遊戯王の世界に転醒したけど握ってるデッキがバトスピだった 作:みかんこ、アーイイ。実にイイ。
第4話 多分2話アバンとCM前くらいの話
「バトルフェイズ!
[幻惑の魔術師]で[サイバー・ツイン・ドラゴン]に攻撃。
「迎え撃て、サイバーツイン! エボリューション・ツイン・バースト!」
遊陽 LP4000→3700
「この瞬間[幻惑の魔術師]第1の効果、この戦闘では互いに破壊されず、戦闘を行った相手モンスターのコントロールを得る。幻魔導──マインドブレイク!」
黄金の衣を纏う魔術師と交錯した直後、デュエルの名門が誇る機械の竜がその主人に背を向けた。
手札の消費が多めの練度が荒いサイバー流の乗り手。手札からの防御札は枯らした。伏せは丁寧に除去済み。墓地効果もなし。壁はもういない。
「これでトドメだ、サイバー・ツイン・ドラゴンの攻撃。エボリューション・ツイン・バーストォ!」
「ぐわぁぁぁぁ!!」
サイバー流門下生 LP3200→400→0
と、いうことで。
『決着ー!! 自傷ダメージ以外無傷で白富士杯を制覇! 想間 遊陽選手オープンクラスに昇格決定です!』
『彼は元々、クラシック大会戦線で活躍していた選手ですからね。皐月杯2位、優秀デュエリスト杯2位、菊花杯は6位と振いませんでしたが、本来このランクで止まっている選手ではありません。本来の実力が発揮されたと見るべきでしょう』
聖とのデュエルを制した翌日、アカデミア側から既に捩じ込まれていた大会へと俺は出場することになり……あまりにも呆気なく。ここ半年の不振がなかったかのように優勝した。
『菊花杯後から怪我による休養とありましたが、再びクラシックの3巨星が大会で揃うことも見れるかもしれませんね』
『そうですね。彼が本来得意とする融合を出さなかったのも、まだまだ余力があると見てよい部分でしょう』
「……そうだと、よかったんだけどなぁ」
実況を聞き流しながら、改めて己のデッキを見る。
デュエルは出来るようになった。だけど未だに、デッキ自体には嫌われているらしかった。
アクセスできるギミックは、幻惑の魔術師を中心とした部分だけ。圧縮を重ねない限り、ミラーソードナイトにもコーンフィールドコアトルにも触れない。
「どうしたもんかねぇ」
勝てない、とは言わない。
だが即興で主軸を変えたこのデッキで戦えるのも、よくてグレード3の大会までだろう。昨日とは違う本気の聖や海音を始めとした実力者を相手にするには、些か以上に心許ない。
『お手持ちの投票券はくれぐれもなくなさない様、ご注意下さい』
「対戦ありがとうございました、サイバー・ツイン、返します」
「どうしてお前みたいな、強いくせに……今回しか俺は、もうなかったのに!」
投げ付けられたサイバーツインを投げ返しつつ、背を向けてデュエルフィールドを後にする。
「お疲れ様でした。……あまり、お気になさらないで下さい」
「ええ。慣れてます」
恨みがましい視線を受けながら、デュエル後の不正チェックへ。
──当然、問題なし。異様なカードであるカルマギアを含め、何も異常がないことを確認されながら、地下を通って控え室に戻る。
『さて、デュエルフィールドの清掃後、次は本日の最終デュエル、3年生以上1勝クラスになりますが。──さんは注目している選手は居ますでしょうか?』
『そうですね。──選手でしょうか? 先ほどの遊陽選手と似た形で、ここまで重賞戦線で活躍しているデュエリストの1人です。きっと魅せるデュエルをしてくれることでしょう』
「あー……疲れた」
ここまで聞こえてくるアナウンスを聞き流しながら、ボスンとソファーに倒れ込んだ。
久し振りの大会、体力的にも精神的にも思っている以上に堪えた。
規約に則り昨日の夜から大会会場に泊まり込み、外部との連絡をデュエル・モンスターズのデータベースを除き封鎖。そこからプレイミスが許されない環境で1敗でもしたら終わりの4連戦。
加えて、トアとの遭遇から始まった昨日の諸々に、いつの間にかデッキに入っていた3枚の[カルマギア]。
色々なことがありすぎて、流石にクるものがある。
「さっさと帰って寝よう」
なんて考えていた時だった。
デュエル・ディスクから聞こえてきたのは軽快な着信音。
通信封鎖が解かれた後のメール……ということは聖だろうか? そう思って開いたメールの差出人は、
