機動戦士ガンダム SEED 運命の繭   作:ドクトリン

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アンケート結果を拝見しました。
想定よりも話のテンポが丁度良いとのお声を多数いただいたので、今後も自分のペースで執筆させていただきます。

回答ありがとうございます。


さまよう眸(ひとみ)

 

 あまり、あの日のことは思い出せない。

 家族皆で走って逃げていたあの日…

 お母さんに手を引かれ、必死に走った。お母さんは、泣きながらも私を守ろうと必死だった。お父さんは、みんなの荷物を運んで走った。綺麗なスーツを汚しながら懸命に走っていた。

 お兄ちゃんは…あれ?何をしてたんだっけ。確か…私の…?

 私は、何を叫んでいたのだろうか…?

 

 周りは大きな音がした。大地を闊歩する巨人が地響きを起こし、空を征する死の象徴、青い翼が世界を覆う。

 

 地獄だった。…地獄だった。

 きっと、あれこそが…

 大地は亀裂が入り、雲を割るようにビームやミサイルが我が物顔で空を飛び交う。

 ヒトの命なんて、誰も気にしていない。ひどい、ひどい戦場だった。

 

 直後、何だか凄い音がして。

 それから気がついたら。全てが後の祭り。

 

 それからかな。悪いユメばかりみるんだ。

 

 

 “僕”からすれば。家族でキャンプなんて。

 嬉しいことは嬉しいのだが、少しばかり気恥ずかしさもあったりもして。

 自分のテントを建ててからは早々に、独りで紅葉に染まる木々を傍らに、読書をしていた。

 少し眠くなってきて、文字の上を目線が滑り始めた。同じ文を何度も読んでしまい、一向に頭には入らない。諦めて読書を中断した。紅い葉を茂らせた木々の元で、両手を枕がわりにして横になる。まだ少し明るいから、持ってきた本を顔に乗せて、視界を強引に誤魔化した。

 

 風はちょうど良いくらいの強さで、枝を優しく揺らす。ザァっと葉っぱが風に撫でられて、ピアノの鍵盤を指でなぞったときの様に、静かな音を奏でる。このまま本当に寝てしまおうか、と意識を手放そうとしていたときの事だった。

 

「わぁ!」

 

 直後、身体に何か軽いものがかけられる。視界の隅、本と身体の間から見えるに、紅葉を身体にかけられたようだ。

 ゆっくりと上体を起こして、その犯人である、妹の顔を見る。彼女はしてやったりの表情を浮かべている。悪戯の成功が余程嬉しいのだろうか、ニヤついた口元は喜びを隠し切れてはいない。

 

「やったな!」

 

 妹を追いかける。意外と足が速くて、中々追いつけない。木を上手く利用されて、距離を詰める事ができない。

 僕としては、妹に脚力で負けるわけにはいかないので、ムキになって追いかけ回す。

 そんな二人を見て、父と母は笑っていた。

 

「こら!マユ!」

 

 二人、笑って追いかけっこ。

 この兄妹にとっては瑣末な事だった。

 日々の戯れ、当たり前の日常…

 

 皆がまだ生きていたころの優しい記憶。

 

 

 最悪の目覚めだった。あの日の事は、あまり思い出さない様にしていた気がするのに。

 なぜ今更、あの日の夢を見るのだろうか…?

 ふと、心が辛くなってしまった。怖いものから逃げたくなって、身体を丸めて心を守ろうとした。しかしバランスを崩してベッドから落ちてしまう。這いずる様にベッドに近づき、まず一つ大きな溜息が出る。

 朝一番からこの調子では、今日ははあまり何もできないだろう、と自分を評価しながら朝の準備を始めた。

 顔を洗う事にする。今日も今日とて、うだつの上がらない顔貌だった。

 

 あてがわれた自室から出る。廊下は既に人の気配に満ちていた。遠く、食堂の方からは喧騒が聞こえる。

 それに反応する様に、空腹を自覚する。本能に従い、食事をいただくことにする。

 

