ガンスリンガーになりたくて!   作:御影玲夜

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16話 報連相はしっかりしないと

 

 

 

「……ガンマ?」

「はい、お久しぶりです」

「…レイト、これは?」

「美人を前に余所見すんなよ。ほら、みんな楽にしてくれ」

 

 

 二人が適当な挨拶を交わす。俺はちょいちょい会うことがあるので形式上のやり取りはスルーして、レッドカーペットの左右に跪いて頭を垂れている面々に立てとジェスチャーして立たせる。立場的には偉いんだろうけどこうずっと畏まられるとやりにくい。

 全員が一斉に立ち上がる中でカツンカツンと甲高い音が響いているのが聞こえたので振り返ると、ガンマが腰を振りながらハイヒールを鳴らしているのが見えた。……あれそこそこ高いな。

 ちょっと嫌な予感がしたのでガンマの方へさっと移動すると案の定「ペギャッ!」とか言いながら体勢を崩したので咄嗟に体を支えた。

 

 

「ほれ、大丈夫か?」

「は、はい…。ありがとうございます、レイト様…」

「様は要らないっつの。ヒール高くして自分をより綺麗に魅せんのはいいけど、もっと段階踏みなさいな。ちょっと誰か、短めのやつ持ってきてあげて」

「うわぁレイトの保護者ムーブだ。久々に見た」

 

 

 本人が何を着ようが何を履こうが個人の自由だとは思うがそれが原因で怪我されても困るし、恥を晒すのは本人の精神衛生上よろしくない。20にも満たない子供の生きる理由今は華やかしくあれ。シャドウガーデンに属することが華やかかは知らんけど。

 体制を立て直したガンマのそばに慣れた手つきで周りの従業員がパンプスを用意し、まるで最初からそうでしたよと言わんばかりの表情でハイヒールを捨ててパンプスに履き替えた。

 

 

「お、おほん。さ、さて主様、こちらのお席へどうぞ」

 

 

 まるで何事も無かったかのようにシドを無駄に豪華な椅子に誘導する。今目の前で起こった出来事に対して流石のシドもガン無視を決めることが出来ないのか、硬直して誘導に乗らない。

 

 

「行けよ。お前のために用意した場所だぞ」

 

 

 それだけ耳元で囁いてやると、やっとシドは椅子へと足を進めた。その席に座るまでは見守らずに適当に近くのソファーに腰掛ける。俺も一応シャドウガーデンのNo.2ではあるため専用の椅子は用意されてはいたが、そう頻繁にここへ訪れるつもりもないし無駄に場所占領したところで邪魔にしかならないので撤去してもらった。どちらかと言えばちょっとデカいソファーにだらしなく座るのが好きだ。

 腰掛けて間もなく飲み物が出されたのでお礼を言いながら受け取る。ここのところ暑くなってきたので何を飲んでも美味くてため息が意識しなくても自然と口から零れてしまう。

 

 身体から汗となって抜けた水分を補うように冷えた飲み物が染み渡る。これだけであと三日は動き回れそうだと錯覚するくらいに元気になっていくようだ。………なんかホントに元気になってきた。アイスティーか何かだと思ったけど即効性の高いエナジードリンクかこれ?

 

 今何を飲んだのかを訊ねようと後ろを振り返ると、立ち上がらせたはずの一同が改めてシドに向かって頭を垂れていた。

 

 

「褒美だ。受け取れ」

「今日と言う日を、生涯の宝に致します…ッ!」

「……またやってる」

 

 

 久々に眼前で劇団シャドウガーデンが繰り広げられていた。陽の光を浴びながら椅子に座ってカッコつけてるシドが右腕を掲げ、そこから魔力を放出して部屋全体に散りばめている。急に元気になったのは飲み物の効果ではなく、どうやらこの粒子となって放たれたシドの魔力を浴びた影響らしい。

 シドに頭を垂れて魔力を浴びるスタッフ一同は感極まって震えながら涙を流していた。他の面々と同じく跪いて魔力を浴びるガンマも声を震わせて喜んでいる。

 

 

「…………………」

 

 

 俺も合わせて同じことしようかなと思い右腕を掲げたが、誰かに見られる前に引っ込めた。特定の誰か一人に対して魔力を与えて良い効力を与えることは出来なくもないが、シドみたいにあんな不特定多数に向けては無理だ。ガンスリンガー故、俺が放てるのは人を救う意味合いよりも人を殺める凶弾としての意味合いのが強い。

 ………あ、シドと目が合った。あの野郎今の動作に気付いて俺にだけ伝わるように笑ってやがる。キレそう。

 

 

「よくやったガンマ。ところで、このミツゴシ商会で扱ってる商品って昔僕が話したやつだったりする?」

「はい、かつて主様よりお聞きした神の如き知識のほんの一片を微力ながら再現させていただきました」

「へ、へぇ…。ここのことってアルファとかも知ってるの?」

「はい、勿論でございます」

「……そこのソファーで寛いでる僕の右腕も?」

「はい、太客でございます」

「おい誰に習ったそんな言葉」

 

 

 二人の会話を邪魔するつもりは無かったが突然の暴言に思わず声を出してしまった。てか太客って、月に数回しか来てないしそんなデカい買い物もしてないんだが……いやよく考えると武器庫兼バーのブラックプリンセスにある銃と弾丸の素材は全部俺が金出してミツゴシで揃えてるからあながち間違いでもないのか?

