【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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134:人類の脅威

 兵士に案内されて、村の集合場所に行く。

 扉をノックすれば、ロックが解除されてSJに迎え入れられる。

 ヴァンと共に席へとつけば、先に集まっていたSQは俺の身を心配してくれた。

 俺たちは大丈夫だと伝えながら、話を再開してもらう。

 

 俺は何があったかを簡潔に伝える。

 すると、二人は少しばかり驚いたような表情をしていた。

 二人からも状況を報告されて、俺たちの方も驚く。

 まさかとは思っていたが……そういう事だったのか。

 

「それで、お前も……ジョンと会ったと言うのか?」

「……あぁ……俺も信じられないが。どうやらこの三人はジョンに会ったようだ」

「……」

 SJは戸惑いつつも確認してくる。

 俺はそれに頷きながら肯定する。

 

 遊楽都市を離れて、村まで戻って来た。

 SJやSQも戻ってきていた様で。

 互いに連絡が取れなかった間の事を話し合っていた。

 俺たちも後から加わり話をすれば、驚くべき事に三人共がジョンと接触していた。

 

 一緒に話を聞いていたヴァンも頭を抱えている……俺もそうだ。

 

 もっというのであれば、俺の前に現れたジョンは俺の手で殺されている。

 衝動的な行動だったとはいえ、あの場で射殺しなければもっと被害が拡大すると思っていた。

 だからこそ、最終手段を取ったが……アイツはあの状態でも生きているのか?

 

 俺が悩んでいれば、SQから視線を感じる。

 チラリと見れば何故か、無性に悲しそうであり……。

 

「どうした?」

「……私はお姉ちゃん失格だ」

「あぁ、そもそも姉では」

「――これからはずっとお前の傍にいよう」

「……何でそうなるんだ?」

 

 悲しそうだったと思ったが気のせいだった。

 こいつは何かしらの理由をつけて俺の傍にいたいだけだ。

 そう納得して、俺はため息を零す。

 

「……お前の所に現れたジョンは、お前の手で死んだ……これは事実か?」

「あぁ……ただ、死体は確認していない。そのまま最上階から落ちていったからな……そもそも、死体すら残っていないだろうが」

「……俺の所に現れたジョン。そして、ナナシの所に現れたジョン……SQの元に現れたジョンの事も考えれば、明らかに行動範囲が広すぎる……転移装置の中でも、長距離移動に適したもの……神クラスの人間にしか作り出せないアレでもない限りは移動など出来る筈がない……いや、そもそも俺とお前の状況から見てほぼ同時……不自然だ」

 

 SJはそう言いながら眉を顰める。

 神クラスの権限が無ければ、アレは作れないのか……。

 

 つまり、アレを持っている可能性があるのは神の陣営であれば代行者クラスで。

 異分子の国なら、それこそこいつらよりも上の異分子くらいか。

 こいつらは自分たちがそれを持っているような事は言っていない。

 それに、もしも持っているのなら、今頃とっくに使っている筈だ。

 態々、輸送機で移動しているのはそれを使えないからで……それも、神からの探知を防ぐ為だろうか。

 

 そんな事を考察していれば、SQが思い出したように呟く。

 何かと思って聞いてみれば、SQは説明を始めた。

 

「SJに先に報告していた事だが……私はβで見つけた奴の隠れ家らしき場所で……謎の機械人形を大量に見つけた」

「機械人形……それは人型のロボットと言う事か?」

「あぁ……ただ、意識を取り戻してから改めて残骸を調べてみたが……触れてみればその材質は人間の皮膚や肉質に限りなく近かった……骨組みだけは少し金属らしかったが、概ね人間に似せてあったな……燃料か潤滑油かは分からないが。その内部には血に似せた液体を巡らせていた……私が言いたい事は分かるな」

「……」

 

 SQから言われた新たな事実。

 それを頭の中で整理していく。

 

