本日は晴天なり、本日は晴天なり。非常に残念ながら晴天なり。何故晴れているのが残念かって? そりゃ勿論、今日は武神祭の選抜大会の日だからだ。雨天中止を期待しててるてる坊主を1000個作って逆さに吊るしたというのにも関わらず、雨どころか雲一つない。最悪すぎる。
今日行われるのはあくまで学園生の参加者を決める選抜大会であり、本番はまだ先なのだが、そこそこの盛り上がりを見せている。しかも観客が多いからか、屋台も少なからず出店してる。手放しで喜べるのはこれくらいだ。
「親父、串焼き追加で10本」
「あいよっ!兄ちゃんよく食うねぇ」
「育ち盛りの前にこんな美味い店あったらそりゃなぁ。あ、イカ焼きも5本追加頂戴」
いくつか並んでる屋台の中から客の少ないトコに寄って両手いっぱいに食べ物を持ってもぐもぐと貪る。無くなっては頼んでを繰り返しているので永久機関の完成だ。
ちなみにシドは出番が近いので控え室に待機してる。詳しくは知らないし興味も無いが、ヒョロは全身打撲で辞退。ジャガはなんか女子寮に突っ込んだとか何かで謹慎中らしい。何してんだアイツら。
そんでもってアレクシアの奴も謹慎中なのでいない。以前の事件でお姉さんに謹慎処分にされたし、何なら最近頻繁に窓から抜け出してる姿が目撃されたせいで謹慎期間伸びたらしい。噂だとそれを手引きした奴がいるらしいけど、とんでもない男もいるモンだ。
串焼きとイカ焼きを交互に食べながら辺りを見渡すと、本番じゃあ無いのにそこそこ盛り上がっている。ただの学生の選抜大会なのになんでこんなにも人集まってるんだ? 未来を担う若者に興味がおあり? いやいや、見た感じだとそんな実力者もいなさそうだぞ。
ひょっとして、コイツら全員アレクシアの応援のために来てるのか? 自国の王女様の応援に来たけど出場しないことを知らずに応援に来てるパターンか?
まぁ何を目的に来てようが知ったことじゃあ無いんだけど。シドもどうせ初戦敗退だろうし、俺もやるだけやって早いトコ帰らせてもらいたい。
「レイト」
「んぁ?」
聞き覚えのある声に呼ばれて背後へ振り返ると、そこにいたのはゼータだった。
「あれゼータじゃん。久々だな。非番?」
「そ。大会出るって聞いたから応援に来たよ」
「非番の日にわざわざ? せっかくの休日に変なモン見せちまうぞ?」
「剣術がガンマ以下だからってタダで負けるつもりは無いんでしょ? なら私くらいは応援してあげないと、レイト拗ねちゃうかなって」
「人を何だと思ってんだ。イカ焼き食う?」
「いいの? ありがと」
左手に持つイカ焼きを渡そうとしたが、顔を寄せて俺の食べかけの方をガブリと齧り付いた。
「ちょい。そっち違う。こっち」
「ん? ああ、ごめん」
今度は串焼きをガブリとイカれた。食べかけの方を。
「ゼータさんわざやってる?」
「オフコース。使い方合ってる?」
「間違ってないけど、Duh. のが自然だな」
「да?」
「ロシア語になっちゃった」
まぁ別に怒ることでもない。食べるかと訊ねたのは俺だし、どうせ渡すなら綺麗な方がいいと思っただけだ。昔からそうだがゼータに何かあげようとするといつも俺の食べかけやら服やらを持ってかれる。コートだけはイータの匂いが移ってるなんて理由で奪われないが。
ひとまず食べかけのイカ焼きと串焼きを渡してやってから適当な場所に移動するとしよう。屋台の前だと煙がすごいからこのまま居続けたらゼータの服に匂いが移る。
「このまま立ち食いするのも行儀が悪いし、場所変えようぜ」
「それならさっき良い場所を見つけたんだけど、案内しよっか?」
「ならエスコートお願いしようかな」
「了解。それじゃあ二人っきりになれる場所と、二人っきりになる場所ならどっちがいい?」
「どこ連れてく気だよ」
「ジョーダン。ほら、着いてきて」
そうしてゼータの案内の元少しだけ歩いて、木陰のある涼しげなスペースに到着する。確かに会場を一望できる場所だし木漏れ日と風のバランスの良い中々なスポットだが、試合を観るには少し遠いので周りに人はほとんどいない。最も、俺とゼータには問題ない。
