【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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131:狂乱の都市(side:ヴァン)

 カチ、カチ、カチと時計の音が静かに響く。

 すぅすぅと規則正しい呼吸音も聞こえてきて俺は小さく笑う。

 

 ……ナナシはぐっすりと眠っている。

 

 暗い部屋の中で、相棒の寝顔をジッと見つめる。

 椅子に座りながら、何時間もずっと……同じだ。

 

 怪我をして、その怪我が大きければ大きいほど。

 ナナシは深い眠りにつく。

 今回も同じであり、あの花の現象もそうだ。

 

 あの後にイザベラから話を聞いた。

 アイツも置かれていた花束の現象を見て思い出した事があったようだった。

 それはナナシが暴走していた時の話で。

 荒野に咲いていた花が、今回のように一気に枯れる光景を見たと。

 他にも空を飛んでいた鳥たちが行き成り死んで落下していったと言っていた。

 確証できるまでは黙っていようと思っていたらしい。遂に確証を持つ事が出来て俺に教えてくれた。

 偶然ではない、これはナナシがいる戦場で起きる現象だ。

 

 ……まさか、怪我を治したり復活する時に……もっというのなら力を使う時に起こるのか。

 

 アレほどの高濃度のエネルギーだ。

 何処から賄っていたのかと不思議に思っていた。

 アイツの体から発生しているにしても、膨大過ぎる量で。

 説明のつかないそれに俺は困惑していたが……もしも、もしもだ……俺の予想が正しいのであれば……。

 

 

 

「他の命から――奪い取っているのか」

 

 

 

 あり得る話だ。

 SAWが異分子を使ってエネルギーを生み出す事に成功したように。

 ナナシの力も、他の生命から命を奪いエネルギーに変換していたとしたら……いや、でも、それなら……っ。

 

 手を組みながら顔を伏せる。

 これが事実だとしても、俺の口からナナシには話せない。

 何故ならば、ナナシは誰よりも優しい奴だからで……間違いなく。こいつは自分を責める。

 

 あの時のナナシの顔が忘れられない。

 拳銃を手にしながら涙を流し、俺の顔を見た瞬間に笑ったこいつの顔を……もう嫌だ。

 

 目の前で、大切な人が死ぬ姿何て見たくない。

 俺は二度と仲間を死なせたくはない。

 例え、俺がこいつの両親の死に関わったクソ野郎でもだ。

 

 この事は、まだ推測の段階だ。

 いや、分かったとしても安易にこいつには伝えられない。

 適した場所で、適したタイミングで……何時来るか分からねぇけどな。

 

「……ふぅ」

 

 ゆっくりと仮眠室の壁を見る。

 そこは薄っすらと湿っていて、そこについていた液体の正体は適応剤だった。

 ミッシェルが調べてくれたから分かったが。

 何故か、ナナシは適応剤を投げ捨ててから自決していた。

 

 成分を調べても”ほとんど何も出なかった”が……三人の証言からこいつには間違いなく中毒症状が出ていた。

 

 ドラッグをしていた形跡はない。

 ミッシェルに依然聞いていた軍人時代に服用していた薬も既にやめている。

 それなのに中毒症状が現れて自決して……明らかに、原因はそれだ。

 

 成分を調べてもほとんど何も出ない薬物。

 いや、何も出ない事自体がおかしいのだ。

 普通なら何かしらの特別な成分が出る筈なのに、これの中身はほぼ栄養剤で。

 特定できたのも専用のシリンダーらしきものの残骸が転がっていたからだ。

 こんなものを神は異分子へと配り、定期的に摂取するように命じていた。

 

 今にしてはおかしい話だ。

 何故、異分子の症状を和らげたり。

 異分子である事自体を解消するような効果が無く。

 剰え、詳しい説明もないこれを異分子たちに強制していたのか。

 

 あの薬には何か隠された秘密がある……そして、突然中毒症状が出たのは……誰かが関わっている。

 