=================================
件名:聖が行方不明になってる
from:結目 海音
本文:
デュエルお疲れ。
お疲れのところ悪いけど、聖が行方不明。昨日最後にデュエルした時、なにか異変とかなかった? とりあえず連絡して欲しい。
=================================
開いてみた内容は、そんな一口では噛み砕けない内容のものだった。
「聖が行方不明って、一体どういう!?」
『どうもこうもない。言葉通り』
表彰式を辞退して飛び出した街は、既に夕陽が照らす時間へと差し掛かっていた。
『行方不明届が出されたのは今朝。昨日から家に帰ってない。最後に目撃されたのはアカデミア。つまり、記録は遊陽とのデュエルが最後』
繋げたままにした通話越しに伝えられたのは、
「通話は……ダメか」
『ん、私もダメだった。IDからも追えない、状況は思ってるより危険』
「それは確かに!」
海音はデュエルディスクを自作する程度には優れたメカニックだ。それなのに聖のディスクの位置すら把握できないとなると、本格的に嫌な予感がしてくる。
『知っての通り、私じゃ街は見て回れない』
「だから足になって欲しいって?」
『話が早い、助かる』
そういう話なら是非もない。あんなデュエル1つで聖がどうにかなるとは思わないけれど、万が一ということもあり得る。
「目ぼしい場所は?」
『最後に目撃されたのは、カードショップ《星屑の導き》前の通り』
確かそこは店主のデッキが[スターダスト]のカドショ兼ディスク店だったか。正直シンクロにはそこまで興味がないのもあって、あまり寄ったことはないが……場所自体は知っている。
「分かった、すぐ行く」
そう言って、通話を切ろうとした時だった。
『待って』
一言、
『聖がいなくなる少し前から、その通りにある監視カメラが電波障害か何かでダウンしてた。明らかに、何か変』
それに、と言葉が続く。
『調べてて分かったことがある。ここ最近、シティ中の、特に裏路地に続く場所で似たような神隠しが起きてる。ぜったいに、おかしい』
「つまり聖は、それに巻き込まれたと?」
『うん。少なくとも私はそう見てる』
なのにあくまで自分で動くつもりということは、通報しても意味がなかったということ。なるほど、明らかに異常事態だ。
『だから遊陽は、巻き込まれそうになったら逃げて。デッキ、まだ本調子じゃないでしょ?』
反論はできない。ついさっき、本物には勝てないと自分で認めたばかりなのだから。
「……了解。ヤバそうなら逃げるよ」
『それでいい。遊陽までいなくなったら、私、暴れちゃうから』
「それは困るなぁ」
なんて言葉を最後に、通話が切れた。
目的地はもう目と鼻の先。鍛えたデュエリストが本気で走れば、これくらいは造作もない話だった。
だが、
辿り着いた大通りには、誰が見ても理解できる異常が起きていた。
しん──────
と、静まり返った大通り。
そこには本来あるべき“人”の存在した痕跡が、ごっそりと抜け落ちていた。
平日でも誰が1人は居るはずの、公共のデュエルスペースにも。
この時間なら賑わっている筈の、カードショップにも。
何処にも人がいない、異常事態。
「いや、それ以上にこれは……」
ぐるりと見渡した大通りの建物。その全てに明かりすら点いていない。
まるでここだけ時間が止まっているような、写真の中に閉じ込められてしまったかのようだった。
頬を撫で、通り過ぎていく生温かい風も、そんな感覚を煽り立てていく。
ああ、だけど。これで1つ確信できた。
ここは、関わってはいけない場所だ。
「逃げ──ッ!?」
一旦この場は引いて、海音と合流しよう。
そう思い振り返った先に広がっていたのは──大通りの、出口。
まさかと思い振り返れば、そこは大通りの入り口。
一縷の望みを賭けて開いたDパッドは電波圏外の表示。よく見ればさっきの通話も、切られたのではなく圏外になったことによる切断だった。
「閉じ込められた……?」
ズズン………
呟いた瞬間、聞こえた腹の底に響く重低音。
ぎょっと心臓が跳ね、血の気が引いた。
まずい、マズイ、不味い!!
間違いなくこれは、都市伝説とかそういった案件だ。カードの精霊と同じ、マトモではないナニカだ。
相手をしてはいけない、見てはいけない、知ってはいけない。逃げ出さなければならない。
でも、何処に? どうやって?
