魔都精兵のライダーとオトモンの異世界冒険譚 作:ナマズじろう
モンスターハンターストーリーズと、魔都精兵のスレイブのクロスオーバーです。
モンハン世界に行くまでのプロローグの話が3話くらい、その後本編のモンハン世界の冒険譚になります。
プロローグ①
2018年。
世界から男女平等は失われていた。
数十年前に突如として現れた異世界、“
人の身の丈を遥かに超える巨大なマンモスのようなモンスターが、鼻から巨大な雪の塊を発射する。
相対する巨大な鈍器を持つ男はその雪塊を躱せず──
力尽きました。
報酬が0zになりました。これ以上復活はできません。
クエストに失敗しました。
「……大変申し訳ありませんでした」
画面に映し出されるゲームオーバーを示す文言。
その原因となったそしてハットトリックを達成した人物は、共にこのゲームを楽しんでいた友人たちに大変申し訳ないと振り向いて綺麗に土下座をした。
「おい何してんだ下手くそ」
「伴也ホントに下手くそだよね」
「伴也君大丈夫だよ。人間誰しも下手なのはあるよ」
「ぐはっ!?」
そしてともにこのゲームのクエストに参加していた友人たちからの、友人ゆえの容赦ない評価に二重のダメージを受けた。
彼ら4人が先ほど失敗したこのゲームは、ハンティングアクションゲームの代名詞ともいえる作品で、今までに多くのソフトが出てきた長い歴史のある、巨大なモンスターの狩猟を目指す“モンスターハンター”というゲームである。
4人は小学生の頃からの親友で、高校こそ違う学校へ進学したがそれでも会える日を見つけてはこうして集まって同じゲームを楽しむ間柄である。
見事にゲームオーバーとなるハットトリック──1人でゲームオーバーとなる3回ダウン──を達成した土下座の主は、
その伴也に一番遠慮ない直球の下手くそ発言をぶつけたのは、
その晃の前に陣取り背もたれ扱いしながらため息混じりに晃以上の切れ味の下手くそ発言をぶつけたのは、
伴也に優しさを持って接しながらも、貶す意図など一切ないが故に一番ダメージに来る下手発言を落としてくれたのは、
「一旦切り上げるか……」
今日は卒業式を来週に控えている彼らにとって、高校生としては最後の日曜日であり、そして就職、あるいは進学後はそうそう集まれなくなることから、4人で集まりゆっくり遊べる最後の日曜日となるだろう日であった。
そんな日にもハットトリックを決めてくれた親友の土下座にもう慣れたからいいやとため息をついた晃は、時計を見て正午を過ぎていたことを確認し一旦休もうかと提案する。
「うっす! 昼飯買ってきますぜ旦那方!」
「気づいたらお腹空いてきた」
「伴也君、待って私も──行っちゃった……」
拒否権のない伴也は即同意し、コンビニへとダッシュ。
兄の提案に杏里はそういえばそんな時間か時計を見てから空腹を感じ、遊里は一緒に買いに行こうと伴也について行こうとしたが既に犬居家から出て姿も見えなくなっていたので諦めて待つことにした。
ダッシュでパシリに出た伴也は、最寄りのコンビニに到着すると4人分の昼食としてパンやジュースを買い物かごに入れていく。
付き合いが長くクエスト失敗の罰としてパシリになることが一番多いので、各々の趣向も把握しているから迷うことなく選んでいく。
レジには行列ができていたので最後尾に並ぶと、伴也の一つ前に並んでいたサラリーマンらしきスーツ姿の中年男性の前に別の女性客が割り込んできた。
男性の方はこういう経験が多いのだろう、割り込まれたことに対して文句を言うこともなくまるで最初からその女の人が前にいたかのようにしている。
その光景は、この世界では決して珍しくない。
男女平等という言葉は、既にこの世界からは失われていた。
──数十年前に発生した、魔都という異世界によって。
その後もう3人に──もちろん全て女性の人──割り込みを喰らったサラリーマンの後に4人分の昼食をもちろん罰として自腹で購入した伴也は、行列と割り込みで予想より時間がかかったのでそれを少しでも取り返すために再びダッシュで犬居家に戻った。
「遅えよ。混んでたの?」
「お腹空いたんだけど!」
「ありがとう、伴也君。私の分出すね」
