遊戯王の世界に転醒したけど握ってるデッキがバトスピだった 作:みかんこ、アーイイ。実にイイ。
──スピードデュエルに日の光が当たらなくなったのは、一体いつの頃からだろうか?
1年前? 2年前?
いいや、トドメとなったのが“そこ”であっただけで、問題の根はもっと前から。根深く界隈に根ざしていた。
プロとして、競技に携わってきた者として、衰退を止められなかった者として。苦しい思いと共に理解している。
見る者を唸らせるトリック。競技者同士のボートによる鍔迫り合い。本来のルールより鋭い攻防。そして何より、個々が持つスキルの存在。
そんな輝ける原石を、俺は。俺たちは、たった1人の大スターが舞台を去ったあの日から輝かせることができていない。
だがそれは、誰も努力をしていなかったという話ではない。
むしろ事実はその逆。
誰もが己の武器を磨き、スピードデュエルの魅力を輝かせ、あの人が残した灯火を継ごうとしていた。
かくいう己自身もそう。「勇者」という恵まれたテーマ、派手なスキル、そして少し小賢しく操作出来るボードの騎乗技術。その全てを以て、あの人が残したスピードデュエルを次世代以降にも繋げようとした。
でも継げなかった。
クラシック路線には3冠を頂く王者が現れ、ライディングデュエルは新ルールで活気を取り戻し、アクションはなんかコアなファンが離れない。
スピードだけだ、変われなかったのは。
変わろうとしなかったのは。
1人、また1人。同期が姿を消していく。
翳りを見せ始めた界隈に見切りをつけて引退していく。或いは別の路線へ切り替えようとして、力の差を見せつけられ折れていく。かくいう己も、
手に取った時点で分かった。コレが真っ当なカードではないことを。
それでもテキストを読んで確信した。コレは強烈なエースになることを。
派手な見た目、特異な効果、そして大規模な破壊効果と超高打点。
これならいけると、そう思った。
あの日々をもう一度、あの輝きをもう一度。
日々強くなる自分の奥底にしまっていた衝動、燃え尽きたはずの想いに火がついた。同時に自分が荒く歪んでいくのも理解した。
だけど止められなかった。闇のカードに縋ってでも、夢は諦められなかった。
街中の不良、辻デュエルを挑んでくる奴らを使って心を慰撫し、さあ後は大会で。高松宮杯で勝つだけだった。
それだけだったのに────負けた。
至極、つまらなそうな眼をした少年だった。
気にかけたのは、いつかの自分と同じような闇がその眼に見えたから。
一体どんな経験をすれば、アカデミアの2年目でそんな闇を纏えるのかは分からない。だがその辛さだけは共感して理解出来る。
自分とは違って壊れきる前に、どうにか光の当たる場所へ戻って欲しかった。
けれど届かない。
こちらは全力だった。相手はあり得ないほど、まるでデッキに見放されたような不調だった。
それでもエースを出す暇すらなく、つまらなそうな眼を変えることが出来ず俺は敗北した。
辛うじて保っていた、闇のカードとの均衡。
心の壁が、折れ砕ける音がした。
──力が欲しいか?
寄越せ! 俺には、俺には力が必要なんだ!
力が欲しければ……くれてやる!!!
