機動戦士ガンダム SEED 運命の繭   作:ドクトリン

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新しき旗

 

 極寒の大地アイスランド。そこに位置するヘブンズベース基地。山々は雪に化粧され、湾岸は凍り付いていないのが不思議なほどに水温は冷たい。

 

 そんな冬の大地にてコズミック・イラ史上、最大規模の戦闘の幕が切って落とされた。

 

「…先手必勝だ。デュランダル!…攻撃開始!」

 

 ジブリールの音頭と共に、全ての砲門が開き、全てのモビルスーツ、モビルアーマーが出撃する。

 

『モビルスーツ、モビルアーマー軍発進せよ!』

 

『第二、第三機動軍発進!オールウエポンズフリー!』

 

『ウインダム』、『ザムザザー』、『ユークリッド』…地球連邦軍が誇る、最新鋭のモビルスーツとモビルアーマーが無数に解き放たれていく。その数がざっと数えても数百はくだらない。

 更に、基地内に設置された全ての砲門が開き、無数のミサイルが豪雨のように投下されていく。

 ザフト・対ロゴス連合軍の水上艦艇たち…ボズゴロフ級、フレーザ級、ダニロフ級、戦艦たち。彼ら巨大な質量を持った巨大船は突然の奇襲に全く反応できずに被弾を許した。その中の一部は既に完全に破壊され、海に漂う莫大なゴミへと変貌を遂げている。

 その中をよく見る必要もなく、人はたくさん死んでいた。炎上で。衝撃で。爆発で。溺水で。失血で。

 死に様博覧会が開催されたのかと勘違いしてしまいそうなほどに、人は多種多様な終焉を迎え、その人生をあっけなく終わらせていた。

 

『生体CPUリンケージ開始。同調率87パーセント。システムオールグリーン。X1『デストロイ』発進スタンバイ』

 

 そして…地中から。山中から。海中から。基地内から。地下格納庫から。合計五体の超巨大モビルスーツ『デストロイ』が解き放たれる。

 序盤にして最終局面だ。破壊の権化が、大海に浮かぶ敵艦を滅ぼす。

 

 

「『デストロイ』出現!合計五機です!!」

 

『デストロイ』の攻撃は、まさに圧倒的の一言だ。高エネルギー砲『アウフプラール・ドライツェーン』による一撃の熱量だけで、水上戦艦を七機、溶鉱炉に漂う鉄の塊へと変容させる。

 それが五体も出現した。彼らは周囲を全く意に返した様子はない。ただまっすぐに進撃するだけだ。それだけで、あらゆる敵艦と敵兵を散歩間隔で踏み潰していく。身体に集る羽虫を払いのける程度の手間で、半径百メートルの敵兵を灰塵に変えていく。

 デュランダルはその光景を毅然とした態度を崩さずに見ていたが、心なしかその声色は平生よりも語気が強く聞こえた。

 

「やむを得んな…我々もただちに…戦闘を開始する!」

 

 デュランダルの号令と共に、二国連合軍に戦いの狼煙が上げられた。

 

『コンディションレッド発令!!『デスティニー』、『レジェンド』、『インパルス』発進!!』

 

 ここから先は一歩も引けぬ殺し合い。互いの正義に則り、主義主張を押しつけ合う───戦争が始まる。

 

 

「あんなものが…五つも!!」

 

 シンはカメラに映るはるか遠くの黒く、昏い巨大な存在を望む。当然思い出すは…ベルリンの悲劇。

 ステラ。強化兵士としての運命から逃れることができなかった少女。シンが守ると誓いながら…その儚い命を散らせた少女。

 彼女の未来と、多くの無辜の民の命を散らせた、忌むべき機体。認められるわけがない。許すわけにはいかない。

 どんな手を用いても…殺すのだ。

 

『デスティニー』が出撃口へと移譲された。そして…出撃許可が下る。

 

『『デスティニー』発進どうぞ!』

 

「シン・アスカ!『デスティニー』行きます!!」

 

 左手に触れるレバーを全力で前に倒す。突然生じる推進力。体軸は慣性で背後に持っていかれそうになるが、気合で乗り越える。

 金属の摩擦音で唸るカタパルト。人間の身長を優に超えて立ち上る火花。爆発的エネルギーを生じるスラスター。

 虎穴より出でる龍。

 一瞬にしてトップスピードに躍り出た赤い翼は敵の全てを刈り取るまでは止まらない。

 

