何とか面白いものを書きたいです。
ウィラード隊司令室。隊長のウィラードが前線に立つモビルスーツ兵士達に指示を出していく。
「あまり熱くなりすぎるなと伝えてやれ。このままではミネルバが来る前にジリ貧だ」
「追い込んでミネルバに撃たせるなどという作戦をとるからこうなるのです!我々だけで撃墜してしまえば…!」
ウィラード隊副官が大声で騒ぎ立てる。それに、周囲の一般兵も頷きつつ賛同していた。
そもそもとして、追い込んでいるのがウィラード隊であるのに、最後の撃墜の名誉をミネルバに渡すというのが、彼らからしたら気に入らなかったのだ。そうい鬱憤が爆発しそうになっている。
しかし、ウィラードは一声と視線のみで、部下の浮き足を制する。
「お前は、アラスカもヤキンも知らんだろ?怖いぞ。『フリーダム』と、アークエンジェルは」
その言が持つ重さに、若い兵士は何も言えなくなる。この中で最も経験のある存在は、いうまでもなく隊長であるウィラードだ。その彼がここまで警戒するのだから、それはきっと若輩者ではわからぬ地平があるのだと痛感させた。
「作戦通りに遂行する。ケツ持ちは、ミネルバにやらせればいい。特に、ウチのスーパーエースである『インパルス』にな。
しかし、“保険”はかけておくか…」
ウィラードは口角を僅かに吊り上げ、残虐な笑みを浮かべる。
☆
「信号を捕捉。状況図出ます」
ミネルバブリッジ内のモニターには、ウィラード隊により作られた状況図がリアルタイムで送られてくる。まだ少しばかり離れた位置のミネルバも、これを見るだけで手を取る様に状況が理解できた。
「作戦域に入りました!」
アーサーが告げる。作戦が始まったのだ。
グラディスは一つ深呼吸をして、戦闘開始の合図を告げる。
『ブリッジ遮蔽!コンディションレッド発令!対艦・対モビルスーツ戦闘用意!』
『コンディションレッド発令!パイロットは搭乗機にて待機して下さい!』
続けてメイリンが、戦いが始まった事を館内全員に通達する。
「『トリスタン』『イゾルデ』起動!ランチャーワンからスリー、全門パルジファル装填!!」
アーサーが武装の解除と準備を促していく。
「ジャミング弾発射!『インパルス』『ザク』発進!!」
グラディスの号令の元、二機のモビルスーツが巣から飛び立つ。
彼らは豪雪を物ともせず、一直線に天使の腑を喰い破ろうと突き進む。
さながら、流星の様。
☆
『フリーダム』を投入したアークエンジェルは、『バクゥ』らモビルスーツを数分にして数十機破壊していた。
それら全てが、四肢や武装が破壊されたのみであり、パイロットの生命を確保しつつ無力化しているという驚愕の事実に、シンは驚きを隠せない。
そんな戦い方が、またしてもシンの神経を逆撫でする。
人死にが少ないことは良いことであるのは理解しつつも。
「はあああ!!!」
『インパルス』を駆るシンは、『フリーダム』目掛けてビームサーベルを一閃。しかし、間一髪で躱される。そこにレイの操る『ザク』が援護射撃を加え、これは避けられず『フリーダム』は盾で受ける形となる。
そうなるとどうしても隙が生じるため、再度『インパルス』は反撃をもらうことなく攻撃できるのだ。
究極のコンビネーション。阿吽の呼吸だ。お互い合図しなくとも、シンとレイは完璧に互いの間合いを完璧に把握し、『フリーダム』を追い詰めていく。
「速い!」
キラはその速度に舌を巻く。以前見た『インパルス』の速度の比ではない。圧倒的に速くなっている。しかし…同時に違和感を覚える。
『フリーダム』の攻撃が、紙一重で全て躱されるのだ。
頭、四肢、銃火器。まるで、こちらがどこを狙っているか知っている様で───!