我が名は──
眩い光が世界を包む中、6色の輝きが和となって俺たちを包み込む。そうして気がついた時には──
「──ッ!」
俺たちは、青い結晶で作られた通路の上にいた。
聖と戦った時と同じ、闇デュエルが行われる異空間。けれどあの時との違いが2つある。
「D・ボード……」
吹き付ける風を切り裂く感触、ゴウゴウと耳元を駆け抜ける音。そして足元に展開された、紫を基調にした短めのサーフボードにも似た輝き。
それは紛れもなく、つい数時間前まで乗っていたD・ボードに他ならない。
「それと、主体はやっぱり俺か」
そしてあの時と違い、この異空間に存在しているのは俺の、想間 遊陽の身体。トアが煌臨によって変身した姿ではない。
当然デッキも自分の物がそのままで、服装だってアカデミアの制服そのまま、だ……? うわ、なんかマント生えてる。こわ〜。
「改めて説明する必要はないと思うけど、一応しておくね」
スッと、サポートAIか何かのように側に現れたトアが言う。
「ここはあたしが呼び出した専用のバトルフィールド。勝てば終わりの闇のゲーム!」
宣言と比例するように、後方から響く駆動音が大きくなっていく。
「今回はちょっと……相手方の色が強くなっちゃったけど、やることは変わらない!」
そう、変わらない。
やることはただ1つ。デュエルで勝つこと。
シンプルでそれ故に難しく、けれど成さねばならないこと。
「お前の持つそのカード、返して貰う!」
後方、猛スピードで駆け抜けようとした相手に対してデュエルアンカーを射出。追走する形で加速しながら、相手のデュエルディスクを強制起動。
相手は見るまでもなかった。
全身を青い結晶に蝕まれ、半人半晶の怪物と化した講師。昼間、手合わせをした勇プロその人。
「駄目、だ……」
顔の半分を結晶に覆われ、こちらを見えない様子でうわごとのように呟く。
「僕では、もう、闇のカードを、抑えられない。逃げるんだ。そして、大人を呼んで──」
「お生憎さま、こちとら目的はそのカードなんでね!」
ディスクとディスクを繋げるアンカーを引き、無理やりこちらに顔を向けさせる。
困惑。驚愕。そして、それらを覆い尽くすような憎悪と憤怒。
「──ァァァッ!!!」
一瞬で勇プロが、別のナニカに飲み込まれた。
だがいい、これでいい。
この方が一切、後腐れがなく済む。
『いいだろう、契りを結んだ只人よ。精霊に勝てるという思い上がり、正してくれる!』
まるで皇帝のような不遜な口調。別人へと切り替わった勇プロがデュエルディスクを構える。
「トア、デュエル開始の宣言を!」
「
なんか思った以上に食い気味に反応されたが、まあいい。
デュエルディスクが選択したのは、予想の通りスピードデュエル。そして未だに俺が追走している形な以上、このデュエルの先行は──
『先行は
必然、昼と同じ相手が奪うことになる。
『
「うげ」
テセア精霊器 ATK1000
召喚された鎧のような存在が、強く輝き相手のデッキからカードを運ぶ。アラメシア型ではなくアラマティア型、昼間とはデッキの構成が変わっている!
『続けて[運命の旅路][禁呪アラマティア]をそれぞれ発動!』
湧き上がるのは紫色のおどろおどろしいオーラ。
昼間の勇者一行参上!といったような雰囲気はもうどこにもない。
『[運命の旅路]の効果発動。デッキより[流離のグリフォンライダー]を手札に加え[迷い花の森]をコストで墓地へ。
そして自分の場にモンスターが存在しないため、グリフォンライダーは特殊召喚できる!』
流離のグリフォンライダー「クケェ!」
DEF2800
こちらの手札に誘発はない。
デッキの出力負け、嫌な言葉が頭をよぎった。
『グリフォンライダーの召喚時[運命の旅路]の効果を発動、デッキより[
続けて[禁呪アラマティア]の効果、自分の場に[勇者トークン]1体を特殊召喚し、コストとして手札を1枚[星空蝶]を墓地へ送る。
さらに墓地へ送られた[星空蝶]は効果により[勇者トークン]へ装備される』
勇者トークン DEF
そうして、あっという間に6箇所のフィールド全てが埋まった。
『続けて、
「嘘だ!?」
これで終わるはずがない。そんな予感の通り展開した局面を見て、珍しく動揺した様子でトアが叫んだ。
「勇者デッキの縛りの中で、出せるリンクモンスターなんて存在しない筈だよ!」
『残念だったな、元契約者殿。この世界には、貴方の知らないカードが溢れているのだよ!』
「そんな──ッ、いや、でも。確かに」
言って、こちらに視線が向けられる。
察するに[ナイトメア・ビジョンズ]とかもその枠だったのだろう。悔しそうに顔を歪ませ、目には不安が満ちているが……1つ、忘れていないだろうか?
