【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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137:死を乗り越えれば(side:ヴァン→ナナシ)

 パソコンを操作しながら先方とのやり取りを終える。

 場所と時間のセッティングはこの街に詳しい俺がする。

 相手もいくらかは信用しているようであり、スムーズに話が進んだ。

 怪しさはあったが。それ以上に誠実さを感じる相手で……少し安心か。

 

 最後のメールを送り終える。

 そうして、息を吐いてからチラリと机の上を見る。

 すると、イザベラがコーヒーを入れてくれたようだった。

 アイツも手にカップを持っていて、久しぶりに一緒に飲もうと言う事だろう。

 

 笑みを浮かべながらコップの取っ手を掴む。

 奴はニヤリと笑いながら「冷めないうちに」と言う。

 

「あんがとよ」

「……行かせて良かったのかい?」

「あぁ? あぁ……あ、ナナシか。いいよいいよ……恐らくはあそこだろうからなぁ。俺でもそうするし、お前だってそうだろ?」

「……まぁね……恐らく、ドリスとライオットはメリウスの操縦技術は問題ない。戦い方の基本も応用も分かっているだろうさ……問題があるとすれば、まるで経験が無い事だろうからね……なるべく、本番に近い環境に慣らしておく必要がある。その為に、アレを使いに行ったんだろうさ」

「分かってるのなら良いんじゃないの? 何か不満か?」

 

 俺はコーヒーを飲みながら質問する。

 すると、イザベラは難しそうな顔をする。

 そうして、考えた末に言葉を絞り出すように言う。

 

「耐えられると思うか? アレに」

「……まぁ普通なら無理だろうさ……たぶん、ナナシの事だから自分の後ろに乗せたりするかもしれねぇな……そうなったらますます恐怖するだろうなぁ……ま、”普通なら”な」

「アイツ等は特別だって言いたいのかい? 随分、買い被るじゃないか、ヴァン」

「別に根拠もなく言ってる訳じゃない……アイツ等はハーランドの養成所を首席と次席で卒業した。その意味が分かるか?

 あのハーランドだぞ。優秀な人間が集うハーランドの養成所で一番と二番だ……な?」

「……何が、な、だ……まぁいいさ。ナナシの責任さ。アイツが全部請け負うんだ。私には関係ないさ……はぁ、少し外の風でも浴びてこようかね」

 

 イザベラはそう言って残りのコーヒーを飲み干す。

 そうして、外へと出ると宣言して出て行こうとした。

 俺は手をひらひらとさせながら”ナナシによろしく”と伝える。

 アイツは静かに中指を立ててから出て行った……素直じゃねぇな。

 

 部屋の中を見れば、既にミッシェルたちはいない。

 恐らくは、部屋で寝ているか街に繰り出したんだろう。

 俺は自由な奴らだと思いながら、コーヒーを静かに飲む。

 

 ほどよく温かいコーヒーは苦みがたっぷりで。

 目が覚めるような一杯であり、今の俺には特別味わい深かった。

 

 ……それにしても見てもいないのに”問題ない”とは……流石、元Aランクか。

 

 パソコンを操作する。

 画面を切り替えてから端末を取り出してケーブルを伸ばした。

 パソコンと接続してから端末を操作してあるデータを送信した。

 ファイルを開いて見れば、ドリスやライオットの養成所時代の成績が詳細に綴られている。

 

 何故、実戦経験も無い新人たちを危険な戦場に放り込むか。

 確実に多くの血が流れるよう危険な依頼を新人たちの初任務にしたのか。

 それの理由はこれらであり……ある意味で、アイツ等も”化け物”染みていた。

 

 一部の仮想戦闘訓練では、他の生徒が五機や六機しか墜とせなかったのに対して。

 ライオットは十二機のメリウスを撃破し、ドリスに至っては十六機もメリウスを墜としている。

 難易度は決して低く設定してはいない。

 相手はDランク上位の傭兵として設定されていたと記載されていて。

 養成所の他の奴らですら五機は最低でも墜としている。

 流石にナナシやイザベラのような奴を想定しての訓練ではないが……この記録はそそるな。

 

