【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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135:元軍人の胸中(side:???)

 神が眠る場所……此処へ来るのも、何十年ぶりだろうか。

 

 後進を育てる為に、代行者となった私。

 実力が認められて前線で戦っていた事もあったが。

 今は半ば引退して、教練場にて多くの若者たちにメリウスの操縦を教えていた。

 全ては神であるあのお方のお陰で……血に飢えた獣のように戦っていた若かりし頃では考えられない。

 

 全てが遠い昔のようであるが、それに焦がれる事は無い。

 私は今が好きであり、そこで出会える若者たちとの会話が好きだ。

 今では私が育てた子供たちも立派な兵士となり世界の秩序を守る役目についている。

 

 二十年は経過しているだろう。

 長いようで短い時間だったが、不満は何一つない。

 手の掛かる子供たちだった。だが、それ以上に熱心な生徒でもあった。

 

 私は小さく笑みを浮かべる。

 そうして、主の待つ場所へと入り周りを見る。

 広々とした空間には青い光が満ちていて、神が座す前に男たちが立っている。

 私以外に三名の代行者が集まっているな……エーミールとフランソワか。

 

 ニヤニヤと笑いながら頭の後ろで手を組む子供たち。

 綺麗な金髪はボサボサであり、碧い目は猫のように細められている。

 身長は百五十センチほどしかなく小柄で、代行者らしい服装はせずに無数のチャックがついた服を着ていた。

 赤い服を着るのがエーミールで、青い服を着ているのがフランソワだと記憶している。

 双子であり、何方も名家の出身だけありプライドが高い上に傲慢だ。

 

 まだ年齢は十八と若く、代行者になったと聞いた時は少し狼狽えたのを覚えている。

 代行者になった時は三年前であり、その時はまだ十五歳だった。

 彼らにメリウスの操縦方法や戦い方を教えたのは私であり。

 他の生徒との協調性は皆無で、私の事も卒業するその日まで先生とは呼ばなかった。

 

 卒業後はフリーの傭兵として活躍して、一年足らずでAランクの傭兵ですらも倒せるようになっていたと聞く。

 神はそんな双子の実力に目をつけてスカウトし、代行者の地位を与えた。

 我々の中でも、たった数年でスカウトされたのは彼らくらいだろう。

 

 実力は本物であり、この三年で異分子の国の兵士ともやり合って戦果を挙げている。

 最も、我々の中で明確に異分子の兵士の幹部を倒す事が出来たのはベン・ルイス以外にはいない。

 それでも、双子が異分子の兵士と渡り合い。記録上では既に五十八機のメリウスを墜としている。

 メリウス乗りとしての経験はまだ浅いが、代行者になれるだけの力量はあった……そのせいで、その自信も歪んなものになっているが。

 

 双子の横に立つ。

 すると、彼らはくすくすと笑いながら「おっさん久しぶりー」と言ってくる……気やすいな。

 

「姿勢を正し前を見ろ。此処は神の御前だ」

「えぇ別にいいじゃーん。神様はそんな事で怒ったりしないよぉ? ねぇフランソワ」

「そうそう。それくらいで怒られるのは僕たちよりもずっとずっとよわぁい下っ端だよ? 君はどう思う? ねぇねぇ?」

「……きひひひ。そうですねぇ……はい、その通りです。我々代行者より弱い雑魚だけです」

「そうだよね! うんうん……ところで、お前。誰?」

 

 双子が一瞬にしてナイフを抜く。

 そのナイフをフードを目深く被る男へと向ける。

 私自身の記憶にも、このような怪しげな人間は心当たりに無い。

 新たに代行者になった人間の情報は回って来ておらず。

 少々不審には思っていたが。そもそも、神が招かれざる客を入れる筈はない。

 

 ……情報を伏せていたのか。代行者には違いないが……不気味な気配だな。

 

 人間らしさは微塵も感じない。

 そもそも、その些細な動きからして人間のように思えない。

 微かに駆動音のようなものも聞こえるが……。

 

 私は無言で双子を放置する。

 本来であれば止める立場ではあるが。

 私が来る前に自己紹介の一つもしなかった奴が悪い。

 これ以上、神の前で粗相をする訳にもいかず……結果、放置となる。

 

