ガンスリンガーになりたくて!   作:御影玲夜

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完成間近くらいまで描き上げた辺りで、面白くなかったので全部描き直してたら一週間経ってました。危うく大講堂の戦いが千文字で雑に片付けられるトコでした。


26話 何処まで行っても正反対

 

 

 

 大講堂の中は不気味な雰囲気に覆われ、中で捕らえられている生徒達をネガティヴな思考で埋め尽くされていた。

 

 魔力を封じられ、武器も奪われ、魔剣士学園に通う生徒としての誇りをも失いかけている。一部の生徒と教師は反撃を試みた者もいたが、その尽くが返り討ちに遭い物言わぬ亡骸と化した。

 大人しくするよう従う生徒も、銃を上手く当てられない敵の的にされてイタズラに命を失う。優秀な魔剣士を育成するための教育機関の中にある大講堂は、半日もしないで一方的で且つ残忍な狩りとすら呼べない狩猟場と成り果ててしまった。

 

 事件が起きてから何時間が経過しただろうか。魔力が封じられ、更にはどんどん身体から抜け落ちていくのを感じる。魔力量の少ない生徒の何人かは魔力欠乏症の症状が出始めている者もおり、苦しむ生徒は特に上から銃で狙われやすい。

 先程まで学友だった冷たい肉塊を見て生徒達は自分達も同じ結末を迎えてしまうのだと震えて怯える。そんな様子の生徒達を見てテロリストの集団は下品に笑う。

 

 絶望的状況の中で一人、ローズ・オリアナだけは冷静さをどうにか保っていた。

 

 彼女は隠し持っていた小さなナイフで拘束を外しており、そのまま隣の生徒へと、ナイフは順に回されている。だが今動いても何も出来やしないのを理解しているので大人しく、反撃の隙を伺い続けている。

 連中に捕まる直前に、身を呈して自身を守ってくれたシドの雄姿を何度も脳裏を過ぎらせて冷静さを保ち続ける。来るかも分からない、チャンスが来ると信じて。

 

 そして、その時は唐突に訪れた。

 

 何処からともなく光が発せられ、それが大講堂全体を、学園を包み込むと同タイミングで自身の身体に変化を感じる。

 

 封じられていた魔力が正常に使えるようになった。それを確かめることもしないで、ローズは一番近くにいる敵に向かって背後から素手で身体を貫き、片腕を血に染めながら剣を奪い取った。

 

 突如として発生した光に意識を誘導されて油断していたテロリストの集団は仲間が殺されたことに気付くのが遅れて、同じく剣を奪い取られて反撃の初動を潰すことに失敗してしまう。

 

 

「魔力は解放された!反撃の時間だ!!」

 

 

 その一言で、先程まで終わりしか見えていなかった生徒達は活気を取り戻す。中には続いて雄叫びを挙げる生徒もいたが、そのおかげで生徒は一人残らず戦う覚悟を決めることができた。

 

 小さなナイフを持った女生徒が拘束されている生徒を解放、同時に敵に飛びかかって剣を奪う。何人かは犠牲になってしまっているが、今更学友が死んだくらいでこの津波は止まらない。

 

 

「会長に続け!!」

「剣を奪え!!遺体も投げろ!!死んだ奴の分まで一緒に戦うぞ!!」

 

 

 一度着いた導火線は、爆発するその瞬間まで消して止まるつもりなんて無い。一振りで敵を薙ぎ払うローズの姿を全員が追いかけるように剣を振るい続ける。御伽噺の英雄と見紛う活躍をするローズに負けないよう、生きて共に抜け出せるようにと、魔剣士としての誇りを取り戻しながらその背中を追いかけた。

 

 ローズは敵の首を落とし、それを切っ先に引っ掛けて高所に陣取る銃撃部隊目掛けてぶつけて牽制。その動きに倣って武器を持たない他の生徒も床に転がる遺体やロープを投げて高所からの攻撃を妨害する。

 

 テロリストの集団は突然の出来事に脳が理解を拒んで思うように動くことが出来ない者もいるが、子供に負ける無様は晒さない。武器を持たない魔剣士複数人に囲まれても、少し苦戦するだけで優位であることに変わりは無い。

