シンは独りで駐屯地をふらついている。
昨日の戦いを嫌でも思い出した。
連合軍が…オーブ軍を引き連れて、地中海に位置するザフト軍の要所に攻め入った作戦。
地球連合はユーラシア西の独立の機運を抑えるためにも、地中海を支配権に入れることを前々から画策していた。
故にいずれは起きる不可避の戦いであっただろう。
むごい戦いだった。酷い戦いだった。悲しい戦いだった。
彼は『インパルス』に乗り、敵のモビルスーツや戦艦と戦った。その中には当然連合の兵士に加えオーブ軍の兵士もいた。
たくさん、たくさん倒した。別に…殺したかった訳ではない。人を好んで殺したがる奴なんてそうそういないだろう。
ただ、彼は若くとも一端の軍人であったし、正規の命令も出ていた。それに敵を討たねば、ディオキアの人たちのような罪のない民が…また地球軍による圧政に苦しむことになりかねない。
だから討ったのだ。それが、正しい大義だと思ったからだ。
迷わなかったと言われれば…どうだろうか。故郷を嫌でも思い出したし、戦争で家族を喪ったことも思い出した。
あんな条約に批准するからこうなるんだ。
…あの若い代表は…結局何もできていないし、最後には攫われて行方不明というオチだ。ふざけている。
戦場での彼女の言葉を思い出す。
《オーブ軍の友よ。私は…諸君らにこれ以上の戦闘行為の継続を望まない》
《私が帰るその時まで、オーブを守り抜いて欲しい!》
「よく、わからないよ…」
彼女はそしてあの二機のモビルスーツと戦艦はいったい何をしようとしているのだろうか。
アスランは…彼らを知っている様な雰囲気だった。彼に訊けば何か教えてくれるかもしれない。
出撃直前、アスランに言われた言葉を思い出す。
『シン…覚えておいてほしい。お前の積み重ねてきたことは、確かにたくさんの人を救った。それは間違いのない事実だ。
…でも、子供っぽくても。現実的じゃなかったとしても。力が伴っていないとしても。
ただ、平和を望む心を持ち続ける。そんな甘ったるい理想もきっと大切なんだ』
「そんな大事そうなこと、直前に言うなよ…」
もっと落ち着いて、腰を据えた状態で話した方が伝わるだろとシンは心の中で愚痴る。
もっとちゃんと話すべき、大切なことだと思うのに、あんな尻切れトンボみたいなコミュニケーションをとられても正直に言って困ってしまう。
今になって「すみません。出撃前の話の続きを…」なんて、言い出すのは…
億劫だし。ひどくエネルギーを使う…
ぶらぶらとあてもなく彷徨う。色々な軍人とすれ違う。
髪の色、瞳の色、肌の色。全てが異なっており…個性的だった。
遺伝子を生前に調整されて誕生する『コーディネイター』。
彼らは見た目、体型、声の高さや、才能まで。人類は遺伝子を解析し、好き勝手に弄る術を身に着けた。
生物として紡いできた…自然な規則を失いながら生まれた存在。
ある意味では…人工的な調整がされたという唯一の規則を、彼らは持っているのか。
シンもコーディネイターの一人だ。両親もコーディネイターであった。特に母は子供が病気に罹りにくいようにという願いの元、子供も遺伝子調整を施したのだ。
シンの身体は、ナチュラルに比べちょっとばかし頑丈に出来ているようだったけれど、それ以外はごくごく普通の人間だった。
シンは、自身が両親と特別似ているとは思わない。別にコーディネイターで、見た目を調整したわけではない。
両親の写真が、殆ど残っていないから…思い出せないし、わからないというのが本音である。
家族の大切な記憶は、徐々にゆっくりとセピア色に褪せていく。
家族のことが大切でなくなったのではない。
ただ…人は忘れる生き物だ。忘却することで、人は生きていくことができる。
つまり、思い出が更新されないという事は。新たなものが生じないという事は。それだけで…
