機動戦士ガンダム SEED 運命の繭   作:ドクトリン

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罪の在処

 時は少しさかのぼり。

 オーブ代表、カガリ・ユラ・アスハが何者かに拉致されてから、数日後のことだ。

 

「とりあえずよかったね。お姉ちゃんたちをうまいことオーブに置いてくることができて」

 

「うん。僕たちアークエンジェルの目的は目眩し。言ってしまえば、囮だから…」

 

「でも…バルトフェルドはまあ大丈夫にしても。ラクスさんたちをオーブに置いてくるなんて、本当に大丈夫なのかしら?」

 

「はい。彼女たちを信じましょう。きっと彼女たちも、戦う覚悟を持っているはずですから…」

 

 彼は辛い表情を湛えながらも、願うように遠くを見て呟いた。

 

 

「お前たち!何ふざけた事をしてるんだ!」

 

 カガリが大声で騒いでいる。動揺しているというよりも怒り故だろうか。

 どこか暗い部屋。オーブ郊外の島の一つ。普段はあまり使われていないのだろう、あまり掃除は行き届いてはいなさそうな埃っぽさであった。その小さな部屋で、中心の四角のテーブルを挟みながら、カガリはラクスとバルトフェルドに向かって怒鳴る。

 

 彼女も挙式の最中に連れ去られる事になるとは全くの想定外であったろう。たとえそれが、望まぬ相手であったとしても。

 

 彼女がいかほどの覚悟のもと、ユウナとの結婚を決め国を背負う決意を固めていたかなどとは…彼女以外知る術はないのだ。

 

「まあまあ。慌てなさんな、コイツを読んでみるんだな。お姫様」

 

「コレは…!」

 

 バルトフェルドに渡された資料を確認する。今時珍しい紙資料だ。ペーパーレスが導入され、紙の資料はもうメインストリームから淘汰されて久しいが、電子的な攻撃からは強かったりもする。機密文書では、逆に好まれる場合もある。

 

 文面には…オーブ閣僚の不正取引の証拠。不審な金の動き。得票数の売買、軍事費用の横領…その中には…セイラン家と、ユウナが『ロゴス』と取引をしていた証拠も含まれている。

 

「そんな、馬鹿な…!!」

 

「プラントの上層部で近頃、『ロゴス』についての諜報活動が盛んでね。俺やラクス嬢も、独自のルートで調べていた。するとまあ、面白いほどに出てくる出てくる」

 

「セイラン家が…ユウナが、『ロゴス』と…?」

 

 『ロゴス』。実しやかに囁かれる、軍需産業複合体。

 嘘か誠か…戦争を扇動し発生する戦争特需により、自らの懐を満たし続ける存在。世界の黒幕、戦争の真実、純粋悪…

 

「『ロゴス』なんて、本当に存在していたのか…!」

 

 バルトフェルドとラクスは、確からしいという顔をして首肯する。

 

「元々…セイラン家は五代氏族ではない。前代表や前の有力な氏族たちがいなくなった後の権力争いに打ち勝って五代氏族に成り上がった家だ。

 まあその快進撃も…こういうカラクリがあったと考えれば不思議ではない」

 

 セイラン家はウズミ前代表が健在の間は、今ほど目立つ家ではなかった。ここ二年で急激に力をつけて来た理屈。その票田や信用は…不正にによって得たものだと、バルトフェルドは残酷な事実を突きつける。

 

「彼とカガリさんが一緒になってしまっては、オーブは本当の意味で…ウズミ様が守り抜いた国是を喪った国になってしまいます。

 …ですから、心中お察ししますが、今は耐える時です、カガリさん。

 こちら側の支持者を集め、『ロゴス』や『ブルーコスモス』と繋がる閣僚、組織、団体を洗い出し、準備を万全にしてから政権を奪い返します」

 

 

 

「その為にキラ達にはわざわざ姫さんを白昼堂々と攫って、大立ち回りしてもらったんだ。

 今ごろオーブ政府は国外に逃亡したアークエンジェルの追跡で大忙しだろうさ。

 まさか、目的のお姫様が郊外とはいえ国内に潜伏しているとは、露知らずな」

 

 バルトフェルドは、自身の企みが成功を収め、悪ガキの様な笑みを浮かべる。

 カガリは、やはり悔しそうに口を引き結んでいる。

 共に国を良くしようと…オーブという国を想う気持ちだけは。それだけは同じだと思っていたのに。

 

 それを裏切られた彼女の、心中やいかに。

 