 戦場では突出した個よりも、平凡以上の複数が重宝される。人数の点では確かに生徒に負けているかもしれないが、圧倒的に武器の数が足りないため、その程度では負けやしない。剣を持たない魔剣士に負ける道理なんて無いのだ。

 

 するとその時、大講堂の一番大きな扉が外側から壊されて大きな音が響き渡った。

 

 

 

 

「───学園にお越しのお呼びでない皆様方、ご機嫌如何でしょう?盛大におもてなしして差し上げますので、大人しく首を差し出しなさい」

 

 

 正面の出入口へと全員が視線を向けると、片足を引いて身を沈めるアレクシアが立っていた。スカートは摘まず、両手にそれぞれ剣を握りしめて中にいる黒ずくめの連中をまるで嘲笑うかのようにそれらを投擲。剣が刺さって黒ずくめの男は虫の標本のように磔にされた。その剣を近くにいた生徒が手に取って戦力として加わる。その光景に生徒達は更なる盛り上がりを見せた。

 

 

「アレクシア様だ…!」

「助けが来てくれたぞ!!」

 

 

 騎士団が来たと勘違いして気を緩める生徒が何人か現れたが、その生徒の付近目掛けてアレクシアは道中で回収した剣を何度も投擲、蹴って寄越すなどして気を緩めるなと睨み付けた。

 

 

「さぁそれを手に取りなさい!ここにいるのはミドガルの誇り高き魔剣士!救いを求めるのでなく、自ら掴み取りなさい!!」

 

 

 アレクシアの一言で再度生徒達の士気が高まった。それだけでなく、多くの生徒に剣が配布されたので戦力となる魔剣士の数も右肩上がりに増えて敵にプレッシャーを与えた。

 持ち寄った全ての剣が生徒に行き渡ったのを見届けてから加勢する。挨拶代わりに尋常でない量の魔力を剣に纏わせて一振り、先程ローズが放った以上の剣圧で敵が纏めて吹き飛んだ。

 

 今の一振りに込められた魔力量にローズはとても驚かされたが、負けじと同等の威力を放つことは叶わなかった。魔力の解放と同時に反撃を始めた時から、長期戦にならない前提で魔力を使っていたので分配など考えられていない。魔力の残量はもうほとんど残っていなかった。

 次第に剣が重くなり、身体も思うように動かせなくなりつつある。その様子に周りの生徒は気付かない。だが例えここでローズが倒れても、一度くべられた火は消して消えないだろう。

 

 今ここで自分が死んでも、助けに来たアレクシアが先導できる。生徒達も自力でこの場を抜け出せる。そんな思考がローズの脳を覆い始めるが、かといってただ面倒な役割を放棄するつもりなんてさらさら無い。残り少ない魔力を振り絞って、何度も何度も攻撃を重ねて次々敵を屠り続ける。

 

 だが、終わりは突然やって来る。

 

 ローズがたった今放った攻撃はとうに限界を迎えた身体の最後の一撃。魔力なんて辛うじて感じられる程度しか込められていないし、力も、速さも無い並の威力。けれども、ローズが今まで剣を振ってきた中でも最高の手応えで、見る者を魅了する美しさがそこにはあった。

 

 この美しい斬撃が、ローズの正真正銘最後の攻撃。それ以降は動くことも出来ないで、鉛のように重くなった肉体が倒れないよう両足で踏ん張る

のが精一杯だった。

 そんな隙だらけのローズを敵が見逃すはずも無く、四方向から同時に殺意が向けられる。あからさまなそれに気付いても、回避の動作に移ることは叶わない。四方向から注がれる刃を前に、ローズは静かに目を閉じた。

 

 

 

 その瞬間、漆黒の旋風が吹き荒れて四人の男を追いやった。

 

 

「………え?」

 

 

 いくら待ってもローズに終わりが訪れないことに疑問を抱き、閉じてしまった目を開いてみる。そこには、漆黒のロングコートを身に纏った一人の男が佇んでいた。

 