「けひひひ。私ですか? 私は勿論――代行者ですよ」

「……へぇ、アンタがね……強そうには見えないけどなぁ」

「よわそー。笑い方も気持ち悪いしー」

「きひ、きひひひ……”お子様”は素直で良いですね。どんなに悪さをしても見逃してもらえますから」

「「――あぁ? 今なんつった?」」

 

 それは禁句だ。

 この二人は自分たちを子ども扱いする人間をひどく嫌っている。

 初対面の時に私自身もそれで少しもめた。

 あの時はまだ、この二人が肉弾戦に慣れていなかったから良かったが。

 纏う空気からして、その時から更に腕を磨いて来たのだろう。

 

「――シィ!!」

 

 フランソワがナイフを刺す。

 瞬間、フードの男はそれを半身をずらして回避。

 その背後を取っていたエーミールがナイフを突き刺す。

 が、フードの男はその攻撃を予測し回転によって受け流す。

 ローブに傷がつくが、男にはダメージが入っていない。

 そのまま男はエーミールの手首を掴もうとして――決まった。

 

「くはぁ!?」

「ヒットぉぉ!!」

 

 不意を突くようにエーミールが屈む。

 それにより男は少し姿勢をよろけさせた。

 そのまま拳を構えていたフランソワが男の顎に一発あてる。

 男は脳を揺らされた事により膝をついていた。

 双子はケラケラと笑っていて膝をつく男を嘲笑い――おぉ。

 

 膝をついていた筈の男が勢いよく立ち上がる。

 そうして、笑っていたエーミールとフランソワの腹を同時に殴った。

 意表を突く攻撃であり、流石の双子も反応が遅れた。

 が、咄嗟に体を後方へと逃していた……やるな。

 

 そのまま床を滑ってから双子は停止し――瞬間、凄まじい殺気がこの場にいる全員を襲う。

 

「「ぶっ殺す」」

「けひ、けひひひ!!」

 

 一触即発の空気。

 三人は勢いよく駆けだして――引き際だ。

 

 私は一気に中心に立ち、三人の額を同時に小突く。

 三人は驚きながら顔をのけ反らせて下がっていく。

 私は小さく息を吐きながら、バカをする三人にやめるように忠告する。

 

「いってぇぇぇ!! 何すんだよおっさん!」

「そうだ! こいつが悪いんだぞ!!?」

「けひ? どう見ても貴方たちが仕掛けた筈なんですがねぇ?」

「「……後で殺す。絶対に殺す」」

「……そこまでにしておけ……もうおいでになっている」

「「「――!」」」

 

 私はそう言って体の位置を戻す。

 そうして、その場に跪いた。

 三人もその場に跪く……部は弁えているな。

 

 ゆっくりと光が集まり形を成していく。

 あの方が姿を見せて声を掛けて来る。

 私は即座に応えて、先ほどまで見苦しい姿を晒してしまった事を謝罪する。

 神は問題ないと伝えてから要件を言って来た。

 

『世界危機管理機構が世界会議を開きます。議題は、篝火についてであり。貴方方四名には彼らの護衛についてもらいます』

「……護衛ですか……お言葉ですが、世界会議の護衛に代行者四名は些か過剰ではないでしょうか?」

『いえ、妥当です。世界会議にはノイマンの補佐をしていた男アダム・ヘイズが現れます。そして、奴を保護しようと企む異分子の兵士たちも。幹部クラスが来る事は必然でしょう……それと、鍵を持つ”件の男”もです』

「――っ! それってそれってさ! あのナナシっていう異分子でしょ!! ねぇねぇ!」

「言葉を慎め」

『いえ構いません。その男です……可能であれば、彼の身の安全も守りなさい。ノイマンを戻すまでは必要になりますから』

 

 主はそう言っている。

 つまり、世界会議に現れる異分子の国の関係者から首脳たちを守りつつ。

 件の男の身も守る事になるのか。特段、難しい任務ではないが。

 問題は今回の人選かもしれない。

 

 双子は強い人間に強い興味を持つ癖がある。

 もしも、そのナナシが強者であれば戦闘中にちょっかいを出す恐れもある。

 いや、まだ双子の特性は知っているからいい。

 問題なのはこのフードの男で……聞くほかないか。

 

