【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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122:互いの警戒心

 眼前には、切り立った山々が連なるノーデン山脈が見える。

 山の頂上付近には白く積もった雪も見えて。

 南部地方の中でも気温が低い場所なだけあって外は寒そうだった。

 岩壁を避けながら進んで行けば、SQが伝えて来たポイントが見えて来る。

 彼女の話では村があるらしいが……それらしきものは見えない。

 

 比較的、平らな場所に鬱蒼と巨大な木々が生えているだけだ。

 民家や人影すらも見えてこない。

 偽の情報を掴まされたのかと思ったが。

 彼女を見れば怪しい挙動はしていない。

 堂々としながらヴァンの横に立ち、ゆっくりと指を指す。

 

「……そこだ。ゆっくりと降ろせ。あの森林の中で良い」

「はぁ? いや、そんな事をしたら機体が」

「私を信じろ」

「……はぁ」

 

 ヴァンへと指示を出すSQ。

 ミッシェルはその意味不明な指示に苛立ちを覚えていた。

 だが、一時的に協力する事になった手前、逆らう事は出来ない。

 だからこそ、ヴァンはその指示を受け入れて森林の中へと輸送機を下ろしていく。

 

 両翼に付けられた推進ユニットが回転し、下方部にエネルギーが放出されていく。

 ホバー状態から出力を調整しながら下降していく。

 そうして、山の麓にある木々が風でざわざわと揺れる。

 ゆっくり、ゆっくりと降下し――すり抜けていく。

 

「――! ホログラムか」

「そうだ。森林に偽装されてある」

「……おいおい。風に反応してたじゃねぇかよ。どういう事だ?」

 

 俺は驚きながら、仕掛けについて思わず口に出す。

 すると、SQはそれを肯定しこれも神たちへの偽装工作だと明かす。

 ミッシェルが驚きながら未知の技術にワクワクしていた。

 輸送機は木々の映像の下へと進み、やがて地面に輸送機は着陸した。

 無数に巨大な木々が生えていると思ったが、実際の地面はかなり下で。

 元々あった地面を掘っていき整地した様だった。

 窓に近づいて上を見れば、木々が生えているように見える。

 ご丁寧に地面となるものも浮かんでいて奇妙な光景に見えた。

 

 SQが俺を見て降りるように言う。

 俺はチラリとを彼女を見てから下を見た。

 地面をくりぬいたような場所であり、人影らしきものは見えない。

 輸送機らしきものはあるが、分厚いシートを掛けられていた。

 他には荷物などを運ぶ大型のリフトなどもある……此処が村なのか?

 

 シートが掛けられた輸送機などは、恐らくここ最近は使っていないのだろう。

 一瞬で分かるだけの情報を得てから、俺はSQに従い彼女と共に外に出ようとした。

 すると、ヴァンもついてくると言って来た。

 

「危険だ。俺が安全を確かめるまでは此処に」

「お前一人で行動させる訳にはいかねぇよ。二人でなら何とかなる筈だ。な?」

「……分かった。ミッシェルたちは残ってくれ。ライオットとベックはイザベラたちを守るんだ」

「分かった!」

「え? 俺が? いやぁ」

「……何だい? 姫が私じゃ不満か?」

「いいいいえいえ! 全力で守らせて頂きます! サー!」

 

 不満そうなベックを揶揄うイザベラ。

 ライオットはやる気に満ち溢れている。

 二人だけでも男手がいるなら問題ないだろう。

 そう判断し、俺はSQを先頭にし、操縦ルームから出て行く。

 SQは手に持っていたマスクのボタンを押してそれを豆粒ほどの大きさに圧縮する。

 そうして、それをポケットにしまい歩いて行った。

 

 

 

 輸送機の外へと出て地面に足をつける。

 周りを見れば、ただただ広い整地された穴の中で。

 やはり人の気配はまるで感じなかった。

 本当にこんな所に、SQの仲間がいるのか?

 

 移動中に彼女から説明された事は。

 彼女の同胞たちが作り上げた村にて待つ親衛隊のメンバーと合流し。

 そいつから詳しい情報を聞き出してから、作戦の話をする段取りになっているらしい。

 

「……どう見ても、いないよな」

「……何か寒くねぇか? いや、南部は比較的、寒い所だけど……ぅぅ、冷えるぅ」

 

 ヴァンを見れば寒そうで。

 彼の着ている服装は青い長そでのシャツに白い長ズボンと茶色い革靴だ。

 安全用にベストも着用しているが、そんなものには大した防寒機能は無い。

 俺はまだ服の下にパイロット専用のアンダースーツを着ているからマシだが。

 それでも吐く息は白く、露出した肌の部分は冷たく感じる。

 