「動きが読まれているのか!?」
それを理解しつつもキラは己のスタイルを曲げる事はない。あくまで、殺生は最小限に留める。
これは、キラが彼女から『フリーダム』を受領した時に心に誓った鉄の掟。
しかし、そんな甘い考えで倒れるほど、この『インパルス』と『ザク』は甘くない。
他のザフトパイロットとは隔絶する運動能力を見せる『インパルス』と、冷静沈着なサポートを徹底する『ザク』の圧倒的コンビネーションに、キラは一切の反撃を許容されない。
「ならば…!」
『インパルス』の方が手強いのは明白。まずは援護の『ザク』を落とす!
そう考え、『ザク』に迫った時───!
突如としてキラの頭の中に、仮面の男が姿を現す。
『お前にはわかるだろう?キラ・ヤマト!
──────俺は…ラウ・ル・クルーゼだ!!!』
☆
アークエンジェル艦内。『フリーダム』を加えたにもかかわらず、迎撃の手数は足りていない。
それもそのはずだ。『フリーダム』は完全に『インパルス』と『ザク』に抑え込まれてしまい、アークエンジェルの援護を封じられている。
クルー達はそれを理解しつつも、物量と布陣の不利が祟り、対処することができない。
じわりじわりと、首元にかけられた縄が締められていく様な錯覚を覚えていく。
「信号途絶!これは…ジャミング弾です!!これは…」
「ミネルバです!!」
アークエンジェルブリッジ内モニターにはザフト軍最新鋭宇宙艦の姿が映し出される。そして、当然それは一直線にアークエンジェルへ向かって進行し、その口から大量のミサイルを吐き出した。
「迎撃開始!」
アークエンジェルとミネルバ。時代を制する二つの戦艦が、遂に正面衝突する。
しかし、戦力の差は歴然。戦艦としての戦力差を加味しなくとも、そもそもその他の戦力が桁違いだ。
大人と子供が相撲をとっている様なものであり、後はじっくりと調理された後、アークエンジェルはこの雪原に沈むだろう。
それを予感しつつも、誰も口には出さない。唯、今できる事を全力で行っていく。
そんな中国際救難チャンネルから、一つの通信が戦場に響いた。
☆
ミネルバブリッジ内。戦闘の趨勢は既に大方決している。これだけの物量の差だ。いくら一騎当千の戦士が一人いようとも、覆ることはないだろう。
グラディスは無言で受話器を取る。国際救難チャンネルを開く準備を始める。彼らに降伏と投降を呼びかけようとするが───。
『ザフト軍ユーラシア・スカンジナビア基地ウィラード大佐である。
勇敢なるザフト軍兵士達よ、聞いて欲しい。知っての通り、我々は現在敵艦であるアークエンジェルの撃沈命令を受けて行動中である』
『当艦は無辜の民の平和を乱し、世界情勢を不安定にさせるばかりだ。
故にザフト軍最高司令部よりこの作戦が遂行されている。
これは、世界の安寧と秩序を取り戻すための戦いである。
勇気ある同志よ!奴らに正義の鉄槌を下すのだ!投降や降伏を認める必要はない!なぜならこれは…正義の名の下の戦いである!』
「艦長!これは一体!?」
アーサーが大慌てでブリッジ内にて騒ぎ立てる。その姿を見て、その他のクルーは少し落ち着いた様だったが、全員が浮き足だっているのをグラディスは肌で感じていた。
勿論、彼女本人も右に同じである。
「先んじてやられたわね…流石はウィラード大佐」
「こんなことを喧伝してしまえば…アークエンジェルは!」
「ええ。もう降伏はしてくれないでしょうね」
撃墜し、殲滅するしかない。グラディスが言外にそう告げる。
クルー全員に緊張が走る。
☆
『───これは…正義の名の下の戦いである!』
煩わしい、唾を飛ばして堰を切ったように語る通信越しの男。
わざわざザフト軍だけではなく、アークエンジェルにも届く様に放送しているのだ。
即ち…降伏は赦さないという宣言。
更には、殲滅戦に対してもザフト軍人達に大義名分を与えている。
戦闘員以外のクルーへの殺生行為に、正当性を担保しているのだ。
何故ならば…アークエンジェルは正規軍人ではなく、世界を脅かすテロリストだから。だから、全員皆殺しにすべきだと。
そう高らかに謳い、宣言している。
「正義の戦い…ね」
ブリッジ内に沈黙が走る。このままでは、アークエンジェルの撃墜は必至。それ以外の未来は現状望み薄だろう。
「何度も同じことを申し上げますが、我々のことは気にされず全力で対抗すべきかと愚申致します!!