「──ッ!!」
それでも恐怖に耐えかね、何処へとも知れず走り出して……
「きゃああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
目の前を見覚えのある人影が吹き飛んでいった。
瞬間、轟く破砕音と倒壊音。
ソリッドビジョン程度じゃありえない、人死にが出でもおかしくないその音に、直前までの恐怖も忘れて思わず俺は駆け出していた。
「無事か! 生きているなら返事をしてくれ!」
人影を追って飛び込んだ店の中は酷い有様だった。
立ちこめる埃混じりの甘い空気に、倒れた本棚、散乱した無数の本。台風が通り過ぎた後のように滅茶苦茶だ。
「ゃあ……少年」
そして案の定、破壊の痕跡の中心にいたのは白髪の少女。
「……昨日ぶり、だね。元気してた?」
全身に傷を負い、顔の半分を赤い血で染めたトアだった。
「お前確か、探し物があるって……いや、その前に今手当するからじっと──」
「手当は、いい。なんせ今が、その探し物の最中だから、ね」
ふらふらと覚束ない足取りで立ち上がり、ピンと反対の通りを指差してトアが言う。
「ほら、来るよ」
直後耳に届いた、ギャリンという奇妙な音。
ソリッドビジョンの中でしか聞いたことのない、硬い金属が鋭い刃に断ち切られる切断音。
全身の感覚が危険を訴える中、細い指がさす先の建物が崩れていく。冗談のように斬閃が走り、アニメのように斬り崩されていく。
そうして舞い上がった土煙の中から現れたのは……
「う……ぐぅ、が、ぁ……!!」
「…………聖?」
紛れもない、幼馴染にしてライバルの姿だった。
しかしその様子は尋常ではない。
目は血走り、足取りはまるで幽鬼のよう。痛みを堪えるように食い縛られた歯と見開かれた片目は、明らかな異常を示している。
「もしかして、あの子知り合いだったりする?」
「あぁ。幼馴染で、ライバルだ」
「そっか……なら、ちゃんとアレから助けなきゃね」
「アレ……?」
「もしかして見えてない?」
不思議そうに首を傾げるトアの言葉に首肯する。
アレと言われても、俺に見えるのは異常な様子の聖だけ。今、俺たちがいる空間自体がおかしいと言われたらそれまでだが、逆を返せばそれくらいしか心当たりはない。
「ならちょっと、背中借りるね」
「おい」
言って、背中からしなだれかかる様にトアがおぶさってきた。
ふわりと香る、埃とは違う甘い香り。そして生々しい鉄錆の匂い。加えて背中から感じる柔らかさに、健全な男子高校生としてヤバい雰囲気を感じる中。
すっ、と視線の先に被さるように手が伸びてきた。
「多分これで、キミにも見えるかな」
トアの両手が狐を形作り、重ね、ウジャトの眼のように開かれる。
変化は劇的だった。
聖の背後にソレは立っていた。
緑と金の鎧を纏った、見上げるほど巨大な武者。
その両手は巨大なハサミになっており、背からは2対4本の細いアームのようなものが伸びている。
全く似ていない筈なのに、ソレを見て感じた印象を敢えて口にするならば。
「蟹……?」
「……ふふ、せいかーい」
手で組んでいた眼も解いて、グッタリと寄り掛かるトアが答えた。
「平たく言えば、カードの精霊ってところかな?」
その言葉にも体にも、明らかに力が入っていない。
「アレこそ私が探さなくちゃいけなかったもので、キミのライバルをおかしくしている原因で、この閉じた世界を作り出している張本人。
その
──巨蟹武神キャンサード」
名が呼ばれた瞬間、ブワリと広がる圧倒的な存在感。遂に眼無しで見れるほど色濃く、実体を持って鎧武者が現れる。
『顕現』
そんな言葉が似合う威容を見て、ダメかぁ……と小さくトアが呟いた。
「元はあたしの
「元は自分のカードって、どういう」
「そのままの意味だよ。キャンサードは元々私の所にいた子で、あの日の夜、奴らに奪われて今は汚染された12枚のうちの1つ」
『──!!』
滔々とトアが語る中、痺れを切らしたのか聖とキャンサードがこちらへ向けて走り出した。直撃すればどうなるかなんて、想像するに難くない。
「逃げるぞ、掴まってろ!」
話は気になるが、それよりもいのちだいじに。
トアを背負ったまま建物から飛び出した。
建物の中にいたままでは逃げ道がない。だからこそこの選択は正しいが、同時に。これは敵の前に身を投げ出したに等しい。
『──!!』
よって必然。振りかぶられた巨大なハサミが、俺たちに向けて落ちてきていた。
「うおぉぉぉ!! 取っててよかった!《アクションデュエル基礎Ⅰ&Ⅱ》!!」
全速力のまま4単位スライディングに移行。アクションカード奪取の為に磨いた技術で、横薙ぎのアームを含めて回避し切った。奇跡! 奇跡! ひゃっほうアクション最高!