 ……まぁ、突然だったからな。

 

 碧い獣がテストの終了と共に現れて。

 俺たちは協力関係を結びこうして南部にある村に来た。

 本来であれば、テストが終わればすぐにヴァレニエに帰る筈だった。

 それが何故か寄り道をしていて……本当に申し訳ない。

 

 恐らく、こいつ等はヴァレニエでの接触はかなりリスクが高いと判断したんだろう。

 代行者や神と接触を果たした事で、異分子の国の人間たちは警戒心を強めている。

 その中でも、幹部のような地位につく親衛隊のメンバーはこいつよりも俺の事を警戒している筈だ。

 ノイマンから力を与えられているとはいえ、俺は奴らの仲間でも心から信頼できる同胞でも無い。

 ただ力を与えられただけの異分子で……いや、今では鍵の一つを持っているが。

 

 両陣営にとって俺という存在がどういう立ち位置にあるのかは分からない。

 神は俺を利用しノイマンを連れ戻そうしているのは分かったが。

 ノイマンは何故、俺にこんな力を与えたのかが未だに分からないのだ。

 まだ、実力のある兵士や傭兵であったのなら分かるが。

 当時の俺は十歳の少年であり、力のない子供だ。

 そんな子供にこれほどの力を与えて……奴は何がしたかったんだ。

 

 まだ当時の記憶が少しでも残っていたのなら、理由について考える事も出来たのだろう。

 だが、その記憶自体も抜け落ちている。

 これでは考察する事も何も出来ない。

 

 もしかしたら、この過去の記憶こそが……ノイマンに辿りつく為の鍵なのか?

 

 力を与えたのがノイマンなら。

 俺の記憶を奪ったのもノイマンである可能性が高い。

 目的について考察させない為に記憶を奪った。

 そして、両親の事自体も忘れたのであれば、俺が復讐心を抱く事も無いと考えたのか……そうだとした、奴は本物のクズだ。

 

 例え、二人との思い出を消されようとも。

 俺の心には二人が大切な存在であったという認識が染み込んでいる。

 記憶如きを奪われても、この感情に嘘偽りは無い。

 

 俺は固く拳を握りながら、先頭を歩いていくSQについていき――ッ!

 

 嫌な気配を感じた。

 刺すような殺気であり、俺は思わずその場に屈んだ。

 瞬間、俺の頭部スレスレを何かが通過していく。

 乾いた銃声が響き、チラリと見れば地面に小さな穴が開いていた。

 俺は罠であったと考えて、すぐに動こうと――ッ!?

 

 その場から立ち上がろうとすれば、何かが目の前に迫る。

 黒いコートを着た何者かであり。

 そいつは俺の首を掴みながら、俺の背後に回りそのまま俺の手を掴み上げながら地面に押し付けて来た。

 俺は地面に顔をめり込ませて、必死になって抵抗しようとする。

 だが、突然現れたこいつは一切手心を感じさせずに、一気に俺の腕を折ろうと――

 

「――ぅ!」

「どけ」

 

 上に載っていた奴が消える。

 見ればSQが今の一瞬で俺の傍に移動していて。

 俺の腕を折ろうとした奴を蹴ってくれていた。

 それも全力の蹴りだったようで、黒ずくめの男はボールのように跳ねて転がっていった……何だ?

 

 罠かと思えば、何故かこいつは俺を助けた。

 見れば、ヴァンの方には誰もいない。

 俺にだけ奴が襲い掛って来ただけで……まさか、奴の単独行動か?

 

 罠ではなく、奴個人での動き。

 俺を殺そうと考えていたのはアイツだけで。

 SQや他の人間はそんな事は考えていなかったのか。

 俺は腕を摩りながら立ち上がる。

 SQはそんな俺を心配そうな目で見てきて俺の腕に触れる……本当みたいだな。

 

「……俺は良い。それよりも、アイツは?」

「……あぁ、アレが合流する予定の男だ……SJ。何の真似だ?」

「黙れッ! 俺は認めていないッ! そいつは敵だッ!」

 

 SQが相手の事をSJと呼んだ。

 つまりアイツも親衛隊のメンバーだろう。

 同じようなコードネームだからそう思ったが。

 荒々しい口調からして対等な立場だろうと思った。

 

 奴は殺気を放ちながら腰に仕込んでいた短刀を抜く。

 そうして、目にも留まらぬ速さで俺へと迫り――SQが奴を殴る。

 

 頬に諸に拳が入った。

 奴は悲鳴も上げる事無く空中で身を捩って回転する。

 そうして静かに着地してから、黒いマスクを脱ぎ赤い血が混じった痰を吐く。

 フードを目深く被っていて顔は見えないが、声からして男だろう。

 奴は俺を睨みつけながら短刀を構えていて……埒が明かないな。

 

 ヴァンが俺の横に立ち、小声でどうするのかと聞いて来る。

 俺はどうしたものかと考えて――そういえば。

 

 こいつの声を聞いていて、違和感を抱いた。

 それは会った事が無い筈なのに、何故か俺はこいつの声を知っているからだ。

 ジッと奴を見つめていれば、こいつからは異分子の気配を感じて――あぁ!

