機動戦士ガンダム SEED 運命の繭   作:ドクトリン

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戦闘が多くなると、どうしても文字数がかさみ、投稿が遅れます。

できる限り迅速に投稿できるよう努力しますので、何卒お付き合いください。


それぞれの孤独

「『ストライク』!どういうことだ!?」

 

 アスランの眼に映るは、かの機体。フェイズシフトを展開した体色は、白、赤、青のトリコロールカラーを基本としている。背後にはバックパック―『オオトリ』を背負う。右手にはビームライフルを装備しており、これでタンホイザーを撃ったのだと推察できた。

 

 二年前、初めて会ったあの時から…色褪せぬその姿。

 

 アスランが茫然としている間にも、シンへの包囲は徐々に完成しつつあった。しかも、現在のミネルヴァからは十分な支援は望めそうにもない。更に状況は悪くなっている。

 

「このままではシンが…!」

 

 その瞬間『ストライク』から国際救難チャンネルを介して放送が流れる。

 

《こちらはオーブ連合首長国代表…カガリ・ユラ・アスハ…》

 

「カガリ…!」

 

 一体どういう事か。あの機体からは、カガリの演説が流れ始める。

 こちらの動揺を意に返すことはなく、かの機体は放送を垂れ流し続ける。

 

《オーブ軍の勇敢なる友よ。まず初めに、私は無事である。故あって皆の前に姿を現す事が叶わず、この様に言葉を伝えることを赦して欲しい》

 

「カガリ様、よくご無事で!!」「代表…!!」

 

 

《この状況は、代表である私の不甲斐無さが招いた結果である。本当に申し訳ない》

 

 回線から聴こえるのは、なじみ深い声色。どこかあどけなく、夢見がちで。それでいてとても優しい彼女の声。

 オーブ軍『ムラサメ』隊も、全員が戦闘行為を中断して彼らの代表の言葉に傾聴しているようだった。

 シンも戦闘行為を中断せざるを得ないほどに、この戦場は異質…ある種の異界となっていた。

 それほどまでに、ストライクの登場とカガリの演説は…誰にとっても予想外の出来事であった。

 

 『タケミカヅチ』ブリッジ内でも、当然動揺は広がる。特に指揮官のユウナ・ロマの焦り方はその他クルーに比べて一塩だった。

 

「一体アレは何なんだ!!」

 

「わかりません!その他の全チャンネルを傍受されています!!」

 

 『セイバー』に搭乗していたアスランも勿論、混乱と困惑を隠せずにはいた。そして同時に、固唾をのんで見守っていた。

 

「一体、何を始めるつもりだ…!」

 

 

『ストライク』は戦場に現れてからは、全くと言っていいほど動いていない。

 ただ機械的に演説を流し続ける。ラジオやテレビの方が、よっぽど人間味があるような気がする。それほどまでに、かの機体の行動は不気味であった。

 

 戦場に、戦いとは異なる緊張が生まれる。戦場に居る全ての軍人はその言葉の続きに耳を傾けざるを得ない。

 

《オーブ軍の友よ。私は…諸君らにこれ以上の戦闘行為の継続を望まない》

 

「!?」

 

 戦場に、明らかな動揺が生じる。代表を騙る者から、突如として停戦命令が下ったのだ。当然の反応ではある。

 

 そして、アスランは同時に焦りだす。何故ならこの膠着は…思いもよらぬ『部外者』により生じた。戦力が拮抗した故に生じたモノではない。故に…いつ何時それが崩壊するかは、誰にも予測ができないのだ。シンやミネルヴァの安全は、決して担保されてはいない。

 アスランが次の次の…三手程先まで考えながら、演説は続いていく。

 

《しかしこの状況で。私の言葉は何の意味も為さないのは承知している。

 故に…これは、私の…ただの願いだ。…私が帰るその時まで、オーブをどうか守り抜いて欲しい!》

 

