【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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128:サン・プライトホテル

 プラモを作り終えて、皆でそれを鑑賞していた。

 それなりの大きさのマシンダーは格好よくて。

 黒光りする機体装甲に、がっしりとした腕と足は男らしく。

 二つの双眼センサーは専用のライトによって黄色く光るのだ。

 メタリックカラーでの塗装を提案したのはヴァンで、それを実行したのはミッシェルだ。

 

 完成したものを操縦ルームに置いていれば、ぞろぞろと皆がやって来た。

 ライオットやベックが見れば、キラキラとした目を向けて写真を撮っていた。

 やはり、男にとってメカというものは憧れに近いのだろうか。

 作った俺ですら写真を何枚か撮ってしまいミッシェルに笑われてしまった……アイツも隠れて撮ってたのにな。

 

 イザベラは子供のように笑う俺たちを見て嬉しそうにしていた。

 双子とドリスは、何故かこれに相応しいジオラマを作ろうと言っていた。

 ヴァンとライオットと俺はそれに賛成したものの、どうやって作ればいいのか知識が無かった。

 しかし、メカニックたちは含み笑いをしていて任せるように言って来た。

 恐らく、彼女たちが相応しい舞台を作ってくれるのだろう。

 そう確信し、楽しみに待っているように言われた俺は再び遊楽都市へと繰り出していた。

 

 午前中は見回りを出来なかったので。

 午後からこうして、都市の中を見回っている。

 今日は俺一人であり、ヴァンとイザベラは別の区画を。

 ライオットとドリスもまた別の区画を見回りに行っている。

 

 イザベラは怪我人であるものの、彼女は腕は使えるから援護射撃くらいなら出来ると言っていた。

 ジッとしていられない様子であり、隠れてリハビリをしているのは知っていた。

 早く復帰して一緒に戦いたいのだろう……彼女は大丈夫だ。

 

 ライオットとドリスはまだ経験は無いものの。

 基本的な事はちゃんとした所で学んでいたので、基礎に関しては心配ない。

 後は自信と度胸をつけさえすれば、自ずと自分に相応しい戦い方を編み出していくだろう。

 

 ……まぁ、俺自身もまだまだだ……人の事を評価できるような立場じゃない。

 

 静かに呼吸をし、頭を切り替える。

 今は仕事の時間だ。もしかしたら、ジョンがいるかもしれないんだ……警戒しなければならない。

 

 空を見ればすっかり暗くなっている。

 街の中に設置された時計を見れば、時刻は既に夜の八時を過ぎていた。

 午後はずっと歩き回っていたが、ジョンらしき人物はいない。

 篝火の構成員らしき人間も見えなかったので今日も収穫は無さそうだ。

 

 雑踏の中を静かに歩きながら、俺は街灯の下を歩いていく。

 そうして、今まで個人的に調べていた情報を整理していく。

 

 ジョン・カワセの情報はやはり残念ながら何も無い。

 ただの憶測がネットの中で飛び交っているだけで。

 彼個人の事を少しでも掴めているような人物は一人もいなかった。

 しかし、自分で調べていて何も収穫が無かったわけじゃない。

 

 収穫があったのは幾つかあるが。

 その中でも彼が今まで起こしたと思わしきテロ活動を纏めた記事などが大きな収穫だろうか。

 ジョンは南部以外にも、あのキャンプで聞いたように東部でもテロ行為を働いていた。

 噂では北部でも行っていたらしいが。実際に、彼は北部にもいたので嘘のようには思えない。

 その記事を纏めた記者曰く、篝火の活動は過激すぎるせいで誰も彼もが冷静な判断力を奪われているらしい。

 彼が最も注目すべき点は、その襲撃された街の距離と発生した時間だと書いていた。

 

 破壊行為が行われている場所は、主に人が多くいる街や都市部で。

 殺された人間の中には、財政界でも名を連ねるような重鎮も確認されている。

 これにより、篝火のリーダーは無差別な活動を行っているように警察組織に誤認させて上手くかく乱していると彼は断言していた。

 大きな力を持つ人間を殺していく様はプロの殺し屋のようで。

 その正体は掴めないものの、世界そのものに強い殺意や恨みがあるのではないかと分析していた……当たらずも遠からずか?

