これは、ゼノンをぶっ飛ばした次の日の出来事。俺とシドはいつものように列車にぎゅうぎゅう詰めにされながら通学すると、学園がいつもより騒がしかった。何があったかは知らないし興味もなかったので普段と何も変わらず歩いていると、周囲の生徒がヒソヒソと何かを話しているのが聞こえてくる。入学したばかりの時に背負っているイグジストのせいであることないこと言われはしたが、過去の思い出を振り返って感傷に浸るにはまだ流石に早すぎる。大方、昨日の出来事が広まってるのだろうと予想して特に耳を傾けることはしなかったのだが、この時もう少し周りに関心を持っていれば良かったなとほんの少しだけ後悔している。
午前中の基礎科目を終えて食堂に向かい、ここでもいつものように適当な定食を注文して席に着いた瞬間、染み付いた日常とは異なる出来事が起こった。
「少し…いいかな?」
肩を強く掴まれて後ろを振り返ると、頭部に包帯を巻いているゼノンが立っていた。そして言葉に怒気を含んでいる。表情こそ比較的笑顔ではあるが、明らかに俺に対する怒りが滲み出されているのが見て取れた。
ゼノンの態度に大人気ないなと思いながらも食事を始めながら話を聞いてやることにすると、端的に纏めるとどうやら昨日の勝負が終わった直後にアレクシアが誘拐されてしまったらしく、その犯人として恋人であるシドが容疑者として上がっているのだとか。それと何故か誘拐に加担した疑惑があるとかで俺まで容疑者として名前が上げられたらしい。
いちいち説明する必要もないとは思うが、ゼノンを叩き潰したあとすぐに寮に戻ったので誘拐された時間のアリバイはない。だが誘拐した証拠もないので恋人だからと犯人扱いされちゃたまったモンじゃないのだが、食堂の入口を塞ぐ殺意を隠さない王国の騎士団が完全武装で今か今かと俺とシドを待ち構えている。
銃があればどうとでもできるが、手持ちの装備はイグジストのみなのでこの人数を相手取るのは恐らく不可能。何度も言うが俺に剣の才能なんてモノは無いため王国の騎士相手に立ち向かったところで返り討ちに遭うのがオチだ。
「君たちを疑っているワケではないが…もちろん、協力してくれるね…?」
怒りの他に微かだが殺意が込められたゼノンの言葉に今は大人しく従うほか無い。返事をしていないのに食べている最中の定食を勝手に下げられたので拒否したところで無駄だろう。俺たちは大人しくゼノンの言葉に従い食堂を後にするのだった。
あーあ。剣術指南役が9部の生徒に負けたとなればアレクシアとの婚約が考え直されるかもとか思って暴れたが、このような形でしっぺ返しを食らうとは思わなんだ。この世界ではどうやら筋肉だけで全ては解決できないらしい。まぁ前世もそうだったんだけど。
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騎士団から解放されたのは拘束されてから5日後のことだった。留置所のような場所で爪を剥がされたりナイフで薄皮を切られたり、電撃を浴びせられたりもした。殴る蹴るは当然のようにされたが、吐くモノもないのでこの5日間は本当に退屈だった。
別の部屋でシドも同じように拷問を受けさせられていたようだが、アイツ、大してダメージもないのに別室の俺にまで聴こえる声量で見事な悲鳴を上げていた。ほんと、アイツのモブ精神には恐れ入るね。
それにしても王国の騎士と言うのは実力が無くても入団できるらしい。誘拐されたらしいアレクシアの情報を聞き出すよりも俺を痛めつけることだけしか頭になかったようで、ため息以外出てこない俺に延々と電撃を浴びせ続けていた。効果無いんだってば。あの程度の拷問で音を上げるようでは到底イータの実験には付き合えないし、機嫌の悪い時のゼータの引っ掻きに耐えられない。
疑いは未だ晴れていないが、ひとまず解放されたのでちゃっちゃと服を着て帰って寝よう。拷問中退屈だったので寝ようとしたら何度も熱せられた油を垂らされたので満足のいく睡眠を取れてないので早いとこ寝たい。こういう時だけシドのショートスリーパーな体質が羨ましく思える。
「はぁ…ねぇレイト、僕今モブっぽい?」