 ローズの首を狙って飛びかかって来た四人の男達は、皆それぞれ両手を斬り落とされ、武器を握ることができなくなっている。だが次の瞬間、コートを翻すのと同時に男達の首もボトリと床に落ちてそのまま倒れ込んだ。

 

 

「見事だ。美しき剣を振るう者よ」

 

 

 ロングコートの男は、仮面越しにローズを称える言葉を向けた。その直後に、大講堂にいる全員に向けて名を名乗る。

 

 

「我が名は、シャドウ」

 

 

 仮面を付けた漆黒のロングコートの男、シャドウは剣を横一閃に薙ぎ払いながら、静かに呟いた。

 

 

「招来せよ、我が右腕(ドレッド)

 

 

 その言葉を合図に、大講堂の天井から真紅のロングコートの男が天窓を割りながら飛び込む。その男は空中で横に回転をしながら両手に握るアーティファクト、回転式拳銃(リボルバー)をそれぞれ一回ずつ指を弾いて鉛玉が計二発、曲線を描きながら放たれた。二発の鉛玉は高所に潜む銃撃部隊の脳天を貫いて上方からの脅威を取り除く。

 

 紅いロングコートの男、ドレッドがシャドウの右隣に着地。両手のリボルバーをクルクルと回転させて視線を誘導してから再度シャドウが口を開く。

 

 

「我らは、シャドウガーデン」

「ようニセモノ共。俺らの名前を使うのがブームらしいが、そろそろ版権料払って貰わねぇと困るな」

 

 

 ドレッドが両手のリボルバーを宙に投げる。それに視線が釣られて上を見ると、先程まで誰もいなかったはずの高所にズラリと黒装束の女性達が並んでいた。着地の音も侵入した際に埃すら舞うことは無く、アレクシアを除く全員が彼女達の来訪に気が付かなかった。

 

 

Make some noise(派手に騒げ)!」

 

 

 誰一人として気配を感じ取れなかった一団がドレッドの言葉を合図に地面へと降りてくる。一団のその服装に新手が来たかと身構えたが、揃って黒ずくめの男達と戦い始めたので生徒達は困惑した。

 

 突然現れた第三勢力。生徒達に攻撃をしてくる様子は無いが、自分達をここに集めて捕らえた連中と同じ組織の名を口にしたため、敵か味方かの判断が出来ていない。黒ずくめの男達は黒装束の女性達と戦い始めたため生徒全員が手無沙汰になって、ますます状況が理解出来ない。

 

 そんな中で唯一、現状に疑問を抱かないアレクシアが生徒達に大声で明確に狙うべき相手を指示する。

 

 

「黒ずくめの男達が敵!今現れた女性達と変なのは一旦無視なさい!」

 

 

 アレクシアの言葉を聞いて納得はしていないが、ひとまず標的を絞ることが出来たので生徒達は再び動き出した。

 

 

「ドレッド、この場は任せる」

 

 

 剣を一太刀振るって辺りの敵の胴体を切断しながら後方で徒手空拳、稀にリボルバーから鉛を放つドレッドへと最低限の言葉だけで会話を済ませる。

 

 

「りょーかい。あ、助けが欲しかったら遠慮しねぇで何時でも呼びな。気が向いたら行ってやる」

 

 

 対してドレッドは無駄に口数が多い。その軽口に返事をせずにシャドウはその場を後にして、ドレッドは一人遊び始める。

 この場で唯一剣を持たずに戦う彼は異質な戦い方を繰り広げていた。両手にあるアーティファクトではなく殴る蹴るで敵を倒し、たまに発砲したかと思いきや誰かを見つけてニヤリと笑いながらそちらへ鉛を放つ。何人かの黒ずくめの男を貫いたその先にはアレクシアがおり、自身に近付く鉛に気付いたアレクシアはそれを剣を構えて正面から受け止める。真っ二つに裂けた鉛が飛んで左右の男が持つ剣を破壊、直後にアレクシアが二人纏めて斬り裂いた。

 高く跳躍したかと思えば裾から何本も糸のようなモノが黒ずくめの男の首、持ち主を失って放置されてる剣へと伸びる。そのまま宙で身体を回転させながら糸を引っ張り男の首を引き抜き、剣と一緒に敵へとぶつけた。

