遊戯王の世界に転醒したけど握ってるデッキがバトスピだった 作:みかんこ、アーイイ。実にイイ。
ルールミスはしてたらごめんね!
第1話 多分1話アバンとCM前くらいの話
「はぁ……はぁ……っ!!」
荒く息を切らしながら、夜の街を少女が駆ける。その様子はまるで、肉食動物から逃げる小動物めいていた。
否、実際に少女は追われていた。
「こちら、デュエル・チェイサー244号、対象を発見! 地区データ送信、応援を要請!」
赤と青のランプを明滅させるバイクが、今しがた少女が逃げ込んだ物陰を照らし出す。
デュエル・チェイサー、それはここクロス
ならばこの、追われている少女は一体何者なのか?
「……くっ、仕方がないか!」
無論、
物陰から飛び出した少女の腕にあるのは、無骨な金属と6色の煌めき。
ガシャン、と勇ましく展開されたそれこそデュエルディスクに他ならず、そこに収められたデッキがやはり彼女が何たるかを証明していた。
「対象がデュエルディスクを展開! 交戦許可を求めます!」
『承認、
Dホイールから響く機械音声に、僅かに少女の顔が強張った。
草木もねむるウシミツ・アワー。ネオンライトに照らされたシティの一角は、壮絶なデュエルの開始点と化す!
「「デュエル!!」」
その日の夜、シティの空に12の流星が瞬いた。
今日の
しかしそんな呼び出しをされた原因は分かっている。
デュエル・アカデミアで規定されている1つの学期内の必要デュエル回数の不足。間違いなくこれだ。
「いやぁ……分かってた。分かってたけどなぁ」
別に、デュエルが嫌いな訳ではない。
ある程度事情を理解してくれる先生のお陰で、成績自体は詰めデュエルの棋譜を解くことで保てていたが……やはり、1度は実践として本当のデュエルをしなければならないらしい。
「嫌だなぁ……」
思わず本音が口から溢れた。
脳裏によぎったのは、騒がしい幼馴染と嫌味なライバルの姿。そしてもう1つ、交わした大切な約束のこと。
『お兄ちゃんはきっと、将来はプロのデュエリストだね!』
今日も出張って来るだろう2人は兎も角、
決めた。
デュエルはする、が帰ってきた後の陰鬱な気分も想像に難くない。そんな時にこそ、飛び込む布団はふわふわであるべきだ。
そう改めて決意して、遊陽はベランダに続く網戸を開けた。
ここはアカデミアの学生寮。今の時期と時間を踏まえれば、まだ起きている連中も多くはない筈だ。
なら他に軽く洗濯でもしてから出かけるか、などと考えベランダに向かい──既に、そこにナニカが干してあるのが見えた。
「……?」
学生寮とは言っても、姉妹校であるアカデミア本校のオシリスレッド寮とここの作りはさして変わらない。
形はワンルームマンションのそれだし、今の遊陽は一人暮らしだ。よって自分以外の布団なんてあるはずがない。ネムレリアのお姫様が居るわけでもあるまいし。
よって、改めてよく観察してみる。
観察と考察はデュエルの基本だ。
干してあるのは洗濯物でも布団でもなく……女の子だった。女の子……えっ、女の子!?
「はぁ!?」
まるで風に飛ばされる直前の洗濯物のように、女の子はベランダの手摺りに引っかかっていた。
歳は……見た感じ同年代、15〜6辺りだろう。真っ白な肌に短く纏められた銀の髪、腕には旧式のデュエルディスクが展開されたままだ。
そして服装は……
「野良デュエル? いやでも、それでこんな気合い入った衣装着るか……?」
黒いノースリーブの上に白と青の外套を羽織り、ミニ丈のスカートを上から鎧のような意匠が覆っている。足元のブーツは白と金に彩られ、無骨さと可愛らしさを両立していた。
総じて一般生活では見ることはない服装だった。強いていえば、プロデュエルの衣装が一番近いだろうか。
だとしても謎だ。近場で大会があった記憶はないし、無いにしては状況が一致しない。
「くぁ……」
女の子と抱えた布団と交互に見ながら迷っていた間に、ぐったりとしていた女の子が動いた。
大口をかっぴらき、真紅の目を細めながらの大欠伸。いやちょっとそれでいいのかと思いつつも、
「……ぁふ、よく寝たぁ。というかここ何処──────あっ」
そして少女と目が合った。
それはもうバッチリと、言い訳のしようもないほどに。
「……………………おはよう、少年」
「おはようございマス」
少しの沈黙の後、困ったように切り出されたのは朝の挨拶。咄嗟に返してしまったけど、これ絶対に関わらない方がいいパターンだったんじゃ。