 レイは自身の順番を静かに待つ。左側から大きな震動とスラスターの音がした。シンが出発したのだろう。続けて通信が入る。

 

『続けて『レジェンド』発進スタンバイ』

 

 コックピットの内部は無骨なモニターが整然と配置され、敵味方の配置や地形図、気温・風速など、あらゆる情報を詳細かつ冷静に彼に伝えてくれる。まるで世界の全てが記されているかのような情報量。

 文明は発達し、科学は自然現象を解明し、ヒトは人間の構造にまで手を伸ばした。ともすれば、この種に解明できていないことは存在しないのかもしれない。

 しかし、白金の青年は何もわからない。わからないことだらけだ。

 少年のことも。義父のことも。…少女のことも。

 

「ラウなら…」

 

 彼ならば分かるのだろうか。彼はいつも世界について教えてくれた。笑顔と冗談混じりで、色々なことを教えてくれた。

 

『何も知らないということは…幸せでもあり。そして、とても不幸なことでもあるんだ』

 

『ラウ…僕には難しすぎてわからないよ』

 

 彼は微笑みながら、優しく頭を撫でてくれた。

 幼かった俺からすれば彼は何でも知っているように見えた。そんな彼も死んだ。もがき苦しみながら。彼は…満足だったのだろうか?

 だとすれば───。

 

『ラウは…もういないの?』

 

『そうだね…でも、君も…ラウだ…』

 

『レイさん…いい名前だね』

 

「だとすれば…俺は」

 

 ゆっくりとアームに釣られた機体は、カタパルトデッキに輸送されている。再度の衝撃。足部とカタパルトが正常に接続したことがモニターに表記される。

 

『『レジェンド』発進どうぞ』

 

「レイ・ザ・バレル…『レジェンド』発進する」

 

 機体は一気に加速する。背部のラグーン・プラットフォームが火を噴き巨大出力を可能にする。重力を振り切り天空へと飛び立った。

 

 レイは独り、孤独に自嘲する。

 

「クローンである俺が…『レジェンド』とはな」

 

 自分の名すら曖昧な者が『伝説』の名を冠した機体を駆る。なんという皮肉な事か。

 

 果たして…こんな出来損ないの自分に、一体何ができるというのだろう。

 

『コアスプレンダー』が、中央カタパルトへ移譲され、ぐおんぐおんと音を鳴らしながら発着場へと昇っていく。

 意外と揺れるし、意外と暗かったのだなとルナマリアは今更に知ることになった。それはさておき、

 

「なんなのよ!一体…」

 

 シンがずっとふさぎ込んでいるのは知っていた。何とか話しかけてはいたが、つい最近なんて全く基地内で見かけず、どこにいるのか全く分からなかった。

 アスランが消えてから…今度はレイまで様子がおかしくなっちゃって。もう訳が分からない。

 

「アスラン…貴方のせいですからね!」

 

 そもそも、未だに彼女らは『元ザラ隊』。新たに名をつけなければならぬのに、全く話し合いの雰囲気にならなかった。

 

「そうだ…!もう勝手にホーク隊に改名すればいいんだ」

 

 この戦いを無事に終えることが出来たら…彼らをとっ捕まえて勝手にそう進言しよう。彼らも自分の名前を付けたがる性格ではない。さっさとアスランのことを忘れさせてやらねばという、ルナマリアなりの気遣いなのだが…少し的外れになってしまっている。

 

『『コアスプレンダー』発進どうぞ!』

 

「ルナマリア・ホーク!『コアスプレンダー』行くわよ!」

 

 まずはここを生き残る。そして、勝手に落ち込んでるアイツらをさっさと元気にしなければ。その気持ちを勇気に変えて、ルナマリアは恐ろしい戦場へ飛び込む。

 

 

 

「ふふふ…ははは!!糾弾もよい。理想もよい!…だが…全ては勝たねば意味がない!───古より、全ては勝者のモノだと相場は決まっているのですからね…」

 

『デストロイ』の蹂躙をその目に焼き付け、ご満悦なのはロード・ジブリールその人。彼は愉悦で口角を上げ、ただただその破壊を満足そうに見つめている。しかし、ザフト軍に援軍が。