 

 魔剣士達の戦場で、刃を持たない紅いロングコートの男が暴れている。その戦い方は前例のあるモノではなく、敵味方問わず見る者全員を驚愕させる。正面からの吶喊、空中からの搦手、背後からの奇襲、そして剣の届かない間合からの銃撃、先程まで敵が使って自分達を苦しめていたモノと同等以上のアーティファクトを使う姿は、生徒達からも黒ずくめの男達からも恐怖でしかない。

 その恐怖をばら撒く本人は、仮面越しに笑っているようにも見えるのが彼をより一層恐ろしく魅せた。恐れを知らない(ドレッドノート)が故にアドリブを幾度となく成功させるドレッドが、狩猟場と化していた大講堂を支配した。

 

 間合に入る前に死ぬ、近づいても死ぬ、目を合わせなくても死ぬ、アレクシアの言葉を鵜呑みにして良いのであれば危害を加えてくることは無いのだろう。だが恐怖が舞う光景を目の当たりにした生徒達は、如何にアレクシアの言葉であってもそれを信じきることが出来なかった。

 

 そんな中、ドレッドよりも自分達に近い場所から別の恐怖が発生したことに何人かの生徒が気付いた。

 

 

「火だ!火が回ってるぞ!」

 

 

 その言葉を聞いた者は辺りを見渡し、それが真実かどうかを確認する。大講堂の出入口と奥から火の手が上がっているのを確認したローズは真っ先に指示を出す。

 

 

「出口が近い者から外へ!剣圧で火を消して道を作れ!」

 

 

 叫びながら剣を振るうが、既に魔力も体力も底を尽きたローズの剣では道を作り出すことは出来なかった。

 一番大きな出入口からも火が上がっているため生徒達もローズの指示に従って剣を振るうが、皆揃って限界に近いため脱出を測れない。何人かは外に出ているのが目視で確認できたがこのままでは戦闘以外での被害者が生まれてしまう。どうするかを懸命に脳を回転させて思考するローズだったが次の瞬間、爆音のような破壊音が響いた。

 

 

「出口と道は私が拓きます。早く脱出を!」

 

 

 音の正体はアレクシアだった。剣をただ全力で振るって壁を破壊して、火の上がる出入口よりも大きな穴を作り出した。直後に再度剣を振り下ろして一本の道を誕生させる。出来上がった道と出口に向かって生徒は残る力を振り絞って避難を開始する。

 

 アレクシアが道を拓く。剣圧で火を避けろと指示を出したのはローズだったが、それを実現するだけでなく壁を破壊する程の魔力を温存していたのかと疑問に感じる。けど今は脱出が最優先だと割り切って怪我人を担いで避難誘導を始めた。

 

 

「騎士団が来た!」

 

 

 また新たな報告が上がった。けど今度は危機を知らせるモノでなく救いの手であるため全員が安堵し、力が途端に抜けてしまう。

 

 生き残っているが動くことの出来ない生徒がいないか辺りを見渡すローズは、その時初めて先程までいた黒装束の女性達とドレッド、シャドウガーデンがいなくなっていることに気付いた。登場と同じく、退場すら誰にも気付かれることなく消えてしまった一団は、まるで最初からそこにはいなかったかのように痕跡の一つも残ってはいなかった。

 

 

「彼女達は一体……?」

「全員急いで脱出なさい!それと手が空いてる騎士団は副学園長室に向かって!そこにも生徒がいます!」

 

 

 呆然とするローズを横目に、アレクシアは気を抜かずに誘導を続けるのと同時にこの場にいない生徒を助けるために救援を向かわせる。

 

 やがて全員の救助が終わると、二人も燃え盛る大講堂からの避難を開始する。

 

 

(シャドウガーデン…。彼女達は何者なの…?)

(レイト……何処にもいないけどまさか、死んだワケじゃあないわよね…?)