 アークエンジェルの食事は、現在のところ不満はない。ずっと停泊中であり、物資不足に陥ることもないからか、メニューは思っていたよりも豊富な印象だった。

 とりあえず、今日も今日とてサンドイッチをいただく。手で食べやすいものに逃げてしまうのは、私の良くないところだと自覚はしている。

 

「おはよう、マユ」

 

「キラ…さん。おはよう」

 

 キラも朝食を貰いにきたのだろう。彼は席の向かい側に座り、慎ましく食事をしている。彼も小さいサンドイッチとコーヒー組み合わせだ。青年が食べる量にしては少なすぎるなという感想だった。

 二人で無言を貫きながら食事を続ける。別に話す事がないわけではないのだが、お互いに無理して話すタイプでもない。

 特段嫌な無言でもないので、放置して自身の食事を終わらせる事に注力していると、キラの方から話し始めた。

 

「恐らく、そろそろ出発すると思う」

 

「…この艦が?」

 

「うん。だから、マユも準備だけはしておくといいよ」

 

 わかったと伝えて、先に離席する。特に準備をすることもないのに、逃げる様にその場を去ってしまった。

 何故か、今日はうまく人と話せない。それに、話したい気分でもなかった。

 彼を見ていると、何故か嫌なことを思い出してしまいそうだった。

 

 

 昔のことを思い出した。最近は、あまりそんなこともなかったのに。

 家族でピクニックに行ったこと。もう、何年前何だろうか。

 

「なんでなんだろ…」

 

 いつもよくはないと自覚しているのだが。今日は輪をかけてひどい目覚めだった。

 

 このまま引きずっていても仕方がないと切り替え、顔を冷水で洗い、気持ちを切り替える。

 朝食を摂りにホテルのビュッフェへ向かう。おいしそうなものがたくさんあって、目移りしてしまう。

 とりあえず、食べたいものを片っ端から皿に盛ることにした。他の人もとるだろうし、一つずつに我慢しておこうと心で誓う。…あ、ベーコンは二枚までセーフにしよう。

 

 そうして朝ごはんのメニューを云々吟味していると、アスランとルナマリア、それにラクスが一緒に姿を現した。

 

「おはよう、シン」

 

「おはようございます、アスラン隊長。それにルナとラクス様も」

 

 皆々と挨拶を交わし、供に朝食を摂ることになった。特段誰かと食べるなど決めてはいなかったので、素直に受け入れることにする。

 

「昨日はゆっくり眠れたか?シン」

 

「ええ、まあ。ミネルバのベッドよりも、なんかフカフカでよかったです」

 

 正直に言えば、あまりちゃんと眠れた感覚ではないのだが、ここは正直に話す必要性も感じなかったので適当に誤魔化すことにした。

 

 今もミネルバのクルーはディオキアに駐留している。つかの間の休暇は今日が最後の予定だ。明日未明には、ここを発つことになっている。

 

「休暇も今日までだ。せっかくだし、街にでも行ってみたらどうだ?」

 

「確かに、面白そうですね!」

 

 ラクスも彼の意見に同調し、会話に入ってくる。

 ルナマリアも見た感じではかなりワクワクしているようで、楽し気にアスランと話している。

 

「隊長は…誰かと街へ行くご予定はあるんですか?」

 

「アスランは勿論私と「俺?俺はいいさ。ミネルバに先に戻っている。色々、報告書も作らねばならないからな」

 

 強引にラクスの会話を遮り、返答するアスラン。

 そうですか…と少し肩を落としているルナマリアと、もっと落ち込んでいるラクス。なんだか、形容しがたい変な感じがしてムズムズする。

 

「というわけだ。そうだ。折角なんだし、二人で出かけてきたらどうだ?」

 

 ルナマリアと二人、顔を見合わせた。

 

 

「まさか、シンとデートすることになるなんてね―」

 

 ルナマリアは私服に着替えてきたようだ。しかも、かなりバシッと決まったパンクスタイルである。よく見ると薄く化粧もしており、普段のかわいらしい様相を強めつつも、彼女の意思の強さを強調するような顔立ちが、シンに何となくいつもと違うルナマリアだと思わせる。

 