 

 大気圏外に鎮座するはザフト軍降下カプセル輸送艦。

 

『オペレーション776発動。降下揚陸隊は直ちに発信を開始せよ』

 

 それは、衛星軌道上からモビルスーツを大量かつ迅速に降下揚陸させるために建造された宇宙輸送艦艇だ。扁平な形状をした艦体下面にモビルスーツを4機ずつ収納可能な三角錐型の降下カプセルを11基懸架し、最大44機ものモビルスーツを地表に向け一挙に投下することができる。

 

 降下カプセルが11基、一斉にパージされる。それらは流星群のように大気圏内に吸い込まれ、瞬く間に交戦域にモビルスーツを投下する。

 

「直情にザフト軍降下ポット多数検出!ルートフタロクからサンロクに展開!ポットより、合計44の『ザク』が降下されました!」

 

 降下予測ポイントは、中心となる交戦域と挟撃にできる位置。タイミング、速度、位置。どれをとっても完璧な奇襲である。

 

 しかし、ジブリールは全く動揺するそぶりは見せない。まるで予想通りかと言いたげに、とっておきのおもちゃを使える子供のような気軽さで死の宣告を告げる。

 

「『ニ―ベルング』発射用意!」

 

『了解。現時点をもって、ニーベルングの安全装置を解除する。退避命令を発令せよ』

 

『ニーベルング』。ヘブンズベースに搭載されている対空掃討砲の名である。普段はシャッターによって雪山に偽装されているその門の封印が遂に解かれた。

 

『偽装シャッター開放。照射角二〇から三二。ニーベルング発射準備完了』

 

「発射!」

 

 その正体は巨大な広角レーザー発生装置だ。長い円筒状のアンテナの側面にはレーザー発射パネルが所せましと並べられており、それら全てが一斉に輝き出し、細い線状レーザーを周囲にまき散らす。

 砲そのものも独特と言って差し支えないが、最も特徴的なのは砲周囲の構造物だ。

 砲周囲には直径10kmにおよぶパラボラ状のミラーブロックが併設されている。中心部のアンテナから周囲のミラーに向けてレーザーを照射すると、乱反射が生じ、威力が増幅されていく。やがてそれらは一本の束となり、波長を揃えていく。最終的に全てのレーザーが上方に向けられて一斉発射。半径十キロメートルの超巨大なレーザーとして、遥か遠い天空を穿つことが可能となる。

 44機降下された『ザク』は、その一発だけで全てが地上から遥か上空で撃墜された。余りにも絶大な威力。圧倒的な破壊力。貫通力。

『ザク』は溶解した。『バビ』は爆発した。『ディン』は余波で墜落した。そして当然搭乗している人間は蒸発した。一瞬のことだ。

 曇天には、ちらほらと瞬く星々のような淡い光が。全て命が散った光だ。

 

 この広角レーザー装置をニーベルングと名付けた者は実にセンスがいい。周囲のレーザー波長調整装置が、あたかも指環に見えたことから、連邦軍は神を守護する指輪になぞらえた。それを手にした者は…限りない力を手にすると謳われた、伝承にある龍殺しの勇者が手にした指環の名だ。

 

 しかしその一方で。かの指輪には死の呪いもかけられているのだ。それを知らないなどと、決して言わせるわけにはいかない。

 

「何なんだよ…これは…!」

 

 シンは怒りに震える。不思議と恐怖はない。ただ、目の前で散っていく命の叫び声。怨嗟の声が…聞こえる気がする。

 

 幻聴ではない。幻覚ではない。感じるのだ。心に…痛いほどに。

 

「もう…好きになんかさせるか!!」

 

 まずは近場の…『デストロイ』から落とす!