 射撃訓練の成績も悪くない。

 近接格闘訓練もそうだ。

 全てをそつなく熟せるだけの腕があり知識もあった。

 多角的な戦闘にも柔軟に対応できる事はこのデータだけでも伝わる。

 

 弱い筈がない。弱い奴がハーランドをトップの成績で卒業出来る筈が無いんだ。

 ナナシに聞けば、そこにいた元傭兵とも戦ったらしいが。

 悪くない腕であったのに、戦ってもいないドリスたちの方が強そうだったと言っていた。

 それは単なる勘と言う訳でも無かったんだろう。

 データが物語っているんだ。奴らの優秀さを。

 

 アイツ等はナナシが凄いと言っていたが。

 こいつらだって十分すぎるほどに凄いだろう。

 ただ実戦を経験したいないだけであり、腕としてはCランクの上位……いや、Bランクにも届くかもしれない。

 

 ただ、それもハーランドの技術力あってのものだ。

 アレが無ければアイツ等も本来の力の半分も出せない筈だ。

 そう考えれば、短期間であれらをマスターしたナナシはアイツ等にとっては尊敬できるだけの存在か。

 

「……ついてきたくなるのも分かるかもしれないな……」

 

 絶対に死なせない。

 絶対に殺させはしない。

 危険な初任務ではあるが、それだけの力はある。

 後は戦場に出る三人次第であり……きっとナナシの役に立つだろう。

 

 アイツはあの二人を信頼している。

 だったら、俺もアイツ等を信じる。

 無事に帰ってこられたのなら、盛大に祝ってやろう。

 酒は……まだ、飲めないか。

 

 アイツ等の好きな物とか書かれていないかとデータを調べる。

 カチカチというキーを打つ音が静かに響く中で。

 俺は一人笑みを浮かべて三人の”成功”を祈っていた。

 

 

 〇〇

 

 

「――ッ!!?」

「風を切るのは、こうやるんだッ!!」

 

 俺はそう叫びながらレバーを操作する。

 後方から追走してくる敵機。

 手にしたマシンガンが火を噴いて銃弾が機体スレスレを飛ぶ。

 俺は機体を回転させながら弾丸を避けていった。

 

 何処までも続く荒れ地。

 天気は晴れであり、時刻は早朝に設定。

 手練れは傭兵の一人であり、ランクはBだったと記憶している。

 青色の機体が双眼センサーを光らせながら、ロックオンをしようとしていた。

 そんな奴の狙いを外させながら、俺はライオットに説明し続ける。

 

 薄く装甲を弾丸が撫でて機体が軽く揺れた。

 ライオットは必死になって両手で口を押えていた。

 俺はそんな奴を確認しつつ、更にペダルを踏んで加速。

 音速を超えて空を飛ぶ。風のバリアを突き抜けて、更なる速度へ挑む。

 機体全体がカタカタと揺れて、計器が静かに音を発する。

 重く硬いレバーを力一杯に引き上げる。

 一気に上へと上昇しながら、後方を向き敵へと弾丸をバラまく。

 

 下から追って敵は機体を俺と同じように回転させていた。

 俺の背に白く輝く太陽があり、奴の視界を奪っている筈だ。

 それでも攻撃を避けながら正確な射撃をしており、俺の機体の脇腹に弾が被弾した――やるな。

 

 弾幕を展開しながら奴を牽制する。

 ライフルの集弾性能は低いが、牽制としての役目は十分高い。

 弾丸は奴にクリティカルヒットせずに、装甲を薄く撫でて奴の機体から火花が散る。

 機体を揺らしながらも抜群の操縦技術で姿勢を安定させながら向こうも攻撃を仕掛けて来る。

 

 回避――連続して回避しながら、俺は笑う。

 

 狙いが定まらない。相手も手練れで――それならッ!!

