俺含め誰一人と予想だにしていなかった反則負けから一週間近くの日数が経過した日、いつも通り座学の授業をバレないように眠って過ごしていた。シドの奴が試合の怪我の治療とか言って五日もサボっていたので座学でこう眠れるのも久々だ。コイツが隣にいるだけで教員は何故かこちらを見なくなるので、休み時間を含めて最高四時間はゆっくりと眠れる。俺、常々思うんだけど人間は一日に最低でも二十時間くらい寝るべきだと思うんだ。七時間程度じゃ身体着いてこないだろ普通。
逆に、隣にいるアホは独自の睡眠法で超が付く程のショートスリーパーなので俺の意見には賛同してくれない。まぁコイツの睡眠法のおかげで俺も活動可能時間が増えたので感謝してる。それでも正味寝足りないと感じるが。
けどまぁ、学園で寝ると言うことはそれを邪魔されることの方が多いし座学オンリーでないので熟睡と言うよりは、短時間でノンレム睡眠とレム睡眠を交互に行う……あー、予定時間よりも早めに目覚ましをセットして本来の起床時間までを目を瞑ってのんびり過ごす、と言う方が正しいか。こんなこと繰り返してたら自律神経が乱れまくって生活に悪影響出まくりなのだが、そこは腐っても異世界、ある程度は魔力でどうにでもできる。
そして今は休み時間。座学を終えた周りの級友達が騒ぎ始める時間なので眠りが浅くなる。寝たいから静かにしろなんて自己中なことは言わない。
「本日は貴重なお時間をいただきありがとうございます。生徒会選挙の……」
微睡みの向こうから何か聞きなれない声が聞こえたので薄目で見てみると、知らない生徒が教壇に立って演説を行っていた。ひょっとして休み時間はとっくにの終わってまた座学が始まったのか?だとしたら今やってるこれは座学でたまにある前に出て教科書読まされるやつだろうか。だとしたら俺も呼ばれる可能性があるので起きてるフリをしとかないと内申点を下げられてしまう。
上半身を机と並行になるように倒して身体を伸ばしながら一気に息を吐き出す。
「ふぁ…ぁぁぁ…」
「あれ珍しい。休み時間にレイトが起きた」
「おはよ…。あれ何やってんだ?」
「今度やる生徒会選挙の演説なんだって」
「なんだよ…目覚め損だ…」
大きな欠伸を出しながら演説をしている生徒と、隣にいるのは確かシドをボコした……ええと、ローズ・オリアナ、だったかな。そういや留学生だっけ。
座学が始まったんじゃあないなら二度寝しようかね。生徒会だか何だか知らんけど、学内のどうこうなんて誰に投票したって何も変わりやしない。無駄に権力が強い生徒会なんてフィクションだし、王族が通う学園で好き勝手してたら切り捨てられてデッドエンドだろう。なので、話をまともに聞く気は無い。
「二度寝するから、終わったら起こしてくれ」
「はいはい、よく寝る右腕だこと。ほら、生徒会長さんがキミのこと睨んでるよ」
「学生のお遊び選挙なんて興味ねぇな。机をもうちょい高くしてくれるってンなら何票でも入れてやるけど」
「キミの睡眠の質を高めるだけに予算割いてくれるワケない……ん?」
「どうした?」
突然シドが会話を切ったので隣を見る。何かと思ったら手の平でスライムを様々な形に変形させていた。が、どのような形にしてもすぐに崩れてゲル状に戻っている。
シドが魔力操作をミスするなんて万が一にも有り得ない。試しに俺も袖に隠しているスライムを糸状にして床に伸ばしてみたが、形を保てない。
何かがおかしい。そう感じて俺は意識を強制的に覚醒させ、睡魔を誤魔化した。
「シド、これは…?」
「分からない。けど、魔力が練れないのに気付いてるの…多分僕達だけだ」
「お前の仕業かと思ったけど違うならいいや」
「なんで僕を疑ったのかは置いといて…レイト、耳をすませて」
言われて耳を傾けると、誰かが走る音、何かが壊される音、悲鳴といった様々な音が聞こえた。それはどんどんと近付いて来て、数秒もしないで扉の外まで音が迫る。
「─────来るッ」
直後、教室の扉が破壊されて外から大勢の黒づくめの男達が教室の中に入ってきた。突然のことに室内にいた生徒は騒然としていたが、一人の男が剣を振るうと入口に保管されている剣が全て破壊され、その余波で教室の窓が割れた。
「全員動くなッ!この学園は、我々シャドウガーデンが占領する!」
全員仮面を付けているので区別は付かないが、グループの代表らしき一人の男が剣を向けながら叫ぶ。教室に二つある出入口は両方とも塞がれて抜け出すことは出来そうにない。
遅れて現実を認知した生徒達が声をあげながら騒ぎ出した。ほとんどの生徒が入口に剣を保管しているのでそれが壊された今、武装した集団に対して一般人以下の戦力にしかならず、加えて状況理解が追い付かずに慌てふためくしか出来ない者も多い。
