シドが王女様に告った翌日、学園の中は大騒ぎだった。如何に貴族と言えど、みんな中身もガワもティーンなのでこういった色恋沙汰の話には肉食獣のように飢えているらしい。他人の色恋に微塵も興味は湧かないが、相手が相手なので心配する気持ちの方が大きい。ある日突然処刑されることになりましたー、なんてことにならないように俺もシドを全力でサポートしなければだ。
学園の食堂で適当に選んだ定食を食べながら俺とシド、あと罰ゲームを提案したシドのモブ友2人の計4人で結果報告も兼ねて昨日の話をしていた。
「シド、正直言ってお前にアレクシア王女と付き合うに値するようなスペックはないぞ。俺ですら怪しいってのに」
「怪しいのはお前の見た目だよ、ヒョロ」
「シド君でOKが出たなら僕にもチャンスあったかもですね。勿体ないことしたなぁ…」
「勿体なくねぇよジャガ。例え告られる側の聴力と視力が失われていてもお前への返事は全部Noだ」
シドのモブ友達のヒョロ・ガリとジャガ・イモ。2人揃って強気な発言をしているがシドが友達として選ぶくらいにはルックスは良くもなければ悪くもない。が、モブの一言で片付けられるほどキャラは薄くない絶妙な塩梅の2人だ。と言うか2人の親は何を思ってこんな名前を与えたのだろう。
「いやぁ2人が言うほど良いモンじゃあないよ…。昨日一緒に帰っただけで立場とか育ちの良さの違いってのを嫌というほど思い知らされたし、何よりレイトも言ってたけど絶対裏があるよ」
「そもそも住む世界も違うしな。というか王女様なんだから婚約者くらいいるだろうし、これで逆に何もなかったらそれこそおかしな話だ」
流石に一晩でそこら辺の話を拾ってこれるほど交友も広くないし、ゼータみたいな諜報活動できる能力もない。せめてもう少しバックボーンを知っていれば具体的な動き方を決められたのだが、後悔先に立たず…ってのは少し違うか。
周囲に耳を傾けてみると、シドに対して色々な感想が聞こえてくる。王女を脅しただのあれが行けるなら自分も行けただの、授業中に事故を装って殺してやろうだの、そんなこと俺がさせるワケねぇだろうが。
ちょっと楽しそうなヒョロとジャガとは対照的に、シドの表情は暗いしため息も多い。止めてくれよ、らしくもない顔されるとこっちも調子が狂うだろ。
ため息を漏らしながら安い定食を食べているシドの前の席に突如、複数人のメイドが豪華なランチメニューを並べ始めた。なんだなんだと思い顔を上げるとそこには渦中の人物、アレクシア王女が立っていた。
「この席、良いかしら?」
シドの表情がまた曇った。余計なエンカウントを避けるために4人で食べて介入を阻止しようとしていたのに、王女様というだけあってかやや乱暴に割って入ってきた。明らかに嫌そうな顔をしていたシドは、一応彼氏という立場にいるのでもちろんそれを断ることはできない。
「座ればいいと思うよ」
「次は許可を得てから料理並べてくれ」
王女様の問いかけに淡白な返しをする。ヒョロとジャガはあからさまにビビって席を離しているのでこの2人の介入には期待出来なさそうだ。さっきまであれだけ大口を叩いていたのだからこんな奴より俺と付き合えくらい言わせるつもりだったのに、つまらない奴らめ。
一方アレクシアの方は俺らの返答に対して一切表情を変えずに黙って座る。こっちもこっちで何を考えているのやら。
「天気良いね」
「そうね」
シドもシドで中身のある会話をする気がないのか無難なんて言葉では表現できない低レベルな会話を繰り返す。パートナーどころか友達の距離感ですらなく、ほぼ初対面の人とのファーストコンタクトみたいな会話を俺の目の前で行わないでくれ。2人の微妙な距離感以前に普通に気まずい。
流石にこのまま居続けられるほどの強メンタルは持ち合わせているつもりもないので、こちらからアクションを仕掛けようと思う。そこのヒョロとジャガは使い物にならないので俺しか場を動かせない。モブが過ぎるのも考えモノだ。
「無駄にテーブル埋めてるが、休み時間終えられるまでに食いきれんのか?」