「キラ達を囮している間に、ユウナやロゴスといった、政権の膿を調べあげる。そして、そいつらを纏めて排除する。

 …まあ、君のような若者には、このような清濁併せ吞むやり方は気に食わないかもしれないがね」

 

 カガリは何も言わずにじっと資料を見ている。いや、何も言えないようだった。情報の多さ、その内容。どれもすぐに消化できるものでもないだろう。

 

「カガリさん…私たちのすべき事は後悔や懺悔ではありませんよ。

 私たちに今できること…そしてすべきこと。どれも楽な道のりではありません。困難を極めるでしょう。でも…それをわかってでも、貴方はこの道を選んだのでしょう?」

 

 そうだ。彼女は…やろうと思えば全てを投げ捨てて自由に生きることもできた。それでも…それでも。守りたいものがあったから。亡き父が遺したこの国を…

 

 だからここに帰って来て、若すぎる代表の座についたのだ。

 

 自分のできることなど、たかが知れているだろう。自分の力など、大したことはないと承知している。…それでも。

 彼女は上を向くのだ。それが、それだけが。今の彼女にできる、数少ないことだと知っているから。

 

「…私にとって、お父様が遺してくれた大切なものはたくさんある。その中でも…オーブという国や、その民は、一番大事なものなんだ!だから…」

 

 オーブという国そのものが。彼女にとっては亡き父と繋がっている証。

 父と娘。その絆の象徴。

 

「ここまで…ユウナ達の悪事に気づかず好き放題させてきたのは、私の失態だ…

 だからこそ!私自身の意思で、この報いは必ず受けさせてみせる!

 二人とも…協力して欲しい」

 

 カガリが頭を下げる。二人とも、当然力強く頷くのだった。

 

 

 どうやら、ラクスやキラ達は以前から『ロゴス』という組織や、それに繋がるオーブの閣僚について調べていたらしかった。

 もしかしたら、今回のようなことがなかったとしても、いずれ何かしらの行動をしていたかもしれない。

 ただ、そのタイミングがこれだったというだけ。

 やけに準備の良かったモルゲンレーテにもなんとなく合点がいく。水面下では、いろいろ悪い大人たちがやりあっていたのだった。

 

「だから、私たちの役割はある程度目立ちつつ、かつ逃げ続ける事。やってくる追っ手を適度にあしらいながらね。いずれ、カガリさん達がオーブ政権を担うその時まで」

 

「あとは…酷過ぎる戦闘行為があれば、適宜介入していくことになるかもしれませんね。でも…僕たちが引っ掻き回したほうがまだマシくらいの、酷い戦況なんて…本当はない方がいいんでしょうが」

 

「私たちも…戦うんだね」

 

 少女の言。純粋であり、大人たちに鋭く突き刺さる言葉。

 連合でも、ザフトでも、オーブでもなくなった彼らは。一体、何の大義で、どんな正義を掲げて戦うのか…

 

「僕たちに、誰かが認めてくれる大義や正義なんてないのかもしれない。

 でも…そうわかっていても。僕たちは…僕たちの守りたいモノのために戦うんだ」

 

 

 ディオキアから出立したミネルバには、新たな指令が下った。

 

「黒海ですか…」

 

 ミネルバのブリッジにて、艦長であるグラディスを中心に、アーサー、アスランが三人で顔を合わせ指令書を読む。

 

 プラントからミネルバを含む、地中海沿岸部のザフト地球駐屯兵に申し付けられた新たな指令。それは運河及び海峡の防衛であった。

 

 地中海は、ユーラシア大陸とアフリカ大陸をつなぐ交通の要所。現在ザフト軍の駐屯地が多く置かれており、この辺りの海路は実質プラントが制していた。

 地中海にはいくつかの要所がある。例えばジブラルタル海峡。地中海の西に位置し、ヨーロッパ大陸とアフリカ大陸を隔てる海峡だ。そしてスエズ運河。地中海の東側と紅海をスエズ地峡で結ぶ、アフリカとアジアを分断する人工海面水路である。

 

 そして今回の指令はダーダネルス海峡。地中海に繋がるエーゲ海と黒海につながるマルマラ海を結ぶ狭隘な海峡だ。ボスポラス海峡とともにヨーロッパとアジアの境界を作っている。

 

「今回の作戦には、連邦への派遣軍には…オーブ軍も来る。わかっているわよね、アスラン?」

 

「…わかっています。覚悟もしています」

 

