ガンスリンガーになりたくて!   作:御影玲夜

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ハウスオブザデッド2のリメイク版発売されましたね。出来の悪さにキレてます。そう考えると変にリメイクしないでアーケード版を移植してゲーム機出すタイムクライシスって良い判断だなって思いました。


18話 お見舞いなんて何かのついでで良い

 

 

 

 学生寮の専用に設けられた一室、清潔なベッドの上でアレクシアは一人ポツンと物思いにふけていた。

 

 昨晩にあった出来事について。自身が学生寮を抜け出してまで追っていた人斬りとの対峙で知り得た自分の未熟さ、そして目標となるモノとの果てしない距離感。そして、いざと言う時に何も出来ない無力さ。ああしようこうしようで自分なりに考えて動いた結果周りに迷惑をかけさせてしまう自分のレベルの低さが本当に嫌になる。

 

 戦闘で出来た怪我は医者がドン引きする速度で回復しており、確かに骨が折れて肉を抉られたはずなのにそんなモノ初めから無かったのではないかと錯覚してしまうくらいに回復した。ベッドの上で寝巻き姿ではあるが、今すぐにでも走り出せそうだ。

 だと言うのにも関わらず部屋の外には見張りが一人交代制で見張っており、寮も最上階の角部屋であるため窓からの脱出も叶わない。

 

 猪突猛進の二つ名をそろそろ貰ってもおかしくないアレクシアがこうして大人しくさせられているのは昨晩の件だけが理由ではない。一番の問題としてあげられたのが、証拠品の盗難だ。アレクシアは自身の死の間際に使おうとした教団の秘薬である赤い錠剤をくすねたことを理由に謹慎処分を受けている最中なのだ。

 

 姉の手伝いをしたい。剣の練習がしたい。だがその願いは他でもない姉のアイリスによって止められているうえに、そもそもの原因が自分であることを理解しているからこそ、アレクシアはモヤモヤしている。

 

 

「………………」

 

 

 暇だ。今まで時間があれば外に出向いて剣を振っていたアレクシアにとってこの寮の一室は狭い世界で、籠の中の鳥はこんな気分なんだと雑な感想を抱いた。

 一応謹慎処分という瞑目の療養でもあるので、室内で剣を振ればその音を耳にした見張りがアレクシアを止めに来る。勤勉な性格でもなければ何処かの誰かみたいに読書家でもないので本なんて長時間読んでいられない。誰かと交流したりも出来ないので本当にただただ暇でしかない。

 

 読書家の誰かで思い出したが、その誰かに一方的ではあるが武神祭に向けて剣術を教える約束をしたのだった。壁に掛けられている時計を確認したら丁度放課後になってから一時間程経過したくらいの時間。約束通りならば彼は今頃待ち合わせの場所に自分と同じ一人で退屈しているのだろうか。いやいや、普段あれだけ自分と一緒にいることを嫌がる顔を隠さないような人が約束通りに来るワケがない。そもそも返事もしてなかったのだから約束にすらしてないと言う方が正しい。

 

 故にこうして部屋の窓から空を眺めているだけでも、自分は約束を破ったワケではないのだと言い聞かせる。でないと彼に申し訳ないからだ。

 外の空気を入れるために全開にされている窓。そこからそよ風が入ってきて純白のカーテンがゆらゆらと揺れる。不規則に揺れるそれを見ているだけしか出来ないこの時間は、口にするつもりもない言葉をポロリと零すよう誘導した。

 

 

「今頃、何してるのかしら。レイト」

「呼んだ?」

 

 

 アレクシアはベッドから落ちかけたのをどうにか耐える。全開にしていた窓からいきなりレイトが入ってきた。

 

 

「え、えっえ………………? れ、レイト…?」

「何だよらしくねぇ。ベッドの上だとしおらしくなるタイプか?」

「いやっ、えっ、夢?」

「疑うなら自分の頬を抓ってみな」

 

 

 言われた通り頬を抓る。痛い。だが目の前にいる男は消えやしない。泡沫の夢などではなく、レイトが現れた。

 

 

「まったくどうなってんだ世の中。朝刊に載ってたけど王都に遺体が吊られてたらしいし、シドの尊厳が壊されてるし、待ってたのにお前来ねぇし。次は何だ、ランボー登場か?」