不意に関係の無い輩から声を掛けられたのが気に食わなかったのかは分からないが、王女様は少し眉をひそめてから返答してくれた。
「こんな量一人じゃ食べきれないわよ。けど私が頼まないと皆が頼みづらくなるから…」
「王女様に率先して食料廃棄に加担させるくらいなら俺らで貰ってもいいか?」
「え、ええ…別にいいけど……」
許可を得てからひょいひょいと肉や魚を奪い取り、胃に流し込む。王女様に提供する料理だからか手の込み方が半端ない。美味い。隣でシドも同じように肉を頬張り、先程よりも良い顔をしている。やはり美味いモンは正義なのだろう。
一方アレクシアは何とも言えないような表情で俺らを見ている。憐れみを含んでいるのか、侮蔑の目線なのかは分からないがどちらでも都合は良い。シドもこうして困ってたワケだし、これでシドと付き合うともれなく無礼な俺がオプションとして付いてくるのをアピールできれば早急にさようならしてくれるかもしれない。これこそがシドと昨夜寮で話しあって生まれたさっさと振れや作戦の一環である。
「ああそうだ。あなた、午後の実技科目は王都ブシン流だったわよね?」
「え、うん。そだよ」
もぐもぐと高そうな肉と魚を口いっぱいに頬張りながらシドが空返事を返す。
「私も同じブシン流だから、一緒に受けましょう」
「えっ、僕9部だから無理だよ。アレクシア1部でしょ?」
うちの学園は午前に基礎科目、午後に実技科目と分かれている。そしてその実技科目の中でもかなりの人気を誇る授業なので人数が非常に多い。そのためブシン流の授業は9部に組み分けされて行い、実力順に低い数字の部に分けられる。俺とシドはまだ入学して間もないので一番ランクの低い9部にいる。
「私が推薦して1部を一枠開けてもらったから大丈夫よ」
この王女普通に職権乱用してやがらぁ。
「だとよシド。断っても受け入れても面倒になるのには変わらなさそうだぞ」
「ええ…。キミも一緒ならともかく、僕一人なのはなぁ…」
「言っとくけど王女命令だからそもそも拒否権なんて無いわよ」
「なんてこった」
モブである以上…いや誰であっても逆らえない職権乱用を行われたので渋々シドはアレクシアと共に食堂を後にするのであった。
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1部と9部の授業はそれぞれ別の場所で行われるが、距離はそう遠く離れてるワケではない。シドが授業をしている1部の教室まで足を運ぶと、9部と違いこちらはまだ授業が行われていた。授業のレベルはもちろん違うのだが、9部が先に授業を終えて解散しているのに対して1部は熱心に剣を打ち込んでいるので教師の熱意も違うのかもしれない。
教室の中を覗くとアレクシアとシドが互いに向き合って剣を交えているのが見えた。交えている、と言うには一方的なようにも見えるが、太刀筋は2人共教科書のように綺麗で、剣戟の手本を眺めるような気分だった。
思ってたより楽しそうにやってるのを見てちょっと安心だ。思えばカゲノー家にいた時から剣の稽古は中々楽しそうにやってたし、モブとしての立ち回りだけでなくシドは案外戦闘を楽しむタイプなのかもしれない。
(そういやアイツ、戦いこそ至高のコミュニケーションとか言ってたっけな。オーガかよ)
なんて過去を振り返っていると教師らしき男が号令をかけ、授業の終わりを告げていた。木製の剣を片手に汗を拭きながらぞろぞろと更衣室へと向かって流れる人の波を避けながら、どんどん人のいなくなっていく教室へ入って人混みで見失ったシドを改めて探す。
人の減っていく教室の中から特定の一人を見つけるのはそう難しいことでもなく、シドはすぐに見つけることができた。ついでにアレクシアも見つけたが、何やら教師と穏やかでない雰囲気で会話をしている。
「ようシド。楽しんでるな」
「レイトにとって蚊帳の外に追いやられるのが楽しいことなの?」
「まさか。んで、あれは?」
アレクシアと教師が言い争う。怒鳴り声こそ聞こえないが、良い間柄というワケでもないようで、バチバチとお互いの目線から火花が散っているようにも見える。