 機械人形。つまり、人に似せた機械。

 その材質は限りなく人間に近いようで。

 SQがそれを機械だと見破れたのも、恐らくはまだ完成されていない状態だったからだろう。

 もしも完成された状態であれば、見分けがつかないほどに精巧なのかもしれない。

 ジョンがその精巧に作られた人形で何をしようとしているのか……そうか。

 

 何故、転移装置も使わずに複数の場所にほぼ同時期に出現する事が出来たのか。

 その場所に必ずいなければならない指揮官が、同時に三か所に現れる事が出来たのか。

 

 得体の知れない人形。

 そして、それを大量生産しているであろう可能性。

 そこから導き出される可能性は――

 

 

 

「――ジョンは機械人形を使う事で、別々の場所に現れる事が出来ていた」

「……そうだ。恐らくジョンは、複数の人形を動かしてそれぞれの街の部隊に指示を送っていた……意識をトレースしていたか。或いは、機械に自らの人格をコピーしていたかもしれない……そうすれば、遠隔操作も不要だろう」

 

 

 

 少し、またジョンに近づいた。

 奴は機械人形を使って複数の場所に出現していた。

 これは恐らく本当であり、これ以外に奴が姿を見せられる方法は無い。

 

 あの時に態と俺の手で殺されたのも。

 全ては自分という最大の証拠を隠滅する為で。

 恐らくは、SQやSJの元に行ったであろう機械人形たちもそれぞれの方法で自らを処分した筈だ。

 そうする事で、リーダーは危険を冒して脱出する事をしなくて済む。

 警察機関はどうやって脱出したのかを考えるだけで、勝手に混乱していくだけだ。

 

「……待て。という事は……SQの街に行けばその機械人形は」

「……残念ながらもう無い……私が起きて調べた時は辛うじて残骸だけはあった……しかし、街の様子を見に行き混乱しているのを確認すれば地下から大爆発が起きて隠れ家事消し飛ばされてしまった……あの大爆発で、街のインフラは大打撃を受けていた」

「……え? あ、アンタも諸に被害受けたんじゃ……え? 何で生きてんの?」

「……? あの程度の爆発で死ぬわけないだろう?」

「……ナナシ。悪い事は言わねぇ。こいつに襲われたら俺を呼べ。対物ライフルでこいつの頭を……な?」

 

 SQはキョトンとした顔で首を傾げる。

 見るからに傷一つない様子であり、流石の俺も畏敬の念を抱きそうだった。

 ヴァンは小声で俺を心配していたが、SQの視線が険しくなっていくので遠慮しておいた。

 

 調べに行こうとしても、どうせ今から崩壊した街に入るのは難しいだろう。

 遊楽都市もそうだったが、今から入る事は難しい。

 出るだけでもそれなりに厳しい検問を潜り抜けて来たんだ。

 入るのは更に困難だろう。

 

 証拠自体が既に灰となってしまったのなら、今ある事実で考察する他ない。

 ジョンは機械人形を使っていたのなら、オリジナルは生きている事になる。

 多分だが、俺が北部で最初に会ったジョンはオリジナルだろう。

 異分子としての気配もそうだが、あの瞳の光は本物で……だが、妙だな。

 

「……俺たちはジョンだと思っていたアレから異分子の気配を感じていたが……機械にも異分子の気配を真似できるのか?」

「……俺もそこに引っかかりを覚えた……機械は異分子にはなれない。当然だ、生きていないのだから……人格をコピーして、自らの考えで動いたように見えても。それはシステムにより分析されてそう行動するだろうと予測されただけのもの……あり得ない。可能だとしても、アレほどの気配を真似する事など……ましてや、俺たちが機械と同胞の気配を見間違えるなんて」

「……ナナシよ。我々は他の異分子とは少し違う。気配の察知も長けている。だから」

「――ハイランダーだからだろ? ジョンから聞いている」

「……そうか」

 

 ハイランダーは異分子の中でも特に優れた者たちだ。

 同じ異分子の気配を探知するのも、俺よりも遥かに上手いんだろう。

 だからこそ、そんな自分たちが元同胞の気配を見分けられない筈がないと言っている。

 確かにそうだ。こいつらが間違える可能性は低いだろう……だったら、ジョンは何か工夫をした事になる。

 

 その工夫一つで、こいつらの感覚を狂わせたんだ。

 だが、機械人形自体にその工夫が無いとしたら……何だ?

