TS美少女のロボゲーライフ 作:リナ
俺は仕事をしていなかった。
いや、というかプロゲーマーなんだから、プロゲーマーが職業って言ってもいいような気がするけど、大抵のやつはプロゲーマーは副業だった。だから、俺は多分、本業ニートの副業プロゲーマーみたいな感じなんだと思う。
こういう考えだから、リナちゃんにプロとしての自覚を……とか言われるんだろうなっていうのはさておいて。
要するに、学校も行ってないし、雇用されてないし、職業訓練もしてない感じの人間だ。
まぁ、だからといって、学校の勉強が苦手だったわけではない。考えても見てほしい。俺は反復作業を苦に思わない。ずっと、シングルトレーニングしてられる男だ。
それが学校の勉強であろうと、シングルトレーニングを続けることは、それほど辛くはなかった。
「次、羽山。この式解けるか?」
「あ、はい」
うわっ、わっかんねー。微積分とか何年前だよ。というか、身分証だと、高校一年だったぞ? 今時の高校生って、一年生で微積分やんのか……。
「わかんなかったら教科書みていいぞー」
先生からの助け舟だった。
教科書をみる。公式と見比べる。全然形違うんだけど……。
いや、閃いた。
「これだ!?」
「お……よくやった、羽山。いいじゃん」
なんとか乗り切ったみたいだ。
席に戻る。大変なんだね。今時の高校生って。
そんなこんなで、なんとか俺は授業を乗り切っていた。
ちなみに、一番できたのは英語だった。世界チャンプは伊達じゃないってことだね。海外交流戦もそれなりにするし……。
高校に適応している間に、放課後になった。
それにしても、昼のランクマッチできなかったなぁ。帰ってシングルトレーニングモードしよう。
「ねぇ、クロちゃん。ちょっと来てくれる?」
「うぇ?」
彼女は鱗川翡翠ちゃんだ。今朝、支度を手伝ってくれた。なんというか、女の子って、大変なんだね。
彼女に手を引かれて、廊下に出る。
そうして、連れて行かれた部屋は、VRセットが並ぶ部屋だった。
「どうしたんだい? 見知らぬ子達だけど」
「この子が……Eスポーツ部に興味があるみたいで!」
「え、俺!?」
よくわかんないけど、連れて行かれたこの場所は、Eスポーツ部みたいだった。なるほど、確かにみんなゲームしてる。
「なるほど、なるほど、私が部長の革島橙火だ。よろしくね」
「あ、これはどうもご丁寧に。羽山白……羽山黒芽です」
ぺこりと、お辞儀をする。挨拶は大事だ。名前……黒芽って名乗っといた方がいいだろう。どうして俺はこんなふうになったのだろう。改めて不思議だ。
「クロメちゃんでいいのかな。入っていきなよ」
「はいトウカ先輩」
下の名前の呼び合いで、攻め攻めだ。女の子はマジでわからん。
「ようこそ……まぁ、Eスポーツって、一口に言っても、カードゲームとか、格闘ゲームとか、MOBAとか、いろいろあるけど……どれに興味がある感じかな」
「アイゼンフランメ」
とっさに俺は言った。俺はそれ以外にゲームを知らない。
「いいねぇ。君もなかなかにミーハーだなぁ」
「え……?」
マジで……アイゼンフランメって言うと、ミーハーな感じになるのか。
俺は、てっきりディープな感じだと思ってたんだけど。
「かくいう私は、グリーンウォード・ウィザーズのファンでね。知ってるかい?」
「あ、はい」
グリーンウォードっていう会社がやってるチームだった。いっつも世界大会にギリギリで行けないプロチームだ。
たぶん練習が足りないんだと思う。
「君はどのチームが好きだい?」
「ヴァイス・ゲーミング」
「へぇ、やっぱりミーハーだなぁ」
なんとなく俺の所属してるチームを挙げてみたけど、反応がイマイチだった。
「ダメなんですか?」
「まず、シロが強過ぎるっていうのがよくない。確かに彼は世界一の実力で、普段の素行の悪さもゲームを愛するがゆえ、というので憎めないキャラでヒーロー性もあるのだけど。それにしたって強すぎだ。応援しがいがないじゃないか……」
まぁ、確かに応援されなくても勝つけど。みんな殺すけど。
ちょっと寂しい。
「えー……でも、弱いチーム推してたら、悲しくなりません?」
「それも含めて楽しみさ」
なんというか、先輩がギリ世界大会に行けそうで行けないチームが好きな理由はじゅうぶんに分かった。
グリーンウォード・ウィザーズのみんなは、ほんと真面目に練習した方がいいとは思うけど。
「シロはまぁ、いいとして……ネコネコとか、チームメイトも粒揃いでしょう……?」
「あぁ、彼女ね。あれはかなり鼻につく。SNSでもシロとの関係を匂わせるような投稿ばっかりだ。ナワバリ意識強過ぎかよ……」
……そうか?