そんな中何故か隣のアホは、目を輝かせて武装した集団を見ていた。
「全員手を上げろ!我々が指示を出すまで大人しく座っていろ!」
初めて海を見た子供のようなアホには気付かず、男達は淡々と騒ぐ生徒を支配しようとしている。魔力が上手く練れないからちょっとヤバいかなと思ったが、隣にこんなのがいたらそれも気にならなくなる。
……どうしよ、俺も眠くなってきた。
反撃の芽を摘むために剣を最初に壊すのは良しとして、騒がしいのをどうにもしないのはダメ。目的は知らないが見せしめに何人か殺した方が恐ろしさが伝わるし、そもそも聞いてもないんだから組織名を名乗るなよ。
減点部分をいくつか指摘はしたが一つ気になるのは、連中は魔力を使えていることだ。仮にも魔剣士のための学園だからここにはそれなりの実力者はいるのは当然として、魔力無しでの純粋な勝負なら勝つ見込みのある奴は多分何人かはいるだろう。
だと言うのに学園占拠なんてしに来たんだ。何をしたかは分からないが、連中だけは魔力を使えるようになってると考える方が自然だ。
何にせよ、コイツらはシャドウガーデンの名を騙った。なら、全員今日が命日だ。隣のアホが許さないだろうしな。
ぶっちゃけ学園で誰が死のうが正味知ったこっちゃ無いし、特許も取ってないから誰が何を名乗ろうが俺は興味無い。だからまぁ、俺はこのまま寝ようかな。
にしても何でこう学園占拠なんて中学生男子の妄想みたいなことをすんのかね。他の奴に無い力を手に入れたら精神年齢下がるよう設計されてんのだろうか。
………いやよく考えなくても俺も新しい銃手に入れる度に試し撃ちとか言って色々やるわ。仕方ないじゃん、ガンスリンガーなんだもん。
なんて変なこと考えていると、騒がしい教室に凛とした声が響き渡った。
「ここが、どのような場所かを分かっていないようですね」
声の主は、教壇の横に立っていたローズ・オリアナだった。彼女は剣を預けずに腰に携帯していたので丸腰ではない。それを抜刀し、細身で先端の鋭く尖った剣を向けて黒ずくめの男と対峙する。
「大人しくしろと言ったはずだぞ?」
「お断りします」
「……見せしめには丁度いいか」
そう呟いて黒ずくめの男もローズに剣を向ける。ザワつく教室の中で、唯一武器を持つ少女はたった一人で立ち向かう。が、ローズも細剣を構えてようやく身体を蝕む違和感に気が付く。
「ッ!これは…!?」
「ふん、気付いたか。だがもう遅い!!」
黒ずくめの男が仮面越しに歪な笑みを浮かべ、剣を振り下ろそうとするのが目に映った。魔力を使えない状態では、あの細剣で男の攻撃を防ぐことは叶わないだろう。
周りにいる誰もが攻撃を止めることは出来ないし、ローズももう攻撃を避けられない。勿論、俺も何かする気は無い。生徒を守るために一人果敢に立ち向かった生徒会長は、何も出来ずに若くして命を散らすという大して面白くもないシナリオが目の前で流れようとした。
だが、俺の隣にいる奴はその脚本に異議を唱えた。
「や、やめろおおおおおぁぁぁあああああああああああああああッ!!」
全身を黒で覆った三流脚本家による寸劇は、何の変哲もない一人のモブによって破壊された。
剣を向け合う二人の間にあまり聴かない声量の咆哮を上げながら割って入ったシドは、ローズを押し退けて代わりに斬られるのだった。
「アイツ…マジか……」
どういう意図があったかは知らないが、シドが人を助けて斬られた。この事実が意外で堪らない。絶対に人助け以外の目的はあるのだろうけど、アイツにそんな一面があるなんて知らなかった。
大量の血を零しながら力無く倒れ、その後すぐにピクリとも動かなくなる姿を見たクラスメイトが、大きな悲鳴をあげる。
「キャアアアアァァァァァァァァッ!!」
誰のモノかは知らない悲鳴と共に、教室にいる生徒達の脳には明確な死が過ぎる。
「し、シド・カゲノー君…どうして…何故、私を庇って…?」
ローズが倒れているシドを抱えて脈拍を計り、そして涙を流した。先程までの雄大さはそこには無く、哀しみと無念さに包まれて酷く空虚な姿へと格を下げる。
そこからはとにかくスムーズに事が運んだ。シドに庇われたローズ含めた生徒全員は、黒ずくめの集団の指示に従い大講堂まで大人しく向かわされる。
俺も特段抵抗も騒ぐこともせずにテクテクと歩いていく。教室を出る際に横たわるシドをチラリと見るが、一切動く様子が無い。斬られた箇所はどう見ても致命傷だし大量の血が床を汚しているのを見ても、コイツのことだから心配するだけ損だろと思い、ついつい欠伸が出る。
そんな俺を見てシドのそばに佇むローズが俺を睨んだが明日にはそいつピンピンしてるぞ、とは言わないでおいた。
感想コメント、高評価、よろしくお願いします。飢えてます。