「そうだ、はいこれ。ウチのお母さんから」
居心地の良い場所で座りながら気を抜いていると、ゼータから小さな包みを手渡される。何かと思って中を拝見してみると、入っていたのは色とりどりのおかずの玉手箱、お弁当だった。
「わお、めちゃくちゃありがてぇけど反面なんか申し訳無いね。ありがとう。最近会ってなかったけど元気にしてる?」
「みんな元気に暮らしてるよ。ウチの弟もレイトに会いたがってる」
「畑の管理とか拠点の掃除任せっぱなしだし、そろそろ帰ってお礼言わないとだな」
故郷のことを思い出しながら貰った弁当を頂く。うん、良く食べさせてもらってた懐かしい味がする。先程まで食べていた屋台飯も勿論好きだが、結局のところ母親の味みたいのが安らぎを得られる。まぁ実母は死んでるし味も覚えてないけど。
一品ずつ思い出と共に味を噛み締めていると、ゼータが頭を肩に乗せてすりすりとしてきた。頭突きにも近い威力で頭をぶつけてくるので弁当を食べる手を止めて、膝をポンポンと叩くとゼータはそこに倒れ込んだ。所謂膝枕の状態だ。
「試合見える?」
「一応」
「そか」
弁当の次はこの一連の流れに懐かしさを感じる。昔からゼータと二人きりになるとこのように頭をぶつけたりじっと見つめたりして甘えさせろと合図を送る習性がある。
頭を撫でてやると頬を赤くしながらも嬉しそうな顔をしてくれる。ふにゃんと耳が倒れて手に当たるが、それもまた心地よい。
初夏の風を浴びながら飯を食い、男女二人でのんびりと過ごすとまるでピクニックでもしに来たかのような気分になるが、目線の先では誰かが戦っているのが見える。
蜂蜜色のクルクル髪の少女が黒髪の男を蹂躙している。斬られては飛び、斬られては飛び、何度も悲鳴が聴こえてくる。あんだけ一方的なのによくやるなと思ったが、目を凝らさなくてもあの黒髪の男はウチの長だった。
「ペギョエエエエエエエエエエエッ!!」
変な叫び声と共に血飛沫を飛ばしながらきりもみ回転してるその姿はまさにモブキャラ。自分こそはモブの中のモブだとでも言わんばかりに叫びながらやられている。何してんだよアイツ。
「………ねぇ、あの一方的にやられてるのってもしかしなくても主?」
「しっ、見ちゃ行けません。あんなん見たらバカになるぞ」
ゼータの目を覆ってシドの終わってんのかってムーヴを見せないようにするが、一定の周期で悲鳴が聴こえてくるので、なんと言うかもう、救えない。
「あれは……何をしてるの…?」
「どうせ初戦敗退すんだろなとか思ってたけど、あれはいつも想定の斜め下を行くな…。見てらんねぇ…」
目にも耳にも悪いので、服の下に隠してある拳銃を取り出して先端部分にスライムを纏わせてサイレンサーを生成。ゼータの耳を塞いでから遠くでズタボロにされてるシド目掛けて鉛を飛ばした。
「ギャッッ!!!」
ポスッと小さな音を立てて放たれた弾丸はシドの鳩尾にクリーンヒットして、突然の妨害によってシドは膝から崩れ落ちる。それを好機と捉えた審判がシドにそのまま寝ているよう指示を出して、急いでタンカーを呼んで担いで行った。
タンカーの上でシドはジタバタと暴れているが数人のスタッフに押さえつけられている。
「ま、まだ! まだ三十八も残って…!」
誰がどう見ても重症人が全身から血を流しながら訳分からんことほざいてるので頭打ったのかと心配されてる。ダメだ、アイツとの付き合いは家族の次に長いはずなのに俺にはあのアホが理解できないよ。
ひとまず銃を隠してゼータを撫でた。何かもう考えるだけ無駄だと悟り始めたのでどうにか心に平穏を取り戻したい。が、そのせいか撫で方が雑になってしまったようで尻尾が腕をペシペシと叩いて文句を訴えかけてくる。
「にしても、何で一般人相手にあんな派手な負け方したんだか。あれじゃモブどころかクリボーだろ」
「え、もしかして今の対戦相手のこと知らない?」
「有名人?」
コイツマジかって顔してシドのこと見てたけど、今度は俺がマジかって顔で見られてる。お相手さん、そんな有名人なのか?