「すんません、コンビニ混んでました。ハットトリックしでかすようなパシリなのにこんな遅くてマジ申し訳ねえっす。遊里さんも気にしなくていいっすよ〜、クエスト失敗は自分のせいなんで、全額自分が負担しますよ〜」
「まあ、混んでたなら仕方ないな。昼にしよう」
「にぃにがいいならパン代に免じて許す」
「ごめん伴也君、その口調気持ち悪いよ」
「ゴハッ!?」
パシリから帰ってきたら、各々から好き勝手な出迎えを受ける伴也。
犬居兄妹は最初こそ遅いと文句を言ったが、コンビニが混んでいたなら仕方ないと許し、遊里には最初は自分の分は出すよと1人だけ優しい対応だったのに最後に一切の悪気なく一番鋭い言葉の刃を切りつけられ、再び精神的ダメージを受けた。
三下キャラは遊里には不評のようである。
「これは杏里、これは遊里、これは杏里、これはパシリ──」
「さすがにぃに、私の好きなのわかってる〜♪」
「ほら、伴也君そんなことしてないで行こ? お昼だよ」
「…………」
パシリから昼飯の入ったエコバッグを受け取りさっさとリビングにて配布する晃と、何も言わずとも自分の好物をわかってくれている兄と空いたお腹を満たすパンに嬉しそうな表情となる杏里。
素で放つ気持ち悪い発言という非常に攻撃力の高い一撃を喰らわせた遊里はショックを受けている伴也を引っ張って犬居兄妹が先に戻ったリビングに向かう。
遊里の一言に硝子のハートを砕かれていた伴也は、半分魂が抜けている状態でなすがままに引っ張られてリビングに戻った。
「……大丈夫かそいつ?」
「半分魂抜けてるね」
「……自分キモイっすか?」
「正直今はキモい」
「にぃにに同じく」
「…………」
そして犬居兄妹からも気持ち悪がられたのがトドメとなり、ついにぶっ倒れた伴也。
「伴也君!? ど、どうしたの急に!?」
倒れたハットトリック男を無視してパンを食べ始める犬居兄妹に対し、遊里だけは突然倒れた伴也を心配してくれた。
彼女こそ最もダメージの大きかった最初の一撃を無自覚に喰らわせた当事者の1人だったはずだが、それでも幼馴染には無慈悲な双子と違い倒れた自分を心配してくれたことに感動して復活したハットトリック男は、遊里の手を両手で握って感謝を示した。
「遊里さん……いえ、遊里さま──いや、聖女様!」
「待って、変な呼び方しないで。あと恥ずかしいからその握りかたもやめて欲しいんだけど……」
「その慈悲に感謝を──」
「ごめんなさい」
「をっふ!?」
別に告白とかするわけではなく、大仰だが感謝を伝えたかっただけの伴也だったが、言い終える前に拒否されるという対応に再び固まり魂が半分口から抜け出した。
「遊里も食べれば? そいつなら放っておけば勝手に再起動するから」
「そ、そうかな? じゃあ、ご馳走になりますね。いただきます」
伴也のことをよく知る晃から、どうせ放っておけば勝手に復活してくるので早くパンを食べなよと促され、固まった三下男を置いてパンを食べる遊里。
食前の挨拶と、昼飯代を出した三下への感謝を忘れない。遊里はできた子である。
「にぃに、これも食べていい?」
「それ、伴也君のじゃ──」
「別にいいだろ、どうせあいつしばらく復活しないだろうし」
「にぃにありがと!」
なお、三下が自分の昼食用として購入したパンはフリーズしている間に杏里が食べてしまった。
1乙ならともかく、ハットトリックをかますような下手くそに昼飯と慈悲は必要ない。
「じゃあ、3人でいく?」
「そうだな。足引っ張るのがフリーズしてる間にラージャンでも行くか?」
「OK、ユウちゃんもそれでいい?」
「うん、大丈夫だよ」
そして寧ろいない方がいい足を引っ張る役立たずがフリーズしている間に昼食を終えた3人は、さっさとゲームに戻る。
先ほどハットトリック男のせいで失敗したものよりも強力なモンスターが討伐目標となる難易度の高いクエストを選択。今回は3人で挑むことになるが、置いてけぼりにしたポンコツは力になるどころか足を引っ張る実質邪魔者なので、実際のところ3人で挑む方がまだ上手くいくので問題ない。
10分後────
ツノの生えたゴリラのようなモンスター“ラージャン”の討伐クエストをクリアしたあたりで、ようやくハットトリック男が復活した。