まぁ、たしかにネコネコとは付き合ってた時期があった。その頃のネコネコの投稿をずっと覚えてるって感じだろうか。
ネコネコとは、付き合ってる間にはクリスマスに一緒にトレーニングをしたり、賞金で買った課金ペイントを交換したり、まぁ、そういうことをした。もちろん、リアルで会ったことないし、だるくなってプレゼントとかもやらなくなっていったから、自然消滅って感じだ。
今は『シロちゃんとゲームデート中』とか、そういう投稿してないでしょ。
「チームメイトも強いと思う」
ていうか、付き合ってるとかは私生活だ。やっぱり大事なのは強さ。ちゃんと練習してるだけあって、俺のチームは一人一人ちゃんと強い。大会で大活躍するのは俺だけど、みんな強い。
「いいかいクロメちゃん。アイゼンフランメのファンは、シロアンチと、ネコネコアンチを合わせると八割を占める。覚えておいた方がいい。ヴァイス・ゲーミングの話はネットじゃまともにできない」
「えー……」
俺のチーム嫌われすぎ……。
俺が嫌われるのはまだわかるけど、ネコネコまでそんな嫌われてるのかよ。不思議だ。
「それはともかくだ。実はEFC予選のトーナメントに、私たちは出場するんだ」
「あれ? 予選トーナメントって、終わったはずじゃ……」
俺が荒らしたアレだ。確か繰上げで優勝って話だったと思うけど。
「いや、実は三回戦でシロにボコボコにされてね。一応、敗者復活ってこと」
三回戦……覚えてない。まぁ、じゃあ、殺したんだろう。
「頑張ってください」
とりあえず、応援しておく。決勝で戦ったチームは、まぁ、そこそこ良い線いくと思うけど、他はダメだろう。万が一、EFCに参加できても、グループ戦を突破できない。
「そうだ。クロメちゃん。1on1、やってかない?」
「トウカ先輩、泣いても知らないですよ?」
***
というわけで、仮想空間に入ってきた。
カスタムバトルの1on1の対戦形式を選択して、ルームマッチが始まる。
機体をセッティング、武器を選択。
カスタムバトルは、ストーリーを進めていなくても好きなパーツがレンタルできる。かなり親切だと思う。
サブにシデンブレード。メインにスナイパーライフルのブラストライフルを選択する。
ただ、特殊武器は未開放だ。こればっかりはちゃんとストーリーで開放しなくちゃいけない。
「その組み合わせ、テンペストかい?」
「そうです」
第二回のアリーナの優勝を記念して、配布されたペイントの名前がテンペストだった。テンペストのペイントがあるパーツで組み合わせると、第二回の優勝のセットアップになる。それにちなんで、第二回優勝の際の、俺のセットアップはテンペストと呼ばれていたりする。
「君に扱い切れるのかい?」
「当然」
ゲームが始まる。
1on1は、広いステージでかくれんぼにならないよう、敵の位置もちゃんとレーダーに映ってくれる。
目視で敵の機体を確認する。先輩の中量機だ。俺の機体を確認してから決めてたんだよな。ちょっと大人気なさを感じる。
「きなよ? スナイパーライフルってことは、アウトレンジ戦法だろう?」
軽量機のアウトレンジ戦法は弱い。だが、それには例外となる武器が存在する。スナイパーライフルだ。
スナイパーライフルの一撃の威力は、物理弾の中では一番に強い。ただ、それでも、一撃で軽量機を仕留め切るどころか、耐久は半分も減らせない。
そして軽量機が……例えば俺の今持っているブラストライフルを積んだ場合、度重なるナーフにより、弾数は五発にまで減少する。
そうであっても、俺がブラストライフルを選ぶ理由は一つ。コックピットヒットで、一撃必殺が取れるからだ。コックピットヒットは、スナイパーライフルにのみ許された判定で、当たれば問答無用に一撃必殺となる。
