黒閃を狙って出せる呪術師 作:黒い閃光ってカッコいいよね
「うーん」
クロは自分の部屋のベッドに座り、頭を抱えていた。何か決めるべきものがあるのにいくら考えても決まらないと、そう言っているような顔つきだった。
彼女の前には本が幾つか開かれて並んでいた。一つの本は物や言葉の解説が載った、いわば国語辞典であった。その他の本は様々な分野の図鑑で、それら全てが少女に向き合うようにベッドに置かれていた。
これらの本を開いて、一体クロは何を思い悩んでいるのか。
「術式の名前が決まらない……」
そう、クロは己の生得術式の名前を決めかねていた。
術式の名前を決めるのには意味がある。
その意味とは、イメージのしやすさの向上である。名前を決めることによって、『多分こんな感じのことが出来る術式』というフワフワしたイメージから『これが出来る術式』という明確なイメージを持つことが出来るようになる。呪術において、イメージは基本中の基本。それを補助する役割があるのだ。決して厨二的なそれではない。
また、術式の開示がしやすくなったり、名前を叫ぶことによって呪詞的な役割が出来たりと、その意義は多岐に渡る。
クロの生得術式は『闇を作り出す術式』だ。
その闇に副次的な効果は無い。ただ暗いだけ。強いて言うなら、その闇は一切の光が存在しない完全な黒のため、目潰しという観点で見れば完璧である。
彼女は今までこの術式を好んで使うことは無かった。理由は単純に弱いからである。確かに視界を100%遮ることが出来るのは強力だが、言ってしまえばこちらも相手が見えていないので、戦闘がグダグダになるだけだったのだ。
そのことを九十九に相談してみると彼女は指を立てて言った。
「それは術式の解釈を広げてないからだよ。何でもない闇を作り出す。クロちゃんの術式はそれで留まってる。もっと考えるんだ」
「解釈を広げる……?」
「そう。少しヒントを上げよう。闇とは何かを考えるんだ。そうすれば、何か思いつくかも。まぁ、もし何も思いつかなかったとしても、自分の術式には慣れておくことだね。そうすれば自ずと使い道が見えてくるよ」
クロは九十九の言葉を思い起こし、一旦思考をそちらに向ける。
闇とは何か?本で知らべてみても参考になりそうなのは、光が一切無いこと、という一文くらいである。
光が一切無い、それはつまり、己の術式によって闇を作り出した時、光を消失させているということだろうか。そしてそれ以降もずっと闇を維持し続けられるのは降りかかる光を常に消し続けているからだろうか。
光について軽く調べてみると光とは電磁波の一種らしい。つまり、術式によって生成された闇は通信を妨害できる、ということだろうか?
「使い道………あるかな?それに電波障害とか帳でも出来るし…。いや、私の術式はこれだけじゃないはず…もっと、もっと考えればきっと!」
しかし、いくら考えても他の解釈が思いつくことは無かった。彼女にはインスピレーションが無かったのだ。
クロは枕に頭を埋め、しばらくした後、現実から逃げるように今自分が出来ることを次々に指を立てつつ確認することにした。
「えっと、私が出来ることは基本的な呪力操作と、術式の使用、反転術式に……あと一応黒閃か。領域展開は結界術に対する理解が足りないから無理。でも九十九師匠はそれさえ理解すればもう出来るって言ってた。頑張るべきなのはそこかなぁ」
クロの呪力に対する理解はほぼ完璧と言ってもよい。呪力操作も九十九が舌を巻くレベルで円滑だ。
なんせ、彼女は幼少期から今日に至るまで、もう幾千もの黒閃を打ってきた。一回黒閃を打つだけでも呪力の核心に迫るというのにそれなのだから、彼女はもう呪力の核心を掴むどころかハグしていた。
あと彼女に足りないものは知識とそれを行うための経験である。いくら技術が卓越していても、やり方を知らなければ出来ることも出来ないのだ。
「………で、術式の名前ね」
なんだかんだでまた振出しに戻ってしまった。
適当に国語辞典をペラペラ捲っても、一向に納得の行く単語や熟語が出てこない。苦悩に苦悩の末、クロという少女が選んだ選択は―――妥協であった。
「もう『
開いていた幾つもの本を閉じ、本棚に入れる。そして、あれやこれや考えたせいで疲労が溜まってしまった彼女は電気を消してからベッドに飛び込み、そのまま眠りについた。
あれから一年が経ち、クロは中学三年生になった。
もうそろそろ進路について真剣に考えなければならない時期である。
クロは、どの高校に行くか、ネットを駆使してあれこれ調べてみたが、パッとするものは見つからなかった。親や学校の先生などに相談してみたが、一向に決まらない。
どうするべきか、クロは思考を巡らせ、もう一人頼りになれそうな大人がいることを思い出した。
「九十九師匠に相談してみよ」
クロは携帯を手に取り、九十九の電話番号を入力する。数コール後に目的の人物に繋がった。
「もしもし倉山です」
『君から掛けてくるなんて珍しいね。言っとくけど明日から海外に行くからしばらくは会えないよ』
「いえ、ちょっと相談したいことがあるんですけど」
『おお!私を頼ってくれるなんて嬉しいね!どんなことでもお姉さんに相談してくれ!』
「その、高校の進学先がなかなか決まらなくて…」
その言葉の後、一瞬、電話の声が静まった。まるで、何を聞かれているのかが分からず、困惑で次の言葉が浮かんできていないようだ。
そして、ああ、そのことか、という思い出したかのような言葉に九十九が続ける。
『君はもう呪術高専に通うことが決まってるよ。東京のね』
「え」
『もう手続きは終わらせてあるから、当然変更は出来ないよ』
「え」
『私が思うに、来年は豊作だ。なんてったって、ちょっと前に君に話した五条悟が入学するらしいからね。かなり参考になると思うよ』
「…」
『…それで?他に何か相談したいことはあるかい?』
「…………無いです」
クロは電話を切った。
知らず知らずのうちに自分の進路先が決まっていたのだ。しかも変更できないオマケつき。九十九がいくら信頼できる大人とはいえ、こちらの同意無しで勝手に進学先を決められたのは少しショックだった。
「呪術高専か……どんなところなんだろう」
クロは空を見上げ、まだ見ぬ進学先に期待と恐れを抱いた。
黒閃→黒い→闇→闇を作る術式