 アスランは、悲しい顔をしながらそう回答する。しかし、その言葉に淀みや迷いはなさそうであった。

 

「仕方ないけれど、ミネルバに追加の人事は下りなかったわ。まあ、戦力は揃っているからね。

 今後も、モビルスーツ隊は四人でやってもらうことになる」

 

「大丈夫です。ただし…一つだけお願いがあります」

 

 

C.E.73。オーブ軍史上初めてとなる、連邦との共同による軍事作戦が開始される。

 

 地球軍が地中海のザフト軍基地に対し大規模攻勢を仕掛け、海路の要所である運河を奪取することが目的だ。

 

 オーブ軍艦『タケミカヅチ』ブリッジ内。オーブ軍と地球軍が、作戦内容について最後の打ち合わせをしていた。

 オーブ軍司令官としてはユウナが。地球軍司令官としては金髪の仮面の男、ネオ・ロアノークが参加している。

 

「さすがオーブ最高司令官殿。頼もしい限り。では、一番槍はオーブ軍にお任せするとして…その後の追撃は我々地球軍で行うという方針で」

 

 ユウナは、本当は『オーブ特別司令官』という役職なのだが、わざわざ連合の男に『最高』と言われいい気になってしまっている。

 

「いいでしょう…美しい。オーブ最高司令官、ユウナ・ロマが引き受けました。わが軍の力、とくとご覧に入れて差し上げましょう。名付けて、『ダルダノスの暁』作戦だ。いい名前だろ?」

 

 オーブ軍人が、最高司令官に聞こえないように小さくため息を漏らす。そもそも、彼らが従軍したのは、オーブの国是を守るためだ。なのに、それに真っ向から反した作戦を立てられれば、面白くはないだろう。

 

 

―ミネルバブリッジ内。

 

「ダーダネルス海峡まで、距離三千!」

 

 その報告を聞き、艦長のタリア・グラディスが戦闘開始の指示を下す。ここから始まるは、生きるか死ぬかの死闘。避けては通れぬ、茨の道。決して退けぬ、血で血を洗う戦場。

 

《コンディションレッド発令!ブリッジ遮蔽。対艦・対モビルスーツ戦闘用意!》

 

 グラディスの合図とともに、アスランとシンはパイロットの待機室からゆっくりと立ち上がる。傍らにはヘルメットを携え、エレベーターに乗り込む。いよいよ戦闘域に入った。ここからは、何が起きても不思議ではない。

 エレベーターで上のモビルスーツドックまで一直線だ。既に万全の準備がされている彼らの巨人が、発進の時を今か今かと待ちわびる。

 

 エレベーター内で、アスランはシンに語り掛ける。

 シンは少しだけ緊張しているようであった。戦いの前はみんな大なり小なりアガるものだが、この少年の場合はきっとオーブ軍が来るからもあるだろう。だから、その前にしっかりと話しておきたかった。

 

「シン…今回の作戦は、オーブ軍が来る」

 

「わかってます。オーブ軍も、もう地球軍なんでしょ!」

 

 シンはやはりイラついたように、そう返答する。

 自分の故郷との対峙。それは、どんな人間にも多少なりともの緊張を与えるのではないだろうか。

 自分が、未熟で弱かった時を、嫌でも思い出させるから。

 

「カガリは…気持ちだけは真っ直ぐな奴だ。まだ、できないこともたくさんだけどな」

 

「そんなの、意味ありませんよ!国の責任者が理想だとか、気持ちだとか!そんなのだけでは、人は救えないんです!…力が、なくちゃ…」

 

「俺は…傲慢かもしれないけれど、今まで戦いで多少なりとも人を救ってきた自負があります。ディオキアの人たちも、皆笑顔だった。理想だけじゃ、何も救えない…」

 

 シンは、自分の手柄をひけらかしたいわけではなかった。ただ…シン達の活躍により、地球軍の圧政から解放された人たちの笑顔を見た。元気に触れた。

 彼らのそんな姿を取り戻すことができた。それを、決して無駄な戦いだとは言わせない。

 

 力が伴っていなければ、何も変えられないと言いたげなシン。

 アスランはそれを頭から否定することはできない。

 アスラン自身も何か大きなことを変えるときは、大きな力が必要だとは思う。

 

 でも、これだけは…シンに伝えたかった。

 

「シン。覚えておいてほしい。お前の積み重ねてきたことは、確かにたくさんの人を救った。それは間違いのない事実だ。

 …でも、子供っぽくても。現実的じゃなかったとしても。力が伴っていないとしても。

 ただ、平和を望む心を持ち続ける。そんな甘ったるい理想も、きっと大切なんだ」

 

