「『デスティニー』!…シンか!!」
それをすぐ近傍で聞くは…かの少女。
「お兄ちゃん…なの」
鬼気迫る勢いで応酬を続けるシンとアスラン。それを彼女は怯えながら見とめる。二人が戦う。そんなことが…
アスランは追手の姿を望遠カメラで捉える。捉えることができる、ということは───、既にかの機体は、こちらに寸前まで迫っているということ。
「追いつかれる…!」
スラスターの出力も、エンジンの性能も。全てがアスランの乗る『グフ』とは文字通りの桁違いだ。『グフ』も精一杯頑張ってはくれているが…間違いなく防衛ラインを超える前に追いつかれてしまう。
「こんなところで…君を死なせてたまるか!」
「アスランさん…!」
しかし。現実は非常である。アスランの気持ちが幾ら強かろうと。機体性能というものは…そう易々と覆せるものではない。あっさりと追いつかれてしまえば、背後から一方的に撃たれかねない。
「迎え撃つ!」
『グフ』を反転させる。コックピット内では、時計回りに強烈なGがかかる。アスランはシートベルトをしているが、マユはどうだろうか。一応ヘルメットをしているが…しかし、気にかけている余裕も猶予もありはしない。
ビームソード『テンペスト』を思いっきり引き抜いた。これより先は、生きるか死ぬかの戦場。
『デスティニー』が、一発牽制も兼ねた高エネルギービームライフルを連発する。アスランはそれをひらりと回避せしめるが、それもシンの想定通り。
ビームにより海水が一瞬で爆発したように蒸発し、一瞬で冷却されて周囲を真っ白に染め上げる。
「ぐぅうう!!!」
「うわぁああ!!!」
いうなれば大瀑布の傍に立つようなもの。一瞬で視界は染まり奪われ、四肢の事由はそぎ落とされる。
僅かな硬直。その隙に───『デスティニー』は一刻の時を以て接近した。
『デスティニー』の携える大剣───ビームソード『アロンダイト』。『インパルス』のエクスカリバーや『グフ』のテンペストの発展型である、超大型ビームソードである。
『エクスカリバー』の威力を更に向上させるべく、レーザーソードからビームソードへと進化を遂げた正しくシンの為の剣。
それをアスランは何とか左腕の巨大なシールドでしのぐが、しのぐのみで精一杯であり、反撃に転じることができない。
「なんで…なんでなんだよ!」
「シン!!…行かせてくれ!!!」
「なんで…俺の…俺から……うぉおおおお!!」
『グフ』のシールドは対ビーム装甲を搭載している。その為ビーム兵器である『アロンダイト』には理論上強い。それをアスランは把握している。
アスランの翳す盾…教科書通りの完璧な角度で大剣を受け止めているはずだ。しかし…完璧に受けたはずの攻撃でさえ、『デスティニー』の一撃は物ともせずに襲い掛かる。
「シールドが…!」
「はぁぁああああ!!」
『グフ』の肉体に、理屈なんてものを遥かに超越した衝撃がかかる。シンの剣はアスランの盾に、大木を切断するチェンソーのように徐々に切り込みを入れていく。じわりじわりと溶けていく盾を後目に、このままでは左腕ごと持っていかれると予感したアスランは、力を受け流すように左腕を払いのけつつ盾をパージした。力学的な釣りあいが一瞬とれなくなった『デスティニー』はバランスを崩してしまう。その隙を見て、アスランはビームガンでスラスターへの射撃を試みる。
しかし、『デスティニー』の推進力はアスランの想像の遥か上を行く。
「速い!」
一度つんのめったようにバランスを崩したように見えた『デスティニー』だったが、一瞬で体軸を百八十度回転させビームシールドで完璧に防ぐ。更にそのまま距離を詰め、左手で『グフ』の左腕を掴む。
直後に閃光。左腕の大爆発。肘より下が弾け飛び跡形もなく消滅する。 掌部ビーム砲『パルマフィオキーナ』。カタログスペックでの威力は戦艦をも一撃で撃沈し得る程だ。ビーム砲やビームソードとして運用できるなど用途は幅広い武装であり、何よりも特筆すべきは…密着状態で発砲する零距離攻撃に他ならない。
アスランは未だ嘗て経験したことのない武装に対応しきれない。目まぐるしく多彩な武装を次々と使いまわしていく『デスティニー』の曲芸染みた戦法は、『インパルス』のすべてのシルエットを一つに集約させたようだ。まさに、究極の全にして一。
