機動戦士ガンダム SEED 運命の繭   作:ドクトリン

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国内外の用事が重なり、投稿が遅れています。
申し訳ありません。


少女が見た流星

 

 夢を見るのだ。お父さんが車を運転して助手席にはお母さん。私とお兄ちゃんは後ろで二人。

 

 天気は快晴。赤いオープンカーを開いて、ちょっと強い日差しの熱さを風の強さでごまかす。

 

 どこか買い物に行くのかな?もしかしたら旅行かも。

 

 よかったね。みんな、笑ってる。

 

 

「…」

 

 変なユメを見た気がする。現実的でないユメ。理想的なユメ。

 

 でも詳細が思い出せない。戦争が終わってからはよくあることだった。

 

「はぁ…」

 

 目覚めは最悪。汗はびっしょり。だけれど、出勤は待ってはくれない。

 

 今日は新しいOSを試すのだと主任は張り切っていた。遅刻しようものなら懲罰ものだろう。

 

 それに、今日は政府の国防本部から直々に視察があるのだとか。いつも手を抜いているつもりはないが、より一層気を引き締めなければならない。

 

「ごはん食べてたら遅れちゃうな…」

 

 朝食を用意してくれる人など当然おらず、通勤しながら口に入れることができる携帯食品を棚から取り出し、着替えてすぐに出勤。

 

「いってきます」

 

 誰もいない自室に声をかけて出発する。なんとなくそうするのだ。そう、なんとなく。

 

 

「アスハ代表がプラントでテロに巻き込まれた!?」

 

 仕事の昼休憩。今日は友人のカレンと二人でランチとしけこむ。

 

 カレンは同じ会社の同僚兼友人。年齢は大体同じ。

 

 綺麗な赤髪をロングのポニーテールでくくる美人で、スタイルも抜群。会社内外問わず人気が高いが、今のところ彼氏はいないらしい。なんとなくだが、理想が高そうな印象だ。

 

 二人とも弁当派で、しかも女子同士。男世帯な機械工学系の仕事でもあり、必然仲良くなった。

 

「しー!!誰に聞かれてるかわからないでしょ!!!」

 

 カレンに言われはっとして口を紡ぐ。

 

「それって、本当なの??」

 

「マジも大マジよ。パパが電話で話してるのを聴いちゃったんだから…」

 

 カレンの父は政府高官らしい。らしい、というのは私があまり政治に詳しくないからである。

 

「ニュースになってないよね、そんなこと?」

 

「そりゃできないでしょ~。オーブの姫がテロに遭った上に今はザフトの船に警護されてるなんて」

 

「たしかに…」

 

 戦争後、連合とザフトはともに歩み寄る姿勢は見せてはいたが、それが表面上だけであるということは周知の事実。それら二つに属さないオーブの国家元首が、ザフトの戦艦に護衛されているなどと喧伝したら、連邦側から敵愾心を抱かれる原因となりかねない。

 

「これからどうなっちゃうんだろ…また戦争なんて嫌だよ…」

 

 カレンは下を向きつつそう語る。その後すぐにはっと私の方を見て申し訳なさそうに、

 

「ごめん、マユの前で戦争の話なんて…」

 

 彼女はとても良い子で、すこし気にしいなところがある。

 

「ううん。大丈夫。それに…」

 

 もちろん私も戦争なんてまっぴらごめんだ。でも。

 

「世界は、また…動き始めたんだね」

 

 朝からずっと、変な感じがする。こんな時は良くないことが起きる。

 

 昔からそうだった。

 

 

「こんにちはー」

 

 仕事終わり。今日は定時に上がることができたが、直帰せずにとある教会へ足を運ぶ。

 

「やあ、マユさん。こんばんは」

 

「マルキオ導師。ご無沙汰してます」

 

 この教会の牧師であるマルキオ。オーブにあるとある教会を管理している。

 

 何を隠そう、私の後見人。

 

 常に落ち着いた雰囲気を欠かさず、まさに理想の大人といった方。年齢は不詳だ。

 

「マユだ!」「マユちゃんだ!!」「マユ!帰ってきたの!」

 

 子供たちがこちらに気づき、駆け寄ってくる。皆とても元気そうだ。

 

 マルキオは孤児院を経営しており、戦争で親を失った子供たちの衣食住だけでなく、勉強の面倒も見ている。

 

 マルキオ曰く、彼らが独り立ちするまでは面倒を見るつもりとのことである。

 

 完全な慈善事業であり、その姿には敬意の念しか抱かない。

 

 ここには、たくさん私と同じような境遇の子がいる。

 

 そう思ったマユは、この孤児院にお世話になったこともあり、休日など時間を見つけては積極的にお手伝いに来ている。

 

「ごめんね!今日は君達と遊んでる暇はないの!」

 

 え~と子供たちから非難の声が上がる。

 

 両手を合わせつつ、マルキオに頭を下げ、教会の近くの民家へ向かう。

 

「こんにちはー」

 

 入口でインターホンを鳴らす。数十秒後にどたどたと音がして、ドアが思い切り開いた。

 

「マユさん!おかえりなさい」

 