 

 考える。考えて、考えて……ダメだな。

 

「分からない……どう考えても、ジョンが行った何かが見えない……そもそも、俺は異分子についてそれほど詳しくはない……まぁ、適応剤の秘密は知ったがな」

「……! そうか。お前の目が変わったのも……ジョンのお陰か」

「……違う。アイツは関係ない……関係ない」

「……どうでもいい。適応剤を使用しなくて良くなったのなら……少しは真面な話が出来るようになっただけだ」

 

 SJは冷たく言い放つ。

 しかし、それは事実だ。

 これで俺は神の呪縛の一つを絶つ事が出来るようになったのだ。

 後は、この首輪を外すだけで……そう言えば。

 

「……気になったんだが……その……首輪をしている俺を此処に連れてきても良かったのか?」

「……? 何を……あぁ、そういう事か……心配はない。その首輪には発信機はあるが、俺たちはその発信機を無効化する為のシステムを端末に組み込んでいる。既にお前は登録済みで、今もお前から発せられる信号を遮断している……念の為に、遊楽都市にいた時も無効化はしていたが。特に問題は無かっただろう?」

「……あぁ、まぁな」

 

 発信機を無効化するシステムか。

 便利そうではあるし、俺としてはとても役に立つ。

 それならば、こいつ等と会っていても此処が危険に晒される心配はなさそうだ。

 

 ひと先ずは安心で……俺は話を戻した。

 

「……危険が無いならいい……取りあえず、ジョンは生きているのは確かだ。そして、奴が今回派手に暴れたせいで恐らくは」

「……あぁ開かれるだろうな……間違いなく……それも、すぐにな」

「……ジョンを止めるのならば、行くしかあるまい……だが、我々が行けば場を混乱させるだけだ。どうする?」

 

 SQの言葉を受けて考える。

 恐らく、奴らがその会議に潜入する事はほぼ不可能だ。

 警備は厳重であり、侵入する事は絶対に出来ないだろう。

 例え機械人形を使おうとも、検査を受ければ一発でバレる筈だ。

 

 つまり、会議にいる全員を異分子化させるのなら――強襲しかない。

 

 爆撃機などによるものではない。

 そんな大掛かりなものを使えば発見されて撃墜されてしまう。

 もっと小型で素早いもの……メリウスによる短時間での強襲作戦だ。

 

 奴らはそれを成す為に全戦力を投入するつもりだろう。

 此処が奴らの計画の大詰めで、死に物狂いで成功させるくる筈だ。

 

 奴の計画が成功してしまえば、最悪の場合、異分子そのものが危うい立場になる。

 世界が異分子化した首脳たちを切り捨ててしまえば最後で。

 そうなってしまえば、異分子はより世界から敵として見られてしまう。

 神やノイマンにとっては望むところかもしれない。

 そうなれば、災厄の鍵が手に入る可能性が大きく跳ね上がるから。

 だが、今回ノイマンがそれを防げと言ったのは恐らく、異分子そのものが消える可能性が高いからだ。

 

 神がいる限りは、異分子そのものが消える事なんて無い。

 だが、世界中の人間たちが改変も効かないほどに怒り狂えば。

 それこそ奴の言う本物のように――殺し合いが始まるかもしれない。

 

 神は動きを見せないが。

 ノイマンだけは明確に何かを察知している。

 だからこそ、態々、俺という駒も使ったんだろうが……。

 

 扉がノックされた。

 SJは警戒しながら立ち上がり、誰なのかと尋ねた。

 名を名乗れば、警戒心を解いた奴が扉の前に行きロックを解除する。

 入って来た青年はSJに小声で何かを報告していた……何だ?