「残念ながら」
俺だってデュエリストだ。
トアの使う[天星12宮]など知らないカードはあるが、逆に勇者程度のテーマであれば9割方効果は覚えている。
「俺は知っている。出せよ、勿体ぶらずに」
『……チッ、興を削いでくれる。[召環聖堂ライロトゥーテ]をリンク召喚』
召環聖堂ライロトゥーテ ATK0 ↓
露骨に下がったテンションで、モンスターが現れる。
それは荘厳な教会のようで、いつかどこかで見たような記憶しかない場所。トアの使う創界神にも似たシステムモンスター。
「出たなチュートリアル……」
「チュートリアル? ライロトゥーテ……あっ!」
『
Prayer:勇 手札:1
LP:4000【Turn1】
①:禁呪アラマティア
②:運命の旅路
③:星空蝶
④:流離のグリフォンライダー
⑤:勇者トークン
❶:召環聖堂ライロトゥーテ
LP:4000
Prayer:遊陽 手札:4
「俺のターン、ドロー!」
こちらの手札は5枚。
相手の見える妨害はグリフォンライダー・聖堂の2枚と手札が1枚。こちらのモンスターには、星空蝶の効果でATKが-1000。ライダーを使わせても-500のデバフがかかる。
流石は一時期、一世を風靡しただけのことはある厄介さだ。が、昼のデュエルから分かっていた弱点も見えている。
「俺は手札より魔法カード[闇の誘惑]を発動! デッキからカードを2枚ドローし、手札の闇属性モンスター[エッジインプ・チェーン]を除外する」
釣られてはくれないか。
どうやら憑依しているカードの精霊の方が、本人より腕が立つらしい。
「ならば続けて永続魔法[旅団の摩天楼]を発動! 効果により、デッキより幻想魔族1体を手札に──」
『チェーンして
「くっ!」
くすくすと笑い声を響かせながら、幻影の摩天楼に桜が吹雪く。
追加でモンスターを引っ張ってこれないのは地味に痛手だ。が、この程度ならまだ想定内!
「続けて手札より[ナイトメア・ヴィジョンズ]の効果! コストとしてデッキから[
『ならばその効果は[流離のグリフォンライダー]の効果で無効にさせて貰おうか』
巻き起こった暴風にヴィジョンズが砕け散る。
問題はない、まだ舞える。妨害もラスト1!
「続行! カードを1枚セットして、手札より[
幻惑の見習い魔術師 ATK2000→1500
さて、この不自然なタイミングでの魔法・罠ゾーンへのセットにこの精霊はどう出るか。無視してくれれば悪くない、反応してくれれば儲けものだが。
「チェーン1見習い魔術師、チェーン2でタオの効果を発動!」
『ならば
「バトルフェイズの強制割り込み効果!?」
何か効果音が出そうな勢いでトアが驚く。
召環聖堂ライロトゥーテ、その能力の本質が意味するのは──邪魔なチュートリアル戦闘とその後にあるガチャに他ならない!
召環聖堂ライロトゥーテ
【天使族/リンク/効果】
「勇者トークン」のトークン名が記されたモンスター1体
①:自分フィールドに「勇者トークン」が存在する場合、
このカードは攻撃対象にならない。
②:1ターンに1度、相手がモンスターを特殊召喚した場合
そのモンスターと勇者トークン1体を対象として発動で
きる。その2体で戦闘を行う。
③:このカードの②の効果を発動したターンのエンドフェイ
ズに発動できる。自分のデッキから「勇者トークン」の
トークン名が記されたカード3種類を相手に見せる、相
手はその中からランダムに1枚選ぶ。そのカード1枚を
手札に加え、残りのカードはデッキに戻す。
だが戦闘というプロセスを介する以上、相性の利はこちらにある!
「幻想魔族モンスターが戦闘を行う場合、その2体は破壊されない!」
『だが、切れ味は受けて貰う』
「ぐっ──」
遊陽 LP4000→3500
虚な目をした勇者トークンが幻惑の見習い魔術師に斬りかかり、数回の打ち合いの後に
「遊陽!」
ツーと頬を伝う感触は、涙ではなく血のソレだ。
悲鳴をあげたトアに対し、喜色満面といった様子で精霊が笑う。
『フフ、はははは!