本国には既にカガリ様も居られます。ここにいるオーブ軍人一同、既に戦場にて死ぬ覚悟はできております。にもかかわらず、こうして生き残ってしまいました。
当艦が如何なる選択を採ろうとも、これまでの感謝こそすれ、それに恨み節を言うことは決してありません!!」
アマギが大きな声で高らかに叫ぶ。他のオーブ軍人もそれに大きく同調している。
本国は既に建て直しが始まっている。ここで死んだとしても、全く後悔はないと。
脱走兵の汚名を背負いながら、アークエンジェルを守るために命を投げ出す覚悟はあると。そう言っているのだ。
マリューは思考する。ここを切り抜ける確率。撃墜される確率。メリットデメリット…
瞬時に判断せねばならない。なぜなら彼女は艦長であり、艦員全員の生命を預かっているのだから───!
☆
「貴方は…貴方は一体誰なんだ!?」
キラの脳内を埋め尽くす、仮面の男。
最後の最後まで死闘を繰り広げ、結局は殺す事でしか止めることができなかった宿命の敵。
世界を呪い、世界を憎み、世界を断罪しようとしたかの男。
それと全く同じ声が、キラの頭を乱反射する。
『聞こえなかったのか…?俺はラウ・ル・クルーゼだと言ったんだ!!』
「そんな…まさか!?」
キラの頭に濁流の如く流れ始める嫌な予感。それは…かねてよりずっと懸念していた事。
あの大戦から、ずっと脳裏に齧り付く白い仮面の男。忌むべきメンデルの研究室にて、キラとムウに人類の愚かな過ちを語った男。
そして、最後の最後までキラと分かりあうことなく。世界を赦すことはなく。
殺されることでしか、止まる術の無かった男。
遺伝子研究所メンデルで生まれた…ヒトのクローンである仮面の男。
そして…その彼のクローンが生き残っていても、全く不思議ではないと───!
「何故貴方がここに!?」
『キラ・ヤマト!何故かと問われたならば答えよう!
それは!お前という人類の…醜悪な望みの権化がいるからだ!!』
「僕が…いるから…!!」
『そうだ!人の夢、人の望み!…人の業!!キラ・ヤマト!!
…そして…同じ業を背負う俺!!
俺たちは消えなければならない!この世界から跡形もなくな!!!』
「何を言っているんだ!!!」
『議長の望む新たな世界に!!!俺たち過去の遺物は!不要だ!!!』
『ハァアアア!』
キラの動揺など知る由もなく。『インパルス』のビームサーベルは『フリーダム』の姿勢制御を担う、右片翼の一本を斬り飛ばす。
キラは“彼”の言葉で一瞬反応が遅れてしまう。
そのひと時を決して見逃さない『インパルス』の凄まじい反応速度である。
「ぐあぁああ!!!」
『フリーダム』が姿勢制御を失い、地上に墜落していく。途中で何とか制御を取り戻すも、追撃を加える『インパルス』と激闘を続ける。
『戦闘中に考え事かよ!!余裕なもんだな!!』
『インパルス』の右手に携えた、ビームサーベルが『フリーダム』へと襲いかかる。一刀両断は必至。眼前の光景がゆっくりと見えた。
「コレは…このままでは…!!」
やるしかない。キラは瞬時に判断する。
同時に頭の中で、何かが弾ける感覚。
思考はクリアーになり、世界の速度が遅延して感じる。
───ここから先の彼は機械の一部品。
身体はモビルスーツの一パーツ。心すら、機械のように冷徹に。
精神が肉体を逸脱する感覚。
精神が肉体を凌駕する幻想。
唯───効率よく敵の全てを屠るのみ。
『フリーダム』の左手に携えていた盾を瞬時にパージする。そのまま逆手持ちで左腰のビームサーベルを抜き、居合い切りの要領で『インパルス』の右手首をビームサーベルごと切断した。
シンはコレまでと反応スピードの違いに動揺し、一瞬回避が遅れる。
そのまま、右腰のサーベルも居合い切りをし、『インパルス』の胸部コックピットを貫く───!