 一直線で巨体に侵攻する。しかし周囲を固めるのは『ウインダム』隊。スリーマンセルで動く彼らの連携機動は凄まじい。一機目が牽制射撃、回避先を読んで二機目が射撃を盾で受けさせ、残る一機で空いた胴体を両断する。これを徹底し確実に敵を一機ずつ沈めている。

 更に、今回に限っては…彼らは防御に徹していた。『デストロイ』さえ守り切れば、巨大なモビルスーツは勝手に世界を蹂躙して回るのだ。大将機の護衛に徹するだけでよいという考えなのだろう。

 それ故に彼らの突破は困難に思えた。

 しかし、シンと『デスティニー』にそのような常識は通用しない。

 高エネルギービーム砲を『ウインダム』に回避の隙を許さぬ速度でロックオンし、その盾ごと胴体を貫通する。直後、爆発に隠れてビームブーメランを二つ時間差で投擲する。左右の投擲物に目が寄せられた一機を、ビームライフルで貫く。その爆発に乗じて残りの一機は、ブーメランが返ってくる位置をコントロールすることで背後から撃墜。的確な処理をしていく。

 数刻で一個小隊を撃破した。それに鋭敏に反応したのか。更に『ウインダム』小隊が二つ接近する。それらを、『デスティニー』のありとあらゆる武装を駆使し、瞬く間に包囲網を突破していく。

 

『ウインダム』など、今のシンの敵にはなりえない。二個小隊の攻撃もあっさりと跳ね除け、『デストロイ』に迫る。

 

 

「邪魔だ…」

 

『レジェンド』は、初めて乗る機体とは思えぬほどにしっくりと動いた。

 形状と性能から判断するに間違いなく『プロヴィデンス』の後継機。ともすれば…彼の戦闘データがどこかに残っていたのかもしれない。

 

『ウインダム』部隊が襲撃する。その連携は、三方向による全方位からの狙い撃ち。通常の敵ならばそれで十二分に破壊できたであろうが…

 

「ハァ!」

 

『レジェンド』が背負うドラグーンプラットフォームを全て展開、その砲門が開かれる。その数はなんと三十四。対する『ウインダム』の掲げるビームライフルの砲門は僅か三つ。答えは歴然だ。同時全方位に照射されたビームは、瞬く間に『ウインダム』を蜂の巣へと変える。

 

『レジェンド』は敵を殲滅し続ける。核動力によって半永久的に稼働する莫大なエネルギーを最大限に活用し、距離が空いていれば弾幕を張り、包囲されれば爆発のような全方位射撃を行う。これを繰り返すだけで、敵の数はみるみると減少していく。

 

 モビルスーツ大きさで移動する戦艦のようなものだ。移動と蹂躙を重ねて、敵の屍を積み上げる。

 一撃の威力は『デスティニー』に劣るかもしれないが、殲滅力においてこの機体に拮抗するモビルスーツは、『デストロイ』くらいのものなのかもしれない。

 

 レイは遠くで敵を次々と破壊する『デスティニー』を見つめる。

 シンは怒っている。苦しんでいる。泣いている。あんなに純粋な少年が、悲しい感情だけを表出させて戦っている。

 シンの怒りと悲しみを…彼も肌で感じていた。

 シンに任せ切りでは…また彼一人に業を背負わせ、彼を一人ぼっちにしてしまうような気がした。

 

「俺も…やるか」

 

 白金の青年は静かな闘志を顕にする。見据えるは黒きモビルスーツ。

 大きすぎて最早壁に見まごう超巨大な存在を拝む。彼はその塊に向かって発進した。

 

 

「『デストロイ』…!」

 

 漸く、その移動要塞に接近することができた。かの機体が『デスティニー』に一斉放火を行う。

 胸部大口径ビーム砲、背部長射程大出力ビーム砲、フライトユニット内蔵型ビーム砲…

 備え付けられている全武装を『デスティニー』へと集約させる。それをシンは、勘と経験、それにセンスを加えた巧みな操縦により回避、防御を繰り返す。しかし、『デスティニー』一機を狙った攻撃の余波だけで味方モビルスーツが十機程撃墜されていく。

 

「コイツ…クソッ…!」

 

 覚えている。忘れるわけがない。『デストロイ』は通常の兵士には運用不可能。唯一乗りこなせるのは、連合の強化兵士のみ。

 

『君は死なない…俺が守るから!!』

 

 忘れられるわけがない。彼女の笑顔を。死に様を。

 

「何が…守るだ…!」

 

『シン…ステラ、守る…』

 

 忘れられるわけがない。心に深く、深く…刻み込まれている。彼女の生き様は。

 

「何が…!!俺は…!!!」

 