 

 まぁそんなことはどうでもいいとして、シドの表情が何か言いたげだが俺には何も言わないでガンマと会話を続ける。

 

 

「……結構儲かってる感じ?」

「現在は国内外の主要都市に店舗を展開しており順調に拡大していますので、儲かっているかと聞かれればかなり儲かってます。しかし重要なのは商会の展開に紛れてどれだけ陰に根を張れるかです」

「ふ、ふーーーーん?」

 

 

 

 

 

「ねぇレイト、僕だけハブにして自分だけそのお零れを貰ってたりしないよねぇ?僕の右腕がまさか僕に黙って甘い汁啜ったりしちゃあいないよねぇ?」

 

 

 キリっと玉座に座っていた長がぐでんとなりながら割と定期的に訪れるだる絡みモードに入ってしまった。今週3回目だ。

 

 

「そんなワケねーだろうが。確かに幾つか商品の提供もしてるけど、従業員じゃあねーからちゃんと定価で払ってるっての」

「どーだかぁ?昔っから疑問に思ってたけど君の銃弾とか諸々の費用どっから来てんのさ。あんなバカスカ撃っても困らない程度に貰ってるなら僕にも少しくらい分けてくれてもいーんじゃないのかなぁ?」

「盗賊狩る時に回収した財宝とかを資金源に回してんだよ!てかいつもその取り分お前のが多く持ってってんのに何でお前はいつも金欠なんだ。冬眠にでも備えてんのか?」

「家に持って帰れないから拠点に置いてんのに次の日いつも無くなってんだよ!」

「あれお前のかよ!誰のか分かんねぇから全部今後のために保管してっから将来大人になったら返します!」

「お年玉か!!僕にまで保護者ムーヴしなくていいんだよ!!」

「お前のと分かってりゃンなことしねぇで今頃全部我が家の食費に充ててるわ!!」

「結局保護者ムーヴじゃんか!!」

 

 

 一息の休憩も挟むことなくお互いに言いたいことを全てブチ撒き終わるとゆっくりと深呼吸をして息と精神を整える。激しく動いたくらいじゃ呼吸なんて乱れることは無いが生の感情を吐き出すとなんでこうも疲れんだろうか。

 息が整うのと同じタイミングで周囲がどよめいてるのが見えてようやく自分のやらかしに気がついた。しまった、いつものクセでついヒートアップしてしまったが、ここにいるのはこの光景が初見の奴のが大半だ。傍から見たら急にトップの二人が口喧嘩を始めたのだから驚いて当然だろう。だがしかし、俺がどうこうするよりも先にこの場を収めるためにガンマが動いた。

 

 

「レイト様、御二方の仲が良いのは構いませんけどもう少しお静かにお願いします。室内は防音にはなっていますが、万が一の可能性もありますので」

 

 

 ガンマの言葉で周囲の従業員がさらにザワついた。自分でもちょいちょい忘れがちな設定だが、一応組織のNo.2である俺に幹部枠とはいえ下の者が自重しろと言い切るのだからこうもなるか。

 

 

「……悪い。少しボリューム下げるよ」

「そうしていただけると助かります。それと、主様」

「…何さ」

 

 

 言い争いをしたばかりなのでシドの機嫌の悪さが滲み出てしまっている。だがこれもいつものことなのでガンマは割り切って話を進める。

 

 

「主様にお話をせず進めてしまったのはレイト様の意思ではありますが、これはレイト様が主様を驚かせつつ喜ばせたいという思いからの行動でございます。その証拠に、今お座りになられているその玉座はレイト様が用意したモノです」

「レイトが……?」

「ええ。ですが、実を言うとこの玉座はまだ未完成なのです」

 

 

 未完成、という言葉にシドがピクっと反応した。

 

 

「玉座の一番上にあります薔薇の刻印、そちらをご覧ください」

 

 

 首を上に向けた視線の先には薔薇の刻印。繊細に刻まれたそれは見た者全てを釘付けにするような美しさを持つ作品だが、良い目を持つ者がそれを見れば何か物足りなさを感じるだろう。現にシドの目はそれをマジマジと見て違和感を抱いている。

 

 

「それは、主様がお座りになられてから仕上げをすると言って今まで清掃だけしておられました」

「…まさかレイト、ここに僕が座ったから薔薇が咲きましたーなんて寒いこと言うつも──」

 

 

 ズダァァァンッ!!!