 

 上昇を止めて横に進路を変更――凄まじいGが体に掛かる。

 

「あがぁ!?」

「耐えろッ!!」

 

 ライオットが苦しそうな声を上げた。

 俺は耐えるように命じて、そのまま変則機動で曲がっていく。

 機体内がガタガタと揺れて、体をシートから引き剥がそうとする。

 心地よい力を感じながら、俺は無理やりに機体を旋回させた。

 

 連続してブーストし強引に機体の方向を修正。

 そして、敵を大きく引き離しながらレバーのボタンをカチカチと押す。

 俺は飛行しながら、肩部のランチャーを起動して前方に向けてスモーク弾を放つ。

 放たれたそれが前方で爆ぜて煙が周囲一帯に広がっていく。

 俺は煙の中を移動しながら円を描くようにスモークを散布していった。

 

 その場に機体を停止させる。

 空中で浮遊しながら耳を澄ませた。

 が、何も聞こえない。

 

 これで互いに視界はゼロだ。

 音も近づかなければ聞こえないだろう。

 互いに動きを予測していかなければいけない状態だ。

 相手との距離間隔を掴むことは不可能だが――俺にはこれがある。

 

 

 大きく目を見開き未来視を発動。

 瞬間、数秒後に敵が上へと上昇し煙から出る姿が見えた。

 

 

「掴まってろッ!!」

「――ぅぅ!!」

 

 声を上げて叫ぶ。

 ライオットはしっかりと俺のシートを掴んでいた。

 

 俺は一気にペダルを踏む。

 上へと上昇しながら、もう一方のグレネードランチャーを上へと向ける。

 時間差で爆発するように設定し、連続し三発放つ。

 煙を切り裂き飛翔するそれがそれを突破して――爆ぜた。

 

 指定した時間での爆発ではない。

 後から放った二発は時間差にて爆発していた。

 煙が大きく乱れて一瞬青い機体が見える。

 煙の中から見えた閃光と機影を確認し――そこだッ!!

 

 煙りを勢いよく突破。

 そうして、その場に機体を停止させている敵を視認。

 俺はライフルを奴へと向けて放つ。

 

 空薬莢が宙を舞い。

 マズルフラッシュと共に放たれた弾丸が奴の機体に殺到した。

 甲高い音を立てながら機体に無数の穴が開き。

 ギリギリで射線から逃れるも満身創痍だ。

 

 最期の力を振り絞り、敵がブーストを行い突貫してきた――が、読んでいた。

 

 俺は機体を一気に下へと降下させた。

 頭上を敵が通過していき、互いにスローモーションに感じる世界で。

 俺は口角を上げながら、ロックオンサイトを合わせる。

 

 

 ピピピピというシステムの音を聞き――死を告げる音が響いた。

 

 

「――シィ」

 

 

 俺はそんな敵へとロックオンをして――ボタンを押す。

 

 グレネードランチャーが放たれた。

 発射の衝撃でコックピッド内が軽く揺れる。

 赤熱する弾が奴へと向かって行き――爆ぜた。

 

 空気を振動させるほどの爆発で。

 眩いばかりの閃光と共に爆風が俺の機体を大きく揺らした。

 命中した敵は機体の残骸をぶちまけていた。

 パラパラと黒焦げになたパーツたちが宙を舞う。

 そんな光景を眺めながら、俺はライオットの方に向く。

 

「終わったぞ……ん?」

「……」

 

 ……気絶している?