ピンク色の携帯電話を広げる。その中には、マユが撮った写真が幾つか残っている。
写真を見る。見る。時々じっくりと一枚を見て、また次の写真を見る。
シンとマユのツーショット。友達との集合写真。両親の写真も少しだけあった。幼年学校のイベントだったっけ。マユとシンと四人で写っていた。
様々な写真をスクロールして見ていく。それはまるで走馬灯のようで…流れては消えていった。
暫く一心不乱に写真を見続ける。マユはどれもこれも笑顔だった。
シンも…ずっと笑顔だった。
「うっ…う……」
何でだろう。涙が出てきた。こんなに…みんな笑顔だったのに。
戦争が全てを奪い取った。僕たちの…家族の未来を。
いつもそうだ。過去を省みると悲しい気持ちにさせられる。
未来を考えると、恐怖で一杯だ。
そして…現在を想うと、こんなにも辛くなる。
こんなはずじゃなかったんだ。皆…死ぬなんて思ってはいなかった。
誰もが自分が死ぬなんて思ってはいなくて。
明日も、一週間後も、一年後も自分がいつも通りの生活ができると思い込んでいる。
だからこそ喪われた時の衝撃は…大きい。徐々に心の準備ができる老衰による死ではないのだ。
それも、家族三人全員が、同時に。
そんな重荷を、天涯孤独となったごく普通の少年が一人で背負いきれるわけがなかったのだ。
だから…心に蓋をした。考えることをやめ、全く知らない土地、知らない人しかいないプラントに上がった。
オーブに居たら、嫌でも過去を想起してしまう。
辛いことばかり…思い出す。
『シン。過去には、無理に向き合う必要はない。でも、いつか…自分の為に、向き合ってやれ』
友人からの言葉を思い出した。突然なんだと思ったもんだが…彼は、俺なんかよりも、よっぽど俺の事を理解してくれている気がした。
シンは…知らねばならないと思い始めていた。
違う。知りたいと…思ってしまったのだ。
今までの過去。これからの未来。
そして、今できることを。
☆
黒海でのザフト軍と地球連合軍の決戦から一晩が明けた。
…酷い戦いだった。
昨日の停戦からザフト軍は死傷者の救助及び治療と、被害規模の評価とその対応に追われていた。
今朝八時の定期報告によると現在の死者数は裕に百名を超えていた。本日中にも二百名に届きそうな勢いである。傷病者はその数倍はくだらないかもしれない。
ミネルバは現在、マルハラ海の港に停泊中だ。艦は数多の砲弾・ミサイルをその身に被弾していた。あちらこちらで火災も発生したため、艦内・外部は煤で黒焦げている。
影響や全身を隈なく探しても傷や破損がないところは見当たらない。
主砲である陽電子破砕砲台『タンホイザー』が完全に破壊されたことや、その他の粗大及び微細な修理・修繕に追われ、艦は今暫くはこの駐屯地を出立することは出来そうもなかった。
アスランはそんな戦艦を見て、なんとも言えない気分になる。
ミネルバのクルーに人的被害が出ていないのはもはや奇跡だろう。それも艦の護衛を全うしたルナマリアとレイの活躍、主武装を失ったとしても艦の指揮をしっかり執り続けたグラディス、それに応えたクルー達。皆の功績だ。
しかし痛ましいその姿からは、自分たちをここまで運んできてくれた雄姿を想起することはもはや出来ない。
結局…昨日の戦闘に意味はあったのだろうか。
ただ、いたずらに…両軍の兵士を傷つけあい、軍備を消耗させているだけになってしまった。
こんなことを繰り返していては、いずれ本当に…世界は。
「アスラン、こんなところにいたんですね」
突然、知った声に話しかけられて思考が中断される。シンも、何となく所在がなくてうろついていたようだった。顔見知りを見かけて、つい声をかけてしまったのだろうか。
「シン。昨日は…ゆっくり休めたか?」
「まあまあです。アスランこそ…大変でしたね」
