シャドウガーデンが結成されてから三年が経過した。年月の流れと言うのは早いモノで、この世界に生を受けて早十三年。俺とシドは十三歳になった。前世で言えば中学生に上がったくらいだ。
ディアボロス教団が実在すると分かってからアルファはものすごく頑張って教団の情報や資金集め、そして処刑される前に英雄の子孫を救出してそれをシドが(変なことしないよう俺監視の元)治療を行う。その様子を見て俺とアルファは魔力操作の極意と言うのを学んでいった。特にアルファは物覚えが良いため魔力暴走の治療法をすぐ覚えた。学びが遅いのは俺だけだった。
救出された英雄の子孫に対して毎度シドがアルファの時と同じように教団のことを語り、共に歩むかの問いかけを行う。拒否された場合でも独り立ちできるまで村に住まわせて保護するつもりだったが、今のところ誰一人としてシドの言葉を拒まない。何故こうも皆血の気が荒いのだろうか。
ちなみに救出されシャドウガーデンの一員となるメンバーはシドの屋敷で召使いとしてシドのそばにいる者、俺の村に住む者、好き勝手動く者の三通りに分かれている。まぁみんな何処にいようが割と好き勝手やってるのだが。
シャドウガーデンは現在、九名の男女によって構成されている。それと何故かは分からないがその内の二名を除いて全員が女の子。俺とシドのツートップしか男がいないから何となく気まずい。加えて言うとみんなそれぞれ個性的な子が多く、それぞれ長所がある。現在俺にしかできないことと言うのが射撃しかないのでそのうち順位は変わるかもしれない。
ついでに俺の生活スタイルも若干変わった。廃村と言われても否定できない俺の住む村の屋敷は気がついたらシドに乗っ取られシャドウガーデンの拠点となり、仕方なくベッドだけ持ち出して別の家に住んでいる。まぁ特に愛着もないので構わない。と言うか亡くなった家主の許可なく銃工房にしたりメンバーに住処与えたりしてるんだ、今更どうのこうの言える立場でもない。
最近の日課として(自主的に)追加した屋敷の清掃を行い、屋敷にいたメンバーに軽く挨拶や雑談を交わす。ここにいるみんなはかつては悪魔憑き基呪いの影響で肉塊だったが、今はその面影もなく元気に過ごしている。そして都合のいいことにみんなそれぞれ長所が別方向に特化しているので将来について様々な自分を想像してくれている。楽しいと思える人生を歩んでくれそうで一安心だ。
屋敷での過ごし方は各々異なるが、とりあえずここで俺のできることは清掃作業とみんなのお悩み相談などだろうか。男女比の気まずさと言うのはどうしても拭えないが、みんなとはそれなりに良好な関係を築けてると思いたい。
そんなこんなで、俺の日常はシャドウガーデンの存在により大きく変化した。現状に不満もなく、本当に良いのかと疑いたくなるくらいには楽しい人生を歩めていると思う。夢の続きの歩み方は未だ分からないが、最近分かったことだが人生とはどうやら自分一人だけで過ごすモノではないらしい。だから、周りと一緒に学んで確実に進みたいと考えている。前世の俺なら、いや、シドと出会っていなかったらこんなことは考えもしなかっただろう。アイツの日頃の行いのせいで全面的な感謝こそできないが、それ込みでもプラスちょいあるくらいだな。
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ある日いつものように屋敷の清掃をしに訪れると、屋敷はもぬけの殻だった。この屋敷はアジトなので仕事のために外に出ることやプライベートで外出することもあるため誰もいないことは特段珍しくもない。だが、大広間には様々な私物が整えられることなく散乱していたのでみんなの行き先が分かった。
「……シドんトコで何かあったかな」
メンバーが総動員して動いたと言うことは、教団関係かシド関連、或いはその両方だ。そしてこの散乱具合から察するに、何かしらの事件が発生したのだろうと推測される。
こういう時、アイツは大抵俺に声を掛ける。長いことつるんで来たから行動パターンは何となく理解してきた。なので一旦清掃作業には取り掛からず、工房兼自宅にUターン。
清掃道具を片付け、軽く準備運動とストレッチを始める。
「さて、今日はどいつを持ってくかな」
袖に潜めているスライムを伸ばし、机の下に隠してある鍵穴にスライムを挿入。魔力を通してスライムを変形させて数分、工房の壁がゆっくりと動き出した。