「カ、カガリ様…!」「カガリ代表が…!」

 

 『ムラサメ』部隊やオーブ艦隊が俄かに騒がしくなる。攫われた代表からの突然の言葉を咀嚼するのに、各々時間がかかっているようだった。

 

 混乱が混乱を呼ぶ。オーブ軍隊はその放送を聴き始めてからずっと鉾を収めている。その隙を縫うように、『インパルス』は包囲から脱出し、ミネルヴァの防衛ラインまで後退してきた。

 

「アスラン隊長!一体何が!?」

 

「わからない…だが、一先ずは助かった。この膠着がいつ終わるか読めない…気を抜くな、シン」

 

 連邦・オーブ両軍の行動が停止している隙に、アスランは次の布石を打つことに決めた。

 

「待機中のモビルスーツパイロットに、『フェイス』の権限で命令する!ただちに発進しミネルバの援護に回れ!」

 

 その命令を待ちわびていたかの如く、迅速に紅白の『ザク』が射出される。ミネルバのクルーは相変わらず腕がいい。赤と白の機体は、すぐさま艦の護衛に回った。

 

「これで暫く…ミネルバは大丈夫のはず…!」

 

 体制は立て直した。これで数ではこちらが圧倒的に不利でも、連携を使うことができれば…勝機はある。

 

 

 『タケミカヅチ』艦内の外線電話が鳴る。ユウナは恐る恐るとってみれば…連合軍参謀から怒りの声が。

 

『どういうことですかな?アレは…戦うなとか、代表だとか…?

 直ぐにでも、しっかりとしたお答えをしていただかないと。お国を含め…同盟間での非常に大きな問題になりかねませんよ?』

 

 電話越しの男。連合の大佐とかいう奴は、そうとう頭にきているらしい。受話器を介してでも、その怒りと恐怖がユウナに伝わり、その思考回路を鈍く狂わせる。あれは…これは…と狼狽し続け…

 

《私が帰るその時まで、オーブを守り抜いて欲しい!》

 

「僕は…あんなモビルスーツは知らない!…あんなのは、カガリじゃない!!!」

 

 受話器に向かって怒鳴り散らすユウナと、動揺で埋め尽くされるブリッジ内。

 連合の男も、その解答にひどく満足気であった。

 

『しかとお聞きしました。では…“賊”を遠慮なく撃墜させていただく。三機を出せ!』

 

 電話がブツリと乱暴に切られる。電話の向こうでは、ひどく騒がしく人が動いているようだった。

 

 …それに対して、『タケミカヅチ』艦内はひどく静まり返る。あれは『ストライク』だ。それにカガリの声…

 それを撃てと命じることの意味とは。

 ユウナも、皆も気が付いている。

 

 自国の代表を殺せと命じられているのだ。

 

 茫然とする軍人たちの中でただ一人。艦長の男だけは冷静を装って、ユウナに言葉を投げ返す。

 

「…それが、『オーブ最高司令官』ユウナ・ロマ・セイランとしてのご命令なのですね」

 

「と、当然だ!!!わかったらさっさとやれ!」

 

「…承知しました。回線を開け!!」

 

『タケミカヅチ』からの返報が出される。オーブ軍も、地球軍も、ザフト軍も…勿論それを聞いている。

 

《こちらはオーブ軍総司令艦『タケミカヅチ』艦長、トダカ一佐である。

 現在のオーブ軍最高司令官、ユウナ・ロマ・セイランの判断の基、其方をオーブ代表カガリ・ユラ・アスハの名を騙る…オーブ軍とは一切の関係のない『賊軍』であると判断した。繰り返す―》

 

 その言葉を受け、戦闘域にいる全員が理解した。

 しばしの膠着が終わる。そして…再び、戦場は血に染まりだすと。

 

 ただちにオーブ艦隊から『ストライク』に向けミサイルによる弾幕が降りかかる。ほんの一度瞬きをすれば、それらは機体を抉り取りパイロットを瞬時に絶命させるだろう。

 

