魔都精兵のライダーとオトモンの異世界冒険譚 作:ナマズじろう
魔都──
それは、数十年前に突如として日本に発生した、人々の生きる世界とは異なる世界。
広さは東京ほど。
クナドと呼ばれる二つの世界を行き来できる門によって繋がっており、暗い空と草木のない荒れた大地が広がる世界である。
そして、黄泉醜鬼というバケモノと、人に超常の力を授ける資源である魔都の桃が多数存在する異界であった。
醜鬼という脅威と、桃という資源。
この魔都の出現は、世界を変えた。
人智を超えた力を行使し、人の技術が及ばない脅威に対抗できる存在として、桃の力を得た者たちによる新たな世界秩序が作られていったのである。
──という能書きなんて、一般人からしたらどうでもいい。
力無い人々にとって最も影響があったのは、この魔都の発生に伴い生じるようになった、突発的に発生するクナドに取り込まれ行方不明となる、或いはクナドから現世側に出てくる醜鬼に襲われることで被害を受ける、魔都災害と呼ばれる新たな災害である。
醜鬼は魔都の力──すなわち桃によって得られた超能力でしか倒せない怪物であり、無力な人々にとって魔都災害は命の危険がある極めて大きな脅威であった。
いつのまにかクナドの先にある魔都にいた。
それは典型的な魔都災害の一種である突発的に発生するクナドによって魔都側に迷い込む事例であり、2人はまさに魔都災害の被災者となっていた。
魔都には醜鬼が存在する。
人間を認知次第問答無用に襲いかかるこの怪物から身を守るには、抵抗する力を持たない一般人は見つからないように身を潜め、魔都災害対応のエキスパートである桃の力を得た国防組織の救援を待つしかできない。
状況を理解した三下はアラートを知らせるスマホに魔都災害被災時の対応を求めたが、画面に出た政府推奨の対応はその場を離れず救助を待てというものだった。
「“その場を動かず救助を待ちましょう”……これ、本当に大丈夫なのかな?」
「せ、政府が推奨している安全確保だし、大丈夫! ……だと思います」
「余計に不安になるよ! 伴也君の役立たず!」
「ごめんなさい」
政府推奨の被災時の行動をみて不安になる遊里に、伴也は政府推奨だからきっと大丈夫だと宥めようとしたものの自分も不安が隠しきれず、結果より不安にさせてしまうというポカをやらかす。この三下、非常事態でも役立たずである。
犬居の家に財布もスマホも忘れてきた遊里にとって、魔都災害に被災した時にどうすればいいかを知るには伴也(のスマホ)が頼りだが、気休めにしかならないことしか出てこなかったため、いつ醜鬼が現れるかわからない中でその場を動かずに身を潜めるしかできない状況は強い不安を抱かせる。
三下の無能ぶりにらしくない苛立ちを見せながらも、頼りになるのがその三下(のスマホ)しかないので、伴也にしがみついてきた。
「ムホッ」
「……伴也君」
「いや、今のは本当にごめんなさい!」
「スマホのアラーム切って、見つからないように隠れないと」
「イエスマム!」
そしてこの危機的状況にも関わらず、遊里と密着したことで鼻の下を伸ばす三下。
この不安を忘れさせるレベルの反応には流石の遊里も苛立つ。
すぐに謝った三下だが、その間も魔都災害を知らせるアラームがけたたましく鳴っていたので、醜鬼に見つからないように遊里はアラームを切るように指示した。
アラーム並みにうるさい返事をして、伴也はスマホの電源を切る。
アラームだけ消して欲しかった遊里は、それを見て思わず伴也の肩を引っ叩いた。
「アラームだけだよ! 防衛隊の人たちに見つけてもらえないでしょ!」
「はわわわわ、ごめんなさい!」
お互い初めての魔都災害による被災で慌てていることもあり、やることなすこと悪い方向に転がってしまう。
遊里の指摘を受けて今度はスマホの電源を入れ直すが、そんなことをすればまたうるさいアラームが鳴り響くことなる。
緊急警報のため、マナーモードにしようと設定を変更しなければ警報は鳴り止まないし音量も下げられない。
しかし焦る伴也はどうすればいいかわからずあたふたするばかりで、うるさいアラートが2人以外には人の気配がない不気味な魔都に響き渡り続ける。