『そう何度も…やれると思うな!!!』
シンの頭は…一瞬にして冷徹になる。頭の中で、何かが弾ける予感。
精神は一切揺るがない水面の様相で、冷徹に胸部に迫り来るビームサーベルの軌道の回避を試みる。
普通に回避していては無理。既にビームサーベルは目と鼻の先。ならば───!
『ハァアア!!』
『インパルス』のチェストフライヤーとレッグフライヤーを緊急パージさせる。腰があった辺りの場所を、ビームサーベルが無慈悲にも空振りする。
これはインパルスにのみ備わる機能。いくつものフライヤーが一つのモビルスーツを形成する、究極の曲芸回避術。
「何!?」
キラは、完全に避けられないタイミングから、一切予測できなかった回避をされてしまい、一瞬呆気に取られる。
コレは、致命傷となる。『インパルス』は、レッグフライヤーがなく、姿勢制御もままならぬまま、左手の盾を『フリーダム』に投げ飛ばす!
「グゥ!!」
質量の大きい盾がメインカメラに直撃し、『フリーダム』胴体が揺れる。
その一瞬をついて『インパルス』は『コアスプレンダー』のみの姿になり、緊急離脱。
『メイリン!!
メイリンも流石の腕前。二度同じ轍は踏まない。以前シルエットを出すのが遅れ、シンにどやされた分、今回はしっかりと先んじてハンガーに用意させていた様だ。
『ザク』が時間稼ぎをしている数刻の間に、フライヤーは一瞬で射出され、エネルギーチャージも終えた。
再度『インパルス』は完全な姿で『フリーダム』の前に姿を示す。
『うおおおおおあお!』
完璧な姿へと舞い戻った『インパルス』は、その力を存分に奮い、『フリーダム』を今度こそ完膚なきまでに叩きのめそうと試みる。
しかし───!
戦場に加わるは、もう一騎のモビルスーツ。
「『ストライク』…!!!」
☆
「艦長!キラが!!」
『フリーダム』は『インパルス』と『ザク』の猛追を捌きつつ、アークエンジェルへと放たれるミサイルを撃墜し続けている。
しかし、限界がきているのは明白であった。既に何度も被弾している。美しい青き翼の片翼は折れている。
フェイズシフト装甲がある為、ミサイルなどの攻撃は軽微な損傷で済むのだが、それでも躱し続けるのがキラの戦闘スタイルだ。
故に、被弾という事実が彼が追い詰められている証となる。
モニターには『フリーダム』が完全に後手に回っている様相が描かれている。その事実をアークエンジェルのクルーは信じることができない。
それも仕方がないだろう。何せ、彼らからすればキラは戦闘においては無類の強さを誇っていたのだ。
そんな彼が追い詰められているという事実が、アークエンジェルクルーを更に焦らせる。
「やはり、いくらキラくんと言えども、たった一人でこの数を捌くのは…!」
『ひとりじゃないよ。…遅くなってごめんなさい。私も出ます』
突如としてブリッジモニターに映し出されるのは、マユ。
既にコックピット内に乗り込み、出撃の準備は万事整っている様だ。
「ダメよマユさん。そんな命令は出していません。今すぐ『ストライク』から降りなさい」
キラが追い詰められている。
それを肌で感じて、居ても立っても居られない少女は一人、空へと羽ばたく。
『ごめんね、みんな…止めてくれてありがとう。
マユ・アスカ!『ストライク』行きます!』
「『ストライク』がハッチを突き破って発進しました!!」
「何て事を…!仕方ないわね。『ストライク』『フリーダム』両機をアークエンジェルで援護!!全員で死に物狂いで包囲網を突破します!!」
☆
「マユ!?何故出てきたんだ!」
「煩いな!キラお兄ちゃんを助ける為に決まってるでしょ!」
「そんな事僕は…!」
「だってピンチじゃん!いいの!望まれてなくてもやるの!自分で考えて、自分で決めたの!