 …しかし、それは一つとしてかの機体に着弾しない。

 背後から舞い降りるもう一つの剣により余すところなく撃ち落される。

 

 それは青き翼。白き機体。自由の象徴にして破壊の権化。

 

「『フリーダム』…キラ!!」

 

 アスランは叫ぶ。戦場は混沌を極める。役者は踊る。

 

 踊らされ続ける。

 

 友との…戦場での再会。

 

 

―アークエンジェル内。

 モビルスーツドック内で発進待機をしている『フリーダム』に向かって走りつつ、キラは艦長であるマリュー・ラミアスと通信する。

 

「マリューさん!一体何が!?」

 

 キラが『フリーダム』で緊急発進の準備をしている。元々のブリーフィングでは、戦闘があまりにも混乱を極めた際の介入を検討していた。

 マユはあらかじめ、後方待機と命じていたのだが…

 

『わからないわ!マユさんと通信ができなくなって、気がついたらドックを破壊して戦場へ!』

 

「なんだって…!」

 

『フリーダム』が起動準備を完了した。モビルスーツ・オペレーティングシステムが正常に作動する。フェイズシフトが作動し、完全に覚醒した。

 

『通信を全く受け付けません!!明らかにせん妄状態に陥っていると考えます!想定外だけど、用意しておいた『音声』を流すわ!それで少しは時間稼ぎになるはず!その隙にストライクを回収し撤退を!援護します!』

 

『了解!キラ・ヤマト。『フリーダム』、行きます!!』

 

 核動力エンジンがフル稼働し、とてつもないエネルギーを生み出す。尋常でない推力が生じる。瞬く間にフリーダムはトップスピードに到達する。その加速度に耐えられるのは…流石はコーディネイターと言ったところか。

 

 キラは焦る。それでいて、しっかりと冷静に考えねばならない。この戦場で最も正しい行動を。

 

 アークエンジェルは既に…大きな事をしでかしてしまった。

 

 その責任を…彼は取らねばならないと考える。

 

「マユ…一体何が…!?」

 

 

「キラ!!!」

 

『フリーダム』を駆り戦場に現れたのは、間違いなくキラだろう。そう考え、直ぐにアスランは接触を試みる。

 

『セイバー』で『フリーダム』に猛接近する。話さねばならないことは山ほどあった。すぐにでも二人でカフェにでも腰を据え、数時間は対話をしたかった。

 

「一体こんなところで何をしている!」

 

『アスランなのか!?』

 

 かの機体は空中でのドッグファイトを演出する。『セイバー』の方が僅かに出力が上なのか…パイロットの状態の差か。直ぐにアスランは『フリーダム』を射程に捉えた。二人は同時にビームサーベルを抜刀し、逆手の盾と鍔迫り合いを始める。

 

「お前達は、こんなことをするためにここにいるわけじゃないだろう!?」

 

 アスランは、キラ達の計画をある程度は把握していた。その為に…カガリを攫ってまで行動しているのだと。しかし、これでは…一体何がしたいのかわからない。

 

「答えてくれキラ!お前達は何をしている!?」

 

『アスラン!!邪魔をしないでくれ!このままでは…!』

 

 しかし、キラはまともにアスランの相手をせず、ただ『ストライク』の護衛役に徹底する。

 

 いつになく…キラは何か焦っているようだった。彼らしくもないたどたどしい言い回し。予定外のことが生じたような…

 

『フリーダム』の肩越しから…『ストライク』のメインカメラのデュアルアイの色が見える。それが黄色であることにアスランはすぐさま気が付く。フェイズシフトの設定が偶々トリコロールカラーなのではない。

 あれは、間違いなくルージュではない別の機体!

 

「ルージュのデュアルアイは緑のはず…!あれはなんだ!カガリを騙っているのか!?」

 

『『ストライク』に乗っているのは…マユだ!さっきの放送は…録音なんだ!

