機動戦士ガンダム SEED 運命の繭   作:ドクトリン

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今日二話掲載する予定です。



父の呪縛

 

 10月中頃。ユニウスセブン落下時間から、約二週間経った。

 

「聞いた?今日、ザフト艦がモルゲンレーテに入港してくるって」

 

 赤毛の少女、カレンと、朝雑談をしている時のこと。そんな話を振ってくる。

 

「今日なんだ。そろそろ来るってのは聞いてたんだけど」

 

 ザフト艦『ミネルバ』には、オーブ代表であるカガリ・ユラ・アスハが乗っている。プラントへの来賓中、テロに巻き込まれてザフト軍に救助されたからだった。その数日後、ユニウスセブンが地球に落下し、世界は大混乱の渦に巻き込まれた。様々な混乱がありつつも、約二週間

かけて、かのザフト艦は無事にアスハ代表をオーブに送り届けた、ということだ。

 そんな艦が、数時間後にでもモルゲンレーテ社にやってくる。

 

「どんな戦艦なんだろ?最新鋭って触れ込みだったし、中は触れないだろうなー」

 

 カレンは少しばかり残念な様子。彼女は顔もスタイルも良いのに、趣味が機械いじりという、まあ男っ気があるようで、実はない趣味をお持ちのため、中々に良い人というのが見つからないようだ。一度、休日に遊びに行こうと誘われて、ジャンク屋巡りに付き合わされた時は何とも言えない気持ちにさせられた。

 

「最新の戦艦の内部は無理だろうね。おおかた、技術班は船体を外から修理する程度になるんじゃないかな?」

 

 

 ザフト最新鋭艦、『ミネルバ』が轟音と共に、モルゲンレーテ離水場近くの水源に着水する。グレーと赤、黒を基調とした戦艦。ロールアウトされてから約二週間しか経っていないという話だが、体はそこら中に傷がつき、既に古兵の様相を呈している。

 

 数分かけて船頭を180度回転させ、後部からゆっくりとモルゲンレーテ社内に入ってきた。中から、白い制服の女性と黒い制服の男性が出て、敬礼をして戦艦部の技術職員と挨拶を交わしている。その少し後ろからはカガリの姿がある。どうやら無事のようだ。たくさんの政治家に帰還を歓迎されており、滅紫色の髪の男からは抱きつかれてもいる。

 

 勿論、技術職から手を離した私は、それを遠くの窓から眺めているだけだが。

 

「アレが、ザフトの艦…」

 

 遠いところから観るが故に、その巨大さと、武器の多さに頭がクラクラする。まさしく戦う為の船。

 人を、モビルスーツを、軍を、国を、討つ為の力。

 それに、『ミネルバ』というローマ神話の知恵の女神の名を付けたザフトは、中々に皮肉が効いてて吐き気がした。

 

「ミネルバの梟は、迫り来る黄昏に飛び立つ…」

 

 ふと、ヘーゲルの『法の哲学』の一節を思い出す。

 梟とは、知恵の女神ミネルバのアトリビュート。西洋絵画の決まり事で、女神ミネルヴァを描くときは必ずその側に、象徴である梟が描かれたという。

 

 そして梟とは、この一節の中では哲学のこと。

 哲学は、時代が終わる時ーーつまりは黄昏に飛び立つ。そして哲学として形成するのだ。

  哲学者は預言者ではない。未来のことは分からないし、論じることはしない。 哲学は今現在あること、そして通り過ぎた過去の時代や精神を後から概念的に取りまとめ、人に目に見える形で示すのだ。

 

 これは捻くれた物言いなのは承知しているが。逆説的に。

 あんなに頭の良い人たちが考えても、未来の事なんてわからないのだ。

 私のような、学も経験もない若者が未来についてうんうん考えても、何かわかるわけがないのかもしれない。

 

 あまり意味のない思考を巡らせていると、そろそろ予定していた時間だ。新しいオペレーション・システムも、そろそろ完成する。私は、今から始まる長時間のテストに少々陰鬱な気持ちになりつつ、重くなった手足をなんとか動かしてソフトウェア開発部に向かった。

 

 

「よーし休憩!再開は一時間後!」

 

 ソフトウェア開発主任の一声で、全員が弛緩する。アレコレ試して三時間弱。漸く一息つく許可を得た。技術職員がぞろぞろと食堂へ向かう。私は弁当があったので、いつも食べている外の備え付けベンチに向かった。

 今日の弁当は、我ながらうまくいったのではないかと自画自賛する。最近の流行はたまごサンドイッチ。毎日同じものを食べても飽きない私は、日々サンドイッチの技術向上に努めていた。

 

「今日もサンドイッチ?」

 

 カレンが呆れたように隣に座る。彼女の弁当に比べたら、私の弁当は確かに、少しばかり貧相に見える。しかし、このサンドイッチを極めさえすれば、私の勝利は揺るがない。

 いずれ彼女に昼食を分けてくださいと懇願させるという、未来への展望に想いを馳せて、ついニヤリとしてしまう。

 

 いつも通りに雑談をしながらランチタイム。彼女は技術職員として、ミネルヴァの修繕にあたっていたようだ。興奮気味に戦艦の美しさを語られるが、正直何も頭に入ってこない。

 はい、はいとテキトーに返答しつつ、サンドイッチを完食した。晴れた空を見上げ、少し寒い風を全身に浴びる。気持ちいい。世界が混乱の最中にあるなど、全く信じられない。このまま風と共に、消えてしまいたいなんて、変な考えを思っていると、社内の方からガヤガヤと話し声が聞こえてきた。

