【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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140:極寒の孤島

 メロウ島――北部地方の最北端に位置する島。

 

 輸送機で島へと降りて、俺たちは案内人の下、宿泊施設へと連れて行かれた。

 雪が年中降っており、人が通る道以外は雪が高く積もっていて。

 特徴的な鋭角の黒い屋根に、市場らしきところでは魚をそのまま店の外に出して売っていた。

 千人にも満たないのは本当らしく、人通りは疎らに感じた。

 

 誰しもが毛皮のコートを着込んでいて。

 顔も見えなかったが、あまりおしゃべり好きそうには見えない。

 俺たちを見る目もよそ者を見るような冷たいもので。

 あまり歓迎されていないのだと思いつつ、凍った道を歩いていく。

 

 フードを被りながら、マフラーを口元に持っていく。

 仲間たち全員が黒いコートを着ていて、足には温かいブーツを履いているのに。

 一向に温かさを感じないのは、この一面の白がそうさせているのだと分かる。

 

「はぁ……寒いな」

「うぅ。凍えちまうよぉ……へっくしょん!!」

「うわ、汚ねぇな……ヴァン。お前、寒いの苦手なのか?」

「ち、ちげぇし……いや、うん、得意ではないな」

 

 俺が呟けば、ヴァンはくしゃみをしていた。

 垂れていた鼻水は一瞬で凍り付き、氷柱のようになって地面に落ちる。

 傍にいたミッシェルはヴァンを心配していたが。

 やはり、こいつは寒いのが苦手だったのか。

 前からそうじゃないかとは思っていたが……まぁいい。

 

 足を滑らせないように注意しながらついていく。

 そうして、島の街から離れた高台へと連れて行かれる。

 階段で昇るのかと思ったが、雪を防ぐためのルーフがついたエスカレーターがあった。

 それに乗って上がっていけば、大きな木造の建物が見えた。

 他の建物と同じく屋根は鋭角になっていて黒色で。

 扉らしきところは複数式になっている。

 

 チラリと横を見れば、球体状の装置がついたものが作られていた。

 アレは何だ。軍事レーダーのようにも見えるが……こんな所にか?

 

「……ヴァン、アレは」

「うぅ!! もうダメだ!! 寒すぎるぅぅ!!」

 

 ヴァンはそう言って施設に向かって駆けだす。

 途中でコケて尻を打っていたが。

 ひょこっと起き上がり、そのまま扉を開けて中に入ってしまう。

 俺たちはため息を零しながら、案内人に先導してもらって施設へと歩いていく。

 

 宿泊施設は、島民たちが住む場所から少し離れた場所にあった。

 謎の装置の横にある木造の大きな建物で。

 中へと入れば、フロントの横でカメリア青騎軍の人間たちが煙草をふかしていた。

 目つきが鋭く戦い慣れた人間特有の目つきであり……嫌な目だ。

 

 血に飢えた獣のようであり、奴らのは殺人鬼のそれだ。

 戦いが好きなんじゃなく、殺しが好きな変態たち。

 一生相容れないタイプであり、俺たちはそんな奴らを無視して部屋へと向かう。

 暫くは此処に滞在して地形を把握し、訪れる首脳たちを守る為の準備を進める事になる。

 

 此処に泊まる事になる人間たちと組む事になるんだろう。

 他にもいるだろうが。恐らくは別の施設に泊まっている可能性が高い。

 フロントで鍵を受け取り、俺たちは部屋へと向かう為に階段を上がっていった。

 二階へと行けば、大型のモニターが一つとダイニングキッチンや業務用の冷蔵庫がある。

 アレ等はこの宿泊施設を管理している人間たちが使うもののようで。

 それぞれの部屋に簡易的なキッチンや冷蔵庫は完備されているらしい。

 お湯の出るシャワールームとトイレもちゃんとあると聞かされて、ミッシェルはホッとしていた。

 

「男女で別れてもらう。まだまだ人が来るからな。狭いだろうが我慢してくれ」

「あ、あの。ぺ、ペットは大丈夫ですか?」

「……躾けはしておいてくれよ」

「は、はい!」

「わん!」

 

 ライオットの腕に抱かれているナイト。

 元気よく返事をしているが少し寒そうで。

 ライオットの腕の中で体を丸めていた。

 