 

 

 王女二人はそれぞれ違う心情を抱えながら、その場を後にした。

 

 

 

 

______________________________

 

 

 

「よっと、シドの方は……無事に脱出してるな」

 

 

 未だ燃え続ける学園を尻目に、近くにある適当な建物の屋上から副学園長室のあった場所を見下ろした。

 屋上から全てを見下ろす陰の実力者、ね。いざこうして自分でやってみると以外と悪くない。アイツがこの景色に憧れたのも納得だ。

 

 副学園長室の壁が破壊され、中が丸見えの状態になっている。そこには胸を貫かれて横たわる見知らぬ老人と、泣きじゃくりながら騎士団の誰かに担がれて運ばれるピンク髪の少女。学園の屋上から一瞥しただけなので合ってるかは定かじゃあないが多分あれがシェリーだ。そして横たわって物言わぬ老人、あれが多分敵側の黒幕で痩騎士とか呼ばれていた男だと思われる。よく分からんが、あんだけ泣いてるってことはシェリーの身内か何かしらなんだろうか。

 罪の無い老人を殺すような奴じゃあない。理由は何か知らないが、闇堕ちでもしたのかもしれないな。

 

 まぁ、理由が何だとしても俺には関係無い。関係が無いんだ。だってそうだろう?

 

 

 今回の事件、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

 

「……世界には理由がある。物事には理由があって初めて存在できる」

 

 

 赤く燃える学園とは対照的に、青く夜を照らしている月を見ながらぼそりと一人呟く。

 

 ガンスリンガーになりたいという夢を叶えたくて俺は生きている。けど、銃を撃つ者をそう呼ぶのであれば俺は既に夢を叶えている。そこから先をどう歩めばいいかが分からなかったから、シドの夢である陰の実力者になって貰うために動いていた。叶えた後のアイツがどんな道を歩むか見たかったから。

 

 だがどうだろう。シャドウガーデンが作られ、アイツの名が世に轟き、裏で巨悪と戦うアイツの隣に俺は本当に必要なのだろうか?

 

 夢は一人じゃあ叶えられないし、人生は一人で歩めない。けどアイツは一人じゃあ無い。アイツが助けた人物がまた別の誰かを助け、次第にコミュニティが広まっていく。その広大さに気付いてないのは、なんの皮肉かアイツだけ。

 

 誰かを助けてシドの組織が広まっていくなら、俺はアイツに何をして何を与えた?

 アレクシアのように戦い方を教えてるワケでもなければ、ゼータのように家族を助けたワケでも、イータのように身の回りの世話をしているワケでもない。

 アルファのように人を纏めてなんかいないし、ベータのように何かを記すことも、ガンマのように経営を勤しむワケでも、俺からアイツに何もしてやったことがない。

 

 

「……はは、何だそりゃ。虎の威を借る狐どころか、ただの寄生虫じゃあないか」

 

 

 一方的に与えられる側として享受を続け、対価も払わずただ偉そうに居座るだけの臑齧り。窓際族のリーマンだ。

 

 前世の時からそうだったが、自分のやりたいことだけをやって生きるなんてことは出来なくて、折り合いをどこかしらで付けなければならない。そんなことはとうの昔に分かりきっていたし、シドにも何度か言ったこともある。

 だと言うのに俺はそれが出来ない。いつまでもロマンを胸に生きる夢追人(ドリーマー)な俺は、大人になることは叶わない。かと言って夢を裏切ることも、別の道を歩むことも出来ないのだ。

 

 他より成長が遅く、学習に時間がかかり、それでも前にしか進めない。それが俺、レイト・バーガンなのだから。

 

 

「まぁ、かと言っていつまでもこのままってワケには行かないよな」

 

 

 何の因果かは知らないが、一度死んだはずの俺はこの地に生を受けた。ならば歩むしかない。無様も惨めも恥も晒して、それでも夢を叶えるために。でないと、俺がここにいる理由が分からない。

 

 だが、それは問題ではあっても足を止める理由にはならない。自分が物語に必要無くても、今を生きるための引き金(トリガー)は既に引かれている。ならばもう、死ぬまで歩くしかないんだ。

 

 例えそれが、シドとは違う歩き方になったとしても。

 

 

 

「………俺は、存在している」

 

 

 月に向かってそう呟く俺の右手には、強欲の瞳と呼ばれたアーティファクトと何かの破片が握りしめられていた。

 

 

 

 

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