 

「……分かった。他の者には俺が言う」

「了解しました」

 

 それだけ言って青年は去っていく。

 SJは扉を閉めてロックを掛け直す。

 そうして、俺たちに視線を向けながら「思っていたよりも早そうだ」と言う。

 

 腕の端末を操作して何かを投影した。

 そこには世界ニュースで何かが――ッ!

 

《世界中で頻発しているテロ行為。その中でも篝火と呼ばれる組織の動きが過激化していますが。世界危機管理機構はどのような対応をしていくと思われますか?》

《えぇ、まぁ、テロ組織の壊滅の為に世界各国との連携を強めねばなりませんからね……恐らくは近々全ての首脳と大神官を招集し、世界会議を開くかと思われます……ただ、今回は規模が規模ですからね。恐らくは、例年のように詳細な時期などについては伏せられるでしょうね》

《なるほど……世界危機管理機構もそれほどテロ組織を警戒しているのでしょうか?》

《それはそうでしょう。噂では、彼らのリーダーは異分子らしいですから……もしも万が一があれば、奴らに感化されて異分子たちが世界中で暴動を起こす可能性もありますからねぇ。奴らは数だけは多いので――》

 

 世界ニュースでアナウンサーとスーツを着た男が話している。

 もしも、この情報が正しいのであれば会議の情報は秘匿されて行われるらしい。

 何処で行うのか。そして、何時に行うのか……どうすればいい。

 

 恐らく、ジョンたちは確実に調べて来る筈だ。

 奴が土壇場で何も分からないまま、この会議を見逃すはずがない。

 だとしたら、俺たちはどうやって……。

 

「……SQ。すぐに諜報班に連絡を……お前たちは此処までだ」

「……は?」

「忘れたか? お前たちは”説得する”為に此処に呼ばれた……最早、奴を説得する事は不可能だ」

「ま、待てよ! そんなのありかよ!? 此処まで来てじゃあ帰れって……え?」

 

 ヴァンが席から立ち上がり叫ぶ。

 すると、彼の端末がなる。

 彼はさっと端末を取り出して確認する。

 わなわなと震えており見れば……現金が振り込まれた?

 

「お前の口座に報酬は支払った。時間指定だから、俺たちの居場所が判別される事は無い……これで終わりだ」

「……っ。でも、俺はまだ!」

「――ハッキリ言おう。お前は邪魔だ」

「……っ!」

「私は弟と一緒にいたい」

「黙れ。私情を挟むな……それとも、ノイマンに失望されてもいいのか?」

「……」

 

 SJは目を鋭くして俺を睨む。

 拒絶の言葉であり、否定の言葉でもある。

 分かっていた。分かっていたさ。

 こいつは初めから俺を仲間だとなんて思っていない。

 

 ……引き下がるしかない。

 

 俺はゆっくりと椅子に座り直す。

 すると、SJはSQを呼んで出て行こうとした。

 SQは俺をジッと見つめるが何も言わない。

 

 普段は姉姉と言っているのに……優しい奴だよ。

 

 此処で優しい言葉なんてかけられたら俺の立つ瀬がない。

 それを分かっていて、アイツは敢えて何も言わなかった。

 SJは扉を開けて出ようとして――

 

「門番が指示を出す。その指示に従って今日中に此処を発て……じゃあな」

「……」

 

 そう言って二人は出て行く。

 ばたりと閉じられた扉。

 俺とヴァンは互いに無言で……引き下がるしかない。けど。

 

「……諦めきれない」

「……あぁ、そうだ。諦められねぇよな……アイツをぶん殴ってやらなきゃな」

 

 俺とヴァンは静かに決意する。

 今まで高みから見下ろされていいように扱われた。

 ジョンたちが俺を試すだって……上等だ。

 

 お前が俺を試したのなら。

 俺を弄んだのなら。

 今度は俺がお前を――全力でぶん殴ってやる。

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