 軽い説明を受けてから、俺たちはそれぞれの部屋に通された。

 最初に女性陣が案内されて、そこで別れる事になり。

 次に俺たちが案内されて部屋へと入り……まぁいいんじゃないか。

 

 鍵を渡されて案内人が去っていった。

 閉じられた扉を見てから、部屋全体を改めて見る。

 ベッドはちゃんと四人分あるし、小型のモニターに暖房器具も備わっていた。

 扉の近くには簡易的なキッチンもあり、それなりの大きさの冷蔵庫もあった。

 棚らしきものも上下にあり、あそこには食器や調理器具などが置かれているだろう。

 全員で足を広げてくつろげるほどのスペースは無いが。

 それでも、ベッドの上でなら全員が座りながら話も出来るだろう。

 

 俺たちは持ってきた荷物を一か所に纏める。

 俺はナップサックを置き、ヴァンたちはかばんを置いていった。

 暖房器具が既につけておいてくれたのか、部屋の中は温かい。

 俺たちはコートを脱いでから、壁のフックにかけておいた。

 マフラーの位置を戻しながら、俺たちはそれぞれのベッドに腰を下ろした。

 

 ナイトはライオットの腕から飛び出して。

 俺のベットの中へと潜り込んでしまう。

 ひょっこりと顔を出して欠伸をしていた……可愛い。

 

 ベックは大きく息を吐きだして不満を口にした。

 

「……さっきの奴ら。アレが軍人なんですねぇ……真面に目を見られませんでしたよ。ちょーこえー」

「確かに、俺も怖かったな……軍人ってあぁいう奴らばっかりなのか?」

 

 ベックはぶるぶると体を震わせる。

 ライオットはそんなベックの言葉に同意しながら俺に聞いて来る。

 俺は少し迷ったが、正直に話す事にした。

 

「……カメリア青騎軍が世界最強と謳われる理由は、人材が豊富なだけじゃない……それぞれが持つ戦闘への意欲が高い事も理由に挙げられるんだ」

「戦闘への意欲が高い……? それは良い事だな。俺なんか、命を懸けて戦うなんて真似できねぇよ」

 

 ベックはそう言って首を左右に振る……何も良い事ばかりじゃない。

 

「闘争本能が高いと言う事は、周りが見えなくなるリスクも高まるという事だ……その中でも、あの目をした連中はなりふり構わず獲物を仕留めようとする奴らが多い……仲間意識何てほとんどない。競争意識が高いんだ。誰よりも多く敵を殺してやるってな……その為なら、味方ですらも利用しようとする」

「……利用するって……囮とかにって事か?」

 

 ライオットは怪訝な顔で尋ねて来る。

 俺は静かに頷きながら、その認識で間違いないと伝える。

 

「囮にでも、単純な餌としても使う……その結果、生き残ったのがアイツ等で。経歴上では優秀な兵士だが。一歩外に出れば、ただの殺人鬼と大差はない。だから気を付けろ。アイツ等には絶対に関わるな。アイツ等の持つ銃の引き金は……羽のように軽い」

「……へ、へへ……ジョーク……じゃねぇよな」

 

 ベックは表情をひきつらせていた。

 俺は彼をジッと見つめてからそっと視線を逸らす。

 窓の外を見れば、雪がまだまだ降っている。

 二重窓であり、一階部分が埋まるほど積もったとしてもアレを外して脱出できる筈だ。

 

 俺がヴァンにこれからどうするかと尋ねれば。

 ヴァンは両腕を組んでから頭に持っていきベッドに寝転がる。

 

「寝るよ。疲れたからな……別にお偉いさん方が来るまでは暇なんだ。島の地形を把握するのも今から行く必要はねぇ。もう陽も沈む頃だしな」

「め、飯はどうするんですか?」

「冷蔵庫とか近くの棚に備蓄している筈だ。こういう場所では食料をストックしておくことは常識だ……ま、湯も出るし。カップ麺くらいならあるだろうよ……それとも、こんな寒い中で外に出てディナータイムでもしゃれこみたいのか? 俺はパスだ」

 

 ライオットの質問にヴァンは的確に返す。

 ライオットはそれで納得し、いそいそと冷蔵庫を漁りに行った。

 俺も立ち上がりながら、棚の方を見に行く。

 横でライオットが冷蔵庫の戸を開けて中身を見ている。

 嬉しそうに笑っている事から備蓄はやはりあったんだろう。

 俺も棚の戸を開けて中を確認し……あるな。

 