軽量機の役割は、当然、一撃必殺をとることだ。サブウェポンが、燃費のいいシデンブレードなのだから、遠慮なく撃ち切れるし、敵の射程範囲外から攻撃できるのだから撃ち得だろう。
「と……」
どうやら、先輩もスナイパーライフルのようだった。弾がこちらへと飛んでくる。まぁ、いつものようにロックオンを外していく。
ロックオンありのスナイパーライフル……中量機なら、それもいいだろう。軽量機にロックオンありのスナイパーライフルを積むと、今だったら三発くらいだっけ……昔はもっと弾数あったんだけど、まぁ、いろいろあった。
それはそうと、こちらからも撃つ。ま、当たる。コックピットヒットだ。オッケー。
「やるねぇ」
「生きてる!? コックピットガード……か」
一回だけスナイパーライフルのコックピットヒットを防ぐというパーツだった。なんでそんなものがあるかといえば、絶対にコックピットにスナイパーを当てる上位プレイヤーのせいだった。
上位プレイヤーは、俺以外、みんなこれ積んでる。
というか、先輩……ガンメタかよ……。
「ブラストライフルはロックオン不可だろうに。よく当てるよ」
こちらが射撃をした隙を狙って、ロックオンを終えた狙撃が襲ってくる。
「危な……っ」
仕方がないから、ブレードを振って、弾を切り裂く。ダメージ判定はあるけど、こうすればコックピットヒットだけは避けられる。ギリセーフ。
スナイパーライフルのロックオンに必要な時間はかなり長いから、ま、油断しすぎたか。
「何その避けかた!?」
「いきます!」
ブレード加速とブーストでロックオンを外しつつ、先輩の動きを読む。ブーストを使って、狙撃をされないように動いているけど、まぁ、読めないほどじゃない。
よっと。コックピットガードも、もうないしね。
「うぎゃー」
ユーウィン。完勝だ。
***
「クロメちゃん……ぜひ入部してほしい」
「えー……」
試合を終えて、部長の猛攻に遭った。
「君がいれば、日本……いや……世界を取れると確信したよ」
そりゃ、世界取れるよ。俺、世界チャンプだもん。
「ていうか、空中のあの動き、どうなってるんだい? マジで」
「ブーストふかしながら、ブレードの加速で……」
「いや、ブレードの加速って、正面にしか無理でしょ。あんな動きしたら、敵も自分も見失うって……」
「シングルトレーニングモードで練習すればできるようになりますよ」
軽量機を使うんだったら、アレで自由自在に動けないと、割とマジで試合にならない。トッププレイヤーのたいていは俺に近い動きができると言っていい。軽量機の難易度が高い由縁だろう。
「じゃ、俺、今日は帰りますんで」
「入部考えといてねー」
部屋から出る。
「クロメちゃん。楽しかった?」
「えっと、ヒスイちゃん?」
そういえば、部屋の中にいなかった。部屋の外で、ずっと待ってたのか……。
「クロメちゃん……全然私以外の人と関わろうとしないからさ……」
「あ……はい」
この子マジでなんなんだろう。というか、俺はどうなってるんだろう。アイゼンフランメできるから、あんまり気にしなかったけど、ちょっと真面目に自分のことを考えないといけない。
考えられる可能性として……俺の親には、隠し子がいて、その子と精神が入れ替わったということか……。
とりあえず、親に電話してみようか。
二回目優勝時のMVPインタビュー
Q「今回は大幅な調整後の大会でした。いろいろな武器があったと思うのですけど、なぜ、ブレードホーミングのないシデンブレードを?」
A「今までのダブルスナイパーだと、やっぱり調整後のコックピットガードが厳しくて……なので、片方をブレードにしました。シデンブレードにしたのは、消費エネルギーが一番少なかったので……これならみんな殺せるって」