトを送ったら絶望的な表情を浮かべた。悪いな二人共、ここから先はR指定だ。子供は帰りな。
シドをまるで連行するかのように店の奥に連れて行く店員の後ろを歩いて追いかける。列に並んでいる奴らからの視線が背中に刺さるが全て無視。仮に何かしようモンならここの連中が黙っていないので俺から動くこともしないで良い。
店内に入り商品を一瞥、また商品が増えてる。生地探してもらうついでに後で何か買ってくか。
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モダンな印象の強かった店内を抜けて従業員通路を抜けるとすぐに先程までの雰囲気とは大きく変化し、豪華絢爛と言った階段が見えた。急激な雰囲気の変化に風邪をひきそうだ。客が間違えてこっち来たら何と言い訳するつもりなのだろう。
彫刻の掘られた大きな扉、眩いレッドカーペット、よく分からん銅像、映画のセットのような空間の先は、また更に別世界が広がっていた。
床は全て大理石で作られているし謎に円柱も並んでる。想像だけでギリシャを再現したかのような奇天烈な世界が姿を表す。建物の強度どうなってんだろこれ。
広げられたレッドカーペットの左右にはズラリと並んでいる。だが俺らが部屋に踏み入れた瞬間に全員がその場に跪く。
「は…、え………?」
「おら、はよ行け」
「いやちょ、あ、アンケートは…?」
「いいから、さっさと席まで行けって。全員このまま跪かせて待たせる気か?」
それだけ言ってからシドを最奥にあるアホみたいにデカい椅子の方へ誘導するように背中を押してやる。
俺に言われて渋々椅子の前までシドが進むと、その椅子の隣に立つ黒いドレス姿のエルフの存在に気付いて立ち止まった。
「永らくお待ちしておりました。主様」
ドレス姿のエルフ基、我らがシャドウガーデン七陰の第三席に位置する古参メンバー、ガンマはシドに向かって女優が如く跪いた。