「いい天気だね?」
「そう、ですね?」
沈黙、気まずい空気が漂う。
いやほんと、どうすればいいんだこれは。少女の頼みの綱だったらしき天気デッキも、敢えなくコンボが途切れてしまった。
と、きゅるるるる……という音が聞こえた。
発生源は間違いなく目の前の女の子。既にうっすら赤かった顔を更に赤く染め、意を結したように言った。
「気まずいついでに、朝ごはん貰っていいかな? 昨日から何も食べてなくて」
「いや図々しいなあんた!?」
「いやぁ、ありがとうね! こんな見ず知らずのあたしなんかを助けてくれて!」
「そりゃどーも」
結局、あのまま見捨てることも出来ず。
久し振りに2人分の料理を作り、俺はあの見知らぬ少女と朝食を囲むことになったのだった。
最初は不信感もあったが、あそこまで美味しそうかつ綺麗に完食されたら毒気も抜けるというもの。思っていたよりずっと、普通に日常に溶け込まれてしまっていた。
「それで、そろそろ事情を教えてくれると助かるんだけど」
具体的には、うちのベランダに干されてた理由とかを。
「それもそっか。まずは自己紹介からしなくちゃだったね!」
名残惜しそうに眺めていた茶碗から視線を外し、自信満々な様子で胸に手をあて少女か言った。
「あたしの名前は、多分トア!
住所不明!
年齢不明!
ついでに記憶も行方不明!
よろしくね、心優しい少年」
「ド級の不審者じゃねーか!」
パーソナルな情報が何もかも不明、セキュリティに突き出してやろうかコイツ。何で補習前の忙しい時間に、こんな不審者に付き合ってやってると思ってるのだろうか。
「とは言ってもね、あたしも昨日の夜より前の記憶がなくて困ってるのよ。なんか変な奴らには追われるし、お腹すいたし」
「それがどうやって、うちのベランダに繋がるんだ?」
「それは逃げてる時に、こう、ズルッと滑って」
すっと少女が、トアが指差した先は天井。この場合は屋根だろうか? いやぁ、それはいくらなんでもない。ありえない。その筈なのだが……
「……あり得そうだよなぁ、アンタなら」
キョトン、と首を傾げるトアの口元にはご飯粒。序でにインナーの胸元には昨晩の残りだった揚げ物のカス。
ガサツ。不器用。注意散漫。想定される状況は兎も角、出力される結果はあり得ると自分の直感が言っていた。
「まあいいや。それで少年、君の名前は? いつまでも少年じゃ呼びづらいんだけど」
「
「ほえー……そっか、キミが特異点か」
最後なにかボソッと言っていたが、このアホ面を見るに大したことじゃないだろう。
「それじゃあ遊陽!
ご飯も食べさせてもらったし、なんでも1つ! あたしに出来ることをやらせて欲しいな」
「そうか。なら、早めに荷物を纏めて帰ってくれ」
「えぇーーっ!?」
出口を指差した後、食器を纏めて流し台に置いておく。
もう厄介ごとの臭いしかしない、これ以上は関わるべきでないだろう。このトアという少女とは。
「いやいやいやいや。ちょっとそれはないでしょー! あたしさ、自分で言うのもなんだけど結構かわいいし、デュエルも強いよ!?」
なるほど一理ある。が。
「いやいやいやいや。所詮ただ飯ぐらいの推定犯罪者でしょ」
「うぐぅ、何も否定できるところがないぃ……!!」
自覚はあったらしい。
「で、でもさぁ! 旅の恥は書き捨てって言うじゃん! だからなにか、こう、お礼したいの!」
「えぇー……」
急にお礼と言われても、正直補習の時間も迫ってきている以上なにも……あぁいや、1つだけないこともないか。
幼馴染のアイツにも、ライバルだったアイツにも話せない。話しても意味がなかった話。けれど目前のトアと名乗った少女なら、最初から妹のことを知らない相手になら。
話してしまうのは、ありかもしれない。
「なら、少し話を聞いてくれると嬉しい」
「いいよ! これでもデュエルのことならバッチリだから、なんでも聞いてね!」
「そういう話じゃない」
トアもデュエルは出来るらしいという無駄な知見を得つつ、懐から取り出した自分のデュエルディスクを操作。
他人が見た場合
「まず、信じて貰えないと思うけど。俺には妹がいたんだ」
ディスクを投げ渡しながら、近くに座るよう促す。この際だ、ダメで元々。洗いざらい話して試してみようか。
「名前は
「ふーん。それで今、妹さんは?」
「