何よりも特筆すべきなのは…シンの対応力だ。初出撃にしてこの完成度。ここまで瞬時に新たな機体に対応し、そのスペックを十全に発揮するシンの技量に、舌を巻かざるを得ない。
「シン!聞け!!」
「何を!!」
『デスティニー』は、肩部に備えてあるビームブーメランを二つ投擲。不規則な軌道を描きながら、右前方と左後方から全くの同時に敵を穿つ。それらを一つは『テンペスト』で叩き落すも、左腕と盾を失った今の『グフ』では…一つは確実に被弾するのは道理。
「ちぃ…!」
左脚が膝上から完全に分断される。もう少し胸部に近ければ、コックピットごと真っ二つであったろう。
それをシンが敢えて避けたということは、それがシンからのメッセージ。彼も殺す気はないということの証左であった。故にアスランは…そこに一筋の対話の可能性を見つける。
「確かに議長の言うことは…正しく、心地よく聞こえるかもしれない!…だが!」
「もうわかっただろ!アンタでもその機体じゃ『デスティニー』には勝てない!降伏しろ!わかったらさっさと帰ってこい!」
「だが!彼の言葉は…やがて世界の全てを殺す!!それは…お前やマユの未来もだ!!」
「マユ…!!!」
なぜアスランがその名前を口にするのか。そして、彼に何の関係があるというのか。そんな思考が頭をぐるぐると回る。
俺が守るんだ。マユを…!
守り切れなかった…今までの尊い命の分まで…!!
『シン…ステラ、守る…』
「……俺だって!!俺が…!!」
『本当に大切で、本当に大事な物があるなら!
俺なんかに頼らず…自分で考えて、自分の力で守り抜くんだ!』
かつてアスランに言われた言葉がフィードバックする。あれは効いた。頬の痛みもまだ残っている気がする。そうだ。これは、俺が…俺自身が覚悟し誓ったこと。
議長は言った。ロゴスを倒し世界から戦争をなくしてみせると。
その為に俺の力が必要だと。
全ての敵と戦い。世界を正す。そして…今度こそ全てからマユを…みんなを守ってみせる。そう誓ったのに。
それなのに。なぜアスランは…俺を信じてくれないのか。
「いつもいつも…何を言ってるのか!全然…!」
『デスティニー』が背部の赤色に彩られた両翼を、全力で展開する。その一枚一枚からは、妖艶な赤紫色の光が噴出する。『ヴォワチュール・リュミエール』。かつて星間飛行を可能とまで言わしめた惑星間航行システムを流用した、現代最高の推進力。
これにより一瞬よりも短い時間にて、『グフ』との距離を殺すことが可能。
速度という概念を究極にまで圧縮した概念。さながら、小宇宙の如きエネルギー。
「わからないんだよ!アンタは!!」
「っ───!!!」
爆発する宇宙の如き速さで近づく様はアスランにとっては瞬間移動に等しい。眼で追い、反応することは出来ても機体が一切動いてくれない。そのまま残った右上下肢の全てを切り落とされるかに思えたのだが───!
「俺は…俺は今度こそ絶対に!!」
そうだ。今度こそ…何もかもを……救ってみせる!!!
「お兄ちゃん!!」
『アロンダイト』が『グフ』の右腕の直上で停止する。停止せざるを得ない。
彼女に…刃を向けることは出来ない。
「マユ…!なんで…!」
☆
たとえどれだけ時間が経とうとも。聞き間違えることは決してない。
音で判断しているのではないのだ。魂が…彼女だと叫んでいるのだ。
妹の声。その叫び声。ずっと頭にこびりついて離れない少女の音。
「マユ…そこにいるのか…?」
少年は、努めて声を震えさせないように気を遣いながら慎重に言葉を選んだ。
「いる!いるよ!!」
なぜ。彼女は今、病院のベッドで眠っているはずだ。だって大変な怪我をして、ずっと眠ったままで…
だから、こんなところにはいちゃいけないはずなんだ。
「怪我は…!」
「もう大丈夫!……でもないけど!」
「なんで…そんなところに!」
どうして。せっかく再会できたじゃないか。戦争が終わって、マユが元気になったら…今度こそプラントで一緒に過ごせると───
まさか、人質にとったのか?いや、アスランはそんなことをする奴じゃない。それに人質にするならもっと適した人間がいる。自分で歩けて走れる方が人質としては余程都合がいいはずなのだ。
「私もわかんない!!」
「行くな!マユ!俺と───!」
一緒にいて欲しい。離れないでほしい。俺を置いていかないで───!