壁の中には地下へ続く階段が用意されており、それを降りると工房とは別に上の工房よりも広い銃の保管庫兼射撃場が隠されている。この場所を知るのは一人を除いてシャドウガーデンのメンバーにも教えていないシドすら知らない秘密基地だ。秘密基地は男のロマン。何故シドにすら教えていないか?メンバーの誰かが知識も無しに触ったら危ないからに決まってるだろ。
壁に掛けられた無数の銃から無造作に一挺手に取る。シャドウガーデンが結成されてから相当な数の銃を作ってきたが、初めて造って初めて使った銃身の短い水平二連散弾銃、『クラップヨアハンズ』は今後とも世話になるだろう。これよりも威力の高い散弾銃なら何本もあるし装弾数の多いモノも多く作ってある。けれどもコイツを手放すことは無い。使い勝手の良さや威力単体をロマンと呼ぶのではないのだ。余談だがこれの命名理由はいつのことかは覚えてないがシドが「その銃のリロードってなんか拍手してるみたいで面白いよね」と言ったことがきっかけだったりする。
「そういやコイツのストックも減ってきたな。時間ある時にまた予備を作るか」
部屋の奥に用意されてる的に向かってコンディション確認のため一発だけ発砲。散弾銃なので特段気にする必要は無いのかもしれないが、照準に問題はなしっと。
クラップヨアハンズをテーブルに置いて、次の装備を考える。装甲剥削用短機関銃と組み合わせてガリガリ行くのもいいし、遠くからフォローするために狙撃銃でも良い。あとはいくつか作ったバリエーション豊かな擲弾……改めて見るとここ数年でどんだけ作ったんだ俺は。
「レイト」
色々物色していると背後から声を掛けられ、振り返るとそこにはサイズの合わないロングコートを纏い、アタッシュケースを両手で持つ小柄なエルフの少女が一人立っていた。
「やぁイータ。
小柄なエルフの少女、イータは俺の問いかけにこくりと頷いて肯定する。やはり何かあったらしい。
「内容までは知らないが、決行は夜か?」
「そう。もう七陰も集まってるから…あとはレイ……ドレッドだけ」
七陰、アルファや今目の前にいるイータのように今まで助けた英雄の子孫のことを纏めてそう呼んでいる。助けた子達にはシドが加入順にギリシャ文字の名を与えているのでイータは七番目に助けた少女、そして俺が治療を行った二人目の女の子でもある。もう一人の子に関しては集合してると言っていたのであとで会えるだろう。
ちなみに俺の呼び方だが普段はレイト、シャドウガーデンとしての活動をしてる時だけドレッドと呼んでもらうよう頼んである。じゃないとシドがメンバーにシャドウ様と呼ばれるように、俺もずっとドレッド様と呼ばれてしまう。自分で言っておいてなんだが、恐怖の名を冠する者だなんてガラじゃないし様付けされるような器じゃない。怖がられるくらいなら遅いって意味の名前のが良い。
「りょーかい。準備してるトコだから少し待っててくれ」
「分かった。………あ、その前に」
先程から持っていたやや大きめのアタッシュケースを手渡す。それをテーブルに置いてからイータに尋ねる。
「なんか持ってんなと思ったら俺宛の荷物か。中身は?」
「? いちいち聞くより…開ける方が早い」
「それもそうだ」
ロックを解除して中を確認すると、アタッシュケースの中から白銀に輝く銃身が顔を覗かせる。中に収められていたのは一挺の大型自動拳銃、そしてそのマガジンだった。それらを手に取り装填すると、グリップ部分に残っていた強い魔力の残滓が俺の脳に向けて情報が流れ込んでくる。この魔力は覚えがある、と言うか毎日感じてるモノ、イータのモノだ。イータの魔力がこの銃の使い方を教えてくれる。
「…………………」
次の瞬間、射撃場の中に飛び込みながら数発的に撃ち込む。続けて周囲360°に用意された的に身体を回転させながら発砲、破壊され飛んでくる的の破片を側転や宙返りで回避しながら追撃の発砲。
空になったマガジンを飛ばし、一緒にアタッシュケースに入っていたマガジンを装填すると同時に天井に吊るされていた的の糸を撃ち抜いて無傷の状態で自由落下させ、即座に
ガンスピンの要領でナイフを回転させ、落ちてくる的を撫でるように刃で触れさせると綺麗に真っ二つになってから地面に落ちた。