 一生悔やみ続けるだろう。無力な自分を。何も守れなかった自分を。

 

「お前たちは…お前たちも…!」

 

 遺伝子調整を忌み嫌う連合とブルーコスモス。彼らが薬やその他様々な手段を使って作り上げている生きた兵器。一定期間内に、何か特殊な処置を施さねば身体機能を維持できない───戦うためだけに作られた人間。

 ブルーコスモスが産み落とした真の闇。

 

 彼らには罪はないのかもしれない。しかし、このような存在を許していいわけがない。見過ごしていい道理などない。

 彼らをここで…開放することこそが、せめてもの救いのはず。

 

 そう。救済だ!俺が…彼女と彼らを救うのだ!!

 

「ぉぉおおおおおお!!!」

 

 ───瞬間。頭の中で何かが弾け飛ぶ。思考は一気に開け、視界はクリアーになった。

 

 精神を自在にコントロールできる錯覚。全身のあらゆる筋収縮を完全に掌握した直感。感覚を極限にまで研ぎ澄ました自覚。

 この世の全てを理解できる確信。

 ぐちゃぐちゃした、乱雑に置かれた物が一斉に取り払われたような開放感。細々とした無駄な思考は極限までに削ぎ落とされ、残る思考はただ敵を殺すことにのみ特化する。

 今ならば…敵の全てを見逃すことはない。

 

『デストロイ』の効率の良い壊し方。あのフライトユニットは確かに厄介だが、それを追いかけまわしても埒が明かない。その上その隙に本体に狙い撃ちされる。ならば…一撃で本体を切り伏せるのが、最も効率が良い殺し方だろう。

 それを言語ではなく直感と感性で判断───否、判断に先んじて身体が最適な動きを出力する。

 

『デストロイ』が唸る。指先の全砲門からビームが放たれる。光線は一瞬よりも素早くこちらへ届くが、その数は当然十門。指の角度からその間隙を予測し、モビルスーツ一個半程の空間に体躯を滑り込ませる。

 背部フライトユニットヴォワチュール・リュミエール最大展開する。光子ロケットの推力を用いて、瞬き一つの間にデストロイの懐に入り込む。

『デストロイ』は即座に対応し、フライトユニット内蔵型ビーム砲門の二十の照準を合わせようとする。しかし全く合わない。

 それも当然。この背部ウイングには、推進力を担保する他に、もう一つの機能が搭載されているからだ。  

 その名は『ミラージュコロイド』。可視光線や赤外線をはじめとする電磁波を偏向させる効果を持つ特殊粒子。最も特筆すべきはそれの持つステルス機能。

『ミラージュコロイド・ステルス』と呼ばれる光線屈曲技術を応用することで、空間に散布したミラージュコロイドへ自機の映像を投影し残像を映し出す。この立体映像技術は敵レーダーに複数の機体が出現したように誤認させ、正確な照準を決して許さない。

 

 『デスティニー』の真骨頂は、多彩は武装による近・中・遠距離全ての射程にて圧倒可能な戦闘力と、莫大な推力による機動力だけではない。ステルスといった防御機能も十分に兼ね備えた、正しく真の万能機。

 そしてそれを十全に使いこなすのは…『インパルス』の実戦経験によって極限までに判断力と応用力が高められた究極の戦士。

『デストロイ』は全く照準が合わず、いくつか自身の体躯に誤射させながら『デスティニー』の侵入を許す。

 

『デスティニー』が自身の担ぐ大剣『アロンダイト』を掲げる。

 

「こんなことをする…こんなことをする奴ら…!!ロゴス!!」

 

 ステラ。君を殺した世界を…俺が終わらせる。

 

 ───マユ。お前が笑って暮らすことができる世界を!!!