 

「上陸許可が出るなんてラッキー!」

「お前はどこ行く?」

 

 見慣れない顔ぶれ。どうやら、ミネルヴァのクルー達のようだ。戦艦修繕には数日を要する為、下船許可が降りたのだろう。皆、久しぶりの陸に足をつけることが、とても嬉しいらしい。口々に冗談を言い合い、お互いにテンションは高めだ。年齢は若そうに見えた。大体がティーンだろう。幼さを隠し切れてはいない。仲良しのクルー同士共に羽を延ばしに行こうという算段なのか。

 

 私はそんな彼らを見て、暫くの間ぼーっとしてしまっていたようだ。カレンにおいおいと眼の前で手を振られる。

 

「何、急にぼーっとしちゃってさ」

 

「いや、うん・・・なんでもない」

 

 そう言い残し、足早にその場を去る。カレンは慌てて弁当を仕舞い、後ろをついてくる。

 

「ちょっとどうしちゃったわけ?」

 

 本当になんでもないのに、彼女はやけに心配してくる。多分、私がザフト軍を見て戦争を想起してしまい、気分が悪くなったと考えているのだろう。

 別にそんなことはないのだ。彼らに、ものすごく強い思いがあるわけではない。

 

 ただ、ふと、思ってしまったのだ。

 

 兄が成長していたら、今頃はきっとアレくらいの年頃なのだろう、と。

 

 

「アスラン」

 

 海辺で、子供たちと遊んでいたキラとラクスに声をかける。折角オーブに帰ったのだ。二人にはちゃんと挨拶をしておきたかった。

 子供たちも、しきりに話しかけてくる。結局アスランなの、アレックスなの?と。

 

「無事でよかった・・・!」

 

「家は、流されちゃったけどね」

 

 キラは、人が死ななくてよかったと言いたげに、少し冗談混じりで返答する。その後、暫く子供たちと戯れる。

 

「キラ、少しいいか?」

 

 ラクスに目配せをしてからキラに語りかける。彼女も空気を読んでくれたのか、子供達を連れて海辺を歩いて帰ると申し出てくれた。

 二人で、黒いスポーツカーに乗り込む。アスランが国内で使用している車だ。オープンカーであり、今日の様な晴天には最適だろう。

 

 二人で並んで、暫く車を走らせる。長い間運転していなかったからか、始め、エンジンは少し不機嫌そうだったが、数分もすれば上機嫌に自慢のスピードを出し始めた。

 キラに話した。ユニウスセブン事件は、父、パトリック・ザラのシンパが起こしたことだったこと。それを、目の当たりにしたこと。

 ・・・そして、彼らを殺してでも、止めようとしたこと。

 

『撃たれた者たちの嘆きを忘れて、何故撃った者たちと偽りの世界で笑うのだ!』

 

 彼らはそう言った。彼らの怨嗟、慟哭・・・今でも鮮明に思い出すことができる。

 そして、彼らをあそこまでの復讐鬼にしたのは、母の死を招いた事件(血のバレンタイン)と、父の存在である。

 それが、アスランを強く、強く、追い詰めていた。

 

『俺たちは、何と、どう戦わなきゃならないんだろう・・・?』

 

『それも、みんなで一緒に探そう・・・』

 

 二年前。第一次大戦の時。オーブで再開したキラとの会話を思い出す。アレから、俺たちは変わった。

 敵を恨むのではなく。復讐を望むのではなく。

 戦争そのものを終わらせる方法を、共に考えようと。

 

 でも、いくら彼がモビルスーツを動かせて、人を殺すことが上手だったとしても。先の大戦を終わらせた、"英雄"であったとしても。

 

 結局のところ、一人の人間ができるのことなど、たかが知れているのだ。

 それを、彼はこの二年間で痛いほどに感じていた。

 

「俺はまだ、見つけられないんだ・・・!戦争を、終わらせる方法が・・・」

 

 キラも、悲しそうにこちらを見つめる。でも、何も彼は言ってはくれなかった。

 

「すまない、キラにばかり頼ってしまって・・・」

 

 アスランは反省する。とても頼りになることは間違いないのだが、今のキラは、先の戦争で心を大きく傷つけ療養中だ。そんな友に、これ以上の負担を与えてしまっては・・・きっと、今は大丈夫でも。いずれ潰れてしまうだろう。

 

 そもそもキラは軍人ではなかったのだ。なのに、あんなになるまで戦って、傷ついて・・・

 

「今度は、俺の番だ」

 

 キラがこちらを見つめる。大丈夫か、と目で訴えかけてくる様だった。

 彼の、痩せた体躯が目に入る。その痛々しく弱った様を見て、より一層覚悟はできた。

 これは、俺の父が起こした戦争だ。

 だったらケジメをつけられるのは俺しかいないだろう。

 

「プラントに行く。俺にも、まだ何か・・・できることがあるかも知れない」

 

 大切なものを守るために、今度こそ、救世の剣となろう。

 

 血に塗れ、血に縛られた彼の人生に。

 自由は、要らない。

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。
感想、評価ありがとうございます!今後の励みになります。

時系列を勘違いしておりました。
この話は襲撃事件の前の話なので、いずれは話数を入れ替えるかもしれません・・・
また、感想などでどのように対応したら良いかなどアドバイスいただけると幸いです。

話のテンポが遅いでしょうか?

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