 

 

 暇で暇で仕方ないと思っていたし約束を守れなくて申し訳ないとも思っていたが、目の前に現れた男の愚痴る様な軽口の連打を聞いていたら何だかどうでも良くなって、ゆっくり深呼吸をしてからアレクシアはいつもの態度で対応を始める。

 

 

「ふー………いきなり来てそんなぺちゃくちゃ喋らないで。そこの扉の向こうに見張りがいるから、私がちょっと悲鳴をあげるだけでお縄よ?」

「おお怖い怖い。お前がいつまでも来ないから出向いたってのに、これが階級の差か」

 

 

 レイトは靴を脱いでから窓枠を降りて、近くの椅子に腰掛ける。机にカバンを置いて楽な姿勢でアレクシアの方へ耳を傾けたので顔見せで帰るのでなくしばらくはいるつもりだろう。

 

 

「そもそも貴方だって今日来るとは言わなかったじゃない。私のせいみたいにされてもこっちも困るわ」

「それを理由にすっぽかしたら剣を片手に寮まで来るのは何処の誰だよ。てか何でお前学生寮住みなんだよ。仮にも王族なんだからセキュリティ万全の専用の寮とかねぇの?」

「ゼノンに絡まれないようにするためよ。今はもう関係ないけど。それを言うなら貴方だってどうやってここまで来たの? ここ一応セキュリティもしっかりしてるし、最上階なのに」

「寮の周辺にわざと怪しい箇所作って意識向けさせたり、まぁいつも教えてる闘い方の応用だよ。後は純粋にフィジカル」

 

 

 普段なら学園でするようななんてことの無いやり取りを、何の因果か自室で行っている。けどアレクシア本人は普段よりテンションが上がって口数が増えていることに気付いていない。

 無意識ながら、自室に初めて友達が来たと言う点と退屈していたところに一切の遠慮無しで好きに話せる相手が現れたワケなので楽しそうだ。

 

 遠慮が無いのはレイトの方も同じで、普段より抑えていない。思ったことをすぐ口にするタイプだが一応は階級差を弁えているつもりだ。本人だけは。

 アレクシアの方からすれば約束を破ったからわざわざ寮まで様子を見に来たけれども思ったよりも元気そうなので愚痴の一つでも吐きに来たんだろう程度の認識だが、レイトの方は昨晩の出来事を知っているしアレクシアが来ないことは分かっていた。だと言うのにここまでわざわざ来たのは単純に、アフターケアだ。

 

 前回の誘拐事件以来アレクシアは剣術をより磨いて、更にはレイトに教わって卑怯とも言えるような搦手を駆使。だが想定していない人数との対決で敗北、そして二度も助けられた。それはつまり、自身の魔剣士としての価値を失うに等しい。加えると思春期の女の子が自信を失うと言うのは、夢を追う原動力が失われるのと同義なのでレイトとしてはとても忍びない。だからこそレイトはこうしてアフターケアにやって来たのだ。

 

 

「んで、怪我はいつ治ってお前はいつ戻ってくんだ?」

「怪我は多分明日には完治してると思う。けど……私、謹慎処分を受けちゃったからしばらくは戻れないわ」

「ほーん」

「……………ワケを聞いてこないの?」

「聞いたら面倒になる。話したきゃ勝手に話せ」

「あらそう。なら話さない」

「じゃあ、お前がまた誰かに負けたってことしか分からん」

「わざわざ喧嘩を売りに来たの?」

「二年早い」

「……短いのね」

「そりゃまあお前、教えたこと素直に聞き入れるし理解も早いからな。搦手とフィジカルしか無い俺に残された時間は多分そんくらいだ」

 

 

 目の前にいる生意気な男の言葉を聞いて困惑した。いつもしている練習では一度足りとも有効打すら与えたことの無い相手に、あと二年で追い付く。実感の湧かない評価を受けても今のアレクシアはピンとくることはないため、そんな心情を察してレイトは言葉を紡ぐ。

 

 

「この闘い方は剣術のいろはも出来ない俺が何年もの特訓と実戦で生み出した、言うなればハッタリの手品だ。それを剣術を知るお前が学んでる。しかも元ある剣術を一切色褪せることなく、どういうことかより一層磨きながら」