「私!アスランさんとオーブに帰る!!」
少女は全てを遮る。雷鳴の如き剣幕で、少年に言葉を突きつけた。
「そん…な…」
けれど。…いや。だってそうか。俺は酷い兄貴だ。
少年は独り身体と心を震わせる。指先は凍ったように感覚がなく、頭は吐きそうなほど痛い。意識は朦朧としている。肺は酸素をうまく取り込めず、心臓が張り裂けそうな程に鼓動を強める。
それに対して、少女は少年の声を待たない。語りあう為ではなく、ただ誓うために。
世界に叩きつけるために高らかに、朗らかに宣言する。
「私会いに行くから!待ってるから!絶対諦めないから!だから!!」
だって、俺が……俺が…
「私を諦めたら!今度こそ絶対に許さない!!」
俺が見捨てたから…!!!
「援軍か!!…くそっ!!」
遥か遠くからは七機の『グフ』が、ビームガンで弾幕を張ってくる。それを回避するため一切の躊躇なく、『グフ』は海中へ飛び込み身を隠す。水中ではビーム兵器はロクに役立たない。
背後の『グフ』隊が、海中への実弾射撃を何度も繰り返す。しかし照準を定めていない弾丸では真っ暗な海中の機体を討つことは到底できない。命中した様子はないままに、ゆっくりと辺りの海が静かになる。
俺はというと。なんでアスランが逃げ出したのか。なんでマユが一緒なのかとか。そんなことばかり頭の中でぐるぐる回って。脚に力が入らない。上下の感覚も掴めない。
「マユ……」
生き残った君を見捨てたのは…俺。…君に怪我をさせたのも…俺だ。
だからマユは……俺のもとから去っていく。みんな…俺の傍から…
俺は…それから全く動くことができなかった。
『デスティニー』は宙釣りになった操り人形のように、力なく虚ろに佇むのみ。
雨は降り続く。彼の心の中にいつまでも続く。
☆
ジブラルタル基地総指令室。デュランダルのデスク周囲には多くの白服、黒服の高官たちが詰めかけ、指示を仰いでいる。
「報告いたします!『グフ』の捕獲に失敗。そのまま逃亡を許した模様です!」
「現在周辺の海域を捜索中ですが…発見は困難かと推測されます」
「そうか…ありがとう。事の次第を簡単に文章にまとめてくれ。連合側があれこれ聞いてくるだろうからな。事の次第の説明文と、現場海域には近づかないようにとの声明を」
ジブラルタル基地には現在ザフト軍隊を大量に配備していた。また、デュランダルは『ザフト・対ロゴス連合艦隊』を設立。ジブラルタル基地を拠点都市、地球連合軍もそれに加わる形で既に多くの艦が寄港している。
『反ロゴス』という目的を一致させた文字通りの二国連合を結成しつつある直前というこの状況で、基地内で警報を大々的にならしてしまったのだ。
まだ連合側の招き入れが完了する前段階だが、ことの次第の説明責任を問われかねないと考えたデュランダルは、痛い腹をつつかれる前に先んじて情報を開示しようという魂胆なのだろう。
デュランダルに命令された者から、次々と持ち場へとついて仕事に取り掛かる。最後に残された人物と言えばグラディスのみであった。
これは好都合と、グラディスは努めて小声でデュランダルに問いかける。
「議長…貴方は知っていたんですか?『グフ』に…彼女も乗っていたと」
その眼をしっかりと見据える。デュランダルの表情は一見すると温厚でかつ情熱的に見える。しかし…その琥珀色の瞳に含意される情念は、他人には一切読み取ることができない。それがたとえ、グラディスであったとしてもだ。