 シンも私服に替えてきたが、適当に一番上のモノを羽織ってきただけなので、やはり女性というのはファッションに飢えているのだろうか。

 

 いつもは隊服姿しか見ないため、なんだか新鮮だなとシンは心の中で独り言ちる。

 

「デートってなんだよ?」

 

 シンが、よくわからないといった風に首をかしげて問いかける。それに対し、ルナマリアは呆れたようにため息を吐いているが、それもシンは気が付かない。

 

「本当、ガキなんだから…そもそも。折角って何よ、折角って…」

 

 少しばかり意識をして、化粧まで決めてきたのに。

 アスランのよくわからない気遣い?も、少しだけイライラした。

 自分だけそんな感情を抱いているような気がしたルナマリアは、ほんの少しだけ悔しくなり、シンに聞こえない程度の声量で、愚痴を吐いた。

 

 

 

「シンってバイク乗れたんだっけ」

 

「まあね。ザフトの駐屯地から借りてきた。後ろ乗るだろ?」

 

「ほかに足もないしね。ありがと」

 

 シンが借りてきたのは赤色の中型二輪。二人の少年少女を運ぶには、まあ丁度良いくらいの馬力だろう。

 シンがバイクに乗れることは、訓練校時代に少しだけ聞いたような、やっぱり聞いたことがなかったような。そんな曖昧な記憶をルナマリアは持っていた。

 つまるところは、あまり興味がなかったのだが。

 

 二人でバイクにまたがり、ディオキアの街を回った。朝の市場は野菜も魚も沢山売っておりとても盛況していた。店主の女性に魚をどこで仕入れるのかと聞くと、近くに港があると教えられ、そちらにも足を運んでみた。

 

 港では朝の一仕事を終えた漁師たちがたばこで一服しており、皆々満足そうに釣りたての魚をツマミに朝から酒を吞んでいた。

 

 レストランにも入った。地元の魚と野菜の煮込みスープはとてもおいしくて思わず二人で微笑みあってしまった。

 

 どうやら、ザフト軍がこの街を解放したことが俄かに騒がれているようだ。コーディネイターへの差別も全くなく、返って好意的に思えた。

 

 街の皆々は、笑顔で過ごしていた。

 

「街が…生き生きしてる」

 

「うん。ずっと戦ってばかりいると、何が正しいのかなんてわからなくなっちゃうけど。これを見るだけで、なんだか頑張ってよかったなーって思った」

 

 ルナマリアの言に、シンも同意する。一時かもしれないが、この平和を導くことができたのだ。それはきっと善いことだと思った。

 

 ルナマリアも、街の周遊に満足したのだろう。初めは少しだけ不機嫌そうに見えたが、途中からは寧ろシンを引っ張っていろいろな店を回るほどであった。寧ろ、シンは荷物持ちを任され、ショッピングに少しトラウマができてしまうほど疲れてしまった。

 

 もう時刻は夕方に近づいていた。最後に、二人は海が見える絶景スポットを街の住民に教えてもらったため、そこに足を運んだ。

 どうやら、近くの崖がその場所のようだった。観光客向けの安全対策の柵などは一切なく、ここが地元民しか知らぬ場所であることを教えてくれる。そして、確かにとても美しい。

 太陽を飲み込まんとする広大な水の塊が、視界に広がる全てであった。茜色に染まる海と空は、その境界線が曖昧になっていて、合わせ鏡みたいだ。

 今なら頭上に海があると言われても、思わず信じてしまうほどに。

 

 シンは、海を見るのが好きだった。とりわけ、夕日に染まる海を。なぜであろうか。太陽を包み込むほどの大海原は、世界で最も雄大な存在に見えたからなのだろうか。

 いつも、なんとなく夕焼けに染まる海を見に来ては…自分のことも、太陽と一緒に包み込んでくれる気がして安心した。

 

「きれい…」

 

 ルナマリアも大層感心しているようで、ずっとさっきから携帯端末で写真をバシャバシャと撮っている。シンは、あまり写真を撮る文化がないので、そこらへんは共感できない。今思えば、ルナマリアは今日ずっと写真を撮っていたかもしれないな、とシンは思いにふける。