 カガリは…言葉だけでも、オーブ軍に伝えたいと!!』

 

「―――なんだって…!」

 

 マユが乗っている?一体どういうことなんだ…?

 さらに状況は混沌を呈し、アスランは思考が一瞬停止する。

 

『ああ!かなり不味いことになっている!ここから離れてくれ、アスラン!!』

 

「ぐぁ!!!」

 

 『セイバー』は一瞬の動揺を突かれる。『フリーダム』に蹴り飛ばされ、強すぎる重力加速度のため一瞬だけ身体の制御が利かなくなる。そのわずかな時間で『セイバー』は地中海に着水してしまった。

 

 海上に脱出しようと体勢を立て直しに図る。

 しかし不幸にも、同時に海中から新たな敵兵が襲い掛かった。水中で、魚雷からでかい一撃をもらう。直撃だ。コックピット内にアラームが鳴り響く。いくらVPS装甲と言えども…大地震のような衝撃までは打ち消すことができない。

 

「ぐぅぅ!!…あれは…!!『アビス』!」

 

 偶然にも、キラにより蹴り飛ばされ落下した場所から北西に距離二百程…!

 ザフトから地球軍に奪取された機体『アビス』が待ち構える。この機体は水中戦を得意とする。空中戦特化…それも宇宙戦でのビーム兵器メインの『セイバー』には、水中での勝ち目はゼロに等しい。

 

『アビス』から大量の魚雷…M68 連装砲によるミサイルが降り注ぐ。とっさにシールドでガードを試みるが、数弾は直撃する。左脚が破損した。コックピット内は、全身のダメージが著しいことを示す真っ赤なアラートが収まらない。

 

「まずい!このままでは…!!俺は!!」

 

 ふと…思い返す。走馬灯なのだろうか…今までの戦い…過去の傷跡。

 悲しいことがたくさんあった。母は死んだ。父も死んだ。友とは殺しあった。

 

 母は優しい人だった。父も、少し厳しい方だったけれど、母が存命の内は穏やかだった。

 キラは、いつもサボるから。俺が面倒を見てやらないとダメダメな奴だ。本当は、すごい奴のくせに。

 カガリのことが好きだ。彼女の願いを叶えたいと、心の底から思う。

 ラクスは大切な友人だ。キラと、これからも仲良くして欲しい。

 シン…お前は、まだこの世界が憎いか…?

 

 最後の言葉のような回想が流れる。アスランは死ぬ。このまま、なす術もなく。呆気なく。

 

 ふと、小さい少女を思い出す。

 マユ…君は、懸命に生きようとしていたね。

 君は…あまり自分のことが好きじゃなかったようだが…君が頑張って生きているのを見て、俺達は救われていたんだ…

 君のような子を、俺は。

 …この世界には、大切な人たちがいる…!

 守りたい人たちがいるんだ!

 

 カガリや…キラ、ラクス。シン。…マユ達が。

 笑顔で生きていける世界を…!!

 

「俺は…!」

 

 ビーム兵器では、水中戦はできない。しかも、推力は敵が遥かに上。ならば…その推力を利用するまで!

 モビルアーマー形態の『アビス』がこちらに猛突進してくる。チャンスは一度しかない。

 …いや、一度“も”ある。

 

 突貫してきた機体に正面から組み付く。VPS装甲の限界が生じフェイズシフトダウンする。しかし、彼は全く意には返さない。

 そのまま深海にアスランを連れ去ろうとする。深い海の底で、ゆっくりと獲物を沈めるつもりだろう。

 コンピュータからアラームが鳴り響く。どうやら、突貫の衝撃だけでなく、水圧でも機体が壊れ始めた。時間はあまり残されていない。

 深すぎる海の底は、全てを飲み込むようだ。光届かぬ深淵では、自身の生存本能が最も頼りになる。

 

 『アビス』の背部…そこにはM107 バラエーナ改2連装ビーム砲が。バラエーナは、『フリーダム』にも搭載されているビーム兵器。当然水中では使用できないが…強い衝撃を与えれば誘爆するはず!一瞬の隙さえあれば…

 

 突如『アビス』が空中から何者かに攻撃された。実弾による狙撃攻撃だろう。ミサイル…いや、違う。レールガン!