わかってよ!納得出来なくても、協力してよ!」
「…!!」
いつまでも子供だと思っていたマユが。こうしてキラの意見を振り切ってまで、自分のやるべきことを探して行動している。
子供の成長は早いものだ、と未成年のキラは感慨深い念にかられる。
そして、彼女の強さに嬉しさを覚えて歯噛みした。
「わかった!!マリューさん!!」
キラはアークエンジェルへ通信回線を開く。戦闘中は邪魔にならない様に、極力通信は控えていたが、こうなっては作戦の立て直しだった。
『キラくん!マユさんは!?』
マリューは通信越しでも、驚くほどに焦っているのが伝わってくる。キラは知る由はないが、マユはアークエンジェルを破壊して出てきたのだから、焦るのも無理はないのだが。
「一緒に戦います!アークエンジェルは、西側の海へ脱出を!!」
『フリーダム』から示されたポイントは、ここからほど近い海岸線。更には、周囲には入り組んだ稜線が多い。
これらの山々が、弾幕や地上の追手からの自然の隠れ蓑になりそうな地形でもある。
『貴方達は!?』
「僕たちも脱出を支援します!!それに…」
キラは決死の覚悟で告げる。
もしかしたら、これが最後の言葉になるかもしれないと。
キラは直感している。
「ここから生きて、皆んなでオーブへ!!」
それでも。不安があっても、未来を強く望む。それこそが人間の強さだと彼は信じている。
その言葉にアークエンジェルクルー全員の決意が一つになった。
☆
「『ストライク』!?今更出てきたところで!!」
「シン!油断するな。アレは…想像よりも遥かに速いぞ」
「わかってる!わかってるさ!」
油断はない。隙もない。慢心もない。
シンは唯、冷静に敵と自分の戦略を分析する。
正確に、厳密に彼我を捉えても。こちらが圧倒的に有利!!
「だったら!今日ここで!!纏めて討つ!!!」
『インパルス』の猛チャージ。『フリーダム』に迫り来る。それを左腕と右腕で正面から受け止めながら、両機は衝撃と共に落下していく。
「マユ!」
「私は一人でも大丈夫だから!キラお兄ちゃんはそっちをお願い!」
『ストライク』と『フリーダム』は共に、重力に引かれて落ちていく。
「漸く、お前と戦える…!!」
「機体が…!頼む、持ってくれ!!」
山の中腹に降り立つ。周囲に他のモビルスーツの陰はない。少し離れたところのようだ。
両機の距離は百メートル程離れている。
互いに見つめ合う。
二人の間わ分つものは、豪雪のみ。
二人は通信などしていない。チャンネルは開いてはおらず、お互いの呼吸など全く認知はできない。
それでも。寸分違わぬタイミングで互いにブースターを噴かし、全速力で正面衝突した。
☆
『ストライク』と『ザク』は剣戟を交わし続ける。
正確には『ザク』は背後のザフト艦やザフトモビルスーツ援護を巧みに利用し『ストライク』と互角以上に渡り合っている様相だった。
「キラ・ヤマト…あんな状態でシンとやりあえるとはな…
流石は特別なコーディネイター」
特筆すべきは、レイの空間把握能力といったところだ。
背後に位置するザフト軍の味方の位置を正確に把握し、それらを巧みに利用して『ストライク』を追い詰めていく。
『ザク』を駆りながらレイは『ストライク』に猛追する。
マユは攻撃を受け止めつつ、可能な限りアークエンジェルへのミサイル攻撃を撃ち落としていく。
アークエンジェルはその甲斐あって、既に包囲網は突破していた。後は、海岸線に突き進むのみ。
それを観測し、マユは一安心ついてしまう。
その隙が命取りになる事を、まだ経験が浅い彼女は実感できていない。
「グゥ!!」
『ストライク』の右手に携えたビームライフルとエールストライカーパックに一発ずつ被弾する。
マユの実力では、『ザク』とザフト軍の連携を完璧に捌き切ることは困難であった。
「遠距離武装がない!バランス制御がバカになってる!」
微小なトルク制御が効かず、マユの得意な一挙手一投足をミリ単位で操縦することは今後難しくなった。
こうなってしまっては大げさにマージンをとって回避を続ける他ない。
そうなれば反撃の隙は生じない。遠距離攻撃もできないマユは防戦一方になっていく。
そして、『ザク』の中に乗っている男だろうか。知らない人間が一方的に通信を送ってくる。
「マユ・アスカだな?」
「貴方は…?何故私のことを!?」
「それに答える義務は私にはない。そして、応えさせる力も君にはない」
そして銃口を向けながら、冷徹に白い機体はマユに声をかける。
「そして…私に君を連れて帰る様に命令が下っている。大人しく投降すれば、これ以上痛い目を見ることはないだろう」
「私、を…?」
それは対話ではない。命令であった。
☆
『インパルス』を駆るシンは、『フリーダム』と対峙し続ける。両機のスピードは尋常ではない。
しかし。いくら核エンジンが搭載されているとはいえ前大戦の時にロールアウトしたロートル機体。
それがザフト最新鋭モビルスーツの『インパルス』についてくるだけでも御の字であろうに、かの機体の速度は…!