これこそが闇のゲーム、己の存在を
何を怯える元契約者、巻き込んだのは貴様だというのに!』
「それは、そうだけど……!!」
『怯えろ! 竦め! デッキの性能を活かせぬまま散るがいい!』
「この程度で?」
盛り上がる会話を断ち切るように吐き捨てた。
しんと静まり返った空気の中、乱暴に血を拭う。裂けた頬、流れる血、確かに痛みはあるが
「目の前のデュエリストすら目に入ってない、木端な精霊風情が」
『契約の巫女の力を借りただけの、木端の人間風情が……!』
ギョロと非生物的に動いた目がこちらを見据える。
やっとこっちを見た。刺すような鋭い気配、人の身では出せない異様な圧。これだ、これを俺自身の身体で浴びたかった!
「チェーンを解決する。
③のライロトゥーテの効果処理は終わり、②のタオの効果! 墓地より[ナイトメア・ビジョンズ]を特殊召喚。続けて①の
ナイトメア・ビジョンズ DEF0
肌がビリビリと震える。
本能が今すぐデュエルをやめろと叫んでいる。
だけど、嗚呼──こんなに、丁度いい練習相手はない!
「そして俺のLPが減ったことで、伏せていた[
『バジャーダレスだと!?』
「伏せてたろうが! 場の攻撃力3000以下のモンスター1体を破壊し、自分はデッキから1枚ドローする。その後、このカードを特殊召喚できる。破壊対象として選ぶのは、当然[ライロトゥーテ]!」
『チィッ!』
幻惑の隠者騎士バジャーダレス ATK2700
魔法罠ゾーンで立ち上がった紫の騎士が聖堂を粉砕する。
これでエンドフェイズに起動するサーチ効果はもう使えない。そして勇者トークンの名前が記されたモンスターが消えたことで、星空蝶のデバフ効果も消失した。
「続けて、
リンク召喚[影法師トップハットヘア]!」
影法師トップハットヘア ATK1500
「ハハッ!」
危険な笑い方をしながら現れたのは、帽子を被ったウサギ型のモンスター。
「トップハットヘアのL召喚時の効果を発動!
デッキから永続罠[影帽子]をセット」
これで次のターンへの備えは上々。
半年前のあの日、痛みと怪我を恐れて必要以上に防御を固めて勝ち筋を幾つも潰したのと、同じ轍を踏むつもりはない!
「バトルフェイズ! トップハットヘアで勇者トークンを攻撃!」
『攻撃力はこちらの方が上、何を考えている人間!』
「この瞬間、永続魔法[旅団の摩天楼]の効果を発動!
手札より幻想魔族モンスター[タロンズ・オブ・シュリーレン]を墓地へ送り[勇者トークン]の攻撃力を1000ダウンさせる!」
勇者トークン ATK2000→1000
『なんだと!?』
「さっきの台詞、そっくりそのまま返してやるよ!
激突する勇者トークンとトップハットヘア。
先程とは違い、摩天楼の闇に囚われ動きが鈍い勇者トークンにトップハットヘアの攻撃が突き刺さった。
勇(精霊憑き) LP4000→3500
「続けてバジャーダレスで勇者トークンへ攻撃!」
『グワーッ!』
勇(精霊憑き) LP3500→1800
続けて襲いかかったバジャーダレスの攻撃を受け、勇者トークンが爆散する。
幻想魔族だけどバジャーダレスに戦闘破壊耐性なんて存在しないのだ。魔法罠ゾーンでの耐性はあるけど。
『だが、勇者トークンが破壊されたことで[アラマティア]の効果を発動!
勇者トークン DEF2000
「これで俺はターンエンド!」
Prayer:勇 手札:0
LP:1800
①:禁呪アラマティア
②:運命の旅路
⑤:勇者トークン
❶:影法師トップハットヘア
⑨:幻惑の隠者騎士バジャーダレス
⑩:旅団の摩天楼
⑪:伏せカード(影帽子)
LP:3500【Turn2】
Prayer:遊陽 手札:1
「──やっと分かった、あの子の
ターンを返し、どう来るかと身構える中。確かな怒気を湛えた精霊に対し、これまで沈黙を貫いていたトアが呟いた。
ところで全く関係ない話ですが。
可愛いですよね、スピニア・スコール。
どうにかしてメインに据えてデッキが組めないものか。
サラッと登場する謎のオリジナルカード(ナイトメア・ヴィジョンズ等)は
-
あり
-
なし
-
わたしは一向に構わんッ!