再起動後、三下男は自分を放置して勝手に3人でゲームを再開していたことよりも、先ほど買ってきたはずの自分の昼飯がなくなっていることに対していつ消えてしまったのかと疑問を抱いた。
「あ、あれ? 自分の昼飯は──」
「私が食べた」
「何してくれとんのじゃ食いしん坊! ゲロでもいいから返せ!」
「キモッ! 死んどけハットトリック野郎!」
「ゲロでもいいのかよ……」
残念ながら、食べた記憶がないのに無くなっていたのは杏里が食べてしまったせいである。
流石にそれには怒り、ゲロでもいいから返せと喚き、ゲロでもいい発言に犬居兄妹は揃ってドン引きすることとなった。
ハットトリック決める下手くそな三下ふんたースキルでメンタル豆腐の上に、変態要素まで加わる伴也。可愛い女子なら属性てんこ盛りも大歓迎だが、ガムート相手にハットトリックを決める下手くそなんぞにてんこ盛りはいらない。三下だけで十分、これ以上いらない属性を増やさないでもらいたいものである。
「もう一回コンビニで買ってくればいいだろ」
「またコンビニダッシュしろとおっしゃる!?」
「いや、俺たちはもう済んだし自分の分くらいゆっくり買ってこいよ」
「それもそうか。じゃあ、もう一回行ってきますわ」
返せと喚き杏里に詰め寄る変態の幼馴染を宥めるためにも、晃がもう一回コンビニ行けばいいじゃないかと提案する。
それを受けた伴也はまたパシらせる気かと晃にも喚くが、自分の分だけ買えばいいからゆっくり買ってこいと言われたことでそれもそうかと納得した。
なお、体良く足を引っ張るポンコツに席を外してもらいその隙に3人でもう一つ、二つくらいクエストを楽しもうという意図には気づいていない様子である。
そしてもう一度コンビニ行くならと、杏里がちゃっかりデザートの追加発注も頼んだ。
「プリンよろしく!」
「平然と注文入れるな! 買ってくるけども!」
「いや、断らねえのかよ……」
「伴也君もアンちゃんには甘いよね」
「2人はなんか追加ない?」
「俺はいい」
「こ、今度は一緒に行くよ!」
「要らんと言われたら買いたくなるのが我が性根よ、エクレアを買ってきてやる」
「要らねえって」
「エクレアの追加注文いただきましたぁ!」
「だから要らねえっつの。注文キャンセル」
「そんなコマンドはない、諦めろ。では、行ってくる」
「そのまま帰れ」
「プリンごと帰っていいのか?」
「ダメ!」
「ダメだそうだ。プリン買って来い」
「メインは自分の昼飯だからな! デザートも買ってくるけど!」
「いいからプリン!」
「ヘイ旦那!」
「ゆっくりでもいいぞ、混んでるだろうし」
「ヘイ旦那! じゃあ行ってきやすぜ!」
「あ、待って伴也君!」
なんだかんだ言って兄と同レベルにこの幼馴染に甘い伴也は文句を言いつつもプリンの追加発注を承諾し、ついでに2人にもデザートが必要か否かを尋ねた。
既に満腹の晃は必要ないと言ったが伴也は勝手にエクレアを買ってきてやると自ら己の財布のダメージを増やす選択をして出ていき、遊里の方は流石にこれ以上は申し訳ないからと勝手に奢られてしまう前に今度こそ一緒に行くと言って伴也を追ってリビングから出て行った。
遊里が来るとは思っていない伴也はさっさと靴を履き替えると、コンビニに向かって歩き出す。
今回はダッシュで出なかったため、慌てて靴を履き替えて走ってきた遊里は何とか追いつくことができた。
「ま、待ってよ、伴也君……!」
「ヘイ旦那──って、おや遊里もコンビニ行くの? 何か欲しいなら、言いつけてもらえれば買ってきやすぜ」
「そのキャラやめよう……?」
何も聞いてないが、遊里にも彼女の好きなシュークリームを買ってこようと思っていた伴也は、わざわざついてきた遊里にもはや染み付いてきた三下口調で言う。
何も要求がなかった──そして一緒に行こう発言は聞こえてなかった──ので、シュークリームを選ぶ予定だったのだが、ついてきたからには欲しいものがあったのだろう。
三乙の罪悪感はまだあるので、欲しいものがあれば言って貰えば一緒に買ってくるつもりだった。
「えっと……わ、私は何があるかな〜って気になっただけだから。デザートは欲しいのあるか探したいから、一緒に行こうよ」
「ヘイ旦那──」
「本当にそれやめて」