 

「――お前はあの時の漆黒の暗殺者か?」

「……漆黒の暗殺者だと……知らん。が、お前とは一度戦っている」

「え、じゃアイツがあの……なぁ、何でナナシを敵視するんだ? こいつは別に何も」

「――惚けるなよ。代行者と接触し、あの神とも会っている事は既に調べがついている。これで我々が警戒しないとでも?」

「…………あぁ、まぁ……自然な流れだよな。こいつが異常なだけで」

「……?」

 

 ヴァンが納得したように頷く。

 言われている本人は気づいていないようで首を傾げていた。

 俺はこの流れが来る事を知っているとはいえ、明らかに警戒されている事に悩む。

 いや、分かっていた。SQが異常なだけで、普通はこういう対応をするのが妥当だ。

 幾ら自分たちのリーダーが許したとはいえ、素直に協力する様になれる筈がない。

 

 このまま睨み合ってもいいが、俺としては時間を無駄にはしたくない。

 神との契約もあり、俺はどうにかしてノイマンと接触をする必要があるんだ。

 自由を手にする為に。そして、エマともう一度会う為に……よし。

 

 俺は両手をゆっくりと上げる。

 奴は殺気を強めながら、何の真似かと聞いて来た。

 

「俺たちに争う意志は無い……そもそも、神の仲間になったつもりもないからな」

「嘘だ。アイツがお前と話をしただけで解放する筈がない。何が狙いだ? 何故、こいつの言う通りついてきた」

「ついて来たのには理由がある……俺には過去の記憶が無い。それと、ノイマンと会った時の記憶も曖昧だ……俺は知りたかった。自分自身の事や、何でアイツが俺に力を与えたのか……お前が俺なら、同じようにするんじゃないのか?」

 

 今言った事は全部本当だ。

 自分の事を知りたくて、ノイマンが俺に力を与えた理由も知りたかった。

 ただ自分の過去の一部はもう知っている。

 大切な両親の名前がそれだ。

 それは隠しながらも、嘘ではない伝えてもいい情報だけを話す。

 

 ノイマンが俺の過去に関わっていて。

 俺が何かを知っているのだろうとは、こいつ自身も思うだろう。

 怪しむのは当然ではあるが、嘘さえ言わなければやりようは幾らでもある。

 だからこそ、真実として聞こえる事を言ってはみたが……どうだ?

 

 たらりと汗が流れる。

 動揺しないように努めながら俺は奴を見つめる。

 奴は鋭い目で俺を睨みつけて……ゆっくりと短刀を下ろす。

 

「……嘘ではないな……信じるつもりはないが……王の指示だ。従う他ない」

「なら」

「――勘違いするなよ。お前は仲間じゃない。少しでも妙な動きをすれば、俺の独断でお前を殺す」

 

 奴はキッと俺を睨みつけて警告する。

 俺は重い息を吐きだしながらそれでいいと呟く。

 警戒心は強いが。取りあえずは、王の指示とやらで納得したようだ。

 しかし、少しでも神との繋がりがあると分かれば確実に殺されるだろう。

 これからはこいつらの目もある事を考えて、不用意な発言や行動は控えた方がいいだろう。

 少なくとも、こいつの前では……。

 

 男はゆっくりと歩き出す。

 俺たちの横を通り過ぎてから、SQにアイコンタクトを送っていた。

 それが何を意味するのかは分からないが。

 SQは静かに頷いてから、俺たちについてくるように言う。

 

 ようやく、奴らの言う村に入れる。

 先ずは第一段階であり、此処からどうにかしてノイマンへの謁見へと繋げる必要がある。

 その為にも、この件は何とか上手く片付ける必要があるな。

 薄暗い穴の中を歩きながら、俺は襲って来た男の背中を見つめる。

 背はほぼ俺と同じくらいであるが、肉弾戦の動きからしてかなりの戦闘経験がある。

 親衛隊のメンバーである事は確定であり、メリウスの操縦技術も俺よりも上だ。

 こいつを敵に回すのは危険だ……用心に越したことはない。

 

 心の中で奴への対応を考える。

 刺激せずに、無難に切り抜けるのが良いだろう。

 俺はそれを考え終えてから、ジョンを説得する方法も考えておく事にした。

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