 見た事も無いようなカップ麺たちに、湯煎で作れるレトルト食品たち。

 レトルト食品はおかゆやスープ系であり。

 手の込んだものは置いて無さそうだった。

 他には何かないかと見ていれば……米もあるのか。

 

 米櫃に入れられた白米たち。

 量からみても、ひと月分はありそうだった。

 炊飯器は無いが、変わった形の大きな土鍋もある。

 かなりの大きさであり、これで鍋を作れば六人前くらいは出来そうだ。

 カセットコンロもご丁寧に置いてあり、ちゃんと変えのガスもあるな。

 

 横の棚には、包丁やフライパンもある。

 油も完備されていて、此処の管理人の真面目さが嫌と言うほど伝わる。

 部屋を見た時に埃一つ無かったので、そうだとは思っていたが……凄いな。

 

「……ライオット。何があった?」

「え? あぁ……下は野菜が沢山あるよ。葉野菜とかニンジンとかジャガイモとか……調味料もあるな。醤油に酒に味噌に塩とか……冷凍庫には肉が沢山あるぞぉ。見た事もねぇのもあるけど……上は飲料系だなぁ。あ、出汁の元とかあるぜ、顆粒のやつだ。ジュースとかは無いけど……ビールとかが多いな。お、これって豆腐か?」

「……これなら思ってたよりも、快適に過ごせそうだな」

「だなぁ……で、今日は何する? 俺は何でもいいけど……どうせなら、あったかいもんが食いてぇな」

「……あったかいものか……そうだな。ある材料で言うのなら……よし。任せてくれないか?」

「え? 何か作るのか? いいぜいいぜ! 頼むよ! あ、俺も勿論手伝うぜ」

「そうか? なら、野菜を切ってくれ。葉野菜だ。食べやすい大きさに切ってくれたらいい」

「よしきた!」

 

 俺はライオットに指示を出す。

 彼は冷蔵庫から野菜を出そうとしていて。

 俺はそんな彼の為にまな板と包丁を出して軽く洗っておいた。

 そうして、棚の奥にあった土鍋を出してからそれも軽く洗っておく。

 野菜を掴んだライオットは俺が持っている土鍋を見て笑みを浮かべる。

 

「そうか――鍋だな!」

「あぁ、ここで食えたら美味いはずだ」

「……鍋か。それなら俺は味噌味が良いなぁ。最近は食ってなかったし」

「味噌味っすかぁ。いいですねぇ。それじゃ、俺も味噌に一票!」

 

 話を聞いていたヴァンが呟く。

 それを聞いていたベックも同意していた……良いな、それ。

 

 俺は鍋のベースを味噌に設定する。

 そうして、鍋をコンロにセットしてから冷蔵庫から肉を取り出す。

 カチカチの豚肉とすり身であり真空パックに入れられている。

 棚から大きめのボールを取り出してから、俺は水道から先ずはお湯を少し出した。

 湯気が出るほどに熱いお湯であり、次に冷えた水を出して温度を調整し……これくらいだな。

 

 ぬるま湯の中に二つを入れる。

 これで少しは解凍が早くなるだろう。

 

 俺は土鍋に水を入れる。

 そうして、冷蔵庫から調味料を取り出してそれを目分量で入れていく。

 

 味噌にみりんにだしの素を入れて。

 ニンニクとショウガもあったので、すりおろして中に入れて置いた。

 そうして、コンロの火をつけてから沸かしていく。

 軽くおたまで混ぜておいてから、ライオットの方を見れば手慣れた様子で野菜を切っていた。

 

「……慣れているな」

「うあ? あぁ……昔、ばあちゃんから教わってな。今の男は料理くらい出来なきゃダメだってさ。笑えるだろ?」

「……良い人じゃないか」

「……そうだな。立派な人だったよ」

 

 過去形で言っているのは……そう言う事か。

 

 深くは詮索せず。俺は聞き流して鍋の調理に集中する。

 後少しで程よく肉も解凍できるだろう。

 極寒の地で食べる鍋の味とはどれほどのものか。

 俺は心をわくわくさせながら、男二人で料理を進めていった。

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