そして、そんなことをしていればこの魔都に住まう怪物たちの耳にも、当然その音が届く。
魔都に住まう正体不明の怪物たち──醜鬼がその音を聞きつけ、後の発生源である2人の元へと近づいてきていた。
「音量が調整できない──そうか、これ警報だから設定変えないと消せないんだった!」
「なら早く設定を変えて! こんなの鳴ってたら醜鬼に……」
「確かに醜鬼に聞こえるし見つかっちまいますわな」
一通りパニックになったから逆に冷静になった伴也が設定を変えようとしている横で、異変に気付いた遊里が近づいてくる醜鬼の姿に今更アラームを切ろうが手遅れとなったことを察する。
伴也の服の袖を引っ張り教えようとするが、一周回って冷静になっていた伴也は気づくのが遅いし、初めて生で見る周期という怪物を前に遊里はそんな間抜けを晒す伴也の様子など気にしていられなかった。
「……もう手遅れかも」
「えーとね、まずは設定を開いて……そして警報を──って、どないしました?」
「悪い知らせなんだけど、もう手遅れみたいだよ」
「手遅れ? ……あらら、はいはい。私も確認しましたわ。うん、こりゃ手遅れですわ」
けたたましく鳴り続けるアラーム音。
それに吸い寄せられてきた醜鬼。
薄暗い魔都の空の下。
そこに在るのは、人に近い容姿をしながら人とは全く異なる姿の怪物。
高い頭部と、それを支える霊長類に多く見られる縦に伸びる首と上半身。二足歩行と四足歩行の中間、猿やゴリラに近い長い歩き方をしており、後ろ足に比べ長く伸びた前足は足というよりも腕のようで、歩行は補助のようなもの、長い指と広い掌は見るからに掴む・投げるといった行動に適した作りをしている。
そして頭部には鬼のように側頭部より伸びる二本のツノ。腰からは尻尾が伸びている。
全体は黒い毛で覆われており、赤く光る瞳を宿す顔はさながら猿のよう。
それは、醜鬼と呼ばれるはずの怪物たちの一種である。
醜鬼の容姿は人や猿に近い姿で、人間よりも巨大で、前足が長い個体が多い。
顔があり、体毛はなく、生殖器らしきものも確認できない、生物と呼べるかどうかすら怪しい存在。
魔都が現れて年月が経ち、確認される醜鬼も多くなってきたこのご時世、醜鬼の容姿が個体ごとに異なることが多いというのは世間にも広く知られており、ニュースなどを通じて魔都災害とは無縁の平和を生きられる人々も目にすることが多くなっているが、その全貌はまだ解明されていない。
だから、2人が知らないだけなのかもしれない。
その醜鬼は2人の知る醜鬼の特徴にある程度合致している。しかし、ニュースを通じてしか見たことがないとはいえ、2人が今まで見てきた醜鬼とは異なる特徴もある。
そして、その容貌は2人にとって醜鬼としてではなく、全く違う形で画面の向こう側の存在として見慣れたモノにそっくりだった。
「醜鬼、なんだよね……?」
「魔都だし、醜鬼だろうけど……」
「あの姿はどう見ても──」
「ええ、あれはどう見ても──」
「「ラージャンじゃん」」
思わず声が重なってしまった伴也と遊里。
2人の前に現れた醜鬼。
その姿は、醜鬼ではない存在として見慣れていた、しかし当然ながら実物など見たこともないゲームの中だけの空想上の生物である、ラージャンに瓜二つの姿をしていた。
人間、パニックになり尚且つ混乱する情報をぶち込まれると、一周回って冷静になることがある──というか、ショートを起こしてしまい思考を放棄してどうでもいいことを考えたりするようになる。
どこからどう見てもラージャンにしか見えない醜鬼を前にした2人は、まさにそんな状態であった。
「GuaaAAOOOOON!!」
「キャァァァアアア!」
「ぎゃぁぁぁあああ!?」
ラージャンにしか見えない醜鬼は、そんな2人の事情など構うはずもない。
雷光線のブレスをぶっ放しそうな、ラージャンのものにしか聞こえない咆哮を上げ、2人を認識するなり襲いかかってきた。
そんなラージャンみたいな醜鬼の咆哮に、ようやく2人もショート状態が解除され、そんなくだらないことを考えている場合ではない命の危機に意識が戻る。