 VPS装甲に対してはダメージは出ない。しかし、その衝撃により一瞬の隙が生まれて―――!!

 

「――――!」

 

 頭の中で、(何かが)はじけ飛ぶ感覚。突如思考が開ける。視野が一気に広がり、深海の底まで把握できる気がする。世界がスロー再生した映画の如く感じる。

 先ほどまであった焦りは一切なくなる。ただひたすらに敵を屠るために最適な行動を―――身体が出力する。

 

「うおおぉ!」

 

 手に取った、刀身のないビームサーベルを砲門のわずかな隙間に突き刺す。ここにVPS装甲はない。抜き手の要領で容易に貫通する。内部に一瞬だけではあるが、水のない瞬間が作られる。それに合わせ――ビームサーベルを作動させた。

 直後。轟音と大爆発が生じる。『アビス』の背部機構の機能が停止する。

 この機体は推進力をバックパックに依存しているため、これが破損された今、水中での自由な行動は難しいだろう。

 

『アビス』を海底に蹴り飛ばし、その勢いで一気に浮上を試みた。

 

 

「マユ!返事をしてくれ!」

 

 キラは懸命に少女に語り掛ける。しかし、かの機体は一切のリアクションはしない。

 

 『ムラサメ』部隊からの近接戦闘、オーブ軍艦からの遠距離攻撃、それにマユの護衛。

 

 すべてを一任するキラは、処理能力の限界が訪れようとしていた。

 

「このままでは…!!」

 

 『ムラサメ』部隊からの猛攻。高度な連携。盾を用いず、体軸をひねることで回避し、返す刀のフルバースト。一瞬で『ムラサメ』三機の四肢をそぎ落とし、戦闘力を奪い取る。

 

 その後、一瞬で水中の敵に照準をつけ狙い撃つ。アスランの敵に牽制の一撃を与える。

 

 警報音。水中に気を取られていたからか。空中への注意が疎かになる。ミサイルを数個撃ち損ねてしまう。再度照準を合わせようと試みるも―――!

 

「マユ―――!!」

 

『ストライク』の方へ飛んで――!

 

 

 

 私は…よくわからないままに、戦場に飛び出ていた。

 嫌なことを思い出した。…私が――家族を殺したんだ。

 

「ううう…!!!」

 

 嗚咽が出る。喉がひりひりする。頭が痛い。眼がチカチカする。

 もう戦いなんて嫌だった。だから…居てもたってもいられなくて。

 

 無許可で勝手に、アークエンジェルを飛び出て。ミネルバを撃った。

 もう、撃ってほしくなかった。オーブを。それに…

 

『どんな戦艦なんだろ?最新鋭って触れ込みだったし、中は触れないだろうなー』

 

 赤毛の少女を思い出す。彼女がとても楽しそうにしていたのが、フラッシュバックする。

 

 故郷。両親。親友。マユの深淵を、嫌というほどに蝕んでいく。

 

「あぁあ…」

 

 訳のわからぬ内に、音声が垂れ流される。こんな作戦だったろうか?

 …いや違う。私が台無しにしたのだ。

 

《こちらはオーブ軍総司令艦『タケミカヅチ』艦長、トダカ一佐である…》

 

「トダカ、さん…?」

 

 オーブ艦隊は、トダカさんの指揮…?

 

 その直後の砲撃、モビルスーツによる攻撃。

 

 故郷の国の軍からの攻撃。親友の父からの攻撃宣言…

 

「なんで、どうして…」

 

 私は…あの人と戦っているのだろう…

 なんで、オーブの軍人さんに攻撃されているのだろう?