「……いいや。私も当然知らなかったよ。知っていたらシンに追いかけさせることはなかったかもしれない。そうだね…シンとも話をしなければならない。とても辛かっただろうからね……」
デュランダルは顔を伏せて申し訳なさそうな声色で後悔の念を告げていた。
「艦長。君にも迷惑をかけてしまったね。後で必ず時間は作るので、君も少し休み給え」
グラディスは敬礼と共にその場を去る。今の彼女にできることは、シンと話をするくらいであろう。
☆
明朝。ジブラルタル基地、最高評議会議長の専用執務室にシンは呼ばれていた。呼んだのは勿論、議長のデュランダルである。
「シン。昨日はすまなかったね…」
「いえ。俺は…」
「まさか君の妹まで乗っているとは……大丈夫かい?」
「大丈夫です。…でもアスランはなんで逃げたりなんか…」
シンにはさっぱりと理解ができなかった。アスランが脱走した理由も、マユを連れて行った理由も。突拍子もないことをするのは得意なくせに、人に説明するのは苦手な人だといつも思う。
「アスランの行先は…わかるかい?」
「……」
間違いなくオーブだ。だけど…それをデュランダルに言ってしまうのはなぜだか憚られた。どうせ、デュランダルも見当はついているであろうが、それでも何となく言えなかった。
「…いいえ。俺は何も聞いていません」
「そうか。それは仕方がない」
「だが、彼らのことを気にしてばかりもいられないのが現実だ。これから『オペレーション・ラグナロク』が開始される」
「ラグナロク…」
「『ヘブンズベース』…ロゴスとブルーコスモスが潜伏している基地の名だ。その攻略作戦のコードネームだよ。大層な名前だがね…」
昔…本で読んだことがある。北欧神話における終末の日のことだ。
ラグナロクは、神々と巨人族が戦いを繰り広げた末の最後の戦い。自身の破滅を知りながらも、その運命と戦い、死んでいく神々。そして、戦いの末に世界は一度崩壊するも、新たな世界が誕生する。その新世界では人類は再度の繫栄を遂げ、豊かで平和な世界が築かれていく。
「ラグナロクは…破壊と再生。そして運命に立ち向かう勇気の物語だ。そして…争いは悲劇を生むことも教えてくれる。我々の最後の戦いに相応しいと思わないかい?」
どうだろうか。仰々しいとも思ったし、丁度いいとも思った。正直に言って今はほかの事で頭がいっぱいだった。正直どうでもよかったのでなんとなくで聞き流した。
「ザフト・対ロゴス連合艦隊が集結し次第、すぐにでも開始される予定だ。疲れているとは思うが…シンには戦ってもらうことになる。妹さんは…」
デュランダルに、マユのことを気遣われる。ありがたさと同時に、申し訳なさが生じて遮るように言葉をかぶせた。
「大丈夫です。アスランも一緒なら、たぶん」
「信頼しているんだね」
「……実力だけは」
マユはオーブに住んでいたのだろう。そこでアスランと知り合っていたのかもしれない。そうか。それなら、アークエンジェルに乗っていた理由にも説明がつく。
だったらなぜ、あの子を『ストライク』になんか乗せたのだ。戦わせなんてしたんだ。なんでそんなことを…
なんで。どうして。だって…もしそうじゃなかったら、俺と戦うことなんて───!