二人は現在、モビルスーツの開発部にいる。昨日の戦いで破損した機体を技術部は総力を挙げて修繕している。しかし、比較的軽症の『インパルス』は既に修繕が完了しているのに対し、アスランの駆る『セイバー』の修繕完了の目途は、未だについていないというのが現状であった。
「昨日は助かりました」
シンが唐突に感謝を述べる。アスランにとっては少々意外ではあったが、同時に納得もできた。つまるところは、まだシンの性格を掴み切れていないだけだった。
「チームなんだ。お互い様という奴だろう」
「いえ…俺は別に大したことは」
シンは昨日の戦いで、記録に残っているだけでも『ムラサメ』を四十機以上、『ウインダム』を二十機以上撃墜している。正確に計算すればより増えるかもしれない。その鬼神の如き活躍は、味方兵士を鼓舞し、間違いなく士気を高めていた。
その功績はきっとプラント本国から叙勲が与えられるに相応しいであろう。
「俺のやっていることは、まあ…言ってしまえば誰にでもできることです。それこそ、アスランにだって…
でも、アスランはモビルスーツ部隊の指揮を執って、ミネルヴァと連携して、『アビス』も倒して…」
確かに、こうして他人に一つずつ功績を挙げられ、並べるとその異質さは際立っているとアスランも思った。
彼の常人には及ばぬ獅子奮迅の活躍は、間違いなくザフト軍兵士の死者数を低下させている。
「あなたは、昨日『アビス』と戦って…死にかけました。本当はそういう危険な役目は…俺がすべきなのに」
連合に奪取された三機のガンダムの一つ、『アビス』との死闘。十回戦えば、やはり十回は死ぬであろう不利な状況を覆し、アスランは『アビス』を撃破し生還した。
確かに、アスラン自身も死が頭の中をよぎったことは否定しない。
モビルスーツ部隊の一隊員と部隊長。その格の差は、一般人が思っているよりも隔たりがある。
部隊長が戦死するのと、隊員の一人が入れ替わるのは、全く意味合いが異なるのだ。
ともすれば…隊長が居なくなったり、変わるということは。
これまでうまくいっていたことが、全て崩れ去る可性を強く秘めている。
「お前はよくやったよ。それに俺もお前も、ミネルバのクルー達も。幸いにも無事だ。だからあまり気負いすぎるな」
「あなたは、それでいいのかもしれないですけどね。でも、俺たちは…」
「俺たちは?」
じゃあ一体何の為にあなたと戦っているんですか?
そんな事は情けなくて言い出せなかった。だから、シンは言葉を紡ぐ事をやめた。
二人の間には天使が通る。一時の静寂。別に気まずくはない。しかし何となくではあるが、言葉を引っ込めたシンが次の言葉を紡がねばならない気がしてくる。
「あの、モビルスーツは…」
「『フリーダム』そして『ストライク』。俺の…友人が乗っている」
「え…」
友人と戦っていたと知り驚愕する。シンにとっては、レイやルナマリアと戦うようなものか。考えただけでも、吐き気がしてくる。
それをミネルバのクルーたちにそれを悟らせなかった配慮や実力に舌を巻かざるを得ない。
「アイツらが、何をしに戦場にやってきたかは…まだしっかりとはわからない。だが…進む道は同じだと。そう信じている」
「アス…ラン」
「シン。俺は勿論お前とも…同じ道を歩めると思っている」
アスランはその友人を信じているようだった。平和を創るという…長く険しく、苦しい道のりを、一緒に歩む友を。
そして…シンのことも。
シンと出会って、まだ数か月しかたっていないというのに。
アスランに真っすぐ見つめられ、なんだかむずむずする。
こんな風に信じられるとどうしたらいいのか正直よくわからない。
「あの代表の言葉は…あれは一体…」
「彼女の願いだろう。オーブに戦ってほしくはないという…純粋で、子どもっぽくて、甘ったれで…」