「5日も拷問受けるような奴がモブであってたまるかよ。拷問受けてる時の悲鳴はモブそのものではあったがな」
「そう…ならいいんだ。今その一言が聞けなかったら人影の少ない路地で八つ当たりするかもしれなかったよ…」
「今度は選択肢ミスんねぇで良かった」
爪がないせいで着替えに手こずるシドが珍しく怒りと愚痴を零す。長い付き合いだがこんなシドを見るのは初めてかもしれない。この状態のシドを野放しにしたら何をしでかすか分からないな。
少なくとも、俺らの背後にいる尾行とはエンカウントさせない方が良さそうだ。
「とりあえず帰ろうぜ。腹は減ったし眠いしで、他のことに気をかけてらんねぇよ」
「他のこと…ああ、そういうことね。うん、今日はさっさと帰って寝ようか」
尾行に気付いたのか不自然にならないようシドは再度モブムーヴを行い、留置所を後にする。とぼとぼと憔悴した顔で俯きながら寮へ向かう足取りはモブそのもの、怒りを内に秘めていてもこの動きをできるのだから尊敬させられてしまう。
列車に乗ろうと駅のホームで待機していると、到着した列車から降りる乗客を見送って乗ろうとしたタイミングで、乗客の一人が耳元で囁いた。
「二人共、あとで」
声のした方へ振り返るが、そこには一般客の姿しかない。だが俺とシドはささやかな香水の香りを嗅ぎとり、声の主が誰かを判別した。
「シド、今のは…」
「うん、アルファだね」
長いこと会ってなかったが、七陰の長が俺たちの前に姿を表した。それはつまり、夜の帳が降りて影の時間が始まる前兆であった。
どうやら、近いうちに騒がしい夜が訪れるらしい。さっきまで退屈な拷問を受けていたせいでテンションはすぐには上げられないが、そうも言ってられない。久々にガンスリンガーらしいことができるという点を強く感じて、来るべき夜に備えて無理矢理にでも気力を上げるとしよう。
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列車に数十分揺られた後に俺たちは久々に寮に戻って来た。戻った頃には日も暮れていたので寮内は夕食で賑わっていたが、その喧騒を他所に一目散にそれぞれの部屋へとなだれ込んだ。
服も汚れているし風呂になど入れさせて貰えなかったので汗の臭いも半端ないのは分かっているのだが、眠らずにはいられない。どうせこの後さっき声をかけてきたアルファがやって来るんだから、それまで寝てたってバチは当たらないだろう。まぁ起こされたところで目を覚ます自信なんて皆無なのだが。
俺は靴だけ脱いで制服のままベッドにダイブした。安物のベッドなので硬さが目立つが、その硬さが俺には丁度いい。柔らかすぎないシングルベッドが5日ぶりの俺を優しく受け止めてくれたので、ベッドのその思いを無下にしないためにも俺は意識を吹っ飛ばし始めた。ほんの少しだけの仮眠のつもりだったが、この調子なら熟睡までに至るのに五分もかからないだろう。
「……………」
ふわふわとしてきて思考が上手く纏まらなくなり始めてきた。まるで長時間サウナに入って外気浴を行っている最中のように、まぶたの裏側を見ながら世界をかき混ぜていくように、意識が朦朧とし出す。段々衣類も纏っていないのではと錯覚し始めてきたのでいよいよだ。
「……………」
今襲われたら確実にやられると断言できる程度に正気は消え去った。あとは脳が安らかになれば完璧なのだが、そこまで至るのにはあと数分必要だろうか。ここまで意識が無に溶ければもう誰も俺を止められない。俺以外誰もいない部屋とそのベッドには、俺の呼吸音と心音だけが静寂のフォルテッシモとして響いている。ひんやりとしたシーツが腕や胸部を優しく撫でる感覚は結構好きだ。
「……………えい」
「んぬぉわぁ!?」
死の間際かというくらいに熟睡に近づいていたにも関わらず、俺の安眠は唐突に阻害されてしまった。
だいぶ重くなっていたまぶたを持ち上げて部屋の中を見渡すと、先程まで何も無かったはずの部屋には大量の機器が持ち込まれていた。そして俺のすぐ隣には怪しげな薬品と注射器をちょうど今俺の腕に刺して注入しているイータの姿があった。
