申し訳ありません。
夢を見るのだ。お父さんが車を運転して助手席にはお母さん。私とお兄ちゃんは後ろで二人。
天気は快晴。赤いオープンカーを開いて、ちょっと強い日差しの熱さを風の強さでごまかす。
どこか買い物に行くのかな?もしかしたら旅行かも。
よかったね。みんな、笑ってる。
☆
「…」
変なユメを見た気がする。現実的でないユメ。理想的なユメ。
でも詳細が思い出せない。戦争が終わってからはよくあることだった。
「はぁ…」
目覚めは最悪。汗はびっしょり。だけれど、出勤は待ってはくれない。
今日は新しいOSを試すのだと主任は張り切っていた。遅刻しようものなら懲罰ものだろう。
それに、今日は政府の国防本部から直々に視察があるのだとか。いつも手を抜いているつもりはないが、より一層気を引き締めなければならない。
「ごはん食べてたら遅れちゃうな…」
朝食を用意してくれる人など当然おらず、通勤しながら口に入れることができる携帯食品を棚から取り出し、着替えてすぐに出勤。
「いってきます」
誰もいない自室に声をかけて出発する。なんとなくそうするのだ。そう、なんとなく。
☆
「アスハ代表がプラントでテロに巻き込まれた!?」
仕事の昼休憩。今日は友人のカレンと二人でランチとしけこむ。
カレンは同じ会社の同僚兼友人。年齢は大体同じ。
綺麗な赤髪をロングのポニーテールでくくる美人で、スタイルも抜群。会社内外問わず人気が高いが、今のところ彼氏はいないらしい。なんとなくだが、理想が高そうな印象だ。
二人とも弁当派で、しかも女子同士。男世帯な機械工学系の仕事でもあり、必然仲良くなった。
「しー!!誰に聞かれてるかわからないでしょ!!!」
カレンに言われはっとして口を紡ぐ。
「それって、本当なの??」
「マジも大マジよ。パパが電話で話してるのを聴いちゃったんだから…」
カレンの父は政府高官らしい。らしい、というのは私があまり政治に詳しくないからである。
「ニュースになってないよね、そんなこと?」
「そりゃできないでしょ~。オーブの姫がテロに遭った上に今はザフトの船に警護されてるなんて」
「たしかに…」
戦争後、連合とザフトはともに歩み寄る姿勢は見せてはいたが、それが表面上だけであるということは周知の事実。それら二つに属さないオーブの国家元首が、ザフトの戦艦に護衛されているなどと喧伝したら、連邦側から敵愾心を抱かれる原因となりかねない。
「これからどうなっちゃうんだろ…また戦争なんて嫌だよ…」
カレンは下を向きつつそう語る。その後すぐにはっと私の方を見て申し訳なさそうに、
「ごめん、マユの前で戦争の話なんて…」
彼女はとても良い子で、すこし気にしいなところがある。
「ううん。大丈夫。それに…」
もちろん私も戦争なんてまっぴらごめんだ。でも。
「世界は、また…動き始めたんだね」
朝からずっと、変な感じがする。こんな時は良くないことが起きる。
昔からそうだった。
☆
「こんにちはー」
仕事終わり。今日は定時に上がることができたが、直帰せずにとある教会へ足を運ぶ。
「やあ、マユさん。こんばんは」
「マルキオ導師。ご無沙汰してます」
この教会の牧師であるマルキオ。オーブにあるとある教会を管理している。
何を隠そう、私の後見人。
常に落ち着いた雰囲気を欠かさず、まさに理想の大人といった方。年齢は不詳だ。
「マユだ!」「マユちゃんだ!!」「マユ!帰ってきたの!」
子供たちがこちらに気づき、駆け寄ってくる。皆とても元気そうだ。
マルキオは孤児院を経営しており、戦争で親を失った子供たちの衣食住だけでなく、勉強の面倒も見ている。
マルキオ曰く、彼らが独り立ちするまでは面倒を見るつもりとのことである。
完全な慈善事業であり、その姿には敬意の念しか抱かない。
ここには、たくさん私と同じような境遇の子がいる。
そう思ったマユは、この孤児院にお世話になったこともあり、休日など時間を見つけては積極的にお手伝いに来ている。
「ごめんね!今日は君達と遊んでる暇はないの!」
え~と子供たちから非難の声が上がる。
両手を合わせつつ、マルキオに頭を下げ、教会の近くの民家へ向かう。
「こんにちはー」
入口でインターホンを鳴らす。数十秒後にどたどたと音がして、ドアが思い切り開いた。
「マユさん!おかえりなさい」