アスランが苦笑しつつ…手のかかるアイツを放っておけないのだと話す。
シンの知らない…いや。よく知るアスランがそこにはいた。
優しい彼が…
「アスランは…代表を信じているんですね」
ゆっくりと。シンは、言葉を間違えないように語りだす。雪が薄っすらと積る冬の日の朝ように…静かで穏やかに。
「…そうだ。彼女は理想家だが、力は伴ってはいない。だからこそ…俺がその力になりたいと思った。彼女の力に…」
シンは…アスランの今までの人生を知らない。
当然、カガリのこともよくは知らない。彼女はテレビの向こう側の人だ。
でも…今は知っている。
「…俺は…認めたくありません。前にも言いました。国の指導者には力が必要だって」
シンは、真っすぐアスランの瞳を見て語る。正面から真っすぐ。誠意をもって言葉を紡ぎたいと思う。
二人の間に無駄な言葉はない。それに、無駄な音もない。ただ静かに、ゆったりと。お互いに…しっかりと向かい合って言葉を交わし続ける。
「でも…あなたが信じるカガリ代表なら…信じてみたいと、思いました」
絞りだすように言った。過去と…向き合い。未来を想って。
今、シンができることだと思ったから。
「シ…ン」
「だから…俺に見せてほしいんです。あなたが創る…未来を」
もっと知りたいと思ったのだ。自分のこと…そして、いろんなことを…
「アスラン!シン!」
遠くから、元気そうな女性の声が響いてくる。ルナマリアとメイリンだ。後ろには、レイもいる。彼女達も、手持ち無沙汰となり駐屯地を歩いていたようだ。
「二人とも、こんな辛気臭い所にいたんですね」
「悪かったな、辛気臭くて」
アスランはそう、小気味良く返す。ルナマリアとメイリンは、二人してそれに笑う。アスランも二人の明るさに少し救われたのか、少しだけ笑みを浮かべていた。
四人は明るく話している。どうやら昼食をみんなで食べないかとの提案だ。
それにアスランは特に反対もせず、どんどん盛り上がっていく。
その温度差にシンはただ独り付いていけない。
でも、やっぱり。独りにされることはなかった。
「シン、お前も一緒にどうだ?」
「…いいですよ。アスランの奢りですよね?」
一同、笑っていた。
☆
「マユ…よかったら、昨日のことについて教えてほしいんだ」
マユが暴走し戦場に飛び出した。その結果、どのように戦況が変化したかは…正直に言ってわからない。
もしもの話ではあるが…キラが初めから全力をもって戦闘行為を終わらせるために行動した方が、結果として人的被害は抑えられたのかもしれないし、マユがミネルヴァを撃ったことで、人的被害が抑えられたのかもしれない。
でも、そんなもしもは…意味がないのだ。結局は…今ある現実しかない。
結果として、アークエンジェルは戦場に混乱をもたらし。
現実として、あれ程のひどい戦場が生まれた。
故に…それの真意と気持ちを訊かねばならない。
「…私、思い出したんだ」
戦争に巻き込まれた日のこと。私のわがままで家族が喪われたこと。それを今まで、見ないふりをしてきたこと。その全てを思い出した。それで…戦場が怖くなって、頭が真っ白になって。
少しでもやめてほしくて。気が付いたら戦場に出ていたんだ。
ミネルバを撃ったこと。
それからオーブの軍人に撃たれて。
漸く、自分について考えたんだ。ちょっとだけだけどね。
「私は生き残ってしまってから…自分はずっと、死んでいるのと同じだと思ってた。
勘違いしないでね。みんな優しかった。みんな、とても優しくて…だけど…
私自身の中に、何も見つけられなかったから。何も…
だから怖くて。自分を知るのが。それに気づくのが…
でも…ようやく見つかった気がするんだ」
自分のやりたいこと。自分の人生。自分の…生きる意味。
「マユさん…」
「マユ。確かに僕は…僕たちは。君の本当の家族じゃない。