 確かに、摂取しなければいけない日は近づいていただろう。

 しかし、それほど遅れていないのに、何故、急に中毒症状が出たのか。

 答えは簡単であり、何者かの手により薬の効果を早く切れさせたんだ。

 薬の成分が体から抜け掛ければ、自然と次の薬を求めるように中毒症状が現れる。

 典型的な違法な麻薬と同じであり、それにより死ぬまで永遠と薬を服用させるんだ。

 

 誰も服用を止めない理由、それは何も捕まる事を恐れていたからじゃない。

 誰だって生きているのだから、うっかり忘れてしまう時だってあるだろう。

 しかし、周りどころか世界中で見ても、この薬の接種を忘れて捕まった奴の話を俺は聞いたことが無い。

 噂程度であり、確かな証拠何て無かったのだ。

 何故か、俺はそれを真実のように信じ込んでいて……。

 

 

 

 つまり神は、この薬を――”データ”のように扱っていた。

 

 

 

 薬効成分が出ないのであれば、神自らが手を加えた事になる。

 この世界が作られた世界で、奴がその創造主であるのなら。

 薬効成分という目に見えた情報が無くとも、薬として必要な成分を服用時に発揮させる事は出来る。

 こいつは万が一にも、薬の成分を調べられても疑われないように巧妙に細工したんだ。

 他の人間であれば、ただの栄養剤同然のものを注入するだけならと安心してしまう。

 神は異分子である自分たちを嘲っているだけだと……そこだ。

 

 適応剤を摂取させる理由はそこにある。

 ただの水同然のものに中毒症状が現れるような情報を加えて。

 その目的がただの嫌がらせな筈がない。

 ましてや、これをタダで配っている時点で労働力が裂かれている事になる。

 合理的な神が、態々嫌がらせの為に人手を使ったり工場を作ったりなんてしない筈だ。

 いや、工場が無くて自分で製造していたとしても神自身の労力が掛かっている。

 異分子の国という脅威に対抗する為のリソースを割いてまで、そんな無駄な事はしない筈だ。

 嫌がらせじゃない。この薬を定期的に摂取させるのには、恐らく明確な理由がある。

 

 

 必ず摂取させる事によって神が得られるものは……自らの管理下に入らせる?

 

 

 顎に手を当てて考える。

 そうだ。神は己の管理下に入らない者は排除すると宣言していた。

 そして、その言葉通り適応剤を服用していなかったり首輪を嵌めていない異分子たちを排除している。

 特に異分子の国の人間たちは抹殺対象と定めていて……だが、それはおかしくないか?

 

 適応剤を含ませただけで、何故、神はその異分子たちが己の管理下に入ったと分かる。

 首輪だってそうだが、アレは外していたとしても気づけるのは同じ異分子くらいなのはナナシから聞いている。

 重要なのは適応剤であり、アレだけは必ず摂取させようとしている。それも一月に一回のペースで。

 その薬を必ず求めると知っているからか。そして、己の手から絶対に離れられないと考えたからか……いや、違う。

 

 そんな欲求如きで、神が支配できたと思う筈がない。

 それなら単純に、もっと別の方法があった筈だ。

 それこそ、首輪じゃなく体に直接チップを埋め込んだり出来た筈だ。

 絶対に外せないものにしなかったのは、周りから見えるようにする為だろうが……。

  

 もっと明確な理由がある筈で――そういえば。

 

 今にして思えば、あの場面は何故か変だ。

 それはナナシが神の元へと行くと言った時で。

 アイツは異分子であり、軍時代でもかなりの責め苦を味わっていた。

 だからこそ、アイツのような奴は心から神を憎み恨んでいる筈だ。

 絶対に会いたいと思わないのが当然なのに……アイツはあっさりと会いに行く決断をした。

 

 理由は勿論あった。

 知りたい事があり、異分子が人間になる方法があると分かったからだ。

 しかし、奴が今まで何十年と味わった苦しみが。

 それっぽっちの理由で拭えるものなのか。

 

 ……そもそも、ナナシは神を”信用している素振り”すらあった……妙だろ。

 