全ての的を破壊し終えると、別室にいたイータが右腕を構えてこちらに向けて謎の物質を超スピードで射出した。突然の攻撃だったが慌てることなくそれを回避し、射出された何かの裏に回り込んでから一発撃つと、命中と同時に謎の物質は大きな穴を開けて破壊され、地面に落ちて動きが止まった。
イータによる追加の的が完全に動きを停止したのを確認してから、射撃場を出てイータのいる方向へ足を運んだ。
「どう…?」
射撃場を出た俺にイータが声をかける。何の前触れもなく突然謎の物質を飛ばしてきたことに対しての謝罪ではなく、銃の使い心地を聞かれた。
「
本来ならイータの行動に一言物申した方が良いのだろうが、それ以上にこの銃に対しての素直な感想が口から零れてしまった。
「俺の作ったやつよりも魔力伝導率が高いおかげで放たれる威力が凄まじい。なのに反動が他の銃と同程度にまで抑えられているからブレも少なく、ナイフへの変更もスムーズ。乱暴に扱っても関節部分に影響が全くない。ファンタジーの塊みたいな銃だな…」
「レイトが今まで使った武器の特徴とレイトの癖…全部詰め込んだ」
俺の使用を前提に調整が施され、俺にしか使いこなせないこの世に二つと無い
白銀に輝く銃のトリガーから指を外し、それを握ったまま拍手をしながら零れ落ちた感想の総括を述べた。
「パーフェクトだイータ。重さも大きさも俺の好みだし、全部乗せってのが最高だ」
「ロマン…満たされてる…?」
「ああ…。何度でも言ってやる、パーフェクトだ」
そう言うとイータは僅かに表情筋を緩める。この子は初めて会った時から感情表現が苦手なタイプだったが長いこと付き合ってきて心を開いてくれたのか、最近はほんの少しだけ感情を顔で表現してくれるようになった。銃に対する興奮も冷めやまないが、イータの微笑みを見せてくれたのもすごく嬉しかった。
白銀の自動拳銃をクラップヨアハンズの隣に置いて、次の銃を選ぶ。いや、次に手にする銃はもう決まっている。
「イータ、コイツに名前は?」
「
「シドに相談してよくそんな無難なネーミングで収まったな…。しかもアイツ、絶対これとセットで使うこと前提で決めやがっただろ」
手に取ると決めていた銃、
「あとは適当なナイフ……はもう要らないんだったな」
装備品がこれで決まった。なので次はこれに合うホルスターを用意して着用する。幸いパニッシュメントがクライムと同じ大きさなので専用に作る必要はない。壁に掛けてある二つのホルスターをパッと装着し、それぞれの大型自動拳銃をしまう。
「
「うん…」
武器を装備し、準備運動はさっき済ませた。二人で階段を登り、陽の光が差す外へ出ようとする。
「外に出る前に……イータ」
「どうしたの?」
外に出る扉の前でイータを呼び止め、両肩を掴む。そしてそのまま俺はイータの服を脱がそうとする。もう一度言う。イータの服を脱がそうとする。それに対してイータがムッとした表情をしながら抵抗してくる。まぁ突然歳上の男が衣服を剥ごうとしたらそりゃそんな顔にもなる。だがこっちにもこの行動をとる理由があるのだ。
「いつも言ってるけどそのコート俺の!なんでいつもいつも俺のコート勝手に羽織んだ!それ一張羅だから取られると困るんだよ!」
「………銃を隠すのも防御力を上げるのもスライムスーツの方が効率的。だからこれは、わたしが貰う」
「ダーメだって何度も言ってるだろうが!と言うか前別のやつあげたろ!?あれどうしたんだよ!」
「誰にも盗られないよう秘密の部屋に保管してある。みんなにバレバレなレイトの地下室じゃなくて、マスターも知らない秘密の部屋に」
「無くしたとかじゃないなら着ろよ!あとなんか聞き捨てならないことが聞こえたな!俺の秘密基地みんなにバレてんの!?」
「みんな定期的に掃除に来てる」
「マジで!?」
その後抵抗するイータからどうにかコートを奪い返した。頬を膨らませて明らかに不機嫌そうなイータをどうにか宥めて、七陰のみんなが集まるシドの屋敷へと向かった。コートを奪われたイータはめちゃくちゃ拗ねたので屋敷に向かうまでの道のりはイータを背負って進むことになった。埋め合わせと言うワケではないが近いうちにもう一着コートを買って贈ろうと思う。
どうでもいいが奪い返したコートを羽織った時、薬品の匂いと一緒に甘い香りもしたので少し着るのを躊躇させられた。
どこぞの半人半魔のデビルハンターじゃないですが、今後も新装備手に入れたらその場で試します。試し撃ちのバリエーションもう無いんで試す機会はないかもしれないです。