 

 そんな時、少し遠くで、金髪の少女が歌いながら踊っている。それはさながらプロのバレエの様である。白鳥の湖とは、こういうことなのだろうか。

 チャイコフスキーが聴こえてくると錯覚してしまいそうな、優雅なダンスと歌を彼女は披露してくれていた。

 

 そんな夕日と海と、可憐な少女が。あまりにも絵になるため、二人はじっと見入ってしまった。

 ぼう、と数分間見ていると、突然少女が崖から落下する。

 

「落ちた!!」

 

 ルナが息をのむようにして驚く。シンがさっと崖下を覗く。海面までは、二十メートルほどだろうか。少女はパニックに陥ったのか、ずっと犬かきをする様に暴れている。

 

「泳げないのか…!」

 

「シン!アンタまさか…!」

 

「ルナは、誰か助けを!!」

 

 シンの判断は迅速だった。すぐさまシンは服をできる限りその場に脱ぎ捨て、崖から海に向かって飛び込む。

 崖は時々とげとげした隆起があり、飛び込むのに躊躇してしまうと、返ってそれらに引っ掛かり危ない。だから、思いっきり飛んだ。

 

 

「はーくっしょい!!」

 

 シンは、身体が濡れていることによる寒気で思わず巨大なくしゃみが出る。

 

 結論としては、シンは無事に金髪の少女を救い出すことに成功した。パニックになり暴れられはしたが、シンの方が腕力は勝っていたらしく、何とか陸に上げることができた。

 しかし、飛び込んだ崖がかなりの高さであることと、寒さで体力が奪われていることから、とりあえずは近傍の洞窟に入って救助を待つことにした。

 濡れた身体は、どんどんと体温と体力を奪っていく。故に何とか身体から水気を飛ばしつつ、暖を取るためにシンは火を起こした。

 

 軍の端末の救難信号を作動させた。ルナマリアも助けを呼んでくれているだろうし、一時間ちょっとくらいでなんとかなるだろう、というのがシンの読みであり、故に落ち着きもできた。

 金髪の少女は、数分経ってようやく落ち着いたようだった。今も肩で息はしているが、いずれは呼吸も整うだろう。

 

「でも、こんなことしたらいけないよ。もう少しで、死んじゃうかもしれなかったんだから…」

 

「死ぬ…死ぬの、私…?」

 

 突如、頭を抱えだす。そして、何かから隠れるように身体をできる限り縮こませて、ずっと怯えているようだった。せっかく整ってきた呼吸も、少しばかり荒くなっているようで、彼女がまた軽いパニック状態に陥りそうなのを理解する。死。という言葉を連呼し続ける。瞳孔が開いている。交感神経が優位になっており、血圧も心拍も上がっていそうだ。ずっと、がたがたと震えて、手足を振り回している。

 そんな彼女を見て、シンは。

 

「大丈夫!大丈夫だよ…大丈夫だから…」

 

 シンは少女の手を、ケーキの箱を運ぶように大事に大事に取る。そしてできる限り優しく、優しく、我が子を慈しむ親の様に。かわいい妹に語り掛けるように。

 

「だい、じょうぶ…?」

 

「うん。君は死なないよ。“僕”……俺が、守るからね」

 

 シンは、何故かはわからなかったが、とても自然に笑みが漏れた。

 それを聞いた彼女も、安心した様に笑った。

 

 

 少女に話を聞くうちに、なんとなく彼女の背景が見えてきた。

 戦争孤児だった。両親は、既に他界しているようだった。

 でも、誰か面倒を見てくれる人はいることは話しぶりからわかった。

 ディオキア生まれではないようだった。もしかしたら、戦争で故郷を追われてしまったのかもしれない。

 

 彼女自身とても口下手のようだった。

 シンが頑張って、なんとかギリギリで会話が続いていると評すべきなほどに、彼女は話すの得意そうではなかった。でも、それでもシンは少女に語り続けた。

 

 それだけ、かの少女…『ステラ』には。シンを惹きつける何かがあったのだ。

 