そういえば9部の授業中他の奴らが話していたが、王女様には婚約者がいて、そいつはどうやらここの教師だなんてのを耳にした。詳細までは聞いていないが、今眼前で行われている言い争いを見るにこの噂は間違ってはいないようだ。
話している教師は金髪のイケメン。1部の授業を教えているのだから相当な実力を持っているのかもしれないが、残念ながら他人に全く興味が湧かない俺はアイツが誰なのかは知らない。主人公及びそのライバル探しをしていて学園内の実力者を粗方調べ尽くしているシドならあれが誰か知ってるのだろうが……まぁ知らなくても死にはしない。
「ほら見てレイト。キミのことだから多分知らないと思うけど、あの人はこの国の剣術指南役のゼノン先生だよ。階級は確か…侯爵だっけか」
俺の方からわざわざ聞かなくてもシドが親切に教えてくれた。気を使わせてしまったかな。
剣術指南役と言うことは国内でも上から数えた方が早いくらいの実力を持っているのだろうというのと、きっとかなり良い身分なのだろうか。見た感じだとまだだいぶ若いのに、人と言うのは見かけで判断しちゃいけないのだと思い知らされる。
「剣術指南役の割には随分若いな」
「若き天才ってやつだよ。しかも話を聞くにあの人、アレクシアの婚約者だ」
「………あー、じゃあお前の告白を受け入れたのって」
「多分レイトと同じこと考えてる。あの様子を見ると、ねぇ…」
婚約者同士の会話に耳を傾けてその中身を拝聴する。無礼だのなんだのというお叱りは要らないしお互いそんなこと注意し合うタイプでもない。
「私のことが嫌いでこの関係をどうにかしたくて子供ながらに頭を使ったつもりなのは分かる。けど君はやはり子供だな。そんな小手先だけの抵抗でどうにかなると本気で思ってるのかい?」
「生憎、大人の事情なんてモノは子供には分かりませんので。それに、効果の有無に関係なく何の抵抗もせずあなたを受け入れろだなんて嫌ですもの」
………これ、二人の間に何かしらの動きがない限りずっとシドが拘束されるやつだ。仲が悪いのに婚約者にさせられるのは同情してやるが、それに関係のないシドを巻き込むなよと怒りが漏れ出してきた。
この若さで剣術指南役に抜擢される天才魔剣士VS第二王女様。人の友達を闇属性のバケモノみたいな扱いしやがって、いっそここで暴れてぶっ壊してやろうか───あ。
怒りの感情の中から一つのアイデアを閃いてしまった。この二人の間柄をぶち壊してシドを解放する方法を。
「…………なぁシド、俺が目立つとお前に迷惑かけるかな?」
「んー…特に困らないどころか僕の影が薄くなるからかえって好都合だけど、君がそういうこと聞く時は大抵ロクでもないことやらかす前触れなんだけど、何する気?」
「いやほら、侯爵ってのがどんくらい偉いのかとかよく分からんけどよ、超強いからミドガルの剣術指南役に選ばれたワケだろ?」
「そうだ………あー、うん。君がやろうとしてること理解した。あんまり効果無いと思うけど、好きにやっちゃっていいよ」
「りょーかい。なぁ、ゼノン先生って言ったっけ?」
常人なら入れない雰囲気の二人にきちんと声をかけてから痴話喧嘩のど真ん中に割って入る。アレクシアはともかく、教師であるゼノンも俺に対して不快感を隠さず俺の方へ目線を向けてくれた。気の弱いモノならこの目線だけで震え上がるかもしれないが、生憎だが今の俺に恐怖は無い。何か言われる前にこちらから口を開いて要件を述べる。口を挟まれるよりも先に要件を相手に伝えるのは交渉の基本だ。
「魔力有りでいいから
「いきなり割って入って来たと思ったらなんだ、悪いが今私たちは真面目な話をしてるんだ。冗談に付き合ってる暇は無い」
「女の子に嫌がらせすんのが真面目な話?それこそ冗談だろ」
敬語なんて使わない。相手の気持ちを考慮などしない。だって今俺がしようとしてるのはただの喧嘩で、由緒正しき作法に則った決闘などでは断じて無い。
舞台に上げるために神経を逆撫でし続ける。それこそ、不敬罪で問われてもおかしくない程度に。すぐ近くにいるアレクシアは俺に対して怒りを見せるどころか俺の言葉を聞いて呆れている。