 

 白目を剥いて気絶していた。

 どうやら俺と同じ圧を受けた事によって意識が刈り取られたらしい。

 俺は笑みを浮かべながら、最初はこんなものだろうと思っていた。

 シミュレーターを一旦終えて、俺は補助席からライオットを出して運ぶ。

 

 煙たいゲームセンターの中には、疎らだが人が集まってきている。

 流石に昼を超えれば、人も入って来るか。

 少しガヤガヤとしてる中で、俺はライオットをひきずっていく。

 

「……?」

「……」

 

 ベンチへと戻れば、既に先客がいる。

 それはドリスであり、壁に背を預けながら光の消えた目で天井を見ていた。

 二人共元気がなく、魂が今にも天へと昇りそうだ。

 俺は取りあえず、ドリスに声を掛けた。

 

「調子はどうだ?」

「あ、あはは……アレが三途の川なんですね……はい」

「……?」

 

 意味不明な事を言うドリス。

 首を傾げながらライオットを椅子に座らせた。

 感覚は掴めて来たかと問いかければ、ドリスは絞り出すように「何とか」と言う。

 

「戦場へ出た時に、一番の障害は……恐怖だ」

「……それは先生からも教わっていました……本当ですね」

「……お前たちもシミュレーターを使っていただろ。俺も使っていたが……これはより実戦の感覚が味わえるものだ。下手をすれば、死ですらもリアルにな」

「……はい。今でも震えます……死というものがあんなにも冷たくて、あんなにも無だったなんて……でも、死が分かっただけでも、良かったです」

「……と、言うと?」

 

 ドリスに問いかける。

 すると、彼女は顔を上げて俺を見つめる。

 ニコリと笑いながらハッキリと言った。

 

「人間は理解できない物が恐ろしいんです。でも、理解できるのなら……それほど怖くはありません」

「……そうか……それが分かったのなら、もう十分だな……たぶん、ライオットも心配はないだろう」

「はい。ライは怖がりで臆病な所がありますけど……でも、一度決めた事はやり遂げます。だから、安心して”私たち”を使ってください。先輩!」

 

 ドリスは拳を構えながら言う。

 俺はそんな頼もしい後輩に笑いかけながら頷く。

 

「厳しい戦いになるが……お前たちがいてくれるのなら心配はないだろう……生きろ。それが最初の目標だ」

「はい!」

「……ぅ、ぅぅ……み、水……」

「……もう」

 

 ドリスはライオットにベンチに置いておいた水を渡す。

 彼はそれを静かに飲みながら、ゆっくりと息を吐いていた。

 俺がもう少しやっていくかと尋ねれば、二人は静かに頷いていた。

 そうして、休憩を終えた二人は再びシミュレーターへと入っていく……両替しておくか。

 

 この調子だと、二人共あと十回はしそうだ。

 俺は財布を取り出してから、両替に向かう。

 受付のあるところの横にある両替機に立ち両替して……ん?

 

 声を掛けられて横を見る。

 すると、扉を開けて誰かが入って来て……イザベラか。

 

 彼女は俺を見つけて手を上げる。

 俺も手を上げてから、札を入れて両替していく。

 

「どうだい? アイツ等は」

「……問題ない。恐怖は乗り越えられそうだ……後は腕次第だな」

「そうかい……はぁ、私も戦いたいよ。本当に、腕がなまっちまう」

「……後一月くらいか……本当はもっと掛かるんじゃ――!」

 

 俺が嘘じゃないのかと問いかけようとすればイザベラは手で俺の口を塞ぐ。

 俺は静かにイザベラの手を剥がしてジッと見つめた。

 

「野暮な詮索は無しだよ、ナナシ……モテる男ってのは寡黙なんだ」

「……無理はするな。お前がいなくなるのは……俺は嫌だから」

「……ふふ、何だい? 人肌恋しくなったか?」

 

 イザベラはそう言いながら俺の頭を乱暴に撫でる。

 俺はそれを払いのけてから、背を向けて歩き出す。

 彼女は俺の後をついてきて……嫌な予感がするなんて言えない。

 

 ずっと前から感じている。

 一日が過ぎていくごとに、それが強くなっていくような感覚で。

 不安が俺の心を弱らせて、情けない言葉を吐かせているようだった。

 

 気のせいなら良い……気のせいならな。

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