 

 実際にはジョンの心は分からないが。

 異分子の自由の為という目的だけで、これほどの活動を行えるのだろうか……。

 

 記者の記事は続く。

 場所がそういったところである所も重要だが。

 彼という存在を謎多くしているのは、その襲撃のタイミングであると語っていた。

 それはある活動においては、同時に行っていたという記録があるからだ。

 一気に三つの街へと襲撃を行い。

 彼らはそこにいた人間を殺し、重要な施設へと空爆を行った。

 その結果、三つの街での人的被害は合計で一万人にも及ぶと言っていた。

 残念ながら、奴らの構成員すらも捕える事が出来ず。

 奴らは計ったように撤収し、再びを行方をくらましていた。

 

 記者はこんなにも用意周到に計画を練り行動出来たのは。

 その三つの街への襲撃を指揮していたのが、篝火のリーダーであるかだと言っていた。

 統率の執れた行動に、場の状況を見て冷静に判断し撤収している。

 痕跡一つも残すことなく闇へと消えていったのだ。

 リーダー以外の人間が、これほどの指揮が出来たのならば篝火には優秀な人間が複数いる事になる。

 が、記者はそれはあり得ない事だと言っていた。

 

 専門家が後にこの時の状況を冷静に分析してみた結果。

 この采配を行ったのは、ほぼ同一人物で間違いないと言っていた。

 それは配置や兵士の動かし方など、僅かながらに癖がある事を見抜いていたからだ。

 後にこの情報を警察組織に提供したものの、次の犯行ではその癖は綺麗さっぱり無くなっていた。

 つまり、その癖ですらも彼らを翻弄する為の仕掛けだった。

 記者はそれにより、やはりこれらを直接指揮していたのはリーダーであると断言していた。

 だからこそ、可笑しいのだと彼は困惑するような書き方をしていた。

 

 別々の場所にある街で。

 同時に襲撃を行っていた筈なのに。

 敵はその全ての街で直接指揮をしていた事になってしまう――それは”矛盾”だ。

 

 双子であろうとも、互いの癖や考えを完璧に模倣する事は出来ない。

 出来たとしても、何処かで違いが生まれる筈だ。

 ましてや、刻一刻と状況が変化する戦場で。

 その人間たちがミスなく指揮が出来るものなのか……いや、出来ない。

 

 つまり、この記者の主張は此処で破綻してしまう。

 この記者の記事では、これらの矛盾があるからこそ。

 犯人の特定が進んでいないのだと彼は言っていた。

 痕跡を残さないのであれば、指揮の仕方や構成員から割り出すしかない。

 プロファイリングしようにも、奴は些細な癖ですら巧みに変える事が出来てしまう。

 戦い方は常に変化させていて、特徴という特徴も無い。

 そして、捕まりそうになった構成員は、その場で自爆をするのだと言う。

 大破した機体の残骸から、組織を見つけようとしても破損状態がひどい上に。

 ”肉片一つ”すら残されていなかったらしい。

 

 ……俺が言うのも何だが……奴は本当に何者なんだ?

 

 痕跡を残すことなく人々を殺し。

 直接その街にて指揮をしていなければ説明がつかないのに。

 奴は同時に別々の場所にいた可能性が高い。

 

 監視カメラなどの映像から確認し指示をしていたのか――違う。

 

 監視カメラなどを使ったとしても、街で大規模な破壊活動を行っているのだ。

 煙や火災で視界は防がれていて。

 固定しているカメラなどでは確認する事は困難だ。

 ドローンなどを使ったとしても、炎などで気流が激しくなり飛行する事は困難だ。

 直接、見晴らしの良い場所から街の様子を確認していなければ分かる筈が……見晴らしの良い場所?

 

 ゆっくりと足を止める。

 そうして、今さっき自分が考えた事に関して思い出す。

 

 複数の街に同時にいた可能性……これは、今は考えなくていい。

 

 それを考察しようとするから足を止めてしまうんだ。

 原理が分からない機械を操作しようとしたって上手くいかないのと同じだ。

 だったら、操作は一旦諦めて別の視点から見る事から始めなければならない。

 

 

 どうやって同時に指揮できたのではなく、何処でなら指揮が出来たかだ。

 

 

 現状にて問題なのは、奴が何処から指揮を執っていたかだ。

 警察たちもそれは先ず初めに考えた筈だ。

 しかし、記事に書かれていないどころか。

 それらしき事を考察していた人間すらいない。

 

 つまり、初めに考えて調べようとして――絶対にそれは無いと判断したんだ。

 

 何故、そう判断したのか…………破壊活動の際に、そこが崩れ落ちているのは?

 

 見晴らしのいい建物の中から指揮をしていたが。

 その建物自体が破壊されているとしたら。

 それもその中にいる人間を回収する素振りを見せる事無く。

 原型が無くなるまでに破壊していたとしたら?

 

 そこに人を配置しようとしても、すぐに破壊の対象になっている。

 だからこそ、彼らも敢えて絶対に壊されるその見晴らしの良い建物は考えから除外した。

 誰かが逃げる素振りも無いからだ。いや、逃げる人間の中に、ジョンがいなかったからだ。

 つまり、警察組織は別の場所から指揮をしていると考えて……いや、違う。

 

 絶対にあり得ない。

 誰も指揮官が死ぬ前提で作戦なんか立てない。

 しかし、その死を覆せるような力があればどうだ?