遊里はパニックホラー映画でよく聞くテンプレな悲鳴を、三下の方はアラーム音に負けず劣らずの聞く人間の神経を逆撫でするような不愉快極まりないブサイクな悲鳴をあげて、2人揃ってラージャンに背中を向けて全速力で走って逃げ出した。
直後に2人の背後に、空中に飛び上がったラージャンからの攻撃が落ちてくる。
飛鳥文化タックルなどと散々ネタにされている空中からの前転タックル攻撃は、岩の地面を粉砕し、その余波で直撃は逃れた2人を吹き飛ばした。
「痛っ!」
「ぐえっ!?」
余波だけで足が地面から離れ、人体がボールのように簡単に数メートル先まで吹き飛ばされた2人は、伴也が潰れたカエルのような形で前面から全身を打ちつけ、その上に遊里が落ちるかたちで着々──というよりも叩きつけられる。
ゲームの画面では直撃を喰らって吹っ飛ぶのは三下の方だけだが、画面の向こうにしか存在しないあんな姿形が人間なだけのモンスターとおなじことなど、普通の人間にできるはずもない。
平然と回避し、当たろうとも立ち上がり、当たらなければ吹き飛ばされることもないような超人と違い普通の人間の2人には、このあとすぐに立ち上がるなんてこともできず、打ちつけられた痛みから動けなくなった。
そんな獲物を前に、躊躇する理由などラージャンは持たない。
1発目の飛鳥文化タックルは外れたものの、吹き飛ばされ動けなくなっている獲物をすぐに見つけると、筋骨隆々の胸を見せびらかすように大きくのけぞった形を取り、大木のような太い腕を振り回してきた。
「────ッ!」
伸びてる三下はそんなことも気づいておらず、伴也が下敷きになったおかげで潰れたカエルにならずに済んだ遊里はかろうじてその危機に気付いたものの体は言うことを聞かず逃げられない。
もうダメだと目を閉じて顔を背けることしかできなった遊里だが──
「遭難者だな。もう襲われているとは、運のないことだ」
ラージャンの拳は2人に届くことがなく、突如としてその間に割り込んできた何者かの刀によって弾かれた。
遊里が目を開けると、2人をラージャンから守るように立っていたのは、魔都災害から人々を守るために組織された魔都の桃による力を得た、対醜鬼のエキスパートたちにより構成される新たな国防組織の一つ。
魔都防衛隊──通称“魔防隊”と呼ばれる組織の制服に身を包む、日本刀を携えた1人の女性だった。
「貴女は……?」
「魔防隊7番組副組長、
遊里の問いに、魔防隊員の女性──京香は、自らの名前と所属を明かすと、ラージャンを前にしてそれが当たり前のことであるかのように守り抜くと宣言する。
その姿は一見すると日夜醜鬼と戦い人々を守っているとは思えないものだが、しかしその背中と自信に満ちた声にはラージャンを前にしても嘘偽りなどない、不思議と庇う相手を安心させる強さがあった。
「2本のツノに体毛持ちとは見慣れないが、新種か……? だが、力は見た目ほどではないようだな」
ラージャンそっくりの醜鬼を前に、京香は冷静に相手を見据え、刀を構える。
新種という不穏な単語を口にしているが、直撃すらしていない攻撃で人間2人を余裕で吹き飛ばすような攻撃を繰り出す怪力を、一度刀で弾いただけで力はそれほどではないと見抜いた。
刀を構える京香に、ラージャンは新たな獲物と見たのか、それとも自分の拳を弾くことができる敵と見たのか。
いずれにせよ殺すべき対象であり撤退など選択肢にはないらしく、空気が震える咆哮をあげて京香に殴りかかってきた。
「──温い!」
そのラージャンの拳を、京香はその場から動くことなく刀を振って弾き飛ばす。
明らかにラージャンの方が大きく重いはずなのに、その巨大な拳はバットに打たれるボールのように簡単に横に逸らされ、さらには中指と薬指の付け根が切られての中ほどまでぱっくりと割れてしまった。
これに驚き、空いている方の手で切られた手を押さえる醜鬼。
拳からは赤い血が吹き出しており、腱を切られたのか中指と薬指が中途半端に開きのびた状態で動かなくなった。
「よそ見とは、舐められたものだな!」
痛みに苦しむラージャンに、京香は手心を一切加えることはない。
敵を前にして、手を切られただけで慌てふためく様子を見せるラージャンそっくりの醜鬼に、一息で間合いを詰めるとその首を狙い刀を振るう。