「シン。聞いているかい?」
「え!あ…はい!」
全く聞いていなかったが、反射で返答した。
「とにかく。今はしっかりと休んで戦いに備えてくれ。君の力を期待しているよ。」
デュランダルに思考を遮られたおかげなのか。いやな考えはどこかに吹き飛んでいった。
☆
『侵入クリアランスサン.イチ.イチ。係留チームスタンバイ。放射線管理チームはAパドックに待機せよ』
オーブ連合首長国軍、オノゴロ島基地。
マリュー・ラミアス艦長が最前に立ち、アークエンジェルクルーが敬礼にて敬意を表す。
「アークエンジェルただいまをもって帰還いたしました。受け入れありがとうございます、カガリ代表」
「みんな…よく帰ってきてくれた…!」
代表へと返り咲いたカガリが、アークエンジェル一同を迎え入れる。クルーたちは、長旅から解放されて、ようやく一息つけることに自然と笑みを浮かべている。
アマギを始めとしたアークエンジェルに乗っていたオーブ軍正規兵も、長すぎた旅路が一段落した安堵を実感しつつも、カガリによる政権が始まったことによる喜びと昂ぶりが両立しているようで。情緒が不安定になっているのか…涙を流している者もいた。
そんな中一人、毅然とした態度を貫くのがアマギ一尉。
「ラミアス艦長を始めとした、全てのアークエンジェルクルーの方々の尽力あってこそです。これからは…我々の出番です。国のために使命を全うする所存であります」
「獅子奮迅の活躍を期待している。…キラも…よく無事に戻った…!」
カガリが泣きながらキラに抱き着いている。キラは反応しきれず、その痩躯をよろめかせるが、男の意地というやつで、なんとか倒れないように踏ん張った。
マリューがそれをほほえましそうに見つめながら会話に入ってくる。
「キラ君。また助けられてしまったわね…本当にお疲れ様」
「僕の方こそ…また彼女に助けてもらいました。それで…マユのことなんですが」
「何かわかったのか!?」
「マリューさんには連絡したと思いますが。数日前にアスランから連絡が。ザフト軍のジブラルタル基地で治療を受けて、もうすぐ目を覚ますんじゃないかって」
「そ…それはよかった!!!アイツ、最近私には全然連絡をよこさないから!」
「暗号化された通信だしね。カガリじゃ読めないでしょ?」
そりゃあまあ、そうなんだけど…と。何やら不満げな金髪の彼女は一旦置いておき。
「にしても…良かったじゃないの。命あっての物種ということで」
「さっきから気になっていたんだが…この人は…?」
「…ネオ・ロアノーク…元大佐だ。訳ありで今はただの根無し草。この艦のクルー達には世話になったんでね。まあ成り行きさ」
「ネ…ネオ??」
「その話はまた今度にして…とにかく。これからのことを考えないとね」
「そ、そうだな。…デュランダル議長がザフト・対ロゴス連合艦隊を結成。本格的に地球連合軍は分裂してしまった…そして遂に、ブルーコスモスの拠点であるヘブンズベース攻略戦を開始する。ロゴスを潰すつもりなんだろう」
ザフト軍は、遂に地球連合軍と手を組み、ロゴスを滅ぼす最後の戦いに出た。ということは、連合軍側にもかなりのデュランダル派がいるということ。そして、彼らがブルーコスモス派閥の地球軍を倒してしまえば…いよいよデュランダルの世界統一も近い。
そうなったとき。未だにデュランダルに賛同していない国。その中でも、比較的世界に影響力を持つ国と言えば───。
「…僕は『ファクトリー』へ上がります」
「キラ…!」
「嫌な予感がします。オーブが戦場になるかもしれない。その時に僕ができることは…
もう一度受け取ってきます。ラクスから…剣を!」
「…わかった。シャトルが一つ余ってる。出発まで半日くらいはかかるだろうが…直ぐに上がれるだろう」
「キラ様が不在の間は、我々が身命を賭して国を守ります。どうかお気をつけて」
全員が各々の役割を全うする。全ては国を守るため。
悲しいことに…戦うための準備を進めていく。
☆
「これが『レジェンド』…」
『デスティニー』が保管されているモビルスーツドックの隣には、もう一機の機体が鎮座する。白黒のモノクロームカラーで静かに眠るその機体は、背面には、太陽を彷彿とさせる巨大なドラグーン・プラットフォームを背負っており、プラットフォーム付随のスラスターは、かの機体の大推力を確信させる。
その名は、ZGMF-X666S『レジェンド』。ZGMF-X42S『デスティニー』と同時開発されたザフト軍の最新鋭モビルスーツだ。デュランダルを中心とする開発陣が『デスティニー』と同様に、核エンジンとデュートリオンビーム送電システムのハイブリッド機関である『ハイパーデュートリオンエンジン』を実装し、大出力の発揮を可能とした機体であり、第2次ヤキン・ドゥーエ攻防戦で実戦投入されたZGMF-X13A『プロヴィデンス』の後継発展型に当たる。