「い、イータ…?」
「あ……起きちゃった。寝てる時のデータ…欲しかったのに」
安眠を妨害した張本人、イータは俺の目が覚めたことを残念がりながら追加で投薬を行ってメスを一本取り出して皮を剥いだ。
「いだだだっ、イータさん、イータさん何してんのいででっ!」
「疲れきった時のレイトは…データが取りやすくて楽…」
「そうなんだ良かったね!けど痛いんだよやるならせめて起きてる時に許可得てからやってくれンで今は寝かせてくれ!」
「………むぅ」
ムスッとした表情で器具を片付け始めるイータ。ついでに部屋に現れたその謎の機器も片付けてくれると大変ありがたいのだが、その願いは経験上叶わないだろうと踏んでいる。
片付けてる横で腕の傷を魔力で塞いで身体に巻き付けられた機器も外していく。途中なんか変だなと思ったら、制服が剥がされて上裸にされてしまっていた。シーツの冷たさじゃなくて実験機器の冷たさだった。
粗方片付けを終えたイータ。何の説明もなく二ヶ月ぶりに顔を見せた暴君少女は俺の衣類に続いて布団を剥がしてベッドに侵入を開始した。
シングルベッドで、他より体躯が良い俺にしがみつくように密着する七陰の中でも小柄なイータ。うん、狭い。
「……あのイータ、何してんの?」
「寝る」
「……寝る前に聞かせてほしいんだけど、何しに来たの?」
「レイト…帰ったらすぐ寝るから…アルファ様に起こしてって…頼まれだ」
「……んでイータは何してんの?」
「寝る」
「明らかな人選ミス」
そもそもアルファがいつ来るのか教えてくれれば俺一人起きてれば済んだのに、アルファなりにイータに気を使ったのだろうか。だとしても結果がこれなのだから人選ミスだ。遣いを寄越すならゼータを贈れば良いモノをと思ったが、あの子の仕事は諜報活動なので都合が合わなかったのかもしれない。下手に責めるのはよそう。
とりあえずイータも寝てしまったので俺も寝よう。こうして二人で寝るのも久しぶりだな。
「おやすみな──」
「起きなさい!」
「あでっ」
「いだっ」
再度眠りに落ちようとした瞬間、今度はアルファが現れて俺とイータの頭を叩いて文字通り叩き起こした。
二人揃ってまぶたを擦りながら上半身を起こし、アルファの顔を見る。予想通り寝てしまっていたからなのか、その表情は何処か不機嫌そうだ。
「イータ、私貴女に何て頼んだか覚えてるかしら…?」
「レイトを起こせって」
「確かに起こされたな」
「任務完了」
「了解速やかに帰投、或いは就眠せよ」
「任務了解」
「「おやすみなさい」」
「寝るな!!」
二人でアルファにキチンと敬礼してから寝ようとしたらまた叩かれた。解せぬ。
「あなたねぇ…シャドウもそうだったけど、状況が分かってるの?」
「なんだ、先にアイツんトコ行ってたのか。アイツは何て?」
「段取りは任せるとだけよ。いつものことだけど、彼が何をしようとしてるのかは何も教えてくれなかったわ」
「指示も貰ってるんなら尚更俺とのやり取りなんて不要だろうに」
俺の一言で何かを変えられる程の権限も無いのはアルファが一番よく分かってると思うのだが、律儀な奴だこと。
「アレクシアは今どうなってるか分かるか?」
「まだ生きてるわよ。濃度の高い英雄の血を抜かなきゃいけないから、しばらくは殺されないでしょうね」
「そりゃ良かった。拷問受けてる間に殺されてたらどうしようかって心配だったんだ」
「分かってるとは思うけど一応言っておくと、レイトがあのゼノンって侯爵に手を出さなければ貴方まで拷問されることは無かったのよ?」
「遅かれ早かれ、だろ。シドが迷惑を被った。俺が場を乱した。ゼノンが何かしら動いた。間に俺が割り込んだだけで、演目は変わっちゃいねぇよ」
「………そう。その口ぶり、どうやらゼノン侯爵が何者か知っているのね」
「剣が上手な歳下好きだろ?それも一回り離れた。世が世ならお巡りさん案件だ。アイツも教団側か?」
「からかわないで。こっちは真剣な話をしてるの…」
適当な言い分をする俺の態度にアルファが片手で頭を抑え初めてしまった。最早見慣れた光景ではあるが、自分の言葉を悔い改めるようなタチではないし、むしろ積極的に発言していきたい。