 ステラは『死』をとても怖がっていた。

 それは、きっと何かしらのトラウマが起因しているのだろう。

 何か、怖い目に遭ったのだろう。シンの様に…

 だからだろうか。この少女も、自分と同じような境遇なんじゃないかと思って。

 それに、とてもか弱く…儚く見えたから。だから、守りたいと思ったのかもしれなかった。

 

 少女は会話する度、自分が死なないかとシンに何度も尋ねていた。

 

 それに応えたくて。叶えられる保証なんてなかったけれど。

 そうありたいと願って。そうしたいと思って。

 

 シンは何度も、『君を守る』と約束した。

 何度も、何度も…

 

「痛っ…」

 

 ステラが足首を抑えている。確認すると、どうやら擦り傷ができているようだった。どうやら、先ほど少し慌てた時に、どこかに打ち付けて切ってしまったようだ。

 このままでは、化膿してしまうかもしれないし、露出させておくのも危ないと思ったシンは、持参していたハンカチで傷口を覆うことにする。

 

「これで、よし」

 

「足、怪我…ありがとう」

 

「どういたしまして。俺、シン。シン・アスカ…」

 

「シン…そうだ。はい、コレ…」

 

 ステラがシンに渡したのは、ピンクゴールドに光る貝殻の一片。どうやら、一つの貝を二つに分けたものの様だった。

 

「これ、くれるの?…ありがとう」

 

「うん…シンに」

 

 ステラは、笑顔で貝殻をシンに手渡した。

 

 シンが今日見た中で、一番、一番…優しい顔をしていた。

 

 

「貴重な休暇中に救難信号(エマージェンシー)とは。大物だな、シン」

 

 ルナマリアからの連絡とシンからの救難信号を受け、アスランはボート一隻を用いてシンを捜索していた。

 アスランは別に怒ってはいなかった。そもそも、自分が羽を伸ばせと言った手前、自分にも多少なりとも責任があるのでは、と思った。しかも、ルナマリアからは彼が海に落ちたと聞いていた。

 

 陽が沈み夜が更けると、いよいよ海での捜索は困難になる。アスランは、ずっとシンの安否を心配していた。

 時間との戦いだとハラハラとしながら捜索を続けていると、呑気そうにこちらに手を振る部下(馬鹿)を見つけたのだ。

 ちょっとばかし意地悪を言ってしまっても、多分ばちは当たらないだろう。

 

「俺の計算では、5分遅かったですよ!隊長」

 

 シンはアスランに、げんこつを一つもらった。まあ、二人のスキンシップだ。きっと。

 

「その子は…?」

 

「ステラって言って…この子がおぼれそうになってたので、つい」

 

「ルナマリアからある程度は聞いている。しかし、無茶をするな…それで、この子の身元は?」

 

「それが、あんまりわからなくて…両親も、いないみたいで」

 

「そうか…だとしたら、軍本部に行って確認するしかないな」

 

 シンも、アスランも。二人とも家族を喪った二人だ。故に…彼女への同情は必然だろう。

 すぐさま、保護者を探そうと相成った。

 

 本部には個人情報を管理しているサーバーと接続できるパソコンがある。それで身元を証明し、そこから保護者を探すしかないか、と二人の意見は一致する。

 

 ボートで近くに停めてあったジープまで乗り付け、そこからは車での移動に変更する。二人とも、まだ身体は乾ききってはいないし、濡れネズミで夜の海上は自殺行為の寒気となるだろう。

 

 そうしていると、遠くから男たちの声がした。

 

「おーい、ステラー!!」

 

「スティング!アウル!」

 

 ステラが過敏に反応し、手を振り始める。二人の男性はそれに気づき、車で近づいてくる。

 彼女の表情は笑顔だ。きっと、あの二人がステラの言っていた保護者なのだろう。

 

「ザフトの兵隊さんでしたか。本当に“色々”お世話になりました」

 

「いえ…気にしないでください。ステラ、元気でね」

 

「シン…行っちゃうの…?」

 

「…?ごめんね。でも、お兄さんたちと一緒だろ?だから、もう大丈夫だよ」

 