「彼女は芸術の国オリアナから突如現れた最強剣士、ローズ・オリアナ。オリアナ王国から留学に来てるお姫様だよ」
「あー、ただの学生の選抜大会にしては人が集まってんなとか思ってたけど、他国の王族が来てるならそりゃ来るか。納得だわ」
「あんまり私が言えることじゃないけど、レイトはもう少し他人に関心持った方がいいんじゃない…?」
「お前がいればそれでいいよ」
と言うか経験上ゼータを膝に乗せた状態で他の女の子のことを考えたら俺の身体が爪研ぎに使われるのでなるべく考えないようにしてる。指先にスライム纏わせてガリガリやるのを爪研ぎと呼んでいいかは知らんけど。
とりあえず、シドが無様晒し終えたので今度は俺が晒す番か。いつ呼ばれんのか知らないが、変なことさえしなけりゃあそこまで恥晒すことは無いだろう。
「バーガン選手!レイト・バーガン選手!試合のお時間ですので待機場までお越しください!」
遠くで俺を呼ぶ声が聞こえた。どうやら出番らしい。
残っている弁当を急いでかき込んでから膝に転がるゼータをゆっくりと下ろして立ち上がる。念の為背負っている
試合の邪魔になるモノは全て置いて、案内スタッフの元へ向かおうとしたがその前に、ゼータに挨拶だけしておく。
「んじゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃい。変なことしないでね」
「あのアホと一緒にしてもらっちゃあ困る」
いつもの調子で軽口を叩いたら準備完了。口を閉じたら俺が俺じゃなくなる。
「はいはい、俺はここですよーっと」
大声で俺の名を呼んでいる案内スタッフの元に駆け足で追いつくと、俺を見た瞬間顔を真っ赤にしながら首根っこ掴まれて待機場に連行された。あれ、もしかして遅刻してた?
待機場に連行されてからさすがにまた待たされるだろと思っていたが、別のスタッフにもう始まるからさっさと会場入りしろとなんか怒られた。チラッと聞いてみると、シドの試合が始まったくらいの時間から呼ばれてたらしい。だと言うのに俺が一向に来ないからあと少し遅かったら不戦敗扱いだったらしい。危ねぇ。
説教されそうな雰囲気だったが時間がそれを許さないので怒ってるスタッフを華麗にスルーして一人スタスタと入場ゲートを通過して、試合会場の中央で相手選手と相見える。俺よりも先に到着してしばらく待たされてたようで、ちょっと疲れた顔してる。
審判が遅刻してきた俺をギロリと睨んだが、爽やかスマイルで返してあげた。
お相手の誰かさんも怒気を含んだ目線を向けながら剣を構えた。みんなちょっと怒りすぎじゃない? さすがに対戦相手にまで爽やかスマイルは向けずに、こっちには普段通りの表情で返す。
背負っていた
さてさて、剣術勝負で俺が勝てるとは思ってないが、戦闘で素人に負けるワケには行かないね。これでもこの日に向けてアレクシアとも剣術の練習を重ねたから、剣術で一泡吹かせるくらいはしてやろうじゃあないか。
一方の切っ先は眼前の敵に、もう一方の切っ先は明後日の方角へ向いた奇妙な光景の中、審判の腕が両者の前にスっと伸ばされた。もうすぐ試合が始まる。
スタッフ一同と相手選手の怒りと緊張が俺に注がれるのを感じながら、戦いのゴングが鳴り響く。
「試合開始ッ!!」
────瞬間、相手選手の怒りと緊張は裏返り、殺意となって俺に牙を向けた。
______________________________
選抜大会の後日、アレクシアの部屋にて反省会が行われた。
「……で? それからどうしたの?」
「柄の部分にロープ結んだ剣投げてそのまま振り回して撹乱した後に隙をついて鉄山靠で壁に叩き付けたら反則負けだって」
「……何か言うことは?」
「こういう剣術を想定してない方が悪いと思う」
「………………………………………………はぁ…。貴方の剣術の練習に付き合ってあげたせいで私の謹慎期間が延びたっていうのに」
「どちらかと言えば俺がお前に闘い方を教えてる割合のが多か「言い訳は結構」アッハイ」
今回の戦果は剣術の師であるアレクシアのお気に召す内容でなかったらしく、俺は一日かけてしこたま怒られるのであった。解せぬ。
感想コメント、ここ好き、お気に入り登録、評価、お手隙でしたらよろしくお願いします。人間これがないとモチベ上がらないのです。