 こんな酷い世界ではな…

 

 エレベーターはドックにたどり着く。以降は、各々自分の機体に乗り込むだけだ。何となく話が途切れてしまったので、シンは何も言い返せなかった。

 

 シンは『コアスプレンダー』のコックピットに向かい、走り始める。息が少し上がり、心拍数も上昇する。

 大きな機械が辺り一面で動きまわり、何とも煩い場所だ。

 ヒトの話声なんて、騒音がひどすぎで、何も聞こえない。

 

 だからだろうか。アスランの言葉は耳に強く残って響いた。

 

 コックピットに乗り込む。相変わらず、味気のない空間だ。まあ、別に味気があったからどうとかではないのだけれど。

 今日は、いつもより緊張している気がする。操縦桿を握る手が、少しだけ震えている。

 

《『インパルス』及び『セイバー』発進願います!『ザク』は、別命あるまで待機!》

 

《シルエットハンガー1号を解放します。フォースシルエットスタンバイ。シルエットフライヤーを中央カタパルトにセットします。機密シャッター閉鎖。非常要員は、待機してください。》

 

 

《中央カタパルトオンライン。発進位置にリフトアップします。『コアスプレンダー』全システムオンライン。発進待機願います》

 

《X―23S『セイバー』、アスラン機。発進スタンバイ。全システムオンラインを確認しました。機密シャッターを閉鎖します。カタパルトスタンバイ確認》

 

《射出システムのエンゲージを確認。カタパルト推力正常。進路クリアー!『コアスプレンダー』発進どうぞ!》

 

「シン・アスカ!『コアスプレンダー』行きます!!」

 

 続いて、流れるようにチェストフライヤー、レッグフライヤー、シルエットフライヤーが射出される。

 換装システムが自動で微調整を行い、各々をドッキングさせていく。戦闘機であったモノが人型の巨人に作り変えられていく。

 さながらゴーレムと言ったところか。

 全く人の形でないモノから、人形を作るということは…それだけで、昔から特別な意味を持つのだ。

 

《右舷ハッチ解放!『セイバー』発進どうぞ!》

 

 

「大丈夫です。ただし…一つだけお願いがあります」

 

「お願い?」

 グラディスがアスランに尋ねる。

 

「はい。…今回は、『フェイス』として、発進させて下さい」

 

 

「ザフト軍特務部隊『フェイス』。アスラン・ザラ、『セイバー』発進する!」

 

 少年たちは空を駆ける。各々の願いとともに。

 彼らは…決して傲慢な少年たちではないのだ。にも関わらず…

 

 こんな悲しい世界を少しでも良くするために、傲慢にもその力を振るうのだった。

 

 

『インパルス』と『セイバー』はオーブ軍の戦闘用可変機モビルスーツ、『ムラサメ』の部隊と衝突する。

 可変機能とは、人形と戦闘機型を変更できるということ。

 オーブ軍のモビルスーツ部隊は、基本的にはスリーマンセルでのコンビネーションを組む。その練度は見事なもので、可変性能をフルに生かし、ヒットアンドアウェイを繰り返し、敵に的を絞らせない。もし敵が一機に集中すれば…狙われた機体は変形しすぐさま距離を取る。その後、残りの二機で追撃するという、単純だが強力なフォーメーションが徹底されている。

 

 しかし。シンとアスランを前にしたのが…彼らにとっては最も不幸である。

 

「うおお!」

 

 『インパルス』は、持ち前のスピードを活かして距離を取らせない。『セイバー』は援護射撃をしつつ、相手の間合いを崩していく。どちらかが作った隙を、もう一方が突くという連携を何の言葉も交わさずに徹底していた。

 

 彼らこそが…最高のモビルスーツパイロットだと言わんばかりに。戦場を縦横無尽に駆け回る。

 『インパルス』は一撃必殺の勢いでコックピットをビームサーベルで貫き、『セイバー』は四肢や頭部を中心に攻撃を行い無力化、撃墜している。

 たった二機にみるみるうちにモビルスーツを減らされていく現状に嫌気が刺したのか、オーブ軍司令はモビルスーツの大量投入により二機の分断を図ってきた。

 

「シンと分断されたか!」

 

「アスランがいなくたって…!」

 