間一髪のところで気付いたラージャンが頭を逸らしてかろうじて回避するも、首には届かずとも耳とツノは逃げ遅れ、ラージャンの側頭部を抉りツノを根元から切り飛ばした。
これにパニックになったラージャンは、顔を押さえてその場から飛び退き距離を取る。
それまで人間を相手に殺すための動きしかしてこなかったラージャンそっくりの醜鬼は、初めて自分の身を守る行動に出た。
「逃すか──チッ!」
逃げたラージャンそっくりの醜鬼に対し、逃すまいと追いかけようとした京香だが、周囲に他にも醜鬼が湧いており、そして2人の守るべき対象があることを受け、追撃しようとした足が止まる。
難を逃れたラージャンと周囲の寄ってくる醜鬼からは目線を外すことなく上着の内側に手を伸ばし、そこから取り出した札を用いてその場に結界を張る。
直後に、集まってきた醜鬼たちが四方八方から結界に襲いかかってきた。
ちなみにこの間、遊里の下敷きにされている三下はうるさいアラームを鳴りっぱなしにしたまま伸びていた。アラームすら解除できていないあたり、こいつはとことん役立たずである。
「簡易的だが結界を張った。しばらくは持つはずだ」
「あ、ありがとうございます……」
結界に守られているとはいえ、醜鬼の群れに集られている状況は遊里からすれば不安と恐怖に押しつぶされる恐ろしい光景である。
ようやく会話する間ができたことで、まずは命を助けてくれた相手へのお礼を口にする遊里だが、その間も殴り続けてくる醜鬼たちによって結界が破られるのではないかという恐怖が募るばかりであった。
「あ、あの……大丈夫、なんでしょうか……?」
「大丈夫だ──」
ピシッ!
殴られ続ける結界は簡易的ということもあり、ヒビが入りもう長くは持たないことを主張している。
「──とは言い難いな。長くは持たん」
「ダメじゃないですか!」
結界の強度を冷静に見て長くは持たないと結論づけた京香。
それに思わず結界を張ったあたりでようやく目覚めた伴也が、思わずでかい声でツッコミを入れた。
「あ、生きてたんだ」
「いや勝手に殺さんといてよ!」
「ご、ごめんね。いまどくから──ごめん、腰が抜けて動けない……」
「マジですかい。じゃあ、このままでいいや」
伴也が起きたことで、遊里も少し落ち着きを取り戻す。
そしてようやく自分が下敷きにしてしまっていることに気づき潰れたひきがえるの上から退こうとしたが、恐怖で腰が抜けてしまい動けなかったので、今だに命の恩人の顔を見れていない伴也もならこのままでいいやと呑気な結論を出した。
この危機的状況にも関わらず繰り広げられる、幼馴染ならではのゆるい会話。
それを見て京香は呆れたが、パニックになられるよりは会話もできそうでこちらとしてもありがたいと被災者たちのよくいえば落ち着いた、悪くいえば一周回って呑気になっている様子に、笑みをこぼした。
「被災者は君たちだけか?」
「近くには誰もいなかったので、おそらく私たちだけです」
「そうか」
遊里が落ち着いたところで、京香は他に被災者がいないかの確認を取る。
ちなみにこの間もヒビの入った結界が醜鬼に殴られており、三下がアラームを解除している。
幸いにも確認できる中で死者は出ていないことを受けひとまず安堵した京香は、自分1人ならまだしも動けなくなっている被災者2人を庇った状態でこの危機的状況を切り抜けるか援軍が来るまで保たせる手段を思案した。
「君たち、名前は?」
「私は播磨遊里といいます」
「自分は──」
「では、遊里と。君は桃を食べた経験は?」
「えっと……食べてないです……」
「あのー自分は無視っすか?」
「そうか。いや、責めているわけじゃない」
京香はまず遊里に魔都の桃を食べたかどうかを尋ねる。
もしも遊里も能力を獲得していれば醜鬼から身を守ったり、逃げる力があったかもしれないのでその可能性に賭けたが、残念ながら遊里は魔都の桃を食べた経験がなかった。無論、潰れたヒキガエルになってる三下には経験もなければ能力などあるはずもない。
ならばと、京香は賭けになる手段を選択する。