 なんで、私はここにいるんだろう…?

 

 目の前で、青き翼が空を駆ける。ありとあらゆる怖いものから、私を守ってくれる。助けてくれる。

 

 何か、たくさん通信が入っている。でも、五月蠅いので…全部無視。

 

 それから―――『フリーダム』は。

 

 私を庇って…ミサイルの直撃を受ける。

 

「キラ、お兄ちゃん…」

 

 かの機体は…翼を失ったイカロスの様に重力の網に囚われて地上へと沈んでいく。

 

 青き翼が黒煙を吐きながら沈んでいく。直後、再度オーブ艦隊からのミサイル群が降り注ぐ。無抵抗な私を、完膚なきまでに、塵一つ残さぬように叩き潰す気だ。

 

 …私は一体、何をしているのだろう…

 

 考える。勝手に戦場に出て、イタズラに攻撃をして。

 キラお兄ちゃんの足手まといになって。

 オーブ軍と敵対して。

 トダカさんに撃たれて。

 

 私は死に損なって。殺されかけて。流されるままに…武器を手に取ってしまった。

 

 あれからずっと、考えていたんだ。自分が何をしたいのか。

 

 違うんだ。本当は…死ねなかったあの日から、ずっと考えていたんだ。

 

『この辛い現実と向き合う、そんな覚悟はある?』

 

 覚悟。ずっと考えていたけれど、何も思い浮かべることができなかった。

 私の中には、何もない。私は、私がわからない。

 

 独りだから。独りぼっちの人間は…自分を知ることができない。なぜなら、人は他人という写し鏡を介して自分を知っていくからだ。

 

 人を傷つけた時に心の痛みを知るように。人に優しくしたときに心に温かさを感じるように。

 人は、人との関係で情操を育む。己を知っていく。

 しかし、幼き時に家族を喪ったマユは、本質的な孤独を拭い切れないでいる。

 

 ――亡き友の願いを思い出す。

 

『そう!平和の種になりますようにって…』

 

 平和。そんなもの、本当にこんな世界にあるのだろうか、とその時は思った。口には出せなかったけれど。

 こんなどうしようもない世界に、本当に…

 

 コックピット内で考える。私は何がしたかったのか。何ができるのか…

 

 ふと、コックピットの隙間に差し込んだ写真がこぼれ出る。二人の写真。彼女と、私の…

 

 二人とも笑顔だった。こんな世界でも…彼女は一緒に生きて、一緒に笑ってくれたんだ!

 

「私は…生きる!私は―――――!!!」

 

 頭の中で、“何か”が弾け飛ぶ感覚。直後―――全ての動きは緩徐になった。ミサイルの軌道、メーターの振れ具合、遠方にいるモビルスーツの動き、海面の揺らぎまで、波一つずつ、はっきりと把握できる気がする。

 

「うぁあああああ!!!」

 

『ストライク』を急降下させる。海面ギリギリでブースターを吹かせ、スレスレを飛行する。脚に水しぶきがかかる感覚。誘導弾が水面に激突し爆発。それに誘爆され、数個のミサイルが爆発して霧散する。

 一瞬振り返る。ミサイルの残数は十七…!相対速度から計算して約二・五秒後に激突する!それに合わせるように…左手に携えた盾を使う。水飛沫が舞う。背後で数個の爆発音がする。飛沫で誘爆したようだ。

 

 狙いはそれだけではない。

 左手により生じた左方向への抵抗とブースターを吹かせたままの直線への推進力。そのベクトルの和は…、円運動を作り出す。さながらコンパスの要領。左手を軸とした抵抗により、急旋回を可能とした。

 

 旋回直後、体勢は全く崩さずにビームライフルにて残りのミサイルを射程に捉え…撃ち落した。

 

「はあ、はあ…」

 

 息が上がる。でも、こんなことをしている場合ではない。

 