 

「許すもんかぁあああああ!!!」

 

 続けて一閃。『デストロイ』の左肩口から、コックピットごと袈裟斬りで一刀両断に切り捨てる。

 大爆発と共に、浮かんでいた巨躯が地上へと沈んでいく。そのまま膝から崩れ落ち、倒壊し、爆発する。

 シンはそれを一切見届けず、背を向けて次の標的へと飛翔する。

 

 ミネルバブリッジ内は、シンの戦いぶり歓声が上がる。何といっても、単騎であの『デストロイ』を破壊したのだ。その雄姿を見て、多くの兵士に戦う勇気が湧き出てくる。

 

「すごい…!すごいですよ、シンは!!」

 

 アーサーがガッツポーズをしてシンを讃えるのとは対照的に、グラディスはその鬼神の如き戦いぶりに恐怖が優ってしまい身震いをする。

 

「彼もよく頑張ってくれている!この隙に体勢を立て直すのだ!!」

 

 彼らの反応を知ってか知らずか。デュランダルは味方兵を鼓舞する。

 彼は満足そうに口角を上げてシンの戦いを眺めていた。

 

 

「第二防衛ライン突破されました!」「敵モビルスーツ湾内に侵攻!」

 

「ええい!なんだあのモビルスーツは!?『デストロイ』を回せ!攻撃を集中しろ!」

 

「『デストロイ』2号機撃墜されました!」

 

 2号機が、敵の灰色のモビルスーツにより蜂の巣にされる。

 

「4号機、撃墜されました!」

 

 4号機は、赤翼の持つ大剣に兜割りされ、左右に真っ二つに両断され爆発する。

 

「3号機撃墜!」

 

 3号機は、『ソードインパルス』と『レジェンド』の連携により破壊される。

 

『デストロイ』が陥落したことで弾幕が薄くなったことで、ザフト軍モビルスーツは次々と基地へと上陸、そして絨毯爆撃を開始する。

 

 ロゴスの面々は、その光景は信じられないようだ。肝入りの『デストロイ』が瞬く間に数を減らしていく。そのような現実は到底認め難い。

 その傍でロード・ジブリールはこっそりと脱出の手筈を整え始める。

 

「1号機…撃破されました!」

 

『デストロイ』1号機は、ヘブンズベースの最終防衛ラインを任されていた機体。全ての兵装を用いて、『デスティニー』に接近を許さないようにする。しかし、シンは最早防御すらしない。全ての兵装を回避し、切り裂き、撃ち落とす。『デストロイ』は四肢を切断され丸裸になる。

 そして守護神は呆気なく、『デスティニー』の大剣によってコックピットを貫かれて沈黙した。 

 いよいよ我慢がならないといったロゴスメンバーは、ジブリールの部屋へと強引に入る。しかし。

 

「ジブリール!どういうことだコレは……ジブリール…?」

 

 ロゴス面々が彼を探すも、既にその場にはいない。

 ヘブンズベース基地シャトル発着場。一台のシャトルは既に発進準備は完了している。その中心にある椅子に腰掛け、ジブリールは何の気なしに命令を下す。

 シャトルはゆっくりと速度を上げ、基地から脱出を図る。

 

「戦闘が終わったか…?白旗を上げたな」

 

 外界の騒音が次々と止んでいく。どうやら残ったロゴス面々は自分の命可愛さに降参をしたらしい。全ての破壊と殺戮が終わろうとしていた。

 

「なんという恥知らずどもめ…」

 

 ジブリールはこめかみを抑えながら嘆く。外界は静かだ。その静寂がジブリールの感情を逆撫でする。

 

「出せ」

 

 シャトルは静かに飛び立つ。戦いの混乱にうまく乗じて、彼は悠々と脱出を行った。

 燃え上がるヘブンズベース。しかし最早それに興味は失せたのか、一切振り返らずに彼は独り言ちた。

 

「今回はこれくらいで手を打とうじゃないかデュランダル。なあに…我々にはまだ『月』がある」

 ジブリールの表情は悔しさもあるが、未だ焦りは見えない。彼の“本命”は月基地に開発させているのだ。シャトルは「ヘブンズベースからどんどんと距離を離していき…そして完全にその姿を隠した。

 

 

 戦いが終わってしまえば。後に残るは嫌な静けさと、死傷者と兵器の残骸が山積みである。

 つい先程までの喧騒が嘘のように、静まり返ったアイスランドの大地には静々と降雪が齎されている。

 シンは事後処理の任からは解かれている。パイロットである彼は、戦後の処理などさせては置けないと言うのが上の判断だ。故に彼は手持ち無沙汰にミネルバの一角でただ独り、ただただ雪で隠れつつある戦場を望む。

 その中に闖入者が一人。

 

「シン。疲れただろう…ゆっくり休め」

 