 イザベラやミッシェルのような神と関りの無い人間ならまだ分かる。

 しかし、ナナシのような異分子が何故、神を信用できるんだ。

 それは絶対にあり得ない事であり、どう考えたっておかしい。

 最もらしい理由を言ったとしても、それは明らかにナナシらしくない。

 

 

 

「……いや、待て……なら、適応剤は……あれの、正体は……ッ!」

 

 

 

 気づいてしまった。

 適応剤の正体を、それを打たせる神の目的を。

 

 そうだ。それしかない。

 神はそれを打たせる事によって、異分子を強制的に己の管理下に置く。

 理屈でも無く感情でも無く。それを本人に悟らせる事無く”当たり前のように”思わせて……分かる訳がない。

 

 誰も気づかないだろう。

 誰も怪しむ事は無いだろう。

 何故ならば、一回打った瞬間に、ナナシたち異分子は己の考えを”捨てさせられる”事になるのだから。

 

 

「……アイツ等は、気づいていたのか……気づいていて、どうしてこいつに……っ!」

 

 

 何故、教えてやらなかったのか。

 何故、すぐにやめさせようとしなかったのか。

 

 

 SQとSJに強い怒りが湧いた……いや、違う。

 

 

 気づいていて教えなかった理由がある。

 俺が考えられる中で一番思いつくのは、SQなら無理にやめさせてナナシが苦しむ姿を見たくなかったからだ。

 SJであるのなら……アイツは単純に、まだ仲間だと認めていなかったからだろう。

 

 一度摂取して、それを絶つことは至難の業だ。

 ナナシのように自決してリセットできる可能性があるのならまだ救いはある。

 しかし、普通の人間は抗う事も出来ない上に。

 抗おうとして一生分の苦しみを味わう事になるんだ。

 自分をナナシの姉だとアイツが本気で思っているのなら……確かに、言えないな。

 

 恐らく、普通に薬の効果を打ち消すならば。

 最低でも一月以上は時間を要するだろう。

 ナナシはそれを分かっていて、本能で自ら命を絶つ事でリセットしようとしたのか。

 それが正しいとは言えないが、今のこいつは穏やかな眠りにつけている。

 悪夢を見てうなされている訳でもない。

 それならば、目覚めた時には……いや、まだ安心はできない。

 

「……そういえば、定期連絡は…………最後から大分経っているな」

 

 時間は既に午後の八時であり、ナナシが倒れてから既に一日が経過しようとしていた。

 傷は完全に塞がっていて、怪我らしい怪我はないが目覚めない。

 以前ならば、傷の治りはもう少し遅かったが……いや、それでも尋常ではないけどな。

 

 ナナシの力も進化しているのか。

 もっと進化すれば、一体どれほどの大きさになるのか。

 

 俺が想像している以上に、ナナシの力は強大だ。

 そして、その強大な力を多くの人間が狙っている。

 いや、正確に言うのであれば利用しようとしている。

 

 異分子の国の奴らや、忌々しい神たちもそうだ。

 俺たちだけが。ナナシの味方で、こいつを守ってやれる。

 俺はゆっくりとナナシの頭に手を置く。そうして、静かに撫でてから笑う。

 

「……大丈夫だ……最後まで、ずっと……」

 

 俺は裏切らない。

 仲間たちもそうだ。

 だから、どんな顔して目覚めようかなんて考えるな。

 そう気持ちを伝えてから、俺は端末を取り出す。

 

 今はまだ、静かに眠っている。

 俺は席を外して部屋から出て行った。

 

 SJもSQも何をしているんだ。

 定期連絡をしようと言ったのはアイツ等で。

 俺たちも忙しかったから掛けられなかったが、何故、掛けて来ないのか。

 

 俺は操縦ルームへと入ってから、SJに連絡を取ろうとした。

 ワンコール、ツーコール、スリーコール……繋がらねぇな。

 

 俺は頭を掻きながら悪態を吐く。

 そうして、端末を戻そうとして――メッセージが入る。

 

 すぐに端末を出して見ればSJで――

 