「キラお兄ちゃん!!」」

 

 コンピュータに示される『フリーダム』の座標に向かう。

 

 キラは数機の連邦軍モビルスーツ『ウインダム』に囲まれていた。右翼のバラエーナが、先ほどマユを庇った損傷で破壊されていても尚、連邦のモビルスーツを無力化していた。

 

「キラお兄ちゃん!!」

 

『マユ!!』

 

 二人連携し、包囲を抜ける。そのままアークエンジェルに向かった。

 

 

 アスランは無事海中から脱出した。一瞬で周囲の戦闘状況を確認する。

 

 爆発に巻き込まれ『セイバー』の右腕も壊してしまった。だが、そんな些末なことに囚われている場合ではない。

 

「まずい…シン!!」

 

『インパルス』が『ガイア』と『カオス』に襲撃されている。完全に二対一の状況だ。『セイバー』の状態を鑑みても、助けに行かねば不味い!

 

「ぐぅう!」

 

『インパルス』はこれまで、単独で『ムラサメ』の部隊と独り戦い続けていた。流石に多勢に無勢であり、被弾こそ少ないもののエネルギーは枯渇し始めている。

 

「シン!」

 

「アスラン!大丈夫ですか!!」

 

 シンが少しだけ嬉しそうに、それでいて心配そうに通信してくる。『セイバー』はもう満身創痍だ。フェイズシフトが切れている上に、腕と脚が一本ずつなくなっている。シンが心配するのも無理はない。

 しかし、このまま退却するわけにもいかなかった。

 

「デュートリオンビームは…!無理か!」

 

 ミネルバとは完全に分断されている。『セイバー』にもデュートリオンによる再充電機能は搭載されているが、その支援を受けるのは困難であった。

 

「『アビス』は俺が撃破した!残り二機に集中するぞ!!」

 

「了解!」

 

 直後、アスランとシンは、『カオス』、『ガイア』と交戦を再開する。

『カオス』は正面からのビームサーベル、『ガイア』は背面からのビーム攻撃。

 挟撃される形となり、その場に釘付けにされる。

 防戦一方となる二人。それでも懸命に抗い続ける。

 生きるため。為すため。

 

「無事でいろよ…キラ!!」

 

 シンとアスランの連携は相手の二機に比べ、断然優れている。しかし、右腕と左脚を喪った『セイバー』では攻撃力に欠ける。シンもエネルギー切れを気にして、うまく力が出せていない。

 

 しかし、敵二機のGは三機での連携基本コンセプトとしている。それを失ってしまったためか、イマイチ攻撃力を損なっているようだった。

 

 戦闘は膠着し続ける。そして数刻の後…二機は撤退していった。

 敵の判断が良い。このままでは消耗戦は避けられなかった。そうなると、駐屯地が遠い連邦側が不利となるのは必定だからだ。

 

 シンは追撃を試みたが、『インパルス』の損耗具合と『セイバー』の破損を鑑みて自制した。

 

 その直後…ミネルヴァから帰艦命令が下った。

 

 ひどい戦闘は終わった。あたりを見渡す。黒海には、多くのモビルスーツや戦艦の残骸が沈んでいる。また、よく見なくとも、死体も多く浮かんでいる。

 地獄の様だった。死の臭いが充満して、本能的に目をそむけたくなる。

 

 なぜならば…死を目の当たりにすることは、自身の死を想起することに繋がるからだ。

 故に…本能的に目をそらす。辛い現実を見ないように。

 

 しかし、アスランは見続けた。地獄の景色を。目と…心に焼き付ける。

 

「キラ…、マユ…」

 

 アスランは独り、孤高の戦場で嘆く。

 キラ達の行動。そして、マユの異変。それらは…現在のアスランでは、力になれることが少ないだろう。

 

 でも、進む方向が一緒なら。思いが一緒なら。きっと道は交わる。

 

 そう信じて…アスランはミネルバに帰投した。

 




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