しかしいつまでも困らせるつもりはない。真面目な女の子の困り顔には需要があるが、子供のまま大人になった夢追い人としては未来ある若者を弄んではい終わりとするつもりはないのだ。
ベッドに横になって肘を立てて手に頭を載せる。それに合わせてイータも横になったので頭を撫でてやりながら、話し方もテンションも変えないが、声色だけ僅かに変化させてアルファに語り始める。
「別にあのロリコン指南役が何者かなんて知らないし、興味無いね。更には俺はシドみたいに悪運も強くないし言霊も持ち合わせちゃいない。だから俺がNo.2、言いたいこと分かるか?」
「話を逸らしてるようにしか聞こえないわよ」
「逸らしてんだよ、話す必要がないから」
頭を抱えるのではなく、俺の言葉と態度に若干の苛立ち、そして不信感を抱き始めるアルファ。この子は俺やシドなんかよりも賢く真面目で、それ故に考えすぎる節がある。特にシドの言葉になんかは裏なんてないのに言葉の奥に潜んだ本当の意味を考えようとしてしまう。
真面目で行動力もあるのは美徳だが、度を過ぎればそれはただの暴走だ。だからいつもおかしな言い回しこそするが、最後は必ず伝えたい言葉をハッキリと口にする。改善にはなってないのかもしれないが、伝わらない言葉に意味なんてない。
「シャドウはアルファに段取りは任せるって言ったんだろう?なら俺に話すべきなのは作戦内容。世間話はそのついでで良い」
イータを撫でるのを止めて親指と人差し指をピンと伸ばして指鉄砲を形取り、それをアルファに向けて気の抜けた声で「ばーん」とか言ってやる。茶化した動作で一息置いて改めて自分の立場、在り方を再度語る。
「知っての通り俺は引き金を引くしか脳のないガンスリンガーだ。名前の通り頭の回転も遅いし寝坊助で、シャドウみたいな剣術も、能力も、カリスマもない。さっきのと合わせてこれが俺がNo.2たる所以だ。実際二番目のメンバーだしな」
声色を普段の
引き金を引く。弾は飛ばないが、強い言葉が指からではなく口から発射される。
「シャドウはお前に任せると言ったんだろ?それは押し付けじゃなく、信頼だ。なら最低限それには応えてやろう」
引き金を引く。薬莢は出ないが、心の臓を強く引き締めるような言葉が強い圧力で放たれる。
「失敗なんてさせないさ。俺とシャドウがいるんだからそれは有り得ない。標的を定めたのならブレさせるな」
引き金を引く。火花は散らないが、深い影の中から手を引かれているかのように錯覚し、呼吸が止まりかける。
「気に食わなかったり問題があるならその都度指摘はするが、最終的には俺が無理矢理どうにかするさ。そのための弾丸は用意してある」
引き金を引く。轟音は響かないが、恐怖の名を冠する影の右腕の言葉だけしか耳に入らず、五感で言葉を受け止める。
「きっと上手くいく、じゃあなく上手くやってやるさ。引き金を引くだけじゃくて、当てるまでが俺の役目だからな」
引き金を引く。閃光は見えないが、何かに撃ち抜かれたような感覚が身体を震わせる。
「ま、色々それっぽい言葉並べはしたが…要するにこうだ」
引き金を引く。何も起こらない。弾切れだ。そもそも最初から弾なんてモノは入ってないし何かが起きる方がおかしい。
「
声色をいつものモノに戻して、自分で作り出した張り詰めた空気を自ら破壊して話す。普段通りに戻った俺を見てアルファはほんの一瞬だけ呼吸のリズムを取り戻すために息を吐いた。
意志や内心を伝えるにはいくつか種類はあるが、俺はどうも不器用だからこんなやり方でしか確実に伝えられない。前世の頃から誰かと話す機会が少なかったのでコミュニケーション能力は低い自覚はあるが、擬似的な催眠状態を作り出さないと言葉を伝えられない自分が嫌になる。罪悪感が強く残るからあまりやりたくないんだよな、これ。
呼吸を整えられたアルファはいつもの凛とした顔で改めて俺と向き合い、先程芽生えた不信感や苛立ちが無くなったのかそれらを感じさせない声で言葉を並べ始めた。
「ごめんなさい。貴方がしようとしてることを尋ねるなんて、愚問だったわね」
「いやいいよ。むしろこんな指示待ち人間の俺が偉そうに語ってごめんな」