「……はい」
遊里は三下キャラはもうやめて欲しいと要求して伴也の隣に並ぶと、自分の意思でついてきたことを伝えた。
もちろんデザートは最初から伴也の予想通りシュークリームのつもりなので、デザートくらいは自分のお小遣いで買うための建前である。
遊里の歩調に合わせるため伴也が歩く速度を落とし、並んでコンビニへの道を歩く2人。
お互い仲良し4人組のなかではこの組み合わせになる機会の少ないことに今更ながら気づいた遊里が、伴也と2人というのは新鮮に感じるという感想を口にした。
「そういえば、こうして伴也君と2人で歩くのって、今までほとんどなかったよね?」
「確かに。遊里は杏里か晃と一緒ってイメージあるから、自分と2人になるのはあんまりなかったかも」
勉強会にせよ、遊ぶにせよ、大体そこには犬居兄妹がいた。
今でこそ親友だが、元々遊里は杏里の親友であり、晃や伴也と接点はなかった。お互い杏里と晃がいなければ出会うことすらなかったかもしれない。
だいたい犬居兄妹と伴也か遊里か、あるいは4人揃ってか、もしくは男女別の2人ずつでか。
お互いに2人きりと言うのは珍しく、いつも犬居兄妹のどちらかがいたなと、感じたことが一緒だったことが面白くて、遊里が微笑む。
「今私も同じこと思ったよ。ふふっ、偶然だね」
「あら可愛いこと」
「──ッ!」
その笑顔に思わずオネェ口調になって可愛いと伴也がこぼしたところ、あまりそう言ったことを異性から言われたことがなくて慣れてなかった遊里が、驚いて顔を赤くした。
「も、もう! 変なこと言わないでよ!」
「えっ、今のセクハラになるんすか……?」
恥ずかしさから遊里が伴也の肩を叩いて顔を背ける。
それを受けた伴也は「あれ? ひょっとして……」とかいう勘違いからくる甘ったるい妄想を抱くことはなく、普通に男からのいきなりの可愛い発言が嫌がられたのかと思い若干ショックを受けた。
「ほら、早くコンビニ行くよ! アンちゃんのプリン買うんでしょ!」
「いや、メインは自分の昼飯──あっ、いえ間違えました。プリンとシュークリームとエクレアがメインっす」
杏里に取られて食い損ねた昼食を買いに行くはずだったが、遊里の鶴の一声で主目的が杏里のプリンをはじめとするデザートの買い出しとなってしまった。
だが、ハットトリックをかますようなポンコツには分相応の待遇である。それとオネェまで追加するんじゃない、いくつ属性つける気だこいつは。
コンビニに入店する。
先ほど来た時よりは少ないが、それでもレジには行列ができるくらいにはいる。
「まずプリンは、これとこれ。そしてエクレア、あとシュークリーム……っと、遊里は自分で選ぶために来たんだよな?」
洋菓子が並ぶ棚に向かうと、伴也は迷うことなく杏里が大好きなコンビニスイーツのプリンと、注文拒否を拒否して買うことを決めた晃用のエクレアをカゴに入れる。
続いて遊里が好きな苺味のクリームが入ったシュークリームを取ろうとしたところで、そういえば遊里は自分で選ぶためについてきていたことを思い出して手をとめた。
「あ、うん! そうだね」
コンビニに着いたはいいものの、まだ先ほどの唐突な可愛い発言を引きずっている遊里は、伴也に声をかけられたところでようやく我に帰った。
「じゃ、じゃあ私はこれにしようかな」
そして先ほど伴也が手に取ろうとしていた苺味のシュークリームを手に取る。
伴也が声をかける前にそのシュークリームを選ぼうとしていたことには気づいていなかったため、伴也からみれば結局それかよと思わず反射的にツッコミそうになる選択だった。
……流石に公共の場でそんなツッコミを恥ずかしげもなく放つほど非常識ではないので我慢したが。
混んでるレジの行列の最後尾に並ぶ。
「混んでるし自分が全部払っておくから、少し待ってなよ」
「大丈夫、これは私のデザートだから自分で払うよ」
最初からまとめて全部出すつもりの伴也は2人で並ぶ必要もないと、遊里に会計は任せて待っててもらおうとしたが、シュークリームくらいは自分で買うからいいと遊里はその申し出を断った。
自分で払うからいいと断られた伴也は、しかし追いつこうと焦って出てきたことで靴だけ履き替え財布を忘れてきた遊里を見て、どうやって会計するつもりなのかと尋ねた。