 

 もしかしたら、そこにこの矛盾を解く鍵があるのかもしれない。

 同時に三つの街で指揮を執れる方法と。

 見晴らしの良い場所で作戦が執れる方法が。

 

 ……いや、死を覆せなくても……あるじゃないか!

 

 アレだ。今まで見ていた技術。

 その一つが――”転移装置”だ。

 

 遠く離れた場所から移動できる技術。

 アレさえあれば、絶対にいたら死ぬ場所からも安全に帰還できる。

 もしかしたら、三つの街で指揮をしていた方法も…………いや、でも…………っ。

 

 この技術は既に神も知っている筈だ。

 現状、ジョンは神にとって不利益な行動を取っている。

 つまり、代行者を動かすほどではなくとも。

 確実に警察組織くらいなら動かして、ジョンを捕えさせている筈だ。

 それをしないのは、転移装置の事を明かしたくないからか……いやいや、違う。

 

 神が知られていない技術を教える事くらいで躊躇う事は無い。

 奴はそれらの技術の知識を”既に知っている”んだ。

 記憶としてある技術であり、それはベン・ルイスからも聞いていた。

 何時かは人類が到達する技術の一つで、早く知られる事になったところで関係は無い。

 つまり、その程度の事でジョンを捕える決断を取れない筈はない……だったら、何故……?

 

 顎に手を当てながら考える。

 思考が行き詰りそうで……ダメだな。

 

 未知の技術、分からない力の正体。

 それを考えたところで考察する事しか出来ない。

 そんな事に思考を割いている余裕はない。

 

 だったら、今一番可能性が高い所へ行くしかない。

 ジャケットのポケットから端末を取り出してマップを起動する。

 そうして、検索ワードを入力して検索し……三つか。

 

 単純に、街全体が見える場所で調べてみた。

 すると、三つの結果が表示された。

 

 一つは移動している飛行船だが……これは絶対に違う。

 

 飛行船から指示を出していれば、確かに街の景色は見えるかもしれない。

 しかし、戦場と化した街を見つめながら端末などを持っていれば怪しいだろう。

 普通は怯えて取り乱したり、窓から逆に離れる筈だ。

 銃弾が飛び交い煙が立ち上っているのであれば、自ら火中に飛び込むバカはいない。

 それに逃げようとしていれば、嫌でも目立ってしまう。

 特に転移装置なんかを使えば、明らかにバレてしまうだろう。

 そもそも、戦闘状態になれば火災が発生し気流が乱れる。

 そうなれば飛行船もすぐにその場を離れていくだろう。

 だから、飛行船の可能性はゼロに近い。

 

 二つ目は展望台からだが……これも違う気がする。

 

 都市全体を見渡すのなら、確かに展望台は適格だ。

 しかし、此処も飛行船と同様に明らかに窓から見ていればバレてしまう。

 そもそも、都市の中で一番大きな展望台が真っ先に狙われないのはおかしい。

 ジョンの狙いが世界危機管理機構を動かすのであれば、その都市のシンボルは真っ先に破壊する筈だ。

 あの彫像や展望台など……そうすれば、多くの人間から殺意を向けられるからな。

 

 つまり、展望台は真っ先に狙われる場所であり。

 周りからの目もある事から指揮をする場所には不適格だ。

 

 

 

 残されているのは三つ目の――”サン・プライトホテル”だ。

 

 

 此処だ。此処が一番可能性が高い。

 ホテルであれば当然だが個室が用意されている。

 部屋にチェックインすれば、後は部屋の中から街の景色を眺めていればいい。

 都市全体が見える部屋であるのなら、指揮だって出来る筈だ。

 勿論、真っ先に疑われるだろうが。

 ホテルが完全に倒壊しないように一部を狙うように攻撃を仕掛ければ、上手く偽装も出来るだろう。

 後は勝手にホテル内の人間たちが取り乱し、我先にと逃げ出す。

 問題は避難した後に、宿泊客のリストの照合した場合だが、恐らくは何か対策をしているんだろう。

 残ったジョンはそこからゆっくりと街の状況を観察していればいい……決まりだな。

 

 まだ、どういう方法で脱出しているのかも分からない。

 真っ先に狙われる可能性だって勿論あるが。

 今此処であると認識し、そこを調べる他ないだろう。

 

 ……これで合っているのか……奴は此処に……。

 

 端末からそのホテルの居場所を確認する。

 そうして、静かに頷いてから端末を仕舞った。

 すぐに確認に向かおう。

 もしも、奴を発見できたのなら……いや、いい。

 

 いた時はすぐに報告をするだけだ。

 ジョンを刺激して犯行を速めさせてはいけない。

 絶対に独断で行動をしてはダメだ。

 

 大丈夫。大丈夫だ。

 危険な行動を取らない限りは……。

 

 心に恐怖が這い寄る感覚。

 震えそうになる手をギュッと握りしめながら。

 俺はホテルへ向けて足を進めていった。

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