「謝らないで。ガンスリンガーさんは頭じゃなくて人差し指一本しか動かせないのを忘れてたのは間違いなく私の落ち度だから」
「言うようになったじゃないか。否定材料が無さすぎて泣きそうだ」
「ふふっ、シャドウの次にレイトとの付き合いが長いのが誰か忘れちゃった?」
「ンなワケ。お前は代わりのいないファーストチルドレンだよ」
ついさっきまで恐怖を込めた言葉を飛ばしてビビらせてたとは思えないような和やかな雰囲気で雑談が行われている。段取りはアルファに任せるとお互いに確定させたのであとするべきことは雑談だ。そうなると俺の言葉も個性として受け入れてもらえるのでアルファも気に障るようにはならず、楽しい一時として順応してくれている。女の子は雰囲気を重視するとはよく言ったモンだ。
ここは寮の俺の部屋。角部屋で他より広く隣は壁に穴が空いているとかで使用禁止、つまり多少騒いでも隣人に迷惑をかける心配もないので端的に言えば今この瞬間に水を差しに来る無粋な輩はいない。短時間ではあるがあまり穏やかじゃない時間を作ってしまったので、それを上書きするかのように和気あいあいと雑談を楽しむ。久々に会ったアルファと昔話に花を咲かせるのに、隔心なんてモノは挟まれない。
アルファの気を張って固かった表情も今はすっかり緩んで凛とした美人から年相応の少女のような風骨だ。これを見て邪魔をするような輩などそう多くはなあだだだだだだだだ──
何故か頬を思いっきり引っ張られる。突然のことだったので何が起きたのかと思ったら、ムスッとした形相のイータが俺を睨んでいた。
「どうした、どうしたよイータさん」
「撫でるの…止めたと思ったら、わたしだけ…蚊帳の外…」
「お前そういうの気にするタイプだったか?ごめんって」
「わたし…レイトにとっては……都合のいい女?」
「何処でそんな言葉覚えたのイータさん」
「相変わらず仲良いわね。ちょっと妬いちゃうわ」
「妬くくらいなら変わるか?」
「遠慮しとくわ。貴方が昔みたいに気兼ねなく素を出してくれなくなったのは、私が大人になったってことだから」
「20にも満たない奴が何言っていだだだだっ、ごめんってイータ、放置してるワケじゃなあだだだだっ」
「邪魔しちゃ悪いし私はそろそろ行くわね。後は二人で楽しんで」
「あっ、ちょ、待てアルフあだだだだだっ!!」
俺の返事を待つことなくアルファは黒いボディスーツに身を包んで夜の影に紛れて姿を消し、窓から出ていった。まだ話し足りなかったし次いつ来るかも聞いておきたかったが、まぁ近いうちに来るだろうし、今は大人しく座して待つ他ないだろう。
「……ったく」
ひとまず、今回の件は教団の仕業で攫われたアレクシアはまだ生きている。彼女も英雄の子孫であるようでその血を採取するために殺しはしないで血を抜き続けられているらしい。そして以前俺がボコしてしまったゼノンも教団側で、主犯格であると見て問題はなさそうだ。
生存確認と主犯格が分かっても証拠が無ければ罪にも問えない。殺すだけなら今すぐにでもできるが、そうなれば真相は闇の中だ。そうはさせないためのシャドウガーデンと言っても過言ではないため、アルファの頑張りを無駄にしないために学園でエンカウントしても殺意は抑えよう。
「俺が解放されたことは当然知られてるし、今でも見張りが付けられている」
夜空を眺める振りをして窓の外へと目線をやると、二人の兵士が俺の部屋を覗いているのが見えた。恐らくシドの方にもいるだろう。こうして夜にも見張りを付けられているのだからゼノンの裏を調べようにも動けない。アルファには悪いが情報収集は頑張って貰って今度アクセサリーでも贈ろう。
とりあえず、今俺がやらなきゃいけないのは──
「……………」
扱いの差に不満を感じたワガママ姫の機嫌を治すことが最優先事項だ。両手にメスやら注射器に怪しい薬をいっぱいに持って構えてこちらを見ているので、多分今夜も、俺は寝かせて貰えないのだろう。
感想、ここすき、評価、全て目を通しています。返事は気が向いた時にしかしてませんが、随時募集中です。感想は物書きの主食ですので何卒お願い致します。