「……財布もないのに?」
「えっ? お財布なら──あっ……」
そして伴也に指摘されて初めて財布を忘れてきたことに気づく遊里。
元々選ぶだけで支払いは当然全額パシリにやらせるつもりでついてきたのだと思っていた伴也は、財布を忘れたことに気づいて恥ずかしさから再び顔を赤くした親友の反応から本気で自分の分を自分で買うためについてきたことに気づいた。
こんな奴はパシリに使えば良いのに、実に出来た子である。
そんな出来た子がデザート抜きというのも忍びないので、もとより払うつもりだった伴也はその手のシュークリームもカゴに入れるよう促した。
「……それも払うから一緒に入れて」
「で、でも──」
「いーからいーから、ほら入れて。そしてそこら辺で待ってて」
「私は大丈夫だから──」
「そんじゃ自分の方で棚に返しておきますから。心置きなく待っててくださいな」
「絶対戻さないで一緒に払う気だよね!? 流石にそれは申し訳ないよ!」
「大きな声は他のお客様の迷惑になるよ」
「す、すみません! うぅ……ゴメンね。私がお財布忘れたせいで……戻ったら必ず払うから!」
「いーよいーよ。じゃあ、ひとまずここは自分が払うんで」
そして言葉巧みに誘導しシュークリームもカゴに入れて、当初の想定通り精算を任される形になった。もちろんこのパシリ男、帰ってからもなんだかんだ誤魔化して代金を受け取らない気満々である。
2人で並ぶのは余計に列を長くして後続の人たちの迷惑になるので、レジへの列にはパシリ男1人で並び遊里は購入が終わるまで適当に店内で過ごしてもらうことに。
ちなみにパシリ男の前にはヘルメットを被った作業着姿の男性が2人並んでおり、レジに辿り着く前に女性2人に割り込みされていた。この世界の男の立場は弱いのである。
割り込みもあって予想より時間はかかったものの、無事プリンとエクレアとシュークリームを買うことができた伴也。
何か忘れている気もするが、思い出せないなら大した内容ではないと判断し、遊里と合流して犬居家に戻ることにした。
「遊里さん、買ったんで帰りましょうよ」
「そうだね、アンちゃんも待ってると思うし」
「何か忘れてるような……? 思い出せないなら大したことないでしょ、別に良いか」
「伴也君? 何かあったの?」
「いや、何もない。大丈夫大丈夫」
「そう? じゃあ、帰ろっか」
注文されていた──注文されてないのもあるが──品が入ったエコバッグを手に、パシリ男は遊里と並んで来た道を戻る。
この三下が何を忘れているかだが、そもそもどうしてまたコンビニに向かうこととなったのか、その原因を空腹だったことと合わせてすっかり忘れている辺り、やはりこいつはポンコツである。
自分の昼飯を忘れて言いつけられたデザートはちゃんと買ってくるという結果を見れば、完全にパシリに徹していた。
もうすぐ彼らの高校生活も終わりを迎えることとなる。
伴也と晃は既に就職先の企業から内定を受けており、この世界の一般的な男性たちと同じく高卒で仕事につく予定である。
杏里は専門学校に、遊里は大学への進学の道に進むことを決めており、高校生活が終われば4人はバラバラの道に進むこととなる。特に遊里は大学に近い場所へ引っ越す予定のため、こうして集まり遊べる機会は少なくなる。
最寄りのコンビニから犬居家に戻る道を歩く。
今までは当たり前のようにあったこの日常も、今後ほとんど経験できなくなるのかと思うと、遊里は寂しさを感じて車道側の隣を歩く伴也の上着の袖に手を伸ばした。
「どうしたの? 大丈夫?」
上着の袖を掴まれた伴也が声をかける。
寂しさからこの時遊里は無意識のうちに俯いており、伴也には体が心の調子が悪くなっているように見えたため、一度足を止めた。
「……寂しくて。もう少ししたら、みんなとはたまにしか会えなくなるから」
「そっか……」
遊里は大学の方に引っ越すし、晃が勤めることとなる会社は三交代制勤務の性質から不規則な生活になってしまう。伴也の就職先は国内だけではなく海外にも拠点が多い企業のため転勤や出張が多いという話をよく聞くから、転勤族になればさらに会える日は少なくなるだろう。