「レイ…お疲れさま」

 

「そっちはどうだった?」

 

「怪我はない。『レジェンド』の性能が高かったからかな」

 

「はは…それを言うなら俺だって『デスティニー』のお陰だよ…」

 

 二人は雪が降りしきる外界を眺める。まだ一面真っ白ではないが、今晩中にはそうなってもおかしくはない。それまでに少なくとも死傷者だけは全て運ばなければ、雪が全てを覆い隠してしまうだろう。

 

「ジブリールには逃げられたって」

 

「らしいな。他のロゴスのメンバーを見捨てて…」

 

 シンは悔しそうに歯噛みしている。ジブリールを捉えることがこの戦闘の一番の目的だった。それを考えると、ザフト側は試合に勝って勝負に負けたようなもの。

 しかし、見失ったものは彼らにはどうしようもない。諜報部が居場所を探し出すのを、彼らは座して待つしかないのだ。

 会話は途切れる。二人とも疲れていた上に、戦闘の収穫も乏しいとなると気分が落ち込んで当然だ。その静寂を切るのは、意外にもレイである。

 

「シン。───以前話した…俺の生まれの話を覚えているか?」

 

「…覚えてるよ。そういや…あの後全然話す時間取れてなかったな」

 

 ごめんと頭を下げるが、それを手で制すレイ。

 

「謝る必要はない。まあ、大した話でもないんだが…俺はクローンなんだ」

 

「え…?」

 

「クローン人間。文字通り人間の遺伝子をコピーして造られた模造品。それ故かな…生まれつき、テロメアが短いんだ。だから俺の寿命は…残り幾らかはわからない」

 

 シンにとっては衝撃のカミングアウトだった。クローン人間が存在するなんて話がまず信じられない上に、それが最も身近な隣人などとは。

 悪い冗談か何かかとも思ったが、レイはそういうことをする奴じゃないということはシンは痛いほどに知っている。まだ二年程とはいえ密度の濃い時間を共に過ごしてきたからだ。

 シンは何も言うことができない。軽率な言葉は彼を傷つけかねないと思ってしまった。それゆえに、慎重に慎重を期す必要があると思った。それに対し、レイは何の気なしに言葉を重ね続ける。その為自然と二人の口数は差が生まれていく。

 

「以前…訊いたことがあったな。醜い争いを続ける人間は…果たして幸せになる権利があるのかと。シン、お前はどのように答えたか覚えているか?」

 

「俺が…」

 

 俺はなんと回答したのだろう。はっきりと思い出せない。靄がかかったようである。あの時は確か…そうだ。ステラを連合に返した時だ。そのあと、営倉にレイと入れられて…余りにも眠かったのでうつらうつらと答えたのだろう。記憶の引き出しをうまく引くことができない。

 数刻逡巡したのをレイは目ざとく認める。シンの気のせいかもしれないが…彼は微笑んだ気がした。そして優しく言葉を紡ぐ。

 

「…お前の妹にも同じことを尋ねたよ」

 

「マユに…?」

 

 それも…シンにとっては衝撃だった。

 

 時と場所を同じくしてもう一人。そのすぐ近傍の曲がり角で、本当に偶然話を聞いてしまった者がもう一人。

『ホーク隊』への隊名変更申請書を携え、意気揚々と彼らを探し回っていた一人の女性。

 

(クローン!?!?!?妹~~~~!?!?!?)

 

 彼女も強制的に舞台に上げられる。…最早、傍観者ではいられない。

 

 

 

『続いてのニュースです。陥落したヘブンズベースからは多数のロゴス幹部が連行された模様です。現在、連合とプラントは合同で国際法廷を開設し、身柄を拘束したこれら幹部の───』

 

 カガリ・ユラ・アスハはオーブ内閣府執務室にて、国際ニュースのチャンネルをいくつか同時視聴する。どの局もヘブンズベース関連のことを流してくれてはいるのだが、当然ではあるがどれも似たり寄ったりな内容である。

 彼女はニュースを見ながら、誰かと通話しているようであった。

 

「…ヘブンズベースが落ちた」

 

『はい。私もそう伺っております』

 

「私の嫌な考えが当たっているのならば…」

 

『私も丁度同じことを考えておりました。オーブが…』

 