 

 

 シドの語りを遮るように、俺は銃を発砲した。放たれた弾丸は薔薇の刻印へと命中し、弾痕が深々と刻まれた。

 だが薔薇の刻印は崩れることは無く、それどころか弾痕によって繊細な中から荒々しさが生まれ蕾から美しい薔薇が狂い咲いているようにも、哀しいほど鮮やかな花弁が散っているようにも受け取れる。

 

 弾丸と言う種から一輪の薔薇が現れた。この一言で今は良い。

 

 

「手から魔力出してどうこうすんのは難しいが、お前に相応しい席を用意するくらいならワケねぇよ」

 

 

 別に照れているワケではないが、無粋だと思ったのでシドの顔は見ないで大人しく飲み物を一口含んだ。寒い演出だとは自分でも思うけれどもアイツはこんなのが好きだったりするはず。

 

 その寒い演出が好きな奴の反応はと言うと、数秒の空白はあったが次の言葉から感情の毒素が抜けていたのでおそらく気に入ってくれたようだ。

 

 

「…………まぁ、今回のところはこれに免じて良しとしといてあげるよ。けどレイト、次同じ手は通用しないからね」

「へいへい、脛に銘じておくよ」

「肝に銘じてよ」

 

 

 このやり取りを一連の口論の終幕とし、周りで固唾を飲んで見守っていた初見の従業員一同はようやくざわめきが収まってホッとした。

 

 

「レイト様……お静かにと言ってまだ3分も経ってないのですが」

「撃つ前に音漏れない様魔力広げたから見逃してくれ。でないとガンスリンガーとしての矜恃まで玄関で脱がなきゃいけなくなる」

「………それでしたら良しとします」

「シドにもガンマにも譲歩されてるよ。威厳ねぇなぁ俺」

 

 

 今度は俺が拗ねそう。もしかしたら今夜こっそり枕濡らしてるかも。

 

 そんなこんなであらかた戯れが終わったところでガンマと従業員一同がシャドウの前で再度跪く。

 

 

「そろそろ本題に入らせていただきます。本日主様達が来日されたのは、例の事件についてですね?」

「ああ」

 

 

 シドは頷いたが「何だ例の事件って」みたいな顔しているので多分分かってない。そして俺も分かってないし何なら要件は別にあるが、ここは空気を読んでしばらく静かにしていよう。

 

 

「申し訳ありません。現在捜査を続けていますが未だ犯人はわかりません。しかし、今しばらくお待ちください。例の王都に現れた人斬り、漆黒の衣を纏って愚かにもシャドウガーデンの名を騙る俗物は、必ず仕留めてみせます」

「ふむ……。ああ、そういうことか」

 

 

 何やら思考に耽けるとすぐに何か納得したかのようなことをボソリと呟いているが、どうせ何も分かってないのだろう。が、何の因果かアイツの思い付きや予想が外れることはほとんど無いのでまた近いうちに暴れることになるのかもしれない。

 

 

「一つ心当たりがある。それを一度探ってみよう」

 

 

 ほんと、こういう時の演技力は見習いたいね。世が世なら銀幕のスターになれただろうに、厄介な夢を持つ男には惜しいスキルだ。

 映画が見たくなってしまったな。こんなことを考えることなんてあんまり無いが、唐突に前世の世界が恋しくなった。

 

 

「それと、紹介したい者が一人います。ニュー、来なさい」

「はい」

 

 

 詳しく知らない事件の話から切り替わり、ダークブラウンの髪の見慣れない顔の少女の紹介が始まった。さっき俺らを案内した従業員だ。

 

 

「この子はニュー。入ってまだ日が浅いですが、その実力はアルファ様も認める13番目のナンバーズです。雑用や連絡係としてご自由にお使いください」

「初めまして、ニューです。よろしくお願いします」

「ほう…。用ができたら呼ぶ」

「右に同じくだ。急には呼び出さないから気楽にやってくれ」

「はっ!」

 

 

 緊張した面持ちで声を震わせながら首を垂れ、その場を離れた。あとでガンマに彼女のシフトを教えてもらおう。

 

 一応ではあるがシャドウガーデンはちゃんと労働条件と環境を整えているのでなるべくホワイト企業であろうと頑張ってる。週休完全二日制で夜間の行動が多いので夜勤手当もあるし休日出勤手当も用意してるし、あと交通費完全支給とか住宅手当とか諸々。教団の拠点襲うと財宝結構集まるので維持は容易だ。唯一の欠点は女の子しかいないので仮に追加で男入ることがあったら多分心折れること。

 福利厚生の一環で衣食住の保証は……そうだ、その衣のために今日は来たんだった。

 

 

「そうだガンマ、服作りたいから生地用意してくれない?できれば綿で」

「綿の生地なら在庫がまだありますよ。質を確認されますか?」

Just right(ちょうどいいや). あちこち見て回る手間が省けたな」

「あ、僕もチョコ買いたいんだけど。一番安いのでいいから友達割とか無い?」

「最高級のチョコを用意しなさい」

「最高級……それ、いくらぐらい?」

「友達割で10割引でございます」

「タダじゃんラッキー!」

「対価は払え対価を取れ!!」

「大丈夫ですよ、その分レイト様から取りますから」

「店主が堂々とぼったくり宣言するな!!」

「じゃあチョコ四人分でお願い」

「ふざけんな!!」

 

 

 この後猛抗議をしてどうにかシドに金を払わせようとしたが、そもそも一番安いやつを一つ買う手持ちすら無かったため結局全額俺が支払うこととなったのだった。

 

 

 

 

 

 

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