『インパルス』は、単騎で『ムラサメ』を撃墜し続ける。その活躍は鬼神の如き。

 …しかしシンが気づかぬうちに、少しばかり敵陣に誘い込まれていた。

 完全に『ムラサメ』の軍勢に囲まれてしまえば、いくらシンと言えどもひとたまりもない。

 

「シンが誘い込まれています!艦長」

 

《『インパルス』を援護する。『タンホイザー』起動準備!照準、敵モビルスーツ群。牽制でいいわ、包囲に穴をあける!》

 

 ミネルバのコントロールから、すぐさま陽電子破砕砲台の発射が実施されんとする。

 グラディスは、砲撃で包囲に穴を作ろうと画策しているようだ。それで、一旦シンのポジションを立てなおす魂胆だろう。

 戦艦の艦長としては迅速な対応だ。しかし…どんな状況でも、イレギュラーは生じうる。

 

 

 ドンッという巨大な爆撃音と共に、ミネルヴァの船頭に位置された陽電子破砕砲台が爆発する。

 ミネルヴァが、炎と黒煙に包まれる。緊急消化装置が作動しているが、どこまで対応できるのかは不明なほど、その損害は大きそうだ。

 

 それにまぎれるように、一機のモビルスーツが降臨する。

 あれは…あの機体は…!!!

 

「『ストライク』!一体、誰が…?」

 

 戦場に舞い降りるは…かの機体。

 

 彼らの戦争の始まり。

 

 二人の再会にして、最悪の出会いの象徴。

 

 そして…それは今も続いている、最悪の現実だった。

 

 

 後方待機だと皆から言ってもらったときは、少しだけほっとした。

 やっぱり、まだ怖いから。

 

 キラさんも、皆も。戦うことが怖くないわけないのに。私だけ配慮されてて…ちょっと疎外感があって寂しかったけれど。やっぱり安堵が勝った。

 

 私は今『ストライクブレヴィス』に乗っている。今回の戦いで、私は乗る必要はないって言われたけど、なんだか落ち着かなくて…

 モビルスーツのコックピットで、外の戦闘の映像を見ていた。

 

「戦いが始まったんだ…!!」

 

 アークエンジェルの望遠レンズ越しに映るモビルスーツの戦闘を見る。人の殺し合いを目にする。

 

 じっと見る。じっと見る。じっと見る…

 

 目が離せない。

 本当は、こんなものは見たくないのに。

 何か大切なことを失念している気がして、眼が離せない。

 

 あの日…オーブで戦争に巻き込まれた日のことを、嫌でも思い出す。

 

「……………」

 

 人の命の軽さに気持ち悪くなった。

 当たり前の世界の終焉を見た。

 モビルスーツは死の象徴だった。

 

 それを再度、垣間見る。

 

「はあ、はあ、はあ、はあ…」

 

 なんだろう。すごく胸が苦しいんだ。心臓の位置が、さかさまになったみたいな気持ち悪さ。肺が握りつぶされたように、うまく息ができない。

 

 湧き上がる…心の奥深く、深淵に閉じ込めた。思い出したくないことが。

 

 でも、思い出さなければならない…

 

「私は…私は…私は…!!」

 

 あの日――!!!

 

 オーブ郊外。戦争の日。家族みんなで、何とかシェルターまで走ってた。

 お父さんは高そうなスーツを泥だらけにして走ってて。

 お母さんは叫びながらも私の手を懸命に引いて走ってくれた。

 私はなんだかよくわからなくて…

 人が死ぬとか、現実的じゃなかったし。

 ましてや、家族や自分の命が危ないなんて、実感ができてなくて。

 

 『いやぁ!!マユのケータイ!』

            『そんなの諦めなさい!』

   『…俺がとってくるよ!』

 

 その後…大きな爆発があって…

 気づいたらみんな…“ばらばら”に―――!!

 

 ………。

 …………………………………………………………。

 ………………………………………………………………………………………………………………………………………………。

 

 あ。そうなんだ。私ってば、…都合の悪いことばっかり忘れちゃって。いけない、いけない。

 

 お父さんがぐちゃぐちゃになったのは。お母さんがぺしゃんこになったのは。

 

 

 ――――私がどうでもいいモノに、こだわったからだったね。お兄ちゃん。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

支援イラストをいただきました。本当にうれしく光栄です。

皆さまからいただく感想や評価、応援が、本当に筆者のモチベーションにつながっております。
また引き続きよろしくお願いいたします。

感想はすべて読ませていただいております。

メイリンの出撃時のアナウンスが好きなあまり、つい全文入れてしまいました。

話のテンポが遅いでしょうか?

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