「そうか。だとしたら…この予感はきっと当たってしまうだろうな」

 

『カガリさん…』

 

「大丈夫だ。まだまだ迷って…悩んでいるけれど。私には…頼れる仲間がたくさんいる。勿論、それはお前もな」

 

『ふふ。そう言っていただけると私も嬉しく思います』

 

 二人電話を挟んで笑いあう。お互い十代相応ではない立場を背負った者同士、深いところでわかり合えているのだろう。

 

「キラはもう着いたか?」

 

『いえ。隠密行動ですから…予定では、もう少し時間はかかると伺っております』

 

「早く会えるといいな。あ、でも…なるべく早く降りてきてくれよ」

 

 あまり彼女に心配を駆けたくはなかったため、ちょっとした軽口を投げることにする。

 

『まあ。私がお友達を差し置いて、ふらふら歩き遊ぶ娘だと思っておりますか?』

 

 酷いですわとしくしく泣いている素振りを電話越しにされてしまえば、カガリもタジタジにならざるを得ない。

 

「いや、冗談だよ。冗談…」

 

『ふふふ。わかっております。では…次は直接お会いしましょう』

 

 通話が切れるのを見計らったように、執務室がノックされキサカが連絡を寄こしてきた。

 

「カガリ様…アスラン様とマユ様が…帰還されました!!!」

 

「え……えぇ?」

 

 カガリはここ最近で一番すっとぼけた声を上げてしまった。

 

 

「全く、困ったお人だ。これ以上何をしようというのかね…ともかく、彼を捕まえないことには話にならない。パナマかヴィクトリアか…また面倒な所へ逃げ込まれていないといいが…」

 

 デュランダルは諜報班への命令と、戦後の事後処理を進めていく。特に、生存者の救助を最優先とした。勝者側には勝者なりの苦悩と仕事があるのは当然である。

 執務室内に居た指示を仰ぐ高官は次々と捌けてゆき残るはデュランダル一人となった。

 もう直ぐ夜の帳が降りる。そうなってしまえば、救助者を見つけることが難しくなる。

 今宵は徹夜になるだろうと覚悟して、少し椅子に深く腰掛け一息を吐いて独り天を仰ぐ。

 

「御旗は立った。事は予定通りに進んでいる…これもまあ、よい機会となるだろう」

 

 悲観していては何も始まらない。何事もチャンスに変えてこそ生き残ることができる。

 

「想定外の事態に振り回されることは…いよいよ無くなるのだ」

 

 彼の理想。全てにレールが敷かれ、全てが決まっている世界。安定と安寧のみがある世界。

 その理想の実現の日は、もうすぐそこまで迫っている。

 

「それはそれで少しばかりつまらないと。君はそう言っていたね…」

 

 遥か遠くに居る友人へ言葉を投げかける。決して届かぬことは知っていながら。

 

「美しい光だ…」

 

 デュランダルは、自室で独り曇天を仰いだ。降雪は止んでいるが、雲に隠れて星々の輝きは見えない。

 しかし、戦場で一つの光を見た。それが彼の心の中でしきりに瞬く。

 赤く輝く、彗星の如き光───シン。

 

「アスラン・ザラ。そしてキラ・ヤマト。君達も…シンと同じく戦士として。余計な思考も意思も要らず。ただ戦いのみを享受できていれば…きっと幸せだったろうに…」

 

 神から与えられた才能。与えられた力。与えられた役割。与えらえた運命。

 これに従事して生きる。それがどれほど幸せなことか。

 最後まで彼らに理解して貰えなかったのは…悲しいことではある。

 

 そしてデュランダルは…不運で不幸で不憫な少女へと思いを馳せる。

 

「君は…どう思ったのだろうね…」

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

皆さまからいただく感想や評価、イラストなどが本当に筆者のモチベーションにつながっております。

感想は全て読ませていただいておりますが、全てにご返信できず申し訳ございません。

また感想や評価を気軽に書いていただけると嬉しいです。

最近デスティニーとレジェンドについて調べていますが、カタログスペックが高すぎて若干引いてます。さすがデュランダル肝入りの機体ですね。

あと、ここまで来てようやくロボ作品最大の見せ場の一つである「乗り換えイベント」が描けそうで満足しています。

話のテンポが遅いでしょうか?

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