9部の一生徒が、1部の教師に喧嘩を売る。シドのような言い回しをするなら、モブが主役級のキャラに喧嘩を売っているのだ。誰が聞いても呆れるだろうし、相手にするだけ無駄だろう。だからこそ俺はゼノンに対して煽りを止めない。
「ついでに教えてくれよ。剣術指南役になったのはそこの王女様に剣術をベッドで教えるためか?それともママのコネ?」
「ふん、安い挑発だな。アレクシアと同じ子供の域を達しない稚拙な語りで私を怒らせることができるとでも?」
「子供子供って、語彙力乏しすぎないか?それとも剣振る以外は誰も教えてくれなかったか?」
俺の軽い煽りは軽く受け流される。まぁ当然と言えば当然の反応だし、相手が誰であってもこの程度のワードじゃ釣られないだろう。そもそも俺はこのゼノンとかいう教師のことを何も知らないので、有効打を与えられるワケがないのは重々承知だし、これで釣れたらラッキーくらいの認識でしかない。
だからこそ、敢えて弱い煽りを撒いてから強い言葉を与えることで逃げ道を減らして確実に乗るよう誘導する。
「別に俺が子供だろうと何でも構わねぇが、勝負を申し込まれてるのに無視すんのは大人どころか男ですらないとは思ったことないのか?」
「…………良いだろう。そこまで言うなら相手になってあげようじゃあないか」
何か一つ自信を持って優れていると胸を張って語れるモノを持っている男であればこの一言は絶対に刺さる。その胸を張れるモノが自身の生き様に強く関わるモノであるならば、誰にも負けないとすら言えるようなモノであるならば、男は必ずこの言葉に乗せることができる。
俺の挑発に乗ったゼノンは返事をしてすぐに腰に差している剣を抜いて教室の中央へと移動する。その様子を見てまだ教室の中に残って自主練習をしていた何人かの生徒が剣を振るのを止めて隅に移動してくれる。ヒソヒソと何かを話しているのが見えるがまぁ気にしなくていいだろう。どうせロクな内容じゃない。
思い通りの展開に進めることのできた俺もそれに倣って背にしている剣の封を解き、片手でそれを持ち上げる。
振るようにして前に向けると、巨大な剣は折り畳まれていた部分が広げられて刀身が更に伸びる。俺の剣、
「驚いたな。随分と威勢が良いとは思っていたが、まさかそんな玩具を持っていたなんてね。だが、そんな玩具を持ってるだけでいい気になるのはちょっと早計すぎやしないかい?」
「生憎剣の女神様は俺が嫌いみたいでね。凡人の俺が神を殺そうと思ったら、これくらいの玩具がないとまともに戦えないんだ」
「神を殺すだって?ははは、どうやら君は剣だけじゃなくて、道化師の才能も無いらしい」
『凡人』と言う単語にアレクシアが一瞬反応を示したが、それに触れる観客はおらず、その場にいるシドを除く全員が好奇と嗤侮の目で俺を見ていた。だが次の瞬間、目線の先にいるのは俺ではなくゼノンだった。
ゼノンの刀身に魔力が纏われ、その余波が風となってその場にいた全員にミドガルの剣術指南役としての貫禄を見せつける。
「君が挑むのは魔力有りでのタイマン、だったね。さて、特別授業と行こう。格の違いというのをその身に教えてあげようじゃないか」
「ふぅん、期待はしねぇでやるからやれるモンなら是非とも教えてもらいたいモンだ」
徐々に強まっていくゼノンの魔力を目の当たりにしても、ニヒルな笑みは崩れないし、そんなんじゃあ崩せない。だってもっと上の存在を知ってしまっているのだから。ここじゃあどれくらい強いのかは知らないが、その程度じゃ
喧嘩を売ったのは俺であることに変わりは無いのだが、眼前の相手から格の違いなんてモノを教わるほどの劣等生ではないつもりだ。
「私を前にしてもまだその表情は変わらない、か。果たしてその余裕はいつまで続くのかな?」
「死ぬまで、だな。そして少なくとも今日じゃあないのは確かだ」
「……教師としての情けだ。先手は譲ろう」
「そうかい。なら、遠慮なく───」
柄を両手で握り、右足と共に重心を後ろに下げる。イグジストが顔の真横に来るまで肘を引いて構えは終わる。