 

 

 飄々とした態度とあっけからんとした表情で、自身を鼻で嘲笑いながら、淡々と語っているレイトの言葉からアレクシアは確かに、嫉妬の感情を読み取った。こんなにも何も思ってないですよと言った顔をしているのに、進んで自虐のように物語っているのにも関わらず、言葉の何処かに隠しきれない感情が見える。

 

 アレクシアの話を聞く態度が変わった。今のレイトの姿には、覚えがある。悔しいと言う感情を隠しながらも平気な様子をしていたかつての自分と、その姿を重ねながら話を聞く。

 

「剣術を全く使えない俺と、剣術を磨き続けるお前。そこに同じ技術を身につければ結果なんて火を見るより明らかだろ。今俺が勝ててるのも、ただ勝ってるだけ。ンでお前が負けてるのは、()()()()()()ってだけだ」

 

 

 レイトの表情は変わらないが、声色が先程までと明らかに違う。手も強く握り締められて指が砕けそうだ。嫉妬の感情、そしてその中から幾ばくかの怒りを見た。そんな感情を直接向けられているアレクシアは、ほんの少しだけ恐怖した。

 

 そしてその恐怖は、今日初めて受けたモノで無いと何処かで感じ取ったことを本人も気付いていない。

 

 

「未来は人を裏切らない。大切なのは、生きてること。それと、続けること。過去を古い夢だとか言って捨てることもしちゃいけない。裏切るのは何時だって、弱い自分」

 

 

 まるで心の内側を見透かされてるような不気味さと、事情を何も話していないのに全てを理解しているかのような奇妙さ。常日頃からアレクシアは目の前の男を変な奴と認識していたが、こう何かを語る時は際立っておかしくなる。

 言い返したい。聞きたくない。だと言うのに身体がそれを拒んでいるかのように動いてくれない。不快感なんてモノをゆうに超えてるのに、動かない。

 

 ところが、何の感情も持ち合わせていないかのような顔をしていたレイトの表情に唐突に笑みが浮かんだ。その瞬間からアレクシアの身に纏わりついていた何かが外れた。身体がゆっくりと動くようになった。

 

 

「ま、怪我してる時に動かれると変な癖つくかもだし今日は休めよ。長々と偉そうに喋ったけど最優先は怪我治すことだからな。そっからどうしたいか決めりゃいい」

 

 

 そう言ってレイトは立ち上がり、机に置かれたカバンから一冊の本を取り出してアレクシアに手渡した。

 

 

「ほい、お見舞いの品。大人しく寝てたり本読んだりは苦手だろうからページ数少ないやつ」

「あ、ありがとう…?」

 

 

 急な話の変化に一瞬困惑して疑問形の感謝を述べる。誰が聞いてもおかしいと感じるイントネーションの返事だったがレイトはそれを気にする様子はない。

 

 

「そんでこっちが……ほい、Happy Valentine.」

「ば、ばれ…?」

「知らない? 異性にチョコを贈る日なんだと」

 

 

 もう一つ渡されたのは、レイトが昨日大枚叩かされて購入したチョコレートだった。王族という立場上、何度か食べたことはあったが朝から並んでも購入するのは叶わないと呼ばれる幻の最高級品だったとアレクシアは記憶している。その至高の一品を、レイトはさも当然の如く差し出してきた。

 

 

(もしかして…私のためにわざわざ?)

「お前も一応女の子だし甘いもの好きだろ多分。知らんけど」

 

 

 レイトなりに気を使ったのかと思ったがそんな事はなさそうだ。この発言が照れ隠しなのかどうかを理解できるくらいにはアレクシアは交友を深めているつもりだ。アレクシアの中では。

 

 

「一応って、その目は節穴? 何処からどう見ても見目麗しいお姫様でしょうに」

「自己評価たっか。まぁ違いねぇが」

 

 

 『コイツもしや私に惚れているのか?』なんてロマンティクスな感想は生まれないし似合わない。

 

 