 彼女は私にいつも笑顔でお帰り、と言ってくれる。

 

 美しい桃色の天使、ラクス・クラインだ。

 

 彼女は教会の近くに住んでいて、頻繁にやってきては子供たちの面倒を見てくれている。斯くいう私もその一人であり、戦後は姉のように面倒をみてもらっていた。

 

「今日は、どうして急に帰ってきたのですか?」

 

 ラクスが美しい声色で問いかける。彼女の声は通りがよく、それでいて心を包み込むような暖かさがある。この声を聴くと、どんなに慌てている時も、怖い時も・・・いつも不思議と思考が落ち着いた。

 

「ラクスお姉ちゃん。今日はキラさんに用があってきたの」

 

「キラに…ということは、あの事、でしょうか?」

 

「あの事・・・ってことは」

 

「はい。私も存じ上げております。カガリさんがテロに…」

 

 ラクスも自身の情報パイプを通して、情報を掴んでいたようだ。彼女の表情は心なしか暗い。彼女が陰を見せるのは、決まって「彼」についてのことだった。それを彼女自身は気づいているのか、気づいていないのかわからないけれど。

 

「うん。それに、何か嫌な予感がするんだ」

 

「嫌な・・・予感?」

 

 ラクスがいつになく真剣な表情で私に問いかける。

 

「うん・・・取り返しのつかないことが、起きそうな気がする」

 

 昔からそうだった。虫の知らせ、胸騒ぎ、とでもいうのか。私だけじゃなく、お母さんもお父さんも、もしかしたらお兄ちゃんも。昔からカンは鋭かったように思う。

 

「言葉にはうまくできないけれど、そんな気がするんだ」

 

 私はかつてないほど真剣にラクスにそう言った。

 

 

「やあ、マユか」

 

 足音で気付いたのだろうか。海に面するコテージに椅子を置き、独りで海と夕日を眺める茶髪の青年。

 

 線は細く、どこか頼りない感じ。いつも物憂げで、物悲しそうで・・・

 

 でも、とてもやさしいひとであることを私は痛いほど知っている。

 

「うん。私だよ、キラさん」

 

 お兄ちゃん、と言いかけた自分の口を慌てたように噤む。兄とは私にとっては一人だけ、と心の奥底で感じているのだろうか。

 どうしたの?と言いたげな風に私を見つめるキラ。

 

 でも。私じゃなくてどこか遠い、遠い。見えないどこかを見ている気がする。

 

「カガリさんのこと、聞いた?」

 

「…うん」

 

「そうなんだね…」

 

 二人きり。海に沈む夕日を見ながら会話する。

 

 二人とも暫くの間言葉を交わさない。交わせないのかもしれない。

 

 迂闊で、安易な言葉は人を傷つけることを彼は知っているから。私が続きを促すように、少しだけ勇気を持って言葉を紡ぐ。

 

「これから、世界はどうなっちゃうんだろう…」

 

「…」

 

 キラも、わからないといったように何も答えてはくれない。

 いつも聡明で、悧巧で、怜悧で。いつも勉強を教えてくれる彼がずっと険しい顔貌を崩さない。

 

「嫌な予感がするの。なんでかわからないけれど…」

 

 そう、溢すように呟いた。彼に聞こえているだろうか、少しだけ不安になった。そんな浜辺で、二人で穏やかな波を眺めていた。

 

 まさにその最中。

 

☆ 

 

 その日をきっと私は。

 

 いつまでたっても鮮明に思い出せるだろう。

 

 夕焼けに霞む天蓋。美しい夕日が、海と空を彩る。そんな自然のカンバスに、数多の流星群が降り注ぐ。

 

 数百、数千を超える軌跡は、ほとんどが大気圏で燃え尽きているようで、赤い尾を引いている。

 

 しかしその壁を越え。いくつもの隕石が地表を穿つ。

 

 巨人の足跡とはこういうものなのか。あまりにも巨大なクレーターがビル群を押しつぶして作られる。全てを洗い流す予言の洪水が世界を包む…

 

 死の光。神の怒り。終末の日。

 

 人の死ぬ(おと)がする。人の潰れる(おと)がする。

 

 人の怒りの(おと)がする。

 

 ブレイク・ザ・ワールド。

 

 C.E.(コズミック・イラ)73、10月3日。百年単位で安定軌道にあると言われていたユニウスセブンが唐突に安定軌道を外れ、地球に向かって動き出した。

 

 これは現在のプラント評議会に不満を持ち戦争継続を訴えるザフト脱走兵(テロリスト)が、地球に住むナチュラルを殲滅するために行ったテロ行為であったと後の歴史家は語る。

 

 地球にいた私たちにとっては、そんなことはどうでもよくて。

 

 その光景は世界の終わりに等しく。

 

 終末の光を垣間見た人々の怒りと、怨嗟はとどまることを知らず。

 

 雌伏の時を経て、その日を待ちわびたかの如く開戦した。(幕を開けた)

 

 C.E.(コズミック・イラ)73。

 

 第2次連合・プラント大戦(絶滅戦争)が、始まる。

 

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