でも――嬉しいことがあったら。悲しいことがあったら。辛いことがあったら…
沢山、沢山話してほしいんだ。
全部じゃなくてもいい。今直ぐじゃなくてもいい。
血は繋がりなんて関係ない。君のことが…大切だから」
「そんなことないよ。そんなことない…キラお兄ちゃんも、ラクスお姉ちゃんも、マリューさんも、導師も…アスランさんも、カガリさんも、バルトフェルドさんも。カレンも、所長も。みんな。みんな。みんな…
みんなが居てくれたから…私は今まで生きてこられたんだよ」
…こんなつらいことばかりの世界で。本当に独りぼっちだったのなら、とっくの昔に死んでいただろう。
マリューに優しく、強く、激しく身体を抱かれる。力が強く、胸が大きすぎて、息ができなくなった。
マリューは泣いていた。私のために泣いてくれた。
私も涙が止まらなかった。馬鹿みたいに泣いた。子供みたいにわんわん泣いたんだ。
私は…全てを喪ったあの日から。初めて…
悲しさとか、喪失とかからのものじゃない。
そういうのじゃない涙を流したんだ。
☆
ミネルバの一向は地球軍が運営していたロドニアの研究所へ向かっている。
なんでも、アーサーがシンとレイの二人に命じて先んじて調査させていたようだ。どうやら調査中に、レイに何らかの異変があったためミネルヴァにシンがコールをし、緊急出動となったわけだ。
レイは現在、医務室で横になっている。
アスランの『セイバー』はまだ動くことができないため、彼はヘリコプターを操縦し、グラディスとアーサーを乗せてラボへと足を運んだ。
その中は…正しく地獄。
チューブに全身をつないだまま絶命した少年。何らかの薬液に漬けられたまま死んだ少女。廊下で横たわり、死骸がカラスや蛆虫に蝕まれている少年か少女かわからない“モノ”…
『ブルーコスモス』は、遺伝子調整を良しとはしていない。しかし、そうして生まれたナチュラルでは、戦闘力においてコーディネイターには劣る。そう考えた連邦は、薬や訓練により、ナチュラルを強引に教育し、戦闘システムに人間を加え込むという研究を行っていた。
その強化兵士の名は…『エクステンデッド』。拡張の意味を持つ、正しく人類の機能を戦闘用に拡張した生きるモビルスーツのパーツである。
被検者に共通するのは、皆が齢十程度の子供であるということ。
それが、きっと“効率”がいいのだろう。成人した人間を後から改造するよりも。
「こんなことが…」
誰かが呟いた。誰がこの言葉を発したかなど、どうでもよかった。ただ、誰も信じたくはなかった。このような現実が本当に実在するなどとは。
アスランは、ひどく気分が悪くなった。なんだこれは?これが…同じ人間のすることなのだろうか?
シンは…ずっと怒っていた。こんなことをする連邦と『ブルーコスモス』に。そして、そんな悪を許容するこの世界に。
「とりあえず…持ち帰ることができる証拠は全て持ち帰ります。このような非人道的な研究を許容はできないわ」
グラディスに命じられ、言われるがままにアスラン、シン、アーサー、その他ザフト一般兵は資料をまとめる。
暫く作業を継続していると、研究所の外で待機している軍隊から緊急通信が入った。
《熱源がこちらに接近中。数はイチ。熱型照合…『ガイア』と推測されます》
「『ガイア』が…ここに単独で?」
「まずい…ここを破壊して、証拠を完全に消滅させるつもりかもしれない!」
シンとアスランは二人で顔を見合わせ、研究所の外へ走り出す。
☆
『インパルス』に乗り込む。フェイズシフトはすぐさま作動し、鋼鉄の肉体は…よりその鎧を頑丈にする。
レイは現在、研究所内の施設を見た時の精神的ショックから戦えないようだ。
アスランたちは…ヘリコプターでここまでやってきた。
故に…ここは俺一人でなんとかするしか――!