全身に搭載されたドラグーンシステムによる全方位同時攻撃を本領とする、中~遠距離射程で戦う射撃型のモビルスーツ。
『デスティニー』、『レジェンド』共にザフト軍の最新技術をふんだんに盛り込まれた、ザフト軍自慢のサードステージ機体である。
「これはレイに乗ってもらうことにした。どうかな?…レイ」
「わかりました」
シンに続き、レイにまで最新鋭の専用機が与えられたことは、プラント本国のミネルバへの期待の裏返しでもある。これになんとか応えたいと思うシンとルナマリアに対して、白金の青年はただ静かに息を吐いて一礼してその場を去った。
「レイ…」
シンは小さくなるその背中を、ただずっと見つめていた。
☆
───二日後。ヘブンズベース攻略作戦『ラグナロク』開始。
旗艦となったミネルバのブリッジには、平生とは異なりデュランダルが直接座っている。
『ファーナス、セントオーガスティン出港。4番埠頭ビジャリカ、9番埠頭イラスは10分後に出港予定。第15起動艦隊C航路をクリアー』
「議長!」
「ああ。わかっているよ…やらねばならん。そのために我々は集ったのだからな」
『モビルスーツ隊全機発進!』
三機一小隊の『バビ』隊が、空母から次々と出撃していく。
「進路クリアー。旗艦BB01。出港よろし」
『旗艦BB01ミネルバより通達。全軍我に従え!』
その音頭と共に、全ての戦艦はゆっくりと前進を始めた。シンは確信する。
戦争をなくす。そのための最後の戦いが始まるのだと。
「まずは通告を送ってくれ。基地内部にいるロード・ジブリール氏他、ロゴスと名を挙げた方々の引き渡しを要求すると…話し合いができればな。それに越したことはないだろう?」
『我らザフト及び地球連合軍はヘブンズベースに対し、以下を要求する。
一、先に公表したロゴスメンバーの即時引き渡し
二、全軍の武装解除、基地施設の放棄』
「要求への回答期限まで…あと五時間」
「勧告はしたが…果たしてどうなるやら」
口ぶりでは悲観するデュランダルだが、彼の表情は全く悲しそうには見えない。
ただ、静かに微笑み続けている。
☆
地球連合軍最高司令部ヘブンズベース。基地全体は第一次防衛体制を敷き、全力で戦闘準備を開始している。
『C18から31ゲートはこれより閉鎖されます。各員最終チェックを急いで───』
『全区画。Fクラスの地下退避を開始する。防衛体制オメガ発令。』
『第七機動軍配置完了』
『ニーベルングへのパワー供給は三十分後に開始予定』
『『デストロイ』全機、発進スタンバイ───』
「投降勧告をして回答を待つか…今、さぞかしデュランダルは気分の良い事でしょうよ」
ロード・ジブリールはヘブンズベース基地内で、革張りのソファに腰を深く据えながら忌々しそうに独り言ちる。
それに反応するのは、その他のロゴスメンバー達だ。
「大丈夫なのか?本当にこれで守り切れるのか?ジブリール…」
「守る?…何を仰っておいでですか。違います。我々は攻めるのですよ。奴らを…」
「今日ここから!我々を討てば戦争は終わり平和な世界になる?…ハッ!そんな甘言に易々と騙される民衆は愚かです。そして民衆は撃った…デュランダルに惑わされ、いたずらに銃を取った。だからこそ、そんな混沌の世界に変えた悪辣デュランダルを我々は罰さねばならない!!」
「本当に取り返しのつかないことになる前に…この世界がヤツとコーディネイターのモノになる前にです!」
「…確かにのう。儂らを討ったところで、ただ奴らが取って代わるだけじゃ。正義の味方や神のような存在がいないことを…儂らはよう知っとる…」
「準備ができ次第始めましょう。議長殿が調子に乗っていられるのもここまでです。格好つけてのこのこと前線まで出てきたことを、奴にたっぷりと後悔させて差し上げましょう!…あの世でね」
ジブリールは悪逆非道の笑みを浮かべる。忌々しい怨敵が勝手に目の前に降りてきてくれたのだ。彼らにとってもこれは絶好の機会である。
「先手必勝ですよ。何事もね…」
☆
ミネルバ。コックピットへ続くエレベータホール。シン、レイ、ルナマリアは出撃の時を今か今かと待ち続ける。
「『インパルス』やっぱりすごいね。私に使いこなせるかな…」
シンがここ最近ずっと沈んでいるのは知っていたが、その原因は教えてはくれなかった。それに加えてレイもいつにもまして口数がなくなってしまった。ここ最近の元ザラ隊は…正直に言えばルナマリアにとって居心地が悪い。戦闘前の緊張感もあり、ついつい口数が多くなる。
「え……うん。大丈夫なんじゃない?」
「……レイは…どう思う?」
「…まあ。大丈夫だろう」
(二人ともアスランがいなくなって…こんなに落ち込むなんて!!)