ティンクル・コメット(投石)でもしようかと振り向いた先では、今だに聖もキャンサードも動いていない。いや、一般人並みの速度でしか動いていなかった。
どうやら動き自体はそんなに速くないらしい。
これならまだ、トアの話を聞いている余裕はある。
「それで、どうして最初に会ったとき、この話をしてくれなかったんだ? 鮫トレ*1ならともかく、カードの強奪なんて話なら、この街にいるデュエリストは全員味方だ!」
この街はそういう街なのだ。
子供でも知っているから強奪事件は起きないし、よしんば起きたとしても即座にセキュリティが動く。なんなら一般市民すら動く。
「……だって、言えばキミに余計な重荷を背負わせることになった」
バツが悪そうに、耳元で否定された。
「私のカードを奪って行った連中、そういう奴らだってキミ自身が言っていたし。あの時のキミは、見てられなかったもん」
それ、は。つまり──
「私のカードを奪った組織。その名前は……」
「「 『CCコーポレーション』 」」
ピタリと言葉が重なった。
人攫いにカード強奪、どちらもかなりの重罪である。それなのに表沙汰になっていないということは、そういうことなのだろう。
「でも安心して。こうなった以上、あたしの命に替えてでも2人は元の世界に──あいたぁ!?」
「そういう冗談は、せめて自分で歩けるようになってから言ってくれ」
ふざけた事を宣うトアの額を引っ叩く。
本当なら次は、ここからの脱出方法について聞くつもりだったが……そんなことを言うなら気が変わった。
「で、どうすればいい」
「ふぇ?」
「聖をアレから解放して、俺たちがここから脱出するにはどうすればいい! さっきあんなことを言った以上、知ってるんだろう?」
「え、う、うん」
なんか元気な印象しかなかったから、しおらしい態度をされると戸惑うな。ほんと。
「元の持ち主が……つまりあたしが、デュエルで勝つこと。それでキャンサードは、あの子から引き剥がせる」
「そんな立ってるのもままならない身体で?」
「そっちの解決策も……あるには、あるよ」
バツが悪そうに言うその表情は、背負っている以上見えないが想像は出来る。できれば使いたくない手段なのだろう。
が、知ったことか。
「それでいい。俺に出来る事ならなんでも協力する」
トアは遠慮してくれたようだが、こちらとしては味方が1人増えることの方が重要だ。朝陽に繋がるルートは多ければ多いほど、何でもあればある程いいのだから。
「……………………分かった」
しばらくの逡巡の後、諦めたように返事が返ってきた。
「なら、あたしと契約して」
「契約?」
「そ、契約。あたしは半分カードの精霊みたいなものだから、契約者がいれば全力で闘える」
丁度、あの子とキャンサードみたいに。
そう続けられた言葉は、分かりやすい程に明瞭だった。つまり伝説に語られる、デュエルキングとその
「なら、是非もな──」
「ただ、ただね。1回でもあたしと契約すれば、間違いなくカードは汚染される。見たことのない変なカードが、きっとキミの手元には集まってくることになる」
「それって、こういう奴のことか?」
懐から取り出したのは、3枚に増殖した[カルマギア]のカード。今取り出してみて分かったけど、なんか紫に光ってる……こわ……アメジストみたいなのも浮かんでるし。なにこれ。
「そう。このカードみたいに、きっとキミのデッキは歪んでいく。強くなれるかはわからない。それでも?」
「当たり前だ。親友と友達を見捨てて助かるなんて冗談じゃない」
「いいぜ、契約だ。俺にできる事ならなんでもする。だから代わりに勝て、そしてアイツを助けてくれ!」
「……わかった。後悔しても、もう遅いから!」
そこまで言って、ようやくトアの覚悟も決まったらしい。
「あたしは、想間 遊陽を契約者として認定する!」
ドクン、と強く脈打つ心臓。
カルマギアを初めて使った時と同じ感覚が、より強く流れ込んでくる。赤・青・黄・緑・白・紫、そして究極の力。無数の知識が頭の中に流れ込んできて──
「身体、借りるよ遊陽。ちょっと女の子になるけど、出来れば抵抗はしないでね!」
「はぁっ!?」
「契約煌臨・履行!」
言葉と共に、辺り一体を6色の輝きが包み込んでいく。
同時に自分の身体がトアと物理的に重なり、変わっていく光景を逆観的に見ている事に気がついた。これが噂にきく幽体離脱か。
黒いノースリーブの上に白と青の外套。ミニ丈のスカートを上から覆う鎧のような意匠。無骨ながら可愛らしいブーツは白と金に彩られ、全身に負っていた傷が瞬く間に癒えていく。
最後に紫の宝玉があしらわれた髪飾りが装着され、真紅の目がきりりと開かれた。
「煌臨完了! 借りた分はしっかり返すね」
旧式のデュエルディスクに、俺のものではないと理解できるデッキがセットされる。
同時に発射されたのはデュエルアンカー……で、いいのだろうか。アングラな界隈でしか使われない、デュエルを強制するアイテム。
真っ直ぐこちらに向かっていた聖は避けようもなく、あちらのデュエルディスクも強制的に起動された。
「契約の巫女、トアの名において命ずる。
ゲートオープン、界放!」