《ジョン・カワセが現れた。今、俺のいる街は混乱状態にある。詳しくはニュースを見ろ。絶対に来るな》

「は? ジョンが現れたって……っ」

 

 俺は何が起きているのかと思いながら。

 慌てて端末を操作してニュースを見た。

 すると、世界チャンネルのニュースにてSJのいる街で爆破テロが発生したと報じられている。

 被害にあったのは街に存在する五つの教会で、その日は信者たちによる集会が行われていたらしい。

 参加していた人間の中には、政治家や世界百番台に名を連ねる富豪も……嘘だろ。

 

 ニュースを見ていれば、街の状況を映した映像が出る。

 上空から撮った映像であり、覆面を被った人間たちがライフルを持ち乱射している。

 報道している人間たちは、こんな事は今までになかったと言っている。

 完全なる無差別であり、報道しているアナウンサーは映像をズームさせて――あれは!?

 

《ご覧ください! 覆面の男たちの首元を! 首輪です! 彼らは首輪を掛けています! 異分子です! 異分子が市民を攻撃しています!》

「嘘だ! ジョン・カワセがこんなミスをする筈が」

 

 確かに首輪はつけている。

 しかし、まだ異分子かどうかは分からない。

 そもそも、アイツらは首輪を既に外している筈だ……つまり、アレは別の人間たちの犯行だ。

 

 SJの話を信じるのなら、あの街にジョンは確かに現れた。

 恐らくは、爆破テロを指示したのがジョンで。

 あれらの覆面たちはジョンの犯行に見せかけるように動いた模倣犯たちだ。

 

 何が狙いかは分からない。いや、狙いと呼べるものすらないのかもしれない。

 

 統率された動きには見えない。

 ただイカれているだけの連中だ――だからこそ、かく乱されている。

 

《――ッ! べ、別の施設への攻撃!? う、嘘!? あそこは警備が》

 

 アナウンサーが耳に手を当てる。

 狼狽えたような事を言った瞬間、凄まじい爆音が響いた。

 カメラが揺れながらも爆発が起きた方向にカメラを向ける。

 すると、何かの工場らしき場所から火の手が上がっていた。

 瞬間、街中の明かりがぷつりと消えた。

 

 アナウンサーは顔引きつらせながら状況を説明する。

 トラックにて発電所を攻撃した一団。

 混乱のさなかで指揮系統が乱れた隙を狙っての襲撃で。

 瞬く間に制圧された工場の出力を最大に引き上げた結果。

 システムがオーバーフローし、全ての電力が絶たれてしまった。

 今この街では、予備電力の無い場所以外は全ての警備システムがシャットダウンした状態で。

 今まさに、眼下では暴徒となった民衆が店などを襲撃し商品などを奪っていた。

 

 これも計算だ。

 あのいかれた集団も、商品を奪っている窃盗団も――全て奴が用意したんだ。

 

 場を混乱させる事で、警察組織の包囲網をかく乱し。

 一時的にでも指揮系統を狂わせる事によって包囲網に穴を作った。

 今、ジョン・カワセという大物がいるであろう街には無数の犯罪者が集まっている。

 

 完璧だ。完璧なほどに――手慣れている。

 

 奴の狙い通りに大物は始末された。

 他の権力者たちも巻き添えを喰らっただろう。

 そして、ついでとばかりに一般市民の虐殺をし……逃げるのか。

 

 あんな状況の中でも、奴は逃げれるのか。

 包囲網を崩して逃げて、また別の街を――いや、ダメだろう。

 

 急いで輸送機の中から外へと視線を向ける……いない。

 

 此処からなら良く見える。

 此処に駐屯していた軍の輸送機や警察隊の所有する輸送機たちが。

 さきほどまでそこにあったそれらがほとんど消えていた。

 ジョン・カワセが出現した知らせを受けて急行したんだろう。

 専用の輸送機の上にメリウスを積んでいないのなら……俺たちのものよりも更に速く到着できる筈だ。

 

 それまでにジョンがそこに留まっているかは分からないが。

 少なくとも、あの混乱だけは何とか収められるだろう。

 