「主よ。一つ質問があります……この男は新たな代行者ですか?」

『はい。彼は十番目の代行者です。名は明かさぬように私から命じています。詮索する事は無用。駒として使いなさい』

「けひひ……よろしくお願いしますよぉ」

「……分かりました」

 

 不気味な男だ。

 何を考えているかその言動からは予想は出来ない。

 ただ血の臭いが濃厚であり、相当に人を殺してきたのだろう。

 それも戦闘時だけではなく、ただの趣味としてか……気は合わないな。

 

 こんな男と関わっても破滅しかない。

 双子も何となくは察しているようであり。

 視線を向ける事無く嫌そうな顔をしていた。

 

『世界会議での護衛には、件の男にも依頼を出します』

「……此方から誘うのですか?」

『はい。彼には重要な役目があります。ノイマンの元補佐役を捕えて、その最期を見届けるという役目が……鍵をあの身に宿しておけば、後々の運びも円滑に進むでしょう』

「……ねぇねぇ。後々って何かな?」

「さぁ? でも、きっと大事な事だよ。だって神様だし」

『えぇ重要な事です。ミスは許されないと心得てください』

「「はーい」」

 

 神は双子の軽口も許す。

 本来であれば重罪であっても、我々代行者は幾分かの余裕がある。

 だが、こうも気が緩んでいては示しがつかない。

 私はため息を吐きそうになるのを堪えながら神の言葉を待つ。

 

『件の男には”ジョット・カルローネ”から説明を。代行者である事は悟られないように、カメリア青騎軍の将校を装いなさい。過去のIDを一時的に使えるようにしましたのでそれを使いなさい』

「……了解しました」

 

 カメリア青騎軍とは懐かしい言葉だ。

 退役してからかなりの時間が経っている。

 最終的には少佐までは昇りつめたが。

 退屈な毎日に嫌気がさしていた頃に、神からの誘いを受けて代行者となり……ふっ。

 

 色々な事があった。

 代行者として任務にあたり、不穏分子の抹殺や異分子の国の兵士との戦闘。

 数えきれないほどの過ちを犯したが、それ以上に有望な若者を育てて来た。

 それで全ての罪が消えるとは思っていないが。

 私のしてきた事は間違いではなかったと思える。

 

 ――また、軍人として振舞える日が来るとはな。

 

 口角が上がりそうになるのを堪える。

 そうして、頭を伏せながら件の男の事を考えようとした。

 

『例の男の詳細な情報は後で貴方の端末に送ります……彼は元カメリア青騎軍人です』

「……っ!」

『――各自、端末に送った情報に目を通し。適切な行動を取りなさい。それでは』

 

 そう言って、主は姿を消す。

 残された我々はゆっくりと立ち上がる。

 

 双子は疲れたと言っていて、不気味な男は笑うだけだが。

 私は先ほど聞いた元軍人というワードに少し驚いていた。

 確か、件の男の年齢は二十一で……その若さで軍人だったのか?

 

 詳しい事はまだ聞けていない。

 全ては送った資料から確認しろと言う事だろう。

 もしも、本当に元軍人であるのなら、その男は元少年兵で……考えたくないな。

 

 幼い子供を戦場に送るだけでも辛い選択だ。

 ましてや、今の彼が二十代であるのなら。

 想像も絶するような辛い経験を重ねてきたのだろう。

 その苦労は推し量る事は出来ないが……興味が湧いた。

 

「……私は先に行く。情報を確認次第動く。端末の電源は常につけておくんだぞ」

「はいはーい」

「うし、それじゃ狩りにいこー!! ネームド二,三機狩りに行こうよ!」

「いいねいいね! 活きの良いのだったらいいんだけどなぁ」

「……けひ」

 

 三人の様子にため息を零す。

 そうして、踵を返して神の御前から離れる。

 外へと出てから端末を操作して座標を入力し……。

 

「……いかんな。私情を挟むのは」

 

 昔を思い出してしまった。

 そのナナシは関係ないのに。

 私は首を小さく左右に振ってから、転移を開始する。

 両目を閉じて体を溶けさせていき――――…………

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