「君たち、この状況を切り抜けられる手段があるとするなら、どうする?」
「あるんですか?」
「そりゃ乗りますよ!」
「よろしい。では──」
2人の返事を聞いた京香は、手袋を外して遊里に片手を出した。
「私の奴隷になれ。この場を切り抜ける力を授けてやる」
「……はい?」
「乗ったぁ!」
京香が選んだ、自身の能力を使うという手段。
彼女が桃によって得た能力は、醜鬼を切り裂く刀でも、札による結界の展開でも、醜鬼と渡り合えるフィジカルでもない。
契約を交わした相手と主従関係を結び、その奴隷の力を引き出すというもの。
今までは醜鬼を何度か試しており、今はちょうど契約対象である奴隷がいない状況である。
彼女自身も初めてだが、その契約を遊里と結ぼうと考え提示したのである。
しかしいろいろ説明をすっ飛ばした京香からの提案に、遊里は当然困惑する。
だがその下で下敷きになっているヒキガエルが、怪我をしている親友もその下敷きになっている自分も救われて、その上この命を救ってもらった恩を返せるらしきワードを聞いたならば躊躇う理由はないと、いろいろと説明すっ飛ばされているのに後先考えず了承の返事をしたのである。
「あ、いや君に訊いたわけじゃ──」
京香の能力は、魔都の桃によるもの。
そして魔都の桃が力を授けるのは、何故か女性のみ。
だから下敷きにされてる三下ではなく遊里に尋ねたつもりだったのだが、返事をしたのがまだ名前も知らないそして知る価値もない三下男だったので、お前には訊いてないと否定しようとしたのだが──
「自分と友達の危機を切り抜けられて、その上命の恩人に奉公できるなら、鬼にも蛇にもモンスターにもなるくらいの覚悟はあるわ! 何をするかわかんないけども、奴隷にするなら自分にしろ!」
「……男など力も得られない弱い存在と見ていたが、考えを改める必要がありそうだな。その気概、買わせてもらおう」
その状況で己ではなく友人を優先する覚悟を見せる啖呵に、京香はその心意気を気に入り契約する相手を変えた。
「遊里、君の友人を借してもらうぞ」
「ちょっと、伴也君!? 待ってください、何をする気なんですか!」
今度は遊里が1人置いていかれる状況となり、どういうことだと説明を求める。
もし危ないことをするつもりならと不安になる彼女の頭を安心させるように撫でてから、京香は伴也の方に回り込んだ。
「一度契約すれば、おそらく奴隷の方が死ぬまで契約は消えないぞ。覚悟はいいか?」
「まあ、そうしないと友達1人も無事に帰ってもらうことすらできないですからね。就職先は世話して欲しいですけど」
「案ずるな。私が引き取る」
「じゃあ、躊躇う理由ないっすね。あいつらボコボコにしてこの子を救える力、自分に貸してください」
「ああ、存分に暴れさせてやる。──屈服の時間だ」
──それは、世界を跨ぐ大冒険の始まりとなる契約。
「これは──!」
「うそ……!?」
彼は願った。
友達を救い、命の恩人に奉公できるなら、鬼にも蛇にもモンスターにもなってみせる。故にその機会と力をくれ、と。
その願いを叶えるように、京香の能力である“
人を捨て、友を守り、主人に仕え共に戦える力を振るうための、
結界が砕かれ、襲いくる醜鬼たち。
その直前に閃光に包まれた獲物たちだが、その姿は見失わない。
いるべき場所に手を伸ばし蹂躙せんとした醜鬼たちは、しかし直後に肉片となる。
そこにいたのは、無力な人間ではなかった。
全身を覆う白黒の棘の山。
巨体を空に翔るための、一対の翼。
猛獣の如き牙を備えた大きな口。
胴体の先より伸びる、これまた先端まで棘で覆われた尾。
大地を踏み締め立ち塞がる敵を薙ぎ払う太い四肢と、その戦端に備わる鋭い爪。
ラージャンみたいな醜鬼のそれよりも太く鋭くそして棘が覆う二本のツノ。
竜とも獣とも取れぬその姿は、かの金獅子と同じ世界に生きる、彼女たちにとっては画面の向こうにのみ存在する空想上の生物。
「ね、ネルギガンテ……!?」
天変地異をもたらす古龍を狩り、進化を続け、大地の海原の秩序を守る存在として生きる存在。
通称“滅尽龍”──ネルギガンテと呼ばれるモンスターの姿があった。
次くらいでプロローグは終わる予定です