ルナマリアは、アスランが積み上げてきた信頼に驚愕する。まあ彼女の勘違いなのだが…
「…ロゴスが狂わせたんでしょ。アスランも、皆も。だから…ここで終わらせましょう」
「……そうだな」
少年は顔を向けてはくれない。手を組み、口元を隠してずっと下を向いている。少年のその双眸には何が映っているのか。ルナマリアには…何もわからなかった。
『第八班に通達。ハイパーデュートリオンシステムの最終調整を十五分後に開始します』
シンは無言で立ち上がる。そして、窓ガラス越しに遠目で見える『デスティニー』を見据え、独り誓う。
「俺が…俺が全て終わらせてみせる……!」
その言葉を聞いていた者は…果たして誰であったのか。
ただ一つ言えることは…
直後。ズドンと激しい爆発音と共に、艦内アラートが鳴り響く。大量のミサイルが豪雨の様に降り注ぐ。大気は震撼し、海は割れて、艦は燃えて、人は死ぬ。
兵士は横暴に銃を振りかざし、敵を正義の名の元に討つことを赦される。
「攻撃だ…!!」
戦いだ。戦いだ。戦いが…始まったんだ。
通告への回答期限まで、あと二時間はある。それを前倒して…否。無視して攻撃してきた。
シンは走り出す。『デスティニー』の元へ。誰よりも速く。何よりも強く。
敵を屠り。敵の全てを奪い取り。今度こそ…全てを。
『シン・アスカ。『デスティニー』発進スタンバイ。全システムの機動を確認しました』
オペレーションシステムが起動する。全身の駆動系は賦活化する。二十メートル弱の体躯を、ちっぽけな身体での自在な操縦が可能となる。
メータ―を微調整していく。武装のチェックも無心で済ませる。
まだ二回目の搭乗であるのに、何も考えることなく発進前のルーティンは施行できる。
『ハッチ解放。射出システムのエンゲージを確認しました。カタパルトオンライン。射出推力正常』
フェイズシフトが起動する。翼は燃え上がるように赤々と染まり、体躯は蒼赤に変色する。両頬には一筋の切り込みが走る。
彼の為に造られた、彼だけの力。
『進路クリアー。『デスティニー』発進どうぞ!』
ああ。この場所だ。コクピットの中。ここは落ち着く。不安がない。煩わしいこともない。
『はい。マユでーす。でもごめんさない───』
『シン…ステラ、守る…』
『私!アスランさんとオーブに帰る!!』
頭の中は…いつもいつも誰かの声が反響する。それも…コックピットにいる間だけは心なしか落ち着いてくれる。
「シン・アスカ!『デスティニー』行きます!!」
…その間だけは。辛い事から、眼を背けることが赦された。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
皆さまからいただく感想や評価、イラストなどが本当に筆者のモチベーションにつながっております。
また感想や評価を気軽に書いていただけると嬉しいです。
シンのことを慮ってでもありますが、なによりもメイリンが脱走していない為に撃墜命令は出ていません。あくまで捕獲命令です。(状況に応じて独断での撃墜も許可されていたくらいの)
彼女は趣味で軍の機密情報を盗み見るC.E世界でも有数のやばい人ですからね。
話のテンポが遅いでしょうか?
-
丁度いい
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遅いと思う
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速いと思う