写真の空白を首を傾げながら見ていたトアが黙り込んだ。けれどなんでも話せと言ったのはそっちだ、重い話だろうが逃げ出させはしない。
「半年前、目の前で朝陽は攫われた。相手は[CCコーポレーション]のCEO、名前は知らない、調べても出てこない。いわゆる存在しない筈の人間だよ」
「つまり、禁止令されたカードみたいな?」
「まあ、そうなる」
思い返すのは、苦々しい敗戦の記憶。
大切な妹を守る為に挑んだ決戦、全てを出し尽くし……しかし、なす術なく地を舐めた悪夢。
「俺はアイツにデュエルを挑んで──負けた。絶対に、負けたらいけなかったのに」
あの時の光景は、今でも鮮明に覚えている。デュエルの棋譜だって、脳に焼き付くほど繰り返した。
嘲笑う奴の顔を覚えている。
口内に溢れた血の味を覚えている。
涙を流して手を伸ばす朝陽を覚えている。
「その日以降、世界から朝陽の存在が消えたんだ」
小さい頃から遊んでくれた
いまや誰も、誰1人として妹のことを覚えちゃいない。
「おまけに、それからデッキが答えてくれなくなった。構築を変えても、ドローソースを増やしても、何をやっても戦えない」
手慰みにシャッフルして引いてみせるが、手元に来たのは[ガード・ブロック][ハーピィの羽箒][融合][トラップトリック][
それでも未だにデッキを手放せないのは、未練か、矜持か、それとも惰性か。
「なるほどねえ。こんな可愛い妹さんを守れなかったら、そりゃあたしでも荒れるのは分かるよ」
デュエルが得意というなら、軽くデッキの調整について聞いてみるか。そんなことを考えていた時だった。
デュエルディスクを投げ返してきながら、こともなげにトアが言った。
「見え、てる……のか?」
「え? うん。この金髪ツインテの子でしょ? 一緒に自撮りしてるなんて、随分いいお兄ちゃんしてたんだなって思ったけど」
思わず、唖然とした。
だって半年だ。もう、半年も自分の中にしか妹の存在はなかった。それをこうもあっさりと、特徴も何も話していないのに当てられるなんて。
伊達や冗談じゃなく、本当に見えているとしか思えない。
「……ありがとう」
「??? よくってよ!」
それでどれだけ俺が救われたのか、目の前でドヤ顔を晒すこの女には分からないだろう。……いや、わからなくていいか。なんか調子乗りそうだし。
「これで俺の話は終わりだけど、トアはこれからどうするんだ?」
「あたし?」
そんな内心を悟られないよう、出来る限りポーカーフェイスで話を促してみる。
「あたしはねー……あっ」
「あ?」
「あー!! 忘れてた!!」
瞬間、何を思い出したのか突然トアが立ち上がる。その顔には先ほどまでと違い、誰が見ても『ヤバい』と書かれている。
「あたし、探さなきゃいけないカードがあるんだった!」
「ショップ?」
「ううん、昨日の夜にどっか行っちゃった子たち!」
加えてそこからの行動も早かった。
服を整え、ディスクを構え、一路トアは窓際へ。そしてベランダへ続く窓を開け──
「それじゃあ、お世話になりました!」
こちらに頭を下げて、一目散に何処かへ行ってしまった。ここ、3階なんだけど。
「飯くらいなら! また食べに来てもいいからなー!!」
「あ、そうそう言い忘れてた!」
感謝を伝えてる途中に即戻って来た。えぇ(困惑)
「キミのデッキが答えてくれない理由ね、多分だけど分かっちゃった」
「! 理由は!?」
「──教えない。だってあたしが言っても、きっと意味ないもん」
まるで悪戯っ子のような笑顔がそこにあった。
「ただね。そろそろ自分のこと、許してあげてもいいんじゃないかな?」
「『だってデュエルは、勝っても負けても楽しいものじゃない』」
不思議と、似ても似つかぬ相手である筈なのに。妹の姿がトアに重なった。
「でも、どうしてもダメだったらさ。少しくらいは手助けしてあげる。ばいばーい!」
「──」
そうして気が付けば、トアの姿はなく時計が指すのは補習の時間少し前。デュエル・アカデミア1学期前の長期休み、その初日の出会いだった。
・想間 遊陽
ツンツンヘアーの海鮮ヘッド、何処ぞのほど不幸ではない。
デュエル・ディスクはリアルソリッドビジョン式(ARCV式)
・想間 朝陽
金髪ツインテ(ローツイン)だったらしい妹。
デュエル・ディスクはリアルソリッドビジョン式
・トア
一体どこの契約の巫女なんだ……
デュエル・ディスクは骨董品+増設Exゾーン(海馬KP式)