「データより速い!!!」
速さという概念を置いていく神速。そのスピードから繰り出されるビームサーベルと、レールガン、バラエーナビーム砲のコンビネーションは防ぎ切るので精一杯だ。
その間にも、『フリーダム』は他のモビルスーツを次々に撃墜していく。シンは、自分だけを相手にしない『フリーダム』に対し、少しばかりの苛立ちと同時に、その技術の高さに感心した。
しかし、練習の成果が結実する。シンは徐々に、一瞬の隙をついて反撃に転じる余裕が出てきていた。
「でも!!」
対艦刀を振り下ろす。紙一重で回避されるが、それは予想通りだ。回避先を読んで、頭部に付属するバルカンで牽制射撃。メインカメラの破壊を狙うも僅かに逸れる。
両者のパイロットとしての戦闘能力は全くの対等であった。
しかし、十全な状態の『インパルス』に比べて既に満身創痍の『フリーダム』でここまでのパフォーマンスを出力してくる敵の技能に、シンは舌を巻く。
一歩間違えれば袈裟斬りで真っ二つにされる可能性が残る中、シンは『フリーダム』の動きを冷静に観察し続ける。
対する『フリーダム』は、左側面を前面に出す様に上体を捻り、左腕を正面に構え、右腕を胴体で隠す様に相対した。
その両手にはビームサーベル。
そのまま、猛スピードで『インパルス』にチャージをかけてくる。
この体制は、左側のビームサーベルを牽制に突撃し、右手のビームサーベルがどのあたりに保持されているかを敵の死角に追いやり、僅かながら目測を誤らせるつもりだろう。
加えてこの機体の神速へ至る速度。一瞬でもタイミングを逃すと、命を持っていかれる!
シンは目を見開いて正対する。一瞬の呼吸の乱れが命取り。敵は一騎。己も一騎。介するものは、何もなし───!
『フリーダム』がトップスピードに到達する。しかし違和感。
───そう。これまでよりも、トップスピードへ至る迄の時間が僅かに長い。
「ブースターが!もうダメみたいだな!!」
そうとわかれば話は早い!相対速度を合わせる為に距離を保つ方向へ後ろ向きに全力でブースターを噴かし、『インパルス』はぐんぐん加速していく。
トップスピードでは『インパルス』の方が速い。
更に今は機体の状態でも完全にこちらが上。『フリーダム』は追いつけない。付かず離れずの距離を維持し、バルカンで牽制をしつつ食らいついてくる。
その距離は僅か五十メートル程ではあるが、それを『フリーダム』では詰めきれない。
そして、シンは『インパルス』を急速反転。ブースターを先程までと逆方向に噴射し、急停止を試みる!
「うぁぁぁああ!!!」
『インパルス』と『フリーダム』が相対速度が一気にマイナスへ転じる。
加速度が足先へとかかり、シンの頭部から血流が一気に低下する。
豪雪と相まって、一瞬でホワイトアウトしかけた。
しかし、目の前が真っ暗になりそうになるのを、根性と気合いそして唇を噛み切ることで意識を何とか保ち続ける。
「何!?」
キラもその速度差に面くらい、咄嗟に対応が遅れる。
しかし彼も歴戦の戦士。直感のみて反応し距離を取ろうと試みるが───!