けれども別に永遠のお別れというわけではないし、連絡を取り合うことができなくなるわけではない。
だからそこまで寂しく思う必要はないし、何の気兼ねも遠慮もしなくて良い幼馴染なのだから相手の都合を無視して好きな時にメールでも電話でも連絡を取れば良い。
そうすれば少しは寂しさも紛らわせるだろう。
「でもまあ、永遠に会えなくなるわけじゃないし、連絡なんてスマホ一つあればいつでもできるじゃないすか。モンハンだって、ネット通信使えばいつでも一緒にできるしさ」
「伴也君はもうちょっと上手くなろうか」
「自分今いいこと言ってたつもりだったんすけど……」
「ご、ゴメンね!」
直接会えなくても、離れても、いつでも声は聞けるし遊ぶこともできる。
そうおもえばそこまで寂しくはないからと励ましたつもりの伴也だが、遊里はそれほど深刻に思っていなかったらしくモンハンが下手くそなことを指摘するくらい余裕があったらしい。
おかげで三下男がダメージを受けたが、遊里の悩みに比べれば大したことないので大丈夫。時間があればどうせ勝手に復帰すると幼馴染も言っていた。
「だ、大丈夫! 伴也君もいいところあるよ!」
「本当ですか……?」
「うん! 勉強できるし、お金持ちだし、優しいし、背も高いし、カッコいいよ! ゲームは下手で、たまに気持ち悪いけど」
「ゲボハッ!?」
優しいが天然の遊里は晃と違い勝手に復帰するまで放っておくことはせず、ちゃんとフォローをして、そこから復活しかけたメンタルをさらなる深みにもう一回叩き落とした。悪意がないので、後半も本当にそう思っている分、よりダメージは大きい。
特に気持ち悪い発言は悲鳴と共に魂が半分口から抜け出すほどの大ダメージになっている。
「気持ち悪い……気持ち悪いっすか……」
「伴也君、どうしたの!? 具合悪いの? 少し休む?」
「いや、別に大丈夫っす……は、早くプリン届けないと……」
「あ、待って!」
フラフラと魂が半分抜けた状態で歩き出す伴也。
三下男のメンタルにダメージを与えこの状態にした──しかも自覚はない──遊里は、歩幅を合わせる余裕をなくして1人でフラフラ進む伴也に置いていかれないように早足で犬居家に向かう道をついていく。
「伴也君、ちょっと速いよ──わぷっ!?」
そして間も無く到着するところまで来たところで、突然立ち止まった伴也の背中にぶつかって可愛い声をこぼした。お前は突然立ち止まるな、だがよくわぷっを引き出したぞ褒めて遣わす三下男。
「どうしたの──えっ……?」
犬居家はすぐそこだが、まだ到着したわけじゃない。
こんな住宅街の只中で立ち止まる必要などないはずなのに、何があったのかと伴也に尋ねようとした遊里だが、その声は途中で切れることとなる。
「何で……?」
「不味いっすね、これ……!」
困惑する遊里と、彼女が背中にぶつかってきたことすら気を回す余裕をなくしている伴也。
2人の目には、先ほどまで歩いていた昼間の住宅街から一転、突如として何もない剥き出しの岩の地面が広がる暗い空の広がる異界の景色が映し出されていた。
2人のスマホが災害発生を知らせる警報を鳴らす。
これは数十年前に日本に突如として出現し、そして男女平等を失わせた資源を与えた異界が起こす災害を知らせる警報。
「魔都……!?」
魔都災害の発生を知らせる警報だった。
オリキャラ
岩代 伴也 (いわしろ ともなり)
三下男。
播磨 遊里 (はりま ゆうり)
三下男や犬居兄妹の幼馴染。ちょっと天然が入っているためたまに悪意のない事実という名の毒を吐くことが玉に瑕だが、三下男すらぞんざいに扱うことがない非常にいい子であり、穏やかでとても心優しい人物。まさに聖女様。親友の杏里に誘われる形でモンハンを始め、伴也に勧められてストーリーズにも触れるようになり、今ではすっかりモンハン好きになっている。個人的にはストーリーズの方が好きだというが、ハンターの腕前も急成長しており、流石に晃には及ばないが余裕で伴也を上回り杏里と比べても遜色ないほどになっている。ちなみにモンハンにおけるプレイスタイルは太刀一筋で、罠や爆弾にはあまり頼らずモンスター相手に武器での真っ向勝負で挑むので、たまに投稿するプレイ動画の視聴者達から猪武者などと呼ばれている。