「とりま、渡すモン渡したし長居は無用だな。これ以上話してたら最悪外にいる護衛さんに見つかるかもだし」

「…この声量で話してもバレてないんだから、まだ大丈夫じゃない?」

「寂しいんならそう言えよ。ンな顔しないでも脱出用にロープ持って明日も来るから、それまでその本読んで大人しく休んでな。面白いから」

 

 

 アレクシアの制止の声を無視して窓枠に腰掛けながら靴を履く。カバンを胸の前で抱き抱えるように持って、後ろに倒れればすぐにでも落ちることができる姿勢だ。

 

 

「あ、一応言っとくけどそれ一箱で三食分近いカロリーあるから一気食いしないようにな」

「大きなお世話よッ!!!」

 

 

 デリカシーの無い言葉を受けて窓枠に座るレイトに思わず大声を出しながらチョコレートの箱を投げつけるが、それを後方に身体を倒して避ける動作と去る動作を同時に行う。そうしてレイトはまともな挨拶もせずアレクシアの前から姿を消した。

 

 誰もいない窓枠を見て、つい反射的に怒りを顕にして数少ない友達を追い返してしまったことを後悔する。せっかく自分を心配して来てくれて、しかもわざわざくれた見舞いの品まで無下にしてしまった。

 

 直後、扉を数回叩いた後に開かれる音が聞こえた。大きな声を出してしまったせいで外で見張っていた兵士が入ってきたようだ。

 

 

「アレクシア様、大きな声が聞こえましたがどうかされましたか?」

「………いえ、何でもないわ。大丈夫」

「? 何も無いなら…良いのですが。まだ怪我も治ってないのですから、安静にしてくださいね?」

「大丈夫だから、大人しく外にいなさい」

 

 

 兵士は部屋の中を一瞥するがおかしな所はないのを確認する。誰もいないことが分かったので部屋を後にして仕事に戻った。こうして再び一人になったアレクシアは、そよ風がカーテンを揺らす光景を見てから誰もいない静かな部屋で一人、とりあえず貰った本を開いてみることにした。

 

 著者の欄にある『ナツメ・カフカ』の名前に丸を付けて『オススメ』と記されている。そういえば、闘い方を教わりに行った時や、列車に乗っている時もレイトは本を読んでいたなと思い出す。

 

 最初のページを開いていざ読もうとした時、掛け布団越しに足元に何かが当たった感触がしたので目線を向ける。そこには先程投げつけたはずのチョコレートがあった。

 即座に窓に目を向けると、レイトが顔だけ覗かせて笑みを浮かべているのが見えた。

 

 

「アディオス。また明日」

 

 

 指を二本ピシッと立てて、今度はきちんと挨拶をしてからレイトは再び去って行った。

 

 帰ったと思ったが、どうやら投げてしまったチョコレートを拾って届けるために近くにいたようだ。アレクシアのワガママに文句を言いつつ付き合ったり、今回のように何かあればちゃんと心配してくれたりと、何だかんだ優しいなと感謝した。それを口にすることはないが。

 

 ベッドを降りて窓の外を見てみたが、夕焼けに紅く染められる景色が見えるだけでもうレイトの姿は無い。今度こそ本当に帰ったようだ。いきなり来ては説教じみた話やお見舞いを寄越したり叫ばせたりと、嵐のような時間だった。

 

 

(明日はロープ持ってくるって言ってたわね…)

 

 

 明日同じ時間になったら、いつでも出られるように準備をしておこうと心に誓う。

 

 とりあえず、怪我が治るまでは貰った本を読んでみようと再度ページを捲ってみる。その片手に、貰ったチョコレートをつまみながら。

 

 

「……甘い」

 

 

 感謝の言葉は口にしなかったが、見舞いと言う名の贈り物の感想がポロリと零れた。

 

 こうしてアレクシアは、日が沈んで眠くなるまで本を読み耽るのであった。長い時間読み続けることは出来ないタイプだったはずだが、思いのほか好みに合致する内容だったので明日時間があれば本屋に寄ってみようと決めた。

 

 

 

 余談だが、アレクシアがこうして本を読むようになった要因が野蛮な闘い方を教えるレイトにあると知って姉のアイリスは複雑な気持ちになるのだった。

 

 

 

 

 




物書きも二次創作作家もコミケにいる人もみんな、感想が主食。お待ちしてます。
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