『シン。よく聞け。単独で攻めてきたということは、施設を破壊する武器を搭載している可能性がある。なるべく無傷で無力化するんだ』
「そんなの…どうやって!」
『俺もレイの『ザクファントム』に乗り援護を行う。不慣れな機体で迷惑をかけるかもしれないが…』
「わかりましたよ!やればいいんでしょ!」
『ああ…!今は…やるしかない!!』
暗い森の中。『ガイア』の姿は見えにくい。四足歩行のモビルアーマー形態に変形できる『ガイア』は、明るさがほとんどない森林の山道を神速の速さで近づいてくる。
レーダーには映りはするが、その次の瞬間にはレーダーに示す場所にはいない。
一瞬の判断が遅れてしまう。
「見えない…!!」
シンは暗闇での戦闘経験がない。故に、いつもよりコンマ数秒だけ反応が遅れる。
戦場では、そのわずかな時間が命取り。
『シン、挟撃する!俺は北から回り込む!』
『ザクファントム』を初めて動かすアスランは、それを全く感じさせない淀みのないコントロールで、『ガイア』を突かず離れずの位置で追いかけ続ける。『ガイア』の背中を常に取り続けることで、正面にいるシンにのみ集中されるのを防ぐ狙いがある。
ビーム兵器は、隠し持っている爆発物に誘爆させる可能性がある。使うときは、確実に四肢を打ち抜けるときだけ…
『それなら!』
『ザクファントム』は遠距離でありながらビームライフルを仕舞う。
盾に収納されたビームトマホークを引き抜く。アスランの狙うは一瞬の隙。
『ガイア』は確かに地上での速さはとんでもないが…飛んでいる『インパルス』に攻撃するときは…嫌でも飛び上がり、足を離さざるを得ない。
つまり…狙うのは。シンを狙い飛び上がるための、一瞬四肢を屈曲させたこの瞬間――!
『ハァ!!』
ビームトマホークを投擲する。それは直線軌道を描きながら、『カオス』の左前脚を完全に捉え、切り落とした。
『シン!!』
「ここだー!!」
シンは、持っていたビームサーベルで四肢を完全に切り落とす。その数秒後、『ガイア』は完全に破壊され、物言わぬ鉄の塊となった。
『ふう…』
なんとか無事に制圧することに成功した。やはり…シンの動きは素晴らしい。
咄嗟にアスランと連携する戦闘センスと動きのキレ。
ここぞというときの集中力。
アスランは、シンが自分を超える日はそう遠くないと本気で思う。
そう感心していた矢先。
シンは突然コックピットから降り、黒獣の機体の…胸部に駆け寄った。
中から、パイロットを引きずり出す。ヘルメットが破壊され、顔貌と髪の色が見える。
ああ。あの―――少女は。
「ステラ!!!」
シンが叫んでいる。世界に独り、慟哭している。
怒っている。泣いている。
『ごめんね!でも、またきっと。本当…また会えるから!絶対会いに行く!!』
ディオキアでシンが救助した少女…
彼女がやはり、アーモリーワンの…
アスランは…自身の嫌な予感が的中し眩暈がした。
彼の良い予感ってやつは、全く的中がしないというのに。
ああ。本当に…この世界は狂っている。壊れている。
こんな歪み切った世界で…少年たちはどう生きればよいのか、全くわからなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
皆さまからいただく感想や評価、イラストなどが、本当に筆者のモチベーションにつながっております。
感想を非ログインの方でも書けるよう変更いたしましたので、また気軽に書いていただけると嬉しいです。
>アスランは、シンが自分を超える日はそう遠くないと本気で思う。
悪意はなく本気でシンの実力に感心しているのですが、シンより自分のほうがナチュラルに強いと思ってそうなところは、アスラン味の出る描写ができた気がします。
話のテンポが遅いでしょうか?
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丁度いい
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遅いと思う
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速いと思う