彼女は私にいつも笑顔でお帰り、と言ってくれる。
美しい桃色の天使、ラクス・クラインだ。
彼女は教会の近くに住んでいて、頻繁にやってきては子供たちの面倒を見てくれている。斯くいう私もその一人であり、戦後は姉のように面倒をみてもらっていた。
「今日は、どうして急に帰ってきたのですか?」
ラクスが美しい声色で問いかける。彼女の声は通りがよく、それでいて心を包み込むような暖かさがある。この声を聴くと、どんなに慌てている時も、怖い時も・・・いつも不思議と思考が落ち着いた。
「ラクスお姉ちゃん。今日はキラさんに用があってきたの」
「キラに…ということは、あの事、でしょうか?」
「あの事・・・ってことは」
「はい。私も存じ上げております。カガリさんがテロに…」
ラクスも自身の情報パイプを通して、情報を掴んでいたようだ。彼女の表情は心なしか暗い。彼女が陰を見せるのは、決まって「彼」についてのことだった。それを彼女自身は気づいているのか、気づいていないのかわからないけれど。
「うん。それに、何か嫌な予感がするんだ」
「嫌な・・・予感?」
ラクスがいつになく真剣な表情で私に問いかける。
「うん・・・取り返しのつかないことが、起きそうな気がする」
昔からそうだった。虫の知らせ、胸騒ぎ、とでもいうのか。私だけじゃなく、お母さんもお父さんも、もしかしたらお兄ちゃんも。昔からカンは鋭かったように思う。
「言葉にはうまくできないけれど、そんな気がするんだ」
私はかつてないほど真剣にラクスにそう言った。
☆
「やあ、マユか」
足音で気付いたのだろうか。海に面するコテージに椅子を置き、独りで海と夕日を眺める茶髪の青年。
線は細く、どこか頼りない感じ。いつも物憂げで、物悲しそうで・・・
でも、とてもやさしいひとであることを私は痛いほど知っている。
「うん。私だよ、キラさん」
お兄ちゃん、と言いかけた自分の口を慌てたように噤む。兄とは私にとっては一人だけ、と心の奥底で感じているのだろうか。
どうしたの?と言いたげな風に私を見つめるキラ。
でも。私じゃなくてどこか遠い、遠い。見えないどこかを見ている気がする。
「カガリさんのこと、聞いた?」
「…うん」
「そうなんだね…」
二人きり。海に沈む夕日を見ながら会話する。
二人とも暫くの間言葉を交わさない。交わせないのかもしれない。
迂闊で、安易な言葉は人を傷つけることを彼は知っているから。私が続きを促すように、少しだけ勇気を持って言葉を紡ぐ。
「これから、世界はどうなっちゃうんだろう…」
「…」
キラも、わからないといったように何も答えてはくれない。
いつも聡明で、悧巧で、怜悧で。いつも勉強を教えてくれる彼がずっと険しい顔貌を崩さない。
「嫌な予感がするの。なんでかわからないけれど…」
そう、溢すように呟いた。彼に聞こえているだろうか、少しだけ不安になった。そんな浜辺で、二人で穏やかな波を眺めていた。
まさにその最中。
☆
その日をきっと私は。
いつまでたっても鮮明に思い出せるだろう。
夕焼けに霞む天蓋。美しい夕日が、海と空を彩る。そんな自然のカンバスに、数多の流星群が降り注ぐ。
数百、数千を超える軌跡は、ほとんどが大気圏で燃え尽きているようで、赤い尾を引いている。
しかしその壁を越え。いくつもの隕石が地表を穿つ。
巨人の足跡とはこういうものなのか。あまりにも巨大なクレーターがビル群を押しつぶして作られる。全てを洗い流す予言の洪水が世界を包む…
死の光。神の怒り。終末の日。
人の死ぬ
人の怒りの
ブレイク・ザ・ワールド。
これは現在のプラント評議会に不満を持ち戦争継続を訴える
地球にいた私たちにとっては、そんなことはどうでもよくて。
その光景は世界の終わりに等しく。
終末の光を垣間見た人々の怒りと、怨嗟はとどまることを知らず。
雌伏の時を経て、その日を待ちわびたかの如く
話のテンポが遅いでしょうか?
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丁度いい
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遅いと思う
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速いと思う