「…」

 

 少女はうなだれ続ける。何か言いたげなことがあるようにも見えたが、うまく言葉に表現することができていないようだった。

 ずっと何かを言いだそうとしては、言葉に詰まる、というのを繰り返している。

 

「シン。もう、行くぞ…」

 

「ほら、またきっと会えるから。きっと…また。だから、ね」

 

 シンたちを乗せたジープが出発する。もう夜も深い。明日は早朝に出立だ。彼女の身元問題が解決したのならば、さっさと引き上げねばならない。そう判断したアスランは、非情とは理解しつつも運転手に出発を促す。

 

 シンは車窓を開け、振り返りながらずっと声を大にして叫ぶ。

 

「ごめんね!でも、またきっと。本当…また会えるから!絶対会いに行く!!」

 

 

「ごめんね!でも、またきっと。本当…また会えるから!絶対会いに行く!!」

 

 部下が少女との別れを惜しんでいる傍らで、アスランは独り思考の迷宮に入っていく。

 あの三人組。一見すると仲良しの若年男女にしか見えないのだが…

 

 たしかプラントで…似た容姿の三人を見かけた。

 アーモリーワンでカガリの護衛をしていた時のことだ。あんな風体の三人組とすれ違った気がする。嫌でも目立つ三人の見てくれだ。印象的で、ぼんやりと覚えていた。

 

 アーモリーワンに居た三人組。奪取された三つの機体…

 

(シン…)

 

 隣席で、言葉にしがたい表情を湛える彼を横目で見る。

 

 もし、彼らが万に一つでも敵なのだとしたら…シンに撃たせることになりかねない。

 

 考え過ぎだろう。アスランも、嫌な思考の渦にとらわれていると自覚した。

 そんな最悪の未来は、まあ来ないだろうと。楽観的な思考で嫌な考えを弾き飛ばした。

 

 でも…プラントに居る“ただの一般人”が、この情勢で地上に降りてくることなど。まあできっこないのだが…

 

 アスランは、そんな当たり前の思考が表出するより先に、それに蓋をして隠した。

 

 

「シン、ステラ…守るって…」

 

 彼女は安心していた。自分を死から守ってくれる存在に。そんな青年の優しさに。温かさに。

 でも、彼はすぐに彼女の前から去ってしまった。

 守ると言ってくれたのに。誓ってくれたのに。信じてたのに。

 あれは、嘘だったのだろうか?だましたのだろうか?

 …だったら、なんでそんなひどいことをするのだろう。

 

 わからなかった。ただ…彼と別れるのが、とても寂しかった。

 

 

おまけ

 

「アスラン…失礼しまーす」

 

 ミーア…ラクスがアスランの宿泊している部屋に忍び込む。ホテルマンに事情を説明したら、すぐに予備のキーを渡してくれた。婚約者ということが世間で周知されていると、こういう良さもあるのだな、と気づく。

 

 彼のベッドに近づく。彼は綺麗な仰臥位で、ぐっすりと眠っているようだ。部屋に遊びに行くと言ったのに、本当に寝てしまっているアスランに少しばかりの残念さを覚える。

 彼には、性欲というものがないのだろうか?と心配になる。

 

(まあ、布団に入るくらいで…)

 

 ミーアはそう考えてそろりそろりと忍び寄る。彼我の距離は五メートルほどだろうか。あと数歩でベッドに入れそう―

 

「誰だ!!」

 

 突如アスランが飛び起きて、どこから出したのか知らないが、拳銃をこちらに突きつける。もう片手にはナイフも持っていた。

 彼女は慌てて大声で弁明を図り、命乞いをする。

 

「私!私、ミーアよ!アスラン!!」

 

「…ミーア?なぜ君がここに…」

 

 こうして。アスランが戦士として完成しているあまり、無事ミーアの夜這い計画は失敗に終わったのだった…

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

支援イラストをいただきました。本当にうれしく、光栄です。

皆さまからいただく感想や評価、応援が、本当に筆者のモチベーションにつながっております。
また引き続きよろしくお願いいたします。

感想はすべて読ませていただいております。

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