先手は譲ると言われた。ならその驕りに甘えさせてもらおうじゃないか。魔力を腕と後ろ足に蓄え、一呼吸置く。一瞬だけ静寂の時が訪れ、俺の一挙一動をゼノンが、アレクシアが、観客の生徒が細かく観察する。注目を集めているのを実感しながら次の動作に移る準備を済ませ、蓄えていた魔力を爆発させて攻撃を開始した。
直後、教室にいた全員が驚愕して声を漏らした。俺の放つ最初の一撃は恐らく、シドですら想像していなかったと思う。
両腕に込めた魔力で筋力を一気に強化し、その腕力で俺は手に持っていたイグジストを全力で、ゼノンに向かって
「な……ッ!?」
超高速で飛ばされたイグジストをゼノンは驚愕を隠せないが、それを自身の剣で上手く弾いて防いだ。突然の暴挙に対してゼノンは流石剣術指南役に選ばれただけの実力はあるのか、体勢を大きく崩すことなくいなしたが、呼吸が一瞬止まっていた。
そしてすぐに次の行動に対応すべく俺に意識を向けるが、先程までいた場所に既に俺の姿は無く、ゼノンはこの刹那に二度も震驚させられた。
ゼノンが動揺している隙を逃してやれるほど俺は優しくない。弾かれ上に飛ばされたイグジストを空中で手に取り、天井を蹴ってゼノンの上段へ急速に迫る。それに気付いたゼノンは俺の一撃を防ごうと剣を上段に構える。上段の構えでの防御、俺はそれを待っていた。
「チィエエストォォォォォッッ!!!」
天井を蹴っての加速に合わせて両腕に魔力を乗せてそれを爆発させることで生まれた推進力を利用した一撃は、ゼノンの剣によって容易く受け止められた。受け止められたが、それで止まるような攻撃ではない。
防御した剣が、ゼノンの腕力と魔力を突き破って更に振り下ろされる。
「んなッ!ば、バカな…こんな……ッ!!?」
俺の一撃からゼノンを守るには腕力も魔力も到底足りない。巨大な剣は、ゼノンの剣を飲み込みながら叩きつけられる。そして、イグジストを受け止めようとしたゼノンの両足は床を突き抜けて埋まり、最後まで振り切るとその圧倒的な力押しの前に完全に潰される。剣は折れ、床を抜けた両足と同じく頭部が床にめり込む。
俺には剣の才能が無かった。だから努力を重ねる。だが重ねる必要があるのは努力だけではない。自分に合った扱い方の研究とそれを実行するための創意工夫、剣術の基礎を根底からひっくり返せるだけの発想とそれを成し遂げるだけの胆力、あと筋力、そして筋肉だ。
如何に剣術を学ぼうと、才能があろうと、小手先の技が力技に適うワケがない。暴論のように聞こえるかもしれないが、これが世の心理だ。最終的には、筋肉が全てを解決する。
「───ふー…………」
床にめり込むゼノンはあまりの衝撃に意識を失っている。剣が折れた直後に魔力が頭部に回されていたので死んではいないとは思うが、とりあえず、俺の勝ちだ。
初撃も二撃目も、ゼノンは反応して対応していたので真正面から堂々と勝負を挑んでいたら適わなかったのは目に見えているし、もし次の機会があったら虚を突いた攻撃を行うことは不可能であるため、これが最初で最後の白星だ。今回勝てたのは完全に油断していたのと、俺の攻撃が初見殺しであるからだと言うのは重々承知している。だからもうゼノンと戦う機会は無いし作る気もない。
だが、勝ちは勝ちだ。それは、誰が見ても明らかな事実だろう。
「アンタのことを井の中の蛙だなんて言うつもりはないが、もう少し俺みたいな
イグジストを折り畳んで背にすると、一言も発することの出来ないゼノン相手にセリフを吐いてからその場をシドと共に走って後にした。
暴れるだけ暴れて後片付けもしないのはどうかと思ったが、あの場に長くいても良い事は何も無いため呆然と立ち尽くしていたアレクシアや観客の生徒に後始末は任せ、俺たちの一日は終わった。
俺の暴挙をきっかけに、翌日学園内でとある事件が発生することになることも知らないで。
作中でも言ってますがレイトくんが特別強いワケではなく、ゼノン先生は初見殺しに引っかかっただけです。普通に戦ったら普通に負けます。まぁ、普通に戦わないからガンスリンガー足り得る部分もありますので悪しからず。