 事件が発生したのは、六時ごろで。

 暴徒が発生し住民を襲って、発電所が爆破されたのが今だ。

 二時間もあれば包囲網は完成されていただろうが。

 発電所の爆破を合図に、潜伏していた悪党どもも動き始めた。

 

 一時的に指揮系統が乱れた状態であるが。

 時間が立てば軍も本格的に動き出すだろう。

 今まさに、応援として向かっているのがその証拠だ。

 軍そのものが動いているのなら、ジョンの目的が叶う日も近いだろう。

 

 本当に恐ろしい奴だ……だけど、どうやってあそこから脱出する。

 

 街から出る事は容易ではないだろう。

 SJが連絡してこなかったのも、街で警察たちがうろついているからで。

 不審な動きが出来ないからこそ、身を潜めていたのかもしれない。

 いや、もっというのであれば潜伏しながらジョンを捜索しているんだろう。

 

 俺たちに構っている余裕はないってか……舐めてやがる。

 

 ナナシを必要としたのはアイツ等なのに……だが、今はそれでいい。

 

 ナナシは動ける状態じゃない。

 迂闊に運ぶ事だって出来ないんだ。

 今は回復するまで安静にさせてやる事しか出来ない。

 

 俺は操縦席のシートに手を置く。

 そうして、深く息を吐いた。

 

「……分からねぇ……何も分からねぇよ……頼むから、俺でも分かる様に……」

 

 俺は首を左右に振りながら情けない愚痴を零す。

 そうして、端末を取り出してから両手で顔を強く叩いた……いてぇ。

 

「……うし! 切り替えた! 今は相棒を守ってやらなくちゃな」

 

 俺はそう自分に言い聞かせながら、くるりと回る。

 そうして、笑みを浮かべながら眠っているナナシの元へ行こうとして――うぉ!!?

 

 輸送機全体が大きく揺れた。

 体が揺れて思わず尻もちをついてしまう。

 何かが爆発した音も聞こえてきて、俺は何が起きたのかと思った。

 何とか立ち上がりながら、窓から外を見て――え?

 

 

「何で……どうして……」

 

 

 燃えている。

 ビルから赤々とした火が上がっていた。

 夜空には黒煙が立ち上っており、一部が崩れ去って落ちていった。

 爆発音が連続して小さく響き、機体全体が軽く揺れる。

 空を何かが飛んでいてバラバラと弾丸をバラまいていて――メリウスだと!?

 

 こんな都市の中で、メリウスが暴れている。それも一機や二機でない。

 見た事も無いメリウスであり、そいつがライフルを建物に向けて放っていた。

 まだこっちには来ていないが、何時やって来るかは分からない。

 俺はマイクを起動して、仲間たちに知らせた。

 取り敢えずは、近くのシェルターまで避難した方がいい。

 出来る事なら飛んで逃げたいが、見つかれば襲ってくる可能性もあるんだ。

 

 マイクを切ってから、俺はナナシの元へと急いだ。

 今アイツは眠っていて動ける状態じゃない。

 アイツくらいなら俺がおぶっていける。

 イザベラはライオットたちに任せて――

 

「ナナシ――は?」

 

 ナナシの眠っている部屋に入る。

 そうして、電気をつければ……いない?

 

 ベッドに近寄って周りを見るがいない。

 靴や上着もなくなっていた。

 俺は冷静にベッドに手を当てて……温かい。

 

 恐らく、起きてすぐに移動したばかりだ。

 他の連中から報告が無いのなら、既に外へ黙って行ってしまった後なんだろう……クソッ!

 

 どうする。俺はどうすれば――決まってるだろ。

 

 俺はイザベラの元へと急ぐ。

 アイツには言っておかなきゃならない。

 言って、俺がナナシを追いかけて連れ戻す。

 

 端末を取り出してGPSを起動する。

 こんなことが起きると思って仕掛けていたが。

 まさか、こんな形で使うなんてな。

 

「ナナシ、無茶するなよ!」

 

 俺は心の中でナナシの無事を祈る。

 そうして、カツカツと床を鳴らしながら走って行った。

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