「コレは…!」
けたたましいアラーム音と共に、コックピット内に大量の危険信号が灯る。完全にエンジンが故障したことを示している。姿勢制御が不可能になり、ひと時の隙が生じる───!
そして五十メートルほどであった彼我の距離が、一瞬よりも刹那の時間で詰められる!
「ここだ!」
『インパルス』は『フリーダム』の懐に入り込み
天啓が下る。今、ここで、討てと!
全身の細胞は沸騰した様に熱く、魂は燃えたぎる太陽すら焦がす熱を浴びたようだ。
「ハァァァァア!!!」
『インパルス』が対艦刀を振り翳し、敵を突き刺す様に突貫する。
モビルスーツ全体を、一本の巨大な槍と化したかの如き一撃。
神殺しの槍が『フリーダム』の命を完全に貫いた。
☆
「そんな…」
『フリーダム』が『インパルス』に撃墜された。
それをモニターと感覚で感じ取ったマユは、身体中に冷や汗を流す。
アークエンジェルからは、何度も何度も通信が入るも、応答する余裕がない。
きっとアークエンジェルクルーは、今頃大騒ぎになっているだろう。
相変わらず。白い『ザク』はマユに銃口を向けつつ、気楽そうに此方にマユに言葉を投げ続ける。
『あちらは終わったみたいだな。『フリーダム』は落ちた。キラ・ヤマトは死んだ。思ったより距離をつけられたみたいだが…まあ、この戦いは終わりだ』
「嘘だ……」
キラが死んだ?そんな筈はない。彼は誰よりも強く。そして誰よりも優しかった。
───否、違う。優しくて強いから死んでいくのか?
地獄のようなこの世界では、最早生きていく方が辛いことであるのか?
そんなことはない筈なのに。人生は喜びが溢れる筈なのに。
それを否定できるほど彼女は…
「ううぅぅぅううう!!!」
半分以上自暴自棄になりつつ、『ストライク』で『ザク』に突貫するマユ。しかし、子供の児戯に等しい煩雑な攻撃は、もはや攻撃とすら呼ばない程の質であった。
『ザク』にエールストライカーパックを撃ち抜かれ、無様にも雪原に墜落する。
「うぁぁぁぁぁ!!!」
墜落の衝撃でヘルメットが割れる。気がつけば、頭からの流血が夥しい。
「あえて急所は外している。あまり暴れないでくれ。怪我をさせるなとの命令なんだ。
…いや違うな。殺すな、としか命令されていないのか…」
そう告げながら、『ザク』はストライクの頭部に照準を合わせる。ここからは、自殺もできない程に痛めつけられるに違いない。
もう…終わった。
キラは討たれ、いずれアークエンジェルは撃墜される。そして、私はザフトに連れて行かれる。
家族は死に、友人は死に。新たに家族になってくれた人も死んだ。
「もう、いいか…」
なんて、そんな事を考えていた。
もう無理だ。キラでも太刀打ちが出来ない相手に私がかなうはずがないのだ。
これですべて終わったのだ。
そんな刹那。遥か遠くから、赤色の巨大なビームによる一撃。『ザク』は完全に虚を突かれ、右腕をビームライフルごと持って行かれてしまう。
「あの光は…」
アグニによる光だろうか。
なぜ…?『ストライク』は私が乗っている。あの光を放つ機体など他には…
遥か遠く。稜線を一つ超えて。望遠カメラ越しに見えたのは…青みがかった戦闘機。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
もっと面白く、そしてわかりやすい文章を書けるようになりたいですね。
皆さまからいただく感想や評価、イラストなどが本当に筆者のモチベーションにつながっております。
感想を気軽に書いていただけると嬉しいです。
話は変わりますが、皆さんはメタロボ魂やガンプラは買えましたか?
話のテンポが遅いでしょうか?
-
丁度いい
-
遅いと思う
-
速いと思う